昭和医学会雑誌
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70 巻, 3 号
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原著
  • 森田 勝, 門松 香一, 保阪 善昭, 藤村 大樹
    2010 年 70 巻 3 号 p. 203-210
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    先天性外表疾患である口唇口蓋裂は,比較的発生頻度が高く,当教室では現在までに複数の疫学的研究を行ってきた.本疾患の発生には,遺伝および胎児期の環境など複数の要因が関連しているとされているが,その要因は未だ特定されていない.本研究は1989年1月より2005年12月までに昭和大学病院形成外科を未治療で受診した1273名の口唇口蓋裂患者を対象とし,本疾患の発生要因として考えられる(1)母親の出産時年齢,(2)両親の喫煙習慣,(3)母親の飲酒習慣を調査した.そして,調査によって得られたデータと当教室の過去の報告,厚生労働省の統計と比較し検討を行った.解析方法として,F分布による検定とχ2検定を用いた.その結果,母親の出産時年齢,両親の喫煙習慣は本疾患の発生に関連があることが示唆されたが,飲酒習慣については関連性を認めなかった.
  • 林 昌貴, 奥田 剛, 千葉 博, 長塚 正晃, 岡井 崇
    2010 年 70 巻 3 号 p. 211-221
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    卵巣癌は女性の死亡原因の中で最も重要なものの一つであるが,その発生,悪性化のメカニズムはほとんど解明されていない.一方,大腸癌,乳癌,肝臓癌等において癌細胞の発生や増殖が炎症と密接に関わっているという報告が多数認められている.婦人科領域における炎症は,臨床の現場においてしばしば認められ,感染は腟から子宮,さらには付属器(卵巣,卵管)へと上行する.しかし,卵巣癌における炎症との関連は報告も少なく,未だ詳細は不明である.さらに一部の卵巣癌(類内膜腺癌,明細胞腺癌)は慢性炎症類似状態ともいえる子宮内膜症がその発生に関係があるとされているが,メカニズムは不明である.Toll-like receptor(TLR)は細胞表面受容体で,病原体を感知し自然免疫を作動させ,パスウェイ下流でサイトカインを誘導することで炎症反応と関連する.ヒトでは10種類のTLRが知られており,各TLRは特異的アゴニストを認識し下流のNF-κB,IFNなどのシグナルを活性化する.そして最終的にサイトカインやケモカインを誘導し,癌増殖や薬剤耐性にも関与するとされている.表層上皮性卵巣癌の組織型は漿液性,粘液性,類内膜,明細胞腺癌の4つが多く,本研究ではこれらの各細胞株を用いて,TLRシグナルパスウェイ関連遺伝子の発現を検討し,加えてTLR特異的アゴニストを用いたサイトカインの誘導による機能解析を行った.その結果,漿液性腺癌では細菌の慢性的な卵巣への暴露によるリポ蛋白に対する反応の関与が示唆された.粘液性腺癌においても,リステリア等の感染が関与している可能性が示唆された.明細胞腺癌では生物学的特性としてTLRパスウェイ関与の可能性は低いと思われた.類内膜腺癌ではその特徴として,細菌鞭毛構成蛋白であるフラジェリンの関与が示唆された.以上より各卵巣癌は組織型により癌細胞内TLRパスウエイの性質が異なっており,これが細胞増殖などの生物学的特性に影響を与えている可能性が示唆された.
  • 丸山 邦隆, 永田 将一, 深貝 隆志, 島田 誠, 小川 良雄
    2010 年 70 巻 3 号 p. 222-227
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    前立腺癌患者に対する内分泌治療後に生じる骨密度の低下と,それに対する経口ビスフォスフォネート製剤(リセドロネート)の予防効果について検討を行った.骨転移を認めない前立腺癌患者で内分泌治療を施行した26例(内分泌療法単独群)の治療前ならびに治療1年後に腰椎,大腿骨頸部,大腿骨近位部全体,橈骨遠位端の骨密度を測定した.骨密度の測定には二重エネルギーX線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry:DEXA)を使用した.さらに骨粗鬆症予防のためリセドロネート内服を希望した22例(リセドロネート投与群)も同様に骨密度を測定し内分泌療法単独群と比較検討を行った.内分泌療法単独群で治療開始前と1年後の骨密度を変化率(治療開始1年後の骨密度/治療前の骨密度-1)で検討したところ大腿骨頸部-5.0%,大腿骨近位部全体-1.5%,腰椎-4.5%,橈骨遠位端-3.4%といずれの部位も骨密度の低下が見られた.次にリセドロネート投与群でも同様の検討を行ったところ大腿骨頸部-1.1%,大腿骨近位部全体-0.5%,腰椎-0.6%,橈骨遠位端-0.1%とやはり骨密度の低下が見られたものの大腿骨近位部全体以外では有意な骨密度低下の抑制が見られた.前立腺癌の内分泌治療により全身の骨で骨密度が低下することが示された.さらにリセドロネートの投与により内分泌療法に伴う骨密度の低下を予防する効果があることが示唆された.
  • 大森 圭, 丸山 邦隆, 森田 順, 森田 将, 直江 道夫, 冨士 幸蔵, 深貝 隆志, 平森 基起, 小川 良雄
    2010 年 70 巻 3 号 p. 228-233
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    TURPは前立腺肥大症の最も標準的手術の1つである.しかし,比較的小さな前立腺肥大症の患者にTURPを行っても十分な効果が得られないことがある.そのため十分な治療効果が得られる前立腺体積を明らかにするため,2002年1月~2006年12月までに前立腺肥大症の診断でTURPを行った138例について国際前立腺症状スコア(IPSS),QOL index,最大尿流率(Qmax)において検討した.138例のうち尿流量測定の評価が可能であった45例についてQmaxの検討を行い,TURPの治療効果は術前前立腺体積である30mlを境界として有意差を認めた.前立腺体積30ml未満(small prostate群)および30ml以上(large prostate群)の比較では,large prostate群はIPSSの全7項目およびQOLにおいて,有意差を認めた.しかし,small prostate群はIPSSの残尿感の1項目およびQOL indexの有意差を認めるのみであった.両群で有意差のあったQOL indexにおける手術前後の改善度を比較した結果,large prostate群は有意な改善度を認めることが示された.以上のことから,Qmax,IPSS,QOL indexは前立腺体積に関連していると考えられた.
  • 中條 敬人, 佐々木 晶子, 泉山 仁, 阿部 琢巳, 山本 剛, 立川 哲彦
    2010 年 70 巻 3 号 p. 234-244
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    神経膠芽腫(Glioblastoma: GBM)は手術加療のみでは根治が困難な腫瘍で,現在は手術や放射線療法,化学療法を組み合わせる治療が行われている.しかしながら,本腫瘍は放射線・化学療法に対して抵抗性があり,再発が見られ,根治には至らないのが現状である.このような腫瘍の再発や放射線,薬物抵抗性には腫瘍幹細胞の関与が強く疑われる.われわれは腫瘍幹細胞の存在とその性状解析のために,ヒト由来GBM細胞株T98G,A172細胞を用い臨床治療と同条件の放射線照射GBM細胞を作製した.放射線照射後細胞(0Gy,30Gy,60Gy)を用いて細胞増殖率の解析やside population(SP)の解析,CD133+細胞の分離,遺伝子解析を行った.本研究結果ではCD133-細胞と比較してCD133+細胞で幹細胞関連遺伝子が高く発現していた.従って,それは腫瘍幹細胞がこれらのCD133+細胞に含まれる可能性があることを示唆した.T98G細胞において,30Gy照射後細胞は無照射細胞,60Gy照射後細胞に比べ細胞増殖率が高い傾向にあり,30Gy照射後CD133+細胞は幹細胞関連遺伝子がより高く発現していた.つまりT98Gは,抗腫瘍効果の観点で,30Gy前後の放射線照射で化学療法がより効果を示す可能性が示唆された.この遺伝子解析から腫瘍増殖はCD133+細胞が強く関与していることが示唆され,また放射線照射によりCD133+細胞に何らかの変化が生じ,治療抵抗性や治療効果に影響を及ぼしていると考えられた.
  • 中山 禎理, 佐々木 晶子, 桑名 亮輔, 桑島 淳氏, 阿部 琢巳, 山本 剛, 立川 哲彦
    2010 年 70 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    ホルモン分泌を伴わない非機能性下垂体腺腫(null cell adenoma)と甲状腺刺激ホルモン(以下TSH)タンパクのみを合成するTSH産生下垂体腺腫の遺伝子を正常下垂体,null cell adenomaと比較検討し,ホルモン分泌や腫瘍形成に関与する遺伝子を検索した.検索腫瘍は当施設において手術により摘出した組織を凍結固定し,連続切片を作成した.切片はLaser Microdissection法を用いて腫瘍細胞だけを採取し,T7増幅法にてRNAを増幅後,DNA microarrayにて解析をおこなった.その結果,腫瘍形成に関与する遺伝子としてMMPと共起する遺伝子TIMP4,細胞周期M期の制御に関わるサイクリンB1,B2などの高い発現がみられた.またTSH産生下垂体腺腫特有の性状である腫瘍硬度を形成する遺伝子として線維性組織の形成に関与するTransthyretin,Fibroblast growth factorが検出された.さらにホルモン分泌に関わるタンパク質CSH1,発生と代謝に関与する転写因子Forkhead box N4などが検出され,TSH産生下垂体腺腫に特有の分化系譜を示唆した.
  • 上岡 なぎさ, 本間 生夫, 赤羽 智子, 河野 葉子, 飯島 正文, 大場 基
    2010 年 70 巻 3 号 p. 253-262
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    ジーンターゲッティング法等,遺伝子導入・欠失技術は,生体内における特定遺伝子の機能に関して多くの情報を与えてくれる.しかしながら,ヒト組織や個体を対象とした遺伝子改変は,倫理・安全性の面から極めて多くの問題を伴うため,ヒト生体内における遺伝子の役割を明確に証明することは困難である.そこで本研究では,ヒト皮膚三次元培養系に対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法を確立し,皮膚における特定遺伝子の機能を検討した.特に表皮分化への関与が知られるプロテインキナーゼC(protein kinase C,PKC)遺伝子群のドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant,D/N)を導入,その機能を抑制し,複数の分化マーカーの発現を指標として表皮分化に与える影響を検討した.さらに,D/N PKCを過剰発現させた培養ヒトケラチノサイトを浮遊培養することで分化誘導し,三次元培養との異同を比較検討した.表皮に発現するPKCα,δ,ε,η各分子種に対するD/Nアデノウイルスベクターを角層形成直前の三次元培養皮膚に加えることで,高効率且つ持続性の高い遺伝子導入が可能となった.9日間培養を続け,角質層を含む多層化した皮膚構造が構築された後,表皮分化マーカーの免疫組織染色を行った.有棘層・顆粒層に発現するケラチン1は,D/N PKCによって顆粒層での発現が増加した.一方で,顆粒層マーカーロリクリンはD/N PKCαおよびPKCδで発現上昇し,D/N PKCεおよびPKCηでは抑制された.これらの現象は,浮遊培養によるケラチノサイトの分化過程でも確認された.以上のことから,表皮の分化過程においてPKCは,分子種によって共通の,或いは異なる作用を示すことが明らかとなった.今後,皮膚三次元培養にウィルスベクターを適用するこの実験系を利用することで,様々な遺伝子のヒト皮膚における機能解析が可能になるものと考えられる.
  • 大多和 威行, 佐藤 啓造, 藤城 雅也, 入戸野 晋, 加藤 晶人, ラ ラ ティ, 佐藤 恵美子, 李 暁鵬, 熊澤 武志, 勝又 義直
    2010 年 70 巻 3 号 p. 263-271
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    当教室ではヒトと類人猿で肝臓の尿酸酸化酵素(UOX)を欠損しており,尿中に高濃度の尿酸(UA)を排泄することを利用したヒト尿斑証明法を開発してきた.その過程でフサオマキザルをはじめとする新世界ザルの中に高濃度のUAを排泄する個体が存在することを見い出している.本研究ではフサオマキザルをはじめとする新世界ザル5種,46頭の血漿を入手し,血漿中UAとUOXによるUAの代謝物アラントイン(Alla)を同時に測定し,ヒトや類人猿,旧世界ザル,原猿類,ラット,モルモットの血漿中UA値,Alla値およびAlla/UA比を比較することにより霊長類のプリン代謝について検討した.同時に,9種,16頭のサルの尿斑を新たに入手し,尿斑抽出液中のUA,UN値を測定し,以前の報告と合わせ,UA/UN比を比較することによりプリン代謝考察の補足資料とした.サルの血漿および尿斑は京都大学霊長類研究所の共同利用研究で入手した.肝UOXを欠損しているヒトと類人猿ではAlla/UA比が低値を示し,ヒト16例はすべて0.1以下,チンパンジー,オランウータン,アジルテナガザル合わせて6例の類人猿はすべて0.14以下を示した.一方,旧世界ザル5種,27例で同比は0.7~2.0に,原猿類2種,5例およびラット,モルモット各5例は同比が1.2~3.0に分布した.他方,新世界ザルではコモンリスザル5例が0.9~1.8を示したが,ヨザル13例が0.15~1.7,ワタボウシタマリン9例が0.2~1.3,コモンマーモセット8例が0.2~1.0に幅広く分布し,後3者は一部の個体がヒトや類人猿に近い値を示した.とりわけ,フサオマキザル11例は0.05~0.15というヒトや類人猿とほぼ同じ比を示した.尿斑抽出液のUA/UN比でみれば,フサオマキザル全例とヨザル,ワタボウシタマリン,コモンマーモセットの一部は類人猿と同レベルにあり,血漿中Alla/UA比とよく一致し,後3者はUA/UN比が比較的幅広く分布していた.以上の結果からフサオマキザルはヒトや類人猿と同様に肝UOXを欠損しており,ヨザル,ワタボウシタマリン,コモンマーモセットにも肝UOXを欠損する個体がある可能性が示唆された.今後,京都大学霊長類研究所で実験殺が行われた場合,フサオマキザルなどの肝組織のUOX活性を測定したいと考えている.
症例報告
  • 白畑 敦, 新村 一樹, 北村 陽平, 櫻庭 一馬, 横溝 和晃, 曽田 均, 松原 猛人, 後藤 哲宏, 水上 博喜, 齊藤 充生, 石橋 ...
    2010 年 70 巻 3 号 p. 272-276
    発行日: 2010/06/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性.左乳房の腫瘤,頭痛を主訴に当院を受診した.左乳房腫瘤は組織診にてinvasive ductal carcinomaと診断された(T4N1M1病期IV).頭部MRI検査で前頭葉から頭頂葉にかけて強くenhanceされる境界明瞭な径40mmの腫瘤が指摘された.初診時にすでに頭蓋内圧亢進による頭痛が見られたため,脳腫瘍摘出術が施行された.病理組織学的には腫瘍はfibrous meningiomaであったが,腫瘍組織内に髄膜腫細胞とは異なる不整な小胞巣状の浸潤・増殖を認める核異型を有する細胞が認められ,これらは転移性乳癌と診断された.今回われわれは頭蓋内髄膜腫の腫瘍組織内に転移した乳癌の1例を経験したので臨床像や病態について文献的考察を加えて報告する.
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