日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
37 巻, 1 号
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第2報
巻頭言
  • 北住 映二
    2012 年 37 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    第38回日本重症心身障害学会学術集会を、東京で開催させていただくこととなりました。 医療は、「治す」だけでなく「支える」という役割を持っています。特に、障害や慢性疾患・難治性疾患のある方々への医療は、従来の「治療」や「予防」というイメージでの医療から発展し、「支える」という役割と内容を大きく有してきています。最近は「『医学モデル』から『社会モデル』へ」というスローガンが唱えられますが、この言葉で否定的に語られる医学医療の限定的イメージを転換し、「支える医療」としての医療の側面の重要性を関係者が共有し、その内容と制度を発展させていくことが必要です。 重症心身障害児者への医療は、原因の究明、予防、基礎疾患の治療など「治す」ことへの関わりとともに、「支える医療」という面が特に大きなものです。その内容は、呼吸障害や嚥下障害などに対しての、病態把握を基礎としながら姿勢管理を中心とした様々な日常的な手だてと手術も含む治療が組み合わされるようになり、以前より深まりを見せています。また、医療的関わりの場は、病院、入所施設だけでなく、家庭、学校、通所など地域生活の場にも大きく広がっています。これにより、「いのち」だけでなく、快適で安定した生活を支え、さらに、広がりのある生活を支えるものとなってきています。その中で、いくつかの大きな課題も生じてきています。 このような意味から、今回の学術集会のテーマを、「『支える医療』としての重症心身障害児者医療-その広がりと深まり」としました。 世界も日本も厳しい社会情勢になってきている中で、日本における重症心身障害児者の医療と福祉の歴史と意味を考えながら、原点をあらためて確認したいという願いをこめて、私たちの大先達のお一人であられる岡田喜篤先生に、特別講演を御願いしました。 昨年3月の大災害を仙台で被災し、厳しい状況の中で在宅の重症児の支援に奔走された田中総一郎先生にも、特別講演を御願いしました。今後も大災害の発生が想定されている中で、特に在宅の重症心身障害児者の方たちにとって、経験した災害に際して支援の在り方も含めて何が大きな問題だったのか、そして今後、何を考え何を備えておくべきか、お話いただきます。 病理学的研究に携わりかつ臨床にも詳しい林雅晴先生に、病理所見から見た重症児者の病態の理解について教育講演を御願いしました。また、長谷川久弥先生は昨年の学術集会のシンポジウムの演者のお一人でしたが、もっと詳しく聴きたいという会員が多数だったと思います。今回、教育講演を御願いし、新生児期から成長後の時期まで非常に多数のお子さんについて内視鏡を中心に検査をされ治療されている経験から、お話いただきます。 1日目のシンポジウムは、呼吸器療法をテーマとしました。重症心身障害児者への非侵襲的呼吸器療法の急性期と慢性期の使用が広がって来ている中で、技術的な問題への工夫、ケアのあり方の問題などが共有できるように、また、パーカッションベンチレーターの適正使用など、アンケート調査の報告も含め、検討と共通認識の場になるようにしたいと考えています。 学校や地域施設などでの「医療的ケア」の問題は、支える医療としての重症心身障害児者医療の広がりの中で必然的に出て来た問題です。重症心身障害を不治の疾患として初めから「緩和ケア」の対象として考えるというような基本的立場ではなく、医療的支援をしっかり行うことによって、重症な障害があっても前向きな広がりのある生活ができるように支えていく、また、家族の過大な負担なしに学校にも安定して通えるように支えていく、社会参加を支えていく、そのような基本的立場とその具体的な関わりの一つが「医療的ケア」への私たちの関わりです。この4月から法制度が変更になる時期に当たって、この医療的ケアの基本的課題と具体的課題を、行政からの参加も求めながら、2日目のシンポジウムで考えていきたいと思います。 プログラムは、1日目は主に医学的医療技術的なテーマとし、2日目は、主に基本的問題と社会的テーマを設定しました。幅広く多くの方に参加いただけるよう2日目は土曜日になるように日程を組み、また2日目のみ参加の場合の費用について配慮しました。ポスター発表の方が多くなる可能性がありますが、展示は入れ替えなしで2日間継続展示します。 多くの方々の参加を、お待ちします。
特別講演
  • 中島 欽一
    2012 年 37 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 神経幹細胞は自己複製能を持つと同時に、中枢神経系を構成する主要な3細胞種であるニューロンおよびその機能を支持するアストロサイトとオリゴデンドロサイトへの多分化能を持った細胞である。近年ヒト成体脳においても神経幹細胞の存在が示され、その分化制御機構の解明は再生医学応用への観点からも注目されている。神経幹細胞の分化制御には、サイトカインや増殖因子といった細胞外因子の働きと、エピジェネティクス機構を含む細胞内在性プログラムの協調作用が重要であることが明らかになりつつある1)。バルプロ酸は抗てんかん薬として長らく使用されてきた薬剤であるが、近年ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としての作用が報告された。そこで本稿では、エピジェネティクス機構の中でもバルプロ酸によるヒストンアセチル化制御を介した神経幹細胞分化制御機構について述べるとともに、それを利用した抗てんかん薬としての作用機序の一部、およびわれわれが新規に開発した脊髄損傷治療法について紹介したい。 Ⅱ.ヒストンアセチル化 エピジェネティクスとは「遺伝子配列変換を伴わずに、遺伝子発現を調節する仕組み」と簡単には定義される。この仕組みを考慮することで、全く同じ遺伝子セットを持つにもかかわらず、異なる細胞や組織がそれぞれに特異的な遺伝子を発現できるという現象をうまく説明できる。エピジェネティクス機構はDNA自身のメチル化や、DNAが巻き付いてクロマチン構造をとるために必要なヒストンタンパク質の修飾(アセチル化、ユビキチン化、リン酸化、SUMO化、メチル化など)によって調節される。一般的にヒストンのアセチル化は遺伝子発現に対して正に、脱アセチル化は負に作用することが知られている2)。これはヒストン尾部がアセチル化を受けるとDNAとの親和性が減少した結果、クロマチン構造が脱凝縮し、転写因子等がアクセスしやすい状態になるためであると考えられている。 Ⅲ.バルプロ酸 現在バルプロ酸は臨床現場において抗てんかん薬、あるいは気分安定薬として広く用いられている。バルプロ酸は1882年、Burtonらによって初めて無色の液体として合成されたが、長い間治療薬としての効果を発見されることはなく、有機化合物を溶解するときに代謝的に不活性な溶媒としてごくまれに使われる程度であった。図1にその構造を示す3)。その後バルプロ酸の抗てんかん薬としての薬理作用が発見されたのは、実に80年後のことであった。1962年、Eymardらはkhellineという薬剤の誘導体が抗てんかん薬としての薬理作用を持つか否かを調べていた。その薬剤は水や一般的な有機溶媒に溶けにくい性質を持っていたため、当時ビスマス塩等の溶媒として用いられていたバルプロ酸に溶かしたのである。こうして作られた薬液は著明な抗てんかん作用を示したが、実はその効果は溶媒として用いていたバルプロ酸によるものだということが後になって明らかになった。1963年、Meunierらはバルプロ酸に抗けいれん作用があることを発見し、1964年にはCarrazらによって抗てんかん作用が再度確認された。日本においては1975年に抗てんかん薬として承認され現在まで用いられている。1980年代にはドイツ、以後アメリカで抗躁作用が報告された。1995年にアメリカ食品医薬品局(FDA)で抗躁薬として認可され、現在ではリチウムに次いで双極性障害の治療薬として広く使われている。日本では2002年秋に双極性障害治療薬として承認された。 バルプロ酸は他の気分安定薬に比較すると副作用は少ないものの、長期投与をうけた女性の8割で多囊胞性卵巣症候群もしくは高アンドロゲン血症を誘発したという報告もあることから、妊娠時には禁忌とされており、特に女性に維持療法として投与する際には注意が必要である。 Ⅳ.バルプロ酸のニューロン分化促進作用 近年、このバルプロ酸に新たな薬理作用があることが報告された。それはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害する働きである。前述のように、HDACが阻害されヒストンのアセチル化が亢進すると、クロマチン構造が弛緩し、転写因子などのDNA結合因子がアクセスしやすくなるとともに遺伝子の発現が亢進することが知られている。そこでわれわれはこのヒストンアセチル化状態が神経幹細胞分化に及ぼす影響を調べるために、神経幹細胞をバルプロ酸存在下に培養した。その結果、神経幹細胞をバルプロ酸で処理すると細胞増殖が抑制されると同時にニューロンへの分化が選択的に誘導されることを見いだした(図2)4)。これはゲノム全体のヒストンアセチル化がヒストン脱アセチル化酵素阻害によって亢進された場合、ニューロン以外にもアストロサイトやオリゴデンドロサイト特異的遺伝子の発現が促進された結果、混合された分化が見られるであろうという当初の予測に大いに反した結果であった。またこの増殖抑制とニューロン分化促進作用は他のHDAC阻害剤(トリコスタチンAおよび酪酸ナトリウム)を用いた場合にも同様に観察され、かつバルプロ酸の類似体でHDAC阻害作用を持たないバルプロミドでは見られなかったことから、これらの作用はバルプロ酸のHDAC阻害作用によって発揮されたものと考えられる。さらに興味深いことにバルプロ酸には、ニューロン分化促進作用に加え、神経幹細胞のアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化を誘導する培養系においてはそれらグリア細胞への分化抑制作用も見られた。 前述バルプロ酸の機能発揮のメカニズムを解明するために、バルプロ酸によって発現が誘導される遺伝子を検索した結果、ニューロン分化誘導作用が知られているbasic-helix-loop-helix(bHLH)型転写因子であるNeuroDを同定した。このNeuroD遺伝子を神経幹細胞で発現させたところ、バルプロ酸処理によって見られたニューロン分化促進とグリア細胞への分化抑制が再現された。以上のことは、NeuroDがバルプロ酸の作用にとって重要な役割を果たしていることを示唆している4)。 Ⅴ.バルプロ酸の抗てんかん薬としての作用機序 これまで「バルプロ酸がなぜてんかんに効くか?」という問いに対する答えを模索すべく、様々な研究が行われてきた。バルプロ酸はGABA分解酵素であるGABAトランスアミナーゼを阻害し、抑制性シナプスでのGABA濃度を上昇させることが知られている。さらにGABAの再取り込み阻害、GABA受容体へのアゴニスト作用もあることから、抑制性ニューロンであるGABAニューロンを機能亢進させけいれんを抑制するといわれている。また、バルプロ酸はニューロンの生存促進効果があることも報告されている。 われわれは、てんかんと神経幹細胞の関わり、および神経幹細胞の増殖・分化に及ぼすバルプロ酸の影響に着目し、興味深い実験結果を得た5)。グルタミン酸受容体刺激剤であるカイニン酸を用いたてんかんモデルラットを使った実験では、記憶の中枢である海馬歯状回の神経幹細胞の増殖が促進され、異所性のニューロン新生が観察されるが、この新生ニューロンの樹状突起の伸長方向が不規則になっているのが観察された。そこにバルプロ酸を投与すると神経幹細胞の過度の増殖が抑制された結果、異所性ニューロン新生が阻害され、また不規則であった突起伸長方向の改善がみられた。これらにより、てんかんによって起こる異常発火の原因とそれを改善するバルプロ酸の新たな薬理作用が強く示唆された。またバルプロ酸投与により、てんかんによる海馬物体認識障害の改善もみられている。てんかんの原因はシナプスの伝達効率の異常、興奮性アミノ酸の放出亢進、GABAの放出減少、等が周知の事実であるが、ニューロンを生み出す神経幹細胞の増殖能の亢進やニューロン樹状突起の伸長方向の不規則性も、てんかんの病態に深く関わっており、それをバルプロ酸が改善するのかもしれない(図3)5)。 Ⅵ.バルプロ酸の損傷脊髄治療への応用 損傷脊髄治療に関して、神経再生の妨げになる損傷部の炎症を抑制するためにメチルプレドニゾロンを投与する方法、神経細胞の軸索伸展を促進するために神経栄養因子を投与する方法、軸索伸展阻害タンパク質の機能阻害抗体を投与する方法、軸索伸展を阻害するプロテオグリカンの分解酵素を投与する方法などがこれまでに試されているものの、劇的な治療効果はみられていない。さらに、損傷脊髄ではグリア細胞(特にアストロサイト)が増殖し瘢痕を形成することでニューロンの軸索伸長が阻害されることも知られている。また損傷脊髄内では、神経幹細胞からアストロサイトへの分化を促進するサイトカイン群の発現上昇がみられ、移植および内在性神経幹細胞の多くはアストロサイトへと分化してしまい、軸索も修復されず下肢運動機能改善はほとんどみられない。 (以降はPDFを参照ください)
会長講演
  • −脳の機能と形態−
    橋本 俊顕
    2012 年 37 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム障害(ASD autism spectrum disorders)は発育期の脳に生じた損傷や機能異常に起因した精神、行動や感覚、運動の機能障害があり、社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり行動の3徴候が中心である。近年、神経放射線学、神経科学、生命科学の進歩により様々なバイオマーカーが見つかっている。これらのバイオマーカーを用いてASDの診断、治療効果の評価、薬物療法への応用が試みられるようになってきた 1)。本論文においてはASDのバイオマーカーとなる脳の形態と機能の知見についての現状を述べたい。 Ⅰ.自閉症スペクトラム障害(ASD)について アメリカ精神医学会の診断基準DSM-IV-TR2)によると自閉症は広汎性発達障害の中に位置付けられており、広汎性発達障害には表1に示すものがある(表1)。L Wing3)の自閉症スペクトラム障害はbroad autism phenotypeを含む定型発達までの広がりを持った広い概念であるが、一般に自閉症スペクトラム障害と言われているものはDSM-IV-TRでは自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害が該当する。社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害から来るこだわり行動の3つ組の症状を呈する症候群である。その他に多い症状としては感覚の異常、協調運動、バランスの異常などがある。 ASDの頻度は報告者により差がみられるが0.5~1.0%であり、1960年代の報告と比較すると10~20倍以上の増加である。Hondaら4)の横浜市での調査では約2%の頻度になっている。その要因として自閉症概念の変遷、専門家および一般人の自閉症に対する理解の向上、社会環境の変化などが想定されている。男女比は3−4:1で圧倒的に男性に多い。 知的レベルについては、半数ないし60~70%が高機能広汎性発達障害となっている。 自閉症の原因は出生前から出生後まで様々なものがあるが、原因のはっきりしないものが80~90%であり、遺伝性と考えられている。1卵生双生児の研究では一方の児が自閉症である場合に他の児が自閉症になる一致率は60~92%であり、2卵生の場合は約10%と同胞例の一致率と変わらず、遺伝率は90%以上であり遺伝性の濃厚な障害である5)。同胞、親子例も多い。遺伝性に加えてなんらかの環境要因が関与して発症すると考えられている。 原因遺伝子の検索が行われており、連鎖解析、SNP(一塩基変異)解析、連鎖不均衡マッピング、関連研究などの手法を用いて染色体上の原因遺伝子の位置の絞込みが行われている。2番染色体、7番染色体、11番染色体、15番染色体、X染色体上の遺伝子が注目されている。現在まで候補遺伝子として20種類以上の遺伝子が同定されている。決定的なものは見つかっていないが、画像研究の様々な結果から情報伝達の同期性の問題が推測され、シナプス形成に関与するニューロリジン、ニューレキシン、SHANK2などが注目されている6)。 10~20%は原因疾患としては結節性硬化症、レクリングハウゼン病、West症候群、脳性麻痺、先天性代謝性疾患、Angelmann症候群、Prader-Willi症候群、脆弱X症候群、胎内感染症、胎児性アルコール症候群など様々な疾患がある。 Ⅱ.ASDの脳の発達と形態について 自閉症のMRIでは定型発達者では見られない微細な変化が高率に見られる。Boddaertら7)は77例の自閉症のMRIについて検討し判定可能であった69例中33例に異常所見があったと報告している。白質の異常信号、Virchow-Robin腔の拡大、側頭葉の異常所見などであり、発生上の問題を示唆するものであると考えられている(図1)。 頭囲は脳容量の臨床的な有用な指標であり、幼小児期にあっては脳重量・脳容積と頭囲は平行して変化するが、加齢とともに成人に向かってその関係性は乏しくなる 4)。自閉症の剖検脳で脳重量の増加を報告したBaileyらは16歳以下の自閉症の頭囲を測定し、自閉症では頭囲が大きいことを報告した8)。自閉症において大頭を示唆する頭囲の増大は諸家の報告によりまちまちであり、年長小児から成人例で10〜30%に大頭がみられている。自閉症における頭囲の増大はいつ頃から生じるのか、大頭の頻度は年齢による差があるのか等について興味のあるところであるが、Redcayら、Lainhart、Courchesneらは自閉症の頭囲に関する文献を縦覧分析した。新生児期の頭囲はそれぞれ1報告で増大、減少と報告されているが、他の報告では変化なしであった9)。生後の変化について、頭囲は対照に比較し2〜4、5歳まで急速に増大し、それと平行して大頭の頻度も増加してくる。しかし、その後増大の傾向は鈍化し、逆に対照の増大速度が勝るようになり、大頭の頻度は減少し差が少なくなってくる。著者らは自閉症児の母子手帳の記録を分析した。自閉症の頭囲は出産時に対照と差がないが、その後急速に増大し6カ月で差がピークとなり、その後差が少なくなる傾向であった(図2)10)。身長との関連性は乏しかった。 Pivenら11)はMRIで脳体積の増大、特に側頭葉、頭頂葉、後頭葉の白質体積の増大を報告した。その他、脳体積の増大を支持する報告が多数見られるが、Carperら12)は前頭・頭頂葉白質および前頭・側頭葉灰白質体積の増加は2-4歳にかけて見られたことから、生後数年の間に脳体積の増大が生じるとしている。脳体積の増加について白質か灰白質か、どの脳部位が増大するのかということは興味のあるところである。Courchesneら13)は2-3歳の自閉症幼児の脳MRIについて検討し、発達の早期から大脳の白質および灰白質および小脳白質の過形成が生じることを報告した。2-4歳児の自閉症の灰白質の過形成は前頭葉、側頭葉にみられ、白質の過形成は前頭葉と頭頂葉にみられたが後頭葉の体積には増加の所見はなかった12)。前頭葉の体積増加は背外側前頭葉、内側前頭葉にみられるが、これは2-4歳までであり5-9歳では対照と差がなくなっている。 Amaral DGら,は自閉症の脳体積に関する報告をメタ分析し、自閉症では白質、灰白質ともに幼小児期には対照に比し体積が増大しているが年齢の増加とともにしだいに差が少なくなり、成人では差がなくなるとしている(図3)14)。 上記のような神経系の早期過剰発育と早期の発育鈍化による大頭の発生機序として、生理的な神経細胞死(アポトーシス)の異常、シナップスの減少の異常、神経成長因子の異常、樹状突起・軸索などの神経突起の分枝異常、髄鞘化の異常等が推測されている。 Ⅲ.ASDの脳の働きについて ASDの神経心理 「心の理論」、実行機能、中枢統合機能などの課題負荷テスト中の脳機能をfMRIで検索し自閉症脳の機能異常部が明らかになってきた。Amaral DGら14),はこれらの報告をメタ解析し自閉症脳の機能異常部位について報告した( Trends Neurosci 2008)。それによると社会性の障害には前頭葉眼窩皮質(OFC)、前部帯状回(ACC)、紡錘状回(FG)、上側頭溝(STS)、扁頭体(A)、下前頭回(IFG)、後頭頂皮質(PPC)、コミュニケーションの障害には下前頭回(IFG)、上側頭溝(STS)、基底核(BG)、補足運動野(SMA)、黒質(SN)、視床(Th)、小脳、橋核(PN)、こだわり行動には前頭葉眼窩皮質(OFC)、前部帯状回(ACC)、基底核(BG)、視床(Th)が関与していることが示された(図4)。 ASDではセロトニン合成の低下、血中セロトニンの高値等、さらに、ドパミン、アセチルコリン、GABA等の神経伝達物質についても異常が指摘されてきた。浜松医大のグループはPETを用いてセロトニントランスポーター、ドパミントランスポーターの機能を解析し、自閉症群ではセロトニン活性が低下しているが前頭前野内側腹側部のドパミン活性は増加していること、セロトニン活性増加と社会性が正の相関、こだわり行動と負の相関をすることを明らかにした15)。また、Suzukiら16)はアセチルコリンエステラーゼ活性とADOS社会性のスコアーとの関連性について明らかにした。GABAは抑制性の神経伝達物質であるが発生の早期には興奮性の機能があり神経の形成にも関与している。 GABAについても報告がなされ受容体の機能低下の報告がある17)。森はMRSAでGABA濃度の測定を行い、ASDの前部帯状回での低値があり、IQと正の相関があり、てんかんを合併している例ではそうでないものに比しより低値であったと報告している(図5)18)。 ASD脳の最近の機能異常のトピクスとしてミラーニューロン(MN)の異常がある。MNは他者の模倣時や観察時に活動がみられるニューロンであり19)、BA44、下頭頂葉に存在する。自閉症では活動の低下が報告されており、「心の理論」との関連が想定されている(図6)20)。 (以降はPDFを参照ください)
教育講演1
  • −人と人とをつなぐコミュニケーション−
    星山 麻木
    2012 年 37 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに クリエイティブ音楽ムーブメントは、音楽療法とムーブメント療法をベースに、自尊感情を高め、人と人とをつなぐコミュニケーションを促すことを主たる目的として、重症心身障害児、肢体不自由児、知的障害児、発達障害児など、幅広い対象児への適応を考慮し、実践されてきた方法論である。特徴として、音楽と動きを手段として、対象者同士のコミュニケーション、創造性、即興性、相互作用を重視し、画一的な動きは求めず、それぞれの参加者の意欲や自己表現を大切にし、個の違いを尊重する。近年、子どもだけではなく、母親や家族、指導者など、子どもを支える支援する側の人々に対しても、実践されている1)。 音楽療法とは、音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること(音楽療法学会定義)。入院している子どもや障害のある子どもや家族は、多くの不安、恐れにさらされているが、それらのストレスや痛みの軽減に音楽療法は効果が多く報告されている。 一方、ムーブメント療法とは、子ども(対象者)の自主性、自発性を尊重し、子ども自身が動くことを学び、動きをとおして「からだ(動くこと)」と「あたま(考えること)」と「こころ(感じること)」の調和のとれた発達を援助すること(日本ムーブメント教育・療法協会)である。重症心身障害児に対しても、多くの実践と研究の成果が報告されている。 音楽療法とムーブメント療法、音楽と動きという2つの手段を融合すると、より豊かで効果的な療育的アプローチになるのではないかと考え、約20年間にわたり重症心身障害児をはじめとする特別な支援が必要な子どもたちに対し、音楽療法とムーブメント療法を融合させた「クリエイティブ音楽ムーブメント」を試みてきた2)。 本論では、様々な対象者に対して行われた音楽療法とクリエイティブ音楽ムーブメントの実践から、人と人とをつなぐコミュニケーションとしての新たな可能性について考察する。 対象と方法 対象は、重度から軽度まで様々な障害のある子ども、母親、家族、支援者である。病院、施設、学校など様々な場で行われた20年間の実践から、Ⅰ.個別セッションと小グループセッションによる実践、Ⅱ.客観的な評価を試みた実践、からその効果と可能性を探る。 結果 Ⅰ.個別セッションと小グループセッションによる実践 1.眼球運動による作曲を行った実践事例3)  ウエルドニッヒホフマン病のため、全身の随意運動が失われ、眼球運動のみでコミュニケーションをしている患者に対して、3年間にわたり個別の音楽療法を試みた。治療目標は、眼球運動による感情表現としての作曲を試みること、音楽を手段として社会とのつながりを拡大しQOLを豊かにすることである。セッションは16歳から18歳までの3年間週に1回約1時間ベッドサイドで行われた。総セッション回数は90回であった。セッションは、好きな音のとき、眼球運動によるYESのサインをおくり、セラピストが音を五線譜に書きとめる方法で進めた。サインはイエスなら瞳を回し、ノーなら瞳を動かさないようにした。3カ月に約1曲のペースで作曲し、約20曲完成した。作品はコンサートで発表し、2枚CDを制作した。音楽を通じ、多くの人が彼の気持ち、喜び、悲しみを理解した。入院中の子どものための音楽療法は感情表現の拡大、QOLを豊かにすること、ストレス発散やリラクセーションなど多くの効果を期待できると考えられた。 2.発達障害のある子どもの母親に即興的個別セッションを行った実践事例  アスペルガー症候群の7歳の男児の母親を対象に、即興セッションを月に1回45分年間12回行った。目標は、母親の子育てに対する辛い否定的な気持ちを和らげ、セラピストとの信頼関係を築き、男児への支援につなげることである。 柔らかいスカーフを何枚か準備し、(感じたまま、好きなように動いたり、休んだりしてね。)と話し、セラピストのピアノの即興演奏を10分程度行う。対象者は、転がったり、スカーフの中に潜ったり、じっとしたりしている。 次に、グランドピアノの低音側の椅子に対象者が座り、セラピストが低音側に座る。対象者には、目を閉じ、好きな音を指で感じたまま弾き、お互いの指や腕が多少触れても、気にしないように話す。(お互いに、心に感じたままピアノを打楽器と考え、音で対話してみよう。)と告げる。セラピストは、常に対象者の孤独や辛さを受容するように、その気持ちを音楽で受けとるように努める。 初回は、戸惑いながら、1つ1つ音を出していたが、10分ほどで、好きな音が心の感じるままに出せるようになり、メロディのように音をつなげて弾いた。さらに10分経過すると、対象者とセラピストがお互いが対話を楽しむかのように、音を止めたり、つなげたり、できるようになった。セッションが終了すると、母親の表情が明るくなった。対象者は、(ピアノ弾けないのに、なんて、きれい。楽しかった。言葉より音楽の方が楽。音で心が通じるなんて不思議。なぜ音楽で相手のことがわかるのだろう。)と自分の気持ちを述べることができた。即興セッションが終了すると、子育ての不安や心配、悩みなどを話し始めた。 2回目以降は、表情も和らぎ、音域が広がって、楽しみに来るようになった。約1年のセッションの結果、男児も含めた親子セッションへとつながった。 3.小グループセッションによる実践事例 発達障害のある幼児と小学生のグループ、それぞれ約6名ずつ、月に1度45分クリエイティブ音楽ムーブメントのセッションとして1年間12回行った。目標は、自尊感情を高め、自分を好きになること、自分の行動がコントロールできるようになること、であった。セッションは、音楽に合わせて即興的に動きを考える、お互いコミュニケーションする、自らサーキットを考えて、自分に挑戦する、などであった。最初は、小グループ活動に入れなかった子どもたちは回を重ねるごとに自ら活動に参加するようになり、自ら動きを即興的に考え、表現することができるようになった。 順番を守ること、ルールを守ることについて、見通しがつくようになり、しだいに集団に適応することができるようになり、癇癪を起すこと、集団からの離脱が減少した。またセッションに参加すること自体が楽しみになり、友達との関わりを積極的にもてるようになった。音楽と動きを使った発達障害のある子どもへのセッションは今後も検証を重ねる予定である。 Ⅱ.客観的な評価を試みた実践事例  重症心身障害児(者)に病棟でクリエイティブ音楽ムーブメントを定期的に行い、様々な効果が報告されている4)が、重症心身障害児(者)に対する音楽療法の効果についてもさらに検証されている。なかでも、セラピストがわらべ唄を歌いかける場合と録音されたわらべ唄を比較した研究では、セラピストが直接、歌いかけた場合の方が皮膚温度は上昇し、直接的な音楽療法の方が効果があることが検証されている5)。ここでは、ある重症心身障害者である女性が幼いころ、母親に歌ってもらった同じわらべ唄を、母親に依頼して録音し、どのように皮膚温度が変化するか、またどのような情動反応が観察できるか客観化した研究6)を紹介する。 30歳女性、亜急性硬化性全脳炎で6歳まで健常児であった。脳腫瘍の疑いで脳室腹腔シャント術を受け、四肢体幹機能障害が出現し、12歳から18年間、国立病院重症心身障害児病棟に入院している。17歳から経管栄養、おむつ、寝たきりとなる。大島分類1。声をかけると笑う。 研究期間は2003年8月から2004年3月にかけて行われた。方法は、馴化後、音楽の前、中、後で示指皮膚温度を1回ずつ測定した。その結果、音楽開始の前、中、後では、温度が平均0.5度から2.2度上昇した(図1)。 この実践では、刺激に使用した音楽は、対象者の母親が歌った童謡を録音したものである。母親が幼いころに歌った音楽を聴くことは、記憶や情動反応が得られるのではないかと仮説をたてた。実際、録音された母親の歌声を流すと、対象者は、頬を紅潮させ、音源をさかんに探す仕草がみられ、皮膚温度が急激に上昇し、微笑む様子がみられた。これらのことから、重症心身障害者において、音楽を聴くこと、音楽を流すこと、など受動的な音楽療法であっても、様々な生理的な効果や情動反応を引き出す効果があることが示唆される。特に母親の歌った唄、良い思い出のある曲、好きな曲などは、不安や苦しみを和らげると考察され、音楽療法の効果が期待される。生きる質を維持するためにも音楽は、非常に有効な手段であると思われる。医療現場における有効的な活用が期待される。 (以降はPDFを参照ください)
教育講演2
  • 内藤 悦雄
    2012 年 37 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    これまでに全国の医療施設から診断を依頼された先天性高乳酸血症患児(1111例)の中ではピルビン酸脱水素酵素複合体(以下、PDHC)異常症が112例(約10%)と最も多く、その他の疾患の診断は97例(約9%)であった。これらのPDHC異常症の中にはビタミンB1の活性型であるチアミンピロリン酸(以下、TPP)との親和性に異常が認められるビタミンB1反応性PDHC異常症がある。これには2つのタイプがあり、高濃度TPP(0.4mM)存在下でのPDHC活性が正常値を示す症例(タイプB)の酵素診断には、正常者の血液中ビタミンB1濃度に匹敵する生理的な低濃度TPP(1x10-4mM)存在下でのPDHC活性の測定が重要である。 PDHC異常症の病因の中で最も多いE1αサブユニット(以下、E1α)遺伝子はX染色体上にあり、これまで83症例の遺伝子診断が可能であった。またE1α遺伝子異常症の女児例ではX染色体の不活化の著しい偏りによりPDHC活性が正常値を示す症例もある。したがって、血液中および髄液中の乳酸/ピルビン酸比が10前後の正常であり、E1α遺伝子異常症が強く疑われる症例ではE1α遺伝子診断が必要である。先天性高乳酸血症には未だ確立された治療法はないが、ビタミンB1反応性PDHC異常症ではビタミンB1の大量投与で血液中および髄液中乳酸・ピルビン酸値の低下および臨床症状の改善が得られ、その中にはほぼ正常に発達している症例もある。
シンポジウム1:重症心身障害児者の喘鳴と気管支喘息
  • −重症心身障害児(者)施設へのアンケート調査より−
    岡田 邦之, 宇理須 厚雄
    2012 年 37 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    本邦初の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の気管支喘息に関するアンケートによる実態調査を行った。重症児(者)施設の入所者はそのほとんどが成人であったが、小児では喘鳴を認める割合が高く、その6割以上は超・準超重症児であった。気管支喘息と診断されている重症児(者)の割合は、5歳未満では約30%ときわめて高率であるが、年齢が上がるに従い減少し15歳以上では6%と健常人のそれとほぼ同等であった。治療では気管支拡張薬の使用割合が高いことが判明したが、気管支喘息と診断され、すでに治療が開始されている症例の多くはコントロールが良好であった。
  • 森川 昭廣, 田中 宏子, 増本 夏子, 本村 知華子, 小田嶋 博
    2012 年 37 巻 1 号 p. 33-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障がい児(者)(以下、重症児(者))の多くは施設に入院(所)しており、呼吸器感染、整形外科的問題、さらには栄養上の問題ならびに消化器疾患が多くみられよく検討されているが、アレルギー疾患について必ずしも十分な検討は行われていない1)。重症児(者)は基礎疾患の多様性や複合する合併症のために喘鳴を呈することが多い。また、気道の慢性炎症性疾患である喘息は、喘鳴の鑑別疾患の中で重症な疾患の一つであり、重症児(者)においても適切な治療が行われなければ、急性増悪による生命リスクばかりでなく、気道リモデリングによる呼吸機能の低下を招くおそれもある。しかし、重症児(者)では、患者の協力が必要な呼吸機能検査や生理学的検査が実施できないことから気管支喘息(以下、喘息)の診断は困難なことが多い。 今回、重症児(者)の施設において、喘鳴を有する児(者)について、アレルギー学的検査を行ったので、報告する。 対象と方法 群馬県内ならびに福岡県内の重症児(者)が入院する2病院において、入院患者の内、アレルギー疾患の調査研究に御家族より協力することを許可頂いた方、各々62名、20名について以下の検討を行った。 対象者について、年齢、性別、基礎疾患、病歴、大島の分類、家族歴(郵送によるアンケート調査)、入院後の症状調査、気切の有無、気道感染の頻度ならびに、アレルギー症状(喘鳴と呼吸困難・咳嗽、水様性鼻汁とくしゃみ、皮膚炎等)について調査を行った。 また、血清中のIgEやその他の免疫ブログリン、RAST(ダニ、スギ、カンジダ等)各種サイトカイン(thymus and activation-regulated chemokineを含む)を検査した。 結果 Ⅰ.希望の家療育病院の62名の検討では、喘鳴の患者16名であった。陥没呼吸を呈する者は3名であり、また、喘鳴時のβ2刺激薬の吸入は、全例で効果が認められた。IgEは5 IU/ml以下から1400 IU/mlに及んだ。ダニ、スギについての、RASTで各々、陽性者3、4名、擬陽性者1名、0名、陰性者12、12名であった。 これらの喘鳴を有する患者については、喘鳴時発熱を呈する者が多く、喀痰が多い傾向がみられた。 Ⅱ.福岡病院での1回は気管支喘息と診断された患者20名の検討では、喘鳴あり12名、喘鳴なし4名、不明・その他4名であった。 総IgEは5 IU/ml以下から1500 IU/mlに及んだ。ダニ・スギについてのRASTでは、喘鳴あり群では、RASTダニ・スギ陽性3名、1名、なし群では4名、0名であった。両者の間に有意差はなかった。 Ⅲ.IgG、IgA、IgMについて 両施設において、IgG、Aはいずれも基準値を上回る例がみられた。IgMについては基準値内にあった。 Ⅳ.その他のサイトカイン、ケモカイン IL-6が高値を示す例がみられたが、感染に関連するものと判断された。その他のサイトカイン、ケモカインは測定感度以下の者が多かった。 考察 今回の希望の家療育病院での検討では、発作性の喘鳴、咳嗽、陥没呼吸などの典型的な気管支喘息症状は少なく、重症児(者)における気管支喘息の診断には困難さが感じられた。さらに、IgE、RASTでは高値を示す者は少なかった。ダニ・スギのRASTも一般のポピュレーションよりも感作率が低い傾向がみられた。今年度発刊の小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012(JPGL2012)においても、一般に、喘息の臨床診断は、発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽の反復、可逆性の気流制限、他の心肺疾患の除外によってなされるが、重症児(者)ではこの基準だけでは診断できない。その理由として、①基礎にある器質的要因によってさまざまな修飾を受けるために喘鳴が必ずしも典型的な症候をとらない、②喘鳴、咳嗽を来す他の疾患の除外が容易でなく、原因が多岐にわたる上に重複することが往々にしてある、③喘息の診断に用いられる呼吸機能検査などを重症児(者)に施行することが困難であるなどが挙げられる、と述べられている。 そこで、福岡病院で1回でも気管支喘息の診断を受けた重症児(者)について、IgE、RAST(ダニ、スギ)、さらには各種のアレルギー検査やTh 2サイトカインについて検討したが、はっきりとした傾向は認められなかった。 すでに、細木らは、血清IgE、血中好酸球数は重症児(者)喘息では正常であることが多く、喘息の診断根拠とならないと報告2)3)されている。また、喀痰細胞診は診断の参考になる可能性はあるが、重症児(者)のおいてはその採取が困難であること、また施設入所中の重症児(者)ではその病態が非重症児(者)と大きく異なるために同様ではないと考えられる4)。 今後、JPGL2012の補遺1重症心身障がい児(者)の気管支喘息診療における注意に沿って、その診断・検査を行うとともに、治療における反応性を検討する必要があろう。 また、重症児(者)の喘息診断に有用なマーカーの開発が急がれる。 結論 喘鳴のある患者が重症児(者)全体の26名(25.5%)を占めたが、典型的喘息症状を示したものは、非重症児(者)におけるより少なかった。また、IgEやRASTとの関連、さらには各種サイトカインの検討でもアレルギーの所見を表す者はなかった。
  • 長谷川 久弥
    2012 年 37 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに 長期に機械的人工呼吸を受けている重症心身障害児(者)では、様々な気道のトラブルがおこる。気管切開チューブや吸引チューブの刺激による肉芽形成や出血などの医療行為に伴うトラブルだけでなく、長期間ベッド上で同じ姿勢をとり続けることによる気道の変形がトラブルの原因となる場合も多くみられる。これらの気道病変は症状からすると喘息との鑑別が困難なこともある。薬剤不応性の喘鳴や通年性の喘鳴を認める場合には気道病変の存在を疑い、積極的に検索をすすめる必要がある。この稿では、重症心身障害児(者)におこりやすい気道病変とその治療法について述べる。 検索のすすめ方 気道病変の存在が疑われた場合には、画像検査を中心とした検索をすすめる。頸部側面X線検査、頸部・胸部CT検査は気道病変の検索として多くの情報を与えてくれる。胸部の造影CT検査は気管腕頭動脈瘻の危険性の予知や血管による気道の圧迫状態の把握に有用である。直接的な診断としては喉頭・気管・気管支鏡検査が最も有用である。診断だけでなく、気道病変に対する治療を行うことも可能である。 代表的な疾患 Ⅰ.舌根沈下 長期臥床を行っている場合、重力の影響を受けて舌根部が後方に移動し、上気道閉塞を来す場合がある(図1)。姿勢の工夫などで症状が軽減する場合もあるが、長期にわたって舌根沈下の状態が続くと、扁平喉頭(図2)などの喉頭の変形を来し、呼吸症状だけでなく誤嚥などもおこしやすくなる。 Ⅱ.気道の変形 長期に人工呼吸をしている症例では、同じ姿勢(主に仰臥位)になっている時間が長くなり、重力の影響で進行性に前後に薄い胸郭になってくる。胸郭の前後径が短くなることにより、この中に含まれている気道系も変形を来す。変形の度合いは必ずしも人工換気期間の長短とは一致せず、また、同一の基礎疾患でも違う経過をとる場合も多いことから、個々の症例で対応していく必要がある。気道系の病変の検索を行うのに最も有効な検査は気管支ファイバースコピーである。気道の変形の評価だけでなく、血管性拍動を確認することにより、気管腕頭動脈瘻の危険性を把握することが可能である(図3)。胸部CT検査を併用することにより、より正確な病態の把握が可能となる。 気道は変形しただけでは直接的に換気状態の悪化を来すことは稀であるが、進行すると狭窄や軟化症など臨床的にも問題となるトラブルに発展していくため、定期的な評価と早期対応が重要となる。 Ⅲ.気管・気管支肉芽 長期人工換気を施行している例では挿管チューブや吸引チューブの刺激により,気管,気管支肉芽を形成する場合がある。気管肉芽は挿管チューブ,気管切開チューブなどの刺激で形成され、吸引チューブの刺激で増悪する。経口挿管による場合,チューブ先端位置が一定していないため,比較的気管肉芽を形成しにくいが,気管切開チューブの場合,チューブ先端位置が一定しているため、一度刺激に対して気道粘膜が反応しやすくなると高率に気管肉芽を形成する(図4)。気管切開チューブの出口に肉芽が形成されると、気管切開チューブそのものによる刺激だけでなく、気管内吸引を行うたびに吸引チューブが刺激を加えるため、加速度的に増悪する。気管支肉芽は吸引チューブの刺激によって形成される場合が多く,解剖学的特徴から右下葉枝に形成される場合が多くみられる。全周性に狭窄を来す場合と半球状に突出した肉芽を形成する場合とがあり,特に後者では入ってきた空気が出られずにcheck valve状態となる大葉性肺気腫などをおこしやすいため注意が必要である。気管・気管支肉芽の治療は肉芽形成の原因となる刺激を減らすことを第一に考える。具体的には気管切開チューブの種類を変更し、先端位置をずらしたり、長さを変更できる特殊チューブ(図5)を用いたりする。また、気管内吸引の際のチューブを挿入する長さを制限し、肉芽にあたらないように工夫する。刺激を減らす努力をしても肉芽の成長が止まらない場合には、ステロイド、カテコラミンなどの薬剤の投与を行う。薬剤投与によっても改善せず、呼吸状態の悪化を来す場合には、気管支ファイバースコープを用いたレーザー焼灼術を行う。レーザー焼灼術は有効性の高い治療であるが、稀にチューブの燃焼や出血を来す場合があるので、日常的に刺激の少ない管理を心がけ、肉芽形成を予防することが重要である。 Ⅳ.気管・気管支軟化症 正常の気管では、膜性部/軟骨部の比率は1:4.5になっている。気道の変形が進み膜性部の比率が増大すると気道を支える力が弱くなり、呼吸運動に伴う気道の著しい扁平化および閉塞の所見を呈する気管・気管支軟化症を発症する(図6)。症状としては、呼気性喘鳴、犬吠様咳嗽、繰り返す呼吸器感染などがあるが、重症になるとdying spellという呼気時に気道がつぶれたままになってしまい、場合によっては心肺停止に至るような発作をおこすことがある。軽症例では経過をみるだけでよいが、重症例では積極的な管理を行う必要がある。気管・気管支軟化症の治療としては以下のようなものがある。 1.high PEEP療法 呼気時に気道閉塞を来してしまうような例では著しい換気不全を来すため,呼気時の気道閉塞を予防するために呼気終末に高い圧をかける人工呼吸法がhigh PEEP療法である。通常、7~10cmH2O程度の圧を呼気終末にかけ、気道閉塞を予防する。年少児で啼泣などの強い場合には、鎮静剤の投与を併用する場合もある。 2.大動脈前方固定術 大動脈を持ち上げ胸骨の裏側に固定することで、大動脈と結合組織でつながっている気管を持ち上げて閉塞を防ぐ治療法である。傷が比較的小さい、異物を体内に残さないなどの利点があるが、気管・気管支軟化症の範囲の広いものや、胸郭の変形の強い場合には十分な効果の得られない場合がある。 3.外ステント術(図7) 脆弱な気道を外側に支え(ステント)をつけることにより補強し、虚脱を防ぐ治療法である。外ステントとしてはゴアテックス製リング付人工血管を用い、気管支ファーバースコープで気道内の状態を観察しながら、最もよく気道が開く位置で人工血管内を固定する。気管・気管支軟化症の範囲の広いものでも有効で、最も確実な方法であるが、手術の傷が大きかったり、異物を体内に残してくる欠点がある。 4.内ステント術 外ステントとは反対に内側からステントを入れて脆弱な部分を補強する方法である。開胸する必要がなく、手技そのものは容易である。簡単に施行したくなるが、異物を気道内に残すことから、肉芽形成などの気道粘膜の反応が著しく、術後の気道病変の管理に難渋する場合が多く、長期的な有効性は低い。他の治療法が選べない場合に選択する方法である。 5.気管・気管支狭窄 気道の変形の仕方によっては、軟化症ではなく、気管・気管支狭窄を来す場合がある(図8)。気管・気管支狭窄の積極的治療としてはバルーン拡張術がある。バルーン拡張術を施行する際には、拡張に適したバルーンカテーテルを選択するために、事前に狭窄部位の長さ、拡張したい径などを測定しておく必要がある。透視下に気管支ファイバースコープでガイドしながら狭窄部位にバルーンカテーテルを挿入し、狭窄部位にバルーンカテーテルが留置されたことを確認した後、ゆっくりとバルーンを膨らませていき、8気圧で30秒間拡張する。拡張中はパルスオキシメータなどで児の監視を行い、状態が悪化した場合には即座に中止する。拡張術終了後に再度、気管支ファイバースコープで観察を行い、拡張が不十分な場合には同様の処置を再度行う。 おわりに 長期人工呼吸に伴う気道病変は、進行した後では治療が困難になる場合も多くみられる。気管支ファイバースコープなどによる気道の定期的な観察と、体位変換など気道の変形の進行を予防する対策をたてることが重要である。気道病変は疑って検索をすすめなければ診断、治療に到達しない。薬剤不応性の喘鳴や通年性の喘鳴を認め、通常の喘息として疑問が持たれる場合には気道病変の存在を疑い、積極的に検索をすすめる必要があるものと思われる。
  • 細木 興亜
    2012 年 37 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに 一般に喘息の臨床診断は発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽の反復、可逆性の気流制限を診断の根拠とするが、この症候は非特異的であり他の喘鳴を来す疾患の除外が診断の前提となっている。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は喘鳴をしばしば呈するが、その鑑別疾患の一つである気管支喘息の診断は困難である。その理由として、基礎にある器質的要因でさまざまな修飾を受けるため喘鳴が必ずしも典型的な症候をとらないこと、喘鳴の原因は多岐にわたり重複することも往々にしてあるため、他の喘鳴、咳嗽を来す疾患の除外が容易でないこと、気管支喘息の診断に用いられる呼吸機能検査を重症児(者)に施行することが困難であること、が挙げられる。したがって重症児(者)において気管支喘息の診断は気管支喘息以外の要因も常に考慮した鑑別が必要となる。結果として、喘鳴や喘息の診断、管理方法は個々の医師の経験に委ねられ、診療レベルに大きな差が生まれる危険もある。重症児(者)に対する医学管理の標準化が必要とされるが、喘鳴の鑑別診断と喘息の治療指針は今、最も求められているものの一つであろう。本稿では重症児(者)における喘鳴ならびに気管支喘息の診断について自験例を交えて述べる。 喘鳴の鑑別疾患と対応 重症児(者)における喘鳴の主な鑑別疾患を表1に示す。吸気性喘鳴を呈する上気道狭窄の主な原因として、舌根沈下、下顎後退、喉頭軟化症、頸部過伸展がある。呼気性喘鳴を生ずる下気道の狭窄では、気管内肉芽、気管軟化症、気管チューブや吸引チューブの物理的刺激、胸郭変形、側弯などの胸郭変形、感染などが主な原因として挙げられる。これらは睡眠時や筋緊張亢進時に出現しやすく、体位変換や下顎保持、吸痰、経鼻エアウェイ、筋緊張緩和といった処置にて改善することが往々にしてある。したがってこれらを鑑別していくにあたり、喘鳴に対して対症処置を適切に行うことが重要と考えられる。 喘鳴への対応手順として、まず発生状況(食後、睡眠時、けいれん、筋緊張亢進など)の確認を行い、全身状態、呼吸状態、喘鳴の性状をよく観察する。重症児(者)に正常のバイタルサインは必ずしも当てはまらないので、個々の健常時に比べての変化に留意する必要がある。その後、吸痰、排痰を行うが、なお喘鳴が続く場合は気道確保、体位変換、筋緊張緩和を試みる。重症児(者)の喘鳴の多くはこれら処置をしっかり行うことで除去しうるため1)、これらの手技の徹底が診断には欠かせない。痰、分泌物によらない上気道性喘鳴であれば下顎挙上法、頭部後屈あご先挙上法、完全側臥位、経鼻エアウエイ等を試み、気道確保に努めることで改善することが往々にしてある。また胸郭変形は個人差があるので、患者個々の最適な体位を模索することも重要であり、脇の間に小枕を挿入するなどし、両手を広げ肩の位置を調節し胸腔を広げる姿勢を取らせることで喘鳴が改善することもよく経験する。筋緊張や興奮が喘鳴を発生させることもよく見受けられるので、個々の良いリラックス体位、腹臥位、ボールポジション等のポジショニング、また冷却、音楽、筋緊張緩和薬等も有効なケースがある。 診断手順 重症児(者)における気管支喘息の診断フローチャートを図1に提示する。まず喘鳴に対し上記に挙げた観察処置を行う。なお喘鳴が持続するなら、上気道性か下気道性かを判断する。吸気性、呼気性の判別が困難な例では気道狭窄以外の要因と上気道狭窄から鑑別を進めていく。 上気道性であれば主に頭頸部領域の問題が考えられるので、可能なかぎり頸部レントゲン、頸部CT、咽頭喉頭ファイバースコピーを行うことが望ましい。下気道性であれば血液検査や胸部レントゲン、胸部CTなどの画像検査を行い、必要に応じて気管ファイバースコピーを追加するが、気管ファイバースコピーが施行可能な施設は限られており、また異常の判別には熟練を要するため、重症度や必要性から検討する。除外診断を行った後に、β2刺激薬による喘鳴の改善にて気道可逆性判定を行うことになる。β2刺激薬吸入にて臨床症状改善あった場合、気管支喘息の可能性は高いと言えるが、吸入の加湿だけで痰が取れて喘鳴が改善することもあり、再現性を確認することが重要である。 また臨床症状の改善がない場合は、喘息であっても、胸郭の変形、側弯、分泌物、無気肺、胃食道逆流などのために可逆性を示さない例もあると考えられ、可逆性がないといって喘息を否定できないことも注意する必要がある。いったん気管支喘息と診断し治療を行うも、不応性であれば、気管支喘息の診断に問題がないか、気管支喘息以外の合併症がないかにつき再度検討を要し、漫然と治療を続けてはならない。 気管支喘息診断の検査 先に述べたように重症児(者)においては気管支喘息の診断のためには除外診断をいかに適切に行うかが重要である。それでは気管支喘息診断のための検査を重症児(者)に適応できないか、自験例を提示し考察したい。気管支喘息の診断ための主な検査を表2に、われわれの気管支喘息合併重症児(者)9例のデータを表3に示す。 重症児(者)に施行可能な検査として、血液検査、一部の例における喀痰検査、画像検査があるが、いずれも気管支喘息の診断の参考でしかない。一般に血液検査では血中好酸球増多、血清IgE高値、抗原感作などが参考になるものの、われわれの検討では血中好酸球増多、血清IgE高値、抗原感作陽性のみでは重症児(者)の気管支喘息の診断の根拠とならなかった(血中好酸球%;喘息群4.9% vs 非喘息群4.0%、血清IgE;喘息群 178.9IU/ml vs 非喘息群232.8IU/ml、抗原感作陽性率;喘息群66.7% vs 非喘息群55.2%、いずれもp>0.05)2)。なお、重症児(者)の抗原感作だが(図2)、外来患者は長期入院患者に比べ浮遊抗原の感作率、特に花粉抗原への感作率は高い傾向にある2)。この感作率の差は環境によるものか、年齢分布の違いによるものか、原因は不明だが、予防を考える意味でも重要であり今後の検討課題である。 気管支喘息診断のために重要な検査であるスパイロメトリー、ピークフローといった呼吸機能検査は努力呼吸を要するため重症児(者)に行うことは困難である。しかし最近汎用されつつある呼気NO、気道抵抗検査の一部は安静時呼吸にても可能なため、重症児(者)にも適応しえる。 気管支喘息患者では気道の好酸球性炎症を反映し呼気NOが上昇することが知られており3〜5)、気管支喘息の診断にも有用とされている6)。しかし、重症児(者)において呼気NOの基準値がそのまま当てはまるのか疑問が生じる。通常、測定はアメリカ呼吸器学会(ATS)とヨーロッパ呼吸器学会(ERS)による標準法に従うが7)、現在頻用されているオンライン法では一定の呼気圧を持続せねばならず重症児(者)には不可能である。しかし安静換気の状態で測定するマルチブレス法を用いることで重症児(者)の測定も可能である。自験例58名の重症児(者)平均呼気NOは28.6±23.5 ppb、平均呼気フロー 214.6±148.2 ml/secであった2)。喘息群は非喘息群と比べて呼気NOは有意に高値を示した(図3A;喘息群46.5ppm vs 非喘息群27.6ppm, p<0.05)。その他の背景因子、アレルギー疾患有病率、血液検査といった因子から検討したところ、アレルギー性鼻炎を有する例はアレルギー性鼻炎を有さない例に比べ有意に呼気NOが高値、気管切開例はそうでない例に比べ有意に呼気NOが低値であった。上気道からのサンプリングと下気道からのサンプリングは同列に扱えないと考えられ、アレルギー性鼻炎単独でも呼気NOは高値を示すことから8)、気管切開例を除いた49例に限定し、喘息・アレルギー性鼻炎の有無から呼気NOを再評価した(図3B)。呼気NO値は『喘息なしアレルギー性鼻炎なし群』<『喘息ありアレルギー性鼻炎なし群』<『喘息なしアレルギー性鼻炎あり群』<『喘息ありアレルギー性鼻炎あり群』の順で高値となり統計学的に有意であった。マルチブレス法はtidal breathing methodとも表現され、乳幼児の呼気NO測定に用いられている9〜12)。オフライン法ではあるが喘鳴児に対するフルチカゾン吸入の効果判定に有用と報告がある一方11)、喘鳴症状と相関しないという報告があり12) 、本法の評価は定まっていない。確かにマルチブレス法は、呼気流速が一定でない、NO濃度の高い鼻腔NOも混入する可能性がある、という問題点はある。さらに重症児(者)における気管支喘息が好酸球性炎症によるものかは不明であり喀痰の好酸球等の評価を要するといった課題が残るが、重症児(者)では非侵襲的に可能な唯一の方法であり、われわれの検討からは気管支喘息例では高値に検出でき、簡便なため、今後方法を改良すれば広く応用できる可能性がある。 (以降はPDFを参照ください)
  • 佐藤 一樹
    2012 年 37 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    重症心身障がい児(者)の喘息治療は、多彩な合併症と鑑別の困難さのため、診断的治療の意味合いを持つ場合が多い。詳細が不明でエビデンスは乏しいが、治療の原則は小児気管支喘息治療・管理ガイドラインを基本とする。薬物療法においては、効率的な吸入が困難な者が多いためマスクつき吸入補助器具を用いるなど、実施方法に個別の配慮が必要となる。薬剤の選択においては、テオフィリン製剤の使用がけいれんの合併、相互作用などの安全面から注意を要する。長期・短期的な治療効果の判定は、呼吸数、SpO2など客観的な指標を参考に行うことが望ましい。過剰な気道分泌物の管理のため、積極的な呼吸理学療法を行うことは、長期管理、理学療法の両面から有用である。
シンポジウム2:重症児者の看取りを考える
  • 佐々木 征行
    2012 年 37 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は、非可逆性中枢神経機能障害を基礎にもっている。簡潔に言えば、治癒しない脳疾患である。この中には進行性疾患もあれば、非進行性疾患も含まれる。治らない疾患であっても症状はある程度改善し得る。基礎疾患がたとえ非進行性であっても、ある時期を過ぎると残念ながら合併症が増加する。たとえば、脳性麻痺をもつ重症児が成人になって、それまでできていた移動運動や食物嚥下が不可能になったり、呼吸器感染症を繰り返すようになったり、慢性呼吸不全が顕在化したりすることなどは、しばしば経験される。 重症児(者)の生命予後が不良であることは古くより知られていた。医療技術が進歩・発展し、多くの入所施設が開設されたことによって重症児(者)の生命予後が改善したことは間違いない。それでも同年代の一般人と比較すれば、死亡率はまだまだ高いと考えられている。 重症児(者)の死亡原因を知るのにいくつかの調査がある。本稿では、国立療養所(現国立病院機構)西別府病院におられた折口美弘先生らが中心となって長期間実施された旧国立療養所重症心身障害児病棟の入所者についての死亡退院例調査1)2)と、厚生労働省精神・神経疾患研究委託費によるSMID調査(神谷班および佐々木班)の結果3~5)を使用する。 国立系とは別に公法人立施設でも同様の調査があるが、それには触れない。また在宅重症児(者)についてはきちんとした統計はないのでこれについても触れない。 死亡原因の変遷を概観し、改めて重症児(者)の療育のあり方について考察する。 Ⅰ.死亡退院調査  1.折口調査とSMID調査 1982年より1999年までの18年間にわたり、毎年1回全国の国立療養所および国立病院重症児(者)病棟長期入所者の死亡退院調査がなされた1)2)。調査表を各病院へ郵送するアンケート形式であった。これによると、集計できた死亡例2354例で、年平均131例、平均年間死亡率は1.62%であった(8080床で計算)。 2000年からは、厚生労働省精神・神経疾患研究委託費神谷班によりイントラネットを介した調査が開始された3)4)。2000年から2009年までの10年間で、集計できた死亡例は1071例、年平均107例、平均年間死亡率は1.44%であった(7500床で計算)。 両調査を結合して、年度毎に把握した死亡退院数をグラフに表した(図1)。年間100名から160名程度と年度毎にばらつきが大きいのは、アンケート調査による集計漏れの影響が否定できない。特に折口調査からSMID調査への移行期に大きく減少したようにみえるところは、集計が不十分であった可能性が高い。これらの要因により、本調査の結果は実際の死亡率よりも低く見積もっている可能性がある。 折口調査での死因内訳1)は、肺炎および気管支炎43%、呼吸不全11%、心不全10%、窒息8.6%、突然死5.1%、敗血症2.7%、腎不全2.5%、腸閉塞2.5%、悪性新生物1.6%、けいれん重積1.5%などであった(図2)。 SMID調査での死因内訳は、肺炎および気管支炎23%、呼吸不全22%、心不全15%、敗血症12%、腎不全5.9%、悪性新生物4.6%、突然死3.0%、窒息2.7%、けいれん重積1.1%などであった(図2)。 2.10歳刻みの年齢層別死因分析 折口調査でもSMID調査でも3大死因である肺炎・気管支炎、呼吸不全、心不全がどの年齢層をみても多数を占めていた。40代以降に悪性新生物が増加することも両調査で同じ傾向であった(図3)。 3.10歳刻みの年齢層別年間死亡率 代表年度の年齢層別年間死亡率を図4にまとめて記載した。大きな傾向としては、10歳未満で最も死亡率が高く(平均4~5%)、10歳台でやや減少(平均2%程度)し、20歳代から40歳代は最も低く(1%前後)、50歳代以降再び増加していた。 10歳未満のところでこの期間の死亡率の変遷をみると、初期の6%程度から徐々に減少して、2007年・2009年は4%程度まで下がった。しかしまだこの年代が全体の中で最も高い死亡率を示している。 4.平均死亡年齢 平均死亡年齢もグラフ化した(図5)。30年前の平均死亡年齢は15歳未満であった。調査を行ってきた28年間で、入所者の平均年齢が上がるにつれて、平均死亡年齢も上がった。 初期には入所者の平均年齢と平均死亡年齢の差は5歳以上あったが、両者の差は徐々に縮まった。 5.両調査の比較 全体の死亡率は、折口調査1.62%からSMID調査1.44%へわずかに減少した。死因については、折口調査では、肺炎および気管支炎・呼吸不全・心不全の上位3者の合計が64%であった。SMID調査でもこの3者で60%であり、3大死因については大きな変動はなかった。 両調査の間で変化のあった死因としては、減少したのが窒息・突然死であった。逆に増加した死因は、敗血症・腎不全・悪性新生物であった。ただし、いずれも非常に大きな変化といえるほどではなかった。 6.結果のまとめ 1)2000年以前と以降とで、死亡率の大きな減少はなかった。 2)2000年以前と以降とで、主たる死因にも大きな変化はなかった。 3)9歳以下の低年齢層での死亡率が高く、50歳以上の高年齢層でも死亡率が高かった。 4)長期入所者の高齢化が進行しており、同時に平均死亡年齢も上昇していた。 Ⅱ.結果についての考察 1.平均死亡率は、折口調査では1.62%で、SMID調査では1.44%であった。SMID調査ではもっと大きく下がっていることを期待していたが、差はごくわずかであった。つまりこの28年間を前半と後半で比較しても死亡率には大きな変化はほとんどなかったといってよい結果であった。入所者の死亡率については「下げ止まった」といっていいかもしれない。今後高齢の長期入所者が増加するにつれて、平均死亡率は逆に増加に転じる可能性もあると考える。 2.死因分析についても、3大死因(肺炎・気管支炎、呼吸不全、心不全)については両調査ともに60%あまりと大きな変動はみられていない。呼吸管理技術はこの期間に飛躍的に進歩したはずであるが、死因が大きく変化するほどには生命予後の改善に寄与はしていないようである。細かくみれば肺炎・気管支炎など直接の呼吸器感染症での死亡が減少し、逆に呼吸不全が増加している。呼吸器感染症の死亡率減少に関しては、抗生物質の進歩や治療対応の改善(急性期の早期集中治療など)が奏功している可能性はある。ここで示す呼吸不全は急性の呼吸器感染性による呼吸不全を含むし、上気道狭窄から中枢性呼吸障害による慢性呼吸不全も含んでいる。気管切開や人工呼吸管理は延命効果が大いにあると経験的には考えられるが、この調査の結果からは死亡率を確実に減らしているとはいえなかった。 両調査の間で減少した死因は、窒息と突然死であった。これは、心電図モニターや酸素飽和度モニターなどのモニター類が広く使用されるようになったことと、気管切開あるいは人工呼吸療法の普及が大きく寄与していると考える。呼吸障害に対する対策が功を奏しているのは間違いないだろう。  逆に両調査の間で増加した死因は、敗血症、腎不全、悪性新生物であった。これらは一般的に高齢者に多い疾患である。 3.年齢層毎の死因では、どの年齢層でも3大死因が半数以上であった。高齢になると悪性新生物や腎不全の死亡率が増加することが確認された。これらの死因増加は、高齢化の影響が大きいと考えた。入所者の全体的な高齢化に伴い、これらの死因は今後もさらに増加する可能性が高くなるだろう。 年齢層別の死亡率でみると、相変わらず10歳未満が圧倒的に高い。これは出生時からの呼吸障害を持つ児や先天異常児などで低年齢での死亡率が高いことと関連していると考える。しかしながら、平均死亡年齢が長期入所者の平均年齢と同様に徐々に上昇しているということは、低年齢児が死亡するのと同程度に多くの高齢の方も死亡しているということを示しているのだろう。 4.長期入所者の入所期間の長期化と高齢化が認められることは、長期入所者を主体とした重症児(者)医療の素晴らしい成果であったことは間違いない。今後もこの傾向が進行することは間違いない。新規に低年齢の入所者が入らないと、極端な場合は長期入所者病棟が「老人病棟化」する可能性がある。現状のままであれば、長期入所者の高齢化は避けることは出来ない。その結果として、現在在宅で過している重症児(者)は、入所希望があっても専門病棟へはなかなか長期入所できない時代が当分続くことだろう。 長期入所者病棟にあっても、広く門戸を開いて短期入所、レスパイトケア、体調不良時の入院治療など在宅支援を行うことが求められている。 Ⅲ.今後どうあるべきか 1.医療技術の進歩 これまでの重症児(者)医療の目標は、できるだけ長い命を保つことと、短期的・長期的に痛み・苦しみからの解放を目指すことの2点であった。 (以降はPDFを参照ください)
  • −看護の立場から−
    倉田 慶子
    2012 年 37 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    「ひとのいのちの最期をどのように迎え見送るのか」を考えるのが「看取りのケア」であるが、授かったいのちを生き抜いた最期に訪れる結果が「死」であると考えると、「生きる」ことを考えてこその「看取りケア」なのではないかと考える。重症心身障害児(以下、重症児)のいのちは、いつも死と隣合わせの状況にあると言える。障害の重い子どもであればあるほど、医療依存度も高く、常に観察を要する状況にあり、ケアが十分に行き届かなければ、そのいのちが危険にさらされることになりかねない。言語的コミュニケーションが難しくても、子どもの最善の利益を考慮し、真剣に子どもと向き合うことこそが、看取りのケアの一番大切にされるべき課題なのではないだろうか。
  • 梶原 厚子
    2012 年 37 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    在宅重症心身障害児者が、0歳~終末期まで暮らし続けられる街づくりが必要だと考えている。在宅ケアは介護保険法から広がったサービスであるが、2006年には自立支援法ができ、障害児者も契約の中でサービスを利用することになった。医療保険法による在宅医療は未整備な部分もあるが、ある程度は整備されつつある。今後在宅重症児者が増えることが予測されるので、どのようにして社会資源を作り出していくのか、「看取り」を視野に入れながら考えることにする。                         
ランチョンセミナー1
  • 小西 徹
    2012 年 37 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)においてはてんかんの合併がきわめて高頻度で、かつ、ほとんどが脳器質病変を背景とする症候性てんかんに分類され、難治性の経過をとることが多い。さらに、重症児者てんかんの大多数は乳幼児早期の発症で多彩な経過をとりながら成人期や老年期までキャリーオーバーするなど、ほぼ全生涯にわたる重大な合併症である。そして、てんかん(発作)の存在および長期抗てんかん薬療法が、障害の増悪または日常生活のQOL低下に少なからず関与しているものと推察される。したがって、てんかんの治療・観察は重症心身障害医療の中で重要な分野の一つであることは言うまでもない。 重症児者てんかんについてはいくつかの報告1~6)があるが未だ不明の点が多い。本稿では、重症児者てんかんの臨床特徴として、全国6施設におけるてんかん実態調査結果および年齢(ライフステージ)に伴うてんかんの変容等についてまとめ、また、近年相次いで市販された新規抗てんかん薬(GBP、TPM、LTG、LEV)の重症児者てんかんへの臨床応用について自験例を中心に報告する。 Ⅰ 重症児者てんかんの臨床特徴 1.てんかん実態調査(全国6施設) てんかん診療に精通されている国立病院機構重心病棟3施設、重症心身障害児施設3施設の入所者775名について、てんかん保有率、てんかん症候群分類、調査時点での発作頻度、抗けいれん剤投与状況、等を調査し、基礎疾患別(障害時期)、障害重症度別(大島分類)に比較した(詳細は既報告を参照:重症心身障害学会誌 35: 41-477))。 1)てんかん保有率 施設により50~81.6%と若干のバラツキはあったが、全対象775例中の518例(66.8%)がてんかんを合併していた。一般人口のてんかん発症率は0.5~0.9%とされており、重症児者では約100倍ときわめて高い罹患率であった。この頻度を全国の重症児者に当てはめると、入所者(20,000人)では13,000人余り、在宅重症児者+入所者(40,000~50,000人)では30,000人前後がてんかんを保有していることになる。なお、今回の実態調査では男女差(68.8%:64.5%)はなく、464/518例(89.6%)が成人に達しておりキャリーオーバー例であった。また、518例中の40例(7.7%)はてんかんが重症心身障害に至った主原因と考えられ、その内訳はWest症候群、Lennox-Gastaut症候群(LGS)が多かった。 2)てんかん症候群 重症児者ではてんかん発作型の把握・診断が難しく、脳波所見も多彩であることから症候群分類に難渋することが多い。そこで、症候性局在関連性てんかん(SLRE)、症候性全般てんかん(SGE)、分類不能または混合発作型てんかん(UC/mix)、詳細不明に大別して調査した。施設により若干の偏りがあったが、全体としては、SLREが67.2%(51.9~82.0%)、SGEが15.6%(5.0~25.8%)、UC/mixが8.1%(1.7~27.5%)、不明9.1%(6.7~29.1%)であった。難治てんかんの代表とされるSGEとUC/mixが合わせて1/4弱を占めており、通常てんかんにおける比率よりも明らかに高頻度であった。なお、SGEおよびUC/mixの頻度が施設によりかなりの偏りがあったが、これは、診断医の判断基準の差に因るところが大きいが、長期経過の中で両てんかん類型が互いに異同している可能性も推察される8)。 3)発作頻度・抗けいれん剤療法 治療中止、抑制(2~3年以上発作なし)、年単位の発作、月単位の発作、週単位の発作、日単位の発作として調査した。全体としては、中止・断薬41例7.9%、抑制177例34.2%、年単位107例20.7%、月単位96例18.5%、週単位72例13.9%、日単位25例4.8%、であった。月単位以上の発作は難治例とされているが、重症児者では37.3%であり通常てんかんに比して明らかに高頻度であった。大まかにみると、40%強が発作抑制、20%が年単位の発作、40%弱が難治例と言うことができる。また、てんかん症候群別にみると、発作難治例はSLREで33.0%、SGEで59.3%、UC/mixで66.7%、不明4.3%と明らかに異なり、特に、SGEとUC/mixでは半数~2/3の例が治療抵抗性であった。 投与薬剤に関しては、中止・断薬41例7.9%、単剤投与140例27.0%、2剤併用166例32.0%、3剤併用125例24.1%、4剤併用32例6.2%、5剤併用14例2.7%と多剤併用例が約2/3を占めており、平均2.19剤/人であった。併用の特徴としては、①全般薬と部分薬の併用が目立つ:混合発作が多いためか?②BZP系薬剤の併用が目立つ:中でも口腔分泌物の少ないCLBの併用が多い9)、③新規抗てんかん薬:市販後まもない時期であり未だ少数例に限られる、などであった。 4)基礎疾患および障害重症度とてんかん 基礎疾患(障害時期)別にてんかん類型・発作予後をみると、①胎生期障害:SGEやUC/mixの頻度が高く(32.7%)、かつ、発作難治例が多い(46.8%)、②周産期障害:SGEやUC/mixが予想外に少なく(18.2%)、発作難治例も少ない(28.0%)、③出生後障害:SLREが多くを占めるがSGEやUC/mixもある(22.6%)、SLREの中で難治例が目立つ(41.6%)であった。一方、障害重症度(大島分類)別にみると、障害が重度になるほどSGEやUC/mixの頻度が高く、難治例も多い結果であった6)。以上のことは、重症児者に合併するてんかんは基礎疾患や障害重症度にある程度規定されていることを示唆している。 2.ライフステージに伴うてんかんの変容 小児に限らずてんかんの多くは年齢依存性の発症や経過を示し、年齢に伴う脳の発達・退行との関連性が示唆されている10)11)。そこで、重症児者てんかんにおいてライフステージに伴うてんかんの活動性の変化、てんかん類型の変容について検討した7)12)。 対象は当園入所者でてんかん発症からの経過がほぼ把握出来ており、かつ、5年以上観察した63例である。各ライフステージ(乳幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期、老年期)における発作頻度およびてんかん類型についてカルテベースで後方視的に検討した。 1)発作頻度≒てんかんの活動性 ①SLRE(36例):28例が乳幼児期発症で発症時は週単位>日単位>月単位の発作であった。一部の例で、学童期や思春期に発作頻度の増加を認めたが、全体としてはライフステージの進行と共に発作頻度は減少した。減少する時期は思春期-青年期(20歳前後)に集中しており、次いで、学童期-思春期(12歳前後)であった。そして、成人期を過ぎると減少する例は少なかった(月単位のまま)。 ②SGEまたはUC/mix(27例):24例が乳幼児期発症でほとんどが日単位の発作であった。SLREと同様に加齢と共に発作頻度が減少する傾向を認めたが、減少の程度は小さかった。また、減少する時期は学童期-思春期>思春期-青年期とSLREとは若干時期が異なっていた。以上より、てんかんの活動性は加齢に伴って低下する傾向があり、特に学童期-思春期、思春期-青年期で顕著であり、この時期は治療を考える上でのcritical periodであると思われた。また、観察例が少ないものの、成人期を過ぎると加齢に伴う活動性の変化は少ない傾向があった。 2)てんかん類型の変容 63例中の11例(17.5%)では経過中に明らかなてんかん類型の変容(計15回)を認めた。なお、今回は発作型や脳波所見などの小さい変容は含めず、てんかん症候群の変容のみに限定した。変容パターンは大きく以下の3種に分けられた:①乳児期にWest症候群で発症し、一定の発作抑制期間を経た後に、学童期または思春期にSLREまたはUCで再発:4例、②乳児期にWest症候群またはUCで発症し、発作抑制に至らないままLGSに変容:3例、③LGS、UCの経過中に思春期または青年期にSLREに徐々に変容:8例(内4例は2回目の変容)である。そして、変容時期をみると2歳頃の幼児期が3例(LGSへの移行)、5~6歳の学童期が2例(SLREとUCでの再発)、12歳前後の思春期が5例(SLREで再発2、移行3)、20~25歳の青年期が5例(SLREへの移行)であった。以上より、重症児者においてはてんかん類型の変容は少なからずあり、その変容もライフステージによって特徴的であることが示唆された。 (以降はPDFを参照ください)
ランチョンセミナー2:重度痙縮患児(者)の治療意義と治療選択のポイント
  • 久保田 雅也
    2012 年 37 巻 1 号 p. 83-89
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.痙縮(spasticity)とは 1.筋伸張反射 痙縮は相同性筋伸張反射(反応の強度が伸展速度に依存する)の病的亢進状態と定義される1)。筋伸張反射は姿勢反射のひとつでもあり立位など姿勢保持になくてはならない。この病的亢進状態は臨床的には深部反射亢進に加えて、徒手的筋伸張刺激の進行中にのみ出現、停止でただちに減弱する抵抗と伸張速度が高いほど強くなる抵抗を確認することが重要となる1)。痙縮が高度になるとクローヌスや折りたたみナイフ現象がみられ、これらはBabinski反射とともにいわゆる錐体路徴候として知られるが動物実験では錐体路に限局した病変では筋力低下は起こるが痙縮は起こらないとされる。上位運動ニューロンの障害により痙縮に伴い痙性姿勢異常、病的共同運動、病的同時収縮、屈曲反射の亢進など陽性徴候が出現し、麻痺、巧緻性の低下などの陰性徴候が出現する。 図1はSherringtonの除脳ネコによる筋伸張反射の実験結果である2)3)。大腿四頭筋が伸張される(細い矢印)と同部の張力が増強し、拮抗筋である大腿二頭筋が伸展(太い矢印)されると大腿四頭筋が相反性に抑制される経過(B)を示している。拮抗筋が伸展されないと張力は維持されたままとなる(A)。この相反性抑制の破綻が痙縮としてあらわれる。 2.痙縮をもたらす機序 α運動線維—筋肉—Ia線維からなるループに対し上位中枢からの直接、間接の、またγ線維を介した調節により筋緊張は制御される。田中によると1)痙縮をもたらす機序としてはγ運動ニューロン活動の亢進、筋紡錘受容器の感受性亢進、Ia線維の発芽現象やIa線維への抑制の減少などが推定される(図2)。痙縮では伸筋優位の症状が起こりやすい。尖足はその例である。伸筋(下腿三頭筋)優位の痙縮—筋伸反射亢進がIa抑制回路を通じて屈筋(前頸骨筋)の興奮性を過剰に抑制し下行路遮断による筋力低下を二次的に増悪させる。ボトックスはこの伸筋の痙縮軽減により屈筋の筋力増大までもたらす。バクロフェンは脊髄GABAB受容体の活性化を介し、γ運動ニューロン活動抑制、脊髄単シナプスおよび多シナプス反射を抑制し痙縮を軽減する。ジストニア、アテトーゼでは筋伸張反射回路は伸筋・屈筋ともに側通効果を受けるが、屈筋側痙縮が伸筋優位の活動により二次的に抑制されていることが多い。痙縮主体とジストニア、アテトーゼ主体の場合のITB療法の効果の違いの一因はここにある。 また二次的な非神経性変化として無動による拘縮、変形、萎縮により関節構造物、筋の粘弾性の増加が起こり機能低下を促進する。実際の臨床例では痙縮に視床・基底核病変由来の固縮とジストニア、アテトーゼなどの要素が多重に加わり病態把握が容易ではないが、安静時姿勢、徒手的筋伸張刺激による抵抗(固縮では速度依存性はない)や表面筋電図から推定する。 3.随意運動と情動 ヒトの随意運動に際して上記ループは様々な調節を上位中枢から受ける。その全容は不明な部分が多いが、一次運動皮質以外にもヒトの随意運動を駆動する中枢回路があるようである。図3にその例を提示する。原因不明の脳梗塞の7歳男児である。笑ったときには表情は対称的であるが、単に「イー」と発音させると顔面左下部は収縮せず非対称となる(矢印)。左上下肢の軽度痙性も認め、MRI上右深部白質、右内包後脚、右大脳脚外側に信号異常を認めた。Morecraftら4)のサルを用いた研究によると皮質から脳幹顔面神経核へは5つの回路がある(図4)。本症例では図4の一次運動皮質からの線維は障害されたが帯状運動皮質、補足運動野は障害を免れたためこういう笑いと単純な運動での乖離が起こったと推定される。特に帯状運動皮質は辺縁系からの強力な入力があり、笑いなどの情動を介した運動がおそらく独立して駆動される。この領域は上下肢をも支配し、通常顕在化することは少ないが、特にアテトーゼ型脳性麻痺やジストニアでみられる心理的な揺さぶりによる症状悪化は基底核を介したこの系の過剰な反応を見ている可能性がある。 Ⅱ.筋緊張に影響する因子 中枢神経系の病変以外で痙縮の重症化に相互に影響する因子として睡眠覚醒リズムの異常、てんかん発作とその治療、情動刺激(快不快)、呼吸負荷・胃食道逆流現象、疼痛などがある。これらの精査と治療は痙縮そのものの治療と同様重要である。痙縮と気分・情動の不安定さ、睡眠・覚醒リズムの乱れは相互に状態悪化の原因となるので日中の様子のみでなく睡眠を含めた評価が重要である。睡眠表を数週間以上家族に記載してもらい、睡眠構造をチェックし、筋緊張亢進との関連をみる。睡眠障害(構造およびリズムの異常)を認めた場合、軽度入眠障害、断続睡眠ではニトラゼパム、ゾルピデム(マイスリー®)、また深睡眠を増加させるトラゾドン(レスリン®)などを用い、睡眠相後退やフリーランの傾向があればラメルテオン(ロゼレム®)で調節をはかる。トリクロホスナトリウムも一定の効果がある。気分障害、情動刺激への過敏さ、自傷が目立つ場合はタンドスピロン(セディール®)、リスペリドン(少量)、アリピプラゾール(エビリファイ®)、抑肝散などを適宜用いる。 呼吸負荷、胃食道逆流(Sandifer syndrome)、疼痛は痙縮の増悪因子であり原因検索や対応は外科治療も含めて迅速になされるべきである。 Ⅲ.痙縮の治療体系 上記悪化因子の治療とともに痙縮に対し理学療法に加え内服療法を考慮する。塩酸チザニジン、ベンゾジアゼピン系、塩酸エペリゾン、ダントロレンナトリウムなどが使用されるが副作用に留意し少量からの投与が基本である。フェノバルビタールはベンゾジアゼピン系ほどではないが筋弛緩作用と気分の安定化がはかれる。筋緊張亢進が重度であれば血中濃度を40-50μg/mLあたりで経過をみる。トリヘキシフェニジルは抗コリン剤であり、痙性主体の場合には効果は期待できないがジストニアを伴う固縮の亢進には一定の効果がある。中でも姿勢性ジストニアには運動性ジストニアよりも効果がある。 重度の痙縮の場合、薬物療法には限界があり、ボツリヌス療法、選択的後根切除術(functional posterior rhizotomy, FPR)、バクロフェン持続髄注療法(intrathecal bacrofen, ITB)などが選択されるようになってきた。FPRの適応は痙直型脳性麻痺であるがジストニアを合併していても痙縮による機能障害が強ければ行う。アテトーゼ型では痙縮軽減により不随意運動が強くなり慎重な対応が必要となる。ITBは痙縮、ジストニアともに適応があるが、最重度の痙縮である持続的筋収縮状態(persistent contracted state)5)は最もよい適応となる。小児に対する施行も増加している6)。FPR,ITBともに上肢や頸部の残存する痙縮にボツリヌス療法を併用することもある。いずれの療法も治療のゴールを患者ごとに設定し、適切な経口薬物や理学療法、装具療法、整形外科的治療との併用や段階的移行が重要であり、包括的な治療体系確立が期待される。 Ⅳ.当センターにおけるバクロフェン持続髄注療法(intrathecal bacrofen, ITB)のまとめ 1.当センターでのITB療法の診療体制 図5に当センターでのITB療法の概要を示した。トライアルとは腰椎部から、脊髄腔穿刺針を刺入し、バクロフェン25-50μgを髄腔内に投与し痙性の評価を行うものである。効果があると判断された場合、手術を行うことになる。最近1年間でトライアルにより適応がないと判断されたのは1例のみである。ジストニアやアテトーゼの強い場合、トライアルでの短期効果が必ずしも痙縮主体の場合ほど長期効果を反映しないことがある。術後、緊張の評価、副作用チェックを行い漸増しながらバクロフェン投与量を決める。以上の診療には脳神経外科・神経内科・リハビリ科を含めた協力体制が必須である。また、再充填・投与量調整を行える施設が今後増加すると病院を超えた連携が必要となる。 当センターでITB療法を施行した8例を表1にまとめた。対象は大島分類1-2、手術時最低年齢は3歳10カ月、最低体重は9.6kgである。バクロフェン投与量は200μg/日前後が多いが原因不明の進行性ジストニアである症例8は700μg/日を要している。この量でもdystonic attackは起こる。一般的にジストニアやアテトーゼの強い場合、バクロフェン投与量は多くなる。また効果も変動が大きい。混合型脳性麻痺でアテトーゼの強い症例7ではITB療法後、後弓反張が脊椎前屈を伴うジストニアに変わった。これも一過性であったがマスクされていた屈筋系の緊張が前面にでたものと考える。ITB療法はおそらく主に下肢、および姿勢維持筋の伸展性緊張に対しより効果があると思われる。 (以降はPDFを参照ください)
  • 師田 信人
    2012 年 37 巻 1 号 p. 91-99
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    痙縮は重症心身障害児(者)の日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮に由来する疼痛によりさらに痙縮が増悪する負の連鎖を形成する。それゆえ、痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持つ。国内では、従来痙縮そのものに対する治療はなく痙縮に由来する2次的運動(器)障害に対して神経リハビリテーション・整形外科手術が施行されてきた。しかし、この10年余りの間に痙縮治療そのものを目的とする脊髄後根切断術、バクロフェン髄注(intrathecal baclofen: ITB)療法、ボツリヌス毒素局所注入療法(BTx)が相次いで導入され、海外レベルでの標準的痙縮治療が施行可能となった。このような背景のもとに、どの治療法を選択するか、各治療法をどう組み合わせるかが今後臨床の現場で重要になってくる。痙縮治療に当たっては、各治療法の位置づけを明確にする必要がある。第1段階の痙縮治療で痙縮を改善し、第2段階で機能改善を図る。脊髄後根切断術は、1度の手術で長期にわたる痙縮軽減を得ることができる。神経根を切断するため手術にはそれなりの経験が必要であるが、痙直型脳性麻痺由来の痙縮に対してはきわめて有効な治療手段である。ITBはポンプおよびカテーテル埋込が必要になるものの、バクロフェン投与量の調節が可能であり、治療適応範囲が広い。非典型的痙直型脳性麻痺、あるいはジストニアの要素も併せ持つ痙縮(脳炎、低酸素血症後脳症、頭部外傷後など)では第1選択の治療法となる。重症心身障害児(者)の原疾患を考慮すると最も適応が高い治療法と思われる。第2段階では神経リハビリテーションと整形外科治療が主体となる。新しい外科治療法の登場とともに、痙縮治療を階層化し痙縮を軽減した上で機能改善に取り組むことが可能となった。治療法の選択を行うにあたっては関係各科の協力が不可欠である。包括的治療を進めていくことが、今後の痙縮治療に大きな意義をもたらすと思われる。
ランチョンセミナー3
  • -カルニチンを中心としてー
    小沢 浩
    2012 年 37 巻 1 号 p. 101-106
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    経腸栄養剤は、微量元素において未だ配慮が不十分であるため、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における栄養管理では、さまざまな欠乏症状を来す。この稿では、ヨード、ホウ素、ケイ素およびカルニチンについて報告した。重症児(者)のヨード欠乏については、1991年に報告があったが、現在も添加されていない。海産物に多く含まれているため、その摂取が必要である。ホウ素は、骨形成、免疫能、認知機能、ケイ素は、骨形成、認知機能に関連している。今後、ホウ素、ケイ素についての検討も必要である。経腸栄養のみの重症児(者)は、カルニチンが低値であった。だが、ミルク投与をしていた2例は低下を認めなかった。また、1カ月間、L−カルニチンを30mg/kg/日、投与することによって、カルニチンは正常値になったが、投与中止5カ月後には、再び低下していた。そのため、継続的な投与が必要である。重症児(者)における栄養については、今後も皆で協力して検討を重ねていくことが必要である。
重症心身障害児(者)のファッションショー
  • 山田 美智子, 斎藤 真由美, 坂本 由紀子, 吉岡 美幸子
    2012 年 37 巻 1 号 p. 107-111
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    今年のテーマは毎日の生活の中で元気が出るカジュアルな服装、楽しく装う普段着(2)である。 モデルは「ひのみね療育園」の男性2人と女性4人である(内5人は長期入所中、1人は在宅で生活している方である)。 施設から送られてきたモデルの写真、年齢とサイズから何が似合うかを個別にイメージしながら既製服の中から洋服、帽子、靴下までトータルコーディネートを考えて選んでみた。 ちょっとしたお出かけ、コンサート、美術館、ショッピングへ、外には楽しいことがたくさんある。お出かけがたとえいつもと同じ場所でも、いつもと雰囲気の異なる素敵な洋服で外出することを提案したい。 おしゃれに装うことで普段と異なる自分を発見し、ワクワク、ドキドキする感情が芽生える。さらに注目され、褒められる喜びによって表情に変化が生じる。短時間の外出であっても装い一つで楽しい時間に変わることが期待される。 非日常的な、ささやかな幸せな時間を装いは与えてくれる。障害があっても、なくても、普通に豊かに暮らす。その中の一つの試みが装いであると思う。 さて、今年のモデルたちはどんな変身ができたでしょうか。 黒の短いジャケットに白黒のツイードのショートパンツに白のカットソーを組み合わせた。さらに黒のタイツで足長効果を演出してみた。お化粧をし、幅広の帽子をかぶり、ネックレスを付けたら、華やいだ感じになった。内面からの輝きが見られ、大人っぽくも初々しさがにじみでていた。 ベージュ色のタートルの半そでのニットは、裾のフリンジが楽しくて新鮮である。今回はパンツに合わせたが、スカートにも合わせても素敵である。髪をセットし、化粧しているうちに不安な表情が消え、自信に満ちた美しい笑顔になってきた。会場に駆け付けた母親は「こんなに素敵になって、こんな姿が見られて幸せです」と大変喜び、涙していた。 送ってきたメールの写真では、車椅子から着ているものすべてピンク一色で女の子かしらと思ったが、可愛らしい男の子であった。 そこで、男の子らしさと可愛さをグレイのシャツに黒と赤の大きなチェック柄のパンツに紺色のジャケットを合わせた王道ワークスタイルにした。紺色の帽子をかぶり、全身で喜びを表現していた。 インパクトのあるオレンジと黄緑とベージュのカラフルなドレスに着やすさ抜群の白のニットのカーディガンを重ねて可愛らしさを表現してみた。また、レギンスはドレスの中のオレンジを履くことで全体が統一された色調になった。髪は長い付け髪をすることでお出かけの雰囲気になったが、会場の花道を緊張しながら(お化粧をするときから普段と異なる雰囲気に緊張が続いていた)、エスコートされている姿は、一生懸命モデルを務めているのが分かり、大人の雰囲気が漂っていた。 真珠色のワンピースにフワフワの毛皮をアクセントにして、ベージュの帽子に長い付け髪をつけ、華やかなパーティーに、いつご招待されても大丈夫な装いとなった。インナーには黒の透ける素材のチュールの長袖を着て、靴下も黒を履き、ベージュと黒でコーディネートした。どうぞ素敵なパーティーを楽しんでくださいという雰囲気である。本人はこの洋服を見た瞬間から「私好き」といい、終始にこやかにモデルを楽しんでいた。 フード付きジャケットアイテムはカジュアルな街着である。ワーカーズからイメージしたカーゴパンツとの組み合わせが新鮮で面白い。この装いを見たスタッフは庄野さん好みと言い、本人も好きと言う。皆の意見が一致した装いとなった。大人のカッコよさが光っていた。満足そうな表情が印象的であった。 (氏名の掲載および写真は家族の了解を得ています) 今回のファッションショーは、日本重症心身障害学会本部からの100,000円と2年分の寄付131,770円からの100,000円の合計20万円を財源とした。 23年度の寄付金は96,961円あり、今までの繰越55,475円(利息12円含む)と合わせると152,436円である。平成24年度分はこれに重症児学会本部からの補助金を加えた額の予算となる。 平成24年度は私たちが行う最後のファッションショーとして晴れの日をテーマとする。 ひのみね療育園の橋本先生ならびに職員の皆様、モデルになってくださった利用者とその御家族に深謝します。また、会場の皆様の多大な好意に感謝の気持ちでいっぱいです。このショーが多くの重症児に携わる方々が重症児の衣服や生活に役立つこと等を提案し、発表できる場に発展していくことを切に願っている。
  • 多屋 淑子, 成田 千恵, 水沼 千枝
    2012 年 37 巻 1 号 p. 113-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    第37回重症心身障害学会学術集会において、徳島赤十字ひのみね総合療育センターの協力により、家族の了解を得た重症心身障害児(者)の女性2名と男性1名の計3名をモデルとし、日常生活のQOL向上を目指した衣服の提案を行った。衣服製作には、モデルの日常生活状況や身体的な特徴を把握し、身体や生活状況に適合する衣服素材を厳選し、着脱時の工夫や取り扱いのしやすさも考慮し、着心地が良く、着用者が最も映える衣服を作製した。着用者には、「心身共にほっとする」「楽しさやワクワク感がある」着心地の良い衣服を提供し、介護者には着脱の容易さや取り扱いやすさを配慮した。
原著
  • 岩崎 裕治, 家室 和宏, 宮野前 健, 倉澤 卓也, 益山 龍雄, 田村 正徳
    2012 年 37 巻 1 号 p. 117-124
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    近年人工呼吸管理等のためNICUに長期入院児が増加している。一方療育施設でも、超・準超重症児が増加し課題も多い。そこで各療育施設でのNICU長期入院児を含む入所の受け入れ状況、人工呼吸器管理の必要な児(者)の長期・短期入所の状況等を調査し、現状と課題を明らかにした。重症心身障害児病棟を持つ国立病院機構病院74カ所、公法人立重症心身障害児施設120カ所へのアンケート調査を実施した。何らかの呼吸管理を受けている入所児(者)は、全体の5.9%で、人工呼吸器管理を要する入所児(者)10名以上の施設が33%であった。各療育施設で把握している長期入所の待機人数は、総数971名(小児457名、成人514名)であった。平成19-20年度長期入所の受け入れは678名でNICU長期入院児は74名、小児科長期入院児128名であった。療育施設では待機児(者)も多く、受け入れには医療環境の差などを懸念する声も多い。さらなる受け入れには職員の確保、ハード面の整備、中間施設の検討などが必要と思われる。また具体的な地域連携の検討も重要である。
  • −3つの情報ネットワークモデルによる実証研究−
    三田 勝己, 平元 東, 赤滝 久美, 花岡 知之, 渡壁 誠, 岡田 喜篤
    2012 年 37 巻 1 号 p. 125-132
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    本研究では、重症心身障害児(者)(以下、重症児)の在宅ケアを支援するためにICT(情報通信技術)システムを導入し、3つの情報ネットワークモデルを設定して実証運用を行った。ICTシステムにはテレビ電話「NTT製フレッツフォンVP1000®」を使用し、重症児の居宅と重症児施設あるいは特別支援学校の間を高速ひかり電話網/ADSL電話網で接続した。情報ネットワークモデルは、(1) 家族の職場からの見守り支援、(2)重症児施設によるケアホームでの地域生活支援、(3)特別支援学校からの教育支援を目的とし、併せて重症児施設による医療支援も行われた。その結果、見守りモデルは患者の体調を把握するうえで大きな助けとなることが示され、家族に安心感をもたらした。地域生活モデルは健康管理を支えるのみならず、利用者の地域生活を促すために有用であった。教育モデルは居宅での訪問教育と教室での学習を一体化できる可能性が示唆された。
  • 水野 勇司, 眞鍋 英夫, 松﨑 義和, 宮﨑 信義
    2012 年 37 巻 1 号 p. 133-138
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    在宅および入所中の重症心身障害児者を対象に、細径経鼻内視鏡を用いてその有用性と上部消化管病変について検討した。細径内視鏡(先端部外径5.0mm)による上部消化管検査を39例(延べ50回)に、保護者・後見人に説明と同意を得て実施した。 39例中37例は経鼻から挿入できたが、2名の小児例(いずれも体重20kg以下)では経鼻挿入困難なため経口から挿入した。全例鎮静催眠下に行い、鎮静剤としては塩酸ヒドロキシジンよりもフルニトラゼパムが有効であった。合併症として、検査時の低酸素血症を多く認めたが、短時間の酸素投与で対応できた。 食道病変として、食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎を16例(41.0%)に認めた。胃病変は22例(56.4%)に認め表層性胃炎が多かった。細径経鼻内視鏡検査はモニター下で酸素投与の準備を行うことにより、安全に実施でき有用性が高い。重症心身障害児者において、上部消化管病変を有する率は少なくない。
  • 榎園 崇, 中川 栄二, 平井 久美子, 望月 規央, 福本 裕, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 須貝 研司, 佐々木 征行
    2012 年 37 巻 1 号 p. 139-142
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    Clostridium difficile(以下、C. difficile)は、医療従事者の手指等を介して患者間で頻繁に伝播し、しばしば医療施設内で集団発生が報告されている。当院長期入院中の患者57人を対象にC. difficile分離培養検査を用いて、保菌状況の調査を行った。さらに、C. difficileの保菌に関与が疑われる危険因子について、症例対照研究を行った。57人中19人(33.3%)がC. difficile陽性であった。消化器症状が軽微で自然軽快した1人を除き、18人を無症候性保菌者と診断した。危険因子の検討で有意となった項目は、「人工呼吸器」の1項目のみであった。当院長期入院中の重症心身障害児(者)における保菌率は、報告されている健康成人の保菌率(2~5%)と比較すると高値であった。その原因として、人工呼吸器装着者が30%、経管栄養を施行している割合が70%を占めるなど、医療スタッフとの頻回な接触を必要とする患者背景や、患者交流行事が多い小児神経・筋病棟や重症心身障害児(者)病棟の特殊性が考えられた。処置前後での医療従事者の標準予防策の実践を、これまで以上に徹底する必要があると考えられた。
  • 佐藤 拓也, 中村 裕二, 須鎌 康介, 中島 そのみ, 仙石 泰仁
    2012 年 37 巻 1 号 p. 143-148
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    施設に入所する重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))を対象に、呼吸パターンとしての胸郭上・下部の運動の同調性が肺炎の罹患に関係しているのかについて分析を行った。また、肺炎罹患や呼吸障害との関係が考えられる摂食・呼吸機能、脊柱変形との関連についても同様に検討を行った。その結果、呼吸パターンの異常性および脊柱の変形は、直接的に肺炎罹患と関連しないことが示唆された。また、摂食・呼吸機能に関しては、誤嚥を認める者、気管切開例が多く肺炎罹患を呈していた。このことから、重症児(者)の肺炎罹患と関連する指標を検討する上では、胸郭運動の同調性や脊柱変形自体ではなく、これらがどのような姿勢・運動機能や呼吸機能の異常と関連しているかを総合的に捉えていくことが必要であると考えられた。
  • 古野 芳毅, 鍛治山 洋, 小西 徹
    2012 年 37 巻 1 号 p. 149-153
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    摂食・嚥下機能に障害をもつ児童生徒は、家族との外食が容易ではない。このような児童生徒が気兼ねなく外食する機会を提供することを目的に2005年より年1〜2回の頻度で新潟市内Aホテルを会場に、主に新潟県内の特別支援学校に通う摂食・嚥下障害をもつ児童生徒と家族のための食事会を行ってきた。食事内容はフレンチフルコースを基本として、普通食、注入食、離乳初期食、中期食、後期食の5段階を設定した。食事会参加者は児童生徒および家族のみならず、回を重ねる毎に参加職種が多様になった。そして多職種が一堂に会して専門的見地から意見や情報交換を行ったり、児童生徒を囲んで直接・間接的な支援を協働で行ったりする場ともなった。本食事会が総合的な食支援の場として機能していくようにさらに発展させていくことが、地域における食のバリアフリーへの一助となると考えられた。
  • 保坂 つや子, 山岡 俊枝, 秋元 多美子
    2012 年 37 巻 1 号 p. 155-162
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    Aセンターは120床で、長期入所者90名に占める超・準超重症児の割合は60%以上である。平成20年度に超重症児スコアの判定スコア(以下、重症児スコア)別利用者数が10%以上違う2病棟で業務量調査を実施した。その結果、職員の適正配置や病棟利用者構成などの課題が見出された。平成21年7月に重症児スコア別利用者を超重症児群、準超重症児群、重症児群とし、各3名、計9名を対象としてタイムスタディを実施した。24時間に3群の利用者が大項目で最も多く要した支援は①生活の援助②診療に関する業務③間接業務であった。小項目では、超重症児群では吸引で50分、準超重症児群では会話、スキンシップで48分、重症児群では飲食介助で129分であった。結果から①病棟の利用者構成の妥当性、②職種別職員の配置見直し等の示唆を得たので報告する。
  • 中村 奈美, 山田 晋也, 脇坂 晃子, 辻 隆範, 丸箸 圭子, 大野 一郎, 関 秀俊
    2012 年 37 巻 1 号 p. 163-169
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    過去9年間の気管切開を行った重症心身障害児(者)50例を対象に合併症の有無、対応方法や臨床背景を検討した。胸部CTで腕頭動脈による気管圧排を9例に、気管切開チューブ先端の気管壁への接触を15例に認めた。気管支鏡検査では33例中22例(66.7%)に気管内肉芽を認め、内19例(57.6%)は気管切開チューブ先端部であり、気道閉塞症状は8例に認めた。気管切開チューブ種類の変更を15例、固定方法の変更を18例、ステロイド吸入を8例、レーザー焼灼術を5例に行った。臨床背景として、側弯・胸郭変形・筋弛緩薬内服・腕頭動脈による気管の圧排・気管切開チューブ先端の気管壁への接触がある例では各要因のない例と比べ肉芽を形成しやすい傾向があった。
  • Ⅰ.社会資源の利用実態
    三田 岳彦, 岩井 正一, 木村 希美子, 善家 誠, 三上 史哲
    2012 年 37 巻 1 号 p. 171-177
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    本研究は愛媛県東予地域の在宅重症心身障害児(者)(以下、重症児)を対象にアンケート調査を行い、医療・リハビリテーション、福祉サービス、教育に関わる社会資源の利用実態を明らかにすることを目的とした。医療資源はほぼ全員が利用していたが、必ずしも重症児施設ではなく、大半が一般病院であった。一方、リハビリテーション、日中活動系サービス、訪問系サービスの利用は60%程度に止まった。また、短期入所は約30%の利用にすぎなかった。教育への参加はほぼ全員であることが確認されたが、特別支援学校への就学が45%、訪問教育が40%であった。こうした社会資源の利用実態は、地域内に関連施設がないことや事業が行われていないこと、また、地域外施設への公的なアクセシビリティーが整備されていないことに起因すると推察された。
症例報告
  • −Eisenmenger症候群に対するシルデナフィル、ボセンタンの投与報告を含めて−
    鈴木 啓子, 斉藤 剛, 鳥井 貴恵子, 岩佐 諭美, 徳光 亜矢, 楠 祐一, 平元 東
    2012 年 37 巻 1 号 p. 179-184
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は43歳女性、右心不全症状の原因精査中、当初肺塞栓症として対応していたが、のちに大動脈肺動脈窓および動脈管開存症によるEisenmenger症候群と診断した。シルデナフィル、ボセンタン投与により動脈血酸素飽和度の改善を認めた。大動脈肺動脈窓は、通常小児期までに心不全で発見されるため、成人で発見されることは非常に稀である。動脈管開存を合併した大動脈肺動脈窓の成人発見例の報告は、われわれの検索しえた範囲では本例が初めての報告である。本例は、脳性麻痺、てんかんのため幼児期から重症心身障害児(者)施設に入所中であった。発見が遅れた要因についても、重症心身障害児(者)という特性を考慮に入れて考察を加えた。
  • 水野 勇司, 眞鍋 英夫, 松﨑 義和, 宮﨑 信義
    2012 年 37 巻 1 号 p. 185-189
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下、PEG)は比較的簡便で侵襲の少ない点からも良く用いられている。34歳女性で、経鼻胃管による弊害のため、PEGを実施した重症者の1例を報告する。PEG実施3カ月後、内視鏡下に胃瘻ボタンに変更しようとしたが胃内に届かず、ガイドワイヤー下に元のチューブを入れ戻した。その1週間後同様の操作を行い新しいチューブに交換できた。5カ月後に再度胃瘻ボタンに変更を試みるも挿入できず、ガイドワイヤー自体も胃内に挿入不可能であった。腹壁を通して瘻孔より細径内視鏡を挿入観察すると、胃内でなく、大腸内腔が観察された。PEG造設時にすでに発生したと考えられる結腸穿通による胃結腸皮膚瘻と判明し、開腹術にて結腸瘻孔部を閉鎖し胃瘻再造設を行った。重症心身障害児者では注意すべきPEG合併症のひとつとしてあげられる。
奥付
  • 2012 年 37 巻 1 号 p. 191
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    下記の論文について著者より訂正の依頼があったので掲載する。 日本重症心身障害学会誌第36巻(3)掲載論文:「肢体不自由児施設入所児の生活機能と障害:Ⅱ.国際生活機能分類(ICF)を用いた社会生活力の調査」訂正原稿 P403, 右段42行目~P405, 1行目 χ2検定の結果、中軽度群、重度肢体群および重度知的群と重心群との間に有意な差(p<0.05)が認められた。 訂正原稿 7項目それぞれについてχ2検定を行った結果、「⑤基本的な対人関係」と「⑦健康に注意すること」を除く5項目について、障害類型の間に有意な違い(p<0.05)が認められた。 P406, 右段21~23行目 統計的には、中軽度群、重度肢体群および重度知的群と重心群との間で有意な差があった。 訂正原稿 統計的には、「⑤基本的な対人関係」と「⑦健康に注意すること」を除く5項目について、障害類型群によって有意な違いがあった。
  • 2012 年 37 巻 1 号 p. 192
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
    平成23年1月から平成23年12月までの間にご協力をいただいた査読者は下記の方々です。 本誌の学問的水準向上のため、貴重な時間を割いていただき、有意義なご意見を賜りました。 心より感謝申し上げます。 赤星 恵子 浅倉 次男 渥美  聡 荒木 久美子 有馬 正高 小沢  浩 小田 志緒里 神田 豊子 熊田 聡子 栗原 亞紀 栗原 まな 黒川  徹 後藤 晴美 小森 穂子 西條 晴美 齋藤 菜穂 佐々木 香織 染谷 淳司 高橋 由起子 武田 佳子 多屋 淑子 中島 末美 萩野谷 和裕 平山 恒憲 福水 道郎 益山 龍雄 水戸  敬 宮武  薫 村松 光子 和田 恵子 (敬称略・五十音順) 編集委員による査読も行っております。
  • 2012 年 37 巻 1 号 p. 193
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
  • 2012 年 37 巻 1 号 p. 196
    発行日: 2012年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー
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