昭和医学会雑誌
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69 巻, 1 号
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特集:神経疾患の新しいパースペクティブ
図説
特別講演
教育講演
総説
原著
  • ―切除不能大腸癌肝転移症例を用いて―
    林 賢, 草野 満夫
    2009 年 69 巻 1 号 p. 69-75
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2011/05/12
    ジャーナル フリー
    肝動注化学療法の非癌肝に及ぼす肝毒性と肝動注後肝切除の安全性について検討することを目的とした.対象は,癌研究会付属病院にて,1996年4月~2006年3月までの10年間に,切除不能大腸癌肝転移に対し肝動注化学療法が奏効し肝切除を施行し得た15例.肝動注レジメンはすべてフルオロウラシル(5FU)ベースで,5FU単剤が6例,5FU+シスプラチンが7例,5FU+マイトマイシンCが2例.今回われわれは,体表面積あたりの5FU総投与量(g/m2)により,対象をGroup A > 15.0g/m2, Group B≦15.0g/m2の2群に分類し,動注後肝切除における周術期因子を比較検討し,更に肝動注に伴う肝毒性の有無を病理組織学的にHepatic injury scoreに基づき比較検討した.対象の平均年齢62.5歳,男性11名,女性4名で,A群8例,B群7例であった.肝動注因子である5FU総量,動注回数で両群に有意差を認めたが(P < 0.05),その他の因子では両群に有意差を認めなかった.非癌部肝組織の病理組織学的所見は,全例でscore1以上のsteatosisを認め,score 2がA群で2例,B群で1例,score 3はA群でのみ2例認めた.Lobular inflammationは,score 1がA群で3例,B群で2例,ballooningは,score 1がA群で4例,B群で1例であった.この結果,Kleiner score 4以上のsteatohepatitisは,A群でのみ3例に認められた.Grade 2以上のsinusoidal dilatationは両群において1例も認めなかった.以上より,病理組織学的にhepatic injuryと診断されたものは,15例中3例(20.0%)で全例がA群(37.5%)であった.肝動注後肝切除の際には,体表面積あたり5FU使用量が15g/m2より多い場合,steatosisをベースとした組織学的肝障害をきたし得るため,肝切除の際には十分に配慮する必要があるが,慎重に肝切除を行うことによって,術後合併症率,死亡率に影響を与えることは回避できると考えられた.
  • ―FDG-PET とcholine-PETの比較―
    河野 明洋, 洲崎 春海, 石戸谷 淳一, 福岡 久代, 熊谷 譲
    2009 年 69 巻 1 号 p. 76-83
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2011/05/12
    ジャーナル フリー
    近年,18Fで標識したFDG-PETが保健適応となり癌診断に用いられている.今回われわれは頭頸部扁平上皮癌を対象に18F-FDG-PET(以下,FDG-PET)と11C-choline-PET(以下,choline-PET)の有用性を比較検討した.対象はFDG-PETとcholine-PETの両者を施行した頭頸部癌患者14例である.FDG-PETとcholine-PETでは比較的大きな腫瘍において集積パターンに差がみられ,FDGとcholineの生物学的相違を反映していた.小さな癌の診断においては,FDG-PETよりもcholine-PETの方が検出感度が優れていた.また,choline-PETは生物学的特徴より細胞増殖の指標となり,治療効果や再発の判定にも有用であった.choline-PETはFDG-PETとは生物学的特徴が異なり,頭頸部扁平上皮癌に有用な検査である.
  • 徳丸 岳志, 内田 淳, 篠 美紀, 古田 厚子, 洲崎 春海
    2009 年 69 巻 1 号 p. 84-93
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2011/05/12
    ジャーナル フリー
    嗅覚障害を伴った慢性副鼻腔炎症例81症例に内視鏡下副鼻腔手術を行い,嗅覚障害に対する治療効果と術後の嗅覚予後に影響する因子の検討を行った.基準嗅覚検査(T & Tオルファクトメトリー)における検知平均嗅力損失値および認知平均嗅力損失値は,両者とも術後に有意に改善しており,内視鏡下副鼻腔手術による手術療法の有用性が示された.手術時年齢は,59歳以下の症例に嗅覚改善例を有意に多く認めた.嗅覚障害発症から手術までの罹病期間は,嗅覚改善例では6年以下が,嗅覚非改善例では7年以上が有意に多く認められた.アレルギー性鼻炎,気管支喘息の合併の有無は,共に有意な差は認められなかった.術前の静脈性嗅覚検査の結果は,明確な反応を認めた例が嗅覚改善例に有意に多く,また反応を認めなかった例が嗅覚非改善例に有意に多く認められた.術前後の副腎皮質ホルモン点鼻療法の効果の検討では,術前の点鼻療法の有無は術後の嗅覚改善に影響しなかったが,術後に副腎皮質ホルモン点鼻療法を行った症例の方が有意に術後の嗅覚が改善していた.以上から内視鏡下副鼻腔手術は慢性副鼻腔炎による嗅覚障害の手術的療法として有用であるが,嗅覚障害の罹病期間が6年以下と比較的短期間で,手術時の年齢が59歳以下である症例において,より効果的であることが示された.したがって,慢性副鼻腔炎による嗅覚障害症例では早期に内視鏡下副鼻腔手術を行い,術後に副腎皮質ホルモン点鼻療法を行うとより高い嗅覚改善率が得られることが示唆された.また,術後の嗅覚改善の予測をするのに術前の静脈性嗅覚検査の結果は有用であることが示された.
  • 大嶋 健三郎, 金井 憲一, 内田 淳, 工藤 睦男, 門倉 義幸, 洲崎 春海, 高宮 有介, 阿部 誠治, 大戸 祐治
    2009 年 69 巻 1 号 p. 94-102
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2011/05/12
    ジャーナル フリー
    頭頸部がん患者は,がんの進展により機能と形態に関する種々の問題をかかえている.したがって,頭頸部がん患者において,オピオイド製剤を用いてがん性疼痛に対する緩和ケアを行う際には,これら疾患の特殊性を考慮に入れて治療をする必要がある.本研究では,われわれが治療し,死亡に至った頭頸部がん患者62例を対象にそのオピオイド製剤の適用に関してカルテの医師記録,看護記録,薬剤処方の記載の内容よりレトロスペクティブに検討を行った.オピオイド製剤の導入法による検討から頭頸部がん患者において疼痛緩和治療の導入に適したオピオイド製剤を検討した.オピオイドローテーションの内容とそれを行った理由における検討から頭頸部がん患者ではオピオイドローテーションを施行した症例が多く,頭頸部がん症例の特殊性を踏まえて薬剤を選択することが重要であることが明らかになった.死亡時のオピオイド製剤の投与方法の検討を行い,頭頸部がん患者の特殊性からオピオイドの持続皮下注入法が必要であった.頭頸部がん患者のがん性疼痛におけるオピオイド製剤の適用には,頭頸部がん患者の特殊性を考慮して,薬剤の選択を行い,その経過の中でオピオイドローテーションを行い,看取りに至る際にはオピオイド製剤の投与方法を配慮する必要があると考える.
症例報告
  • 村井 紀元, 村上 雅彦, 東 弘志, 加藤 博久, 草野 満夫
    2009 年 69 巻 1 号 p. 103-107
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2011/05/12
    ジャーナル フリー
    房総半島沿岸地域において,一般に食される,カタクチイワシにより急性腹症をきたした3例を経験した.主訴はいずれも腹痛,嘔気,嘔吐であり,食後3~5時間で発症した.腹部所見では,腹部全体におよぶ強い圧痛を認め,腹部単純X線写真ではいずれも小腸ガス像を認めた.血液検査所見では,いずれも白血球数の増加を認めたが,発熱はみられなかった.また,腹部エコー・上部消化管内視鏡検査では特に異常所見はみられなかった.全例ともに絶飲食による保存療法により,1~3日以内に症状は消失した.魚類摂食後の腹痛の原因としては,寄生虫によるもの,食中毒によるものなどが挙げられるが,今回の症例ではアニサキス症などは否定され,便培養の結果で有意な所見なく,発症までの時間的経過や,大量摂取という状況より,ヒスタミン中毒によるものと推察された.ヒスタミン中毒とは,ヒスタミンの蓄積した赤身魚を摂食後,数分から数時間以内に様々なアレルギー様疾患を起こす病態のことをいう.マグロやサバ,イワシなどが主な原因食として挙げられ,カタクチイワシもヒスタミン中毒魚の一種である.ヒスタミン中毒による症状は,比較的軽度とされており,その診断には問診が重要ともいわれている.今回のように腹部所見の強い症例では,緊急手術の要否の判断に難渋する可能性もあり,急性腹症の患者の診察においては,ヒスタミン中毒も念頭において,問診,診断,治療にあたる必要があると思われた.
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