生体医工学
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Annual56 巻, Abstract 号
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  • 荘 敬介, 神澤 祐輔, 鷲尾 利克, 矢野 智之, 荒船 龍彦
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S44
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    本研究室では脳下垂体腫瘍の破砕と,細血管や神経の温存を両立させる治療デバイスとしてレーザパルスジェットメス(Laser Induced Liquid Jet:LILJ)の開発を行ってきた .現行のLILJは脳下垂体腫瘍腺腫を対象に臨床応用研究で一定の成果を挙げており,今後本技術を他科の医療ニーズの解決に活用するべく,LILJの破砕力向上に関する改良を進めている. 我々は水流に微小気泡を混入させたバブルジェットに着目し,LILJハンドピースの金属細管先端に経0.3 mmの小孔をあけ,ジェットに微小気泡を効率よく混入させたバブル型LILJにすることで,生体組織を模擬したファントムを用いた実験において,未加工ものと比べ破砕力が向上することを確認し,既報にて報告した.一方破砕力向上に伴い,血管や神経を損傷するリスクは向上する可能性がある. そこで,本研究の目的は,開発したバブル型LILJがLILJの特徴である神経や血管の温存機能を保持しているのか,また生体組織において破砕する組織の選択性を持つのかを明らかにすることとした. まずLILJの持つ特徴である膜構造や血管,神経などの構造物への温存機能を,ブタ摘出臓器を用いて検証した.次にジェットによる深さ方向への破砕効果を抑制する液溜まり現象が生体組織内でどのように再現されるのかを高速度カメラと画像処理を用いた計測システムを構築し,解析したので報告する.

  • 鄭 在勝, 原 一晃, 岩橋 利英, 中川 桂一, 小林 英津子, 柳田 健, 大屋 貴志, 藤内 祝, 佐久間 一郎
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S45
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    超選択的動注化学放射線療法のためのカテーテル留置術とは, 耳介周囲の動脈からカテーテルを挿入し,カテーテル先端を口腔癌に流れる腫瘍栄養動脈に留置する低侵襲な手術方法で, 口腔癌に直接抗癌剤を注入することが可能である. しかし, カテーテル先端の位置・姿勢を常に把握することが困難であり,術中に3次元位置計測システムが必要である.本研究では, 腫瘍栄養動脈に適用可能な, 小型で感度が良いTunnel magnetoresistance(TMR)センサを実装した磁気式トラッキングシステムの開発を行う. 本報告では, プロトタイプとして, 磁場計測システムと位置・姿勢算出アルゴリズムを開発した. 磁場計測システムは, 磁場発生装置, センサ部, 信号処理部で構成されている. 磁場発生装置はコイル3つと交流回路で構成し,コイルは異なる軸を向き,445 Hz,628 Hz,313 Hz で駆動させた.センサ部はある一方向の磁場に感度を持つTMRセンサを異なる向きで3つ実装した. センサの位置・姿勢は計測点における磁場の大きさから,数値解析学的にLevenberg-Marquardt法を用いて計算した. 算出した位置・姿勢を真値との誤差で評価し,その再現性を標準偏差で評価した.真値との位置誤差は最大値(37.3 mm, 48.0 mm, 140.4 mm), 最小値(0.1 mm, 0.1 mm, 0.2 mm), 平均値(6.9 mm, 12.4 mm, 26.7 mm)となり, 4回計測の標準偏差は最大(1.81 mm, 3.62 mm, 5.00 mm), 最小(0.009 mm, 0.013 mm, 0.008 mm)となった.

  • 高松 共生, 大東 慎之介, 土井根 礼音, 桑名 健太, 土肥 健純
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S46
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下手術は低侵襲である反面,使用する術具が直線形状であるため,患部が体内深部に存在する場合の手術が困難になる.そこで我々は臓器などを迂回し,患部までの経路を確保するデバイスを介し軟性術具により手術を行うシステムを提案している.既存の軟性術具はエンドエフェクタへの動力伝達の手法が限られており,スネアや把持鉗子など単純な機能の鉗子が多い.そこで我々は把持剥離鉗子の把持操作・剥離操作を想定し,開動作・閉動作の動力伝達をワイヤの牽引で実現可能な軟性鉗子用エンドエフェクタを提案する.提案するエンドエフェクタの構成は,先端からブレード部,回転軸,開動作・閉動作用の2本のシャフトとなっている.ブレード部の手元側には各シャフトがスライドする円弧状の溝が設けられており,溝内を駆動することが可能な2本のシャフトをワイヤによってそれぞれ牽引することで,エンドエフェクタの開動作・閉動作が可能である.また,シャフトが円弧状の溝に対し接触することで生じる力によって,ブレードを回転させるモーメントが発生する.本研究では,提案するエンドエフェクタを3Dプリンタにより試作し,開方向・閉方向の動作が可能であることを確認した.またエンドエフェクタの開方向,閉方向の回転中心に対する発生トルクの計測を行った.

  • 雨宮 将太, 武井 裕輔, 前田 浩行, 諸橋 達, 神田 章男, 岩瀬 秀明, 金子 和夫, 前田 睦浩, 寺阪 澄孝, 下大川 丈晴, ...
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S47
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    整形外科手術の際に、カフを用い空気圧により圧迫することで、止血を行うターニケットという装置が頻用されている。これを使用する際の圧迫圧は医師が経験的に設定する場合が多く、その設定圧によっては患者に後遺症が発生してしまい、それが使用上の問題となっている。この問題に対し我々は、患者の状態に応じた圧迫圧の調整による解決の可能性を見出した。しかし、従来の空気圧による圧力の調整は、可能ではあるもののシステムの複雑化という点から困難であった。そこで空気圧に代わる駆動源としてEHDポンプを駆動源とした圧迫圧の調整が可能なターニケットの開発を目的とした。EHDポンプとは、絶縁性流体に電圧を印加した際に流れが発生するEHD現象を応用したポンプである。EHDポンプは電圧の調整のみで吐出圧力の調整が可能であるという空気圧には無い特徴を有しており、この特徴をターニケットへ応用することを考え、このEHDポンプを駆動源としたEHDターニケットの開発を行った。このターニケットはEHDポンプを主とした駆動部、駆動部を制御するための制御部、カフからなる締付部で構成とした。これは設定した圧迫圧で駆動部から締付部のカフに流体を圧送し、圧迫及び止血を行うものである。なお、制御部から駆動部のEHDポンプに供給する電圧を調整することにより、圧迫圧の調整を実現した。今後はこのターニケットをベースに、後遺症の発生の低減が可能なターニケットの開発を目指す。

  • 大宮 康宏, 萩原 直樹, 篠原 修二, 中村 光晃, 樋口 政和, 高野 毅, 光吉 俊二, 徳野 慎一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S48
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    メンタルヘルス不調への対策として,年一回の問診だけではメンタルヘルス状態の急な悪化への対応は難しく,簡便なスクリーニングや日常的にモニタリングできる技術が求められている.我々は音声から抑うつ状態やストレス状態などを推定する研究を進めており,音声を用いた分析は,非接触で,特殊な専用装置を必要とせず,手軽にかつ遠隔的に行えるという利点がある.一般に健康な人では自分を取り巻く環境の変化により喜怒哀楽などの感情を表すのに対して,ストレスが蓄積してうつ状態になると,感情の表出が低下する.我々は音声から感情を認識し,その感情表出の様相から心の健康状態を推定する.ここで,音声からの感情認識にはAGI社製ST(Sensibility Technology)を採用している.その音声から心の健康状態を推定する技術をMIMOSYS(Mind Monitoring System)と名付け,日常的に声を発する電話の通話音声に着目し,Android OSのスマートフォンに実装した.MIMOSYSでは,1回の通話や録音音声からその時点の心の元気さを「元気圧」として計測し,また,長期的な心の元気さを「心の活量値」として計測する.MIMOSYSアプリは,その医学的妥当性を検証するため,社会実装研究が東京大学によって実施され,2年間以上にわたり運用された.その結果,男女の違いでは,音声分析(MIMOSYS)と自記式アンケート(BDI)において同様の傾向を示した.

  • 山下 兼一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S49
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近年、生活習慣病やメンタル疾患の増加により、健康管理は社会的な課題となっています。うつ病などの気分障害(感情障害)の総患者数は約112万人に達するなど、休職などによる経済的損失も生み出しています。企業や団体においては、メンタル疾患の早期発見に努めています。自記式によるストレスチェックや問診・面談だけでは実態とことなる回答が可能なため、本人の意図に左右されずに手軽に心の状態をチェックできる仕組みが求められています。音声こころ分析サービスは心の状態を見える化し、メンタル疾患の予防や早期発見を促します。声から心の健康状態を気軽にチェック「こころの不調」の自覚と早期発見を支援し適用分野(業種、業務)での働き方改革や健康経営に関心のある人事、総務関係の課題である従業員の健康をサポートします。声から心の健康状態を見える化し、利用者が生き生きと働くことのできる職場環境づくりを支援し、モチベーションやパフォーマンスを上げる事によって健康経営や働き方改革の支援を推進します。

  • 長川 真治, 徳野 慎一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S50
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    【背景】国際情勢が緊迫し、また若年者減少を迎えた我が国で、精強な隊員を育成することは差し迫った課題である。一方で、苦労して獲得し教育に臨んだ隊員の一定数が中途で離職している現実もある。離職原因は様々で、人間関係上の問題や教育への不適合等あるが、その意志に早期に気付けば対処し得る問題も隠れている。このような中で、徳野らの研究グループでは声から心の健康状態を計測し数値化することのできるMIMOSYSアルゴリズムを開発し、それを携帯アプリとするシステムを設計して長期的な心の元気さの計測を可能にした。【目的】今回、我々はこのシステムを用いて離職に至る隊員は事前に予測できるという仮説の下で、その検証を前向き研究で計画した。本発表は、そのパイロット研究である。【方法】2016年4月入隊の825名に対して、スマートフォンを用いて定期的に音声入力をさせることでその分析を約3ヶ月間実施し、特に精神保健的な観点で管理上問題を生じた隊員の検討を実施した。【結果】参加者の中で、少なからずの離職者が出たが、彼らの音声分析結果に特徴が得られた。また、管理上問題を生じた隊員にもその活量値の推移に特徴を認めた。【考察】音声分析の特徴は非侵襲的検査であること、継続的に繰り返し測定できることである。今回の結果は、音声分析を定期的に実施して早期に問題のある隊員の問題を把握し、必要な介入を実施すれば離職予防に貢献できる可能性を示した。

  • 徳野 慎一, 篠原 修二, 中村 光晃, 樋口 政和, 大宮 康宏, 萩原 直樹, 高野 毅, 光吉 俊二
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S51
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近い将来、生活の中で音声による入力システムが増加し、音声を用いたスクリーニングやモニタリングのシステムがますます発展すると思われる。我々は、音声を用いて心の健康状態を示す指標を開発した。これを様々な現場で2年以上運用して、医学的な検証を重ね、製品化に至っている。これにより心の健康状態の変化からストレスの程度やうつ傾向を推定することが可能となったが、音声に変化を及ぼす疾患は数多く存在し、現行のアルゴリズムでは音声のみで完全にうつ病を鑑別することは出来ていない。すなわち、音声に現れた変化が心の健康状態によるものなのか、あるいは他の疾患によるものなのか、もしくは他の疾患による体調不良が精神的に影響しているのかが鑑別できない。そこで、我々は音声による様々な疾患の鑑別が可能なシステムの開発に取り組んでいる。これまでに、大うつ病に特化した音声特徴を見出し、それが医師の診断による重症度と相関が得られることを示した。さらに、パーキンソン病に特化した音声特徴を見つけ、これら2つの特徴を用いることで両疾患を鑑別できることも示した。また睡眠時無呼吸症候群では治療効果の判定に音声が利用可能であること、音声により大うつ病と双極性障害の鑑別の可能性などを示してきた。現在、高齢化社会を鑑み、認知症の音声による検知の研究を進めており、対象疾患をさらに拡大すべく準備中である。発表ではこれら研究の一部を紹介する。

  • 岡崎 俊実
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S52
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    我々は、音声による病態診断技術を運転中のドライバーの心身状態推定に応用しようとしている。この音声による推定結果を基に、走行中のドライバーの心身状態に適合した高度な運転支援が可能になると考えている。応用例の一つとして自動車を運転するドライバーのストレス状態を観測する指標へ応用することを考えた。運転によって生じるストレス反応の結果として現れる精神状態の指標として、音声分析による抑うつの指標(元気圧)の適用を試みた。比較的短時間の運転前後の音声サンプルを取得し、ドライバーの状態を観測した結果、運転前に比べて運転後に抑うつ指標が改善される傾向が多くの被験者で確認された。これは、別途実施した記述式の主観気分指標による結果とも一致している。またこの結果の中では、車両の運転特性の違いによって、精神状態の変化が異なる場合があることも観測できており、本分析技術が運転時の微妙な精神状態の変化を捉えるレベルにあると判断した。音声分析による診断技術は非侵襲で低コストな方法として、ドライバー状態をモニタリングするシステムの重要な要素となる確信を得た。状態推定をよりきめ細かなものにしていくためには、車載化する他のセンサの情報との組み合わせることが一つの有効な手段であると考えられる。状態推定の範疇としてはドライバーの認知判断能力の状態分析への拡張が考えられる。

  • 瀬川 雅史
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S53
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近年の疫学研究の発展、新しい科学技術による研究の進歩によって、母乳育児が乳幼児のみならず母親、家族、社会において、非常に大きな利点を持つことが明らかにされている。これらには、健康や栄養、免疫、発達、心理、社会、経済、環境面などにおける広範な利点が含まれる。

    小児において様々な急性・慢性疾患のリスクが低下することは、多くの疫学研究によって示されている。感染症、乳幼児突然死症候群のリスク低下は有名であるが、不正咬合のリスクも大きく下がることがわかっている。また認知能力にも母乳育児はより良い影響をもたらしている。こういう母乳育児の効果は、より長く、より多く母乳を飲んだ方が、そうでない場合に比べ高くなることが示されている(母乳育児の量依存性効果)。

    近年の研究では、成人における母乳育児の効果も明らかになっており、肥満や2型糖尿病などの疾患のリスク低下が示されている。このような母乳育児の生涯にわたって続く効果は「lifelong effect」と呼ばれている。

    母乳育児は母親にとっても多くの利点があり、乳癌や卵巣癌、さらには肥満、2型糖尿病、心血管系疾患などのリスク低下が示されている。

    母乳育児の長期効果の機序については、免疫学やエピジェネティクスなどの分野から解明が進められているが、近年はマイオクロバイーム研究の進展によって、母乳が子どもにとって「最良の個別的な薬」であること明らかにされつつある。

  • AYAKO NAKA
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S54
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    Baby rooms for parents to feed and change diapers have been recently added to commercial and public facilities based on the government concept to support families with children. However, there are no specific guidelines for planning baby rooms. As a result, a number of non-user-friendly and uncomfortable baby rooms are provided in some facilities. The objective of this research is to formulate a set of design guidelines for baby rooms. 5 surveys: field surveys on baby rooms (n=44), questionnaire surveys for users (n=605), observation surveys on users' behavior (n=1,085), interview surveys for specialists (n=11), and questionnaire surveys for facilities' managers (n=42) were conducted from 2010 to 2016. Based on these surveys from the various points of view, we analyzed the data to identify the problems, and then set guidelines for designing baby rooms, including: location, size, zoning, line of movement, interior design, lighting and other considerations.

  • 上野 佳奈子
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S55
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    保育施設は,乳幼児期の子ども達の生活・学びの場であり,言語能力・心身の発育や知識獲得のための環境,午睡・食事等の生活行為を支えるための環境が求められる。しかしながら、保育園の設計・運用においては音環境保全の必要性が一般に認識されておらず、喧騒感が非常に高い状況があることが、国内外の既往研究において報告されている。本報では、近年多様化している保育施設について、音環境の面で特徴的な事例を取り上げ、現状と課題を紹介する。また、保育室内の音環境を測定した結果から、子どもにとって良好な環境はおろか、聴覚保護を目的とした労働環境の許容限度に迫る騒音環境でもある現状について述べる。このような保育室の音環境の改善に向けた取組みとして、保育室における吸音材の設置、小規模な空間の設置、児童の発声音量の抑制を狙った運用面の工夫の有効性について、音環境の測定結果や保育士に対する意識調査の結果とともに、説明する。さらに、日本建築学会におけるガイドライン策定に向けた動向を紹介する。以上より、保育室の音環境の現状と課題を整理するとともに、心身・各種能力が未熟な子どもたちの居場所として落着きや安らぎ、安心感を得られる生育環境のあり方を問いながら、改善に向かうための道筋を考えたい。

  • 小谷 博子
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S56
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    我々は日本の妊娠・出産をした女性の認知機能を、オーストラリアの国家プロジェクトとして開発された高精度の認知機能テスト「CogHealth(コグヘルス)」を使用し、より大きな規模で長期に渡った計測を行った。すると、CogHealthにおいて、妊娠・出産による認知機能の低下は特に見られなかった。むしろ出産後の女性においては、妊娠中や未妊娠の女性よりも「記憶」に関する課題(遅延再生課題と作動記憶課題)の反応速度が有意に速くなっていることがわかった。さらに妊娠中から出産後にかけて、妊娠7ヶ月から出産後20ヶ月までの時系列的な推移をみると、出産直後から「記憶」に関する課題(遅延再生課題と作動記憶課題)、視覚的な注意力の課題(選択反応課題)における反応速度が、長期に渡って速くなる傾向が示された。

    これらは出産した女性の「記憶」に関する神経伝達が通常よりスムーズに行われている可能性を強く示す結果である。出産した女性は「関連記憶を瞬時に引き出す天才」と言われており、たとえば夜間に子どもの容体が急変したときなどには、過去の膨大な知識データから瞬時に関連記憶を引き出して使うことができる。出産と同時に一気に始まるあらゆる学習は、常に素早い反応を必要とする。素早い反応をするためには、素早い神経伝達を可能にしなければならない。妊娠中に起こり始める神経細胞の樹状突起棘の発達は、ひとつにはこの素早い反応を行うために用意された仕組みである可能性もある。

  • 福田 恵子, 佐藤 大輔
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S57
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近赤外分光法(NIRS:near-infrared spectroscopy)による脳機能計測法において、姿勢変化や呼吸変化等に伴う血流変化などの脳機能に関連しない現象(以下、外乱と呼ぶ)が測定結果に影響を及ぼす場合がある。この外乱の影響を把握して低減することを目的として補正機能を持つシステムを構成し、姿勢の変化が脳機能計測に及ぼす影響と補正機能による低減効果を評価した。提案する計測法では、外乱を補正するために正三角形を基本としたプローブ配置を用いる。これは三角形の頂点間で照射受光を行い測定信号を、補正信号を重心での受光から補正信号を取得する方法である。この配置の実現のため、時分割法とアダマール符号を組み合わせた変調・復調方式を適用した2波長3チャネルのシステムを構築し、計測実験を行った。まず、前頭部にプローブを配置して姿勢変化に伴う血液量変化を測定し、姿勢変化に伴い頂点間と重心の両方で光強度変化が生じることを確認した。次に、重心信号を用いて補正を行った。補正による効果は姿勢変化の条件やプローブ位置に依存するが、提案する補正手法は、血液量変化などの外乱の影響の低減に有効である。

  • 鈴木 志歩, 鷲尾 利克, 黒田 輝, 松前 光紀
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S58
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    モンテカルロシミュレーションとは乱数を用いた確率的手法で,生体組織内の光伝播の計算に用いられており,光拡散方程式の解法の標準手法として確立されている.しかしこの手法には計算時間が長いという欠点がある.

    一方,GPGPU(GPUによる汎用計算)はGPUを画像処理以外に応用する技術であり,計算資源にGPUを用いて実行時間の短縮をする.そこで本研究はGPUを用いた生体組織における光伝播シミュレーションを開発し,実行速度を向上させることを目的とする.

    本研究においてGPUを用いたMCML(Monte Carlo for multi-layered media)を実装し,鏡面反射率,拡散反射率,吸収率,透過率を計算し,実行時間を測定した.またOregon Medical Laser CenterのMCMLを用いて,計算結果と実行時間の比較を行った.計算条件は脳組織(白質)に対して波長980nmレーザ照射時のYaroslavskyらの文献値を用いて,実行回数は10回,実行1回の計算光子数は100万個とした.実行環境にはCPU(Intel(R)Core(TM)i7-6700),GPU(GeForceGTX980Ti),メモリ32GBを用いた.

    算出結果の比較として,平均値(標準偏差)を示す.本研究にて実装したGPMCMLでは拡散反射率0.42749(0.00036),吸収率0.54659(0.00036),透過率0.00172(0.00001)になった.またOMCLの平均値は,拡散反射率0.42711,吸収率0.54679,透過率0.00173となり,算出結果の同等性が示せた.実行時間の比較よりGP-MCMLでは約129倍速く実行可能であることを報告する.

  • 坂根 史弥, 藤原 幸一, 宮島 美穂, 鈴木 陽子, 山川 俊貴, 加納 学, 前原 健寿
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S59
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
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    てんかん発作を予測できれば,難治性てんかん患者のQoLを改善できると期待される.そこで本研究では,心拍変動(HRV)解析と多変量統計的プロセス管理を用いて,焦点性発作と同様に全般性発作においても発作予測が可能であるかを調べた.11名の全般性てんかん患者より取得した17例の発作周辺期データおよび約63時間分の74例の発作間欠期データにより全般性発作予測を試みたところ,17例中13例の発作を予測でき,このときの偽陽性率は1.39回/hであった.また検証用発作間欠期のうち発作周辺期と誤検出された時間の割合は5.96%であった.本結果から全般性発作においてもHRV解析を用いて発作予測できる可能性が示唆された.本研究で用いたアルゴリズムが発作周辺期と判定した区間のHRV指標を調べたところ,全般性発作起始前に,必ずしも交感神経活動が優位とはならず,交感神経活動と副交感神経活動のバランスが変化していることが確認された.さらに,本解析結果と全般性発作の機序に関する過去の研究に基づいて,全般性発作起始前においてHRVが変化する要因について考察し,発作起始前の自律神経系活動の変化が全般性発作起始を誘発するという仮説を提案した.しかし,HRV解析では変化の生じた自律神経系の部位の特定はできないため,動物実験等のHRV解析以外の方法で,提案した仮説を検証する必要がある.

  • 猪本 咲希, 猪山 昭徳, 佐古田 三郎, 吉野 公三
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S60
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
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    パーキンソン病は,中脳ドーパミン神経の神経脱落により起こり,早期より交感神経の変性が見られる.パーキンソン病患者の半数近くは,睡眠中に無呼吸・低呼吸状態となる睡眠時無呼吸症候群を併発する.睡眠時無呼吸症候群は交感神経活動の亢進と関連していることから,睡眠時無呼吸症候群を併発するパーキンソン病患者とパーキンソン病患者のない睡眠時無呼吸症候群患者の睡眠呼吸障害の病態は異なる可能性がある.本研究では,パーキンソン病と睡眠時無呼吸症候群の併発患者群とパーキンソン病患者のない睡眠時無呼吸症候群患者群間の睡眠段階の動的遷移過程の違いを解析し,両患者群の睡眠障害病態の違いの一側面を明らかにすることを目的とする.睡眠ポリグラフ検査データより,ある特定の睡眠段階から別の睡眠段階への遷移確率である規格化相対遷移確率を計算した.次に,睡眠段階別に継続時間の確率密度分布を計算した.その結果,レム睡眠から覚醒,ノンレム1への規格化相対遷移確率において,両患者群間で統計的有意差が認められた.睡眠段階の継続時間分布が従う分布の種類については,両患者群ともに,健常者の継続時間分布の種類(覚醒,ノンレム3・4はべき乗分布,ノンレム1は指数分布,ノンレム2は伸展型指数分布)と同様の分布に従った.覚醒とノンレム1それぞれの継続時間分布において,両患者群間で統計的有意差が認められた.

  • 内田 竜生, 吉田 侑冬, 中尾 光之, 片山 統裕
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S61
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
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    [背景・目的] 精神・神経疾患の新しい診断法として,fMRIで記録した安静時の自発性脳活動の機能的結合(rFC)のネットワーク解析が研究されている.最近では,rFCネットワークの睡眠覚醒状態依存性も報告されている.本研究では,疾患の基礎研究で広く用いられているマウスの脳の電気的神経活動を多点記録し,rFCの睡眠・覚醒状態依存性を解析した.[方法] C57BL/6マウス(N=3)にイソフルラン麻酔下で手術を行い,左右の運動野と視覚野にビス電極を,頚部に筋電図電極を設置した.電極の上には頭部固定用プレートを接着した.回復後(4日以上),頭部固定状態で自発性脳波を多点同時記録した.脳波を各帯域に分割し,ヒルベルト変換を用いて振幅時系列を求めた.この信号の相関解析を行い.覚醒,レム,およびノンレム睡眠状態依存性を調査した.[結果] Low-gamma帯域(30~80 Hz)においては,同側および対側の運動野-視覚野間の相関(FC)が,覚醒時に比べノンレムおよびレム睡眠時に弱くなる傾向が観察された(N=3).他の周波数帯域では個体をまたがる一貫した状態依存性は見られなかった.[考察] 睡眠時におけるrFCの減弱は,マウスにおいても脳領域間の相互作用が覚醒・睡眠状態に依存して変化していることを示唆している.今後は,fMRI信号との対応付けがより容易な,内因性光信号イメージング信号と局所脳波の関連を調べるとともに,ヒトfMRIの結果との比較を行っていく.

  • 高瀬 崚研, ボーセン ジェレッド, 栗城 眞也, 横澤 宏一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S62
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    【背景】記憶対象の呈示直後に認知負荷を低減する機構を反映して後頭領域のθ波帯域脳律動(以下θ波)が増大すると報告されている。そこで、記憶過程におけるθ波の役割を明らかにすることを目的とし、シーケンシャルな記憶課題実行中のθ波振幅の時間変化と記憶成績の関連を調べた。【方法】健常被験者30名(22.79±1.82歳)を対象とした。順番に呈示される7つの矢印の方向(上下左右)を覚えるシーケンシャルな記憶課題を実施し、矢印の呈示順序(1~7)ごとの正答率を算出した。また、課題実行中の脳磁場を計測し、θ波帯域(5-7 Hz)脳律動振幅の時間変化を抽出した。本研究では、以上の実験を記憶対象(矢印)の呈示間隔が250 msのfast条件と600 msのslow条件の2条件で実施し、その結果を比較した。【結果・考察】記憶成績はslow条件よりfast条件のほうが低く、特に記銘の中盤以降(呈示順序3以降)で有意差があった。一方、θ波振幅はslow条件では7つの矢印呈示の直後に各々ピークが現れたが、fast条件では2番目以降はピークが現れなかった。θ波が認知負荷の低減機構を反映しているとすれば、fast条件では呈示間隔が短すぎるために2番目呈示以降で認知負荷の低減機構が減弱し、その結果記憶成績が低下したと解釈できる。つまり、θ波振幅の増大(回復)には一定の時間が必要であり、その回復時間が記憶対象の呈示間隔と記憶成績の関連を説明するように思われる。

  • 永野 海斗, 角野 彩, 松田 康太, 小濱 剛
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S63
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近年,音声認識技術やAIの急速な発展に伴い,医療機器分野にも音声操作インターフェースの搭載が拡がりつつある.音声操作は,旧来のマニュアル操作に比較して,ハンズフリーでの操作が可能であることから,簡便で安全性が高いと考えられているが,音声操作を行う際は,指示内容を一旦言語情報に変換する必要があり,また操作の完遂に要する時間もスイッチ操作よりも長くなることが多く,必ずしも認知負荷が軽減されるわけではない.例えば,自動車運転中の音声操作がもたらす認知負荷については,走行中の実車内における運転者の生体信号の計測により評価がなされており,音声操作の問題点の指摘がなされている.しかしながら,実車環境下ではトライアル毎の変化が大きく,再現性の確保が困難であるために定量化も困難となる.そこで本研究では,発話による認知負荷を定量的に評価することを目的として,動的ランダムドット操舵課題を遂行中に言語流暢性課題を課し,発話による操舵精度への影響を定量化して評価した.その結果,言語流暢課題を遂行中の操舵誤差量は,非課題下や,一時的に視線を逸らした場合よりも大きくなることが示された.このことから,発話により生じる操作精度への影響は,視対象への注意の集中が阻害されることに起因する可能性が示され,音声操作デバイスの導入は,利用シーンに応じて検討する必要があることが示唆された.

  • 大桑 章良, 船瀬 新王, 中谷 裕教, 内匠 逸
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S64
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    ヒトにおける直観的な知覚のしくみは未解明である部分が多い.そこで我々は多項式の因数分解を用いて直観的な知覚時における脳活動の解明を目指している.先行研究で将棋の熟練者において詰将棋の局面を知覚した際に見られる脳波の位相同期と直観的な知覚のしくみの関連性を論じている.本稿では直観的な思考を用いた多項式の知覚時における脳波の位相同期と熟練度から熟練者にのみ見られる直観的な知覚のしくみについて知見を得る.本研究では実験課題として被験者に多項式の因数分解を行わせる.ディスプレイに因数分解の多項式を表示する.提示された多項式の因数分解の解が分かった際に被験者はボタン押しを行う.1つの多項式の提示を1試行とし,計180試行を行わせる.本研究では実験課題を行っている最中の脳波を計測する.多項式の因数分解に要した回答時間より,直観的な思考と計算を行う思考を用いる多項式に分類を行う.計測した脳波より各試行における多項式の提示後からボタン押しまでの脳波の位相同期に着目する.また,脳波実験とは別途に因数分解を解くペーパーテストを行い,被験者の因数分解の熟練度を測る.この熟練度より被験者を熟練者と非熟練者の2群に分ける.本研究の結果,直観的な思考を用いて解答した多項式の知覚時において計測した脳波の位相同期を確認した.また,脳波の位相同期と多項式の因数分解における熟練度に関連性を確認した.

  • 野田 拓司, 船瀬 新王, 石黒 隆, 内匠 逸
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S65
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近年,精神疲労による精神疾患の患者が増加している.我々は,生体信号を用いて精神疲労の定量化を行うことを目指している.本稿では被験者の疲労課題中の脳波および脈波を計測し,精神疲労が蓄積することによる脳波,脈波の変動に着目する.また,被験者自身による精神疲労の評価としてRoken Arousal Scale(RAS)を用いる.本研究では,疲労課題として文の音読を被験者に行わせる.実験課題は50文の文章の音読と1分間の休憩を1試行とし,計10試行を行う.また,最初の課題の前に1分間の休憩を取得させる.RASは実験開始前,5試行目の休憩終了後,実験終了後の3回で行わせる.本研究では実験課題を行っている最中において脳波および脈波を計測する.計測した脳波のうち1分間の休憩時のデータに対し,フーリエ変換を行う.フーリエ変換より得られる周波数のうち α (8-12[Hz]),β (13-30[Hz]),γ (31-70[Hz])の平均パワーを求める.また,算出したパワーより各周波数帯の含有率を求める.計測した脈波に対しても同様に1分間の休憩時のデータに対してフーリエ変換を行いLF(0.05-0.15[Hz]),HF(0.15-0.50[Hz])の平均パワーを求める.結果として,前頭葉における γ 周波数帯のパワーが実験進行に伴い増加することを確認した.また,LF帯のパワーが実験進行に伴い減少することを確認した.

  • 青山 拓真, 船瀬 新王, 内匠 逸
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S66
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    我々は同化・対比を引き起こすデルブーフ錯視に着目し,同化・対比の効果発現時における脳機能の解明を目指している.先行研究において,デルブーフ錯視の”大きい・小さい”による判断結果と頭頂葉で観測されたP200と呼ばれる脳波に対応があると示唆されている.しかし,“大きい・小さい”の判断の前に“同じ・違う”の判断がヒトの脳内処理で行われていることが考えられる.そこで本稿では,”同じ・同じでない”による判断結果と頭頂葉にて観測される脳波変動に着目する.本実験には2種類の視覚刺激を用いる.1つ目は同心円の視覚刺激(同心円刺激)である.2つ目は,同心円刺激の内円の直径と同程度の直径となる円形の視覚刺激(比較円刺激)である.同心円刺激は外円の直径の異なる10種類,比較円刺激は直径の異なる3種類を用いる.以下に実験課題の1試行の流れを示す.1)ディスプレイの中央に同心円刺激を1[sec]間提示する. 2)同心円から左側に中心点間距離で視角7°離れた位置に比較円刺激を0.5[sec]提示する.3)提示刺激を画面から消し,ブランク画面を1[sec]提示する.被験者に比較円と内円が同じ大きさであると判断した場合はキーを押させる.キー押しは比較円刺激提示後1.5[sec]以内に行う.本実験課題を行っている際の脳波を取得し解析を行った.実験の結果より,同心円刺激呈示後0.3[sec]付近において観測される陽性の最大電位と判断結果との間に相関を確認した.

  • 塚原 彰彦, 山田 雅之, 内川 義則
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S67
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    本研究は飲み物画像を呈示した際の脳波の事象関連電位(ERP)計測を行い,「飲みたい」と発話するイメージ(スピーチイメージ)の有無によるERPに関連した脳波成分についての検討を目的とする.実験は,被験者に固視点画像呈示(1秒間),飲み物画像呈示(2.5秒間),「飲みたい」意思をボタンで確認(1.5秒間),固視点画像呈示(1秒間),スピーチイメージ期間(2秒間.「飲みたい」場合にはスピーチイメージを行い,そうでなければ安静)の計8秒間を1試行として100回試行した際の脳波の計測を行った.なお,脳波計測は国際10-20法電極配置に基づき,BPF(0.08-100Hz)とノッチフィルタ(50Hz)を介し,シールドルーム内で行った(被験者10名).脳波解析は,スピーチイメージ期間の2秒間とその前1秒間の計3秒間を1エポックとして,スピーチイメージの有無で各35回分を抽出して加算平均し,時間周波数解析を行った.スピーチイメージ期間の4-30Hz帯域における各時間周波数分布から,スピーチイメージの有無による事象関連同期(ERS)と事象関連脱同期をt検定により検討した.その結果,スピーチイメージ有りでは500msから1500ms後に,左半球のα波帯域でERSによる特徴が観測され,左半球と後頭部の電極に有意差(p<0.05)が確認された.これらより,ERPを用いてスピーチイメージの有無の判別を行う際のERP検出用電極位置選択への有用な情報を与えることが示唆された.

  • 田中 慶太, 高橋 悠太, 栗城 眞也, 原島 恒夫, 小渕 千絵, 岡本 秀彦
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S68
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    左右の耳から同時に異なる言語音を呈示すると,一般的にヒトは,右耳優位性を示す.これは,右耳から言語音を,より多く正確に報告することを示す.しかし,これまでに右耳優位と聴覚処理の関係は明確になっていない.そこで左右の耳に同時に言語音を呈示する両耳分離聴刺激時において,聴覚情報処理を検討するために,聴性定常応答(ASSR)による周波数タグ付け手法を使用した.ASSRは,一定頻度で反復するクリック音や一定周波数により振幅変調を受けた音などのように,繰り返される刺激により誘発され,変調周波数に対応した周波数成分の定常的反応が計測される.したがって,このASSRの特性を利用して,左右耳から入力される呈示音に異なる変調周波数を用いることで,どちらの耳からの入力された呈示音の反応であるかを検討可能である.被験者は,健常成人男性14名であり,48種類の日本の2音節の音から選択された一対の刺激音に対して,左右の耳でそれぞれ35Hzと45Hzにて振幅変調した.その結果,右耳からの言語に対する正解率は,左耳よりも高かった.さらに右耳入力のASSR振幅は,左耳入力のASSRの振幅よりも有意に大きかった(P<0.05).これら結果は,ASSRによる周波数タグ付けによる方法が,両耳分離聴時における聴覚情報処理の検討するための有用な方法であることを示唆する.

  • 林 拓世, 畑辺 珠里, 外池 光雄
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S69
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    携帯端末は利便性が高いものの,睡眠障害や依存症などの精神面への影響が認められている.本研究では,携帯端末の操作による情報ストレス課題時の脳機能影響性を評価した.被験者は健常成人9名(平均年齢21.7±0.5歳)を対象とし,心理検査として日本語版GHQ精神健康調査票と日本語版気分プロフィール検査を用いた.実験は端末画面上に表示された標的を制限時間中にタッチパネル操作によって選択し続ける内容とし,標的の大きさと動作の有無により低,中,高難易度の3種類を用意した.生体信号評価には脳波,心電図,脈波を用い,サンプリング周波数500Hzで測定を行った.脳波解析には事象関連同期 (Event-related synchronization: ERS)と事象関連脱同期 (Event-related desychronization: ERD)を用い,θ波帯域(4-8Hz)とα波帯域(8-14Hz)を対象に評価した.結果,θ波帯域において,前頭領域は後頭領域と比較して,刺激提示から200-400 msで脳機能活動性が有意に高値を示し,課題の難易度には有意差は認められなかった.以上より,情報の複雑さに関わらず,健常者では携帯端末上に表示される情報を正確に把握するために前頭部の認知処理が働くと示唆された.

  • 福島 裕介, 船瀬 新王, 内匠 逸
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S70
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    ヒトは運動を行う際に運動の意思決定を行っている.しかし,運動の意思決定がヒトの脳内でどのように行われているかは未解明である部分が多い.我々は,ヒトにおける運動の意思決定を脳波に着目して解明を行うことを目標とする.本稿では衝動性眼球運動に着目する.実験課題としてMemory-Guided Saccade Task (MGST)を用いる.MGSTは運動あり課題と運動なし課題の二種類を用意する.ディスプレイ上に3つの十字状の固視点を表示する. MGSTの運動あり課題における1試行の流れを示す.ディスプレイ中央の固視点上に左右いずれかの矢印刺激(Direction-Cue)を0.2[sec]表示する.Direction-Cue消失2.5~3.0[sec]後に運動開始指示(Go-Cue)を呈示する.運動あり課題において,Go-Cue呈示後,被験者にDirection-Cueの示した方向の固視点を注視させる.Go-Cue呈示1.0[sec]後,Return-Cueを呈示する.Return-Cue呈示後,被験者に中央の固視点を注視させる.運動なし課題では被験者に中央の固視点を注視し続けさせる.1課題はDirection-Cueを左右それぞれ無作為に50回ずつ計100回呈示する.本稿では観測された脳波に対してGo-Cue呈示時と眼球運動開始時をon-setとし加算平均を行う.結果として,眼球運動開始前に運動あり課題と運動なし課題において異なる特徴を確認した.また,運動あり課題において観測された陰性電位の大きさとGo-Cue呈示から眼球運動開始までの潜時に負の相関を確認した.

  • 富樫 亮太, 宍戸 道明
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S71
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    近年,脳波を用いて非接触で外部機器操作を可能にするBrain-Computer Interface (BCI) の研究開発が盛んに行われている.このシステムは,身体機能が限定された患者などの代替コミュニケーションツールとして期待されている.BCIは研究の領域を拡大しているが,高コストや複雑な制御動作を要することによる不安定さ等の問題がある.こうした課題がある一方で,応答性や随意性等の検討は不十分である現状にある.そこで本研究では,被験者にモータの制御課題を実施し,その課題成功率よりBCIシステムの随意性を評価した.また,脳波センサから取得されるattentionをモータの駆動閾値として用い,40,50,60,70を設定した.それぞれの閾値において課題成功率を比較検討したところ,閾値が60の場合,平均50.8%かつ誤動作が少ない結果が得られた.

  • HIYAMA TAKESHI
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S72-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    Nax is a sodium concentration ([Na+])-sensitive, but not a voltage-sensitive Na channel involved in body-fluid homeostasis. Nax-knockout mice do not stop ingesting salt even when dehydrated and transiently develop hypernatremia. In the brain, Nax is preferentially expressed in the glial cells of sensory circumventricular organs (sCVOs), midline structures in which the blood-brain barrier is missing. Among the sCVOs, subfornical organ (SFO) is the primary site of [Na+] sensing for the control of salt-intake behaviors. When [Na+] in plasma and cerebrospinal fluids increase by dehydration, the activation of Nax stimulates glial cells to release lactate, which functions as a gliotransmitter that activates GABAergic inhibitory neurons in the SFO. The SFO neurons encoding salt appetite are angiotensin II receptor-positive excitatory neurons projecting to the ventral part of the bed nucleus of the stria terminalis. The salt appetite-driving neurons were suppressed under dehydrated conditions through activation of GABAergic neurons by Nax signals.

  • Kimiko Yamamoto, Joji Ando
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S72-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    Vascular endothelial cells sense shear stress generated by blood flow and transduce this into ATP release and purinoceptor-mediated Ca2+ signaling within the cells, but the mechanism by which the shear stress evokes ATP release remains unclear. Here we demonstrate that the cellular mitochondria play a critical role in this process. Real-time imaging using a fluorescence resonance energy transfer-based ATP biosensor revealed marked augmentation of ATP generation in the mitochondria immediately after the endothelial cells were exposed to flow. This was reversible and dependent on the shear stress intensity. Inhibitors of the mitochondrial electron-transport chain and ATP synthase abolished the shear stress-induced ATP generation, as well as ATP release and the influx of extracellular Ca2+ into the cells. These results suggest that endothelial mitochondria have a role in mechanosensing shear stress and transducing it into ATP generation, followed by ATP release and the activation of Ca2+ signaling within the cells.

  • 神谷 厚範
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S73
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    自律神経系は循環系の調節に深く関与しています。たとえば、頚動脈・大動脈の局所に分布する圧反射求心性神経は、機械的刺激を感知し、脳を介して全身の自律神経ならびに循環器系臓器、体血圧を調節する生体恒常性の要です。その神経終末は、その局所の動脈壁の組織内部に存在すると考えらえていますが、それが実際に血圧を感知して応答する様子は明らかではありません。本研究では、圧反射求心性神経メカノバイオロジー機構の解明を目指して、閉ループ型の機械的刺激負荷システムを開発し、さらに、ラット動脈局所に機械的刺激を定量的に負荷した際の組織内部の求心性神経Ca応答を生動物2光子イメージングで可視化いたしました。これによって、生体が自身の血圧を測定する実像が、はじめて明らかとなりました。さらに、将来の高血圧や心不全の神経治療の開発を目指した神経操作医療の試作として、圧反射神経を操作するための基盤技術の試作に取り組み、ウィルスベクター用コンストラクトの試作およびウィルスベクターの開発と個体神経への遺伝子導入方法の検討を行いました。本発表では、これらの研究や、関連する研究の一部を発表する予定です。(平成27年度AMED-PRIME メカノバイオロジー)

  • 片野坂 友紀
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S74
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    生体内の至るところで生じるメカニカルストレスは、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報である。心臓は、心拍によって常に動いており、血行動態の変化に応じて、『動けば肥大し、動かなければ痩せる』というユニークな特性を持つ。しかしながら、このしくみを支える心筋細胞のメカニカルストレス感知機構は未だ不明な点が多い。心臓は、心筋細胞同士が形態的・機能的に連結した機能的合胞体である。隣り合う心筋細胞同士は、介在板と呼ばれる特殊構造で連結されており、この部位は、心拍に伴って心筋細胞が唯一伸展される部位となる。我々は、介在板に、機械刺激感受性チャネルとして働くTRPV2が局在することを明らかにしている。成体マウスの心臓から、薬物誘導によりTRPV2を発現抑制すると、介在板構造が崩壊して、重篤な心不全が引き起こされ早死する。このことは、生理条件下での心臓の機能や形の維持には、TRPV2からのメカニカルシグナルが必須であることを示している。また、心筋細胞の分化過程でTRPV2を発現抑制すると、介在板構造が未発達となり、周囲の細胞と同調拍動する細胞ができない。生後2週よりTRPV2を発現抑制した心臓は、成体になっても一定の収縮力を獲得できずに、血行動態負荷に対して適応的肥大応答ができずに重篤な心不全症状を示す。これらのことから、心筋細胞のTRPV2は、心臓の分化・成熟および血行動態への適応的応答に必須であると言える。

  • 松本 健郎
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S75
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    動脈の機能は従来,内皮細胞の流れに対する応答,即ちFlow-mediated dilation (FMD) を用いて評価されてきた.我々は,平滑筋機能を評価するために,Pressure-mediated contraction (PMC) 法を考案した.本法では上腕に装着した気密性の容器に陰圧を加えた際の上腕動脈の筋原性収縮を評価することで平滑筋機能を評価する.PMC値は年齢と有意な負の相関があり,内皮細胞のみならず平滑筋機能も年齢と共に低下することが示された.次に我々は,平滑筋収縮能だけでなく弛緩能も計測するためにチョッパ法を考案した.本法では上腕の気密容器に心電図に同期して陽圧または陰圧を加えた際の上腕動脈径の変化から平滑筋収縮能と弛緩能を計測する方法である.平滑筋収縮率は弛緩率の2倍ほどあること,このバランスは精神的ストレスにより変化することなどが明らかとなった.本法とFMD法を組み合わせることで,血管機能検査法の信頼性をより高めることが期待できる.

  • 林原 史明, 橋爪 絢子, 榛葉 俊一, 松井 武巳
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S76
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    2015年のうつ病罹患者数は全世界人口の4%以上にのぼるが,その半数以下しか有効な治療を受けていないとされる.うつ病の診断は,世界保健機構や米国精神医学会の診断基準(ICD,DSM)に基づいて問診により行われることが多いが,診断結果は医師の経験や患者の自覚症状に依存する.より正確な診断のためには,うつ病の客観的な診断法の確立が必要とされている.本研究グループでは,精神的負荷課題を課した際の心拍数変動指標(HRV: Heart Rate Variability)や心拍数の変化パターンが,健常者とうつ病患者で異なることを利用して,うつ傾向の有無を客観的に判定するための研究を行っている.本研究では,精神的負荷課題の代わりに,対象者に負担の少ないリラックスを促す動画を視聴してもらい,その際の反応を用いたうつ傾向の判別アルゴリズムを開発し,判別精度を検証した.精神科に通院しているうつ病患者3名(42±8歳)と健常者18名(47±20歳)を対象に,1分間の動画視聴の前後に1分間の安静を設け,その間の脈波を計測した.脈波から算出したHRVと心拍数を用いて線形判別分析を行った結果,100%の感度と特異度で,うつ病患者と健常者の判別ができることが示された.本アルゴリズムを使用することで,リラックスを促す動画視聴時およびその前後に3分間のHRV計測を行うだけで,客観的なうつ病のスクリーニングが高精度で行えるシステムの構築が可能となる.

  • 吉村 和真, 濱 聖司, 曽 智, 平野 陽豊, 萩山 直紀, 柳川 亜紀子, 下永 皓司, 栗栖 薫, 辻 敏夫
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S77
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    【目的】脳卒中患者が気分障害や認知機能低下を呈すると生活の質が著しく低下するが,それらの機序は解明されていない.本研究では脳卒中患者を対象とし,気分障害はDepression, Apathy, Anxietyに注目し,認知・身体機能等の各種検査から得られる指標との関連性について機械学習を用いて解析を行う.【方法】広島大学・医の倫理委員会承認のもと,事前にインフォームド・コンセントが得られた脳卒中患者207名(64.4±10.2歳)を対象とし,機能的自立度評価法,認知機能検査(注意機能,記銘力等),自覚ストレス検査を課した.また,Hospital Anxiety and Depression Scaleとやる気スコアから気分障害の有無を判定した.気分障害の有無を教師信号,機能評価検査の指標得点を入力として,確率ニューラルネットワークの一つであるLog-Linearized Gaussian Mixture Network (LLGMN)を用いてleave-one-subject-out交差検証を行い,気分障害の有無の識別精度を評価した.また,偏KL情報量を用いた入力次元削減により識別精度向上と識別に重要な指標の特定を試みた.【結果】Depressionは82.8%,Apathyは69.8%,Anxietyは86.2%の精度で気分障害の有無が識別できた.【結論】LLGMNを用いた機械学習により,Depression, Apathy, Anxietyという各種の気分障害に関連する重要な指標を特定できる可能性がある.

  • 茅野 功, 宮崎 仁, 後藤 真己, 望月 精一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S78
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    ぱちんこ遊技は、参加人口は940 万人、市場規模約21 兆6260 億円(2016 年度)の人気レジャー産業である一方、ギャンブル要素が高く遊技を原因として病的賭博に陥る可能性があることが社会問題となっている。病的賭博は投資金額の大小によらず心理的興奮が発症のトリガーとなると推察されるが、ぱちんこ遊技者の興奮の程度を定量的に評価されたことはい。

    そこで本研究では、回胴式遊技機の遊技中の心拍数の変化からその興奮の程度を定量的に評価した。模擬遊技施設において、成人15 名を対象とし無線型心電計を用いて約20分間の遊技中の心電位を常時それぞれ計測した。

    その結果、被験者はボーナス入賞後約30秒間、他の遊技期間と比べ心拍数が有意に上昇し(p < 0.05)、ボーナスの入賞がない場合はすべての遊技期間で有意な心拍の変動は見られなかった。また、2 回ボーナスが入賞した場合は、初回のボーナス入賞時と比較して有意に心拍数の上昇がみられた(p < 0.05)。さらに、消音により遊技した場合においても、ボーナス入賞による心拍数上昇率は、有音時と比較して有意な差は見られなかった。

    以上より、回胴式遊技機の遊技者はボーナスを契機として興奮することが示唆され、音の有無による興奮の増大作用は見られず、連続したボーナス入賞は興奮を増大させることが示唆された。

  • 鈴木 真, 河村 剛光, 青木 和浩
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S79
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    ディスプレイ技術の進歩により、壁や天井、床など身の回りのどこにでも、好きなように映像を表示可能な環境が整いつつある。現状では公共の場所や商業施設などでガイダンスや広告などに利用されているが、将来的には一般家庭内にも普及すると予想される。そこで本研究では、このような映像表示技術、特に壁面ディスプレイが一般に普及した時に、医療福祉分野において健康づくりのための運動支援プログラムに利用できるのではないかと考えた。プレイヤー身体の動作を検出しフィードバックすることで、楽しみながら運動できるようにする考えは従来からあり、ウェアラブルデバイスやスマートフォン、安価なヘッドマウントディスプレイの普及などにより様々な試みがなされているが、身体と同じサイズ、位置関係で表示できる壁面ディスプレイは、これらとはまた違ったユーザエクスペリエンスを提供することができる。具体的には壁面ディスプレイに表示された仮想のオブジェクトと、プレイヤーが直にインタラクションできるものを目指している。本報では、プレイヤー身体動作の検出にKinectを用い、超短焦点プロジェクタで構築した壁面ディスプレイと組み合わせ、左右への移動および上肢の運動を行わせるプログラムを開発し、加速度と筋電図の計測結果から壁面ディスプレイ利用による効果について報告する。

  • 上甲 志歩, 大須賀 美恵子, 多田 雄真, 石川 淳
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S80
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    造血幹細胞移植患者は感染予防のため無菌室での長期に渡る管理を余儀なくされ,心理的・身体的に大きなストレスがかかる.そこで,精神ケア・早期リハビリ支援を目的とするシステム開発を計画していた.はじめに,ユーザ視点の開発をめざし患者にインタビューを行った.その結果,移植直後は抗がん剤治療で苦しく,気力がなく,リハビリ支援のニーズがないこと,一方,病棟移動後は歩けるのは病棟の廊下のみで,リハビリに単調さを感じ楽しみや変化を求めていることがわかった.そこで,無菌室の患者には精神ケア,無菌室をでた患者にはリハビリ支援と2段階に分け,まずは前者の開発を行うことにした.インタビューで,患者の生活歴や嗜好,心身の状態により,求められるコンテンツが異なることもわかった.そこで様々なニーズに対応できるインタラクティブ動画を採用した.壁や天井へのプロジェクションマッピングかHead Mounted Displayで提示し,本人のスマートホンで操作して見渡しやズームイン・アウトできるようにした.海や草原,外国の街並みなど予め用意した360°動画と,定点カメラや家族の持参している360°カメラで撮影したリアルタイム動画の2種を提供する.後者は外の世界に接し,家族と体験を共有できるようにすることを目的としている.体験してもらったほとんどの医療従事者から良い評価を得たので,今後,患者に適用する予定である

  • 山岸 健人, 桐野 泉, 高橋 功, 天野 日出, 武岡 真司, 守本 祐司, 藤枝 俊宣
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S81
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    生体に光増感剤を投与しながら腫瘍に対し低強度の光を長時間かけて照射するメトロノミック光線力学療法(mPDT)は、その低侵襲性から次世代型がん治療として期待されている。しかし、標的腫瘍への局部的かつ長期的な光照射を実現するためには、光源を体内に安定固定する技術が不可欠である。そこで本研究では、生体組織表面にシールのように貼り付けるだけで固定できる発光デバイスを開発し、mPDTへ応用することを目的とした。生体模倣型接着分子であるポリドーパミンを表面修飾したシリコーンゴム製ナノ薄膜(膜厚約600 nm)にて無線発光式LEDチップ(赤・緑、7.0 × 11.0 × 0.8 mm、<500 μW/cm2)を封止することで組織接着性発光デバイスを作製した。次に、背中の皮内に腫瘍細胞を移植した担腫瘍モデルマウスの皮下に作製したデバイスを貼付することで腫瘍直下に光源(LED発光部)を固定した。そして、光増感剤(フォトフリン)をマウスに静注投与(8 mg/kg)後、ケージ下に設置した無線給電用アンテナを用いて埋植したデバイスを10日間連続的に点灯させることでmPDTを実施した。その結果、埋植したデバイスにて局所的に光照射した腫瘍が顕著に縮退し、緑光源の場合は腫瘍10個中6個、赤光源の場合は10個中1個が根治した。本研究により、完全埋め込み型という新しい概念のPDTによる抗腫瘍効果が実証されたことで、深部がんには適用困難と考えられていたPDTの適用範囲の拡大が期待される。

  • 柳沼 ひかる, 千葉 慎二, 鈴木 孝司, 鷲尾 利克, 矢野 智之, 荒船 龍彦
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S82
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    乳がん治療である乳腺切除術後に行われる乳房再建術において再建乳房形状の整容性評価は,未だ医師による主観的評価が主流であるため,術後形状の整容性低下が課題である.

    我々は,乳腺切除術前と乳房再建術中の乳房形状をKinect V2(Microsoft社)を用い3次元情報を計測し,乳腺切除術前と乳房再建術中における局所の体積差を定量的に導出する乳房再建術支援システムを開発しており,本システムにより導出した形状差情報を患者皮膚表在へプロジェクションマッピングする機能実装と評価について既報にて報告した.

    しかし通常の手術現場に加え,Kinectや3Dデータ処理PC,プロジェクタなど機材が増え,それに伴うオペレータの増加など,手術現場でスムーズに運用するには課題があった.

    そこで本研究の目的は,術中の3次元計測から体積差計算,プロジェクションマッピングまでの時間を短縮すること,そして手術室における試行実験において運用可能性の評価を行うこと,とする.

    患者を模擬したマネキンを手術台に仰臥位45度で設置し,Kinect V2を用いて乳房形状の3次元情報を計測した.計測した3次元情報から乳腺切除によって生じる体積差を再現し,プロジェクタから差分情報を投影し,従来手法との投影位置誤差と運用時間について比較を行ったので報告する.

  • 柳澤 亮太, 孫 越, マルリン ラマダンバイディラ, アルアミン サイクルイマン, 黄 晶石, 武居 昌宏
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S83
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    リンパ浮腫とは、婦人がん手術でリンパ節郭清した患者に起こる病気である.手術によってリンパ管中の流れが悪くなることにより,細胞間質液にアルブミンのよどみが生じ、細胞間質液が高タンパク濃度化し,血漿中水分が細胞間質液へ移動することで発症する.この病気にはステージ0からステージIIIまでの臨床病期分類があり,リンパ浮腫治療には、ステージ0~1での早期発見が重要であるものの、現状として、そのような装置は開発されていない。そこで,本研究では測定箇所の導電率分布を求めるEIT法を用いた,リンパ浮腫の原因であるアルブミンのよどみの検出を最終目標とする.その前段階として,今回は製作したEIT測定装置を用いて2つの実験を行った.具体的には,リンパ浮腫早期状態を模擬する生体ファントムと、通常浮腫状態を模擬した生体組織を、それぞれEIT法を用いて導電率分布の画像を生成し,開発したEIT測定装置のリンパ浮腫早期状態においての測定効果の評価を行った.結果,生体ファントムにおいては、局所に注入したアルブミン溶液が画像化により検出でき,生体組織においては,生成された断面画像により、正常な状態と、浮腫の模擬状態の測定を行った結果、画像上に変化が見られた。この結果により,開発した装置のリンパ浮腫早期検出における有効性が見られた。

  • 熊本 康昭, 原田 義規, 田中 秀央, 高松 哲郎
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S84
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    腫瘍の摘出手術における神経機能温存は、患者の術後QOL(生活の質)の維持に必須の要件である。しかし、術後合併症として神経機能障害を来す患者は少なくなく、その回避は外科手術における重大な課題となっている。例えば前立腺の摘出術においては臓器の周囲に豊富に存在する神経線維束が傷害されると、術後に排尿障害や性機能障害を引き起こす頻度が高い。末梢神経の検知は術者の目視により行われているため、直径1ミリ以下の細い神経を温存することは容易ではなく、より確実な神経温存法が待ち望まれている。本講演では、正確かつ迅速に無標識の末梢神経をイメージングし他の組織と識別できるシステムを発表する。試料上の異なる32箇所のラマンスペクトルの同時測定と明視野画像観察とを行える光学機器を開発した。これによりわずか5秒で、神経及びその他の組織からなる試料から32のスペクトルを同時計測できた。測定したスペクトルを回帰判別分析し、その結果を明視野画像と統合解析した結果、末梢神経の画像のみを選択的に取得できた。ラットより摘出した直径1ミリ以下の末梢神経(n=158)と結合組織(n=120)とを骨格筋組織上に配置した試料を用いて測定及び解析を行った結果、末梢神経画像取得の正確度は97.5%であった。本システムは神経温存手術の基盤技術になると期待される。

  • 神山 英昇, 北間 正崇, 清水 久恵, 山下 政司, 小島 洋一郎, 奥山 豪, 菊池 明泰, 清水 孝一
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S85
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    人工透析療法では,治療に必要な高血流量を確保するため動,静脈を吻合した内シャントが一般的に不可欠である.しかし,この血管部は種々のストレスにより狭窄や閉塞を生じやすく,日常的な管理が重要となる.これに対し我々は,近赤外光を用いた透視法により非侵襲で定量的に内シャントの内径を観測可能な内シャント光イメージングの実現に向け検討を行ってきた.これが実現すると,血管内径の継続的計測と経過観察による狭窄・閉塞の早期発見や長期管理につながる.これまでの検討では,生体体模擬試料を用いた実験を通して提案手法の有用性を証明してきた.しかしこれまでの検討は,血管内径が一様な場合のみのものであった.内シャントの狭窄は局所的に発生する場合が多く,状態も患者毎に様々であるため,血管内径は通常一様ではない.そこで本研究では,臨床で想定される狭窄病変を模擬した生体模擬試料を作製し,血管内径の局所的狭窄に対する提案手法の有効性を,実験を通し検証した.その結果,臨床上重要となるシャントPTA(経皮的血管形成術)適応基準の内径2.5mm付近の計測(狭窄径2.0 mm,狭窄の長さ3.0mmの試料)において,誤差20%以内の精度で内径計測が可能であった.これは,臨床利用において十分有用な精度であり,内シャント光イメージングによる血管狭窄部描出の可能性が示された.

  • Shiyang Liang
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S86-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    The significance of quantitative evaluation of a blood lipid level has been recognized recently. The lipid level will increase the blood turbidity, and eventually damages our health. However, blood sampling is required in clinical examination which makes the daily care at home difficult. In this research, we derived original equation. We have developed a noninvasive optical technique to measure the reduced scattering coefficient μs' that is closely related to the serum blood lipid level. To examine the applicability of this technique to human subjects, we construct an original device using LED's and PD's. The total size of the applicator part is about 15×40 mm with 5 mm thickness. In experiments, the validity of the proposed technique was examined. We could measure the corresponding change in μs' with the different concentrations of instralipid solutions. This result suggested the applicability of the technique to the evaluation of the blood lipid level.

  • Zejing Han, Koichi Shimizu
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S86-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    In transillumination imaging with near-infrared light, we can visualize the blood vessels of a human body. This technique has been applied to a human hand and made the vein authentication possible. However, it has been difficult to apply this technique to other thicker parts of the body. If we can visualize the vascularization and the oxygenation of a foot, it can provide significant information for the diagnosis and the therapy of diabetic patients. Thus, we pursued the possibility of this technique, and developed the system for functional imaging of a human foot. In the experiments of a pilot study, we confirmed the feasibility to visualize the blood vessels around the anterior part of an adult foot. In addition, we also confirmed the possibility of the functional imaging in a hand using a hyperspectral camera. It can provide us the distribution of blood volume and blood oxygenation in transillumination images.

  • 茂谷 裕貴, 高江 正道, 鈴木 直, 塚田 孝輔
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S87
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    生殖年齢にある癌患者の妊孕性を温存する為,事前に卵巣組織を凍結・移植する治療法が存在する.卵巣組織内において卵胞は不均一に分布する為,卵巣予備能を非侵襲的に定量する必要があるが,その手法は確立されていない.本研究ではOptical Coherence Tomography (OCT)を用いて卵巣組織内卵胞を可視化し,取得画像から組織内卵胞密度を算出する画像処理アルゴリズムを考案した.

    生後3日,10日,21日,30週,50週のICRマウスから卵巣組織を採取し,Full-Field OCT装置 (Light-CT Scanner, LLTech) を用いて画像を取得する一方,比較の為に同組織を用いてHematoxylin Eosin (HE)染色を行った.OCT画像は視野800 ×800 μmを1024 ×1024 pixelで撮像し,深さ方向5 μmまたは10 μmで20スライス取得した.Lee-Sigmaフィルタ及びメディアンフィルタを用いてノイズ除去後二値化し,卵胞の陰影サイズ及び真円度に閾値を設け,卵胞を検出した.混同行列を作成し,検出率と本法を用いて検出された卵胞数と医師によって検出された卵胞数の比(一致率)を算出した.

    マウスの週齢に依存した原始卵胞,1次卵胞,2次卵胞,胞状卵胞をOCT画像にて可視化し,HE染色と比較して卵胞の陰影がそれぞれ一致することを確認した.自動密度計測によりOCT画像から卵胞を特定した結果,検出率0.80,一致率1.09を得た.今後はOCT画像特有のスペックルノイズの低減,検出率及び一致率の向上,卵胞の成熟度別定量化を目指す.

  • 片山 祐太, 藤岡 佑太, 塚田 孝祐
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S88
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    生体の酸素濃度の計測や管理は臨床だけでなく培養細胞を中心とする基礎実験においても重要であり,特に臨床では非侵襲かつ連続的な計測が求められる.そこで酸素濃度を絶対値計測可能な燐光寿命法に着目し,生体貼付可能なフィルム型酸素センサの開発を目的とした.本発表では酸素分圧変化に対する校正実験および基板材料のフレキシブル化に向けた電極特性について報告する.

    ガス透過性の高いPolydimethylsiloxane (PDMS)に酸素感受性燐光色素であるPd-meso-tetra (4-carboxyphenyl) porphyrin (Pd-TCPP)を混合し薄膜酸素センシングフィルム作製した.励起光源として電気化学発光 (Electrochemiluminescence: ECL)および比較としてLED (Light emitting diode)を用いた.電極・基板材料の組合せとしてITO/PET, PEDOT:PSS/PET, Graphene/PETを用いた.酸素分圧0 mmHgから159 mmHgの環境で光源に交流電圧を印加し,光源と燐光の位相変化からStern-Volmer式を用いて酸素分圧を算出した.

    ITO電極は歪みを与えた際の抵抗率変化が曲げ直径15 mmまで見られなかった.LED光源による校正実験の結果,高精度に酸素分圧を測定することが可能であった.一方,ECLによる励起では酸素分圧変化に対して位相変化が認められたが,LEDによる励起より測定精度は低かった.ECLの消光が燐光の消光速度と同程度であることが考えられ,今後はECLの発光強度や印加電圧パターンの改善により精度向上を目指す.

  • 岩佐 琥偉, 小林 正樹
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S89
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    生体はバイオフォトンと呼ばれる極微弱な自発的発光を示すことが知られている.バイオフォトンの発生には,生体のエネルギー代謝過程や,環境汚染物質や紫外線などを原因として産生される活性酸素種が関与していることから,生体の酸化ストレス状態を反映するものと考えられている.一方,生体は太陽光や室内光などの環境光により,遅延発光と呼ばれる長寿命な極微弱発光を示すことも知られており,主に皮膚に内在する蛍光性色素の光励起や,それに続く化学的励起過程に起因するものと考えられ,また光増感反応との関連も示唆されている.われわれは,超高感度画像計測システムや同時多波長分光分析システムの開発を行ない,ヒト体表からのバイオフォトンや遅延発光のメカニズムについて検討を行ってきた.本報では,光照射によらないバイオフォトン発光,及び青色LED光照射による遅延発光の画像計測と分光計測を行い,それらの発光特性を比較し,in vivo酸化ストレス評価法への応用について検討したので報告する.

  • WEICHANG FENG, Shimizu Koichi
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S90-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    We have developed a technique to estimate the reduced scattering coefficient (us') of a turbid medium in a space-resolved measurement of backscattered light from the medium. This technique is based on the equation derived from the diffusion approximation of the radiative transfer theory. The accuracy of this equation has been confirmed with the homogeneous medium that satisfies sufficient diffusion conditions. However, its applicability to an inhomogeneous medium such as the surface blood vessels in the body tissue has been questionable. In the Monte Carlo simulation of light propagation in random media, we analyzed the accuracy of the proposed technique using the inhomogeneous model of blood vessels in the surrounding tissue. The results showed less than 10% error in the us' estimation in practical conditions. It suggested the applicability of the proposed technique to the noninvasive optical measurement of blood turbidity caused by the serum lipids.

  • LUHANG XU, KOICH SHIMIZU
    2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S90-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/14
    ジャーナル フリー

    We can visualize the blood vessels by transillumination imaging using near-infrared light. However, the image is blurred by the strong scattering in body tissue. If we know the depth of the blood vessel, we can recover a clear image by the deconvolution with a point spread function (PSF) of the blur. We have developed a new technique to estimate the depth of an absorber in a turbid medium. First, we derived the PSF theoretically and constructed a database of transillumination images. The database consists of the blurred images of the blood vessel with various diameters and depths. We found that the spread (FWHM) and the contrast of the blurred image are the dominant parameters to represent the depth of the blood vessel. In computer simulation, the effectiveness of the technique to estimate the depth of an absorbing object from a blurred transillumination image was verified.

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