日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第62回日本衛生動物学会大会
選択された号の論文の79件中1~50を表示しています
  • 佐藤 卓, 松本 文雄, 安部 隆司, 二瓶 直子, 小林 睦生
    セッションID: A01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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     近年、生息北限が北上しているヒトスジシマカについて、岩手県内における生息分布状況を明らかにするとともに、年平均気温等との関連を検討することにより、今後の節足動物媒介性ウイルス疾患の予防対策に資することを目的として調査を行った。2009年8~10月、岩手県盛岡市、花巻市、奥州市、一関市、大船渡市、釜石市、宮古市、住田町、大槌町及び山田町の計99地点で、古タイヤなどのたまり水に生息している蚊の幼虫を太口ピペットで採取した。蚊類の同定は、室内で羽化させた成虫をエーテルで麻酔後、実体顕微鏡で観察し、形態学的に鑑別を行った。年平均気温は、1kmメッシュ気温データの日平均値について2006~2009年の4年間の平均値とし、10.0℃から0.2℃きざみで11.6℃までの地域について検討した。解析にはGISWAY-light Ver.2.2.3を用いた。
     ヒトスジシマカの生息が確認された地点は盛岡市、花巻市、奥州市、一関市、大船渡市、釜石市、住田町及び大槌町の6市2町の計26地点であった。同蚊生息地点の年平均気温は10.8℃以上であった。今回の調査ではヒトスジシマカの生息北限は盛岡市仙北町(N38.6879 E141.1526 )であったが、2010年に再度生息を確認する必要がある。同蚊の飛翔距離は100-150m程度であることから、他の生息地から輸送されてきていることも考えられ、気温の上昇など生息条件が整えば、盛岡市に定着する可能性は高い。一方、花巻市では、2007年から3年間連続して同じ地点から、また、市街地の複数の地点で生息が確認されていることなどから、花巻市ではすでに同蚊が定着していると考えられる。また、今回の調査では年平均気温が10.8℃以上の地域で同蚊の生息が可能であることが示唆されており、今後、地球温暖化などによる気温の上昇に伴い、同蚊の分布域が拡大することが予想される。
  • 二瓶 直子, 駒形 修, 斉藤 一三, 栗原 毅, 小林 睦生
    セッションID: A02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    我々は東北地方におけるヒトスジシマカAedes albopictusの分布を規定する気温条件として、最寒月の月平均気温、年平均気温、有効積算温度を検討してきた。中でも最も普遍的な指標として利用できる年平均気温に着目して,年平均気温11℃、日平均気温11℃以上の年間の日数、また11℃を閾値として有効積算温度を検討してきた。日平均気温11℃以上の日数が186日以上、有効積算温度1350℃以上というヒトスジシマカの生息確認地の気温条件を満たしていた山形市では,1998年以前には墓地などの調査ではヒトスジシマカの分布は確認されなかった。その後郊外の住宅地でヒトスジシマカの分布が疑われ、2000年には市内の寺院でヤマトヤブカのほかヒトスジシマカが確認された。2002年にはヒトスジシマカのコロニー比率が上昇した。その後調査は実施していなかったため、両種の構成比率の消長を確認する目的で、2009年8月に市内の中心部以外に、環境の異なる周辺地域も含めて生息調査した。墓、蹲、古タイヤその他の人工容器で幼虫を採集し、研究室に持ち帰り成虫にして、種の同定を行った。また調査中に飛来してきた蚊成虫を捕虫網で捕集した。採集場所については寺の電話番号から経緯度を検索し、結果をGISソフトとしてArcViewを用いて採集寺別にヒトスジシマカとヤマトヤブカのコロニー数の比率で図化した。その構成比率の地域差に着目して、他の気温要因や環境要因の解析を行う予定である。
  • 新庄 五朗, 川瀬 充, 40周年記念事業 実行委員会
    セッションID: A03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    2008年愛知県ヘ゜ストコントロール協会は創立20周年を迎え、記念事業として蚊媒介性感染症の平常時対策「蚊発生状況調査」を選定し、以下の3調査を実施した。その概要を報告する。 1.道路設置の公共雨水枡調査:県下14ヶ所で公共雨水枡の設置場所のマッフ゜を作成しながら、有水枡および蚊幼虫発生枡を調査した結果、県下全域の設置総数は約162万個であり、その約18%が蚊幼虫の生息枡数と推計した。発生の蚊種はアカイエカ種群、ヒトスシ゛シマカの2種であった。 2.蚊成虫の季節消長調査:県下8ヶ所でト゛ライアイス・トラッフ゜(CDC型使用)による成虫季節消長を調査した。捕獲された蚊総数はアカイエカ種群973匹(発生ヒ゜ーク7~8月)、ヒトスシ゛シマカ331匹(同9月)、コカ゛タアカイエカ2匹(1地点のみ)であった。 3.児童公園の冬季雨水枡調査:県下12の児童公園の雨水枡を原則11月~5月の間継続調査した。越冬幼虫は確認されなかった。捕獲された蚊種はアカイエカ種群、ヒトスシ゛シマカ、トラフカクイカ(一部地域のみ)の3種であった。
  • 津田 良夫, 金 京純
    セッションID: A04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    四国地方東部の水田地帯および周辺丘陵地を対象として,2009年5月から10月の期間毎月1回の頻度で疾病媒介蚊調査を実施した.1kgのドライアイスを誘引源とするトラップ12台を用いた24時間採集を3日間継続して,合計18種類5172個体が捕獲された.コガタアカイエカが全体の60%を占め,ついでアカイエカ群,カラツイエカ,ヒトスジシマカの順であった.カラツイエカの構成割合が全体の10%とやや高いことが,過去に調べた出雲平野などの蚊相と異なっていた.水田地帯と丘陵地帯との境界に位置する溜池の周辺では捕獲された種類数が多く,湿地に発生する種類だけでなく,樹洞など小さな溜まり水に発生する種類(例えばキンパラナガハシカやフタクロホシチビカ,ヤマトクシヒゲカ)や日蔭にある湿地に発生する種類(例えばコガタクロウスカ,エセシナハマダラカ)など多様な蚊群集が形成されていることが示唆された.海岸沿いの2次林にサギ類が集団で多数繁殖している場所(サギ山)があり,林内の下草などで休息している成虫の捕虫網による採集を行った.その結果9種類687個体の蚊が採集され,このうち368個体(53.6%)は体内に未消化の血液を保持しているか,あるいは完成卵を持っていた.総捕獲個体に占める吸血蚊の割合は,アカイエカ群が77.7%と最も高く,ついでトラフカクイカの66.7%,コガタアカイエカの42.2%であった.
  • 渡辺 護, 米島 万有子, 二瓶 直子, 小林 睦生
    セッションID: A05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    演者らは、気候変動・地球温暖化に伴う‘蚊媒介性感染症’の流行の懸念に対し、現時点での媒介蚊の発生状況を把握する必要を感じ調査を行って来た。この過程で、マラリアを媒介するシナハマダラカ群が極めて少ないことが明らかになって来た。そこで1929~39年にマラリア患者の発生が全国1位であった福井県において (38,629名/全国100,852名;1934~39年)、現在の蚊の発生状況を把握する目的で2009年に調査を開始した。調査は1930年代、最もマラリア患者の発生が顕著であった福井県鯖江市と越前市にまたがる‘鯖江盆地’で、牛舎1軒に東京エーエス社製のライトトラップを、さらに盆地内の10地点にCDCミニチュアトラップを各点2台、計20台設置することで行った。期間は6月25日~10月9日の間に、3週毎に6回、連続2日間ほぼ14時から翌朝10時まで捕集した。なお、CDCトラップは豆電球を外し、ドライアイス1kgを誘引源とした。 牛舎ではコガタアカイエカが圧倒的に多く、全体の97%、63,913個体が捕集され、シナハマダラカ群は1,742個体(2.6%)と少数であった。CDCトラップではシナハマダラカが捕集された地点は4地点5台で、僅かに15個体(0.13%)であった。コガタアカイエカとアカイエカは全地点全トラップで捕集され、前種は8,303個体(71.9%)、後種は2,846個体(24.7%)であり、ヒトスジシマカは8地点13台で233個体(2.0%)が捕集された。 調査方法が全く異なるが、山田(1941)、岩田(1941)、野村(1943)、大森・榊原(1951)、木水(1952)などの成績と比べると、今回の調査成績は明らかにシナハマダラカの捕集数が少なく、種構成率も低いことが示唆された。その原因については現在解析中である。
  • 米島 万有子, 渡辺 護, 二瓶 直子, 津田 良夫, 中谷 友樹, 小林 睦生
    セッションID: A06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    2008年に琵琶湖湖東地域(彦根市,東近江市,安土町,近江八幡市)においてCDC型トラップで蚊を捕獲した結果,捕獲数に地域差が認められた.そこで定点間で生じる捕獲数の差異を,定点周囲の景観特性から検討するために,2009年には,住宅地が卓越する彦根市北部(地区A),沼が分布し,農地と住宅が混在する彦根市南部(地区B),内湖と農地が分布する西の湖周辺(地区C)の3地区を選び,計20定点で蚊の捕獲調査を実施した.調査はドライアイス1kgを用いたCDC型トラップで,5月29日から10月4日までの,3週間毎に2日連続で,計7回実施した.
    定点間で観察されたトラップ当たり捕獲数の違いが,トラップ周囲の景観の違いによってどのように説明できるかを検討した.分析に当たってトラップ周辺のどれくらいの範囲を分析の対象とし,その範囲内のどの景観要素が重要な説明要因であるかを明らかにすることを目的とした.そこでトラップ設置場所を中心とする大きさの異なる8つの同心円(50~2,000m)を設定し,それぞれについて11個の景観要素を区別してその構成比率を求めた.景観要素の構成比率および地形条件とトラップ捕獲数の回帰分析を行い,トラップ捕獲数の定点間の違いを最もよく説明する円の大きさと構成要素を求めた.その結果,_丸1_コガタアカイエカの捕獲数では半径2km圏内の水田の構成比率,_丸2_シナハマダラカではトラップから半径500m圏内の湿地と農地の構成比率が重要な説明要因であることが示唆された.分析結果に基づき,琵琶湖湖東地域全体についてトラップによる捕獲個体数の推定を行い,吸血飛来ポテンシャルマップを作成した.
  • 二瓶 直子, 米島 万有子, 渡辺 護, 津田 良夫, 金 京純, 澤邉 京子, 大橋 眞, 中谷 友樹, 小林 睦生
    セッションID: A07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    戦前戦後のいわゆるマラリア5県として注目された県の中で、最後までマラリアが流行していた滋賀県琵琶湖周辺でマラリア媒介蚊の調査を行い、蚊相を明らかにして,それに及ぼす土地利用の変化を検討した。調査対象地域は琵琶湖湖畔で患者の多かった彦根市をはじめ東近江市,安土町,近江八幡市で、蚊捕獲期間は2009年5月29日から10月4日で、3週間ごとに、ドライアイス1kgを誘引源としたCDCトラップによる2夜連続の捕集を行った。捕集地点については、彦根城の濠、水田地域、内湖・河川流域のヨシ原などの湿地および水域など、土地利用の異なる3地区を選び20定点を設定した。牛舎における東京エーエス社製ライトトラップは、昨年に引き続き彦根市の水田地域内乳牛牛舎、近江八幡市の元大中の湖縁辺部の肉牛牧場、近江八幡市中の牛乳製造販売酪農家牛舎の計3ヶ所に設置した。 CDCトラップ20台については全雌捕集数73,049個体のうちコガタアカイエカが89.1%を占め、その他アカイエカ、シナハマダラカ、ヒトスジシマカなど計11種類が捕集された。捕集数や種類、その季節消長には地域差が確認された。ライトトラップではコガタアカイエカ雌223,518個体,シナハマダラカ雌18,640個体が捕集され、シナハマダラカのコガタアカイエカに対する割合は7.1-20.4%であった。なお形態的にはオオツルハマダラカと同定された個体に関して分子診断を行った結果、全てシナハマダラカであった。チョウセンハマダラカは昨年幼虫が採集された地点で成虫が捕獲された。CDCトラップの蚊捕獲数の地域差と景観の解析は本大会で米島らが発表する。調査地区のうちハマダラカが最も多く捕獲された西の湖周辺地区について、1961年から2006年までの空中写真6枚で土地利用を復元した。これらのデータからハマダラカの吸血飛来ポテンシャルマップの作成を検討中である。
  • 大橋 和典, 阿部 眞由美
    セッションID: A08
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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     リヴァースシマカ(リバーズシマカ)Aedes (stegomyia) riversiは琉球列島で普通であるが、九州における産地は局地的で、照葉樹林が残された島や沿岸部だけに限られる。その分布状態から、本種は後氷期に北上し、その後、限られた自然林だけに取り残されてきたと考えられている。九州以外では1998年に高知県の足摺岬と土佐清水で分布記録が追加されたが、本州での分布記録はなかった。
     2009年9月13日、紀伊半島南部に位置する和歌山県すさみ町の江須崎(沿岸とわずかに陸続きの面積7haの島)において、1ヶ所の樹洞の水たまりからAedes属の幼虫を採集した。これらを成虫まで飼育したところ、リヴァースシマカ8♂、4♀、ヤマダシマカ1♂、2♀を得た。また、この樹洞内からは羽化直後と思われるリヴァースシマカ1♂も採集した。その後、9月26-27日に、和歌山県西部の美浜町から最南端の潮岬にかけて沿岸部で調査を行い、人里離れた照葉樹林17地点で成虫および幼虫の採集を行った。その結果、ヒトスジシマカが12地点から得られたのに対し、リヴァースシマカは江須崎のみで採集された。紀伊半島の沿岸部にはウバメガシやシイを中心とした照葉樹林が発達しているが、これらの大部分が薪炭林として管理されてきた二次林であると思われた。江須崎は島全体が神域として保護されてきた歴史があり、貴重な暖地性植物群落が国の天然記念物に指定されている。今回調査を行った地点のうち、確実に自然林と思われたのは江須崎のみであった。このことから、本種がかつて広域に分布し、その後、自然林の消滅に伴って分布が限定されたという従来の遺存分布説が支持される。今後、紀伊半島の自然林と二次林を対象とした詳細な調査が必要である。
  • 宮城 一郎, 當間 孝子, 万年 耕輔
    セッションID: A09
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    琉球列島には現在72種の蚊が分布するが、そのほとんどが森林内に生息しており、各種蚊の吸血源動物、特に冷血動物を吸血する蚊についてはほとんど明らかにされていない。夜間、蛙や蛇に吸血中の昆虫に遭遇することは稀である。そこで演者自身、機会あるごとに森林内で蛙や蛇など冷血動物を吸血する昆虫の撮影に焦点を絞って観察すると同時に、野性生物動物保護センター(環境庁)などの研究者に両生・爬虫類を吸血するハエ類の生態について講演し,喚起を促した。近年、デジタルカメラの普及により、野外で小動物の接写撮影が容易になってきた。2006年から2008年までに蛙、蛇,トカゲモドキを吸血中の次の吸血性昆虫が沖縄本島、奄美大島、徳之島、西表島で撮影された。 コガタクロウスカ・Culex (Mochthogenes) hayashii ?*(オットンガエル吸血)、イエカの1種?*(ナミエガエル吸血)、オキナワチビカ・Uranotaenia (Ura.) annandalei (ホルストガエル)、ストウンチビカUranotaenia (Pfc.) jacksoni (オキナワアオガエル吸血)、キンパラナガハシカ・Tripteroides bambusa ?*(ヤエヤマアオガエル吸血)、サシチョウバエの1種Sergentomyia sp. (ヒメハブ、クロイワトカゲモドキ、オビトカゲモドキ吸血)、ニホンチスイケヨソイカ・Corethrella nippon (ナミエガエル吸血).なお、「?*」を付した蚊は顕微鏡下での同定がなされていない。
  • 當間 孝子, 宮城 一郎, 岡澤 孝雄, 万年 耕輔
    セッションID: A10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    演者らは2005年からマレーシアのサラワク州で、サラワク博物館との共同研究でハエ類の多様性生物に関する調査研究を行っている。2009年8から9月は、サラワク州のインドネシア国境に近い熱帯雨林が繁茂する山岳地帯のバリオ高地で調査を行った。調査期間中に、2村(Pa'Lungan, とBario)の人家内・外やその周辺部で蚊の調査を行う機会を得たのでその結果について報告する。 Pa'Lunganは、18人乗りの飛行機が発着するBario村から約10km離れており、交通手段は徒歩以外になく、トレッキングを楽しむ欧米人が訪れている村である。Pa'Lunganの人家内には水を貯める容器が比較的多かったが蚊幼虫の発生はなかった。人家外には水を貯めている容器類は調査した家ではなかった。敷地内では、昼間(9:00-16:00)人に吸血飛来する蚊はいないが、夜間(20:00-23:00)は、Culex gelidusCulex tritaeniorhynchusMansonia annuliferaなど5種が飛来した。集落の周辺には水田が広がり、水牛などの足跡や水田などの水溜まりが多く、そこにはCulex alienusCx. pseudovishnuiCx. gelidusCx. fuscocephalaCx. nigropunctatusAedes vexansが生息していた。Bario村の人家内には飲料水を貯める容器が多数あるが、幼虫は発生していなかった。人家の外には容器が多数あり、Aedes albopictusCx. tritaeniorhynchusCx. nigropunctatusなどの幼虫が生息していた。昼間はAedes albopictus、夕方(17:00-19:00)はArmigeres confusus、夜間はCulex gelidusCx. quinquefasciatusなど7種が吸血に飛来した。両村の人家周辺にはAedes aegyptiは生息していなかった。
  • 岡澤 孝雄, 宮城 一郎, 當間 孝子, 比嘉 由紀子, Leh Charles
    セッションID: A11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    Miyagi and Tomaは東マレーシア、サラワク州Bario高原のウツボカズラ(Nepenthes)より採集した6匹のTopomyia属の幼虫より成虫を得て、2007年に新種Topomyia (Suaymyia) nepenthicolaを記載した。ウツボカズラはその形が独特なところから多くの者がその中に棲む昆虫に注目してきたが、Topomyia属はそれまで採集されず、新種の記載がされた後も、我々にとっても採集が難しい種と考えられてきた。2008年にBarioの北20kmにあるPa-Lungan村の近くの道沿いのウツボカズラから短時間の間に20匹弱の幼虫を採集することができ、To. (S.) nepenthicolaの棲息するつぼの調査ができる見込みがつき、2009年に同じ場所で調査を行った。目的は、_丸1_To. (S.) nepenthicolaが棲息するウツボカズラの種、_丸2_To. (S.) nepenthicolaが棲息するつぼの特徴、_丸3_弱令(1令、2令)幼虫の棲息、の3つを明らかにすることであった。採集は1.調査地でTopomyia幼虫の棲息するつぼの個別採集、2.半分枯れたつぼでの採集、3.比較的若い全部生きているつぼでの採集、の3つを行った。To. (S.) nepenthicola幼虫の棲息していたウツボカズラの種はNepenthes stenophyllaN. reinwardtianaN. sp.の3種であった。To. (S.) nepenthicolaが棲息していたつぼは上部が半分以上が枯れた古いつぼで、PHは5-7であった。上部が枯れたつぼからは1令2令の弱令幼虫も採集された。若いつぼからはTo. (S.) nepenthicola幼虫は採集されなかった。
  • 二見 恭子, Peter Lutiali, Mercy Mwaina, Gorge Sonye, Gabriel Dida, Scholas ...
    セッションID: A12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    マラリア媒介蚊は種によって多様な吸血行動や生態を示すため、その種構成はマラリア伝播に関わる要因の一つである。媒介蚊の種構成には季節変動や年変動があり、土地利用の変化や媒介蚊防除等の人間活動によっても変化しうる。マラリア流行地である西ケニアのスバ地区では、Anopheles gambiae種群に含まれるAn. gambiae とAn. arabiensis、および別種群に含まれるAn. funestusが主要な媒介蚊である。1998-9年に採集されたAn. gambiae種群幼虫のうち、63%がAn. arabiensis、31%がAn. gambiaeであり、An. arabiensisが優勢種であった。一方、屋内の成虫では、An. gambiaeが91%を占めていた。しかし2006年以降に始まった全国的な防除活動によって、種構成が変化している可能性がある。そこで本研究では、2008年と2009年にスバ地区でAn. gambiae 種群の幼虫および成虫を採集し、1998-9年の種構成と比較した。その結果、2000年後半に採集された幼虫の94%がAn.arabiensisであり、10年前よりもさらに種構成が偏っていた。また成虫密度および成虫の種構成の比較では、2008年には密度が大幅に減少し、その61%をAn. gambiaeが占めた。しかし1998-9年の結果と比較すると、成虫においてもAn. arabiensisの割合は増加していた。以上の結果は、種特異的行動と媒介蚊防除活動が種構成に影響した可能性を示唆する。防除によって集団は縮小したが、An. arabiensisは相対的に高い屋外指向性を持つため、An. gambiaeに比べてITNやIRSの影響を受けにくく、集団全体ではAn. arabiensisの割合が増加したのだろう。しかし屋内で採集された成虫については、屋内指向性の高いAn. gambiaeの割合が高いのだろう。
  • 大橋 和典, 津田 良夫, 葛西 真治, 川田 均, 阿部 眞由美, 都野 展子, 高木 正洋
    セッションID: A13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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     演者らはこれまで、住宅地におけるウエストナイルウイルスの潜在的媒介蚊としてアカイエカとチカエイカが重要であることを明らかにし、長崎県では、アカイエカが2月下旬~3月上旬に休眠から覚醒して活動を開始すること、チカイエカは冬期でも野外で活動していることを報告した。冬期における媒介蚊の吸血活動は、病原体の伝播や越冬条件を決定する重要な要因になりえるので、野外における吸血活動と気温条件との関係を調査した。
     ニワトリを囮としたトラップを地上1.5mに日没後5時間設置し、2.5時間おきに蚊を回収した。トラップの設置は降雨や風のない日を選び、2007年2-4月に18回、2007年12月-2008年1月に19回実施した。気温をデータロガーで記録し、2.5時間の平均気温を蚊の飛来時の気温とみなした。採集されたアカイエカとチカイエカは、PCR法および個体飼育後のF1雄成虫の交尾器によって同定した。その結果、アカイエカは7.5℃以上、チカイエカは6.8℃以上で採集され、両種とも10℃を越えると飛来数が増加することが明らかとなった。これら飛来した蚊は低温条件でもトラップ内でニワトリから吸血することができた。そこで、吸血時の気温と吸血量の関係を調べるために、トラップ内で採集された吸血蚊を実験室に持ち帰って産卵させ、吸血量の指標として産卵数を記録した。産卵数は体サイズと有意な相関がみられたが、吸血時の気温には影響を受けていなかった。したがって、アカイエカとチカイエカは気温約7度以上で吸血活動を行い、低温条件下でも吸血量が低下しないことが示された。蚊の活動が活発になる10℃以上では、ウエストナイルウイルスの伝播のリスクが生じると考えられた。
  • 津田 良夫, 金 京純
    セッションID: A14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    2007年および2008年秋に東京都立林試の森公園で多数のコガタアカイエカが捕獲されたことを昨年報告した.2009年にも同じ公園で3月から12月の期間,同様の調査を実施した.2009年春(3,4月)に実施した捕虫網採集の結果,越冬から覚醒したと思われるコガタアカイエカが合計211雌捕獲され,この採集地の近くに越冬場所が存在していることが示唆された.捕獲虫の中には4個体の吸血蚊が含まれていた.吸血蚊サンプルは1個体ずつ分析を行い,ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子あるいは16S rRNA遺伝子領域の塩基配列によって吸血蚊の吸血源動物を同定した.その結果,2個体はヒト,1個体はネコを吸血していたと推察された.2009年秋のコガタアカイエカの飛来も過去2年の観察結果と同様に,9月中旬に始まり12月初めまで採れ続けた.しかしながら2009年の捕獲総数は2664雌で2007年の1/5,2008年の1/9にとどまり,飛来個体数が極端に少なかった.10月に採集された200個体を解剖して休眠個体と経産雌の割合を調べたところ,それぞれ92.5%,6.5%であった.2008年と2009年に解剖した430個体のデータを経産雌と未経産雌に分けて休眠個体の割合を比較したところ,その違いは統計的に有意で,経産雌の休眠個体の割合は31.6%(6/19),未経産雌は97.6%(401/411)であった.また,経産雌で繁殖休眠の状態であった個体は全体の1.4%(6/430)であった.
  • 小林 睦生, 駒形 修, 森林 敦子, 米島 万有子, 蒲田 龍星, 金 京純, 斉藤 一三, 渡辺 護, 沢辺 京子, 津田 良夫, 二瓶 ...
    セッションID: A15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    コガタアカイエカはインド、東南アジアなどの熱帯、亜熱帯地方から日本を含む温帯地域まで広く分布する蚊で、日本脳炎の重要な媒介蚊である。この蚊は一般に関東以西では個体群密度が高いが、東北、北海道では分布は確認されるものの、密度が低く、極端な地域差が存在する。そこで、越冬時の低温が成虫の生存に大きく影響を与えている可能性を評価するために、CDC型ライトトラップとブラックライト型のトラップを用いて、8月上旬から下旬にかけて水田地帯の豚舎または牛舎でコガタアカイエカの捕集を試み、平均捕集数と冬期の温度条件との関係について解析した。 トラップ当たりの平均捕集数と1月の平均気温、年平均気温、冬期3ヶ月(12~2月)の平均気温などとの相関関係を解析したが、相関は認められなかった。しかし、1月の最低気温の平均および冬期3ヵ月の最低気温の平均にはある程度相関が認められた。最低気温の平均が0℃以下の地域では、明らかにコガタアカイエカの捕集数が少ないことが示され、越冬生態と関係している可能性が強く示唆された。また、1月の最低気温の平均に関する1キロメッシュ気候図を-2℃以下、-2~-1℃、-1℃~0℃、0℃以上に区別して、色分けしたところ、平均捕集数が少ない捕集地点はほぼ0℃以下の地域に存在していた。これらのことから、コガタアカイエカは冬期の最低気温がある程度以上の条件の地域で越冬が可能であり、青森、秋田県など冬期の最低気温の平均が0℃以下の地域では越冬できない可能性が示唆された。MIROK K1による将来予測を行ったところ、2100年には1月の最低気温の平均が0℃以上の地域が青森県の平野部まで拡大し、越冬生態の観点から考察すると、将来東北地方でのコガタアカイエカの成虫密度は現在より上昇する可能性があると考えられる。
  • 小林 睦生, 平良 常弘, 米正 静男, 二瓶 直子, 吉田 政弘
    セッションID: A16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    ヒトスジシマカはデング熱の媒介蚊であるが、2005年からインド洋島嶼国、インド、東南アジアで大きな流行が続いているチクングニヤ熱の重要な媒介蚊でもある。ヒトスジシマカのみが分布しているインド洋諸島で多数の患者が報告されており、ウイルスの突然変異がこれらの流行に関係していることが報告されている。ヒトスジシマカの成虫密度の評価に関して、CDCトラップによる捕集数では評価が出来ないことが指摘されており、筆者らが昨年報告した捕虫網による一定時間の捕集(8分間人囮法)が、よりその地点での成虫密度を反映することが示唆された。また、昨年、大阪市内の4ヶ所の公園で、3-4人がそれぞれの地点で一斉に8分間人囮法による成虫密度の評価を行ったところ、小さな公園においても捕集数が大きく異なることが明らかとなった。捕集数が多い地点の環境解析では、日陰、地表面の植生、住宅や塀などの遮蔽物の存在の他に、灌木等の植生の存在が関係している可能性が強く示唆された。そこで、灌木等の植生にどの程度ヒトスジシマカが潜んでいるかを評価するために灌木に蚊帳(2×2,5×1.9m)を被せてその中で8分間蚊を捕集する方法を試みた。 その結果、一ヶ所から最高で15頭、平均2-3頭のヒトスジシマカが捕集された。植生の種類としては、ユキヤナギからの捕集数が20頭と多く(平均6.7匹)、アベリアからも10頭(平均3.3頭)のヒトスジシマカが捕集された。これらの植生がヒトスジシマカによって積極的に選択されているかは、今後、より詳細な検討が必要と考えられる。これらの基礎的な調査から、緊急時のヒトスジシマカの成虫防除対策において、効果的な薬剤処理の方法が今後明らかになると考えられる。
  • 皆川 恵子, 數間 亨, 武藤 敦彦, 橋本 知幸, 小泉 智子, 芳村 健治, 皆川 文康, 大北 英雄, 渡辺 登志也, 浅野 和男, ...
    セッションID: A17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    フェノトリンを1%(w/w)含有する液化炭酸ガス製剤(ミラクン®S)のヒトスジシマカ成虫に対する野外試験を、2009年8月および9月に本種が多数生息している静岡県沼津市内の寺院の墓地で実施した。効果は処理前と処理後の捕虫網を用いた8分間採集法で比較した。8月には4寺院の墓地を用い、その内の2寺院(寺院Aおよび寺院B)を対照区、2寺院を処理区(寺院C:面積1420m2:処理量0.88g/m2、寺院D:面積1423m2:処理量1.4g/m2)として実施した。その結果、寺院Cでは処理後30分、2、4、6および24時間後には捕獲されなかったが、2日後に8匹捕獲され、回復がみられた。寺院Dでは24時間後に1匹捕獲されたが、処理前と同様の数の捕獲数が得られたのは2日後であった。なお、処理を行わなかった寺院では、常に捕獲が認められた。9月に行った試験では、前回処理を行わなかった2ヶ所の寺院で試験を行った。寺院Bに処理(面積2469.2m2、処理量1.06g/m2)を行い、寺院Aは対照区とした。その結果、寺院Bで捕獲が認められたのは処理4時間後であったが、捕獲数は処理前の10分の1であり、処理前の数まで回復したのは8時間後であった。これらのことから、試験時の対象虫の生息密度や処理対象場所の環境条件などにより、効果に差が見られる可能性があるものの、フェノトリン含有の液化炭酸ガス製剤はヒトスジシマカ成虫に対して一定の飛来阻止効果が期待できると判断された。
  • 武藤 敦彦, 芳村 健治, 小林 睦生
    セッションID: A18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     フェノトリンを1%(w/w)含有する液化炭酸ガス製剤(ミラクン®S)のヒトスジシマカ成虫に対する野外における効力を、本種が多数生息している神奈川県の海岸近くにある民家の庭(約200m2)に対して処理する方法で、2009年9月に評価した。この庭では、試験に先立つ午前7時頃から2時間ごとの17時までの数回の日内変動の調査で、どの時間帯も、後述の8分間採集法で、強風時を除き10~20匹以上の飛来が認められていた。本製剤を1g/m2の割合で庭の植込みや草むらなどを中心に約200g処理し、捕虫網を用いた8分間採集法で、捕集した蚊はカウント後に同じ場所に放す方法により、処理前後の人囮に対する飛来数を調査した。その結果、処理前は21匹であった採集数が、処理後は2時間ごとの観察で、6時間までは0匹であった。それ以降は8時間後に2匹飛来したが、10時間後は再び0匹となり、処理翌日以降は1日後(24~34時間後)が3~9匹、2日後(48~58時間後)が6~10匹で、処理前のレベルに戻ったのは5日後であった。なお、処理エリア内の2か所で観察を行ったが、植生がほとんどない駐車場に近い側の観察場所に比べ、草むらや植生が多い隣家の庭に近い側のほうが飛来数の回復が早く、隣家からの飛来侵入が示唆された。
  • 吉田 政弘, 小林 睦生, 二瓶 直子, 平良 常弘, 米正 静男
    セッションID: A19
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    兵庫県西宮市において、2008年より蚊幼虫の発生源としての公園や道路にある雨水枡への薬剤投入による効果を判定し、より効率的な防除法を検討してきている。本年(2009年)は、ヒトスジシマカを主たる対象として、防除間隔をかえての幼虫対策および樹木への薬剤散布による地域としての蚊防除の効果を検討した。効果評価として、採集された蛹および高齢幼虫 の羽化率、CDCライトトラップ(ドライアイス併用)、人囮法(8分間)ネット採集を4月初旬から10月中旬にかけ行った。従来から行ってきている防除法を合わせて検討した。
  • 菅野 雅代, 石渡 多賀男, 岩崎 智則
    セッションID: A20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    メトフルトリン(商品名 エミネンス®)は蚊に対して極めて高いノックダウン活性および哺乳動物に対する高い安全性を併せ持つことから、蚊取り線香、液体蚊取り等、従来の加熱蒸散剤の有効成分に適用可能である。 さらに、常温揮散性および蚊に対する優れた忌避活性、吸血阻害活性を有することから、本剤を有効成分とするファン製剤、樹脂製剤、デングリ製剤等の新しいカテゴリー商品が近年相次いで上市されている。 ノックダウン活性についてはラボ内での試験方法が確立されており、薬量と活性の相関関係を定量的に把握し、薬剤の性能評価を的確に行うことが可能であった。 しかしながら、特に新カテゴリー商品において重要となる忌避活性と薬量の相関関係を定量的に把握するのは非常に困難な状況であった。 今回、演者らはメトフルトリンのさらなる応用開発研究を促進すべく、ラボ内にて簡便に忌避活性と薬量の相関関係を把握し得る方法を考案した。 本講演では本方法および本方法を用いて評価したメトフルトリンの忌避活性について報告する。
  • 角田 隆, 川田 均, Huynh Trang, Luu Loan, 長谷部 太, 都築 中, 高木 正洋
    セッションID: A21
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    ベトナムにおいて水がめはネッタイシマカにとって重要な発生源であり、本種の防除において重要な標的である。ネッタイシマカの防除法の一つとして忌避剤による雌の産卵制御が考えられる推奨されているが、それには飲み水を汚染することなく、安全かつ簡単な方法で産卵を抑制する必要がある。そこで、水がめの蓋にオリセットネットを処置することによるネッタイシマカの産卵抑止への効果と水がめ以外の非飲料水容器(花瓶、アントトラップなど)にピリプロキシフェンを処理した時の蛹への効果を調査した。ベトナム南部に試験地を設定し、500戸を処理区に別の500戸を対照区とした。水がめ及びその他の容器への処置は2008年9月に行った。幼虫と蛹の調査は試験実施1ヶ月前から5ヶ月後まで一月おきに行った。処理区においてネッタイシマカ幼虫のContainer indexとHouse indexは試験実施1ヶ月後に急激に低下した。試験実施から1ヶ月後と3ヶ月後にはオリセットネットと蓋の両方がネッタイシマカ幼虫に効果的であった。蛹密度も1ヶ月後に処理区において減少した。しかし蓋の処理をきちんとしていないと、処理区であっても容器あたりの蛹の密度は高かった。ピリプロキシフェンは処理区の蛹に対して有効であった。今回の処理によってネッタイシマカの幼虫と蛹の発生が抑制され、少なくともその効果は5ヶ月間維持されることがわかった。
  • 山田 晃嗣, ダイロ ペンバ, 前川 芳秀, 川田 均, 高木 正洋, 皆川 昇
    セッションID: A22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    マラリア予防のための防蚊には、広く蚊帳が使われてきおり、その効果も認められている。しかし、蚊帳を毎晩設置するのは手間がかかり、また 、家の中で一部の者が使用しないなど、家や季節によって使用状況が安定しないことがある。そこで、新たな防蚊法として、軒下や天井等の隙間ににネットを張り、蚊の侵入を防ぐハウススクリーニングが試行されている。この防蚊法では屋内全体への蚊の侵入を防ぐため、屋内で就眠する全ての住民に有効であり、また夜間のみならず一日を通して防蚊効果がある。今回、我々は、通常のネットではなく、ペルメトリンをポリエチレンに練りこんだ住友化学(株)製 オリセットネットを使用した。その結果、ハマダラカは、ネットを張っていないコントロールの民家と比べて、87―99%の減少、イエカに対しては、60-80%の減少がみられ、よりハマダラカに効果があることが認められた。よって、ハウススクリーニングは、マラリア対策の一つの方法として有効性が示唆された。
  • 前川 芳秀, 川田 均, Dida Gabriel O, Sonye Gorge O, 二見 恭子, Njenga Sammy M, 金子 ...
    セッションID: A23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    西ケニア・Suba県・Gembe East地区では、2007年から2年間に渡り外国のNGOやケニア政府によって殺虫剤含浸蚊帳が大量に配布され、蚊帳の普及率が高まった。しかし、その一方で5歳児以下のマラリア感染率は40%と非常に高い。Gembe Eastに隣接する地区ではAnopheles gambiaeAn. funestusがマラリア媒介蚊であることが報告されている。そこで本研究では、蚊帳の分布状況や使用状況調査と並行して、CDCライトトラップ(LT)を用い屋内・屋外・家畜舎採集を行い、蚊帳の効果について検証を行なった。調査は2009年5月から7月(大雨季から乾季の始まり)にかけて、のべ320軒を対象に19:00から翌7:00までLT採集を行い、LT回収時に蚊帳を使用した人数、蚊帳の数、蚊帳の種類などをヒアリングと目視により確認した。LT採集で採取されたハマダラカは、An. gambiae complexとAn. funestus complex、An. ziemanniAn. pharoensisの4種類であり、An. gambiae complexとAn. funestus complexについては、現在PCRによって種同定解析を進めている。蚊帳の効果判定には、家屋内での蚊帳の数、蚊帳を使っている人数、未使用者数、屋内採集で採取された蚊の数、屋内採集と屋外採集の蚊の比率、吸血蚊の比率を要因因子として解析を行った。その結果、蚊帳の使用数が増えれば、家の中の蚊の比率が有意に減ると言う結果が得られ、蚊帳の蚊に対する効果は示唆された。一方、幼児感染率が依然として高い数値を維持していることから、蚊帳使用方法の改善や他の防除方法との組み合わせが必要ではないかと考える。
  • 佐々木 均
    セッションID: A24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    蚊帳として製品化され、マラリア対策に著効を示す事が知られるペルメトリン含浸ネットの、吸血性アブ類対策での有用性を、NZIトラップを用いた捕獲調査によって検討した。ニッポンシロフアブを用い、ノックダウン率を指標とした接触効果試験では、1分間の接触でも補正ノックダウン率は30分後で82.5%、24時間後でも80%と高い値を示した。そこで、ニッポンシロフアブを対象としてその捕獲数を、ペルメトリン含浸ネットを用いたNZIトラップと通常のナイロンオーガンディーを用いたNZIトラップとで比較したところ、双方のトラップの合計捕獲数に違いが見られなかったが、トラップの部位別捕獲数には大きな違いが見られた。以上の予備試験をもとに、ニッポンシロフアブ、アオコアブ、イヨシロオビアブの中・小型種3種と、ウシアブ、ヤマトアブの大型種2種を対象として、ペルメトリン含浸ネットを用いたNZIトラップを用いた延べ186時間の捕獲調査を行った結果、対象とした5種合計で7,062個体を捕獲した。中・小型種3種ではトラップの底部でノックダウンして捕獲される個体の割合が高く(33.9~40.2%)、内部で捕獲される割合が低かった(8.5~11.9%)のに対し、大型種では、トラップの底部でノックダウンして捕獲される個体の割合が低く(9.5~23.5%)、内部や捕集カゴで捕獲される割合が高く(23.5~23.8%、67.2~68.9%)、アブ類のボディサイズによって捕獲されるトラップの部位が異なっていた。以上のことに加え、調査中にノックダウンしたアブ類がアリや野鳥に補食されることが頻繁に観察されていることから、ペルメトリン含浸ネットは、トラップの底部でノックダウンする割合の高い中・小型の吸血性アブ類対策としてNZIトラップに用いた場合、有用性のあることが示唆された。
  • 川田 均, 前川 芳秀, 駒形 修, 葛西 真治, 冨田 隆史, Mwandawiro Charles, Njenga Sammy M, 皆 ...
    セッションID: A25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     アフリカにおけるマラリア媒介蚊の有効なコントロール手段の確立を目的とし、ケニア西部のGembe East地区をモデル地区に定め、種々のトライアルを計画中であるが、今回は2009年5月から7月にかけて実施した幼虫の発生源調査、および現地の主なマラリア媒介蚊幼虫のピレスロイドに対する感受性調査の結果を報告する。
     まず、調査地内の発生源を隈無く調査し、発生源のタイプ分けとそこに発生するハマダラカ幼虫の種類について記録した。採集した幼虫は形態によって分類し、その終齢幼虫を用いてピレスロイドに対する感受性を調べた。その後、PCR法によって種を同定し、ダイレクト・シークエンス法によりkdr因子(DIIS6におけるL1014S変異)の有無を調べた。発生源としては、ビクトリア湖畔の沼地、小規模な水溜まり、ため池、学校などの施設のコンクリート水槽などを主に調査対象としたが、いずれの発生源からもAn. arabiensis幼虫が採集された(全発生源数117カ所中74カ所)。その他にはAn. gambiae s.s.、An. funestus s.s.、An. rivulorumが採集されたが、採集数は少なく、全体の約1%に留まった。An. arabiensis幼虫のd-アレスリンに対する感受性は全般に高かったが、ノックダウンからの回復傾向が見られ、代謝による抵抗性の存在も示唆された。さらに、An. arabiensis には kdr 遺伝子は全く確認されなかったのに対し、An. gambiae s.s. においては採集された4個体中3個体から L1014S が確認され、An. gambiae s.s. は個体数は少ないものの高頻度で L1014S を有する可能性が高いことが示唆された。
  • 川田 均, 前川 芳秀, 駒形 修, 葛西 真治, 冨田 隆史, Mwandawiro Charles, Njenga Sammy M, 皆 ...
    セッションID: A26
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     第1報の結果より、幼虫採集では採集されるAnopheles gambiae s.s.の個体数が極めて少ないことが分かったため、親人性の高いAn. gambiae s.s.が多く存在すると思われる家屋内での吸血成虫の採集を試みた。採集は過去の調査により成虫採集数の多かった2地区(NyaroyaおよびNyandago)を選択し、2009年10月から12月にかけて実施した。早朝(夜明け直後)に採集地区に赴き、各家屋につき3人のスタッフが20-30分かけて室内に休止している成虫を電動吸虫管で吸引し採集を行った。調査した時期が小雨期に入る前だったためか採集成虫数は少なかったが、25カ所の家屋から総数117頭が採集された。内訳はAn. arabiensisが最も多く101頭(うち産卵雌40頭)、ついでAn. funestusが14頭(うち産卵雌10頭)であった。An. gambiae s.s.の数は成虫採集によっても少なく、1頭に留まった。
    採集した吸血雌成虫については、少量の水を入れ濾紙を内側に巻いた20mLのガラスバイアルに閉じ込めて産卵させた。さらに採集成虫については、PCR法によって種を同定し、さらにダイレクト・シークエンス法によりkdr因子(DIIS6におけるL1014S変異)の有無を調べた。採集成虫より得られた次世代については、d-アレスリンによる幼虫の感受性試験(Kawada et al. 2008, 2009に準じた方法)と、WHOキットによるペルメトリンとDDTに対する成虫の感受性試験を実施した。今回は、上記の方法によって得られたAn. arabiensisおよびAn. funestus次世代幼虫および成虫のピレスロイドに対する感受性調査結果について報告する。
  • 葛西 真治, 駒形 修, 糸川 健太郎, 小林 睦生, 冨田 隆史
    セッションID: A27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    ネッタイシマカはデング熱や黄熱といった熱帯性ウイルス感染症の主要な媒介蚊である.また,近年インド洋諸島で大流行したチクングニヤ熱の媒介蚊としても知られる.流行地域では主にピレスロイド系殺虫剤散布による成虫対策が行われているが,一方で抵抗性の発達が世界的に問題になっている.抵抗性機構を解明することで,抵抗性の迅速診断が可能になるとともに,抵抗性個体にも効力を発揮する薬剤のデザインに結びつくことが期待される.今回私たちは,デング熱・チクングニヤ熱対策で徹底した殺虫剤散布が行われているシンガポールで採集されたネッタイシマカ個体群(aegSP系)を材料とし,成虫のピレスロイド剤抵抗性機構の解明に取り組み始めた.aegSP系は採集時にすでに35倍の抵抗性(局所施用法)を示したが,52~85%致死薬量のペルメトリンで淘汰を進めた結果,3世代淘汰後には抵抗性比で200倍以上,半数致死薬量318 ng/♀の抵抗性を示すまでになった.私たちはこの抵抗性系統を用いて代謝・作用点感受性の両側面よりその抵抗性機構解明を進めている.
  • 駒形 修, 葛西 真治, 糸川 健太郎, 二瓶 直子, 津田 良夫, 小林 睦生, 冨田 隆史
    セッションID: A28
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     日本のアカイエカ及びチカイエカには,ピレスロイド系殺虫剤に対して抵抗性を示す個体が存在することが報告されている.それらの抵抗性は作用点のナトリウムチャンネルの点突然変異による感受性の低下とシトクロムP450による解毒代謝が主要な機構であった.遺伝子を解析した結果,ナトリウムチャンネルの点突然変異は,knockdown resistance (kdr) 型のアミノ酸置換であることが判明した.置換部位は,アカイエカ,チカイエカ共に,典型的なkdr型のアミノ酸置換の位置である999位のロイシンであり,チカイエカは他の昆虫のkdrに見られるのと同様にフェニルアラニンに置換されていたが,アカイエカはセリンへと置換されていた.
     今回,更にナトリウムチャンネル遺伝子を解析を進めた結果,アカイエカ,チカイエカ共にkdrの遺伝子型に例外は見つからなかった.アカイエカ種群蚊は交雑の可能性があるといわれているが,アカイエカとチカイエカで交雑が起こった場合,上記とは逆の遺伝子型が遺伝する(アカイエカからチカイエカ型の変位が,またチカイエカからはアカイエカ型の変位が見つかる)可能性がある.しかし,今回は,アカイエカとチカイエカの交雑に伴なうkdr遺伝子の遺伝が起ったと思われる個体は見つからなかった.
  • 冨田 隆史, 葛西 真治, 駒形 修, 夏秋 優, 石井 則久, 小林 睦生
    セッションID: A29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    1980年代初頭に登場したピレスロイド系駆除薬の貢献によりいったん下火となったアタマジラミの発生数は再び増加傾向を示し,全国各地の幼稚園,保育園や学校で問題化している。私たちはこれまでに,ピレスロイド作用点であるナトリウムチャンネルに生じた複数のアミノ酸置換を迅速に解析するSNaPshot法とQProbe法を開発し,これらの手法を適用して2006年より抵抗性遺伝子の検出を行ってきた。2009年に解析した110コロニーのうち,抵抗性遺伝子を保有していたコロニー数は11 (10%)で,2008年の同様な調査結果に示された抵抗性コロニーの割合(R=10.1%; 全調査コロニー数(N)=188)とほぼ同等に推移した。過去4年間の調査結果(R=8.5%; N=519)を解析したところ,保護者を除く医療機関を主とする提供試料においては,抵抗性率の年次増加傾向が認められた。一定数以上の試料提供を受けた医療機関または都道府県のうち,抵抗性率が通年全国平均より顕著に下回るかあるいは上回るケースがあり,駆除薬の有効性には地域差があることも認められた。
  • 上村 清
    セッションID: A30
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    三日熱マラリアの主要媒介蚊シナハマダラカAnopheles sinensisは、1980年代から日本各地で激減している。恐らく農薬の散布形態の変化が影響していると思われるが、原因は不明である。北海道産のエンガルハマダラカは、前脚白帯、蛹以外に形態ではsinensisと区別しがたく、交雑1雌が稔性なので、種分化途上の亜種ないし同胞種と見なされる。北海道産のAn. jesoensis(=esoensis)は、シナハマダラカのシノニムとされてきたが、オオツルハマダラカAn. lesteriと同一種と見なされる。ヤツシロハマダラカAn. yatsushiroensisは近年50年ほど国内での採集記録を欠いているが、朝鮮産のAn. pullusのシノニムである。  シナハマダラカ群の蚊としては、日本には他にチョウセンハマダラカAn. koreicusとエセシナハマダラカAn. sineroidesが産する。
  • 比嘉 由紀子, Thi Yen Nguyen, 川田 均, 後藤 健介, Hai Son Tran, Thuy Hoa Nguyen, 高木 ...
    セッションID: A31
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    デング熱媒介蚊の発生環境を明らかにするために、ベトナムの国道沿いの古タイヤに発生するネッタイシマカおよびヒトスジシマカの発生と環境要因との関係を調べた。衛星写真ASTERより、採集地周辺の正規化植生指数(NDVI)および人工物指標をそれぞれ算出した。また、全国46地点の気象観測データをもとに、採集地点の年平均気温、最低温度、降水量の推定値をもとめた。その他、採集時に得られた採集地点の古タイヤの数、植物による被覆度なども環境パラメターとした。得られたパラメターを用いて統計処理をおこない、ネッタイシマカおよびヒトスジシマカの発生に関係のある環境要因を調べた。その結果、ネッタイシマカでは、人工物指標と有意な正の相関がみられ、人工的な環境を好む本種の習性を反映していると考えられた。ヒトスジシマカでは、採集地の植物被覆度および降水量と正の相関、年平均気温と負の相関がみられ、その発生が、発生源周辺の植生や水の供給に影響を受けていると考えられた。デング熱媒介蚊の発生環境をよく反映している空間サイズについても考察する。
  • 都築 中, Vu TD, 比嘉 由紀子, Nguyen TY, 高木 正洋
    セッションID: A32
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    We visited houses and inspected water-holding containers to determine the potential risks of dengue transmission during different seasons. This survey was conducted in two neighbourhoods of Nha Trang City in July and December 2006, which correspond to the middle of the hot-dry season and the beginning of the cool-wet season, respectively. We inspected a total of 1438 wet containers in 196 premises during both survey periods; 20% of the containers were positive for Aedes aegypti larvae and 8% for A. aegypti pupae. Indoor water-holding containers, which were sparsely distributed, exhibited high pupal productivity and efficiency (pupal productivity of a type of container/prevalence of that type of container) in either the first survey conducted in July, or the second, conducted in December. Although rainfall may not influence the number and distribution of water-holding containers in the city, the high average temperature in the first survey period resulted in a higher potential risk of dengue transmission. Our analysis suggests that if intensive source reduction is conducted in summer and containers with high pupal productivity and efficiency are targeted, the risk of dengue transmission in the city could be effectively reduced.
  • 砂原 俊彦, Trung Ho Dinh, Thuan Le Kahn, 中澤 秀介, 門司 和彦, 高木 正洋, 山本 太郎
    セッションID: A33
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     ベトナム南部ビンフック省のマラリア流行地にける主なマラリア媒介蚊であるAnopheles dirusの分布について,2009年度大会に引き続き報告する.前回は村間での密度の違いを環境要因によって説明したが,今回は密度が最も高かった1つの村に焦点をあて,村内での人家の分布パターンからA. dirusの飛来数を予測するモデルを提案する.  2006年の雨期にPhu Thuan村全戸の約半数にあたる80軒においてライトトラップを用いて5日間蚊を採集した.A. dirus採集数は他から孤立した家で多く採れる傾向が見いだされ,これは「ある領域から発生した蚊は周辺にある家に均等に分配される」という単純な仮定で説明できると考えられた.この仮定から各家から一定の距離のバッファー内に存在する人家の数(近所の家の数+対象の家;x)とA. dirus飛来数(y)との間に双曲線(y=a/x)の関係が導かれる.バッファーの範囲を50mから1500mまで変えながら最尤法で周辺の家の数と蚊の数プロットに双曲線をあてはめたところ,バッファーを350mとしたときにもっとも当てはまりがよかった.このことはA. dirusがホストを探索して飛翔する範囲が通常数百mのスケールであることを示唆する.  このモデルでは予測に必要なのは人家の分布だけなので,村内の簡易的なマラリアリスクマップの作成に役立つと期待される.ただし媒介蚊発生場所が村内の一部に著しく偏っている場合は予測の確度は低いと考えられる.
  • 児玉 達治, 亀崎 宏樹, 上村 慎一郎, 津田 良夫
    セッションID: A34
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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     蚊の生存・繁殖は吸血,吸蜜,産卵などの行動を繰り返すことによって達成されており,吸血行動だけでなく他の行動も防除対策のターゲットとなりうる.成虫の行動には,吸血行動が二酸化炭素ガス,吸蜜行動が花蜜や樹液というように,それを誘発する主因子が存在するが,自然界ではこれらの主因子が同所的に存在している.そのため,自然条件下で個々の行動の周期性を研究することは難しく,ひとつの主因子だけを取り出した実験的な系を作成して研究が行われてきた.我々は,チカイエカ成虫の行動全体を理解することを目的として,今回は吸血行動,吸蜜行動,産卵行動を取り上げてその誘発因子を取出し,実験条件下で各行動固有の日周リズムを捉えることを目指した.吸血行動と吸蜜行動は川田(2004)の調査法を参考に,光センサー(FU‐E40 KEYENCE製)をそれぞれの誘発因子(ドライアイスまたは砂糖水)の手前に設置して,感応範囲の通過記録から活動量(通過回数)を求め,その時間的推移を日周リズムとした.産卵行動の周期性は脱塩素水に産下された卵塊数をビデオカメラによって記録し,その1時間毎の推移によって調べた.
     吸血行動は活動量の高低に関係なく暗期に活発化し,日没直後と明け方直後に活動が集中する二峰性を示した.これに対し吸蜜行動は,活動量が高いときは吸血行動と同様に日没直後と明け方直後に集中する二峰性を示したが,活動量が低いときは明け方直後のみに集中する一峰性で,供試虫の活動性に依存して日周リズムのパターンが変化することが示唆された.一方無吸血産卵行動は,吸血・吸蜜活性が低い明期にも認められたが明確な日周リズムは認められなかった.
  • 森林 敦子, 沢辺 京子, 金 京純, 津田 良夫, 小林 睦生
    セッションID: A35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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     我が国における日本脳炎の主要な媒介蚊はコガタアカイエカであり,日本脳炎ウイルスの感染様式を考える上で,本種蚊の越冬生理を理解することは重要である.短日条件下で羽化したコガタアカイエカは,雌成虫の卵巣発育が抑制される(休眠の一種)ことが知られている(Oda et al., 1978).また,津田ら(Tsuda et al., 2008)は,2007年9月から12月に東京都立林試の森公園でコガタアカイエカの大量飛来を観察し,その移動が生息地から越冬地に向かうものであると推察した.我々は昨年の本大会で,2008年に飛翔した個体の脂質含量,組成および脂肪酸組成を測定したが、コガタアカイエカが休眠に入った後、越冬の経過中での脂質の変化として報告した.そこで本大会では,越冬明けと思われる2009年春季(3月・4月)に,林試の森公園の2008年と同じ調査地で採集された個体の測定結果を加えて報告する.
     関東地方において約12時間の日長となる秋分点近くの 9月下旬の個体では,その脂質含量は10%以下であったが,10月中旬にはその割合は20%を超え,さらに11-12月には30%を超過した.しかし,休眠覚醒期の3-4月に採集された個体の脂質含量は15%に減少していた.このことは,コガタアカイエカは休眠に際して脂質を蓄積し,休眠・越冬期間中に消費したことを示唆している.越冬期間中の主要な脂肪酸であるシス型パルミトオレイン酸(C16:1)は,10-12月に増加し約50%を占めたが,3-4月には35%に減少した.一方,10-12月に20%程度であったオレイン酸(C18:1)含量は,3-4月では30%以上に増加していた.以上の結果をもとに,コガタアカイエカの休眠導入期から覚醒に至る越冬生理に関わる脂質の役割について考察する.
  • 大庭 伸也, Dida O Gabriel, Jumo Duncan, 川田 均, 皆川 昇, 高木 正洋
    セッションID: A36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    マラリア媒介蚊はその幼虫期に捕食性水生動物に捕食されるため,彼らの捕食者を明らかにすることはマラリアコントロールを考察する上で重要な基礎資料を提供する.Service(1971, 1973)は,血清学的手法を用いてAnopheles gambiae complexの繁殖地よりAn. gambiae complex幼虫の捕食者を検出することに成功した.近年では,Schielkeら(2007)が,An. gambiae complexのプライマーを用いたpolymerase chain reaction(PCR)法により,捕食者の体内からAn. gambiae complexの捕食の有無を確認できる可能性について報告した.しかし,これまでに野外環境において捕食性水生動物を対象にしたPCR法による捕食の有無の確認はなされていない.本研究では,ケニア・スバ地区のAn. gambiae complexの繁殖地6か所より捕食性水生動物を採集し,PCR法によりAn. gambiae complex を捕食しているかどうかを調査した.オタマジャクシ,トンボ目幼虫,カメムシ目,甲虫目を調査対象とし,An. gambiae complexの捕食を確認した割合はトンボ目幼虫(70.2%),カメムシ目(62.8%),オタマジャクシ(41.7%),甲虫目(18%)の順であった.採集直後にエタノール固定した水生甲虫からはAn. gambiae complexのDNAが検出されたが,採集後から一定時間経過後に固定した個体からは検出されなくなった.このことは,体内に未消化のAn. gambiae complexが残っている場合にのみ,PCR法を用いた捕食の有無の確認ができることを示唆している.
  • 高井 憲治, 小熊 譲, 沢辺 京子, 金 京純, 津田 良夫, 小林 睦生
    セッションID: A37
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    野外採集ハマダラカの種同定を行うための形質が破損や脱落によって利用困難な場合,これまで種の鑑別に利用されていない形態の長さの違いにより判別が可能となるかどうか,翅脈暗斑・白斑に関しAnopheles hyrcanus群4種,engarensis(遠軽),sinensis(浦和、鹿屋、韓国Yungjyu),lesteri(八雲),sineroides(遠軽、長瀞)について調べた.いずれも1970年代に採集され乾燥標本となっていたものである.成長に関するアロメトリーを考慮し,翅脈斑は,翅脈5.2(Cu2)に対する長さ比を求めて比較した.検討した斑は前縁脈(C),亜前縁脈(Sc),第1翅脈(R),第5翅脈(Cu),第6翅脈(A)の,計13の暗・白斑である.その結果,前縁脈上のScp/5.2値が最もよく種間差異を表していたが,engarensissinensisではかなりのオーバラップが認められ,sineroidesengarensisの高い値の部分でオーバラップが見られた.2009年8月に釧路市で採集された雌蚊11個体は、Scp/5.2値によってsineroidesとそれ以外のsinensis/engarensis-likeな蚊に分けられた.後者は沢辺ら(2009)によるITS1領域の解析でbelenraeと判明したが,Scp/5.2値の範囲はsinensisおよびengarensisにほぼオーバラップしていた.翅脈斑の長さの計測値により,より確からしい種の鑑別がなされると期待された.
  • 平尾 邦道, 伊澤 晴彦, 鍬田 龍星, 津田 良夫, 星野 啓太, 佐々木 年則, 糸山 享, 澤邉 京子, 小林 睦生
    セッションID: A38
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトスジシマカAedes albopictusはヒト嗜好が強く、多くの蚊媒介性ウイルス感染症の媒介種として知られている。本種の分布域は、近年世界各地へ拡大しつつあり、新たな侵入・定着地での感染症の媒介が懸念されている。近年の分布域拡大の一因として、本種の雄が近縁他種の雌に対して積極的に交尾を試みることにより、対象となった近縁種の繁殖率を低下させる“繁殖干渉”(reproductive interference)の可能性が指摘されている。  繁殖干渉が起こる要因の一つとして、交尾時に雄蚊付属腺から注入され、産卵を促進する生理活性物質の存在が挙げられる。ネッタイシマカ処女雌にヒトスジシマカ雄の付属腺を移植すると移植された雌の産卵は誘発されるが、逆の組み合わせではその効果がないことが実験的に報告されている(Gerald and Craig, 1965)。しかしながら、その後も産卵促進物質の詳細は明らかにされていない。  本研究では、ヒトスジシマカの近縁他種に対する繁殖干渉を確認するとともに、産卵促進物質の授受に注目し、その機序を解明することを目的とした。まず過去に報告された実験結果の検証を行うために、ヒトスジシマカとネッタイシマカの飼育系統を用いた実験系を確立した。吸血させた処女雌と雄をエーテル麻酔して異種間で人工交尾を行い、その後雌個体を気温27℃の条件下で個体別に10日間飼育して産卵数を記録した。ヒトスジシマカ雄とネッタイシマカ雌の組み合わせでは、供試した10雌のうち6雌で産卵が認められたが、逆の組み合わせでは全ての個体が産卵しなかったため、ヒトスジシマカ雄の交尾による産卵促進効果が確認された。さらに、雄蚊付属腺の摩砕物を雌蚊胸部に接種し、同様の比較を行ったので、その結果も併せて報告する。
  • 白川 康一, 益田 岳, 石川 登, 西渕 光昭
    セッションID: A39
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    インドネシア国境に隣接するマレーシア・クチン省のパシルトゥンガー村において蚊の幼虫の生息調査を実施した。従来この周辺地域では、トラックの移動後に形成された溝に雨水が溜まり、蚊の発生源になると考えられていた。しかし、水質の状況から判断すると蚊の発生源としては困難な環境である。ここで、この村落で見られるドラム缶への貯水が媒介蚊の増殖に関与していることを理論疫学的手法によって考察した。水環境や気温などを考慮した数理モデルの構築と解析は、Koella (2003)、Hoshen (2004)、Gaudart (2009) らによって行われたが、規模やパラメータが大きいために検証が困難である。本研究では、マラリア多発地域におけるドラム缶を用いた貯水が蚊への定期的な産卵を促し、マラリアの発生に寄与していると考えた。また、水中には緑藻類が含まれており、蚊の幼虫の成育に寄与している点も考慮してモデルの構築と解析を行った。ドラム缶を用いた貯水を行う場合、水面の遮蔽による蚊の侵入抑制や緑藻類の光合成量低下などへの効果が期待でき、蚊の発生の軽減に有用であることが示唆された。
    本研究は、「東南アジアで越境する感染症:多角的要因解析に基づく地域特異性の解明」(研究代表者: 西渕光昭)プロジェクト基盤(S)の一環として実施された。
  • 大木 美香, 砂原 俊彦, 山本 太郎
    セッションID: A40
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    各国のデング熱流行地において精力的な予防対策がなされているにも関わらず、2007年にはプエルトリコで一万人以上、2008年にはシンガポールで6800人以上の患者が発生するなど、デング熱は近年も大規模な流行が続いている。デング熱の大流行は気象条件、媒介蚊とその発生源密度、ホストの既得集団免疫、セロタイプの交代や侵入など多くの要因が重なり非常に複雑な伝播動態を呈する。このため、ベクターコントロールを中心とした予防介入をおこなっても、時にはベクター以外の要因が大流行の原因となることがある。このような場合、実際には介入によってベクターが効果的に減少していても結果として患者数が減らず、“ベクターコントロールは効果なし”と判定されてしまう可能性がある。 そこで我々は、昨年本学会で発表したデング熱伝播のシミュレーションモデル”Excel-Ent”を用いて、介入の有無によって2通りのシミュレーションを行い、2005年にシンガポールで行われた媒介蚊発生源除去キャンペーン(Burattiniら、2007)と、インドネシア・マカッサルで現在も行われている戦略的殺虫剤噴霧と発生源除去活動の効果を検証した。さらに、Excel-Entによるシミュレーションが、より有効なベクターコントロールの立案に役立つ可能性を検討する
  • 皆川 昇
    セッションID: A41
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの一般的な統計手法は、質的応答変数以外は、なんでもかんでもデータを正規分布に当てはめようとし、当てはまらなかったらデータ変換を行い、それでも当てはまらなかったらノンパラメトリック手法を利用するというものだった。しかし、この10年間のパソコンの性能向上とともに、より適切な統計手法が普及してきている。その代表的なものは一般化線形モデルであり、データの性質により分布を選択でき、最尤法によりパラメターを推定するものである。さらに、一般化線形モデルを発展させたもので一般化線形混合モデルという手法が普及し始めている。この手法は、決められた地点から時期をずらし何度もサンプリングを行ったデータや、多数の地域から複数のサンプリングを行ったときに適切なものである。特に、繰り返しの頻度や地域が多いときに効果を発揮し、応答変数が連続変数でなくとも対応できる。生態学の分野では一般的になりつつあるが、衛生動物学の分野では、いまだに、投稿論文に無理のある統計手法が見受けられるので、あえて、アフリカのマラリア蚊のデータを使って紹介したい。
  • 高田 伸弘, 及川 陽三郎, 藤田 博己, 成田 雅
    セッションID: B01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     タテツツガムシは,各々の生息地域内で種々の大きさのコロニー風に散在して分布し,各々が病原体陽性なら立ち入るヒトへ感染リスクの高いホットスポットとなる.この数年間,演者らが厚生科研により同種の全国分布を調べ直したところ,その北限は概ね岩手県奥州市-山形県北端のラインで,それより南に南西諸島まで広く散在性に分布することが分かった.ところで,福島県南半部(多数の支流を伴う阿武隈川上流域)ではKawasaki型の症例が多数見出される.これは同地域にタテツツガムシが広く浸淫するためとは容易に推測できるが,そのような推測を現地踏査で一括裏付けることはめったに実行されないと思われる.そこで,2009年11月下旬に,同県南端から北上して東白川郡,白河市,岩瀬郡,須賀川市そして郡山市へとKawasaki型(一部Kuroki型含む)の感染推定地20地区ほどで広範な踏査を試みた.結果として黒布見取法で採集調査ができたのは13地区,うち10地区で同種を見出し得た.すなわちKawasaki型症例とタテツツガムシの分布は相関するという推測はまず実証でき,改めて当該地域のタテツツガムシ優占度の高さを実感できた.なお,対照的に阿武隈川の中~下流(県北),また浜通り(県東)や会津地方(県西)ではこのような現象を見ず,他の病型が散発するのみである.以上,ツツガムシ病の地理病理を考える上で,極めて興味深いモデルの一つになるのが福島県である.
  • 高橋 守, 三角 仁子, 野田 伸一, 山本 進, 高橋 久恵, 菊地 博達
    セッションID: B02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    タテツツガムシ幼虫が枯枝や葉の先端で密集(クラスタ-)して、宿主に寄生する機会を待っていることはよく知られている。こうした自然環境下でのクラスタ-形成や解散に係わる要因を探ったところ、以下の結果を得た。 鹿児島市内の今木場での調査では、クラスタ-は地上から5cmの高さまでに76%(47/62)が見られた。最も高いところでは、1例ではあるが地上39cmの枝先に見られた。実験的なクラスタ-形成の観察には割箸や枯枝を用いたが、温・湿度とも高い方が形成しやすかった。ちなみに割箸(5cm)の先端にクラスタ-を形成した幼虫数は、4℃では用いた幼虫の4.6%、8℃(7.0%)、15℃(10.6%),20℃(15.8%), 25℃(20.6%)であった。またクラスタ-形成のための材質や色での差異は認められなかった。異なる湿度条件下でのクラスタ-形成の観察では、湿度28%では形成されず、40%では用いた幼虫の10.5%, 60%では19.3%, 88%では22.6%がクラスタ-を作った。一方、クラスタ-の解散については、あらかじめクラスタ-を形成させておき、異なる湿度条件下に置いたところ、40%以下の湿度では数日で落下し、解散した。今木場での観察では年によっても異なるが、通常12月上旬(湿度41-49%)までは多数のクラスタ-が見られるが、翌1月下旬(湿度43-46%)には見られなくなる。しかし幼虫は土壌中には生息している。自然環境下でのクラスタ-の解散は、必ずしも湿度だけではないと思われるが、少なくとも湿度はその要因の1つと考えられた。
  • 川島 秀一, 渡辺 純一, 金久 實, 山下 敦士, 服部 正平, 山本 進, 野田 伸一
    セッションID: B03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    タテツツガムシ(Leptotrombidium scutellare)の網羅的な転写産物解析を目指し,予備的研究としてEST配列の解析を行った.鹿児島県で採集したタテツツガムシの幼虫をサンプルとして用い,cDNAの5'末端よりシーケンシングを行い,5,214のEST配列を得た.ツツガムシ科(Trombiculiade)の動物で,これだけの配列データが解読されたのは今回が初めてである.CAP3を用いた配列クラスタリングにより,これらの配列は,548のコンティグ配列と2,463のシングルトン配列に分けられた.この計3,011配列を,すでに全プロテオーム配列が公開されている,クロアシマダニ(Ixodes scapularis:遺伝子数20,452)に対して相同検索を行ったところ,1,660配列が有意な相同性を示した(閾値は,e-value 1.0e-5,以下同じ条件).同じ条件で,NCBIから取得したAcariの全タンパク配列および,タンパク質配列データベースUniprotに対して相同検索を行った結果,2,908配列で有意な相同性がみられた.逆に,残りの103配列は,タテツツガムシの新規遺伝子候補であると考えられる.KEGGの自動アノテーションサービスKAAS(KEGG Automatic Annotation Server)を用いたアノテーションを行ったところ,986配列にKEGG Orthology ID (KO ID) がアサインされた(634ユニークKO ID).このうち,342が代謝パスウェイに関連する遺伝子配列だった.今後,さらに大量の配列を異なる発生段階から得ることで,タテツツガムシの宿主寄生に関わる遺伝子群の同定等につながると考えている.今回解析した結果は,FullMiteデータベース(http://fullmite.hgc.jp/)上で公開する予定である.
  • 高橋 守, 三角 仁子, 増永 元, 田原 義太慶, 角坂 照貴, 鳥羽 通久, 三保  尚志, 高橋 久恵, 高田  伸弘, 藤田  博己 ...
    セッションID: B04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    ウミヘビツツガムシV. ipoidesはウミヘビの気管や肺に寄生する内部寄生性のツツガムシで、南西諸島で捕獲したエラブウミヘビ亜科の3種(エラブ、ヒロオ、アオマダラ)に寄生していた。未吸着幼虫は鼻腔内や気管入り口で吸着しないで生存しているのが観察された。気管や肺で観察された幼虫の多くは、体長5-8mmにも達する大型の幼虫であった。エラブウミヘビを水を張った飼育容器内で観察したところ、約2ヶ月後に口から吐き出された生きた満腹幼虫30個体と、肺に吸着している満腹幼虫4個体および未吸着幼虫1個体を得た。なお消化管内での寄生は全く認められなかった。以上のことから未吸着幼虫は、陸上の産卵場所などでウミヘビの鼻腔から侵入し、下顎に開く気管から肺に侵入し、体液を吸って満腹し、気管入り口から外に吐き出されるものと考えられた。満腹幼虫を25℃下で飼育すると、体表にある多数のイボ状突起は約1週間で消え、滑らかになり、やがて腹部に脚原基が形成され、背中の外皮が破れて8本足の成虫が出現した。これは、通常の哺乳類に寄生するツツガムシで見られる第二若虫や第三若虫の形態を経ないで成虫になるという、ウミヘビの生活に適応した生活環とみなされた。成虫になった1-2日後、雄は精包を産出し、雌がこれを取り入れて11日後に産卵した。産卵は16日間続き、1日平均16.5卵(3-31/日)、孵化率52.8%であった。他に発育速度およびstylostomeについても述べる。
  • 本田 俊郎, 藤田 博己, 御供田 睦代, 角坂 照貴, 矢野 泰弘, 高田 伸弘, 及川 陽三郎, 安藤 秀二, 川端 寛樹, 山本 正悟 ...
    セッションID: B05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     アサヌママダニは,奄美諸島の加計呂麻島に近い無人島の須子茂離を基産地とする爬虫類嗜好性のマダニで,奄美諸島と伊豆諸島から記録されている.本報告では,鹿児島県の薩南諸島の島々における2002年以降のマダニ相調査から,アサヌママダニの生息状況と保有リケッチアの知見をまとめた.採集できた島は南から,奄美大島,トカラ列島の宝島,悪石島および口之島,ならびに大隅諸島の硫黄島で,奄美大島以外は地理的分布の新記録と思われる.宿主情報としては,宝島のヘリグロヒメトカゲからの若虫と口之島のクマネズミからの成虫♀の各寄生例を追加した.季節的消長は不明であるが,1月と12月には植生上から成虫のみが多数採集できた.調査した全島のアサヌママダニからは,単一種の紅斑熱群リケッチアが高率に分離された.このリケッチアは,gltA DNAのシーケンス解析によると,国内のタネガタマダニに知られるIn56タイプ,ヨーロッパのIxodes ricinusから検出されたIrITAとIrR/Munich(イタリア)やIRS4(スロバキア)と同種と推定された.以上,種特異性と地理的分布の基本を考える上で示唆に富む事実である.
     キーワード:アサヌママダニ,薩南諸島,紅斑熱群リケッチア
  • 矢野 泰弘, 高田 伸弘
    セッションID: B06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    マダニを同定するための各顕微鏡には以下の特徴がある.・双眼実体顕微鏡:倍率をあまり上げられず,解像度も低い.主に成虫の同定に用いられる.・光学顕微鏡:表面の構造観察には,実のところ苦手である.細かい部分はピントをずらしながら観察しなければならず,もし試料が不透明であれば打つ手がない.・走査型電子顕微鏡(SEM):光学顕微鏡と比較して焦点深度が深く,広範囲に焦点の合った立体的な像を得る事ができる. このたび,本学に新型走査型電子顕微鏡(JSM-6390)が導入されたが,従来型との相違点は,まず低真空での観察が可能になったこと.すなわち臨界点乾燥や表面の金属コーティングの行程を省略できる.また,写真をデジタルデータとして保存可能になったこと.それによりこれまでのフィルムの現像・焼付けなどの暗室作業から開放される.そこで,淡路島で採集した,キチマダニ,フタトゲチマダニ,ヤマアラシチマダニおよびタカサゴチマダニの若虫と北海道産ヤマトマダニおよびシュルツェマダニ幼若虫を材料に電顕観察を行った.マダニの脱水をアルコール系列で行い,その後,試料台の上に接着させ,実験室内で乾燥させた.試料ごとに電子線量の微妙な調整は必要ではあったものの,電子線のチャージも少なく良好な像が得られた.また,パソコン上で画像のコントラストや明るさを調整できるので,焦点さえ合っていれば充分に活用できる.
  • 渡辺 洋介, 三浦 雅典, 谷 重和, 野田 伸一
    セッションID: B07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    タテツツガムシ,L.scutellare,およびキチマダニH. flava /タカサゴチマダ ニ,H. formosensis,に対する5種の植物精油の影響を観察した。 供試植物油:アネトール、オイルC(柑橘系植物油)、シトロネラ、ヒバ油、       リモネン 供試ダニ類:タテツツガムシ、キチマダニ/タカサゴチマダニ 試験1:供試サンプルを濾紙に20μl滴下し、直接ダニに接触させ、その行動を観察した。その結果、タテツツガムシはアネトール・シトロネラ>リモ ネン・オイルC>ヒバ油。タカサゴチマダニ/キチマダニはオイルC・リモネ ン>アネトール>シトロネラ>ヒバ油、の順で活動停止効果が認められた。 試験2:濾紙を4区画に分けてその1区画に供試サンプルを20μl滴下し た。濾紙中央部にダニを放し、5分後に各区画の個体数をカウントしてサンプ ルの忌避性を観察した。忌避性を係数(カッコ内)に換算して忌避効果を判 定した。その結果、タテツツガムシはリモネン(2.68)>アネトール (2.07)>シトロネラ(1.95)>オイルC(1.90)>ヒバ油(1.47)。 タカ サゴチマダニ/キチマダニ(幼虫)はオイルC(3.35)>アネトール(3.23) >リモネン(2.87)>シトロネラ(1.91)>ヒバ油(0.92)、の順で忌避効 果が認められた。
  • 角坂 照貴, 川瀬 義信
    セッションID: B08
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
     ネズミ媒介性あるいはネズミ類に関わる節足動物媒介性感染症を監視,研究するためにはネズミ類の捕獲が必要となる. 国内外を問わず捕獲作業は遠隔地で行われる場合が多いために運搬性能を高めたトラップが必要となる.運搬性能を考慮し,軽量化と収納性に努めたトラップを製作したので紹介する. 短期間に多数のネズミ類を捕獲するためには,多数のトラップを設置する必要があり, トラップの収納性・軽量性を重視した構造とした.
     軽量化を重視して金網式トラップとし, 収納性を高めるためには折りたたみ式で対応した. 大型ネズミの脱走を防止するためには,バネ強度に頼ることを避けた構造とした.
     従来のシャーマントラップは, 収納性は高いが全面が金属板で作製されているために,寒冷期にはトラップ内が低温となりネズミ類の生存性が低下していた. これらを避けるためと, 耐久性を考慮してステンレス金網を使用したトラップとした.
     現在は小型金網トラップ(W9.5×H7.5×L20cm,アカネズミ程度の野鼠対応)と大型金網トラップ(W15×H11×L30cm,アカネズミからドブネズミ程度の鼠対応)の2種を製作しネズミ類の野外捕獲調査を実施しているので紹介する.
    キーワード:ネズミ,トラップ,保菌動物,媒介者
  • 橋本 知幸, 小泉 智子, 皆川 恵子, 數間 亨, 武藤 敦彦, 江口 英範, 松永 忠功
    セッションID: B09
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    ヒョウヒダニ2種(Df,Dp)の数とそれに由来するアレルゲン(Der f1, Der p1, Der2)量の関係を、室内飼育ダニを用いて実験的に検証した。PBS中に所定の割合で供試ダニの♀成虫または幼虫(いずれも体が破損していない個体を洗浄後、凍結したもの;1, 10, 100, 1000匹/mL)を投入した。実験区は_丸1_ダニ破砕区(手動破砕1分間)、_丸2_無処理区の各3反復とし、各懸濁液中の抗原量をIndoor Biotechnology社製測定キット(標準抗原はUniversal Allergen Standard)を用いてサンドイッチELISA法により測定した。なお、Dpは♀成虫破砕区のみを実施した。 その結果、Df♀のDer1量は1,000匹/mL(3反復の平均)で、破砕区が2,930ng/mL、無処理区が898ng/mLを示し、Df幼虫は同順に348ng/mL、169ng/mLであった。♀成虫と幼虫の間で測定値に5.3~8.4倍の差が認められた。またDf♀のDer2量は1,000匹/mL区において、破砕区2,720ng/mL、無処理区2,040ng/mL、Df幼虫はそれぞれ969ng/mL、437ng/mLを示し、♀成虫と幼虫の間で2.8~4.7倍の差が認められた。 一方、Dp♀については1,000匹/mlで、Der1量は3,070ng/mLで、概ねDfと同程度であったが、Der2量については、7,680ng/mLでDf♀の2.8倍の値を示した。 WHO基準はDer1量2μgをヒョウヒダニ100匹とみなしていたが、上記結果から換算した場合、ヒョウヒダニ100匹はDer1量で0.0169~0.307μg、Der2量で0.0437~0.768μgに相当した。
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