日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
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第64回日本衛生動物学会大会
  • 二瓶 直子
    セッションID: S01
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    日本における日本住血吸虫症の主要な分布地域は山梨県,広島県(片山地方 ),福岡県・佐賀県の3か所で,そのほか関東平野,静岡県海岸平野に限られていた.その分布の偏在性を規定するのはミヤイリガイOncomelania nosophoraで,これは約7-8mmの小巻貝で形態的地域差は顕著ではない.演者らは,その分布規定要因を現地調査・既往資料・飼育実験を実施して明らかにしてきた.地形的には洪水時に湛水期間の長い低湿地で,土壌条件として灰色低地土,砂壌土,腐植含量2-3%などで,水環境としては常時湿潤状態が保持され,特定の化学性を有する.これらの結果からミヤイリガイの生息に適した地域,換言すれば危険地域の環境を明らかにしてきた.日本ではミヤイリガイ発見直後から数々の直接的・間接的撲滅対策が実施されてきた.その結果,国内では最後に甲府盆地で 1996年に安全宣言が出され,日本の住血吸虫症は終息したとされた.しかしミヤイリガイは甲府盆地では未だに生息していることから,この地域の生息状況の監視は重要である.そこで甲府盆地については 1960年代末と2000年頃の密度分布図をもとに,地理情報システムを用いて,その分布範囲や生息密度の変化を明らかにした.日本の衛星画像から,水田を抽出し,危険地域の範囲や各種の地図を重ね合わせ,ミヤイリガイを監視すべき地域を抽出した.近年の環境変化を衛星画像で監視しながら,GPSを用いた現地調査を実施して,より効果的な監視体制を構築している.
  • 薬袋 勝
    セッションID: S02
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    1881年春日居村(現.笛吹市 )より県令に提出された「御指揮願い」に始まった,山梨県の地方病(日本住血吸虫病)対策は,1996年の「流行終息宣言」により約110年わたる行政上の対策は終了した.現地に残る「中の割に嫁に行くなら,買ってやるぞえ経帷子に棺桶」等の口碑が示すとおり甲府盆地においては,日本住血吸虫病の流行は,凄惨を極めていた. 虫体(1904),経皮感染(1909)及び宮入貝(1913)の各発見により対策は,急速な成果を上げるようになり,特に寄生虫予防法(1931)を背景とした国費投入による宮入貝主対策は,1996年まで主流を占めた.駆虫による対策も積極的に行われたが,強い副作用により,他の寄生虫対策の様な確実な成果を上げる事が出来なかった.また,牛,犬,野鼠等の保虫宿主の存在は,終宿主対策を難くし,中間宿主対策が中心を占る要因となった.宮入貝生息調査,薬剤散布等の中間宿主対策作業には,大量動員が必要となるが,対策組織を作り流行地住民の参加を促した.この動員(一軒当たり 1人)は,住民の本病に対する意識強化が図られ,大部分の人々が本病の基本的な知識を持つようになった.この結果,強い住民意識として定着し,対策促進の助けとなった.多額な資金が必要となる,宮入貝生息地水路の全面コンクリート化の実現も,住民パワーより実現した. 地方病対策が完成した現在,一部地域に残存している宮入貝による,再流行の可能性の監視及び対策による環境改編が引き起こした生態系の変化の復旧は,今後の課題となっている .
  • 太田 伸生, 熊谷 貴, 陸 紹紅, 汪 天平, 温 礼永
    セッションID: S03
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    中国では2020年までに日本住血吸虫症流行根絶を目指して施策が進められた結果,国内の流行は急速に減少し,2010年の新規感染者登録数は43例であった.中国国内の中間宿主貝Oncomelania hupensis hupensisは,主に揚子江水系に沿って繁殖地が存在し,日本住血吸虫症もそれに一致して分布する.流行地の地理的な特徴から,湖沼型,山丘型および水網型の区分があり,流行地の環境特性に応じてOncomelania貝にも多様性が見られる.住血吸虫症対策では中間宿主貝対策は決して主要戦略にはならないが,その動向をモニターしながら対策戦術を効率的に投入することは今後益々重要となる.そのためにヒトと中間宿主貝双方の感染状況を正確に把握することが必要で,様々な技術革新が検討されてきた.私たちは揚子江中流域,安徽省の流行地をモデルにして,流行状況把握の指標としての貝の感染率評価を簡便で精度高く把握することを目指して LAMP法の導入を図っている.これにより,生息する貝の感染状況をより正確に把握するシステムが構築されつつある.このシステムを対策現場に応用する上での問題点を整理し,中国の住血吸虫対策を如何に効率化するかが当面の課題である.現状を紹介して今後の指針を考察したい.
  • 松田 肇
    セッションID: S04
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    メコン川の下流域,ラオス南部のChampasak省とカンボジアのStung Treng省およびKratie省にメコン住血吸虫Schistosoma mekongiが分布している.日本住血吸虫の媒介貝とは異なった水棲の微小な巻き貝Neotricula apertaが中間宿主である.ラオスでは1989年から1998年までWHO/保健省によるpraziquantelの集団駆虫が実施された.1994年及び1999年に実施された糞便検査では対策の効果が評価され(虫卵陽性率 0.4 -0.8%),本症は終息したかに思われた. ところが2002年にWHO/保健省の合同調査,2003年にはNakamuraらがコーン島周辺地域で実施した糞便検査により虫卵陽性率は10.8%から50%にもおよぶことが明らかになり,集団駆虫プログラム終了後短期間で本症の再興が確認された. ラオスの有病地には数千の島が存在し,川の流れは複雑で,乾期には岩盤が露出し,感染が起こる箇所は川岸以外にも無数に存在する.こうしたラオス特有の状況が,本症の実態把握や対策を一層困難にしている.一方,カンボジアにおいては多くの国際支援を受け,保健省/WHO/MSF/SMHF等による集団駆虫が1995年より実施され,8万人とも推定される流行地住民における感染率は激減し住民の健康状態が確実に上昇している.ラオスとは異なり人の住む島が少ないことが対策の効果を挙げていると考えられる.しかし中間宿主貝が今なお生息していること,保虫宿主が存在すること,上流のラオスでは,コーン島以南からカンボジア国境までの島々に激しい感染が再興しはじめたことなどから,カンボジアにおいても再流行の懸念は拭えない.メコン川流域における住血吸虫症対策は,今後とも流行地の実状に即した監視体制の確立と継続が必要である.
  • 嶋田 雅曉
    セッションID: S05
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    アフリカには,ヒトに感染する住血吸虫としてマンソン住血吸虫,ビルハルツ住血吸虫,インターカラツム住血吸虫の三種が報告されている.このうちインターカラツム住血吸虫はアフリカの限られた地域に分布し,演者には経験はない. 一方マンソン住血吸虫,ビルハルツ住血吸虫はアフリカ大陸全土に広く分布するポピュラーな住血吸虫である. マンソン住血吸虫,ビルハルツ住血吸虫のいずれも,日本住血吸虫と同様に成虫はヒトの静脈内に寄生する.しかしその血管は,日本住血吸虫が腸管上部の血管であるのに対して,マンソン住血吸虫では腸管下部,ビルハルツ住血吸虫に至っては腸管ではなく膀胱の血管で,寄生場所が日本住血吸虫とは異なる. そのため病気の症状が異なる. また,日本住血吸虫がヒト以外の動物にも寄生するのに対し,ビルハルツ住血吸虫の宿主はヒトに限られ,マンソン住血吸虫もヒトが事実上唯一の終宿主となっている. 一方,中間宿主の貝(カタツムリ)も日本住血吸虫の貝と生態が異なる. 日本住血吸虫の中間宿主貝が水陸両棲で湿った陸上でも見ることができるのに対し,アフリカの住血吸虫の中間宿主貝は純粋に水棲で,川や池や湖の水中でのみ棲息する. シンポジウムでは,これらアフリカの二種について特に中間宿主である貝と関係付けながら,演者の経験を述べる.
  • 野田 伸一
    セッションID: S06
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    住血吸虫対策は,副作用の少ない治療薬プラジカンテルが登場するまでは,中間宿主貝の駆除が主であった.日本では溝渠のコンクリート化や殺貝剤の散布が行われた.現在の住血吸虫対策では患者の治療に主眼が置かれるようになったが,治療薬が有効であっても患者治療率が低ければ,再感染により早期に治療前の状態に戻ってしまう.中間宿主貝対策は現在も考慮すべき項目であり,その有用性を具体的な例で示したい.(例1: 乾期の川底からの貝除去)本地域を流れる川は,雨季には水量を増すが,次第に流量が減少し,乾季には水溜まりとなり,やがては乾燥してしまう.しかし中間宿主貝は川底に潜み次の雨季まで生存する.本地域では乾期に川底の植物を取り除き,完全に乾燥させる作業を住民主体で行った.(例2: 湿地状態の川の流速増加)本地域は丘陵の下にあり,川の水が枯れることはない.川は流速が遅く,湿地状態になり,中間宿主貝の生息に好適な状態となっている.本地域では湿地状態となっている川の中央部に溝を掘り,川幅を縮小し,流速を増加させた.この作業も住民主体で行った.いずれの地域でも著しい中間宿主貝の個体数減少が認められた.また作業を住民主体で行うことは住血吸虫症に対する住民の関心を高める効果もあったと考えられた.
  • 田原 雄一郎, 菅野 格朗, 川端 健人, 石川 善大, 田中 康次郎, 渡辺 護, 平尾 素一
    セッションID: W11
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    激甚津波に見舞われた東北被災地一帯には魚加工場, 冷凍庫が連なっている. 津波で破壊された工場,倉庫,養殖施設から魚介類が広範囲にばらまかれた. 我々は,5月初旬,岩手県から宮城県に至る一帯をめぐり,ハエと蚊の発生状況を調査した.当時,ハエの活動時期ではなかったが散乱している腐敗魚を裏返すと大量のハエ幼虫を確認できた.また,壊れた大型冷凍庫の隙間からハエ幼虫が滝のように流れ落ちていた.この頃,行政には ,住民からハエの苦情は寄せられていなかったが,「ハエ公害」が 1カ月以内に必発であることを述べた. ハエ類の大発生が予測される場所や人家との距離を市町村ごとに地図に書き込み,ハエ防除の資料とした. 腐敗魚介類から発生するハエ類はクロバエ科Calliphoridaeが中心と考えられ,殺虫剤抵抗性の問題はないと予測できた.ただし,港湾地帯で魚介類に依存しているカモメ,トビ,カラスに対する殺虫剤の影響は考慮する必要があった.平成10年施行の「感染症新法」以降,行政には殺虫剤を撒く人も,散布機器も,殺虫剤の備蓄もない.また,被災地は南北 500 kmと長大なため,ハエ防除には全国からPCO企業従業員を呼び寄せ,彼らに当たらせるのが妥当と考えた.幸い,公益法人「日本国際民間協力会」の資金援助を得てハエ駆除は「スピード」と「機動力」をもって実施され,大きな成果が得られた.
  • 渡辺 護, 渡辺 はるな, 田原 雄一郎, 平尾 素一, 川端 健人, 石川 善大, 菅野 格朗
    セッションID: W12
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    津波被災地の岩手県陸前高田市と宮城県気仙沼市において蚊の発生状況の監視調査を,6月からドライアイストラップによる成虫の捕集調査を3週間毎に,10月まで行った. 同時に様々な溜水環境で幼虫の生息有無調査と採集を行った.調査を開始した6月上旬は設置したトラップ数も少なかったが,捕集される蚊も極めて少なかった.それが下旬にはアカイエカが多数捕集される地点が散見される様になり, 7月中旬にはそれが多くの地点に及び, 8月上旬にはさらに捕集数が多くなる地点がみられると共に,幼虫が生息する様々な溜水環境が確認される様になった. 8月中旬の検討会で蚊の対策が必要との認識になり,下旬から順次対策が開始された.散布範囲を決め,溜水環境を確認しながらピリプロキシフェン0.5%粒剤を手散と散粒機で散布したが,一部はそれを水で溶かして動力噴霧機で噴霧した.しかし,地域によっては瓦磯など危険な場所もあり散布出来ない箇所もあった. なお,駆除の要請があった南相馬市ではフェニトロチオン・ディクロルボスの混合乳剤とピリプロキシフェン 0.5%粒剤の散布を併用した. その後の成虫捕集成績からみると,アカイエカには効果が認められたが,コガタアカイエカとイナトミシオカには明確な効果は認められなかった. また,トウゴウヤブカに対しては羽化障害がみられピリプロキシフェンの効果が確認された.
  • 橋本 知幸, 武藤 敦彦, 佐藤 英毅, 數間 亨, 葛西 真治, 冨田 隆史
    セッションID: W13
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    震災後の津波被災地で採集したイエバエ,アカイエカを用いて殺虫剤感受性を評価した.石巻港周辺で採集したイエバエは,成虫に対する微量滴下法でフェニトロチオンとベルメトリン(いずれも原体)に対して,感受性系統に比べ,いずれも10倍程度の抵抗性を示した.製剤による任意接触法(有効成分量 250mg/m2)でも,感受性系統に比べるとノックダウンが遅い傾向が見られ,特にピレスロイド系では処理面への接触回数や接触時間が少ない傾向が見られた.円筒内直撃法では,所定の希釈濃度で標準的な残留処理量に相当する量を処理すれば,100%の致死率が得られた.製剤の培地混入法によるイエバエ幼虫の羽化阻止効果を50%阻止濃度(IC50)で見ると,フェニトロチオンで約80倍,プロペタンホス,エトフェンプロックスで2~10倍の抵抗性が見られたが,ピリプロキシフェンでは標準量相当で高い羽化阻止効果が得られた.一方,アカイエカについては宮城県,福島県の被災地数カ所から採集した幼虫を増殖させて,浸漬法により感受性を評価した.このうち石巻の個体群はフェニトロチオンおよびエトフェンプロックスに対して,10倍程度の抵抗性を示したのを筆頭に,気仙沼および仙台市内で採集した個体群も若干の抵抗性を示した.石巻系はIGR系薬剤に対しても抵抗性を獲得しているものと見られた.採集地域と薬剤グループによって感受性は異なり,各地のハエ蚊の感受性を定期的にチェックすることが必要であろう.
  • 平尾 素一, 山口 健次郎, 菅野 格朗, 川端 健人, 石川 善大
    セッションID: W14
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    大津波に襲われた東北太平洋岸の漁港の水産倉庫・加工施設・食品工場から多くの魚類・加工食品が流失. これを発生源としハエ類が大発生すると予想された. 5月末には岩手県下の7冷凍倉庫からクロバエ類幼虫が大発生し直ちに駆除. 6月に入ると被災地のハエ大発生がマスメディアに取り上げられた.早くから被災地で救援活動をしていたNGOのNICCO(日本国際民間協力会)の資金援助と石巻市, 大船渡市などの依頼を受け, 6月後半には,東北のメンバーと全国から動員されたペストコントロール協会員により南北約400kmに渉る 15市町村の発生源調査と薬剤散布作業が大規模に展開.2名 1組で, 主に車両搭載の動力噴霧器で殺虫剤を散布した. 約5m高のがれきへの散布は多くの困難もあつた. 一部では大型送風式ミスト機,無人ヘリコプターも動員. 使用薬剤は主にエトフェンプロックスで. 一部フェニトロチオン +DDVPも使用. 8月末にはほぼ制圧. 8月中旬以降は一部の蚊大発生地帯でピリプロキシフェン,フェニトロチオン +DDVPによる防除が行われた.28協会から延べ約9,000人が動員されたが.無事故であったことはプロとして大きい誇りである.
  • 高田 伸弘
    セッションID: W21
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    本学会員の大方にはダニ媒介性感染症に関する基本認識をいただきつつあるが,この間にも新たな問題が国内で溢れんばかりである. そこで,この機会に認識を更新いただくべく,最新の話題を専門家から紹介いただき議論を深めたいと思う.その場合に留意すべきは,わが国内(北アジアから東南アジアまで接する南北に長い地域)の感染症と媒介ダニはけっして列島固有にとどまらず,極東アジア~東南アジアまで(時に欧川まで)地理病理の要素に従いながら共通する点も多いことで,いろんな意味で大陸と架橋された状態にあると言ってよい. したがって,我国のダニ媒介性感染症をみる場合も国の内外は問わずに考えてゆく必要がある. ここでは,ごく簡単ながらダニ類にみる地理病理的な共通性を紹介して,以下の演題への導入とさせていただく.
  • 門馬 直太
    セッションID: W22
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    日本国内のつつが虫病リケッチアOrientia tsutsugamushi(以下 Ot)は主に6種類の血清型(Gilliam, Karp,Kato,Kawasaki,Kuroki,Shimokoshi)を有し,外膜タンパク質の塩基配列からさらに遺伝子型としてより細かく型別される. Otの型別は媒介ダニ種と強く対応することが知られており,症例毎の型別は感染予防など公衆衛生の観点からみても重要である.本病の確定診断は主に患者血清の抗体価測定により行われるが,商業的検査機関の検査では多くても3種類の抗原しか用いられないため,血清型を正確に決めることは出来ない. さらには用いた抗原以外の血清型に対しては検出感度が低下するため,特に感染初期においては適切な抗原を用いた抗体価測定が重要である.一方近年は病変組織 (痂皮)を検体とした遺伝子検査が行われ,感染した Otの遺伝子型に関する情報が蓄積されつつある.当所でも 2010年から遺伝子検査を行っており,タテツツガムシによって媒介される Kawasaki,Kuroki型に加え,2種類の Karp型,すなわちフトゲツツガムシが媒介する JP-2型,アラトツツガムシが媒介する JP-1型をそれぞれ検出している. このことから,県内では複数の媒介種が活動していることが推測され,この結果は媒介種の生息調査の結果と一致している.このように地域毎にOtの型別に関する情報を蓄積することで,抗体価測定における適切な抗原選択や媒介種の活動時期に応じた注意喚起が可能になることが期待される.
  • 安藤 秀二, 藤田 博己
    セッションID: W23
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    近年,国内のマダニ類が多様な紅斑熱群リケッチアを保有することが明らかになってきた.馬原によって確認されたRickettsia japonicaによる日本紅斑熱は年々その報告数が増え続けていることに加え,R.heilomgjiangensisによる Far Eastern spotted fever,R.helveticaR.tamuraeによる紅斑熱症例なども国内で報告されている.これまでR.japonicaは,Haemaphysalis hystricisH.longicornisH.flavaH.fromosensisDermacentor taiwanensisH.cornigeraIxodes ovatusH.megaspinosa等から分離または検出されている.R.japonicaによる日本紅斑熱は,千葉県以西から沖縄本島で発生しているが, R.japonicaが確認されているマダニ類は,比較的温暖な地域で生息するものから北海道,沖縄を含む全国に生息するものまで含まれている. R.heilongjiangensisを媒介することが確認されたH.concinnaは,比較的寒冷な北海道や東北地域で確認されているが,R.heilongjiangensisを保有するH.concinnaは極めて限定された地域でしか確認されていない.また,全国的に生息しているH.megaspinosaから,長崎県五島列島でR.tamuraeが,北海道日高地方でCandidatus R.kotlaniiが分離されている.これらの状況をみると,紅斑熱群リケッチアの分布,患者発生は,ベクターに依存するよりも,地域(地理的条件)に依存する傾向がみられるといえる.しかしながら,世界的な紅斑熱群リケッチア症の分布をみると,ベクターとなるマダニ類の種が限られているものもあることから,それらの情報と我々が経験した症例の情報も踏まえて検討を試みたい.
  • 大橋 典男
    セッションID: W24
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    新興感染症「アナプラズマ症」と「エーリキア症」は,1990年代に米国で発見されたマダニ媒介性の発熱性疾患で,これらの病原体は偏性寄生性細菌のAnaplasma phagocytophilumEhrlichia chaffeensisである. A. phagocytophilumは生体内で顆粒球(特に好中球)に感染し,E.chaffeensisは単球・マクロファージに感染する.いずれの病原体も自然宿主(野生シカや野ネズミ)に共存しており,マダニの刺咬を介して,他の個体へと移行する. よって,これらの病原体を保有するマダニがヒトを刺咬すると感染する. A.phagocytophilumの媒介マダニ種は,米国ではIxodes scapularis(クロアシマダニ)やI.pacificus (西部クロアシマダニ)で,また欧州ではI.ricinus(ヒツジマダニ)であることが知られている.アナプラズマ症に関しては欧米では知見が蓄積してきているとともに,最近,アジアにおいても分子疫学調査が盛んになってきた.日本においては,国内に生息する多種類のマダニからA.phagocytophilumに特異的な遺伝子が検出されている.そのマダニ種は,I.persulcatus(シュルツェマダニ),I.ovatus(ヤマトマダニ),Amblyomma testudinarium(タカサゴキララマダニ ),Haemophysalis longicornis(フタトゲチマダニ),H.formosensis (タカサゴチマダニ),H.megaspinosa(オオトゲチマダニ)である.また,我々のこれまでの研究で,アナプラズマ症が疑われる2名の患者を見出している.E.chaffeensisに関しては,国内のシカから特異遺伝子が検出されているが,そのマダニ種についてはまだ不明である.今回,「アナプラズマ症」と「エーリキア症」,およびその媒介マダニなどについて紹介したい.
  • 高野 愛, 坪川 理美, DeMar Taylor, 川端 寛樹
    セッションID: W25
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    多くの生物は,所属する生態系内に適した Niche(ニッチェ)を獲得している.しかしながらある生物の遺伝的変化等が生態系内ニッチェ分布に影響を及ぼすこともある.近年,マラリア原虫の遺伝学的変異が感染宿主域の変化をもたらし,その結果哺乳類,鳥類,爬虫類へそのニッチェが拡大した可能性(ビッグ・バン仮説)が示されている 1).ダニ媒介性感染症病原体の多くは,媒介ダニによって効率よく伝播されるためにその感染維持システムを進化させることで,自らのニッチェを獲得・維持してきたと考えられている.このため,病原体と媒介宿主の遺伝学的系統は多くの点で一致すること,すなわち「共種分化:cospeciation」関係が見出されることが多い.しかしながら,我々はマダニ媒介性感染症の一種であるボレリア感染症に関する研究を行う過程で,共種分化では説明できない,急激な進化プロセスがボレリア属の進化の歴史に内在される可能性を見出した.その急激な進化は,マダニ体内における病原体の動態を変化させる遺伝学的要素の獲得に起因する「宿主転換:Host-switching」によるものと考えられた.我々は,この進化学的イベントを理解するための研究を様々な角度から進めている.本発表ではこの研究についての最新の知見を報告する.1) Hayakawa T,et al. Mol Biol Evol. 25:2233-2239, 2008.
  • 近藤 繁生
    セッションID: W31
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    1986年以来,木曽川中流域の河口より27kmから34kmにいたる広い範囲にわたって毎年11月末頃より翌年の 3月初めまで,体長4~5mmで黒色のキソガワフユユスリカが,季節風にのって左岸の愛知県一宮市,稲沢市に飛散して様々な苦情ならびに経済的な被害をもたらしている.本種の大量発生については,木曽川大堰の築造にともなう水環境の変化が大きな原因と考えられてきたが,中でも流速と幼虫密度に有意な負の相関が認められた.(近藤,2001) 成虫の発生量は,年によって異なるが数年毎に大量発生を繰り返し現在に至っている.最近では,2007年から2009年かけて大量発生が記録されている.発生量の変化については充分な解析がなされていないが,秋季の出水による底質の撹乱や夏眠によって形成された繭の覚醒率が第1世代の幼虫密度に影響を及ぼすものと推察され,その年の成虫の発生量を決定するものと考えられる.過去10年間の成虫の発生量について環境要因との関連について考察すると共に,昨秋から始まった堰ゲートのアンダーフロー試験運用の効果について考える.
  • 平林 公男, 宮原 裕一, 花里 孝幸
    セッションID: W32
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    諏訪湖におけるユスリカ類の研究は,1930年代から現在に至るまで,湖底における幼虫密度や,湖からの成虫発生動態が年ごとに記録されている.我が国においては,これほど長期にわたるユスリカ類の観測データが詳細に記録・蓄積されている湖沼は数少ない.2006年の本大会においては,近年,生物相に大きな変化が認められる諏訪湖において,過去のユスリカ類のデータと現在のユスリカ類の発生動態を比較・検討することにより,近年の湖を取り巻く環境の変化をユスリカ類を指標に報告を行った.本報告においては,その後の定期観測のデータ(10日に1回の採集頻度)を追加し,2011年12月までの結果を基に,諏訪湖の水質の変化とそれにともなうユスリカ類の個体数密度の変化について報告する.湖水の富栄養化が進んだ1950-1960年代にかけては,アカムシユスリカ幼虫の個体数密度は急速に増加したが,諏訪湖流域下水道の整備が進んだ 1980年代後半には,オオユスリカ,アカムシユスリカ幼虫密度は減少傾向に転じた.富栄養湖を代表する本2種幼虫の減少は諏訪湖湖底環境が1980年代に比べ大きく変化したことが示唆される.一方,1990年代からハイイロユスリカ,クロユスリカが沿岸域から大量に発生し始めた.近年,諏訪湖沿岸域はクロモなどの沈水植物やヒシなどの浮葉植物で覆われ,湖底環境がさらに大きく変化している.それに伴い,ここ数年,ハイイロユスリカの発生数が減少し,クロユスリカの発生に加えてこれまであまり多くなかった,ウスイロユスリカや,カスリモンユスリカなどの発生数が急増している.
  • 上野 隆平, 岩熊 敏夫, 中里 亮治, 霞ヶ浦 モニタリンググループ
    セッションID: W33
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    霞ヶ浦においてはかつてオオユスリカ・アカムシユスリカが大発生し,羽化最盛期の夕刻には沿岸域の各所に巨大な蚊柱が出現し,住民から迷惑がられたものだった.一方,ユスリカ幼虫は,ワカサギなど有用魚の重要な餌動物として水産資源を支えていたものと考えられる.また,湖底の有機物を消費して成長し羽化して湖外へ移動することにより,相当量の栄養を湖から除去し水質浄化に寄与していたものと考えられる.ところが,このオオユスリカ・アカムシユスリカを主体とするユスリカ個体群は1990~2000年代には衰退の一途をたどり,近年のユスリカ現存量年平均値は1980年頃の1/10程度まで減少している.主たる原因は特定されていないが,藻類相の変化や,底生動物食魚類の増加などいくつかの要因が考えられている .ユスリカの激減により,霞ヶ浦周辺の人々が巨大な蚊柱に閉口することはほとんど無くなったに違いない.しかし,喜ぶべきことばかりではない.ユスリカに代わって有用魚の餌となるような動物が見当たらないこと,湖内の栄養塩濃度は依然高いのに自動的に効率よく除去する生物がいなくなったことから,ユスリカの減少により霞ヶ浦が持っていた人間にとって有益な生態系の機能が,少なくとも部分的には低下しているものと思われる .
  • 井上 栄壮, 小林 貞, 西野 麻知子
    セッションID: W34
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    琵琶湖では,特に南湖沿岸において,1970年代からアカムシユスリカPropsilocerus akamusi,オオユスリカChironomus plumosusが大量に飛来するようになった.これら2種はユスリカとしては体長1cm前後と大型で,住民から「びわこ虫」と呼ばれ苦情の原因となった.幼虫は底泥中に生息し,富栄養化とともに増加した植物プランクトンに由来する新生堆積物を食物として大発生したと考えられるが,2000年代に激減した .代わって近年,琵琶湖では2006年に初めて確認された体長約1mmのコナユスリカ属の1種Corynoneura lacustrisが南湖沿岸で頻繁にみられるようになった.その他,ウスグロヒメエリユスリカPsectrocladius aquatronus,ヨドミツヤユスリカCricotopus sylvestris等,体長3~5mmの小型種が近年多くみられる種の大部分を占める. 1994年に観測史上最低水位を記録して以降,特に南湖で沈水植物(水草)の分布が拡大し,現在ではほぼすべてを覆っている.上記小型種の幼虫は水草に付着して生活するため,水草の分布拡大が増加の直接の原因と考えられる.一方,大型種が減少した原因として,下水道整備等の施策による流入負荷の減少に加え,水草との栄養塩をめぐる競争によって植物プランクトンが減少し食物条件が悪化したこと,および湖水の滞留や水草残渣の分解による湖底の貧酸素化が考えられる .
  • 河合 幸一郎, 今林 博道
    セッションID: W35
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    児島湖におけるユスリカの大発生は,初期には晩秋のアカムシユスリカが主体であったが,近年は水質の改善に伴って春・秋のオオユスリカがこれを凌ぐようになってきたため,大発生と人間の活動時期とが一致することになり,被害が深刻化している.本研究では,大発生をコントロールし,被害を軽減するための方策を模索するとともに,ユスリカの有用性を検討することを目的とした.まず,湖をメッシュに分けて幼虫の分布パターンを調べ,主波長・強度の異なる種々の人工光源を用いて成虫の走光性を調べることにより,成虫集積メカニズムの解明と襲来を避けるためのランプ種の検討を行った.また,発生量の軽減を念頭に置き,魚類による捕食実験および幼虫そのものを用いた環境浄化実験を行った.集積については,流入河川からの栄養分で大量発生した植物プランクトン由来のヘドロが河口・湖奥部に堆積し,これを食べて生育した幼虫が蛹や成虫の段階で吹送流や季節風,住宅地の強光により東岸に襲来するというメカニズムが考えられ,青・緑色系ランプ(ピーク波長 440~530nm)の強い誘引作用を利用して成虫を湖岸帯に留められる可能性が示された.また,ニゴイ,モツゴなどが幼虫を効率良く摂食すること,さらに幼虫を使えばネリ餌に対し種数で2倍,個体数で3倍の魚類が釣獲されたことから,魚類を用いた幼虫棲息密度の低減も可能であることがわかった.一方,室内実験で幼虫の投入によって底質の炭素量が対照区に比べて著しく減少したことから,幼虫を用いた環境浄化の可能性も示された.
  • 野田 伸一, 當間 孝子
    セッションID: A01
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    2006年にミクロネシア連邦チュック州のウエノ島,ロマヌム島およびピス島で蚊の分布調査を実施し,南日本支部会で結果を報告した.調査期間が短くAedes属の多くが未同定であったことから,2011年に再調査を実施したのでその結果を報告する. ウエノ島とロマヌム島はチュック環礁の内側の島,ピス島は環礁の上に位置する島である.ウエノ島はチュック州の行政の中心で面積は 18km2で,チュック州では 2番目に大きな島である.これに対して,ロマヌム島とピス島は1km2以下の小さな島である. ウエノ島ではAedes hensilliAe.albopictusAe.lamelliferus, Aedes sp.,Culex quinquefasciatusCx.carolinensisCx.annulirostrisおよびLutzia voraxの8種,ロマヌム島ではAe.scutoscriptusAe.hensilliCx.quinquefasciatusおよびCx.carolinensisの4種,そしてピス島ではAe.scutoscriptusAe.hensilliAedes sp.,Cx. quinquefasciatusCx.carolinensisおよびCx.annilirostrisの6種が採集された.ミクロネシア連邦では昨年末にパラオ,ヤップおよびマーシャルでデング熱患者が発生しており,本地域ではAe. hensilliAe.albopictusが採集されたことからデング熱に対する注意を要する状況にあると考えられた.
  • 岡澤 孝雄, Wong Siew Fui, 宮城 一郎, 當間 孝子, Leh Moi Ung
    セッションID: A02
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    マレーシア,サラワク州の低地にある竹薮で普通に採集されるオオカ属の蚊幼虫は2種類いる.この研究の目的は 2種のオオカの棲息する竹の違いを明らかにする事である.オオカ属A種の幼虫は体色が全身ほぼ均一に赤紫であり,B種の幼虫は赤と白の横縞模様があることから容易に区別できる.通常マレーシアの竹薮は多数の竹が密集して株状に生えているが,この株状のひとかたまりの竹に2種のオオカが棲息している.今回の調査では合計29本の竹の水溜りのサンプルを採集したが,27サンプルは切株,2サンプルは穴の聞いた竹であった.水の溜まった竹節の地上からの高さは 30cmから 2mの範囲にあった. 竹の状態は 3つカテゴリーに分けられる:1切られた節を含め全部生きていて緑,2切られた節は枯れているが下の部分は生きて緑,3竹全体が枯れている.竹の直径は3.0cmから 7.8cmの範囲にあった.竹の状態に対する好みはA種とB種の間に差は見られなかった.しかし棲息する竹のサイズには違いが見られた. A種はより太い竹を好み,B種細い竹を好んだ. A種とB種は同じ竹株の中で生息水域の重なりは少なかった.
  • Koon Weng Lau, Chee Dhang Chen, Han Lim Lee, Mohd Sofian-Azirun
    セッションID: A03
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    The present study was to determine the vertical distribution and abundance of Aedes mosquitoes in high rise apartment in Selangor State and Kuala Lumpur Federal Territory, Malaysia. Ovitrap surveillance was conducted for 4 continuous weeks in multiple storey buildings in 4 residential areas located in Selangor [Kg. Baiduri (KB)] and Kuala Lumpur[Student Hostel of University of Malaya (UM), Vista Angkasa (VA) and Hang Tuah (HT)]. The results implied that Aedes mosquitoes could be found from ground floor to highest floor of multiple storey buildings and data from different elevation did not show significant different. Ovitrap index for UM, KB, HT and VA ranged from 8.70—14.81%, 8.33—36.84%, 34.21—51.52% and 21.67—69.09%, respectively. Aedes aegypti and Ae.albopictus were found breeding in HT, VA and KB; while only Ae.albopictus was obtained from UM. This study suggests that the invasion of Aedes mosquitoes in high-rise apartments could enhance the transmission of dengue virus and approach on vector control in this type of residential areas should be developed.
  • 比嘉 由紀子, Arlene Garcia-Bertuso, 徳久 晃弘, 永田 典子, 沢辺 京子
    セッションID: A04
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
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    デング熱は20世紀以降,流行が世界中で報告され,2億 5千万人以上が感染リスクを負っており,特に熱帯アジアでの流行が大きく,この地域に限っていえばマラリアを凌ぐ最も深刻な蚊媒介性ウイルス感染症となっている.フィリピンは東南アジアの中でも特にデング熱感染者数,死亡者数が多い国であるが,媒介蚊に関してはマニラを含む首都圏の情報が断片的にあるのみである.そこで,本研究では, 2010年 1月にルソン島において,古タイヤから発生するデング熱媒介蚊調査を行った.侵襲度を調べるとともに,野外にてピレスロイド系殺虫剤感受性簡易試験を行った. その結果,135地点から蚊の幼虫を採集した. 3,093個のタイヤのうち,775個のタイヤをチェックした. 有水,有蚊幼虫タイヤ数はそれぞれ 341(44.0%),127(16.4%)個だった. ネッタイシマカはルソン島に広く生息しており,ヒトスジシマカは北部と南部の一部にみられた.デング熱媒介蚊以外にネッタイイエカも採集された ネッタイシマカのほうがヒトスジシマカよりピレスロイド系殺虫剤に対する感受性が低下していることが示唆された.
  • Van Lun Low, Chee Dhang Chen, Han Lim Lee, Phaik Eem Lim, Cherng Shii ...
    セッションID: A05
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    A nationwide investigation was carried out to determine the current susceptibility status of Culex quinquefasciatus populations against four classes of insecticides: DDT, propoxur, malathion and permethrin. Tests were conducted in accordance to standard WHO mosquito larva and adult bioassay procedures. Across 14 study sites, a wide variation of insecticide resistance was developed in Malaysian Cx. quinquefasciatus in larva and adult . Both larval and adult bioassay exhibited dissimilar trend in susceptibility. Overall, the resistance status of Cx. quinquefasciatus larvae in descending order is: malathion (mean RR50 = 6.33) > DDT (mean RR50 = 2.31)>propoxur(mean RR50 = 1.73) > permethrin (mean RR50 = 1.65), whereas the resistance status of Cx. quinquefasciatus adults in descending order is: DDT (% mortality = 15.91) > propoxur (32.18%) > malathion (47.14%) > permethrin (75.67%). Statistical analysis indicated that there was a significant correlation between propoxur and malathion resistance (r = 0.780, p = 0.001) and between propoxur and permethrin resistance (r = 0.613, p = 0.020) in larval stage. The results obtained from this study provide baseline information for vector control programme conducted by local authorities. The susceptibility status of this mosquito should be monitored from time to time to ensure the effectiveness of vector control operations currently practised in Malaysia.
  • 都築 中, 砂原 俊彦, Dong Tran Duc, Vu Trang Duoc, Nguyen Thi Hoang Le, Nguyen ...
    セッションID: A06
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    デング熱媒介蚊として重要なネッタイシマカおよびヒトスジシマカの発生に影響を与える環境要因の相対的な重要性については不明な点が多い.特に,これら 2種が同時に発生しているベトナム都市部などでは,有効な防除法を策定するために発生要因となる環境を特定する必要がある.本研究では,ベトナム北部に位置する首都ハノイ特別市中心部の 267軒の住宅家屋を対象として, 2010年 8月に家屋を訪問し,デング媒介蚊調査を実施した .幼虫発生源調査では,合計 726個の潜在的な発生源容器から,ネッタイシマカ 123個体,ヒトスジシマカ 295個体の蛹が捕獲された.成虫採集では,ネッタイシマカ 194個体,ヒトスジシマカ 24個体が捕獲された.家屋環境調査では,屋外の敷地面積,部屋数,世帯人数,上水道設置の有無,居住形態などについて調べた.各家屋からのネッタイシマカ,ヒトスジシマカ成虫の発生と家屋単位および地区単位の環境の影響について解析した結果を報告する .
  • 角田 隆, Tran Chi Cuong, Tran Duc Dong, Nguyen Thi Yen, Nguyen Hoang Le, ...
    セッションID: A07
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ネッタイシマカとヒトスジシマカはデング熱の有力なベクターである.ベトナム国ハノイ市には毎年デング熱患者が発生し,ネッタイシマカとヒトスジシマカの両方が生息する.ハノイ市におけるデング熱患者発生の機構について明らかにするためには,これらの蚊の発生消長を調べる必要がある.2010年7月から2012年3月まで,ベトナム国ハノイ市内の8つの区に定点を設置してデング熱媒介蚊の調査を行った.毎月一回,各区から15軒の家をランダム抽出し,家の中と庭の人工容器に蚊の幼虫と蛹がいるか,確認した.蛹は実験室に持ち帰って,成虫になってから種を判別した.ヒトスジシマカは 9月から次第に減少し,冬期にはまったく採集されなくなった.一方,ネッタイシマカは冬期にも採集された.ハノイ市においてデング熱患者は 11月頃まで発生するため,ネッタイシマカが秋から冬にかけての患者発生に関与していると考えられた.まだ,デング熱患者は市の中心部の3つの区に毎年多く発生する傾向がある.これらの区ではネッタイシマカが優占する傾向が見られた.
  • 川田 均, G.O Dida, G. Sonye, C. Mwandawiro, S.M. Njenga, 皆川 昇, 高木 正洋
    セッションID: A08
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの研究結果より, 主要な3種のマラリア媒介蚊である An.gambiae s.s., An.arabiensis,
     An.funestus s.s.は, それぞれ独自の様式でピレスロイドに対する抵抗性を発達させてきたことが明らかとなってきた. またAn.arabiensisはおそらく従来の深夜型の吸血パターンから薄暮型の吸血パターンに行動を変化させてきていることも分かった. ピレスロイドに対する抵抗性の様式としては,上記の生理的抵抗性および行動抵抗性に加えて, ピレスロイドに対する忌避行動を高めて接触を回避する行動抵抗性も考えられる. そこで, 今回はGrieco et al. (2007)が行った行動実験に基づいた簡易的な忌避試験法を考案し, 3種のマラリア媒介蚊のピレスロイドに対する忌避行動について検討した. その結果, An.arabiensisAn.gambiae s.s. には忌避行動に明らかな違いがあり, 前者が後者に比べて高い忌避行動を示すことがわかった. これは前者がおそらくMFOの活性増大に起因する代謝抵抗性を有するのに対し, 後者は高頻度のkdr遺伝子に起因するノックダウン抵抗性を有することに関係があると思われた.
  • 川田 均, 二見 恭子, 駒形 修, 葛西 真治, 冨田 隆史, C. Mwandawiro, S.M. Njenga, 皆川 昇, 高木 ...
    セッションID: A09
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    Anopheles gambiae s.s.とAn.arabiensisは,ケニア全土に広く分布する主要なマラリア媒介蚊である. 両種には電位依存性ナトリウムチャンネルにおける 2つのミューテーション(L1014F と L1014S)がこれまで報告されており , いずれもピレスロイドに対するノックダウン抵抗性(kdr)を司る遺伝子変異と考えられている . L1014F変異はアフリカ西部に主に分布し, L1014S変異はケニアを含むアフリカ東部に分布するが, いずれも主としてAn.gambiae s.s.に見られる遺伝子変異で,An.arabiensisにおけるこれらの遺伝子変異の報告は極めて稀であった.演者らは,ケニア南部および西部を中心に発生源調査を2008年から2010年にかけて行ったが, L1014S変異はAn.gambiae s.s. において広範囲に分布し,かつ高頻度でhomozygousであったのに加えて,この変異は低頻度ながらAn.arabiensisにおいても同様にケニア西部を中心に広く分布することが分かった. これは,ケニアのAn.arabiensisにおける広範囲なL1014S変異の分布に関する最初の報告である.
  • 胡 錦萍, 二見 恭子, 比嘉 由紀子, 皆川 昇
    セッションID: A10
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ネッタイシマカ (Aedes aegypti)は世界の熱帯に分布し黄熱やデング熱などの熱帯病を媒介する.アフリカでは,本種は都市型(Ae. aegypti aegypti; Aaa)と祖先的な森林型(Ae. aegypti. formosus; Aaf)の 2亜種に分けられ,デングウイルス 2型の感受性は亜種間で異なる.そのため,両亜種の分布や集団構造を明らかにすることは,アフリカにおけるデング熱防除の観点からも有意義である.また,Aaaは人間活動に伴い分布を拡大しており,アフリカ大陸外で分化した集団が,再びアフリカに侵入する可能性もある. ケニアには両亜種が広く分布しており,モンバサやナイロビなどの大都市では,人の移動に伴う Aaaの大陸外からの再侵入も予想される.そこで本研究では,mtDNA2遺伝子座の配列を比較し,ケニア国内での遺伝子型の分布,2亜種の系統的関係,および国外からの侵入の可能性を検討した.ケニアの各地で蚊の成虫と幼虫を採集し,DNAを抽出後,ND4と COIの配列を決定した.これらの配列と,東南アジア,中米で採集された Aaaの配列,及び GenBankの Aaaの配列を用いて系統解析を行っている.これまでの ND4の結果では,1)ケニア国内に多様な遺伝子型が存在すること, 2)国内で少なくとも 2つのクレードが形成されること,3)Aaaと Aafは系統的に区別されないこと, 4)海外の Aaaはケニア集団と同じクレードに入ること,などが示されている.これらを侵入の可能性とともに考察する.
  • 二見 恭子, Gabriel Dida, 皆川 昇
    セッションID: A11
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    Anopheles gambiaeAn. arabiensisは,アフリカの主要なマラリア媒介蚊である.両種は同所的に分布し,形態や生息環境が類似しているが,吸血場所や好む吸血源は異なるため,この2種の種構成はマラリア伝播に大きな影響をもたらすと考えられる.ケニアでは両種の分布は部分的にしか解明されておらず,過去の採集情報のほとんどは海岸地方とビクトリア湖畔に集中していた.演者は2008年から2009年にかけて,ケニアの広い範囲で調査を行い,500カ所以上で両種の幼虫を採集した.形態形質及び分子的手法を用いて採集された幼虫種を決定し,各地の種構成を調べた.その結果,1) An. arabiensisは国内に広く分布する一方で,An.gambiaeは東部,西部ケニアに集中していること, 2)An.arabiensisはマラリア感染率が低いとされている地域にも高頻度で分布していることなどが明らかになった.さらに,各種が採集された地点の緯度経度と,各月の気温,降水量,植生などの環境データをMaxEntで解析し,分布確率を上げる環境要因を推定した.その結果,両種とも5月の降水量が最も影響し,降水量が増えるほど分布確率が上がった.しかし, 2番目,3番目に影響を及ぼす要因は各種で異なり,An.gambiaeには7月,10月の降水量が,An.arabiensisには4月の降水量と9月の最高気温が影響した.これらの結果から,季節変化のもとで各種集団が持続可能な条件について考察する.
  • 岩下 華子, 砂原 俊彦, G. O. Dida, G. Sonye, 皆川 昇
    セッションID: A12
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    西ケニアのビクトリア湖畔は,高度のマラリア浸淫地である.蚊帳の使用は,効果的であるが,蚊帳を使用する事によるハマダラカの吸血行動の変容も危惧されるなど,その効果には限界がある.よって,蚊帳だけでなく,それに付加した防蚊対策の可能性を探ることは重要である.住民の生活に密着し,無理なく受け入れやすい予防法として,古くから家畜を利用したマラリア防除法が考えられてきた .家畜を家の周辺に繋留することにより,屋内休息蚊の数の減少につながることが期待される.そこで,ビクトリア湖畔でも,家畜によるマラリア対策が可能かを検証するため,ランダムに抽出した104軒の家を早朝訪問し,スプレーキャッチ法により,屋内休息蚊の採集を行った .同時に,蚊帳の使用と,この地域のすべての家畜の分布を確認した.採集した蚊を顕微鏡下とPCR法により種同定を行った .家畜の存在と蚊帳の使用が,主な媒介蚊である3種のハマダラカ ( Ahopheles arabiensis, Anopheles gambiae sensu strict, Anopheles funestus)の数に影響があるかを検討した.その結果,蚊帳の使用は,3種の屋内休息蚊を減少させる十分な効果があることが分かったが,家畜の存在の付加的効果は期待できず,むしろ,山羊に限っては,屋内休息蚊が増加した .ただし,これは,直接,人吸血蚊の増加に関連するわけではなく,今後,それぞれの種で,媒介蚊の吸血行動への影響を検討する必要がある.
  • 皆川 昇, Gabriel Dida, James Kongere, 池田 恵理子, 胡 錦萍, 皆川 こごみ, 二見 恭子, 川田 均, ...
    セッションID: A13
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    2005年のロールバックマラリア会議において,2010年までに,妊婦と幼児の80%以上をマラリアから守ることを目標とされ,ケニア政府は,2006年より蚊帳とアルテスネートを含む合剤の普及をすすめた. その後,感染が減少したとされるが,蚊帳と薬がそれぞれどれほど寄与しているかを示した研究はなかった.また,蚊帳配布後の使用と感染との関係を明示した研究はなかった.本研究ではビクトリア湖周辺地域において,10歳以下の子供を対象に,蚊帳の使用と感染状況を明らかにし,関連性を検証した. 感染は,熱帯熱マラリアを対象とした簡易キット(RDT)とPCR法で確認した.蚊帳の使用は,検査日の前夜に蚊帳で寝たかを聞くことで確認した. 蚊帳使用率は 61.1%であり,5歳以下の幼児の使用率は74.0%であった. RDT陽性率は51.1%であり(2010と2011年),RCR陽性率は54.8%であった(2011年のみ). 蚊帳を使用している子供は感染率が低く,年齢が高いほど蚊帳の使用率が低くなり感染率が高くなった.蚊帳の使用が,感染リスクを約23-30%まで下げうることが示されたが,この地域では目標に達しているとは言えず,特に,5歳以上の子供の蚊帳の使用を高める必要がある.
  • 宮城 一郎, 當間 孝子, 玉城 美加子, 遠藤 有子
    セッションID: A14
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    鹿児島県徳之島・当部の森林内で昼間吸血に飛来した蚊数種の中にHeizmannia属の蚊を見出し,検索の結果, Heizmannia kanaの雌成虫と同定された. 本種は1979年, 田中和夫らにより奄美大島で吸血飛来した雌成虫を採集し,新種として記載された奄美特産種である. 雄成虫,蛹,幼虫は現在に至るまで記載されていない. 演者らは徳之島の森林内で竹切株,樹洞,人工容器の水溜りを採集したが本種の幼虫は発見できなかった. そこで ,吸血飛来した雌に十分血を吸わせた数個体の雌を小容器に入れて大学の研究室に持ち帰り産卵を試みた. 吸血6日目にぬれた厚紙に約20卵粒が産卵,数日後に瞬化し,卵,幼虫,蛹,雄雌の標本を得,各ステージの形態を近縁種と比較した. 結果,雄の生殖器に本種の特徴(distal claspetteの先端に1本長い毛と 1本の鋭い subapical spineがある)が見られた . 本種の卵は完全な乾燥には耐えることができないが,湿潤の厚紙の上では 1ヶ月間は卵殻内で生存していた. 本種の卵は竹切株や樹洞の湿潤状態内壁で越冬すると思われる. 成虫は森林内でしばしば人にふわふわ飛来(hovering)し,差し出した手足に着地を繰り返し,ゆっくり吸血を完了した. 普段は昼間,休息中の猪などを吸血していると思われる .
  • 當間 孝子, 比嘉 由紀子, 宮城 一郎
    セッションID: A15
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    2011年5月,西表島大富の森林内の湿地水溜りよりFicalbia(エセコブハシカ)属の幼虫を採集し,室内飼育により雌・雄成虫・蛹・幼虫の標本を作製した.雄標本を原記載と比較した結果,西表島から雄成虫だけで記載されたFicalbia ichiromiyagii Toma and Higaと同定された.未記載の雌・蛹・幼虫を記載し,剛毛配列を図と表で示した.本属は現在アフリカから4種,アジアから3種が記載されており,Fi.ichiromiyagiiの雄の生殖器は香港から記載されているFicalbia jacksoni Mattinglyと似ている.アジア産のコブハシカ属の種はいずれも蛹・幼虫の記載方法は古く,不十分な記載で.比較は困難である.マダガスカル(アフリカ)から詳細に記載されているFicalbia uniformis(Theobald)の蛹・幼虫とFi.ichiromiyagiiは良く似ている.Fi. ichiromiyagiiの蛹の特徴は6-CT毛が呼吸角より長く, 腹部の2-II毛は長く6分技,6-II毛は非常に長く,単毛,腹部X節のmedian caudal 毛は欠く.幼虫は頭毛 1-Cは太く東状様(spine-like)で通常小さい側枝を有する.腹毛7-IIは比較的長く7分技,呼吸官比は3.28である.ライトトラップで採集した本種雌中腸内の血液(blood meal)はDNAの分析結果,イノシシ由来と判定されている.
  • 今西 望, 高井 憲治, 金 京純, 津田 良夫, 小林 陸生, 糸山 享, 沢辺 京子
    セッションID: A16
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    Anopheles belenraeはシナハマダラカと同じhyrcanus種群に属するハマダラカで,韓国で採集された標本が2005年に記載された.韓国では三日熱マラリアを媒介することが知られている.本種は朝鮮半島および中国の一部の地域で分布が確認されており, 我が国においても2004年以降ほぼ毎年,北海道釧路湿原周辺で捕集されているが,それ以外の地域からの報告はない. 我々は,2011年7月,釧路湿原から西に約100kmの地点にある中川郡豊頃町の牛舎で,ハマダラカの雌成虫29頭を捕集した.捕集蚊はITS2領域の塩基配列に基づいて,すべてAn. belenraeと同定された.このことから,本種の分布域が十勝地方にも及んでいることが明らかになった.さらに,本調査で採集し 遺伝子解析により種の同定を行った本種およびエンガルハマダラカの標本を用いて,近縁の2種(シナハマダラカおよびエンガルハマダラカ)との形態的特徴を比較した.その結果 Costa上の翅脈斑(PP AD)/翅長値, 蛹における剛毛の分岐数,および Seta 9-V~VIIの幅/長さ値で,3種間に有意差が認められ,これらの指標を総合的に用いることで3種類の識別が可能であることが示唆された.
  • 小曽根 惠子, 伊藤 真弓, 林 宏子, 金山 彰宏
    セッションID: A17
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    近年,米国におけるウエストナイル熱,近隣諸国におけるデング熱,チクングニヤ熱等の蚊媒介性疾患の流行を受け,我が国でも新興・再興感染症の発生を予防するうえで,蚊類の分布・生態を把握することは極めて重要である.横浜市内の主要種の一つであるアカイエカ群は,人・鳥に対してともに吸血嗜好性が高く,ウエストナイルウイルス侵入時にはメインベクターとなる可能性が極めて高い.今回,「横浜市蚊媒介感染症サーベイランス事業」で捕獲されたアカイエカ群について,遺伝子による分類法で亜種同定を行った.調査は市内 19地点(市内公園,港湾地区)で行ったが,特にアカイエカ群個体数の多かった港湾地区2地点(鶴見区大黒ふ頭,中区本牧ふ頭)を中心に,アカイエカとチカイエカの分布状況を報告する.
  • 上村 清, 鳩山 英夫, 白井 良和, 島野 智之
    セッションID: A18
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    東北地方は,地球温暖化や開発行為に加え,東日本大震災による環境変化などによって,蚊類の分布状況が今後どのように変化するか注目される地域である. 演者らは,1999年の本大会において,1997年7月29日から8月14日にかけての現地蚊発生源調査と過去の報告をもとに,東北地方の蚊9属43種の採集記録をまとめ,報告した.その後,小林睦生グループによるヒトスジシマカの分布調査,渡辺護らによる津波被災地における蚊発生調査などが行われ,イナトミシオカが蚊相に加えられた. 昨春の津波や放射能汚染を受けて放置された水田跡などの広大な湿原などの出現が,アカイエカ,コガタイエカ,シナハマダラカ,イナトミシオカ,トウゴウヤブカなどの多発をもたらすだろう.アカイエカ,トウゴウヤブカは近々多発しなくなるだろうが,日本脳炎媒介蚊のコガタイエカ,イナトミシオカの多発は当分続くと思われる.セスジヤブカの発生も懸念される.マラリア媒介蚊のオオツルハマダラカがシナハマダラカと混同されている可能性がある. 東北地方の蚊相は,旧北区系のトワダオオカ,チシマヤブカ,ブナノキヤブカ,エゾヤブカ,スジアシイエカなどと,東洋区系のキンパラナガハシカ,アシマダラヌマカ,コガタイエカなどとで構成されているが,東洋区系のヒトスジシマカ,オオクロヤブカ,フタクロホシチビカなどの分布拡大や発生量増大が予想される.
  • 米島 万有子, 大西 修, 渡辺 護, 二瓶 直子, 津田 良夫, 小林 睦生, 前田 秋彦, 中谷 友樹
    セッションID: A19
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    京都市は歴史的な建造物が多く現存し,国内外を問わず多くの観光客が訪れる国際観光都市である.京都市に蚊媒介性感染症の病原体が持ち込まれた場合を想定し,病原体の侵入・定着や感染拡大のリスクを評価する上で,媒介蚊の生息密度は重要なパラメータである.本研究は市街地における媒介蚊密度の空間的な変動の度合いが,どのような環境要因によって規定されるかを明らかにすることを目的とし,生息密度調査を行った.調査では立地条件の異なる個人住宅20軒および2つの寺院を選定し,2011年6月10日~11月22日に計17回,ドライアイス1kgを誘引源とした.CDC型トラップによる定期採集を実施した,トラップ調査によって,アカイエカ群,ヒトスジシマカ,コガタアカイエカ,シナハマダラカ,オオクロヤブカ,ヤマトヤブカ,キンイロヌマカ,キンパラナガハシカ,ハマダライエカ,カラツイエカ,トラフカクイカの11種類が捕集された.調査期間を通じて,アカイエカの生息密度がもっとも高く,トラップあたりの密度には大きな場所間の変動が認められた(最大272個体/ trap night,最小 0個体/ trap night).場所間によるアカイエカ生息密度の違いを,トラップの周囲の環境条件から説明するため,主に国土交通省の緑被分布図および京都市上下水道局の下水道台帳等を資料とし,地理情報システムを用いて検討した.
  • 小林 睦生, 千崎 則正, 松本 文雄, 安部 隆司, 駒形 修, 二瓶 直子, 沢辺 京子
    セッションID: A20
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    2010年の岩手県環境保健研究センターによる岩手県内10市6町の計146カ所のヒトスジシマカ生息調査で,2009年の盛岡市仙北地区の1カ所の発生源から周辺の半径150m以上にわたって分布域が拡がっていたこと,その他同市内玉山区1カ所でも分布が確認された. 2011年東日本大震災による津波によって,太平洋沿岸地域は内陸部まで破壊され,調査対象としていた漁港,寺社なども被災し,海岸線の環境が著しく変化した.2010年に釜石市の北約15kmに位置する大槌町の寺院の墓地でヒトスジシマカが複数コロニー確認されたが,津波によって寺院は流出し,墓地も激しく破壊された.しかし,2011年の調査で,寺社裏山斜面にある墓地の花立て等からヒトスジシマカが確認された.また,盛岡市内では玉山区での定着は確認されなかったが,市内大慈寺町内の寺院に隣接する墓地および下ノ橋町の駐車場において多数のコロニーが確認された.青森県八戸市の海岸線は津波の被害を受けたが,2010年にヒトスジシマカが確認された寺院は高台にあって被災せず,ほぼ同じ墓石の複数の花立てからヒトスジシマカが確認された.しかし,分布が限局されていることから,今後の調査の継続が必要と考えられる.
  • 二瓶 直子, 吉田 政弘, 平良 常弘, 駒形 修, 望月 貫一郎, 小林 睦生
    セッションID: A21
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    効果的な感染症媒介蚊の防除法を開発するために,兵庫県西宮市を対象に全域を10地域に分け各地域 3-5町丁,全市で43町丁の住宅地を調査地域として,雨水枡の幼虫調査を行ってきた.また10地域内各2か所の公園で8分間人囮法により成虫を採集した.その地域差の解明に,下水の分流・合流方式,地形・水質・植生などの環境を,地理情報システムや衛星画像を用いて解析してきた.今回は蚊媒介性感染症の進入時に,行政レベルでより簡便・迅速で住民に周知できる蚊の防除法の指標として,市街地の傾斜に着目し,幼虫数および近隣の成虫捕集数との関連を検討した.地表面傾斜角の測定法のうち,西宮市全域の斜度分布は,GISソフトArcGIS Spatial Analystを用いて,国土地理院基盤地図情報10mメッシュ(標高)データから,傾斜角を算出し,10°以下の地域について1°ごとに分けて図化した. 43調査地域については1:2,500国土基本図で標高を明記された地点の最高地点と最低地点の差とその距離から角度を算出した.調査地域の傾斜と道路雨水祈や幼虫調査との関係から,傾斜が急な市街地では雨水桝の有水率が低く,蚊の発生が少ない一方,緩傾斜の地域は下水道が合流式で,蚊の発生数が多かった.このことから,西宮市の緊急時の蚊の防除地域の優先順位として,地表面傾斜角が指標になると考えられる.
  • 小林 睦生, 二瓶 直子, 吉田 政弘, 平良 常弘, 駒形 修
    セッションID: A22
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトスジシマカの幼虫発生源は古タイヤ,墓石の花立ての容器など種々の人口的な容器である.しかし,現在都市部の発生源として,道路,公園,マンション,公共施設等に多数存在する雨水マスが重要な発生源である.雨水マスは主に透明の水が溜まっており, 落ち葉など幼虫の餌となる有機物も存在している.雨水マスで発生した成虫は,マス内には留まらず,周辺環境に存在する種々の植生に速やかに移動し,戸建て住宅や公園の植生に潜んで吸血源動物を待つと考えられている.しかし,どのような植生を好んで潜んでいるかなど基本的な情報がない.そこで,西宮市内の公園で,2×2.5×1.9mの蚊帳を個々の植生に被せて,その中に採集者が入って成虫を捕集する方法で潜んでいる蚊の数と植生の関係を評価した.その結果,ヒペリカム,サザンカ,オカメズタ,ヨモギでは成虫捕集率(陽性植生/調査植生)が60%を越え,その他ツツジ,ユキヤナギ,クチナシ,ナンテンも40%を越えた.捕集数は1-120頭と大きな差が認められ,1カ所の植生当り5頭以上の捕集数を示す植生の平均は,5.0~70.5となった.季節では8月下旬から9月にかけての捕集数が多い傾向があった.これらの結果から,公園の植生には相当数のヒトスジシマカが潜んでいることが明らかとなった.ヒトスジシマカ以外に 9-10月には少数のコガタアカイエカが,その他,アカイエカとオオクロヤブカが捕集された.
  • 吉田 政弘, 芝生 幸夫, 平良 常弘, 小林 睦生
    セッションID: A23
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    蚊幼虫防除剤として,さまざまな殺虫剤が市販適用されてきているが,今回シリコン製剤(Aquatain AMF)を用いて,蚊幼虫発生源の雨水枡を対象として防除試験並びに室内試験を試みた.試験期間は平成23年5月より9月にかけて実施した.室内試験では野外より採集してきたアカイエカ群およびヒトスジシマカ幼虫を用いて,水表面積1㎡当りの死亡率を求めた.この室内試験から得られた液量を野外の公園の雨水枡に投入し,その効果を観察した.効果の判定法は,処理雨水枡より概ね1週間毎に蚊幼虫を持ち帰り,蛹の羽化率を蚊種毎に観察した.比較対象として無処理の雨水枡より処理区と同様に蛹の羽化率を観察した.その結果について報告する.
  • 大庭 伸也, 潮 雅之
    セッションID: A24
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ボウフラは種類によって行動や潜水頻度が異なる.この行動の種間差は,野外で遭遇する天敵に対する対捕食者行動として説明できるかもしれない.本研究では,水田などの開放的な水域で繁殖し天敵に遭遇しやすいコガタアカイエカCulex tritaeniorhynchusと,竹の切り株などの小さな水域で繁殖し,天敵にあまり遭遇しないヒトスジシマカAedes albopictusを材料に,ボウフラの天敵であるハイイロゲンゴロウEretes griseusの2種のボウフラに対する捕食頻度と水深の関係を調べた.ボウフラの水深定位頻度を定量的に調査したところ,コガタアカイエカは水面付近に定位するのに対し,ヒトスジシマカは水底または水中にいる頻度が高かった. 次に2種のボウフラを混在させハイイロゲンゴロウによる捕食順番を調べたところ,水面に定位するコガタアカイエカよりも,潜水頻度の高いヒトスジシマカをより早い段階で捕食した.最後に2種のボウフラを熱湯処理し水底に沈めてハイイロゲンゴロウの捕食順番を調べた.その結果,ハイイロゲンゴロウはボウフラの種に関係なくランダムに捕食した.以上より,野外において捕食者に遭遇しやすいコガタアカイエカのボウフラは,水面付近に定位することで捕食を逃れやすくしているのかもしれない.
  • 大庭 伸也, 大塚 雅和, 砂原 俊彦, 園田 友理, 川島 恵美子, 高木 正洋
    セッションID: A25
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    蚊は種によって繁殖水域サイズが異なる.一般に水域サイズの増加につれて捕食者も多くなるので,種ごとの繁殖水域サイズと捕食回避能力はリンクしている可能性がある.本研究では,コガタアカイエカ(コガタ)とヒトスジシマカ (ヒトスジ)に対して,天敵のキュー(ハイイロゲンゴロウを飼育していた水:天敵水)が及ぼす影響を産卵回避行動, ボウフラの行動,そして生活史形質の観点から調べた.天敵水と汲み置き水道水(対照水)を準備し,雌成虫の産卵行動を調査した.コガタは必ず天敵水ではなく対照水に産卵したが,ヒトスジは両方に産卵した.次に,天敵水と対照水に対し餌の有無を操作した4つの条件下でボウフラの行動観察を行った. 2種のボウフラとも対照水+餌なしの条件では積極的に潜水し,餌を探索するのが観察されたが,天敵水+餌なし条件ではコガタのボウフラは水面に定位する頻度が高くなった.最後に,ハイイロゲンゴロウが入ったケージを入れた容器(天敵存在区)または 空のケージを入れた容器(天敵不在区)を導入した容器で2種のボウフラを飼育し,幼虫期間及び成虫の体サイズを調査した.天敵存在区から羽化したコガタ成虫は天敵不在区に比べ体サイズが小さかった.以上から,コガタは天敵のキューを察知する能力に長けている一方で,ヒトスジは天敵のキューをあまり察知できないことが分かった.
  • 鶴川 千秋, 砂原 俊彦, 都野 展子, 高倉 耕一, 皆川 昇
    セッションID: A26
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトスジシマカは世界中に分布を広げているが侵入した各地ではヒトスジシマカと近縁種との間で様々な相互作用が生じていると考えられる.種間交尾に代表される繁殖干渉もその一つである.最近様々な昆虫や植物において,繁殖干渉が種の置換を起こすメカニズムとしてこれまで考えられてきた以上に重要であることが認識されてきた.しかし蚊の種間関係における繁殖干渉の役割についてはほとんどわかっていない.我々は ヒトスジシマカが繁殖干渉によって近縁種にどんな影響をおよぼすかを明らかにするための研究を行うことにした.過去の研究からヒトスジシマカの雄は近縁種のAedes aegyptiAe. polinesiensisの雌に対しても積極的に交尾を試みて成功させ,相手の雌に瞬化しない卵を産ませることが知られている.このような場合雌は少なくとも1回に産み落とされる卵とgonotrophic cycle1回分の時間を無駄にすることになるので,繁殖成功度に与える影響は非常に大きい.一方でヒトスジシマカの供給源である日本ではもともと近縁のヤマダシマカがヒトスジシマカと共存している.我々はまず,このような長期にわたって共存する2種の間にも種間交尾による繁殖干渉が存在するか否かを実験によって明らかにすることを試みている.ケージ内で種間交尾が自発的に行われるか,ヤマダシマカ雌が種間交尾によって受ける負の影響はその後同種の雄と交尾することによって緩和されるかを検討した結果について報告する.
  • 都野 展子, 比嘉 由紀子, 鶴川 千秋, 砂原 俊彦, 高倉 耕一
    セッションID: A27
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    ネッタイシマカとヒトスジシマカは現在では世界の主要大陸に分布を拡大し,黄熱病・デング熱・チクングニア熱などを媒介する. 2種の分布は熱帯から亜熱帯の低緯度地域では地理的に重複するものの,局所的には排他的に分布し,ネッタイシマカの侵入によるヒトスジシマカの排除や,その逆の例も報告されている.このような種の分布は2種の環境要求性の違いだけではなく 2種の種間相互作用を考慮することでより合理的に説明されると考えられる. Farjanaら(2011)は,この 2種の個体群成長が環境条件と他種の存在によりどのような影響を受けるか実験的に調べた.その結果2種の生活史形質の環境変化に対する反応は驚くほど似ており,幼虫期の資源を巡る競争では2種の局所的隔離を説明できないのではないかと考えられた .そこで成虫期に起こる繁殖に関わる重要な現象である繁殖干渉についてこの2種を用いて調査した結果を報告する.
  • 大橋 和典, 津田 良夫, 高木 正洋
    セッションID: A28
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    蚊の吸血嗜好性は病原体媒介能において最も重要な要因であるが,近縁種間の交雑が蚊の吸血嗜好性を変化させることがある. 世界的に分布しているアカイエカ種群は,鳥類嗜好性の高いトビイロイエカや哺乳類嗜好性の高いチカイエカなどを含んでいるが,これらの生殖隔離は十分でなく,地域によっては遺伝的交流が生じていることが知られている.日本の住宅地では,地上部の水たまりにアカイエカが,人工的な地下水域にはチカイエカが生息している.しかしチカイエカが地上部に発生することもあり,両種の棲み分けは完全ではない.演者らは,長崎市内で産卵トラップから採集したアカイエカ種群の卵塊を飼育し,雄交尾器の形態によって種を同定したところ,アカイエカとチカイエカの中間的なものが低頻度で観察され,PCR法によっても雑種と同定された.これらの雑種コロニーの生理的特徴を調べたところ,無吸血産卵を行う個体の割合も中間的であった.雑種コロニーの卵塊サイズは小さく,孵化率も低かったため,雑種の適応度が低く,両種の種分化が促進されている状態にあると考えられた.このように両種の遺伝的交流は低頻度であるものの,吸血嗜好性に影響している可能性があり,アカイエカの広い吸血嗜好性の一因となっている可能性がある.
  • 川田 均, G.O. Dida, G. Sonye, C. Mwandawiro, S.M. Njenga, 皆川 昇, 高木 正洋
    セッションID: A29
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    本年4月よりGembe East地区において, 昨年の大会で報告した天井設置型オリセット®ネットと従来のオリセット®ネットのマラリア防除に関する大規模な比較試験を実施中である. このトライアル結果については別途報告するが,今回はオリセット®ネット処理家屋へのハマダラカ類の侵入と吸血パターンについて調査を行った. 各処理区の家屋において,夕方から翌日の朝にかけての飛来成虫の採集を,CDC Miniature Light Trap (Model 512) に Collection Bottle Rotator (Model 1512) を組み合わせた装置を使用して行った.吸血蚊については,ウシとヒトの吸血の有無を確認した.その結果,An.arabiensis成虫は,主として住民が就寝する前の時間帯(18:00-22:00)に家屋内に飛来し,高い率で吸血を済ませているが,多くの住民が就寝すると思われる22:00以降はオリセット®ネットの効果により吸血率は低下することが分かった.このように,人が蚊帳の中で就寝する前に飛来する蚊に対しては , オリセット®ネットの効果は期待できないことから,天井設置型ネットなどの新技術の採用が不可欠と思われる .
  • 沢辺 京子, 新井 智, 大塚 彰, 松村 正哉, 衛藤 友紀, 梁瀬 徹, 井上 栄明, 今西 望, Sudipta Roychoudhu ...
    セッションID: A30
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    1960年代後半, 東シナ海洋上の定点観測船でウンカ類が多数捕獲され, 大陸や東南アジアから毎年飛来侵入する農業害虫の存在が広く知られるきっかけとなったが, その中にコガタアカイエカが見出されたことはあまり知られていない. コガタアカイエカはアジア全域で主要な日本脳炎ウイルスの媒介蚊である. 国内の患者数は年間 10名以下で推移しているものの, 蚊や豚におけるウイルスの活動は依然として活発である. 近年のウイルス分離株の解析から, 東南アジアで流行しているウイルス株が日本に飛来していることが示唆され, 本種蚊の長距離飛翔の再評価が望まれた. 我々は,2009,2010年に長崎, 佐賀, 鹿児島県に設置された定点トラップにコガタアカイエカが多数捕集され,ミトコンドリア遺伝子の塩基配列から, 国内に生息する集団(日本型)だけでなく, 日本以外のアジア諸国に分布する集団(アジア型)と一致する個体が, 毎年約10%含まれていることを明らかにした. コガタアカイエカがウンカ類と同様に, 毎年海外から長距離飛翔していることが示唆された. 本大会では, 2年間の定点トラップによるコガタアカイエカの捕集結果と気象解析に加え, フライトミルを用いた室内飛翔実験ならびに飛翔エネルギーの測定結果をもとに, 本種の長距離飛翔を物理的・生理的特徴から考察する.
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