昭和医学会雑誌
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70 巻, 4 号
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最終講義
総説
  • ―死後CT画像と病理解剖所見との比較検討を中心に―
    九島 巳樹, 秋田 英貴, 後閑 武彦, 河原 正明, 本間 まゆみ, 矢持 淑子, 高澤 豊, 深山 正久
    2010 年 70 巻 4 号 p. 288-292
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    現在,わが国では診療関連死の死因究明に関して,第三者機関が解剖をはじめとする調査を行い,医療安全の向上に役立てる仕組みが模索されている.診療関連死の死因究明調査の実際において,客観性を保障するには解剖による調査が必須であるが,有効かつ迅速な医療評価を可能にするため,解剖を補助する手法として死後画像(CT,MRI等を用いた画像診断)を用いることも考慮に値する.東京大学を主体とした厚生労働省科学研究費補助金研究事業研究の一部として,2例の病理解剖症例で解剖前に死後画像の撮影ができたので,病理解剖所見との比較を含めて報告した.今回の研究では,死後画像は病理解剖を補助する手段として有効であると考えられるが,それのみでは不十分であった.すなわち,症例1では腫瘍性疾患の原発巣や組織型などについて,症例2では中枢神経の変性疾患の詳細について,ともに死後画像のみでは不明であった.しかし,外傷や出血などで死後画像が死因の特定に役立つと言われており,司法,行政解剖に関係した症例では特に有効と考えられている.例えば,大動脈解離,腹腔内出血などは,死後画像のみで死因究明できると考えられる.あらかじめ死後画像を見ておくと,病理解剖で重点的に検索する部位を示すことも可能である.実施面では,死後画像の撮影を臨床装置で行なうことは限界があり,将来的に死後画像撮影のための専用装置の導入を考慮する必要があると思われた.医療事故の調査には死後画像を加えた剖検が必要で,その目的は医療者の過失の有無を判定することではなく,原因を分析して今後の医療の発展に役立てることである.
原著
  • 秋月 文子, 角谷 徳芳, 堀田 康弘, 宮崎 隆
    2010 年 70 巻 4 号 p. 293-301
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    当科では,1996年以降両側唇顎口蓋裂において,中央唇組織の温存と外側唇からの上口唇組織の増加を図るため,二回法による口唇形成を行っている.二回法は,われわれが独自に行っている方法で,一期手術で片側口唇の完全閉鎖と他側の不完全閉鎖を行い,二期手術で不完全閉鎖側の完全閉鎖を行うことで口唇閉鎖を完成させる方法である.この方法による歯槽形態の変化について歯型計測表示システムソフトHyoji3D(デジタルプロセス社製)を用いて検討したので報告する.1996年3月~2010年1月までに当科にて治療を行った両側唇顎口蓋裂患者の中で,印象採得を行い得た31症例における上顎石膏模型の歯槽形態の変化について検討した.一期手術で片側の完全閉鎖,および他側の不完全閉鎖を行うことによって,突出した中間顎,左右に偏位した中間顎が整復され,顎裂部の狭小化と良好な上顎歯槽形態に近づけることができた.一期手術時に両側の鼻腔底閉鎖を行うことにより,著しい中間顎の挺出は認められなかった.
  • ―テキストマイニングによる語りの分析から―
    大高 庸平, 城丸 瑞恵, いとう たけひこ
    2010 年 70 巻 4 号 p. 302-314
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    現在,日本において乳がん患者は急速に増加している.治療法の1つであるホルモン療法は,副作用が少ないとされているが,一方でホットフラッシュなどの出現があり,これによって患者のQOLの低下が予測される.本研究は乳がん患者のQOL向上に向けて,手術やホルモン療法を受ける患者の具体的な心理を患者の語りからテキストマイニングを用いて探索的に明らかにすることを目的とした.対象は10人の乳がん患者である.半構造化面接によって得られた逐語録を,テキストマイニングソフトウェアにて分析した.全体頻度として用いられた単語は,治療に関連した単語とともに家族や仕事など患者の生活面があらわれ,治療面,生活面,心情・身体症状の3領域が見出された.患者個人が特徴的に用いる単語では,量的に示された結果に対して,それぞれの単語を原文から見ることで多様性が明らかになった.単語間の共起関係について,手術のカテゴリにおいては“頭”と“真っ白”のつながりは告知によるものであり,“手足”と“痺れ”のつながりは症状に関する語りであった.“不安”と“痛い”との間に弱いつながりが見られ,手術後の症状によるものであった.ホルモン療法のカテゴリにおいては“ホルモン療法”と“手術後”と“影響”,“ひどい”と“生理”とのつながりが見られ,“副作用”は“痛い”と“関節”,“抑える”と“体力的”との共起関係があった.ホルモン療法では,手術と違い,患者の心理面に関する単語の共起が少なかった.手術とホルモン療法のカテゴリ内を対象とする対応分析では,家族の支援が豊富に得られた患者と症状に苦しむ患者とが対比された. 乳がんの手術やホルモン療法に関する心情が患者の語りから明らかとなった.手術のカテゴリでは身体症状の緩和が不安の緩和へとつながることや,告知に対する課題が得られた.ホルモン療法のカテゴリでは身体症状に関連した影響は明らかにされなかったが,若年層の患者に対する影響について研究の蓄積が必要である.乳がんという身体的・心理的不安が生じるなかで患者が求めるサポートは多様であり,仮説生成的な気づきが得られる一方,家族の支援が大きいほど乳がんに対して前向きな生き方を可能にすることが示唆された.乳がん患者の支援方法については多様性の理解のもとに,各々のサポート内容のより効果的な構築が今後必要である.
  • 大石 修史, 辻 まゆみ, 長谷川 仁美, 田鹿 牧子, 入江 悠子, 小口 勝司
    2010 年 70 巻 4 号 p. 315-325
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    近年,血液透析患者における血球細胞の透析膜接触による酸化ストレスが報告され問題視されている.また,酸化ストレスは血液透析患者の合併症の進行において重要な危険因子であり,特に糖尿病患者の高血糖状態はフリーラジカルを産生し,アポトーシスを誘導すると考えられている.本研究では,糖尿病を合併した血液透析患者の酸化ストレスによるアポトーシスの実験モデルを確立し,その発生経路を解明することを目的とした.ヒト単球系U937細胞を高グルコースで培養後,過酸化水素(H2O2)により酸化ストレスを誘発させた.高グルコースで培養したU937細胞をH2O2 24hr処置(0.5~10mM),および抗酸化剤であるN-acethyl-cysteine(NAC)を1時間前処置した.酸化ストレスに対して活性酸素種(ROS)生成量を測定し,アポトーシス検出にはsingle strand DNA,AnnexinV染色,caspase-3活性を測定,さらにミトコンドリア膜電位差の変化(MPT),JNKのリン酸化能,glycationを測定した.H2O2により濃度依存的にROS生成増加,MPT低下,アポトーシス誘発作用がみられたが,H2O2によるこれらの作用は高グルコース負荷によりさらに促進され,抗酸化剤であるNAC前処置にて抑制された.caspase-3活性は,H2O2負荷では濃度依存的に増加したが,高グルコース負荷によるさらなる増加の助長は認められなかった.以上より,高グルコース負荷で酸化ストレス誘発性アポトーシスは,さらに促進され,本実験モデルの結果から,臨床における血液透析患者の糖尿病合併症は強い酸化ストレスを生じ,アポトーシス誘発を促進していることが裏づけられた.また,高グルコース負荷による酸化ストレス誘発性アポトーシスの経路は,caspase非依存性である可能性が考えられた.
  • 梅本 岳宏, 石橋 一慶, 齋藤 充生, 木川 岳, 根本 洋, 真田 裕, 日比 健志
    2010 年 70 巻 4 号 p. 326-332
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    われわれは,2003年4月から10月に消化管・肝胆膵疾患で手術をした149症例のうち,術後のβ-Dグルカン(β-D)値が陽性(11.0pg/ml以上)の34症例についてβ-D値の推移とCandida属の検出菌を検討した.方法は培養検査(咽頭・痰,胃液,尿,便,ドレーン,その他)と血液検査(β-D値の測定)を行った.なおβ-D値陽性の34症例に抗真菌剤を投与し,β-D値の推移を検討した.術後の真菌検出菌は,Candida. albicansが比較的少なく,Non-albicans属が比較的多い傾向が認められた.β-D値の推移は,術後第1病日に高値(17.1 ± 2.6pg/ml)を示したが,抗真菌剤投与後,第3病日以降はβ-D値が低下し,第7病日には全症例で陰性化した(3.5 ± 1.3pg/ml).術後β-D値が陽性かつ真菌が検出された症例に対して,早期に抗真菌剤を投与することにより重症化を防げる可能性があると思われる.
症例報告
  • 白畑 敦, 原田 芳邦, 喜島 一博, 新村 一樹, 坂田 真希子, 岡田 一郎, 櫻庭 一馬, 北村 陽平, 横溝 和晃, 曽田 均, 松 ...
    2010 年 70 巻 4 号 p. 333-337
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    症例は56歳男性.上腹部の不快感を認め近医を受診し,腹腔内腫瘤を指摘されたため精査・加療目的に当院を受診した.CT検査では小腸に造影効果を有する壁肥厚像を認めた.更なる検査を行うも確定診断がつかず,診断もかねて,単孔式腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察したところ上部空腸に漿膜浸潤を伴う全周性の小腸癌を認めた.また,所属リンパ節は腫大し腸間膜根まで連続し,腹膜播種性病変も認めた.臍部の創を開腹し小腸部分切除を施行した.単孔式腹腔鏡下手術は効果的に腹腔内の観察や切除を行うことが可能であり美容的に優れており,小腸癌に対して有用であったので報告する.
  • 稲村 ルヰ, 長谷川 優子, 東 里美, 小林 玲音, 遠井 健司, 尾頭 希代子, 安本 和正
    2010 年 70 巻 4 号 p. 338-342
    発行日: 2010/08/28
    公開日: 2011/05/27
    ジャーナル フリー
    右膝蓋骨骨折の観血的整復術中に心停止を来たし,術後の原因検索にて深部静脈血栓による肺血栓塞栓症と診断された症例を報告する.脊髄くも膜下麻酔施行後,下肢を駆血した直後に心停止となったが,心肺蘇生により心拍は再開した.心エコーでは右心負荷所見や心内血栓はなかったが,下肢エコーで患肢大腿静脈に血栓を認めたため,肺血栓塞栓症の治療を開始した.術後の下肢静脈造影にて血栓が認められ,血栓溶解療法と抗凝固療法を行うとともに,下大静脈フィルターを留置した.肺血栓塞栓症発症時は早期診断と適切な治療の実施が不可欠である.従って,急性循環虚脱時は本症を疑うとともに,日頃より本症への対策の構築が必要である.
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