肝動注化学療法の非癌肝に及ぼす肝毒性と肝動注後肝切除の安全性について検討することを目的とした.対象は,癌研究会付属病院にて,1996年4月~2006年3月までの10年間に,切除不能大腸癌肝転移に対し肝動注化学療法が奏効し肝切除を施行し得た15例.肝動注レジメンはすべてフルオロウラシル(5FU)ベースで,5FU単剤が6例,5FU+シスプラチンが7例,5FU+マイトマイシンCが2例.今回われわれは,体表面積あたりの5FU総投与量(g/m
2)により,対象をGroup A > 15.0g/m
2, Group B≦15.0g/m
2の2群に分類し,動注後肝切除における周術期因子を比較検討し,更に肝動注に伴う肝毒性の有無を病理組織学的にHepatic injury scoreに基づき比較検討した.対象の平均年齢62.5歳,男性11名,女性4名で,A群8例,B群7例であった.肝動注因子である5FU総量,動注回数で両群に有意差を認めたが(P < 0.05),その他の因子では両群に有意差を認めなかった.非癌部肝組織の病理組織学的所見は,全例でscore1以上のsteatosisを認め,score 2がA群で2例,B群で1例,score 3はA群でのみ2例認めた.Lobular inflammationは,score 1がA群で3例,B群で2例,ballooningは,score 1がA群で4例,B群で1例であった.この結果,Kleiner score 4以上のsteatohepatitisは,A群でのみ3例に認められた.Grade 2以上のsinusoidal dilatationは両群において1例も認めなかった.以上より,病理組織学的にhepatic injuryと診断されたものは,15例中3例(20.0%)で全例がA群(37.5%)であった.肝動注後肝切除の際には,体表面積あたり5FU使用量が15g/m
2より多い場合,steatosisをベースとした組織学的肝障害をきたし得るため,肝切除の際には十分に配慮する必要があるが,慎重に肝切除を行うことによって,術後合併症率,死亡率に影響を与えることは回避できると考えられた.
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