Ⅰ.はじめに
2014年(平成26年)4月1日現在、公益社団法人「日本重症心身障害福祉協会」に加盟している全国の公法人立施設は123施設ある。これらの施設が法改正後どのような変化を選択し、どのような問題を抱えているのか、その実態について報告し、今後の課題と方向性についても述べる。
Ⅱ.公法人立施設の実態
1.法制度改正後の施設形態
前述したように公益社団法人「日本重症心身障害福祉協会」には2014年(平成26年)4月1日現在123施設が加盟しているが、その内訳は公立公営6施設、国公立民営17施設、民立民営100施設と圧倒的に民営施設が多くを占めている。
今回の法制度改正を受け、123施設のうち120施設は特例による医療型障害児入所施設と療養介護事業所併設の形をとり、児者一貫の支援体制を維持した。しかしながら、医療型障害児入所施設のみを選択した(せざるを得なかった)施設が1施設、療養介護事業所のみとした施設が2施設あり、児者一貫の支援体制をとることが困難になっているところもある。
2.入所児者の変化
入所児者の総数は2013年(平成25年)4月1日現在11,727名(男6,340名、女5,387名)、2014年(同26年)4月1日現在11,751名(男6,310名、女5,441名)と横ばいである1)2)。これは新たな施設の開設を認めないとする近年の政策により受け入れ定員の総数が頭打ちになったためといえる。しかしその一方で、施設入所を必要とする重症心身障害児(者)の数は特に大都市とその周辺部を中心に増え続けており、神奈川、千葉、愛知等では新施設開設の動きが加速しつつある。施設入所利用児者の現況は以下のような問題を生み、新たな課題を示している。
1)超重症、準超重症児(者)の増加
公法人立重症心身障害施設に入所する超重症児および準超重症児は近年、増加傾向が著しく、1998年(平成10年)の総数が1,041名であったのに比べ、10年後の2008年(平成20年)には2,290名と2倍以上となり、直近の2012年(平成24年)では2,802名に至っている。ポストNICUあるいはPICUの受け皿としてのニーズは高いが、受け入れベッド自体の不足に加え、医師、看護師等の医療スタッフ不足は続いており、多くの課題を抱えている。
一方、在宅生活を選択する超(準超)重症児も増加傾向にある。大学病院や基幹病院のNICU等長期在留者の増加は受け入れ可能容量を超え、慢性期病院や施設への移行も停滞している現状下で、訪問診療を行う開業医や訪問看護事業所に医療支援をゆだねながら家庭で介護することが選択されるケースも増えつつある。
2)入所者の高年齢化
入所者の高年齢化は顕著で、協会加盟施設の実態調査によれば、2014年(平成26年)4月1日現在、123の公法人立施設入所利用者11,751名のうち、18歳未満は1,244名(10.6%)、18歳以上は10,507名(89.4%)と成人の占める割合が多くなり、年代別ヒストグラムも高齢側にシフトしてきた(図1)。入所児者数の最も多いのは40歳代であり、最高齢は男84歳、女102歳に達している。
高年齢化に伴い骨粗鬆症や脆弱性骨折、癌などの悪性新生物、あるいは骨関節の変性疾患等が増加傾向にあり、小児科や小児神経科以外の多くの診療科や専門職種による包括的、集学的な対応が求められる時代になりつつある。
3)被虐待児の増加
重度の障害がある児童を養育する上での介護負担や日常生活上の制約は養育者による虐待や育児放棄を招きやすく、施設入所により保護されるケースも多い。また健常児が虐待を受けた結果、後遺症として永続的な重い障害をもつこととなる児童も、増加傾向にある。
すべての重症心身障害施設における正確な数は把握されていないが、旧肢体不自由児施設59施設における2010年(平成22年)の調査では、2,015名の入所児のうち241名12.0%が虐待に関連しており、2000年(平成12年)の調査に比べ2.7倍に増加していた。虐待の内容はネグレクトが最も多く58.5%を占め、以下、身体的虐待29.5%、心理的虐待1.7%、性的虐待その他0.3%であった。
これらの被虐待障害児にとって施設の持つセーフティネットとしての保護機能はきわめて重要である。児童の生命が守られ、安全で愛情に満ちた環境の中で生活することは児童の健全な成長のためには必要不可欠のものであり、発達保障の観点からも確実に維持継続されるべき重要な役割である。また、そのためには医療機能のみでなく、児童の療育や心理的ケアにも対応できる専門職種の充実、親子関係の修復あるいは再構築にあたる社会福祉士やケースワーカー等の福祉職の機能もきわめて重要であり、人員配置にかかる被虐待児受け入れ加算等の拡充が必要と思われる。
3.在宅支援ニーズの増加
近年、在宅生活を選択する重症心身障害児(者)は特に都市部を中心に増加し、今や全国で推定2万数千人いるといわれている。これに対応すべくモデル事業で始まった重症心身障害通園事業は、いわゆる「つなぎ法」を経て総合支援法に至り法定事業化されたが、いまだ多くの課題を残している。
1)短期入所(ショートステイ)ニーズの急増
在宅で重症心身障害児(者)とともに生活する家族にとって、入所施設の提供する短期入所サービスは介護の身体的負担や心理的ストレスを軽減する効果が高く、自宅での生活を継続していく上でなくてはならないサービスである。施設側もそのニーズの高さを認識しているが、受け入れ枠の拡大は決して容易ではない。
図2は2000年(平成12年)からの公法人立施設における短期入所利用者の推移である。年々利用者は急速に増え続けてきたが、この1~2年で頭打ちとなっており、もはや受け入れ能力の上限に達していることがうかがえる。障害の内容や程度とともに、必要とする医療的ケアや日常の関わり方が多種多様な在宅障害児(者)に対し、一定レベルの安全性を担保しながら、利用者の利便性を重視し、いつでも受け入れ可能な病棟の態勢を維持することは施設側の負担が大き過ぎ、現行の法制度と給付費のもとではきわめて困難である。
短期入所の需要は大都市部とその周辺では特に顕著であるが、関東地方では複数の病院と施設が共通的な支援計画のもとに協働で受け入れベッドをつないでいく「ローリングベッド」という試みが毛呂病院光の家療育センターを中心に行われており、多くの需要に応えながら施設側の過重な負担を軽減する方策のひとつとしても、その成果が注目されている。
2)通園利用の変化
法改正によりこれまでの通園系のサービスは18歳未満の児童を対象とする児童発達支援センター、放課後等デイサービス、そして保育所等訪問支援と、18歳以上の成人に対する生活介護事業等に再編された。
全国で在宅重症心身障害児(者)の支援サービスを実施する事業所の多くは全国重症心身障害日中活動支援協議会に加盟しており、2014年(平成26年)3月現在、216事業所がその会員となっている。われわれ公法人立施設も123施設のうち92施設が同協議会に加盟し、通園等の在宅支援サービスを実施しているが、そのうち約3分の2にあたる60施設(65.2%)は児童に対する支援サービスと成人に対する生活介護事業を合わせて実施する多機能型事業所の形態をとり、在宅支援においても児者一貫的サービスを提供できる体制をとっている。その他の32施設のうち30施設(32.6%)は成人を対象とする生活介護事業のみ、2施設(2.2%)は児童を対象とする児童発達支援のみとなっており、本体施設が主として対象とする入所利用者の年齢層に合わせているものと思われる。
一方、公法人立重症心身障害施設以外で、同協議会に加盟している事業所は216から92を引いた124事業所であるが、そのうち67事業所(54.0%)は成人を対象とする生活介護事業のみを行っており、児童と成人の両方を対象としているところは44事業所(35.5%)、児童のみを対象としているところは13事業所(10.5%)で、児者一貫の支援体制をとっているところは約3分の1である。
施設入所支援のみではなく在宅支援サービスも提供できる体制をとっている施設は、通常は通所や訪問による在宅支援を継続しながら、緊急時や特定の治療目的などにより必要に応じて柔軟に入所支援を組み合わせることができるのが強みである。とりわけ入所支援、在宅支援ともに児者一貫のサービス提供体制をとっている施設は、在宅重症心身障害児(者)やその家族にとって最も包括的かつ重層的な支援機関であるといえ、いわば「総合発達支援センター」としての機能を果たす役割を担っているといえる。
4.地域差の拡大
我が国は急速な少子高齢化の時代を迎え、地方における若年~青壮年人口の減少は加速している。総合支援法に謳う「住み慣れた地域で…」に反し、その地域自体が存続の危機にさらされる中、施設のもつ機能を維持することが困難になりつつある地方もある。
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