昭和医学会雑誌
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69 巻, 4 号
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原著
  • 桑名 亮輔, 泉山 仁, 阿部 琢巳, 佐々木 晶子, 立川 哲彦
    2009 年 69 巻 4 号 p. 297-304
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    神経膠芽腫は,手術加療のみでは根治が困難な腫瘍で現在,手術,放射線療法,化学療法を組み合わせる治療が行われている.一般的には,術後放射線療法と化学療法の同時併用が行われているが,根治療法とはなっていない.われわれは,Japanese Cancer Resources Bankのヒト由来神経膠芽腫細胞株T98G,A172細胞を用い,実際の臨床治療と同条件の放射線照射神経膠芽腫細胞を作成した.放射線照射後細胞に5-fluorouracilを投与し,放射線照射時期における抗癌剤感受性について検討した.また,5-fluorouracilのバイオマーカーとなりうると考えられている,TS,DPD,OPRTのmRNA量を測定し,抗癌剤感受性と遺伝子発現量について検討した.30Gy照射後細胞は,無照射細胞,60Gy照射後細胞に比べ,細胞増殖率が高い傾向にあり,5-fluorouracilの感受性も30Gy照射後細胞が最も高かった.つまり,抗腫瘍効果の面では,放射線療法と化学療法(5-fluorouracil)は同時併用するよりも,放射線加療を先行する順次併用療法の方がより抗腫瘍効果が増加することが示唆された.TSは30Gy照射後細胞において最も低値で,無照射細胞において最も高値であった.抗癌剤感受性は30Gy照射時に最も高かったことと比較すると,TS高値例は5-fluorouracil抗癌剤抵抗性があり,TS低値例は抗癌剤感受性があると考えられた.DPD,OPRTは発現量と5-fluorouracil感受性に関して相関を認めなかった.TSは5-fluorouracilのバイオマーカーとなりうることが示唆された.
  • 古森 哲, 平泉 裕, 宮岡 英世, 片岡 有, 雫 弘晃, 吉村 賢志, 朝生 悟史, 武石 洋征
    2009 年 69 巻 4 号 p. 305-315
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    要約:脊椎椎体間固定には自家骨移植にケージやプレートによる内固定が併用されることが多い.自家骨採取は他の健常部に新たな侵襲を加える必要があり疼痛や出血,感染などの合併症も少なくない.自家骨移植に替わる生体材料としてHAやβ-TCP,Titanium Fiber Mesh Block(TFMB)などが臨床応用されている.HAやTFMBはそれ自体が骨に置換されないため長期成績は不明である.一方,β-TCPは骨吸収がすすむと骨に置換されるがプレートを併用してもβ-TCPブロック単独では強度不足である.今回われわれは強度不足を補うためβ-TCP粉末にチタン粉末を複合化し椎体間移植に十分な強度を持つ成形体を作製した.成形体の圧縮強度はβ-TCP含有率が30%以下では脊椎椎体間固定に使用できる強度を有していたが,30%以上では作成過程で成形体が十分固化されなかった.実験では,100vol. % Ti,チタンに対してβ-TCP含有率が5%,20%,50%を有するβ-TCP/Tiおよび100vol. %β-TCPを使用した.まずこの成形体の生体親和性試験を行い親和性に問題がないことを確認し,うさぎ脛骨に骨欠損を作成し移植した.移植後16週で脛骨を摘出し三点曲げ試験を行った.また術後8週,16週の時点で成形体と骨の境界面を走査電子顕微鏡で観察した.三点曲げ試験の結果β-TCP含有率が低くなるほど曲げ強度の平均応力は増加した.走査電子顕微鏡像では100vol.%β-TCPは8週ですでに骨と成形体の間隙はなく癒合していたが5vol.%β-TCP/Ti,20vol.%β-TCP/Tiの成形体では8週の時点では間隙が存在していたが8週から16週の間で癒合していた.走査電子顕微鏡像からもβ-TCP含有率が高いほど成形体は早期に移植部で安定するが成形体が移植部で安定しない場合は長期間micromovementが存在することになり化骨形成が促進される.この結果,化骨の影響をうけてβ-TCP含有率が低いにもかかわらず平均応力は高くなったと考えられた.今回の成形体は100μm以下の比較的小さな気孔を有しているがこの気孔の中にβ-TCPの粉末が入り込み固化されたため気孔率が統一されなかった.今後もっとも最適なβ-TCP含有率,気孔率を求めるには気孔率を統一した,より大きな成形体を作製しさらに長期間移植を行い化骨の影響を受けない引張強度を計測する必要があると思われた.
  • ―共振周波数による検討―
    鈴木 保良, 篠田 威人, 小島 三貴子, 水沼 大, 飯塚 浩基, 藤原 久美子, 岡田 保, 安本 和正
    2009 年 69 巻 4 号 p. 316-322
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    最近臨床応用が開始されたインパルスオシレーションシステム(IOS)は,安静呼吸時に極めて短時間インパルスを与えるだけで末梢気道病変を検出するとともに,肺実質や胸郭など部位別の気道抵抗などが評価できる.しかし,本法における評価には明確な基準が存在しないという問題がある.そこでその評価を簡便にする事を目的とし,測定項目の1つである共振周波数(Resonant frequency:Fres)についての検討を行った.スパイロメトリにて,%肺活量≧80%かつ1秒率≧70%であった420症例(20歳から89歳)を対象とした.対象を喫煙の有無と性別により非喫煙男性群,非喫煙女性群,喫煙男性群,喫煙女性群の4群に分けた.全対象にIOSを行いFresによる評価を行った.各群の症例数はそれぞれ105例ずつとした.Fresの値において各群間に有意差は認めなかった.次いでFresと年齢,身長,1秒量,肺活量,PEFR(Peak expiratory flow rate),MMEF(Maximum mid-expiratory flow rate)およびV25/Ht(肺活量の25%の気量位における気速/身長)などとの相関関係を検討した.Fresと年齢,1秒量および肺活量との間に得られたR2は各群において0.2以上あり,相関性が見られた.一方,FresとPEFRや身長との間に得られた一次式のR2は0.2以下であり,相関関係は弱かった.FresとMMEFおよびV25/Htから算出されたR2は喫煙女性群でのみ0.2を超えたが,他の3群では低値となり,各群間における差が大きかった.IOSの利点として,安静呼吸時においても短時間に測定できることが挙げられる.そのため小児,高齢者および術前患者など従来の呼吸機能検査が困難な患者への応用が期待される.しかし,現時点ではまだ日本人における予測値も検証段階であり,今後はFresを含め,より一層のデータ蓄積が必要と思われる.
  • ―X線学的評価,検討―
    藤田 将勝, 中村 正則, 助崎 文雄, 宮岡 英世
    2009 年 69 巻 4 号 p. 323-337
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    われわれは当教室で1987年より施行しているセメトレス人工股関節(THA)の術後10年以上経過症例の臨床成績,画像所見(Osteolysis, Radiolucent line,大腿骨皮質の変化像,Stress shielding),問題点を検討した.対象は術後10年以上経過観察可能であった症例,および同時期手術を施行し再置換術へ至った症例で,男性12例14関節,女性143例172関節,計155例186関節で,平均手術時年齢は56.4歳であった.また,10年以上観察出来なかった症例については電話アンケートを実施した.JOA scoreは術前50.0点から術後84.1点に改善していた.Kaplan-Meier累積生存曲線を用いた生存率はcup側が10年で95.9%,15年で89.9%,stem側は10年で97.9%,15年で94.1%であり当科でのセメント人工股関節の結果と比較し良好な結果であった.用いられた機種はH/Gから始まり,AML,Anatomic,Metasulなどを主に使用したが,それぞれ機種ごとに特徴を認めている.再置換術に至った症例は21例あった.再置換施行例をそれぞれ検討すると患者自身の活動性,年齢,手技の問題,機種自体の問題などが考えられた.ただし,全体の結果からは患者自身の満足感,ADL向上を図ることは達成できた.
  • 定方 博史, 中村 正則, 助崎 文雄, 梶 泰隆, 宮岡 英世
    2009 年 69 巻 4 号 p. 338-347
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    セメントレス人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty以下THA)は変形性股関節症に対する一治療法として確立されている手術法である.しかし,侵襲の大きい手術方法であり,高齢者においても安全に手術が行えるのか,安定した初期固定が獲得されるのか,術直後あるいは長期的な経過で歩行は獲得されるのかなど懸念要素が多い.大腿骨頚部骨折に行った人工骨頭置換術症例との臨床成績の比較を中心にセメントレスTHAの有用性について調査した.当科にてセメントレスTHAを施行した75歳以上の133関節を対象とした.X線学的評価では,Enghの分類に従いimplant別の生物学的固定,stress shieldingの発生率を調査した.使用機種は多岐に亘っていたが,機種別に生物学的固定に差は認めなかった.また96%はbone ingrowth fixation,残りの4%はfibrous fixationで明らかなimplantのlooseningを示す所見はなく,再置換手術を要する症例はなかった.使用機種別ではAMLで高率にstress shieldingを認めていた.これは,大腿骨遠位部にて強固な固定が獲得される分,近位の骨皮質の委縮が著明となるが,臨床上問題となった症例はなかった.Stress shieldingの発生は,12mm以上の太いstem使用症例,canal-flare index3未満症例,cortical index0.4未満症例に多く認めた.髄腔形態の広い症例では骨質維持の加療を行い,極力骨温存可能なstemを選択すべきと考えられる.臨床成績の評価として術後1年,5年経過時の外来受診のフォローアップ率・死亡率,退院時,術後5年経過時の歩行状態についてTHA,Monopolar,Bipolarの3群間で検討した.Monopolar,Bipolarの2群間では明らかな有意差は認めなかった.THA群では,他の2群間と比較し外来受診のフォローアップ率,生存率は高く,また退院直後では約90%の患者に独歩あるいは杖歩行が獲得されていた.また,日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA score)の評価項目である疼痛,ADLから判断すると疼痛は著明な改善を認め,ADLも術前以上のパフォーマンスが得られている.重篤な合併症もなく,セメントレスTHAは比較的良好であり有効な手段と考えられる.
  • 今高 博美, 斉藤 光次, 佐藤 雅, 久行 友和, 和田 幸寛, 佐藤 俊, 山崎 貴博, 吉田 智彦, 有馬 秀英, 森智 昭, 榎澤 ...
    2009 年 69 巻 4 号 p. 348-355
    発行日: 2009/08/28
    公開日: 2011/05/20
    ジャーナル フリー
    肝炎に関連するサイトカインとしてLeukocyte-derived chemotaxin 2(LECT2)が知られているが,慢性肝炎におけるその動向や意義は必ずしも明らかではない.そこで,慢性ウイルス性肝炎各病相におけるLECT2の動向について病理形態学的立場から,比較的よく知られているサイトカインであるIL-8およびIL-18と比較し検討を加えた.経皮的針生検された肝組織76例(B型肝炎11例,C型肝炎65例)を材料とした.Modefied HAI Scoreに従って病理組織学的にその活動性(Grading)と線維化(Staging)について,また免疫組織化学的に抗LECT2抗体,抗IL-8抗体および抗IL-18抗体を利用し,その発現性について検討を加えた.免疫組織化学的に,IL-8およびIL-18はKupffer細胞や内皮細胞など間葉系細胞に,LECT2は肝実質細胞に発現した.いずれもB型およびC型肝炎の活動性が増加するにつれその発現性も増していた.しかしIL-8は活動性がより高度になってから高発現するが,IL-18やLECT2は正常肝においても発現が認められるなど,肝炎の活動性とサイトカインの発現にはそれぞれ乖離が認められた.以上より,免疫組織化学的にIECT2,IL-8やIL-18の発現は慢性肝炎の活動性が増すにつれ高率になり,また慢性ウイルス肝炎の病相に応じてサイトカインの発現に差異あることが確認された.免疫組織化学的にLECT2,IL-8やIL-18などのサイトカインを検討することは慢性肝炎の活動性を評価することに役立つと考察された.
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