昭和医学会雑誌
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69 巻, 3 号
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特集:耐性菌感染症 ―その現状と対策―
原著
  • 大野 正裕, 尾本 正, 福隅 正臣, 大井 正也, 石川 昇, 手取屋 岳夫
    2009 年 69 巻 3 号 p. 236-244
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    胸部大血管手術において,腹部臓器虚血による合併症,特に周術期の急性腎不全は手術成績に影響を与える独立した危険因子である.今回われわれは中等度低体温循環停止における心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide: ANP)の腎臓への作用を,ブタ実験モデルを用いて検討した.体外循環を用いて直腸温30℃に冷却後,60分間循環停止した.体外循環再開し,37℃に復温後,体外循環より離脱した.体外循環離脱後1時間で実験を終了した.ANP投与群(n = 6)とコントロール群(n = 6)の2群間で比較検討した.ANP投与群では体外循環開始時より0.05μg/kg/minで実験終了時までcarperitide (recombinant ANP)を持続的に投与した.2群間で,(1)体血圧,(2)腎動脈血流量,(3)腎皮質および髄質組織血流量を,(1)実験開始時,(2)体外循環開始後,(3)循環停止開始前,(4)循環停止30分後,(5)体外循環再開後,(6)復温完了時,(7)体外循環離脱時,(8)離脱後30分後および(9)60分後で比較検討した.また(4)尿量,血中・尿中ナトリウム(Na)およびクレアチニン(Cre)を(1),(3),(5),(6)および(9)で測定した.実験終了後腎臓を摘出し,虚血再還流障害の指標である腎組織Myeloperoxidase活性を測定し比較検討した.本研究では,ANPは体血圧および腎動脈血流量に影響を与えることなく,循環停止後の腎髄質組織血流量を有意に増加させた(109.3 ± 35.7% vs. 207.5 ± 113.2%; p = 0.03).また,循環停止後の尿量およびFENaを有意に増加させた(1.6 ± 1.4 vs. 3.4 ± 1.1ml/min; p = 0.03 and 1.7 ± 1.5 vs. 4.9 ± 4.9; p = 0.02).さらに,Myeloperoxidase活性を腎髄質組織で有意に低下させた(0.057 ± 0.035 vs. 0.026 ± 0.019U/mg; p = 0.03).以上により,ANPは中等度低体温循環停止後の腎髄質組織虚血を改善し,さらに虚血再還流後の腎髄質組織障害を抑制した.
  • 片桐 聡, 中村 正則, 助崎 文雄, 宮岡 英世
    2009 年 69 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    整形外科領域の手術,特に骨切り術においては,止血困難な骨からの出血により総出血量が多くなり,大関節の手術の多くで輸血を必要とする.今回,1984年から2008年に行われた当科の寛骨臼回転骨切り術(以下RAO)236例においての輸血の実態について調査し,自己血輸血の実態,および同種血輸血に影響を与える因子について,手術記録,診療録を元に後ろ向き研究とし,統計学的に検討,考察を行った.同種血輸血に影響する因子として,自己血貯血量,出血量,手術時間が挙げられ,手術手技の向上によっても必要輸血量が削減されていることがわかった.また,麻酔法,輸液管理などの変化によっても,必要輸血量を削減する可能性について示唆された.自己血輸血により輸血に対する意識も変化しており,過剰な輸血が抑えられたために同種血による危険に晒される可能性は低くなっているものの,同種血輸血を回避しようとするあまり,術後低Hb血症となることもあり,自己血輸血が開始されたことによる医療安全上の問題点が明らかにされた.同種血輸血の温存や同種血輸血による危険からの回避のため,および自己血輸血を安全に遂行するために,輸血,貯血に関して明確な基準の策定や知識の習熟,記載の徹底を必要とすると考えられた.
  • 安田 大輔, 草野 満夫, 青木 武士, 加藤 貴史, 清水 喜徳, 榎並 延太, 松田 和広, 草野 智一, 三輪 光春, 福与 恒雄
    2009 年 69 巻 3 号 p. 253-262
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    Indocyanine green(ICG)は血漿蛋白と結合し,Light emitting diode(LED),キセノン光で励起すると白色調の蛍光像として可視化される.この特性を用いて眼底血管造影検査,乳癌センチネルリンパ節(SLN)同定,血管バイパス術におけるグラフトの評価等で臨床応用されてきた.教室ではこの方法をはじめて胃癌,大腸癌のSLN同定に応用し,また,肝切除時における肝区域同定においても有用であることを報告した.今回,胆汁中にICGを注入し混和すると強い蛍光を発することを見出し,ICG蛍光法が術中胆道造影に臨床応用可能か否かについて,LED蛍光CCD内蔵カメラ(Photodynamic Eye; PDE)による開腹下での胆道造影と鏡視下で観察可能なICG蛍光硬性鏡を用いてICG蛍光画像による胆管造影法の有用性を検討した.1.基礎的検討:10mlの胆汁にICG 1mlを注入し,PDEを用いて観察すると,直後より輝度の高い白色調の蛍光が観察された.2.大動物実験:ビーグル犬を用い,全身麻酔下に開腹,胆嚢頚部を直接穿刺しICG 3mlを注入し,PDE,ICG蛍光硬性鏡にて観察した.両者とも輝度の高い白色調の蛍光画像として胆嚢管,総胆管が明瞭に可視化され,この像は注入後すぐに消失せず長時間持続した.しかし,蛍光輝度はPDEの方が強かった.3.臨床例:ICGは全身投与と胆嚢内を直接穿刺して注入する二つの方法で行った.胆嚢摘出術2例,肝腫瘍5症例に対して開腹手術下にPDEによる観察を行い,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した胆石症14例ではICG蛍光硬性鏡による観察を行った.開腹下における観察症例では,ICGは術前肝機能検査,または術中肝区域同定のために投与された.全症例で胆嚢管,総胆管(肝管)が明瞭に長時間にわたり描出された.腹腔鏡下胆嚢摘出術症例では,術中,ICG(2.5mg/ml)を3ml胆嚢に穿刺注入,または術前にICGを静注した.14例中10例(同定率71%)に胆嚢管,総胆管(肝管)が描出された.ICGによる副作用等は認められなかった.同定困難であった4例中,3例は炎症が強く,胆嚢管の合流形態を確認することが困難であり開腹手術に移行した.1例は胆嚢穿刺が上手く施行されなかった.ICG蛍光特性を用いた本方法は,新たな術中胆道造影法の一つとなり得ることが示唆された.
  • 高 順一, 角田 明良, 吉武 理, 草野 満夫, 村上 雅彦
    2009 年 69 巻 3 号 p. 263-269
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    アクセス手術後に透析導入した患者のquality of life(QOL)を信頼性と妥当性の確認されたQOL調査票で前向きに評価し,透析導入後7か月におけるQOLの予測因子を解析した.当院でアクセス手術を受けた28人を対象に,MOS 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36)日本語版を用いて術前から透析導入後7か月間前向きに評価した.各尺度の変動を経時的にみると“general health”は導入後2,3か月後,“mental health”は導入後4か月に有意にQOLが改善された.導入後7か月のQOL予測因子として,6つのサブスケールで,術前のperformance status(PS)があげられた.透析導入患者のQOLは,“general health”と“mental health”で透析導入後一定の時期で有意に改善された.また,術前のPS不良は,導入後7か月のQOLの負の予測因子であった.PSが不良な患者では透析導入後に身体的,精神的,社会的支援が必要と思われる.
  • ―スペクトラムパターンによる評価―
    鈴木 保良, 篠田 威人, 小島 三貴子, 水沼 大, 飯塚 浩基, 藤原 久美子, 岡田 保, 安本 和正
    2009 年 69 巻 3 号 p. 270-276
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    呼吸機能検査は術前患者の評価において有用だが,測定時には被検者による最大の努力呼吸が必要となる.一方,インパルスオシレーションシステム(IOS)は安静呼吸時に非侵襲的に施行できる.術前患者120症例を対象にIOSを行い,全気道抵抗(R5),中枢気道抵抗(R20),末梢肺の過膨脹を反映するリアクタンス(X5)などを測定すると共に,周波数スペクトラムパターンによる評価を行った.結果を正常呼吸機能群,閉塞性換気障害群,拘束性換気障害群に分け,各群をさらに30~64歳の成人群20例と65~85歳の老人群20例に分けて比較した.正常呼吸機能群では1例を除き,全て周波数スペクトラムパターンは正常型であった.閉塞性換気障害型の老人群,拘束性換気障害の成人群および拘束性換気障害の老人群では,正常型パターンを呈したのはそれぞれ15例,14例,12例であり,正常肺機能群に比べ有意に減少していた.さらに,閉塞性換気障害型の老人群,拘束性換気障害の成人群および拘束性換気障害の老人群では,周波数スペクトラムパターンの末梢閉塞型はそれぞれ4例,5例,7例であり,正常肺機能群に比べ有意に増加していた(P<0.05).閉塞性換気障害群および拘束性換気障害群において異常スペクトラムパターンを示す症例が有意に増加していた.また,拘束性換気障害群であるにも関わらず末梢閉塞パターンを示す症例が40例中12例に認められた.従って,周波数スペクトラムパターンを用いて呼吸器疾患の診断に利用できる可能性が示唆された.IOSにおいて周波数スペクトラムのパターンによる評価を試みた.今後はフローボリュウム曲線などにより得られる値との関連性などを検討すべきと思われる.
  • ―その応用についての基礎的検討―
    藤島 裕丈, 阿部 琢巳, 江連 博光, 森山 浩志, 鈴木 雅隆, 五味 一英, 大塚 成人
    2009 年 69 巻 3 号 p. 277-284
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    現在,脳神経外科領域で頭蓋内虚血病変,脳動脈瘤,脳腫瘍などの疾患の手術に際して様々な血行再建術を併用した手術が行われている.その主な目的は,脳虚血疾患においてはischemic penumbra(虚血に陥っているがまだ可逆性の残されている部分)を如何に救い,症状としてある運動麻痺や失語を改善させることや親血管を閉塞する方が長期予後に望ましい脳動脈瘤疾患の治療に伴う脳虚血の回避にある.現在,行われている血行再建術には,浅側頭動脈(STA:superficial temporal artery)や後頭動脈(OA:occipital artery)などの皮膚の血管をdonor arteryとし,recipient arteryである中大脳動脈(MCA:middle cerebral artery)に吻合する場合や体の他の部位から採取した静脈,動脈をdonor arteryとして使用する場合がある.血行再建術の手技に関してはほぼ確立されているが,この現行の術式では,基本的にdonor arteryを骨に貫通させる必要があることと,また,虚血病変のある患者は頭蓋内の動脈硬化が強いと同時に皮膚自体の循環も悪い場合があり,術後の創部壊死をきたす可能性がある.われわれはこの点に注目し頭蓋内血管である中硬膜動脈(MMA:middle meningeal artery)を利用した小開頭による新しいバイパス術“MMA-MCA bypass”の検討を行った.対象は5体のcadaver brainの両側を使用し,硬膜よりMMAを採取した.その後MMAを露出させたMCAのM2以降の可能な限り近位部に10-0MONOSOFにて10針で吻合した.結果として全ての症例で吻合が可能であり,その後,硬膜を付けたまま脳を摘出し,MCAのどの部分に吻合出来ているかを確認したところ,M2が7例,M3が1例,M4が2例であった.血行再建術は,頭蓋内の血管を利用して行うことが最良と考えられるが,今までこの術式の検討はなされていなかった.今回,MMAを使用してバイパス術を行うことは手技的にも十分可能であった.今後は血流量の評価を行い,実際の臨床での使用が可能となれば今までの合併症の出現が減少すると考えられた.
  • 片桐 聡, 中村 正則, 宮岡 英世
    2009 年 69 巻 3 号 p. 285-290
    発行日: 2009/06/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    整形外科手術において,骨切り術における骨からの出血は止血困難であり,多くの場合で輸血を必要とする.当科では同種血輸血の回避のために自己血採血を1988年より開始しており,1999年から自己フィブリン糊を精製,手術時に使用している.今回,自己フィブリン糊の骨切り術における有用性を,当科の寛骨臼回転骨切り術症例を比較統計することにより検討した.自己フィブリン糊の使用群,不使用群それぞれ30例ずつランダム抽出し,出血に関して比較統計したが,術中および術後出血量,血球成分の増減に関しては,有意差は認めなかった.自己フィブリン糊には止血以外に,骨片の固定,創傷治癒の促進など,他の要素も期待されている.骨切り術における自己フィブリン糊について,その他の因子についても評価,検討すると共に,適切な使用法を再検討する必要があると思われる.
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