生体医工学
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Annual59 巻, Abstract 号
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  • 坪田 悠史, 寺田 崇秀, 鈴木 敦郎, 田中 宏樹
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 319
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    無侵襲・全自動での乳がん検出を実現するため、我々は超音波CT装置を開発している。超音波CTとは、超音波を対象の周囲360度方向から照射し、その反射波と透過波とから被写体の反射率(形態)と音速(硬さ)の分布を断層表示する装置である。今回、日立製作所の超音波診断装置に搭載されているCarving Imaging技術を応用し、超音波CTの反射画像の画質改善を試みた結果を報告する。Carving Imagingとは、組織構造を解析し、エッジの強調、構造をつなげる処理、ノイズ除去を行うことで、組織の視認性と描出力を向上させる技術である。性能評価用ファントムを作成し、Carving Imaging処理によって5mmの腫瘍模擬体のコントラストノイズ比が1.3倍に、短軸方向のワイヤの半値幅が0.8倍に改善することを確認した。

  • 鈴木 雅登, 竹内 梨乃, 安川 智之
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 320
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    回転電場中の細胞は回転する.回転速度は,細胞質導電率と細胞膜容量に依存する.そのため細胞の回転速度の計測は細胞の非侵襲な評価に繋がる.我々は,K562細胞の赤血球様細胞への分化による電気回転速度の増加を見出してきた.本研究では,種々の分化誘導剤のK562細胞への効果を電回転速度として評価した.4つ正方形状のITOマイクロ電極を“田”の字型に配置させ,その中央部にマイクロウエル(φ40 μm,高さ20 μm)を作製した.この電極へ90°ずつ位相をずらした交流電圧(2 Vpp, 300 kHz)を印加し,ウエル内のK562細胞の電気回転速度を計測した.K562細胞の分化誘導剤は2 mM 酪酸ナトリウム (NaB),10 mMニコチン酸 (NA),10 mMイソニコチン酸 (INA)を用いた.NaBで処理した細胞は,処理前と比較して有意に速く回転した(1.2倍,p<0.05).分化により,細胞質内ヘモグロビンや鉄イオン濃度が増加し,細胞質内イオン組成が変化したためである.次に,NAとINAで分化誘導したK562細胞の電気回転速度を評価した.INA処理細胞では回転速度の有意な増加を示した一方で,NAでは回転速度の変化は認められなかった.INAで処理した多くの細胞がヘモグロビンを産生したが,NAでは,ほとんど認められなかった.回転速度によって化合物の分化誘導能を評価できることが判明した.

  • 佐藤 萌子, 土肥 徹次
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 321
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,寄生容量の低減により高感度なマイクロコイルを実現するため,ピッチが均一で傾斜配線をもつMRI用マイクロコイルを試作する.近年,高感度なMRI信号受信用コイルの研究が行われていた.SNRの増加には巻き数の増加が有効であるが,コイルの長さを変えずに巻き数を増加させると寄生容量が増加するという問題がある.そこで本研究のコイルでは,2重かつ傾斜配線をもつコイルの全てのピッチを均一化することにより寄生容量の低減を目指す.そのためピッチの均一化に効果があると考えられる4種類のコイルのピッチを計測し, よりピッチが均一になったコイルを用いて電気的特性を計測した.4種類の試作方法は,冶具の断面に厚みをつける方法1,外側配線の径を小さくする方法2,固定用冶具の内側に突起をつける方法3,外側配線のピッチを大きくする方法4とした.4種類のコイルのピッチを計測した結果,計測データ全体では方法1の外側配線同士のピッチの分散が0.0256で最小となった.また,3種類のピッチの分散の平均値は方法4が0.164で最小となった.次に,方法1で試作したコイルと配線に傾斜のない2重巻きコイルを用いて電気的特性計測を行った.その結果,試作コイルの寄生容量は1.86 pFとなり約6%低減できた.以上より,ピッチの均一化によって低寄生容量な傾斜配線をもつMRI用マイクロコイルを実現した.

  • 新里 美瑠, 加藤 祐次, 橋本 守, 工藤 信樹
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 322
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    抗がん剤ドキソルビシン (DOX) の副作用低減策として,ナノサイズのアルブミン粒子の表面にDOXを付着させた薬剤(DOX-Alb)が開発され,EPR効果によるがん組織へのターゲティング,超音波照射によるDOXの徐放制御が期待されている.我々は,DOX-Albの細胞内動態について培養細胞を用いた検討を行っている.細胞内DOXの動態は蛍光顕微鏡で観察できるが,核酸と結合して消光するため核内へのDOX 導入量の定量が難しい.そこで,同様に核酸と結びつくHoechst 33342染色により,核内のDOX濃度を評価する手法が提案されている.本報告では,この手法を用いた超音波によるDOX徐放制御の可能性を検討した.DOX培養液,超音波洗浄機による1時間の超音波照射でDOXをアルブミン粒子から遊離させたDOX-Alb培養液(US+)と,照射しない培養液(US-)の3種類を準備した.ヒト前立腺がん細胞PC-3を培養液に浸漬,約20分後にHoechst染色し,リンス後DOXとHoechstの蛍光画像を取得した.DOXの蛍光画像より,DOX-Alb培養細胞が DOXに比べて細胞質内で高い蛍光強度を示すことが確認された.また,DOX培養細胞では,DOX濃度に依存して核のHoechst輝度が減少する傾向が見られたのに対し,DOX-Alb (US+,US-) 培養細胞ではそれと異なる傾向が見られた.

  • 江崎 ゆり子, 加地 宏乃介, 池内 真志
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 323
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    男性不妊のひとつに,造精機能障害により精液中にほとんど精子がみられない無精子症が挙げられる.無精子症の患者には,精細管の一部を直接採取する顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)と呼ばれる術法により精子回収が試みられる.Micro-TESEでは培養士が採取した精巣組織から,顕微鏡下で良好精子の探索を目視で行っているが,探索に時間を要し患者への負担となっている.そこで,本研究ではMicro-TESEにおける精子の探索および回収の高速化を可能にするマイクロウェルアレイと画像処理を組み合わせた精子の探索から回収までを一貫して行うシステムを提案する.具体的には,マイクロウェルアレイのエッジに3bitsのマーカーを載せた各ウェルの座標が識別可能な独自のマイクロウェルアレイと,古典的画像処理アルゴリズムを組み合わせた精子探索に特化した高速な精子探索プログラムを開発した.マイクロウェルアレイのマーカーのラベルの読み取り精度を検証することで,提案するマイクロウェルアレイを評価した.また,精子探索プログラムの精度と実行時間について従来手法と比較し,提案アルゴリズムが精度及び実行時間の観点から優れていることを示した.以上の結果から,従来人手で行われていた精巣組織中の精子探索をコンピュータビジョンを用いた自動回収システムに置き換えることによる,高速な精子の回収/探索の可能性を示した.

  • 御舩 愛輔, 齋藤 大輔, 池内 真志
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 324
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    従来,研究用途での細胞選別にはFACS が用いられているが,高速の流れによる物理的ストレス,蛍光標識による化学的ストレスにより,選別操作自体が,さらに細胞に悪影響を及ぼすという問題がある.そこで,本研究では、光応答性マイクロバルブによる超低流速の単一細胞レベルソーティングと,ディープラーニングを用いた無標識画像による細胞の生死・分化状態判別とを組み合わせることで,機械的・化学的ストレスフリーのソーティング手法を実現する.提案するシステムは,光熱変換材料と形状記憶ポリマーを組み合わせた光応答性マイクロバルブを底面に配置したマイクロウェルアレイに対して,マイクロスケールの光パターンを照射し,細胞を含むウェルのバルブを開いて下層に負圧を加えることで細胞を回収する.マイクロウェルアレイは顕微鏡ステージ上に配置され,顕微鏡視野画像の画像処理によって細胞判別を行い,対応する光パターンが顕微鏡内光路を通してマイクロウェルアレイに照射される.本発表では,顕微鏡ステージ上に最小20μmの光パターンの照射が可能であること,また格子状に光応答性マイクロバルブを配置したシートに対し光パターンを照射することにより,光照射された位置に存在するバルブを数秒で並列的に開くことができることを示す.今後はこの機構を細胞回収に応用し,画像処理を用いた細胞判別器と組み合わせることで,ストレスフリーな細胞選別を実現する.

  • 江崎 ゆり子, 須田 修矢, 池内 真志
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 325
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    幹細胞から各種細胞への分化誘導において,胚様体の大きさは,分化の方向性や効率を決定づける大きな要因となる.高い再現性・効率性で分化誘導を行うには,大量の胚様体を均一に形成する事に加え,最終的な胚様体の大きさの早期かつ定量的な予測,選別が非常に重要である.そこで我々は,「TASCL」という,均一な細胞塊を同条件で同時に大量培養可能なマイクロデバイスを用い,多数のヒトiPS胚様体の最終的な品質を,細胞播種後, 数時間で予測する事を目指している.本研究では,TASCL内の細胞群が,(1) 播種から24時間後に「胚様体を形成するか否か」,及び (2) 播種から72時間後の「胚様体の直径」を播種した細胞群の30分ごとのタイムラプス画像を元に,三次元畳み込みニューラルネットワークを用いて予測した.その結果,播種後3時間経過時までの画像群を用い,テストデータに対し96.5%の精度で胚様体形成の有無の予測に成功した.また播種から72時間後の平均直径158.3umの胚様体群に対し,播種後6時間までの画像群から±7.1umの誤差で直径の予測に成功した.本手法を,胚様体培養中の各ウェル選択的に処理を施せるデバイスと組み合わせる事で,胚様体を形成しないと予測されたウェルを早期に排除して試薬の使用量を削減,あるいは播種自体を早期にやり直し,培養速度・効率を大幅に上げる事が可能となる.

  • 影山 宗祐, 中川 敦寛, 川口 奉洋, 大谷 清伸, 大沢 伸一郎, 遠藤 俊毅, 冨永 悌二
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 326
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    ピエゾ駆動方式パルスウォータージェットメスは熱損傷抑制と組織選択性によって、最大限の病変摘出と術後機能温存の両立を支援する手術用治療器である。これまで開頭顕微鏡下手術応用に向けて、射出するパルスジェットによる空中における飛沫の測定法の検討を行ってきた。本研究の目的は、軟性内視鏡下における脳脊髄手術応用に向けて、水中における飛沫拡散の定量測定方法を新たに提案し、飛沫拡散に関する知見を得ることである。方法水中環境における飛沫拡散量を定量化するために、メチレンブルー染料で染色したゼラチンを用いて作成した脳模擬モデル(破断強度0.1 MPa前後)を精製水で満たした水槽の底に固定し、5 mm/秒で水平に移動させながらパルスジェット(駆動電圧20から80 V、400Hz)を照射した。照射後、水槽から脳模擬モデルを除去し加熱する事で飛沫を溶かし、溶液中のメチレンブルーの吸光度を分光光度計で測定した。吸光度と飛沫拡散量の関係の精度を事前に評価した上で、ジェット出力、吸引量、吸引管-模擬モデル間距離及び吸引管構造と飛沫拡散量の関係を検討した。結果吸光度を用いた質量測定法が有効であることが示唆された。ジェット出力、吸引管-模擬モデル間距離に正の相関が見られ、吸引量に負の相関が見られた。吸引管構造は飛沫拡散量に有意な影響を与えた。結論提案した飛沫拡散量の測定方法の妥当性と飛沫拡散制御についての知見を得た。

  • 竹花 靖孝, 南井 礼寛, 中村 真人, 岩永 進太郎, 黒岡 武俊
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 327
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    再生医工学分野においてコンピュータと機械の手を用いた3次元細胞組織の構築手法「バイオファブリケーション」の研究開発が進められている。本研究では血管組織の構築を目指して、製造プロセス技術に着目し、足場作製、細胞播種、組織培養のそれぞれの工程を遂行する装置の設計及び試作を行った。まず、チューブ構造の支持体にハイドロゲルのコーティングを行う血管の足場作製装置を試作した。コーティング材料として光架橋性のゼラチンメタクリロイル(GelMA)を用い、支持体を回転させながらチューブ構造全面にGelMAでコーティングを行った。その後UV照射しゲル化させ、チューブ状のゲル足場を得た。次にチューブ状足場への細胞を播種し、培養を行うためのバイオリアクター装置を開発試作した。足場の内腔全体に血管内皮細胞が播種されるように回転播種する機構とした。さらに細胞播種後、立体構造を維持した状態で培養を試みた。血管組織の構築には、多層構造を持つため、いくつもの必要工程を実施するバイオプロセッシング技術の開発が必要である。

  • 増田 一太, 万野 真伸, 豊吉 巧也, 塩澤 成弘
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 328
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    (はじめに)自転車や自転車エルゴメーターによるペダリング動作は、若年者から高齢者まで広範囲かつ、移動手段からトレーニング、リハビリテーション分野まで様々な場面で用いられる。その背景には、ペダリング動作が下肢荷重関節への負荷が少なく、コントロールされた運動を可能とするからである。しかし、クランク長の変化に伴い、ペダリング戦略は異なるため、それに伴い下肢筋活動は異なってくる。そこで今回、自転車エルゴメーターを用いて、異なるクランク長に対し負荷量の増減が与えるペダリング戦略と筋活動変化の特性を調査したので報告する。(方法)対象は、健常成人男性(23歳、175 cm、63 kg)1名とした。自転車エルゴメーターの負荷量は100Nと300Nとし、クランク長は125 mmと165 mmとした。筋電図計測の対象筋は大腿直筋、内・外側広筋、半腱様筋、大腿二頭筋とした。(結果)165 mm比べ125 mmクランクでは、負荷量の増大に伴い、内・外側広筋は、他の筋に比べに増加量が著しく大きかった。また300Nの負荷量では、165 mmに比べ125 mmクランクの方が、内・外側広筋の筋放電量が著明であったが、100Nではこの傾向は逆転していた。(考察)165mmクランク/300Nでの運動は、大腿直筋を抑制できるため、内・外側広筋を最も筋力強化できる組み合わせであることが分かった。

  • 藏富 壮留, Palmer Jason, 陳 鵬, 姜 銀来, 横井 浩史, 平田 雅之
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 329
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    目的:身体障害に対する機能再建を目指して,我々は頭蓋内脳波 (iEEG)を用いた体内埋込型ブレインマシンインターフェースの研究・開発を行ってきた.本研究では,頭蓋内電極を留置したてんかん患者を対象として,iEEGから手首の速度ベクトルを推定し,ロボットアームを3次元制御することを目的とした.

    方法:ROSで作成したロボットアームの動画を患者に模倣させ、そのときのiEEGを記録した.iEEGの周波数帯域毎のパワーを算出し,独立成分分析(ICA)と部分的最小二乗回帰(PLS)を用いて感覚運動野に特異的に分布する成分を選択することにより次元を圧縮した.抽出した成分と患者に見せたROSのロボットの速度を用いて、サポートベクター回帰(SVR)により手首の速度ベクトルを推定した.ロボットアームは,7自由度のサーボモータ干渉駆動機構で関節角度制御するものを利用した.制御にはROSを用いた.推定した速度を積分して目標位置を決定し,幾何学的に逆運動学の解を求め,各関節の角度制御を行った.

    結果:ICA,PLS,SVRによりiEEGから手首の速度を推定し,ロボットアームをリアルタイム3次元制御するシステムを構築した.

    結論:頭蓋内脳波に基づく,ICA,PLS,SVRを用いた手首の速度ベクトルの推定は、ロボットアームのリアルタイム3次元制御に有用である可能性を示した.

  • 井上 雄介, 川瀬 由季乃, 田代 彩夏, 斎藤 逸郎, 磯山 隆, 山田 昭博, 山家 智之, 寺澤 武, 佐藤 康史, 武輪 能明
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 330
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    生体組織と医療機器の間のインターフェースでの使用することを目的として我々はハイブリッド材料を開発しています。この材料は、これまでの研究によって生体内で十分な生体適合性と優れた安定性を示します。 この材料は、高分子の足場と生体組織で構成されており、ポリエステルスキャッフォルドを皮下に埋め込み、生体組織を誘導して得られます。この材料の課題は、製造に時間がかかることです。そこで本研究の目的を、ハイブリッド材料の製造時間を短縮するために足場を最適化することとしました。複数のパラメーター(厚さ、ギャップ、塗りつぶし、織り方)を比較して、最適な足場を調査しました。その結果、細胞が再生する速度は、布の糸の間のギャップによって影響を受け、布の充填速度によって大きく影響されないことが示されました。

  • 岡本 英治, 矢野 哲也, 関根 一光, 井上 雄介, 白石 泰之, 山家 智之, 三田村 好矩
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 331
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    背景:カテーテル設置式超小型軸流血液ポンプ開発の鍵は軸シールにあり,臨床使用されているImpellaは軸シールにパージシステムを用いているが故障が報告されており,新たな超小型・低摩擦・低損失・長寿命の軸シールが求められている.そこで本研究では,超小型化が容易な簡易構造型磁性流体軸シールを開発中で,今回,磁性流体軸シール部の摩擦損失に関する検討を行ったので報告する.

    方法:開発を進めている簡易構造型磁性流体軸シールは,外径4mm×内径2.6mm×長さ3mmのリング型軟鉄にの内腔に,モータ回転軸に装着した外径2.5mm長さ2mmのネオジム磁石を設置したもので,理論上のシール耐圧は432mmHgとなっている.この磁性流体軸シールを,カテーテル設置式超小型軸流ポンプに使用予定のブラシレスモータに装着し,モータ入力電力より磁性流体軸シール部の損失を求めた.

    結果:実際のカテーテル設置式軸流血液ポンプの使用を前提に,モータ回転速度30000rpm(周速度3.93m/s)で磁性流体軸シール部の測定を行った.その結果,ネオジウム磁石と軟鉄リング間の磁力による損失が0.026W,磁性流体の粘性に伴う損失が0.259W,磁性流体軸シール全体の損失0.285Wと測定された.

    結論:カテーテル設置式軸流血液ポンプは,非力な超小型ブラシレスモータを使用するが故に,シール部分の損失がそのポンプ特性に大きな影響を与える.そのため,磁性流体軸シール部の損失削減を検討していく予定である.

  • 内田 和杜, 原 伸太郎, 増田 造, 高井 まどか
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 332
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    人工肺では、ガス交換を行う中空糸膜を始めとした血液接触面における抗血栓性を向上させるために材料表面に血液適合性の優れたポリマーを修飾する手法が広く用いられている。しかし、その表面修飾膜が剥がれるなどの原因で血栓が形成され、現在の人工肺はオフラベルユースのもと1~2週間の使用に限られている。Covid-19等による肺障害の治療においては人工肺の長期使用が求められているが、現状では性能を満たすものが存在しない。我々は長期使用人工肺の開発を目指し、2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)を用いたリン脂質ポリマーに架橋構造を形成できるユニットを導入することで水中での耐久性が1ヶ月以上維持できる血液適合性ポリマーとその修飾技術を開発した。本研究では人工肺中空糸膜への応用に向けて、ポリマーの構成ユニットである疎水性部位を変更した4種類のポリマーを合成し、血液適合性と耐久性を評価した。作成した全てのポリマーは、ポリプロピレン(PP)やポリメチルペンテン(PMP)への修飾が可能であった。さらに、どのポリマーの修飾膜も水中で28日間の安定性を示した。また、抗血栓性に繋がるタンパク質吸着抑制能を評価したところ、疎水性モノマーとしてbutyl methacrylate(BMA)を用いた架橋型リン脂質ポリマーが最もウシ血清アルブミンの吸着を抑制したことがわかった。

  • 永野 友香, 白石 泰之, ナラコット アンドリュー, 山田 昭博, 山岸 正明, 山家 智之
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 333
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    先天性心疾患に対する外科的治療として延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)製3弁付き導管を用いた右室流出路再建術が行われている。臨床成績により中長期的な安定性が示されていることから、ePTFE弁の医学的な有用性が示されている。本研究では工学的なアプローチから生体内の右心系の拍動流下におけるePTFE弁葉内の力学状態を定量評価することを目的として、3台の高速度カメラを用いた3枚の弁葉の挙動を同時に撮影可能な装置の構築を行った。撮影方法として屈折率の変化を小さくするために水中カメラを用いた。1台のカメラで2枚の弁葉を撮影するために3台のカメラを120°ごとに配置した。さらに、対象物の中心をとらえるためにカメラにθ軸回転ステージを取り付けることで角度をつけた。また、3台のカメラを無線通信で同時に操作するために水中アンテナを作成しカメラに張り付けた。各カメラペアの校正および対象物の三次元表面再構築を行うために、円柱型の校正対象物および直径0.8mmのドットによるランダムパターンが印字された対象物を撮影し、取得したステレオ画像を用いて三次元再構築した。構築した3方向等角投影カメラ配置の撮影装置により、対象物の三次元表面の再構築が可能であることを確認した。以上の結果より、構築したシステムを用いてePTFE弁葉の三次元表面を再構築し、弁葉挙動を解析しうることが示唆された。

  • 得丸 裕伍, 桐村 誠, 秋山 庸子, 真鍋 勇一朗, 佐藤 文信
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 334
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,副作用や侵襲性の低いがん治療法として,磁気力制御による動脈塞栓術を応用した新生血管閉塞療法を提案する.これは,がん組織近傍にカテーテルによって血管内に強磁性粒子を投与し,体外からの磁場制御によって新生血管内に粒子を集積・凝集させ,血管を閉塞させる治療法である.新生血管を閉塞することで,がんの成長を抑制することができると考えられる.本研究では実用化に向けて,模擬血管で磁場による血管閉塞が起こるかどうかの確認を行った.また,血中の電解質が粒子凝集による血管閉塞に与える影響について検証した.模擬血管群として,粒径0.007 mmの流路を7854本持つマイクロ流路チップを用いた.血液と粘性率が同じになるよう調整したPVA(ポリビニルアルコール)溶液を分散媒として,ポリアクリル酸修飾マグネタイト粒子を250 ppmの濃度で分散させた.血中の電解質を含む分散媒と含まない分散媒で比較を行った。マイクロ流路チップに磁場を印加した状態で分散液を30分間流入させ,光学顕微鏡で流路閉塞の様子を観察し,閉塞した流路数から閉塞率を評価した. 流路閉塞の結果とマイクロ流路チップ内の磁場分布測定の結果から,約310 mT以上の磁場中で100 %の流路閉塞率が確認された.さらに,流路閉塞に対して血中の電解質が与える影響はほとんど見られなかった.これらのことから,磁場強度の制御によって選択的に血管を閉塞できる可能性が示唆された.

  • 竹内 伸行, 松本 昌尚
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 335
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    10W半導体レーザーはリハビリテーションや整形外科などの領域で主に疼痛緩和治療に用いられている。一般に治療対象部位(組織)に対して経皮的に照射されるが、ドレッシング材貼付などの理由により当該部位に照射困難な場合もある。近赤外線カメラを用いるとレーザー照射部位の周辺において、広範囲に散乱光を確認することができる。このため、照射部から離れた部位でも十分な強度の散乱光があれば治療が成立する可能性がある。しかし、10W半導体レーザーの散乱光強度に関する報告は見当たらない。本研究はこの散乱光強度を確認することを目的とした。本研究は本庄総合病院倫理委員会の承認を得て実施した。健常成人を対象とし、前腕掌側皮膚上に10W半導体レーザーを照射し、その部位から2cm、4cm、6cm、8cm、10cm離れた各部位の皮膚表面の散乱光強度を、フォトダイオードセンサを用いたパワーメータで計測した。結果、照射部位から離れるほどに強度の減弱を認めたものの、10cm離れた部位でも散乱光が確認された。治療対象部位に照射できない場合でも、その周辺部(遠隔部)への照射で治療ができる可能性が示唆された。ただし、現状では治療に必要な強度、つまり何らかの生体反応を引き起こすのに必要な光の強度は明確ではない部分も多い。このため、治療部位と照射部位の距離および強度の変化、治療に必要な光の強度などを検討する必要があると示唆された。

  • 福田 京平, 中口 俊哉, 松本 淳子, 佐原 佑治, 平野 好幸, 須藤 千尋, 滝口 直美, 宮内 政徳, 池田 友紀, 清水 栄司
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 336
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    社交不安症(Social Anxiety Disorder : SAD)は,他者の注視を浴びる可能性のある社交場面に対して著しい不安を感じる精神疾患である.近年では,様々な治療法の研究が進められており,その中に視線訓練による認知行動療法がある.しかし,週に1回時間を確保するのが難しい患者や経済的な理由から十分な認知行動療法を受けることができない患者がいる.また,日本では認知行動療法の実施者が不足しているため,認知行動療法を受けるまで数か月待機する患者も一定数いる.そこで本研究では,眼鏡型視線追跡装置を用いた視線訓練システムを開発する.まず,社交不安症患者が不安を感じやすい社交場面を再現した訓練用コンテンツを制作し,眼鏡型視線追跡装置を装着して,自然な視野で視線訓練が行えるシステムを開発した.本システムの構成は可搬性を考慮して,眼鏡型視線追跡装置,操作PC,訓練者用モニタの3点のみとした.訓練では,社交不安症患者の特徴である自己注目,共同注視に着目し,訓練者が指示された領域を一定時間注視することができた場合,音声によるフィードバックを自動的に与える.20~30分の訓練時間内に複数の訓練用コンテンツが再生され,訓練者はコンテンツごとの指示に従い,視線訓練を繰り返す.本研究では健常者実験によって,システムの安全性およびユーザビリティ評価を実施した.訓練用コンテンツやフィードバックの妥当性を確認した.

  • ベン フェイ, 小川 万由子, 小野 弓絵, リン ブンエイ
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 337
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    がんはその進行とともに80%近くの患者が痛みを訴え、QOLの低下につながっている。腫瘍の切除後や原発部位以外に痛みを訴えるものも多く、がん性疼痛の知覚のメカニズムの解明が望まれている。本研究では痛みのあるがん患者に特徴的な脳部位を調べ、脳の機能的結合ネットワークに与える影響を明らかにすることを目的とした。食道がんまたは頭頸部がんを有する103名のがん患者のFDG-PET画像から、脳領域の画像を抽出し、痛みの有無により活動が変化している関心領域を決定した。また関心領域をシードとして、デフォルトモードネットワークならびにセイリエンスネットワークに関連する脳部位との代謝的結合を調査した。痛みのあるがん患者では、両側の扁桃体、海馬、橋の活動が増加し、中帯状回、楔前部の活動が減少した。またこれらの領域のいずれからも、デフォルトモードネットワークの脳領域との有意な代謝的結合性が確認された。痛みのない患者群では、これらの領域からの代謝的結合性は確認されなかった。以上のことから、痛みのあるがん患者では、慢性痛により辺縁系の活動が増大し、デフォルトモードネットワークを抑制することで痛みの認知感覚や内臓感覚が変化している可能性が示された。

  • 宮本 成生, 塩澤 成弘
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 338
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
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    【目的】一般的に鍼治療は6日間隔で行われることが多いが、短期間に同様の刺激を行なった際の生体反応については不明確なことが多い。そこで、本研究は1日間隔で3日間の鍼刺激を行い、循環器系及び自律神経系に与える影響を調査した。【方法】被験者は健常成人男性8名(21±1.3歳)とし、測定項目は、心電図および心拍出量とした。鍼はステンレス鍼(40mm, 0.20mm, セイリン社製)を用い、経穴は足三里(ST36)とした。仰臥位で20分間の安静後、無刺激で計測を5分間行った。その後に鍼を一定速度で刺入し、強い皮下感覚が生じれば鍼を留め、なければ30mmまで刺入を行なった。鍼刺激後、計測を5分間行った。このプロトコルを1日間隔で3日間、同時刻に実施した。二元配置分散分析を行い、事後検定は対応のあるt検定を行なった。【結果】心拍数と心拍出量で交互作用は認められないが、刺激前後で主効果が認められた(p<0.05)。心拍数は刺激2回目と3回目に有意な低下を示し、心拍出量は刺激1回目に有意な低下を示した(p<0.05)。自律神経系については有意な変化は認められなかった。【考察・結語】循環器系の反応は日毎に異なる反応を示した。自律神経系については有意な変化は認められなかったが、変化している傾向はあるため、被験者を増やしての検討が必要である。1日間隔での鍼刺激では、3日間で異なる生体反応を引き起こしており、治療を行う際には間隔も考慮する必要があると示唆された。

  • 渡辺 隼人, 下條 暁司, 高野 一義, 大西 祥貴, 白石 秀明, 横澤 宏一
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 339
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【目的】2台の脳磁計を光ファイバで接続したハイパースキャニングシステムを構築し、脳活動計測を行ってきた。しかし、同時記録された脳活動、特に同期的活動を検討する際に、異なる脳磁計で記録されたデータを直接比較できるかは未確認であった。そこで本研究では、2台の脳磁計を用いて同一被験者の一次感覚野を刺激し、その際の活動部位を推定し、その結果を比較した。【方法】101 ch custom-type ヘルメット型脳磁計(Elekta-Neuromag)および306 chヘルメット型脳磁計(Vectorview, Elekta-Neuromag)を用いた。2名の被験者に2k Hzの純音両耳刺激、チェッカーボード左下視野刺激、正中神経電気刺激を与えた際に生じる脳磁場を2台の脳磁計で記録した。得られた脳磁場データに基づいて各々の刺激に対する一次感覚野の活動部位を推定した。【結果と考察】活動部位の推定位置は、聴覚刺激では上側頭回(聴覚野)、視覚刺激では右半球鳥距溝付近(視覚野)、正中神経刺激では頭頂葉(体性感覚野)に正しく推定された。これらの推定位置について、2台の脳磁計間ではわずかに位置の変動が見られたが(< 20 mm)、Desikan-Killiany atlas (Desikan et al., 2006) の範囲内では同一脳部位であった。通常、二者の脳活動の同期について検討する際には一定の範囲を持つ領域同士で比較することから、この結果は2台の脳磁計を用いた同期の推定を許容することを示唆する。

  • 米田 菜乃, ボーセン ジャレッド, 渡辺 隼人, 齊藤 卓弥, 白石 秀明, 横澤 宏一
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 340
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】コミュニケーションは日常生活に不可欠である。複数人での即興演奏はコミュニケーションツールの一形態であると言うことができ、本研究では2人で交互に即興演奏している際の脳活動をMEGハイパースキャニング(2台の脳磁計を同時計測可能にしたシステム)を用いて計測することで、コミュニケーションの神経基盤を明らかにすることを目的とした。【方法】右利きの健常音楽経験者10組の脳磁場を解析対象とした。参加者はリーダーとフォロワーの役割を交互に与えられ、一連のコミュニケーションを1)フォロワーがリーダーの弾いたリズムを模倣するコピー2)自由な形式で表現する即興という2つの条件で行った。それぞれのやり取り前の思考中のα波(8-13Hz)振幅を対象とし、2つの役割(リーダー/フォロワー)と2つの条件(コピー/即興)の皮質活動の違いを解析した。【結果と考察】条件の違いに関わらず、リーダーよりもフォロワーの方が外側後頭皮質を含む後頭部でα波振幅が有意に大きかった(p<0.001)。フォロワーが役割を認識し、リーダーのメロディに対応した返事をしなければならないという要求に対する認知負荷を反映するものと考えられる。このことから、コミュニケーション時の役割の認識に関与する脳機能の存在が示唆された。

  • Nina Pilyugina, Yoshiki Aizawa, Akihiko Tsukahara, Keita Tanaka
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 341
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    The octave illusion is an auditory phenomenon that occurs when two tones with one-octave difference are simultaneously played to both ears repeatedly. This paper aimed to find the most efficient way to classify participants into illusion (ILL) and non-illusion (non-ILL) groups by comparing the amplitude of ASSR at the auditory cortex for the ILL and non-ILL groups using brain data recorded with magnetoencephalography (MEG) among machine learning and deep learning techniques. We used three methods: support vector machine, convolutional neural network, and ensembling neural network for executing data's features. Despite longer training time and less accurate classification results, which could be the result of hyperparameter choice, we believe that ensembling convolutional neural networks is the most efficient way for classification ILL and non-ILL data.

  • 金 柱亨, 小野 弓絵, 高野 一義, 渡辺 隼人, 柳生 一自, 横澤 宏一, 白石 秀明, 齋藤 卓弥
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 342
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    非言語コミュニケーションの成立に関わる脳活動を調べる目的で、脳磁計を2台を用いたハイパースキャニング実験を行った。知り合い関係にある14ペア28人の健常被験者に対し、互いの顔のリアルタイム映像あるいは録画映像を20秒観察して、映像がリアルタイムか録画か回答する課題を各40試行行った。大脳皮質の62領域におけるθ、α、β帯域活動の平均振幅波形を最小ノルム法により推定し、±1秒以内の時間ずれを許して各施行、1秒間毎に最大となる相関係数を算出した。20秒の提示時間のうち、ペアの対応する脳部位の活動が中程度以上の相関を示した時間の割合(相関時間)について、提示した映像条件と被験者の回答条件を要因とした二元配置分散分析と下位検定を行った。既知の顔の再認に関わる右中前頭回の%alpha;波帯において有意な映像条件の主効果と交互作用が確認され、リアルタイム映像条件では被験者の回答に関わらず相関時間が長く、録画映像条件では、ペアの両方あるいは片方がリアルタイム映像と誤って回答した条件において、両方が録画映像と回答した条件より相関時間が長かった。即ち、中前頭回の相関時間は、提示映像がリアルタイム映像の場合だけでなく、録画映像の場合にも被験者がリアルタイム映像と判断すると長くなった。中前頭回の同期活動は、他の脳領域の変調を受けながらリアルタイムコミュニケーションの成立を判断する脳活動指標であると示唆される。

  • 穴田 理紗, 渡辺 隼人, 白石 秀明, 横澤 宏一
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 343
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】対話は日常生活の中核を成すコミュニケーション手段である。コミュニケーションでは双方向に情報が交換され、対話場面においても私たちの発言は相互に影響を及ぼし合っている。そこで、有意味語または無意味語を相互に発言する2者の脳活動をDual MEGシステムを用いて同時計測(ハイパースキャニング)し、コミュニケーションにおける意味の理解に関わる脳内メカニズムについて検討した。【方法】健常成人10名(平均年齢±標準偏差:22.8±1.2歳、女性6名)が参加した。実験中は常に相手の顔が見えており、単語条件・非単語条件の指示に従って5秒おきに呈示される注視点のタイミングで交互に発言をした。単語条件では相手が言った単語から連想される単語を、非単語条件では連続する50音から3文字以上の言葉を互いに発言した。1つの言葉に対するやりとりを1試行とし、全64試行を実施した。得られたデータからα(8―12 Hz)の振幅を抽出した。発話後を基準とし、発話前(考えている時間)の律動振幅を標準化した後、各周波数帯域の振幅について脳領域(62)と条件(2)の2-way RM ANOVAを実施した。【結果・考察】α波振幅において脳領域の主効果が有意であった(p<0.01)。また、脳領域と条件の交互作用も有意となった(p<0.01)ことから、各条件において異なる脳領域が活動していると考えられる。言語コミュニケーション中の意味の理解や表出を表象する脳機能の存在が示唆された。

  • 松永 諒, 樋脇 治
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 344
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    我々は、これまで、頭皮上に置いたコイルにより静磁界を脳に透過させ脳活動に伴い変動する磁界を計測する方式の磁界バイアス式脳機能計測技術を開発した。本技術により体性感覚誘発信号計測を行うことにより、はやい脳信号が高い空間分解能で計測できることを実証した。本研究では、視覚誘発信号の計測を行ない本技術の有効性について検討した。磁界バイアス式脳機能計測技術を用いて視覚誘発信号を計測するためのシステムを開発した。コイルを外後頭部隆起(Inion)の50mm上の点(MO)から15mmの間隔で左右各2列、上方3列、下方2列の範囲の縦6列横5列の30点にコイルを配置し、各コイルの上端に設置した磁界センサにより、30チャネルの磁界信号を計測するシステムを構築した。視覚刺激として白黒格子パターン反転刺激を行なった。刺激視野の視角は44.3°(横)×27.3°(縦)、各格子の大きさ0.81°刺激間隔1秒で視覚刺激を行った。被験者には単眼で画像の中心を注視するよう指示し、300回の加算平均により視覚誘発信号を計測した。その結果、MOの上方15mmの位置(MA15)に刺激後250msに最も大きな振幅の信号が局所的に観察された。MA15の位置は、第一次視覚野近傍の頭皮上の位置であり、磁界バイアス式脳機能計測技術によりはやい視覚誘発信号が高い空間精度で計測可能であることが実証された。 

  • 大谷 康介, 江田 大輝, 伊藤 陽介, 小林 哲生
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 345
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    脳神経活動に伴って発生する磁場(MEG)は非常に微小であるため高感度のセンサが必要である。近年、MEG用のセンサとして光ポンピング磁気センサ(OPM)が注目されている。MEGは信号源を推定するために多チャンネル同時計測が必要である。本研究では、K、Rbの2種類のアルカリ金属原子を封入した一辺5cmの立方体型のガラスセルを用いたハイブリッド型OPMによりセル内部に設定した近接した10点におけるMEGの同時計測を行った。実験では、開眼閉眼によるα波帯の事象関連脱同期(ERD)と、聴覚誘発脳磁界(AEF)を計測した。ERD計測では、被験者の後頭部付近にセンサを配置し、4sごとに鳴るビープ音に従って開眼閉眼を計100回行った。また、比較対象としてビープ音にかかわらず常に閉眼状態を維持する常時閉眼実験も行った。AEF計測では、被験者の右後側頭部付近にセンサを配置し、音刺激を非磁性のイヤーピースを介して左耳に計200回呈示した。ERD計測では多くのチャンネルで開眼時にα減衰が明瞭に観察できた。一方、AEF計測では、全てのチャンネルで有意なAEF信号を得ることはできなかった。この原因として、センサ面と頭皮の距離が約3 cmと遠いために、AEF信号が距離に応じて減少した結果と考えられる。今後、ヒータの設計や断熱方法を検討しセンサ位置と頭皮の距離を縮めることにより本センサの生体磁気計測への応用を目指す。

  • 辰岡 鉄郎, 川端 茂徳, 橋本 淳, 星野 優子, 関原 謙介, 澁谷 朝彦, 足立 義昭, 大川 淳
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 346
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【目的】常温で動作する磁気抵抗効果(MR)素子を用いて体性感覚誘発脳磁場(SEF)を計測するには、十分なS/N比を確保するためセンサを頭部に近接させる必要がある。頭部形状の個人差を吸収するため、センサ位置を可動でき所望の位置に調整可能な治具を製作してSEFのM20成分の計測を試みた。【方法】ヘルメット型のフレームに、TDK株式会社製MR磁気センサ20本をフレームの法線方向に調整可能な治具を製作した。被験者は、仰臥位にて頭部を顎紐で固定した後、全てのセンサ位置を頭部に密着するよう調整した。健常者に対し、正中神経を右手関節部で刺激して、刺激と対側となるC3を中心とする領域からSEFを測定した(加算平均4000回)。得られた波形のM20成分の頂点潜時において等磁場線図を作成した。測定終了後、既知の信号源より磁場信号を印加して、固定した各センサ位置の3次元座標を同定した。【結果】M20成分の等磁場線図は、生理学的に妥当と考えられる分布を示した。また、既知の磁場信号を印加する方法により、調整後のセンサの三次元座標および方向を同定することができた。【結論】被験者の頭部に合わせてセンサ位置を調整可能な治具を用いることで、MRセンサによりSEFを計測可能であることが示された。センサの測定時の位置は同定可能であり、電流源の推定に利用できる可能性が示唆された。

  • 大塚 明香, Hironori Nishimoto, Koichi Yokosawa, Shinya Kuriki
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 347
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    The frequency characteristics of spontaneous rhythms and evoked steady-state responses resulting from the electrical activity of the cortical neurons and physiological rhythms such as respiration and heartbeat are related by an even frequency ratio. Furthermore, the frequency of the heartbeat is correlated with body mass index (BMI), suggesting that the rhythmic properties of the body, including the brain, may be harmonically and hierarchically organised by a common continuum based on the constraints of biological structure. In this study, we investigate the harmonic structure as a mechanism of biological rhythms using magnetoencephalographic (MEG) signals. MEG detects magnetic field components derived from neuronal activity as well as physiological muscle movements. Simultaneous detection of the biomagnetic signals (and noise) enables a unified verification at the individual level, which may have various applications such as optimization of the audiovisual environment according to the biological characteristics of the individuals.

  • 上原 弦, 小山 大介, 河端 美樹, 足立 善昭, 宮本 政和, 河合 淳, 樋口 正法, 春田 康博
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 348
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    脳磁場計測においては環境磁気雑音の影響を避けることが重要であるが、このために参照センサを利用した雑音除去の方法が用いられている。しかしながら、参照センサが環境磁気雑音だけではなく脳磁信号も検出してしまうという懸念があった。そこで、全く別のデュワに収められた参照センサを利用すればこの懸念が低減できると考え、校正された脳磁計ファントムを用いてこの方法を検討したところ良い結果を得ることができた

  • 片桐 匡弥, 橋詰 顕, 香川 幸太, 瀬山 剛, 岡村 朗健, Chan Hui-Ling, 原田 宗子, 山脇 成人, 飯田 幸治
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 349
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景】迷走神経刺激術(VNS)は時間依存性の抗てんかん作用を示すことが知られている。本研究では脳磁図を用いてVNS前後の脳内ネットワークの変化について検討した。【対象・方法】2011年1月-2018年12月までに広島大学病院でVNS前後に脳磁図を行なった患者で、てんかん焦点切除を行なっていない24例を対象とした。VNS前後の脳磁図データを2秒のセグメントに分割し、目視でアーチファクトやてんかん性放電が含まれない安静覚醒時のデータを10sets抽出した。得られたデータで電流源推定を行ない、デルタ、シータ、アルファ、ベータ、ガンマ、ハイガンマ帯域のPhase-locking value(PLV)を算出し、平均した。各脳領域間でVNS前後のPLVの変化をレスポンダー(50% 以上発作減少)と非レスポンダーに分けて比較・検討した。【結果】平均手術時年齢は33.8歳、平均てんかん発症年齢は11.3歳、VNS前/後MEG施行時の平均投与薬剤数は3.1/3.9剤であった。発作型は23例が焦点発作で、10/24例(41.7%)がレスポンダーだった。デルタ、シータ帯域で左右楔部、楔前部、後部帯状回、後頭葉内側、左前頭葉弁蓋部間の、アルファ帯域以上では、前頭側頭弁蓋部、嗅内皮質、後部帯状回での有意(p=0.005)な結合性の変化(主に増強)をレスポンダーで認めた。【結語】VNSレスポンダーの脳活動は低周波帯域でdefault mode networkに含まれる脳領域間結合性が増強した。

  • 白水 洋史, 増田 浩, 福多 真史, 亀山 茂樹
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 350
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
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    目的:内側側頭葉てんかん(MTLE)症例の術前検査におけるMEG再検の有用性を検討する.

    方法:MTLEの術前検査においてMEGを行った82例(男性42例,女性40例;手術時10~66歳,平均30.9歳)を対象とした.術前に行ったMEG回数,各MEG検査における所見,結論について検討した.MEG所見については,いわゆるMTLEパターン(anterior horizontal or vertical pattern),その他の集積,所見無し/ノイズなどで分類し,MEGによる結論については,5段階(1. MTLE確定,2. MTLE疑い,3. TLE,4. 側方性のみ,5. 結論不可)で評価した.

    結果:術前に行ったMEG回数は1回(42例,51.2%),2回(31例,37.8%),3回(9例,11.0%)であった.1回目MEGでMTLE確定ないし疑いの結論が得られたのは27例(32.9%)であり,結論不可は38例(46.3%)であった.MEG再検で,MTLE確定ないし疑いの結論が得られたのは,2回目で18例(45%),3回目で1例(11.1%)であった.MEG再検により評価がグレードアップしたものは19例(47.5%)であり,最終的にMTLE確定/疑いとなったのは40例(49.3%),TLE疑いも含めると50例(61.6%)であった.

    結論:MEG再検により診断率が向上することが示された.現在本邦では,MEGは患者1人に付き1回しか保険算定できないが,2回目以降の検査も保険算定できることが望まれる.

  • 土屋 真理夫, 石田 誠, 大沢 伸一郎, 柿坂 庸介, 菅野 彰剛, 神 一敬, 張替 宗介, 中里 信和
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 351
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    緒言:眼球と頭部を一側に向反させるてんかん焦点は前頭眼野に存在し、発作起始側を示唆する側方兆候として重要視されている。今回我々は、同発作を呈した左前頭葉てんかん症例において、脳磁図が焦点診断に有用であった経験を報告する。症例:症例は21歳女性で、5歳時に全身けいれんでてんかんを発症した。13歳より意識が保たれた状態で両側眼球および頭部が右に向反する発作が出現した。当科で包括的てんかん精査を行った。ビデオ脳波モニタリングでは発作間欠時、発作時ともに脳波異常を記録できなかった。MRIでは左前頭葉中心前溝から脳室にかけて”transmantle sign”を認め、皮質形成異常(focal cortical dysplasia; FCD)が疑われた。FDG-PETでは同部位の糖代謝低下を認めた。結果:脳波脳磁図の同時計測において、脳磁図のみでてんかん性活動を記録できた。棘波信号源はMRI病変に一致して推定された。後日施行された切除検体によりFCD type IIbの診断が確定した。考察:てんかんの包括的精査において、各種所見を一元的に説明できる仮説を構築することは治療方針に極めて重要である。本症例では、脳磁図がてんかん診断に果たした役割は大きかった。実臨床では脳波と脳磁図の特徴を考慮したうえで、脳波で明らかな異常を認めない場合には脳磁図を積極的に考慮すべきであろう。

  • 石田 誠, 柿坂 庸介, 菅野 彰剛, 大沢 伸一郎, 浮城 一司, 神 一敬, 冨永 悌二, 中里 信和
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 352
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景】てんかんの原因病変である限局性皮質異形成(focal cortical dysplasia; FCD)では、皮質機能局在が健常者と異なる場合がある。今回我々は、中心溝近傍のFCDを有した頭頂葉てんかん例において、体性感覚野の異常局在を体性感覚誘発磁界(somatosensory evoked magnetic field; SEF)により、術前に推測しえた一例を経験したので報告する。

    【症例】症例は左利きの14歳女児で、1歳時に右半身の運動症状を繰り返した。薬剤抵抗性に経過し、右上肢を強直させる発作を繰り返したため、外科治療を目的に精査入院となった。入院時、右上下肢にMMT 4/5の運動麻痺を有した。感覚低下は中度知的障害のため評価困難であった。脳波で左中心部の発作間欠時棘波を、MRIでは左頭頂葉にFCDを疑う所見を認めた。後脛骨神経刺激SEFは左右とも正常であったが、正中神経刺激SEFでは左刺激は正常、右刺激でN20mを認めず、P25mと考えられる成分が確認された。その等価電流双極子の位置は中心溝上に推定されたが、下肢の領域に近接していた。硬膜下電極留置による正中神経刺激体性感覚誘発電位によって、SEFの異常と一致する所見が確認された。この領域を温存し病変の切除術を行ったが、皮質下線維の障害と考えられる上下肢の麻痺の悪化を認めている。

    【考察】FCDにおける非典型的な機能局在を術前に非侵襲的に予測しえたことは、てんかんのみならず脳腫瘍などの術前診断に、SEFは有用であることを示す。

  • 松橋 眞生, 岡田 直, 光野 優人, 河村 祐貴, 山田 大輔, 池田 昭夫
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 353
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
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    てんかん焦点検索に極めて有用であるMEGが脳波に比べ十分に活用されていない理由には、コストに加えて解析の煩雑さ、難しさがあると考えられる。これに対し我々は半自動解析法を開発し、従来の手作業による解析との互換性を保ちながら解析者の労力削減を目指した。Neuromag System (MEGIN)により発作間欠期脳活動を記録し、視察にててんかん棘波を検出・マークしたのち2種の自動解析を行った。(1)Matlab, Neuromag xfitを用いたチャンネルと推定時刻の最適化による電流源双極子(ECD)推定を行い、ECDクラスターを検出し、アトラスによる解剖位置の同定を行う。(2)TSI法により複数の棘波について統計的に優位な再現性のある活動領域を検出する。これら2種の解析結果は担当医が確認し報告書にまとめた。これにより検査者の解析と報告書作成の手間を大いに削減できたが、てんかん性棘波の検出は視察に頼っている。今後より頑健かつ鋭敏で信頼性の高い棘波検出法の開発が望まれる。

  • 岡村 朗健, 橋詰 顕, 香川 幸太, 片桐 匡弥, 瀬山 剛, 栗栖 薫, 飯田 幸治
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 354
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
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    【【背景】High frequency oscillations (HFO)はてんかん原性ネットワークの潜在的指標と考えられている。脳磁図の周波数解析の方法として、センサーを垂直方向に脳表へ射影して脳表上に周波数ごとにパワーを表示する、傾斜磁振動トポグラフィー(gradient magnetic-oscillation topography: GMOT)を開発した。【方法】2018年1月から2020年5月までに広島大学脳神経外科において焦点切除術を施行された病変を有する難治てんかん11例を対象とした。男性7名、女性4名で、平均年齢23.0歳(2-47歳)であった。術後病理所見は、Glioma 7例、Cavernous hemangioma 2例、Hippocampal sclerosis 1例、Focal cortical dysplasia type II 1例であった。頭蓋内電極設置は2例で施行されていた。術後発作転帰はEngel class I 10例、Engel class II 1例であった。脳磁図解析では、全検査時間について1秒おきに、HFOのうち200-330 Hzのパワーを脳表に描出するGMOTを作成した。パワーが800 (fT/cm)^2/Hz 以上をfast ripples (FR)と定義した。3-35Hzの波形についてECD推定により解析し、GMOTの結果と比較した。【結果】ECDは8/11例(72.7%)で病変近傍に集簇した。GMOTはFRを9/11例(81.8%)で病変近傍の脳表に描出した。頭蓋内脳波を施行した2例では、ictal onset zoneとGMOTで得られたFR領域との距離は3cm以内であった。【結論】GMOTによるHFOの解析結果はECD推定法とほぼ同様の結果を示した。

  • 工藤 俊介, 金矢 光久, 冨田 教幸
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 355
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    脳磁図(MEG)による認知症などの脳機能の診断の指標として自発脳活動の周波数解析結果(MF:mean frequencyなど)が有用であると報告されている。診断において有用であるためには同一被験者が別サイトもしくは別日に検査を行った際に同一の診断結果が得られるような安定性が必要である。しかし、そのサイト固有のノイズや液体ヘリウム(LHe)循環器、被験者から発生しうるノイズによって周波数解析結果は容易に歪められてしまう。そこで本研究では全頭型センサアレイMEGで様々な状況下において収録した自発脳活動データに対してDSSP(Dual Signal Subspace Projection)法を適用し、結果のばらつきが低減されるかを調査した。歯科治療金属の帯磁によるノイズがあるデータに対してDSSPを行ったところ各被験者でMF値が改善された。また、左鎖骨付近に磁性体を張り付け、脳近傍から強力な妨害信号が入ることを想定したデータに対してもDSSPを行ったところ各被験者でMF値が改善された。特にノイズを与えることなくクリーンな状態で収録したデータに対してDSSPをかけたところ、DSSPなしの場合とMFの値はほとんど変化がなく、α波帯の周波数スペクトルが変化しないことが確認されたためDSSPをかけることによるデメリットが極めて少ないことが示唆された。

  • 新田 尚隆, 鷲尾 利克
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 356
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    超音波(縦波)の音速は診断での有用性が期待され、いくつかの推定方法が提案されている。後方散乱波を用いる場合、遅延補正に基づく推定方法の実現性が比較的高いと考えられ、完全な均質媒体に対して妥当な推定結果を与えることが分かっているが、肝臓実質のような不均質媒体に適用したときの誤差は明らかにされていない。そこで本研究では、音速分布の不均質の程度が平均音速推定に与える影響を調査した。

    まずシミュレーションを行った。40 x 40 x 1 mmの直方体内に2500個の散乱体をランダムに配置し、肝臓実質を想定して、平均μ (= 1530 m/s)、標準偏差σ (= 0 ~ 20 m/s)のガウス乱数により音速分布を与えた。不均質の程度はσにより定量化された。媒体中央の深さ20 mmの位置にある強散乱点に向けて3.75 MHzの集束ビームを送信し、全チャンネルで受信される後方散乱波を計算した後、遅延補正に基づくフォーカス法とコヒーレンス法を用いて音速の推定値を求めた。各σに対して10回の推定を行い、σに対する音速推定値の平均と分散を評価した。その結果、両方法ともσによらず真値近傍の推定平均を得たが、σが大きくなると推定分散が増大した。

    次いでシミュレーションを近似した条件下でファントム実験を行い、シミュレーションと同様の評価を行った結果、σが大きくなると推定分散が増大する傾向が再現された。以上より、平均音速推定の信頼性を担保するσの許容値は5 m/s付近であると推察された。

  • 岩崎 弘益, 岡留 寛斉, 渡邉 晃介, 桝田 晃司
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 357
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    我々はこれまで、肝臓を対象とし、3次元超音波ボリューム中のBモードとドプラモードの融合による血管構造の再構成や解析、複数のボリュームを用いた空間的な拡張などを画像処理の手法を用いて行ってきた。しかし、仰臥位や側臥位といった体勢、呼吸状態の変化による血管網構造の再現性や、定量的な変形については検証が不十分であった。そこで本研究では、同一の被験者で得られた血管網構造の再現性の検証と、体勢と呼吸状態の変化に伴う臓器全体および局所的な変形の定量評価を試みた。肝臓血管網の撮像には、3次元プローブを搭載した超音波診断装置(Philips EPIQ Elite)を用い、6名の被験者に対して様々な体勢や呼吸状態にて超音波ボリュームの撮像を行い、門脈および肝静脈の2系統について、中幹から右葉を含む領域の血管網を再構成した。同一被験者で異なる状態の血管網構造から、共通分岐点間の空間レジストレーションを行い、共通分岐点間距離を導出した。その結果、同一の体勢・呼吸状態にて撮像した血管網同士の方が、異なる状態の血管網同士より、共通分岐点間距離が小さくなる傾向を確認した。また年齢による変化の有意差についても検証した。本研究により、3次元血管網の構造解析による臓器性状評価の可能性が示された。

  • 葉 煬, 芳賀 洋一, 鶴岡 典子, 明石 真
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 358
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本研究では、超音波を用いて細胞を採取するための極低侵襲なデバイスを設計、作製した。生細胞に含まれ、時間変化するタンパク質やRNA量には、個人の健康状態を理解するための膨大な量の異なる情報が含まれている。日中のさまざまな時点からの生細胞を採取し、分析することによって動的な細胞活動を明らかにすることができる。試作したデバイスでは、ランジュバン振動子から生成された超音波が超音波ホーンによって増幅され、治具や微細針に伝搬される。超音波を針先から真皮に照射し、超音波により生じた微細振動とキャビテーション効果が密着していた細胞間の結合を弱くした上で、細胞を吸引採取する。ブタの摘出皮膚組織を用い、異なる周波数と強度の超音波照射、異なる吸引速度と時間の条件下において細胞採取実験を行い、適した採取条件を検討した。

  • 松木 勇樹, 芥川 正武, 榎本 崇宏, 北岡 和義, 田中 弘之, 山田 博胤, 鳥居 裕太, 木内 陽介
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 359
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    循環器系疾患の危険因子の1つはアテローム性動脈硬化と考えられており,動脈硬化は生活習慣病によって進行が加速する.現在では血管内のプラークを評価できる頸動脈超音波検査が奨励されている.しかし,測定にはある程度の専門知識が必要であり,評価には医師の診断が重要となる.本研究グループでは,容易に測定可能な,小型のスクリーニングデバイスとして,血流速度測定装置の開発に取り組んでいる.これまで,加齢による波形の違いが現れることが知られているが,動脈硬化と血流速度波形の関連性は十分に明らかではない.そこで本研究では,動脈硬化症患者と健常者を研究対象とし,総頸動脈の血流速度波形の比較を行った.先行研究では,血流速度波形の特徴として収縮期の第2ピークや拡張期の最大血流速度で波形の評価を行ってきたが,被験者によっては特徴が現れにくいという問題があった.本研究では,拡張末期血流速度 (EDV , End-Diastolic Velocity) から収縮期最大血流速度 (PSV , Peak Systolic Velocity) までの収縮期加速時間 (AcT, Acceleration time) を算出し検討した.血流速度波形から得られたPSV、EDV、及びAcTを用いて,動脈硬化症患者と健常者間でKruskal-Wallis検定を行った結果,すべての動脈硬化指標で有意差(p<0.05)が得られた.以上から収縮期加速時間は動脈硬化を評価できる1つの指標である可能性が示唆された.

  • 黒崎 涼, 藤田 直大, 多賀 愛, 凾城 浩佑, 木戸 倫子, 長倉 俊明
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 360
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    (はじめに)静脈系の異常である下肢静脈瘤は血栓症により肺塞栓血栓症の原因となる。発症すれば生命の危機に繋がる。現在、静脈瘤の検査方法には圧迫法、ミルキング法で、これらの方法では血栓の剥離が起こり肺梗塞血栓症なるリスクがある。そこで、下肢の挙上・下垂のような生理的動作で静脈の断面積変化を、超音波画像計測により静脈の動的特性を評価できるのではないかと考えた。(目的)静脈ではベルヌーイの定理により血流は遅いため無視できるとすると、心臓と下肢の高さを変化させることで、静脈圧が変化する。静脈壁は薄いため、静脈の断面積が変化する。これを利用して、静脈の動的特性を計測することを試みた。(方法)仰臥位から下肢のみを挙上し、9MHzのリニアプローブによる超音波診断装置で大伏在静脈の経時的な断面積変化を計測した。計測は挙上終了時から30秒間連続的に行い、血管壁の検出を行う断面積計測を行った。(結果)下肢を下垂した状態から水平にもどした時の静脈断面積は、拡張状態から収縮するが、この特性に個人差があるだけではなく、単調な変化だけではなく、振動を示すことも多く、その特性パターンを、今回は4種類に分類した。さらに多変量解析で、特性パターンには体格や生活が関係することが分かった。(結論)今後は静脈の断面積を検出の精度を向上させ、下肢静脈瘤発達の予測が可能にしたい。

  • 武井 真輝, 清水 太一, 小林 勇太郎, 桝田 晃司
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 361
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

     カテーテル治療では現在,X線透視画像を用いて誘導しているが,超音波画像を用いることで,患者の負担が軽減される可能性がある.しかし,血管内に存在するカテーテル自体が超音波画像中では認識が困難である.先行研究として,カテーテル先端に搭載したPZTの振動と超音波のドップラーシフトを利用したものがあるが,この手法では挿入可能な血管の太さに限界がある.そこで本研究では,血管内のカテーテル先端から微小気泡を噴出し,その動きをオプティカルフロー法で検出することで,超音波ボリューム中のカテーテル先端位置を推定することを目的とする. カテーテル先端から微小気泡を噴出する実験装置を開発し,超音波診断装置の4Dモードで撮像した.取得したボリュームデータに対し,輝度の閾値を設けて計算対象領域を限定し,オプティカルフローを計算した.微小気泡の動きを検出したフロー分布から,平均方向ベクトルと分布の重心を計算した.それらから空間的な配置の関係を求め,微小気泡の噴出速度から推定される位置偏差から,カテーテルの先端位置を推定した.噴出速度0.1mm/sの条件で検出を行った場合,3次元座標中での誤差は,(x,y,z) = (2.19, -3.88, -0.38) mmであった.この値は2次元アレイトランスデューサによる焦点サイズよりも十分小さいため,本研究により,提案した手法で生体内のカテーテルを屈曲できる可能性が示唆された.

  • 赤澤 堅造
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 362
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    ヒトの随意的な運動制御の基礎として,力制御および位置制御がある.力制御の仕組みは良く分かっているが,位置制御はまだ十分には分かっていない.特に力―筋長関係の下行脚における位置制御の仕組みはほとんど解析されていない.筆者は次の5種の研究により,位置制御の仮説を提案する.1)カエル半腱様筋の収縮力学特性を計測した(山代谷真之ら,生体医工学 2003).2)この結果に基づき,新しい2モード筋モデルを提案した(Akazawa, Adv Biomed Eng 2019).フィラメント滑走モードと伸展によってばね様特性が発現するSTモードである.3)ヒト指伸筋を対象として.等尺性収縮(力制御)および位置制御(指位置を一定値に維持)における運動単位の発射周波数を比較した(Kanosueら,Jpn J Physiol1983).いくつかの運動単位では,位置制御での発射周波数が低かった.4)ヒト指伸筋は下行脚で動作している(Llewellynら, Nature 2008).5)ヒト指伸筋の運動単位の振る舞いを明らかにするために上記の筋モデルを用いてシミュレーションを実施し(Akazawa. Adv Biomed Eng 2020),筋内の一部の運動単位がSTモードで動作することにより,安定な位置制御が可能であることが示された.

  • 三浦 弘喜, 岡田 志麻, 牧川 方昭, 王 天一
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 363
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    卓球の技術を習得し易くするには未経験者と熟練者の違いを定量的に明らかにする必要がある.本研究では着目する関節や部位における加速度の再現性と筋発揮タイミングに着目し,各部の加速度,表面筋電図,ボール射出タイミングからフォアハンド打法の再現性と筋発揮タイミングに着目する定量評価手法をそれぞれ提案した.被験者は健常成人とし,卓球経験10年以上の熟練者3名,未経験者3名の計6名(21.3±0.9歳)を対象とした.加速度センサを肩,肘,手甲の3箇所に装着し,筋電図計測器を三角筋前部と三角筋後部,上腕二頭筋,上腕三頭筋の4箇所に装着した.本実験では再現性を評価する手法として,加速度センサから得た各部位の加速度の自己相関を計算し,相関係数を評価する手法を提案した.また筋電図信号を整流化した後に積分フィルタを用いて筋発揮タイミングを評価した.結果として,再現性に着目したとき熟練者と未経験者で類似した数値となるものが存在した.これは正しい動作でなくても再現性が高ければ良い結果となることが考えられる.したがって,加速度の自己相関係数では熟練者と未経験者の違いを判断するには限界があると推察できる.対して,熟練者のフォアハンド打法における筋発揮タイミングは三角筋前部,後部,上腕二頭筋に統一性がみられたため,フォアハンド打法には正しいとされる筋発揮タイミングが存在すると推測できる.

  • 齊藤 萌美, 岡田 志麻, 王 天一, 牧川 方昭
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 364
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    腰痛や関節痛の発生リスクが高まる姿勢・動作に対し,現状では非接触,低拘束で最適な補助タイミング,補助力,姿勢を評価できるシステムが少ない.そのため本研究ではカメラと簡易床反力を用いて低拘束で持ち上げ姿勢が評価可能かを検証した.被験者は健常女性6名(22.5±1.0歳)とし,0kgと15kgの箱の持ち上げを行った.持ち上げ動作の動画から骨格推定を行い,関節角度や関節トルクを算出した.加えて圧力分布計からCOP,足裏に配置したフォースセンサから床反力もそれぞれ計測した.持ち上げ姿勢の評価指標として,最大関節トルク,関節屈曲角度,COP(center of pressure)の仮説を立てた.予め動画から被験者を「良い持ち上げ姿勢」「悪い持ち上げ姿勢」に分類し,評価指標と結果との整合性を確認した.結果として15kg持ち上げ時の良い姿勢では最大トルクとなるタイミングの一致度が低かった.関節角度について姿勢ごとに顕著な差がみられたのは膝関節のみであった.前後方向の重心移動について,良い持ち上げ姿勢では変動が小さく,5回の試行について再現性が高かった.以上より本研究の条件下では,持ち上げ姿勢の評価指標として「関節角度変化」「COP変動」が適当である可能性が示された.また最大関節トルクタイミングの一致度については,「良い持ち上げ姿勢」を評価することは難しかったが,新たに荷物引き寄せ動作の判別に使用できる可能性があった.

  • Kennedy Omondi Okeyo, Yuta Ando, Taiji Adachi
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 365
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Stem cells have the potential to self-organize and differentiate, giving rise to tissues of varying complexities. However, how mechanical conditions arising from self-organized tissue formation contribute to changes in pluripotency state and, hence, differentiation remains largely unexplored. Therefore, to assess the contribution of tissue edge tension to pluripotency transition, in this study we designed adhesion-limiting island mesh substrates to confine self-organization, enabling us to generate mouse ES cell layers with an island-like topography and well-defined tissue edge. Using immunofluorescence microscopy as well as RT-PCR analyses, we found that edge-localized depletion of Oct3/4 expression coincided well with F-actin and phospho-myosin light chain (pMLC) enrichment, and ERK activation at the tissue edge. Since the role of ERK activation in Oct3/4 suppression is well established, we suggest that edge-tension may act via ERK activation to drive pluripotency change in an outside-inside fashion, starting from the tissue edge toward the interior.

  • 小泉 彩芽, 木村 雄亮, 青山 千裕, 池内 真志
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 366
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    心臓は拍動に伴い血行力学的な負荷(メカノストレス)を受ける。メカノストレスの増大は心肥大を引き起こし、その状態が長く続くと心不全に陥る。心筋細胞のメカノストレス応答の解明を目的として様々な細胞伸展デバイスが開発されているが、伸展刺激の位相に着目した研究は行われてこなかった。心筋細胞は拍動周期の中で位相によって異なる負荷を受けるため、細胞への伸展刺激の付与において自律拍動との位相差を考慮することには重要な意味がある。そこで本研究では、心筋細胞の自律拍動の位相に応じて伸展刺激を付与できる細胞伸展システムの開発を行った。アクチュエータには高い分解能と応答性を有するピエゾアクチュエータを採用し、倒立顕微鏡により撮影される動画からの拍動検出にはオプティカルフローを用いた。システムの機能評価実験の結果、細胞の拍動開始を検出し、伸展を行うまでの応答時間は約20msであることが確かめられた。また、周期的伸展実験を行い、遺伝子発現量等の評価により、心筋細胞の伸展刺激に対する応答解析を行った。さらに、自律拍動の特定の位相における伸展刺激により異常拍動現象が誘発され、心臓震盪のin vitro病態モデルとしての可能性が示された。

  • 寺本 汐里, 孫 光鎬, 淺井 雅人, 松井 岳巳
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 367
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    COVID-19の世界的流行に伴い、様々な場所でサーモグラフィを用いた顔表面温度測定に基づく体温推定が行われている。しかし、顔表面温度と腋下温の相関係数は0.7程度(Sun G. et. al., Int. J. Infect. Dis.2014)であり、深部体温や外気に影響されて顔表面温度が決定するプロセスも明確にはなっていない。本研究では、感染拡大防止のための高精度な非接触体温推定を目的として、直接的な熱伝導が予想される目頭付近(内眼角付近の強膜)の温度から脳前頭前野の深部体温を推定する手法を開発した。目頭付近の表面温度と脳前頭前野の深部体温は、それぞれ赤外線サーモグラフィと前額に装着した熱流補償型・深部温度プローブを用いて測定した。測定は東京都立大学の健常な学生6名(男性4名女性2名,平均21.7歳)を対象にビックマック1個とホットドリンクの食事前と深部体温が上昇する食事後に行い、4名分40組のデータセット(目頭付近の表面温度と脳前頭前野の深部体温)を学習データ、2名分20組のデータセットをテストデータとして用いた。回帰分析により作成した脳前頭前野の深部体温推定式を次に示す。Y=0.27*X+26.9(Y:脳前頭前野の深部体温,X:目頭付近の表面温度)脳前頭前野の深部体温推定値と熱流補償型・深部温度計による実測値の間には、推定誤差0.03℃、相関係数0.88の高い相関が認められた。提案手法は感染症スクリーニングシステムに実装済みで、都内コロナ専用病棟で試用予定である。

  • 北岡 裕子
    2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 368
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、大気中に浮遊する微小なエアロゾルとして吸入されて肺胞に到達し、2型肺胞上皮細胞に感染することで急性間質性肺炎をひき起こす。間質性肺炎は肺胞壁が炎症によって肥厚する肺炎とされている。しかし、肺胞壁の変化をライブで観察することは動物実験であっても技術的に不可能なので、「肺胞壁の肥厚」という所見は異なる個体(もしくは同一個体の異なる部位)の病理組織像を組み合わせて得られた推論である。演者は2004年、肺胞構造の4Dモデル(=動的3Dモデル)を発表し、間質性肺炎やARDSで肺胞壁の肥厚とされている所見は、虚脱した肺胞の壁が折り重なっている所見を誤解釈したものであると主張した。2型肺胞上皮細胞では肺サーファクタントが産生・分泌される。肺サーファクタントは肺胞壁表面を濡らす液膜内に分布し、その表面張力を低下させる機能がある。そのため、ウイルスの感染により、肺サーファクタントが欠乏した肺胞は表面張力の増加によって虚脱する。

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