日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
41 巻, 2 号
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前付け
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. H2
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
  • 在宅支援のあり方 −支援方法と支援内容−
    津川 敏
    2016 年 41 巻 2 号 p. 139
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    島田療育園の小林堤樹先生が、1975年に第1回重症心身障害研究会を開催されてから40年目の節目を迎えた昨年の第41回当学術集会は、椎木俊秀会長の下、当学会が果たしてきた成果や貢献、さらに今後について熱心に議論され盛会の内に幕を閉じました。50年に向けての第1歩を踏み出す第42回本学術集会は、一人でも多くの障害を持つ子ども達に長年にわたって蓄積されてきた高度な療育資産の恩恵が行き渡るよう在宅支援をテーマと致しました。重症心身障害児者施設近隣の地域では、相当な支援が得られていますが、施設から遠隔の地、郡部そして広い北海道では、療育特に医療的関わりを受ける機会に乏しいのが現状かと思われます。この様な地域は、農林水産業が中心で、国民の食糧基地としてさらに景観・国土保全という国の重要な役割を担っています。  国は地域活性化を掲げていますが、障害児の療育に関しても何らかの方策が求められなければなりませんし療育資源(医療・福祉・教育)の連携強化が強く求められています。しかし、『どこに住んでいても等しく療育の機会が得られるようにする』との課題は、市町村任せでは実現困難であり、少なくとも都道府県単位の課題かと思われます。  第42回本学術集会では、二つの方向からこの点を話し合って頂くこととしました。  先ず、シンポジウム1として、在宅支援のあり方−支援方法−の面から、そしてシンポジウム2で、求められる支援内容を話し合って頂くこととしました。 ◎特別講演1は、北海道を縄文・弥生時代より理解して頂けるよう白滝ジオパーク名誉館長の木村英明氏から、考古学的知見をもとに講演して頂くことと致しました。 ◎特別講演2では、豊田市こども発達センターセンター長の三浦清邦氏から、人材育成・確保の面からの講演を頂き、医師をはじめとする療育スタッフの人材確保と後継者対策を考えることと致しました。 ◎教育講演は、横浜訓盲学院学院長の中澤惠江氏に、1979年から始まった特殊教育義務化以来の重度重複障害児の教育について、元国立特殊教育研究所重複障害研究部の経験から教育面からのアプローチについての講演して頂きます。 ◎重症心身障害児者の在宅支援のあり方としてのシンポジウム1−支援方法−は、座長をあおぞら診療所新松戸の田中総一郎氏にお願いし、法人として熱心に早期療育を含む在宅支援を行ってきている長岡療育園の小西徹園長、公立施設として全県的に療育体制を構築され実践している鳥取県立総合療育センター院長の汐田まどか氏、そして早期療育システムが構築されて28年経過した北海道について北海道保健福祉部、さらに受益者の立場から北海道重症心身障害児(者)を守る会会長の太田由美子氏の4氏から現状を熱く語って頂き、特に郡部での重症心身障害児者に対する施策のあり方を学ぶこととしました。  シンポジウム2−支援内容−は、多摩地区の在宅支援を長年にわたり実践している島田療育センターはちおうじ所長の小沢浩氏を座長に、必要とされる支援内容について話し合って頂きます。シンポジストは、小児科医の立場から長年にわたって広範な地域で在宅支援を実践している北海道療育園園長の林時仲氏、フットワーク軽く必要があれば遠隔地にも足を運ばれている生涯医療クリニックさっぽろ院長の土畠智幸氏に重度の在宅重症心身障害児者への関わりについて、理学療法の立場から元北海道立旭川肢体不自由児総合療育センターで訪問看護ステーションはこぶね代表の齋藤大地氏、作業療法の視点から元北海道立子ども総合医療・療育センターの金田実氏に実践経験を交え討論頂くことにしました。 ◎会長講演では、国立療養所で重症心身障害児者との関わりをもってから今まで障害児者や彼らを通して学んだことを中心に述べる予定です。  本学術集会恒例のファッションショーは、日本女子大学の多屋淑子先生の指導のもと、北翔会あゆみの園の皆様により初日の午前の最後の時間帯に行います。その他、ランチョンセミナーは館内の移動も考慮し大ホールにて行うことにしました。演題は、251題と多数申込しこまれましたこと、深謝申し上げます。なお、ポスターセッションは2日間通しで掲示しますので、討論を深めて頂ければ幸いです。  最後になりましたが、今回の学術集会も「読売光と愛の事業団」のご後援を頂きましたこと深謝し、巻頭のご挨拶とさせて頂きます。  多くの学びと提言が得られ、在宅支援のあり方のヒントが得られますよう準備を進めてまいりました。大勢の会員皆様のおいでをお待ちしています。 第42回日本重症心身障害学会・学術集会 会長  津 川  敏 (社会福祉法人財団済生会支部 北海道済生会西小樽病院 院長)
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. 140-141
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. 142-143
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
  • 「大変だけどやってよかった!」意義ある看護研究にするために
    石井 美智子, 倉田 慶子, 田中 千鶴子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 144
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    昨年、本学会で行われたシンポジウム「重症心身障害に対する看護の成果と課題」において、看護研究の現状や課題について報告があり、看護研究の質の向上や発展のための課題が提示されました。これに刺激を受け、かねてより本学会発表や学会誌論文投稿において研究プロセスへの支援の必要性を感じていた編集委員が集まり、看護研究応援セミナーを企画しました。  看護は実践の科学といわれます。臨床現場には様々な課題、介入の工夫、実践の成果が溢れ研究の宝庫でもあります。しかし、この実践の成果や課題を可視化する(研究としてまとめる)のは一苦労です。特に、重症心身障害児(者)看護の領域では、対象の個別性が高く、再現性、一般化が難しいという特徴があります。さらに看護手順や技術などのマニュアル化できる形式知だけでなく、経験から獲得し言語化が難しいいわゆる暗黙知が豊富にあり、これを研究としてまとめ上げる作業には誰もが悩まされた経験があります。  そこで本セミナーでは、看護研究の初心者がそのプロセスで遭遇しやすい困難や陥りやすいピットホールを示しながら、その対策を共に考えたいと思います。また、院内研究の支援について実際の取り組みを紹介し、研究支援体制についても考えたいと思います。後半は、参加者とテーブルを囲んで看護研究の相談や意見交換のディスカッションを企画しています。  「大変だけどやってみたい、やって良かった」と、研究の意義や面白さを見出せるセミナーにしたいと考えています。 ・日時:2016年 9月16日(金) 16時10分 ~ 17時40分 ・場所:札幌市教育文化会館 3階301(C会場) ・対象:50名程度(看護研究初心者、初心者を支援する立場にある方) ・内容:1.主催者挨拶(石井)     2.研究プロセスで迷わないために   ・初めて看護研究に取り組んで(篠澤由香 独立行政法人 国立病院機構 三重病院)   ・意義ある看護研究にするために(田中)     3.院内研究支援の取り組み(倉田)     4.ラウンドテーブルディスカッション(30~40分)     5.まとめ(石井)
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. 145-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. 148-150
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
  • 2016 年 41 巻 2 号 p. 151-181
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
特別講演1
  • −考古学の視点から−
    木村 英明
    2016 年 41 巻 2 号 p. 183
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
     人類が誕生して以降、地球環境はめまぐるしくその姿を変え、人類の進化に大きな影響を与えてきた。「常春の大地」にあこがれる文明人・古代ギリシャ人の壮大な極北への冒険は、想像を絶する酷寒の自然に阻まれるが、それよりもはるか悠久の昔の氷河時代に人類がこの極北に入り込み、豊かな生活を繰り広げていたことが知られている。人類のダイナミックな移動、交わり、変遷を北海道の考古学を軸に据えつつ紹介したい。 1.氷河期の極北に挑むホモ・サピエンス  マンモスが、地下に棲むモグラとして生きながらえてきたことを極北の民が語りついできた。マンモスは真に絶滅したのであろうか? 今から3万年ほど前の大昔、私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスが、北方ユーラシアに広がり、やがて日本列島やアメリカ大陸に足跡を残す。氷河期の酷寒の地で、マンモスの牙を巧みに利用する驚くべき技の持ち主たちが、北海道に及んだ可能性を追う。 2.黒曜石はるかな旅  人類は、道具を製作し、巧みに使いこなす類い稀な生物である。700万年間に及ぶ長き人類進化の歴史も、道具の発達に支えられてきたと言えよう。道具にふさわしい石材を求めて、人びとははるかな旅を続けてきた。北海道のオホーツク海に近い遠軽町・白滝赤石山(標高1147m)は、天然の火山ガラス、黒曜石の日本最大級の産地で、日本ジオパークに認定されているが、原産地の様子とともに、本州やサハリン・シベリアにまで運ばれる黒曜石と先史時代の人類の営みを紹介したい。 3.縄文時代のおしゃれと死への祈り  人類が人類である理由のひとつに、死者を埋葬する行為を上げることができよう。埋葬は、いつ始まったのか? 何故、わざわざ埋葬するのか? また、埋葬された人々には、当時の服装やおしゃれの姿を残す貴重な事例が知られているが、縄文人のおしゃれはどのようなものであったのか? 北海道にのみ分布が知られている巨大で、計画的な竪穴式集団墓を始め、恵庭市カリンバ遺跡で発掘された貴重な合葬墓の例に見られる埋葬の様子を紹介しつつ今から3000年ほど前の縄文人の他界観、優れたファッションの一端を探る。 4.北に広がるヒトとモノの交流  縄文時代以後、本州の稲作農耕文化から切り離された「停滞する北海道の文化」というイメージが広く、また長い間にわたって固定化されてきた。しかし、続縄文時代以降も、狩猟、漁撈を主体とした自律的な経済・文化を繁栄させてきた。一方で、本州からの強い文化的影響を受け、さらには北方の人々との交わりを通して独自の文化的変容を遂げてきた。続縄文や擦文文化、オホーツク文化の住居構造や道具、装身具などの変遷を通してその実態を探る 5.日本列島での人類進化史をめぐる論争と現状  アウストラロピテクス・アフリカヌスの化石を発見した人類学者・R.ダート博士が、人類は「殺し屋のサル」であると称した。事実、世界史に刻まれる民族・人種間の争いは枚挙にいとまがない。とすれば、人類の未来は無きに等しい。  日本列島に目を転ずると、アイヌ復権に向けて事態は大きく改善されつつある昨今であるが、日本人とは何か、アイヌ人とは何か、奥深い理解なくしての表面上の国策のみではなお心もとない。講演のまとめとして、明治期以来、人類学者、民族学者、言語学者などによって繰り広げられてきた「人種論争」の今日的到達点はいかなるものであるか、北海道の考古学の立場から展望する。 略歴 史学博士、ロシア科学アカデミー名誉博士。1943年、札幌市生まれ。1967年、明治大学大学院修士課程文学研究科修了。札幌大学文化交流特別研究所助手、文化学部教授、同大学大学院文化学研究科教授、同学部長・研究科長等を歴任、2008年に退職。国内を始め、イラク、ロシア等での考古学調査に従事。現在、白滝ジオパーク交流センター名誉館長、ロシア科学アカデミー考古学・民族学研究所特別研究員他。著書『マンモスを追って』(一光社)、『シベリアの旧石器文化』(北海道大学図書刊行会)、『まんがでたどる日本人はるかな旅』(監修、NHK出版)、『北の黒曜石の道―白滝遺跡群』(新泉社)、『氷河期の極北に挑むホモ・サピエンス』(雄山閣)他。
特別講演2
  • 三浦 清邦
    2016 年 41 巻 2 号 p. 184
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者支援と小児在宅医療・医療的ケア  50年を越える重症心身障害児者療育・医療の実践により、重症心身障害児者(以下、重症児者)も豊かな人生を送ることができるようになった。しかし、医療の進歩により、重症児者の重度・重複化が進み、生きていくのに人工呼吸器・気管切開・経管栄養(胃瘻含む)などの医療的ケアが必要な重症児者も増えてきている。また、在宅生活重症児者の割合が増え、県によっては重症心身障害児(以下、重症児)の9割以上が在宅で、低年齢ほど医療的ケアを必要とする割合が高いのが現状である。近年、入所施設においても在宅においても、重症児者支援に関わる人材は不足し、家族を含めた支援者への負担は増えるばかりである。社会全体で支える体制整備と人材育成が喫緊の課題である。  一方で、急激な社会全体の高齢化に伴う地域包括ケアシステムの構築や在宅医療の充実といった施策が進められる中で、小児在宅医療体制充実に向けた動きも始まっている。小児在宅医療が充実すれば、小児から高齢者まで一貫した支援が可能となる。また、医療的ケアを必要とする障害児者支援の必要性も認知され、喀痰吸引等の研修制度(在宅重症児者には第三号研修が中心)が実施されている。さらに、改正障害者総合支援法・児童福祉法(平成28年6月公布)には、「医療的ケアを要する障害児が適切な支援を受けられるよう、自治体において保健・医療・福祉等の連携促進に努めること」が記載された。小児在宅医療の大半や医療的ケアを要する障害児者の多くは重症児者とその周辺群であり、小児在宅や医療的ケア必要児者への支援の充実を進めることが、重症児者支援者の人材育成にもつながると思われる。  重症児者在宅支援の仕組みづくりや小児在宅のシステムづくりは厚生労働省、教育現場における医療的ケアが必要な児童生徒支援は文部科学省により、多職種連携による支援体制づくりと人材育成の取り組みが始まっている。国はプログラム開発や指導的立場・調整役の人材を育成し、その人材が各地で人材育成を進めていく構図である。 人材育成は、学生時代からの長期的な視点と、すでに支援業務に従事している支援者を対象とした短期中期的な視点と分けて考える必要がある。講演では、1)国の取組、2)大学医学部医学生に対する家族参加型重症児者医療教育の取組、3)小児科医や小児科以外の医師への研修、看護師・療法士の人材育成についての取組、4)福祉・保育・教育分野における人材育成となる、喀痰吸引等の第三号研修の現状、コーディネーター(相談支援専門員)人材育成等について紹介する。 名古屋大学障害児(者)医療学寄附講座による医師人材育成への取組  平成23年11月に医学部に寄附講座が開設され、医学生への重症児者医療教育が始まった。4年生に小児科学講義を一コマ、翌年5年生に障害専門医療機関での小児科臨床研修を一日、実施している。講義には3~4組の重症児と家族が参加、臨床実習では重症児施設や病棟見学とともに、3~4人に分かれて医療的ケアが必要な重症児・重度肢体不自由児とその家族と面談・診察する時間を設けた。現在までに4学年400人以上がこの教育を修了した。成果を検証すべく、初年度の学生である26年3月卒業生に対して、前期研修修了間近の28年3月にアンケート調査を実施したところ、臨床実習について「印象に残っている」「今後も続けるべきと思う」との回答が8割以上であった。家族参加型重症児者医療教育は卒業後も記憶に残ることが確認でき、将来何科の医師になっても重症児者を診療できる医師が増えることを期待したい。 最後に  重症児者支援、小児在宅医療、医療的ケア必要児者支援の人材育成を進める際に、われわれがしっかりと、重症児者支援のやりがい、重症児者や支援者の魅力を伝え、重症児者支援が当たり前に実施される世の中にしたい。 略歴 昭和59年3月 名古屋大学医学部卒業、昭和62年4月 名古屋大学医学部小児科大学院入学、平成3年4月 愛知県心身障害者コロニー中央病院小児神経科、平成19年4月 豊田市こども発達センター小児神経科、平成23年11月 名古屋大学大学院医学系研究科障害児(者)医療学寄附講座教授、平成27年4月から豊田市こども発達センター センター長 <役職等>日本小児神経学会評議員・社会活動委員会委員、日本重症心身障害学会評議員、日本小児科学会代議員・重症心身障害児(者)・在宅医療委員会委員  <専門医等>日本小児科学会専門医、日本小児神経学会専門医、日本てんかん学会認定医(臨床専門医)
教育講演
  • 中澤 惠江
    2016 年 41 巻 2 号 p. 185
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    コミュニケーションは、人と共に過ごすあらゆる状況(食事、運動、遊び、休息、医療的ケアを受ける時等々)で必要となるため、重症心身障害を有する子どもたちとの教育では、最も重点がおかれるテーマの一つです。子どもたちが表すかすかな表情や動きの変化を見逃さず、その意味を推測し、適切に応え、子どもたちの発信する力を高めようとする努力。あるいは子どもたちに分かりやすい語りかけやサインを用いて、関わり手の意図することを伝えようとする努力。子どもへの感受性を高め、教材に工夫をこらし、コミュニケーション支援機器等も学び、教員のみなさんは日々努力を重ねていることと思います。  ここでは、少し視点を変えて、子どもたちが置かれている「環境」がコミュニケーションに及ぼす影響についてお話したいと思います。表題のなかの「コミュニケーションと環境」には二つの意味が込められています。一つは、子どもからのコミュニケーションが生じやすくなる環境とはどういうものかという意味です。なお、環境には子どもを囲む物理的な環境と人的な環境の両方が含まれます。  もう一つの意味は、子どもたちに分かりやすく語りかけてくれる環境、言い換えると、環境そのものによるコミュニケーションとは何かという意味です。学校というのは、本来、子どもたちにとって分かりやすく、結果として主体的に活動しやすい環境であってほしい場所です。しかし、学校とはこういう場所だという私たちの先入観から、環境を子どもたちの視点から問い返すことや改善する取り組みが生まれにくいように思います。  ここでは、「どこ」、「なに」、「だれ」という三つの基本的な情報に分けて、コミュニケーションと環境について整理し、可能な改善方法について皆様と共有していきたいと思います。  なお、重症心身障害を有する子どもたちの多くには、何らかの視覚障害があることが知られています。国立特別支援教育総合研究所において研究協力を得ていた三校の肢体不自由特別支援学校の調査をしたところ、それぞれ約45%、48%、57%の在校生に視覚に何らかの課題があるという結果が得られました。コミュニケーションの困難さから、何が見え、何が見えないかを確かめにくいため、多くの子どもたちは「聴覚優位」と位置付けられ、視覚を通した係りが放棄される傾向があります。後半では、「中枢性視覚障害」の特徴についてご紹介し、残っている視覚の確認のしかたとともに、有効な活用事例を紹介し、コミュニケーションと環境の理解につなげる方法を提案したいと思います。 略歴 国際基督教大学教育学修士。在学中に梅津八三の盲ろう教育の実践研究に触れ、盲ろうおよび重複障害を有する子どもたちの教育研究を志す。1982年に国立特殊教育総合研究所(現独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)重複障害教育研究部研究員となり、教育相談、研究、教員研修を担当し、また、国際交流担当として海外調査研究等を担った。2010年から2012年まで、中央教育審議会下の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」委員として、障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について審議に加わった。研究所を2011年に退職、私立横浜訓盲学院の学院長となり今日に至る。学院は3歳から21歳までの、視覚障害と他の障害を重複する幼児児童生徒に特化した教育を行っている。
シンポジウム1:重症心身障害児の在宅支援のあり方 −支援方法−
  • 小西 徹
    2016 年 41 巻 2 号 p. 186
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症児者の在宅支援の3本柱は、1)通所支援(児童発達支援、生活介護、放課後等デイ)、2)短期入所支援(医療、レスパイト入院)、3)訪問系支援(訪問診療/看護、訪問介護)である。近年、要医療の在宅重症児の増加に伴って小児在宅医療連携の必要性・重要性が唱えられている。しかし、医療の必要性は解るが、重症児者においては医療/看護を主にした支援のみで良いのか?当然のことながら日常生活支援や療育支援も必須であり医療支援と同等またはそれ以上に重要である。特に児童においては発達を考慮した療育支援はきわめて重要な意味を持つ。このように考えると、1)通所支援は医療・生活・療育のすべてが実施可能で、かつ、定期的に通って貰うことで日常全般の管理が可能と言う利点があり在宅支援の中核的な支援であると言える。  当園では通所支援、短期入所支援を中心に新潟県全域に渡る在宅重症児者支援を実施してきた。以下にその実状と今後の課題について述べる。 1.新潟県の重症児者実態調査(平成27年):重複障害児者は1063名0.044%(入所368、在宅695)、うち狭義の重症児者大島1~4は787名0.032%(入所307、在宅480)であった。90%以上が何らかの医療を必要としており、超重症児者は97名9.1%(入所37、在宅60)、準超重症児者は201名18.9%(入所54、在宅147)であった。在宅児者の地域分布は新潟市と長岡を含む中越地域が各々40%前後と多くを占めた。 2.通所支援:当園ではH2年からA型通園を実施しており、H19年魚沼市、H20年三条市に通所事業所を開設した。現在、3事業所で計150名以上の利用登録があり中越、魚沼、県央の全域、上越および新潟市の一部をカバーしている。年々重度障害例が増加しており医療ケア件数も増加している(H16年1.70件/人/日、H26年2.28件/人/日)。県内には国立病院機構2施設、肢体不自由児施設1施設、知的障害や高齢施設で数カ所の通所施設があるが、受入れ数は少なくかつ軽度障害例が主である。関連施設連絡協議会を立ち上げレベルアップを図っている所である。 3.短期入所:H8年に13床でスタートし、利用ニーズの増大に添う形で現在20床+緊急入院5床で対応している。利用者数は年々右肩上がりでH22年以降は6000日超/年(16~18名/日)になっている。また、超・準超重症児者の利用が増えており、利用者の40%弱を占めている(人口呼吸器18名)。新潟県の短期入所利用の約80%に相当する。 4.訪問介護・訪問看護:数年前から実施している。利用希望はそれなりにあるものの10数名の利用に留まっている。利用が増えない理由として受入れ側の準備(短期入所の方が楽)、施設側の人的制限、距離的制限などが挙げられる。在宅支援が少ない地域では一部で訪問看護ステーションが入っている所もある  新潟県の重症児者在宅支援の約70%を当園が実施しているのが現状である。身近な地域での支援については、実態調査結果に基づき資源調査を行いながら体制を整備することにしている(1次:一般臨床を担当する掛り付け医院/病院、2次:医療・療育・生活を担当する療育施設、3次:高度医療・救急医療を担当する中核病院)。また、重度障害を有しかつ合併症を有する重症児者の特性を考慮すると、医療・日常生活・療育と広範でかつ専門性の高い支援が必要となる。重症児施設が長年養ってきたノウハウを他療育施設等に伝授し連携を広げて行くことも重要ではないかと考える。 略歴 1974年 新潟大学医学部卒業 小児科学教室 1978年 富山医科薬科大学小児科 助手→講師→助教授 2000年 長岡療育園 園長 日本小児科学会専門医、日本小児神経学会専門医、日本てんかん学会専門医日本重症心身障害学会理事、日本重症心身障害福祉協会全国協議会議長、全国重症心身障害日中活動支援協議会副会長
  • −開設10年のまとめ−
    汐田 まどか, 田邊 文子, 北原 佶, 小泉 浩二
    2016 年 41 巻 2 号 p. 187
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに  鳥取県立総合療育センターは、昭和30年に県立県営肢体不自由児入所施設として開設された。その後、ニーズの変化に伴い、外来部門と小児科診療、外来小集団療育、通園部門、地域療育連携支援室などを開始した。そして、平成18年に新しく重症心身障害児施設(25床)を併設した。小規模の重症心身障害児施設であり、当初から終身型の利用ではなく、地域生活移行・地域生活支援をめざして運営してきた。それから10年を経て、当初予想できなかった新たな課題も明らかになっている。一方、日本で最も人口の少ない(57万人)県の県立県営施設として、県や鳥取大学脳神経小児科等と密に連携協議し、それは施策にも反映されてきた。これらのとりくみと今後の課題について検討した。 入所の動向  平成24年度からは療養介護をもたない医療型障害児入所施設(入所定員61床;重症心身障害25、肢体不自由25、短期入所6、医療保険入院5)として運営している。契約入所は急速に減少し、現在は15名(うち肢体不自由児2名)でほとんどが重症心身障害児であり、入所児全体に占める超・準超重症児の割合は60%である。超重症児というだけでなく、健康状態が非常に不安定な症例が増え、呼吸不全、イレウス、急性膵炎などによる大学病院への転院治療が多くなった。大学病院の入院を年間95日要した例もあった。 退所児の動向  退所は19名(地域生活移行8名、他施設入所11例)であった。地域生活移行例と成人施設移行例では、重症度スコア、保護者の年齢、三次医療機関までの距離、入所までの在宅機関のすべてで有意差はなかった。在宅生活移行例では短期入所の利用が月に4日~23日と、月のうち半分以上を当センターで生活している例もあった。 短期入所(ショートステイ)  病棟利用患者におけるショートステイの占める割合が高く、契約入所15名に対し、1日平均5~8名程度のショートステイ利用がある。ショートステイ利用者の多くが超・準超重症児であるが、主治医が他医療機関の患者も多く、また家族の裁量でケアを調整している場合もあり、医療ケアの情報共有には細心の注意を要する。 県・大学病院・地域との協働  平成27年4月1日の県内の重症心身障害児(者)は361名で、18歳未満は114名(うち84%は自宅で生活)、18歳以上は247名(在宅と施設入所が半数ずつ)である(県調査)。県全体の重症心身障害児(者)関係医療機関会議が継続して開催されており、「重度障がい児者医療型ショートステイ整備等事業」「重度障がい児者地域移行促進・安心事業」など多くの県の事業が立案、実施された。 また、鳥取大学脳神経小児科が行っている「重症児の在宅支援を担う医師等養成事業(文部科学省課題解決型高度医療人材養成プログラム)」に当センターとして協力している。 地域との連携では、障害児のかかりつけ医を広げる目的で、医師会を通して地域医療機関にアンケートを実施、受け入れ可能な医療機関に紹介をしている。また、訪問看護ステーションへの聞き取り調査を実施、重症心身障害児の訪問看護の課題について整理した。 考察・まとめ  超重症児が急速に増加し、その多くが在宅生活をしている。入所児数は減少したが、入所に占める超重症児と、病棟利用におけるショートステイの割合がともに非常に高くなった。入所児の合併症治療に関して、大学病院など三次医療機関との連携が不可欠である。地域生活を日数の多いショートステイによって支援している状況であるが、超重症児は健康状態の見きわめが難しいこと、家族支援のスキルが求められること、診療報酬の見地からも負担が大きいことなど、ショートステイ特有の困難さがある。一方、療養介護が制度上どうなるか不明確な中、成人超重症患者の家族が高齢化して地域生活が困難になった場合、どのような形態の支援ができるか、模索しているところである。 略歴 1983年 島根医科大学卒業・鳥取大学脳神経小児科入局 鳥取大学、鳥取県立中央病院、国立療養所松江病院を経て 1989年 国立精神・神経センター心身医学研究部研究生 1993年 鳥取大学医学部脳神経小児科助手 1995年 鳥取県立総合療育センター医師 2007年 鳥取県立総合療育センター副院長 2010年 鳥取大学脳神経小児科臨床教授 2016年 鳥取県立総合療育センター院長 所属学会 日本小児科学会日本小児神経学会(B&D 誌編集委員)日本小児精神神経学会(理事)日本重症心身障害学会日本小児心身医学会 著書 臨床実践小児神経科 診断と治療社 平成28年(分担執筆)データで読み解く発達障害 中山書店 平成28年(分担執筆)など
  • 植村 豊
    2016 年 41 巻 2 号 p. 188
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    道では、現在、障がい児に対し、乳幼児期から成人期まで一貫した支援体制の整備を図ることで、障がい児(者)の福祉の向上を図るとともに、発達の遅れや障がいのある児童とその家族が、身近な地域において、適切な相談支援および療育を受けることができるよう、市町村等において、必要な支援を確保し、発達支援体制の充実・強化を図る「障がい児支援体制整備事業」を進めているが、その前身は、平成元年から実施している「障害児早期療育システム推進事業」にさかのぼることができる。その変遷と私見であるが、今後に向けた私の思いについて述べる。 1.障害児早期療育システム(1989(平成元)~2004(平成16)年度)  障がい児に対する早期療育の果たす役割については、早くからその重要性が認識されており、ある程度の充実が図られてきたが、本道の広域性や療育資源の偏在という問題があり、道内どこに住んでいても障がい児の発育過程において必要とされる保健、医療、福祉、教育などの療育サービスが総合的に提供される「システム」の構築が強く求められていた。  このため、67の第1次療育圏で母子通園センターを設置し、日常基本動作指導や保護者の療育相談を行うとともに、8の第2次療育圏で巡回療育相談などにより第1次療育圏を支援する機能を、全道域である第3次療育圏で高度な中核的機能を道立施設群が担う体制を整えた。 2.子ども発達支援事業(2005(平成17)~2012(平成24)年度)  平成元年度から行ってきたシステムの成果を検証したところ、障がいや発達に遅れのある子どもは増えており、孤立化する親の不安が増大していること、障がいが確定されない子ども、早期に発見されない自閉症などの発達障がいの子ども、環境や家族の関わり方などさまざまな原因により発達に遅れが生じている子どもなど、特別な支援を必要とする子どもと親への適切な対応が重要となっていること、などの課題が明らかになった。  このため、全道一律の支援体制から、地域の実態に応じた支援に転換し、本人や家族などへの支援実施の主体を市町村が担い、道はこれらの広域調整や職員研修などを行う体制へと再編成した。 3.障がい児等支援体制整備事業(2013(平成25)年度~)  乳幼児から成人期までの一貫した支援体制の整備を図るため、現在の体制となった。具体的には、道が運営する3カ所の発達障害者支援センターにより市町村や関係機関の体制整備を支援する発達障害者支援体制整備事業、市町村が医療機関に専門支援を依頼した際の助成や、道が高度・専門的支援実施者を派遣する専門支援事業、市町村職員、保健師等を対象とした研修事業、聴覚障がい児を支援する道立聾学校専門支援事業の4事業を実施している。  平成27年度の専門機能確保支援事業の支援実績であるが、医療機関に医師や作業療法士、理学療法士、言語聴覚士等の専門的支援を依頼した市町村が63市町村、道立施設であるコドモックルおよび旭川療育センター職員が市町村等への療育の手法等の助言・指導を67市町村に実施した。 4.今後に向けて  国においては、児童福祉法の改正により、平成30年4月から障がい児の福祉計画を策定することとされている。この計画において、障害児通所支援や入所施設の指定について、都道府県の定める区域における支援の量を定めることとされるので、今後も国の動向を見きわめる必要があるが、これに前後して平成29年までの第4期障がい福祉計画も改訂に向けて動き出すことになる。より良い支援体制の構築を図っていくために、これらの動きに呼応した検討が必要になる。 略歴 1984年北海道網走支庁社会福祉課採用、2014~2015年宗谷総合振興局地域政策部長、2016年4月~現職。
  • 太田 由美子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 189
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    北海道として各市町村の在宅重症児者の年齢別・医療的ケアの有無などの状況調査は平成22年度から毎年行われています。  この全国に先駆けた状況調査は道内市町村の重症児者への理解を広げ、これまで把握できていなかった児者への支援につながった事例もあります。  この状況調査からも、道内在宅重症児者の増と18歳未満の医療的ケアを要する準・超重症児が増え続けていることから、その在宅支援が急務となっています。  しかし、広域に点在し、少数でもある本人の存在は見えにくいことから、家族が抱え込んでしまう傾向にあり、本人の重症化と家族の負担に対応した医療・福祉・教育の連携による環境整備を最も必要としている人たちと言えます。 道内重症児者の在宅支援の現状と課題 ・広域に点在している→札幌市を除く全道178市町村で47が1名を把握 ・自治体の担当者が変わ等、数の把握から個々の実情への理解が進まない ・情報が家族にも自治体にも行きわたっていない⇒問題意識も薄い ・利用できるサービスなどが限られている ・本人の障害を理解し、支援につながる人材の不足 例:児童発達支援センターに通所しても、適切な療育を指導・行ってくれる専門職の不足  家族は遠方の療育センターに月に1回など予約して,父親も仕事を休み1日がかりで通院している。 本人の成長を促し、障害による不利益を最小限にとどめる療育環境を整えるために ⇒本人の障害特性や病症の理解、その適切な対応として療育を継続していけるシステムになっていない。 ・学齢以降は発達支援センター等による診察やPT、OT、STの療育が受けられないことも。 ・町内の病院でリハビリを受けることになるが、専門性に乏しい場合が多い。 成長期の重症児にとって適切な療育環境はその後の二次障害の予防に ・家族が我子の療育への理解を図り、日常生活に活かす適切な指導を受ける機会を継続して持てる支援センターや保健師の活躍。 ・家族は本人の療育を伝え、本人を理解して一緒に関わっていける人材を育てることで様々な資源の開発につながっている。 ⇒専門職が関わる時間は限られていること、その手法を学び本人の生活環境にどのように活かすかを教職員、通所スタッフ、ヘルパー等と共有できること ・家族同士が情報交換をできる集まり⇒孤立を防ぐ仲間との交流 身近な環境にある資源の活用 ・本人の病症の変化や成長に伴う関わりを相談できる。 →訪問看護や訪問リハビリ、訪問診療の普及 介護保険を対象としている訪問看護ステーションや訪問リハビリで障害児者の受入可能な人材育成 家族のレスパイトと本人の自立 ・地域の総合病院による短期入所の受入 ・福祉型短期入所の利用 ⇒本人を理解する看護師の派遣やヘルパーの利用 ⇒重症児支援施設の研修受け入れやIT遠隔指導 平成26年度北海道重症心身障害児(者)を守る会全道在宅実態調査より 回答人数:北海道内229名 札幌市内365名 ※その他,加筆事項  本人の希望は、道内、札幌市内共に楽しく暮したいが1番にあがっていました。  地域間格差では、主なる介助者に代わるものとして札幌市内はヘルパーが31%、同居家族の42%に次いでいましたが、道内は同居家族が56%、同居以外の家族20.5%、他にいないが20.5%でした。  また、訪問リハビリの利用が札幌市内42%、道内では10.4%、訪問看護の利用は共に18%でした。 略歴 生年月日 昭和27年4月15日 学歴 昭和46年 北海道北見柏陽高等学校卒業 昭和47年 北海道札幌女子教員養成所中退 昭和52年結婚 長男38歳(重症心身障がい者)他、次男、長女 社会活動 平成6年 長男の高等部卒業後の通所先を求めて全国重症心身障害児(者)を守る会に入会 平成8年 長男の同級生4人の母親と札幌市内に地域共同作業所を設立     平成8年 北海道重症心身障害児(者)を守る会 理事 (全国守る会北海道支部・北海道ブロックとして創立) 平成13年 北海道重症心身障害児(者)を守る会 副会長・在宅部会長 平成25年 北海道重症心身障害児(者)を守る会 会長 平成25年 全国重症心身障害児(者)を守る会 運動推進委員
シンポジウム2:重症心身障害児の在宅支援のあり方 −支援内容−
  • 林 時仲
    2016 年 41 巻 2 号 p. 191
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    在宅で療養する重症心身障害児者(以下、重症児者)と重症児ではないが医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」が増加している。特に遠隔過疎地においては、彼らが利用できる社会資源が少なく支える仕組みも十分に機能していないために、彼らとその家族は多くの問題を抱えながら生活している。ここでは遠隔過疎地域の療育を担う当園における在宅支援とその課題、解決へ向けた取り組みについて報告する。 1.直接的支援 在宅重症児者と家族に対し、目に見える形での以下の医療、福祉サービスを提供している。1)短期入所、2)通所支援、3)訪問リハビリ、4)訪問看護、5)日常生活補助具や姿勢保持具の製作と提供、6)相談支援、7)巡回療育相談、8)外来療育等指導事業、9)テレビ電話相談、10)小児慢性特定疾病相談室など。小児慢性特定疾病相談室は平成27年1月より旭川市から小児慢性特定疾病童等自立支援事業の委託を受けて開始した。小児慢性特定疾病児童(重症児や医療的ケア児が重複する)を対象に自立支援員(コーディネーター)による相談支援やソーシャルワークが行われ、医療と福祉の橋渡しにもなっている。 2.間接的支援 1)既存の医療機関や福祉サービス事業所に対し、重症児者や医療的ケア児が利用できる「受け皿」になってもらうために(資源の再資源化)、以下の事業に取り組んでいる。職員研修(実習見学会、交換研修等)、当園職員を派遣する研修等(出前研修、保育所等訪問支援事業、障害者医療的ケア支援事業、子ども発達支援事業「専門支援事業」など)、テレビ電話による遠隔支援など。2)自立支援協議会や重症児者地域生活推進協議会などの協議会活動を通して課題解決や相談支援等を実施している。協議会では周辺自治体に対し協議会設置の支援も行っている。3)将来の仲間の確保をねらって医学生など医療系・福祉系大学や専門学校の学生実習を受入れている。4)地域住民や首長に重症児者に対する理解がなければ在宅支援が進まないことから、重症児者を理解してもらうための啓蒙活動も重要な取り組みと考え実施している。 課題と解決策 1)特に北海道においては、地域の在宅重症児者が利用できるよう医療機関の医療型短期入所事業への参入が求められる。これには自治体による福祉サービス料と医業収益との差額補償や空床補償、国による報酬単価引き上げ等の対策が必要と考える。2)われわれ重症児者施設に在宅支援の充実へ向けた実行力が不足している。多くの要望があるにもかかわらず、当園では重症児者外来や訪問診療を始められておらず、短期入所や通園事業枠も長年増やすことが出来ていない。3)厚労省はモデル事業等により標準的な療育を学ぶための研修テキストを整備したが、研修を担う人材が不足している。これには協会認定重症心身障害看護師の活躍が期待される。4)協議会の運営や研修活動が継続した活動となるためにはこれを国や自治体の事業とし、財政基盤を確保する必要がある。国は、人材育成や市町村・広域のバックアップ、スーパーバイズ機能を持たせた地域の中核となる支援センターを設置して支援体制の構築を進める都道府県等に補助を行っている(重症心身障害児者支援体制整備モデル事業)。5)在宅重症児者の傍で生涯にわたる支援を継続して考えてくれる相談支援専門員の地位向上と、「つなぎ先」すなわち「受け皿」の充足が喫緊の課題と考える。 略歴 平成2年(1990年)旭川医科大学卒業、同年旭川医科大学小児科学教室入局。関連病院で研修後、平成7年(1995年)大阪府立母子保健総合医療センター新生児科で勤務ののち、平成9(1997年)旭川医科大学病院周産母子センターに戻り新生児医療に従事。平成23年(2011年)北海道療育園副園長、平成27年(2015年)同園長。
  • 土畠 智幸
    2016 年 41 巻 2 号 p. 192
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    医療法人稲生会 生涯医療クリニックさっぽろでは現在、札幌圏域において約140名に対して訪問診療を行っている。約9割が在宅人工呼吸器患者であり、全体のおよそ3分の1が重症心身障害児者である。大学病院やこども病院等からの依頼を受け、人工呼吸器装着患者の在宅移行支援を行うほか、慢性呼吸障害の疑いのある患者に対する呼吸機能評価および人工呼吸器導入を行っている。訪問診療では、呼吸管理のみならず全身管理やケアマネジメントの他、療育・教育機関との連携、兄弟姉妹を含めた家族支援を行っている。感染罹患などによる急性増悪については、24時間の電話対応を行うほか、臨時の往診にて血液検査、抗生剤静注、点滴治療を行っている。平時より急性期総合病院の小児科・内科と連携をとり、必要に応じて急性増悪時の入院加療を依頼しており、入院先に出向いて退院支援を行うこともある。近年では、在宅看取りの希望も増加しており、家族が希望する形での緩和ケア、ターミナルケア、在宅看取りを行っている。NICU退院後の重症児については、訪問診療の他、法人内の訪問看護・居宅介護・医療型特定短期入所(日中のみ預かり)により包括的な在宅支援を行っている。その他、法人開設時より患者・家族・地域住民を対象として生涯学習の場を提供する「手稲みらいつくり学校」の活動も行っている。  2014年8月より、北海道各地に出向いて地域の医療・福祉・教育機関との連携を行う「たねまきプロジェクト」を法人の独自事業として開始、2015年11月には地域医療介護総合確保基金を活用した「北海道小児等在宅医療連携拠点事業YeLL(いぇーる)」となり、①小児等在宅医療協議会の開催、②地域の社会資源の情報収集と発信、③仲間となってくれる医療機関を増やす活動、④福祉・行政・教育関係者との連携、⑤患者・家族の相談窓口、⑥北海道民の理解促進、という6つの事業を行っている。2015,16年度においては、北海道内の拠点都市を訪問して地域の拠点病院スタッフとの情報交換を行うほか、行政・教育関係者との情報交換会を開催しており、そこから新たな患者・家族支援につながることも多い。遠隔地の患者については、年1-2回患家を訪問し、呼吸機能評価および人工呼吸器の導入・調整を行っている。  人工呼吸器を必要とするような重症心身障害児者の在宅支援における課題としては第一に、レスパイトの問題がある。身体的・精神的な負担の大きい介護者に休息の時間を提供することが必要であるが、受け皿となる短期入所施設は十分であるとは言えず、地方ではそれが顕著である。学校についても親が付き添いを求められることが多く、放課後デイサービスについても医療的ケアのある児を受け入れることができる事業所はごくわずかである。第二に、トランジションの問題がある。主治医が小児科から成人診療科に移行することが難しいことは以前から指摘されているが、急性増悪時の入院先を確保することが困難な場合もある。また、介護者の高齢化により在宅生活の継続が困難になった場合、施設入所以外に地域生活の選択肢がないということも課題と考えられる。第三に、ターミナルケアの問題がある。気管切開、胃瘻、人工呼吸器の導入など、医療者や家族によっても考え方が異なるが、それについて相談することが難しい場合もある。最後に、訪問診療の問題である。訪問診療を実施する小児科医は全国的にも非常に少なく、成人の訪問診療医でも重症心身障害者を受け入れてくれる施設は多くない。また、どのような状態であれば訪問診療を行うことが望ましいかの基準もない。  当法人での関わりから、重症心身障害児者の在宅支援のあり方、支援内容、課題について述べる。 略歴 2003年北海道大学医学部卒、医療法人渓仁会手稲渓仁会病院小児科に入職。2008年、同院内に小児の人工呼吸器管理を行う小児NIVセンターを開設、2013年11月には医療法人稲生会を開設し、在宅療養支援診療所である生涯医療クリニックさっぽろの他、訪問看護・居宅介護・短期入所事業を行っている。2015年11月からは、地域医療介護総合確保基金による北海道小児等在宅医療連携拠点事業を受託している。公務として、日本小児科学会「将来の小児科医を考える委員会」委員、北海道小児科医会常任理事(在宅医療部長)、日本医療機能評価機構病院機能評価サーベイヤーおよび教育研修委員、北海道重症心身障害医療研究会世話人を務める。
  • 齋藤 大地
    2016 年 41 巻 2 号 p. 193
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    筆者は現在、在住の北海道旭川市にて小児専門の訪問看護ステーションを経営し、事業として、またリハビリテーション(以下、リハ)専門職として、在宅支援の仕事に携わる機会を得ている。元々理学療法士としては、平成7年に北海道立の肢体不自由児施設に入職して、特徴的な医療過疎や広域性と言った問題を抱えた北海道で、未熟ながらも施設勤務や地域への出張業務に従事させていただいていた。今から20年ほど前の状況は、肢体不自由中心だった施設利用者や外来患者の方に、年々低出生体重、重度重複、内部障害の割合が増えていっていたのを思い出す。  その後平成18年は分岐点ともいえる動きを感じた。4月には、健康保険での診療報酬改訂があり、結果障害児(者)リハは減算改訂となり、自分達の従事する療育分野における、全国規模での人件費削減、職員定数減を予想した。10月には自立支援法が完全施行され、保護から自立に向けた支援と言うことで当事者への費用負担が求められた。さらに厚生労働省からは医療・福祉グランドデザインが示され、「施設サービスについては、通所施設の整備に努めるとともに、入所施設は真に必要なものに限定し、地域資源として有効に活用する。」とされた。当時は「早期・長期療育」が叫ばれ対象者は増えていく傾向にあったが、受け皿である施設は減ることはあっても増えることはないという矛盾が生じていた。さらに、リハを含む医療全体にはEBMに即した費用対効果が叫ばれ、全国規模で医療、福祉施設および事業の民間委託が進められていた。  実際の現場でも、リハ専門職の職員定数が増えることは望めず、結果的に頻度を下げて対応せざるを得なかった。予約は恒常的に一杯で、乳幼児の療育開始が遅れたり、重症の方が予約診療日に体調が合わずキャンセルが続いたりしていた。拠点施設に設備や知識、技能を集めて提供するシステムが、対象者全体の病態像や生活モデルとずれてきていると感じていた。社会の中での療育サービスを考えると、労働力の不足、財政的な基盤の脆弱さおよび需要と供給が市場化されておらずミスマッチが生じている等の、マクロ的な問題も抱えていた。  一人のセラピストとしては非力ながら、少しずつでも変化を起こせないかと思い、療育業務の経験を持つ理学療法士による社会実験的な意味も込めて、平成20年5月からはこぶねの訪問看護事業開始に至った。  以来8年間の運営と実務の中で考えていたことは、・実際の小児の訪問リハは、施設で行っていた内容をそのまま利用者宅で単純に行うには、いろいろと無理や不適合が生じやすい。施設、在宅それぞれに適した要素を分析し、目的に即したものとして補完し合う、別の方法論が必要ではないか。・訪問リハのサービスはそれ単体では存在も完結もしない。主治医、定期診察、緊急時の対応などの医療機関、長期経過をフォローする療育機関および教育機関、生活支援としてのレスパイト、通所・通園サービス、ヘルパー、移送業者、福祉用具や装備面の業者等が相互に協働することで、ご本人、家族を軸にした生活という大きな車輪を回すことができる。・その中で一枚の歯車としての訪問リハとは、どのような専門性なのであろうか。それは、病院や施設という特殊な場で専門職が行う、より高いパフォーマンスに到達するリハとは性質が異なるのではないか。また、日常に入って専門性を発揮することにより、現状把握や体調支援に優れる。・在宅を仕事の場として、多くの生活情報の中で業務を行うことは、リハ専門職として非常にメリットがある。一方、個人や家族の情報に多く触れるが、プライバシーや生活に不利益があってはならないと言うことについて、注意深く考え行動する必要がある。  今回機会を頂き、これまで地域で行ってきた小児、重症児(者)への訪問リハを整理し、課題を考えていけたらと思う。 略歴 昭和45年北海道幕別町に生まれ、稚内市、旭川市で育つ。札幌医科大学衛生短期大学部理学療法学科を平成7年に卒業し、北海道立旭川肢体不自由児療育センターに入職。北海道北部、東部在住の肢体不自由児の療育に従事し12年勤務。平成19年に同施設を退職後、地元の民間法人訪問看護ステーションに就職し、小児の訪問リハビリ業務を行う。翌年退職し、株式会社はこぶねを設立、訪問看護ステーションはこぶねとして事業指定を受け、小児を対象とした訪問看護・リハビリテーション業務にて事業を開始。平成21年~重症心身障害理学療法研究会地域幹事、平成22年~小児系在宅理学療法研究会(PAPA;Pediatric At-home Physical therapy Association)を起ち上げる。平成26年~小児理学療法分科学会運営幹事。
  • −作業療法士の立場から−
    金田 実
    2016 年 41 巻 2 号 p. 194
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    私が33年間、北海道立の肢体不自由児療育施設の作業療法士として、外来や地域支援(北海道全域の地域における子どもの療育施設への指導)において、様々な障害をもつ子どもたちと関わって来ました。1990年代以降、周産期医療の進歩により中枢性障害を持った子供たちの生存率は非常に高くなり、以前なら死亡していた子どもたちが生きていける時代になっていきました。しかしその反面、重症心身障害児が多く見受けられるようになってきたのも事実でした。  2000年頃前後の多くの重症心身障害児は、重症心身障害者施設入所移行を前提に家庭でケアされながら、肢体不自由児施設や地域の基幹病院への短期間の入所を繰り返して成人施設への入所を待つというのが北海道における現状だったと思います。しかし、最近では、子どもに対する胃瘻や気管切開を施すことで生命維持を図ることが普通になり、数多くの重症心身障害児に医療ケアが必要となってきていて、病院だけでは抱えきれず、家庭で家族が医療ケアを行いながら重症心身障害児をケアしていくことが中心になってきています。この子供たちが在宅での医療ケアを含めた療育を実現するためには、もちろん必要な時にすぐ医療が受けられることが最も重要ですが、その子自身の子どもとしての心身の発達(教育も含めて)を保証することや、家庭の環境整備(家屋改造も含めて)や家族を孤立させないマネージメントを行えるかどうかが重要であると痛感しています。作業療法士としては、重症心身障害児に対しては心身の状態への必要な発達的評価を実施した上で、ポジショニングを含めた姿勢管理を行った上で、子ども自身が人として楽しんで生きることが可能なように手指機能と知的レベルに合った遊び方やスイッチ操作の指導を行うことが現時点での中心的役割となっていますが、実際に上手く在宅支援が行えるためには数々の課題があることを実感しています。  <例として>・家族が障害を持った子供の日常の関わり方を理解・実践可能かどうか?・家族&母親(保護者)だけが孤立していないかどうか?・緊急時の医療ケアを含めての医療・医師との連携が確立しているか?・地域の訪問看護&リハおよび医療系機械業者サービスを受ける状態にあるのか?・地域の保健師や福祉・行政サービス等の利用理解が出来ているのか?・関係機関(教育機関をふくめて)の連携が取れて入るのか?  これらの課題について、OTの立場より具体的に報告したいと思います。 略歴 昭和57年3月 国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院作業療法学科卒業 昭和57年7月 北海道立札幌肢体不自由児総合療育センターに作業療法士として就職 平成5年4月 同上 機能訓練課 作業療法係長 平成15年4月 北海道立旭川肢体不自由児総合療育センター 訓練課長 平成25年4月 北海道立子ども総合医療・療育センター(コドモックル)リハビリーション課長 平成28年3月 北海道立子ども総合医療・療育センター 定年退職 平成28年4月から現在まで 済生会西小樽病院 作業療法士(非常勤 月1回) 平成28年7月から現在まで 社会福祉法人 楡の会 子どもクリニック 作業療法士(非常勤 週4回) 現在に至る
ランチョンセミナー1
  • 徳光 亜矢
    2016 年 41 巻 2 号 p. 195
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    経腸栄養剤(医薬品型経腸栄養剤と食品型濃厚流動食をあわせて経腸栄養剤とする)は、現在100種類以上の製剤が市販されている。これら多種多様な製剤を患者の状態に合わせて適切に選択するのは、簡単ではない。また、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の場合、摂取カロリーが少ない、寝たきりである、発汗や流涎が多い、褥瘡を作りやすい、などの特徴に配慮した製剤の選択を行わなければならない。  本セミナーでは、北海道療育園で使用経験のある経腸栄養剤の特徴と、製剤の選択の理由について述べる。 1.北海道療育園における経腸栄養剤の基本的な選択基準  2016年4月現在、当園で経腸栄養を施行している入所者は117人である。使用している製剤は16種類で、炎症性腸疾患および消化管機能不全の利用者がエレンタール®を使用しているが、他の15種類はすべて食品型の製剤である。医薬品型の製剤はヨウ素を含有していないか、含有量が少ないため、基本的には食品型の製剤を選択している。便秘がちの利用者には食物繊維の投与量が多すぎないように配慮し、下痢が持続している利用者には食物繊維含有量の多い製剤を選択する。投与カロリーが少ない利用者には、1日あたり800kcalの摂取で栄養素が充足できる製剤を用いる。ダンピング症候群がみられる利用者には、糖の吸収が緩やかな糖尿病用の製剤を選択する。低アルブミン血症を合併している利用者には、分岐鎖アミノ酸が多く配合されている肝不全用の製剤や、窒素源がペプチドであるため腸管からの吸収効率のよい消化態栄養剤を用いる。 2.北海道療育園で使用頻度の高い製剤の特徴 1)CZ-Hi ®1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり1000kcalを標準的な摂取量として設計されている。「特別用途食品 病者用食品」の特別栄養食品として唯一国の認可を得ている製剤であり、「食事として摂取すべき栄養素をバランスよく配合した総合栄養食品」と謳われている。食物繊維を100kcalあたり2.4g含有している。  栄養素のバランスがいいので、1日あたりおおむね900kcal以上のカロリーを投与している入所者にはCZ-Hi®を選択することが多い。ただし食物繊維の含有量が多いため、便秘になりやすい人では便秘が増悪しイレウスになることもあるので注意する。 2)YHフローレ®  1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり1000kcalを標準的な摂取量として設計されている。窒素源に乳酸菌発酵成分が使用されており、たんぱく質が乳酸菌によってある程度分解されているため、消化・吸収されやすいことが特徴である。また、消化管の蠕動運動を促進する作用のある有機酸・短鎖脂肪酸が含有されている他、ビフィズス菌増殖因子、ガラクトオリゴ糖が配合されている。食物繊維の含有量は100kcalあたり1.8gである。  胃排出遅延や腸管吸収不全、便秘、イレウスなど、消化管の合併症が多い重症児(者)に対し、消化・吸収がよく腸内環境にも配慮されたYHフローレ®は使いやすい。当園ではイレウスを反復したり重度の便秘がある入所者に第一選択肢とすることが多い。 3)ハイネ®  1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり800kcalの摂取で、成人に必要な栄養素が摂取できるように設計されている。ハイネ®の食物繊維含有量は100kcalあたり1.2gであり、そのうちすぐれた生理効果をもつグアーガム分解物を1.0g配合している。  当園では一日投与カロリーが800kcalを下回り便秘の合併がある場合には本製剤をまず試してみることが多い。 4)プロナ®  1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、ハイネ®同様1日あたり800kcalの摂取で栄養素が充足できる。本製剤の一番の特徴は、たんぱく質とナトリウムの含有量が多いことである。さらにカルニチンが配合されている。食物繊維含有量は100kcalあたり1.5gである。  重症児(者)は唾液や胃液、発汗、下痢便などからのナトリウムの喪失が多い。従来の製剤で低ナトリウム血症を来す場合には、本製剤への変更を試みている。 5)他の製剤  当日は他の製剤についても若干述べる予定である。 略歴 1993年 旭川医科大学医学部卒業 1993年 旭川医科大学付属病院小児科入局 以降、深川市立病院、社会福祉法人北海道社会事業協会 富良野病院を経て 1997年 北海道療育園 2015年 北海道療育園 診療部長 現在に至る
ランチョンセミナー2
  • −呼吸器モードはわかりずらい?−
    山谷 和雄
    2016 年 41 巻 2 号 p. 196
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者(以下、重心)の医療的ケアの一つである人工呼吸管理は、治療の手段はもちろんであるがQOLの向上には必要不可欠になってきている。人工呼吸器の目的は、低酸素血症の是正、高二酸化炭素血症の是正、さらに呼吸仕事量の軽減にある。重心における呼吸障害の要因は、大きく4つに分けられる。1つは、誤嚥・分泌物貯留による感染や無気肺等による呼吸不全。2つ目は、筋緊張の亢進や低下、喉頭軟化や気管・気管支の狭窄・軟化等による閉塞性の換気障害。3つ目は、脊椎側彎や胸郭扁平化などによる変形拘縮や、呼吸関連筋の活動異常による拘束性の換気障害。4つ目は、中枢性の低換気である。重心においては、換気障害の是正と呼吸仕事量の軽減が主たる目的であると思われる。しかしながら、人工呼吸器の発展に伴い、呼吸器関連用語が増え、さらには機種による表現の違いから呼吸器モードが複雑化しているのも事実である。現在、在宅を含め、非侵襲的陽圧換気法(NPPV)が盛んに施行されてきているが、人工呼吸器の歴史を紐解くと、1970年代にはすでに行われていた。また、陽陰圧式呼吸器の元祖は1838年に初めてfull-bodyの陰圧式呼吸器が出現したことに始まる。1950年代のポリオの流行で、いわゆる「鉄の肺」が呼吸管理に大活躍をしたが、その後、気管挿管や気管切開による陽圧式換気法、いわゆる侵襲的呼吸管理(IPPV)が生存率を上げるということで主流となった。IPPVは、当初volume controlでpatient triggerではなくmachine triggerであり、I/E比は1:2に固定され、モニターは一切無かった。しかし、1970年代初めにはアラーム機能が付き、1973年にintermittent mandatory ventilation(IMV)が導入され、その後、自発呼吸にsynchronizeするSIMVに変わった。さらに、pressure supportやpressure controlが導入された。これは、それまでの人工呼吸器からの離脱方法として、SIMVの回数を減らして、さあ頑張れと尻を叩くがごとくに呼吸仕事量を増やして自発呼吸を促していた時期から、呼吸仕事量を減らして離脱を容易にする方法へと切りかえらせた。今では、assist/control(A/C)、pressure support ventilation(PSV)に似たproportional assist ventilation(PAV)、airway pressure release ventilation(APRV)、biphasic positive airway pressure(BIPAP)など、多くのモードがある。さらに、目標とする一回換気量を得るために吸気圧を自動で調節する方式があるが、pressure regulated volume control(PRVC)、volume assured pressure support(VAPS)、average volume asured pressure support(AVAPS)、volume support ventilation(VSV)、target volume(TgV)など人工呼吸器の機種により表現が異なるために混乱も招く。今回の講演では、日常よく用いられる呼吸器モードについて解説し、人工呼吸器の理解の一助になることを願っている。 略歴 1981年札幌医科大学医学部卒業、麻酔科学講座入局 1982年10月~1983年9月 帯広厚生病院麻酔科 1984年4月~1985年3月 旭川赤十字病院麻酔科 1986年8月~1988年3月 道立小児総合保健センター(現:北海道立子ども総合医療・療育センター) 1988年4月~1989年12月 室蘭日鋼記念病院 1990年4月~1993年3月 札幌医大病院救急集中治療部 1993年4月~2007年3月 札幌鉄道病院麻酔科(緩和ケアチーム兼任)(現:JR札幌病院麻酔科) 2007年4月~ 医療福祉センター札幌あゆみの園
ランチョンセミナー3
  • 髙山 留美子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 197
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    Kwanらによるてんかん発作予後研究では、63%が発作抑制され、37%で発作は続いていた。1剤目で発作抑制に至る割合は47%、2剤目は13%、3剤目あるいは複数の薬剤では4%と報告している(N Engl J Med 2000)。したがって1剤目で発作抑制が得られない時、以後の抗てんかん薬の有効性は低くなる。Erikssonらによるてんかん分類と発作予後研究では、症候性局在関連てんかん、West症候群、Lennox-Gastaut症候群で発作抑制に至らない比率が高いと報告している(Epilepsia 1997)。またWest症候群、Dravet症候群、Lennox-Gastaut症候群等のてんかん症候群においては、難治てんかんのみならず、認知・行動障害に関して、てんかん性活動そのものが重症な障害を引き起こし、継時的に悪化する状態であるてんかん性脳症を引き起こす。てんかん発作が続くことによる発達、認知、心理、精神、社会的な影響を考慮し早期に発作抑制をえたい一方、抗てんかん薬による副作用もあり、適切なてんかん治療が求められる。2006年ガバペンチン、2007年トピラマート、2008年ラモトリギン、2010年レベチラセタムと新規抗てんかん薬が相次いで本邦に導入された。その後オーファンドラッグとして2012年Dravet症候群に対しスチリペントール、2013年Lennox-Gastaut症候群に対しルフィナミドが発売された。そして本年は、新規の作用機序(AMPA型グルタミン酸受容体に対する選択的な非競合的拮抗作用)を有するぺランパネルが発売された。これらの新規抗てんかん薬はそれ以前の抗てんかん薬にはない作用機序もあり、それぞれに有効なてんかん診断、発作型があり、またそれぞれに特徴的な副作用も認められる。どの発作型に、どのタイミングでどの新規抗てんかん薬を選択していくべきかの使い分けと使いこなしが重要となってくる。本セミナーでは、Lennox-Gastaut症候群に対するルフィナミドの使用経験を中心に、新規抗てんかん薬の使い分けと使いこなしについて説明する。 略歴 氏名: 髙山 留美子(たかやま るみこ) 年齢: 44歳 学歴: 平成9年 札幌医科大学医学部医学科卒業 平成18年 札幌医科大学大学院医学研究科卒業 職歴: 平成9年4月~10年3月 札幌医科大学医学部付属病院  平成10年4月~13年3月 市立釧路総合病院    平成13年4月~14年3月 総合病院浦河赤十字病院  平成14年4月~15年3月 国立療養所八雲病院  平成15年4月~18年3月 札幌医科大学付属病院  平成18年4月~20年9月 青森県立中央病院 平成20年10月~25年3月 NHO静岡てんかん・神経医療センター 平成25年4月~ 北海道立子ども総合医療・療育センター  資格:日本小児科学会専門医、小児科神経学会専門医、てんかん専門医
ランチョンセミナー4
  • 葭田 美知子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 198
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重度障害者(児)への支援は、平成25年4月より「障害者自立支援法」が「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律「障害者総合支援法」と改正されました。  特に日常生活・社会生活の支援が、共生社会を実現するため、社会参加の機会の確保及び地域社会における共生、社会的障壁の除去に資するよう、総合的かつ計画的に行われることを法律の基本理念として新たに掲げています。 障害者(児)に対する支援について ①重度訪問介護の対象拡大②共同生活介護(ケアホーム)の共同生活援助(グループホーム)への一元化③地域移行支援の対象拡大④地域生活支援事業の追加(障害者に対する理解を深めるための研修や啓発を行う事業、意思疎通支援を行う者を養成する事業等)  市町村での検討が開始されています。しかし、在宅ケアの担い手は家族(以下主介護者という)であり24時間365日継続するには大きく心身への負担がかかってきます。そのために支援にあたる専門家の協力支援体制整備が不可欠です。また在宅生活をするには、保健・福祉、医療が確保でき日々の生活では「食事・排泄・清潔」の三大介護を保証されなければなりません。そこで今回は、特に排泄について焦点をあてお話をさせていただきます。 略歴 看護師 神奈川県 関東労災高等看護学校卒 栃木県がん検診センター勤務 獨協医科大学病院勤務 訪問看護開始 JA上都賀総合病院勤務 副看護部長 JA上都賀老人保健施設かみつが副施設長 NPO法人メイアイヘルプユー理事 (研究・その他活動)   栃木県福祉第三者評価検討委員   がんばらない介護生活委員   コンサルテーション事業:高齢者福祉施設、訪問介護事業所、知的障害者施設 (著書)   家庭介護(主婦の友社)   写真と動画で見るトランスファースキル (学研 月刊ナーシング)   NHK介護の達人出演(介護の達人アドバイザー)   高齢施設における転倒事故は減らせる(雲母書房) (研究)   「高齢者施設における転倒による大腿部頸部骨折に関する調査研究」   厚生労働省老人保健事業推進補助事業
ファッションショー
  • 多屋 淑子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 199
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    衣服は私たちの生活には必要不可欠であり、QOL向上を支援するための重要な要因の一つである。衣服の着用は身体だけではなく心にも影響を及ぼすことから、特に、重度の寝たきりの障害者の衣服の選定は、衣服が長時間にわたり直接身体に接触することもあり、細心の注意を払う必要がある。このような視点から、障害者と介護者のQOL向上を目指し、日本重症心身障害学会学術集会において、ファッションショー形式で衣服の提案を行ってきた。  第42回日本重症心身障害学会学術集会では、社会福祉法人北翔会医療福祉センター札幌あゆみの園とともに、11回目のファッションショーを実施する。モデルは、ファッションショーに参加することを楽しみにし、ご家族の承諾を得ることのできた22歳・37歳・47歳の女性3名である。症状は、湾曲肢異形成症・小人症・気管支軟化症・脊椎後弯・難聴、てんかん・精神遅滞・先天性失語症・脳性麻痺、脳性麻痺・痙直型四肢麻痺である。  衣服製作に先立ち、あゆみの園を訪問してモデルや施設職員にヒアリングを行い、生活状況や身体的な特徴を把握した。障害者と介護者のQOL向上の支援を目指した衣服提案に際しては、衣服が身体を圧迫することなく身体に適合すること、温熱的に快適であること、着心地の良さが持続すること、衣服の着脱時に身体に負荷をかけずに無理なく更衣ができること、洗濯等の取扱いが容易であること等を考慮し、それらの要件を満足する素材を開発した。衣服には着用者の心を豊かにする機能もあることから、「このような衣服を着てみたい」というモデルの想いを表現することにも配慮した。日本重症心身障害学会学術集会で提案する衣服は、障害者から健常者に至るまで、誰にでも共用で着用できることを特長としている。 略歴 最終学歴:1977年お茶の水女子大学大学院家政学研究科修了、博士(生活工学) 職歴:日本大学専任講師、田中千代学園短期大学助教授を経て、1996年より日本女子大学教授 賞罰:1996年日本繊維機械学会学会賞受賞 その他の公的活動:日本重症心身障害学会評議員、日本学術会議連携会員、国立研究開発法人審議会委員、経済産業省独立行政法人評価委員会委員等 研究:地上から宇宙に至るさまざまな生活環境に生きる人を対象とした生活支援研究
一般演題
  • 糸田 富得, 稗田 直美, 田中 真吾
    2016 年 41 巻 2 号 p. 200
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児の介護負担となっているものに入浴介助がある。障害児の日常生活用具の給付事業として入用補助具の申請も可能であるが、耐用年数が8年間となっており、成長期にある児への用具申請は現実的ではなかった。そこで、介助者の負担を軽減するために乳幼児の椅子として市販されているバウンサーを入浴介助用具(以下、改良型バウンサー)に改良し、その有用性について検討した。なお本報告に関しては、家族の同意を得ている。 方法 平成27年1月〜3月の間、改良型バウンサー使用前後で母親、訪問看護師7名に身体的負担、安全性、児の機嫌についてアンケート調査を行い、評価した。 児の紹介:3歳 男児 先天性皮膚洞、水頭症VIPシャント術後 製作方法:1.購入時のシートを剥がし、布の滑りを防止するために、滑り止めテープを巻く 2.張り布は洗濯、乾燥がしやすいようにポリエステル布を選択 3.確実に体重を支持し、着脱が簡単にできるように頭部、胸部、骨盤帯、大腿部の4分割で布を装着 4.身体形態に合わせて布の張りを調整できるようにマジックテープで固定。 結果 アンケートではすべての項目で改善がみられた。 考察 改良型バウンサーを使用することで、介助者の身体的負担は軽減した。また浴槽内に落下させる危険性がなくなり、すべての介助者で安全に入浴介助を行うことができるようになった。児は自由に頸部や手足を動かせるようになったため、過緊張による疲労や不安から解放され、入浴時の機嫌がよくなった。成長発達段階に応じた福祉用具の選択はセラピストの重要な役割である。今回使用した改良型バウンサーは入浴時の介護負担軽減だけでなく、遊びや外出先でも活用でき、児と家族の活動範囲を広げQOLを向上させることができた。 おわりに 成長発達段階に応じた福祉用具を選択し、家族の生活のサポートは訪問セラピストの重要な役割である。
  • −ケースを通しての考察−
    直井 寿徳
    2016 年 41 巻 2 号 p. 200
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに スマイル訪問看護ステーションは東京都足立区で15年間、小児を中心に在宅支援を行っている。支援の基本は、家でその子とその家族が楽に楽しく過ごせるようになることであり主役はその子とその家族である。訪問が開始される際にはどういった目的で利用したいかを聴取している。しかし訪問リハでは「緊張が強くて困っている」「変形、拘縮にならないようにしたい」というような要望がほとんどであり生活上で「これが困っている」「こうなって欲しい」というような要望はほとんど聞かれない。今回、訪問リハを開始する際の目標設定に対しての問題と考察をケースの経験を通してお伝えしたい。 症例 高等部を卒業し、地域の生活介護型の通所や家での生活が落ち着き、家でも困っていることはないと聴取された。そのため練習を終了しましょうと伝えると「赤ちゃんのときから受けていた訓練が無くなると不安である」と言われる。通所と連携をとり通所内でやれることを確認し、訪問の頻度を下げていった。本人、家族ができる、生活がしにくくならないことを確認してもらい練習終了とした。 考えなくてはいけないこと 上記の例からいくつかの問題が示唆される。それは「困っていることがない」のに練習をすること、「練習がなくなると不安である」ということ、「通所での関わり」についてなどである。 考察 目標の設定は本人、家族から出された方が本当に解決しなくてはならないことが出やすい。そしてより具体的な目標であればあるほど日々やることがはっきりとしてくる。そのため結果もはっきりとし、モチベーションも保ち続けられやすいように感じる。本人、家族が終了を含めた「こうしたい」「こうなりたい」という選択ができるようになるには関わるスタッフが乳幼児期からその子とその家族に、時期に合わせた対応をしていくことが大事であると考えている。
  • 箱石 文恵, 諌山 徹太郎, 永田 映子, 宍倉 啓子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 201
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 医療度の高い障害児者は訪問診療・看護を利用しながら、家族の献身的なケアによって在宅生活を維持している。自宅以外で過ごす場が家族のレスパイトとなり、在宅生活を継続するための大きな役割を持つと考える。今回、在宅呼吸器を使用する3例につき検討し、郷の役割を明確にしたい。 症例 症例1:7歳男児、キアリ奇形、二分脊椎、気管切開、夜間呼吸器、経鼻経管栄養、7回/日導尿。呼吸抑制のため5歳まで入院生活だった。退院カンファで吸引が頻回であり母の負担は大きく、毎日訪問看護を導入し在宅生活を開始した。郷の利用は母付き添いで週1回の日中一時を6カ月間続けた後、看護師添乗で送迎し単独利用となった。現在、特別支援学校の通学籍で母が付添っているが、学校での成長は目覚しい。 症例2:3歳女児、ネマリンミオパチー、気管切開、呼吸器、カフアシスト®、胃瘻、浣腸。通院以外に外に出る機会が少なく、情緒的な成長のため母子ともに外に出る場を求めており、訪問看護からの紹介で日中一時利用を始めた。母付き添いで週1回の利用を6カ月間続けた後、看護師添乗にて送迎対応し単独利用となった。 症例3:3歳男児、メビウス症候群 気管切開、呼吸器、経鼻経管栄養。父が夜勤の勤務へ転職し、母は金融関係の時短勤務の常勤。1歳11カ月で母の職場復帰のため郷への申し込みがあり、家族の付添いは3回/ 4週間で単独利用となった。郷は2日/週の単独利用をしており、当施設以外に地域活動ホームを2カ所利用。数カ月に1回はメディカルショートや重症児者施設の短期入所も利用している。 結果・考察 呼吸器をしている超重症児の預かりの場は、医療的ケアを引き継ぐだけではなく、本人の表現やしぐさ様子等を丁寧に聞き取る必要がある。そのことが家族にとって安心して委ねることになる。学校では母の付添いが必要であり、日中一時の預かりの場は母のレスパイトのために大きな意義がある。
  • 早野 節子, 加藤 はる江, 岡田 あつ子, 角田 隆子, 北風 なおみ
    2016 年 41 巻 2 号 p. 201
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重度の障がいを持ち、医療ケアなどのために通所が難しい就学前のお子さんへの訪問療育を展開し、早期療育による可能性の引き出しや、より良い在宅生活を目指して支援したい。 方法 当法人では、4年前より元特別支援学校の教師3名による訪問療育「いるか」の活動を行っており、今までの延べ利用者は20名となっている。訪問スタッフはヘルパー資格を取り、居宅身体介護と組み合わせながら療育の時間は自費を頂いている。平成30年度開始予定の居宅訪問型児童発達支援の創設をふまえ、制度化に向けての考察を始めている。 成績 総合支援法では訪問療育は認められないため、自費での提供となっているが、子育て中の若い家庭には経済的負担がかかっている。しかし、在宅を余儀なくされている重症心身障がい児にとっては貴重な時間であり、重度の障がい児のケアに戸惑っている親にとっても、子どもを見つめなおす良い機会であると言われている。また、訪問療育を始めて表情が豊かになったり、脳波に変化が見られたりといった報告もある。 結論 いるかの訪問療育は、居宅身体介護と組み合わせることで自費の金額を安く押さえて行っているが、本来、子どもの支援は社会の役目であり、障がいの程度や受け入れ先の都合などで差別があってはならない。現在のような社会的状況が続くことは、差別解消法にも違反することであろう。どんな障がいがあろうとも子どもは子どもである。すべての子どもたちの健やかな成長を願い、方法を模索して早期療育を行い、家族も含めて支援していくことが今、求められていると思う。
  • 佐々木 智教, 篠原 義文
    2016 年 41 巻 2 号 p. 202
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児(者)の在宅生活において、各種サービスの利用は不可欠であり、特に生活介護は定期的に利用されている方が多い福祉サービスのひとつである。これら在宅医療・福祉サービスに対するニーズ調査等は多く報告されているが、実際の利用状況に関する報告は少ない。今回は当園生活介護事業所の2年間の出席状況ならびに欠席理由について調査を行ったので報告する。 対象と方法 対象は当園生活介護事業所(定員10名)に登録されている利用者様のうち、2年間利用登録内容に変更がなかった24名(男性13名、女性11名、平均年齢30.25±6.92歳)とした。調査方法は平成26年4月〜平成28年3月までの出席状況ならびに欠席理由を記録より後方視的に調査した。 結果 2年間の総利用予定人数4,384人に対して、出席人数3,723人、欠席人数661人、出席率84.92%であった。欠席人数661人のうち、何らかの疾病に伴うものが全体の約5割(体調不良239人、入院53人)と最も多く、次いで医療・福祉サービスの利用に伴うものが約3割(定期通院94人、リハビリ52人、短期入所80人)、その他が約2割(ご家族の都合119人、不明8人、天候など16人)という内訳であった。また気管切開や胃瘻等の医療的ケアを必要とされる方々は医療的ケアがない方々に比べ、入院やリハビリ、短期入所の利用に伴う欠席が多かった。 考察 重症心身障害児(者)が在宅生活を継続する上で医療・福祉サービスを併用することが重要であり、医療的ケアを要するより重度の方々はそれらに伴う欠席が多かった。しかし、この背景として個々の障害特性や環境因子等(ご家族の介護力、サービスの利用量、地域特性など)の様々な要因が影響していることが予測され、今回の結果のみで在宅の方々の傾向、特性を断定することは困難であり、今後さらなる調査が必要と考える。
  • 竹内 絵美
    2016 年 41 巻 2 号 p. 202
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 長野県立こども病院(以下、当院)では2013年10月より病棟薬剤業務を開始し、在宅支援病床における薬剤師業務の一環として調剤薬局による在宅訪問薬剤管理指導導入に至った6例、在宅療養中の患者の入院時内服薬の変更について薬剤管理指導を行った1例について報告する。 方法 対象は病棟薬剤業務開始後に当院の在宅支援病床に入院した長期在宅療養を行っている外来患者、在宅療養に向けケア取得に取り組む入院患者とした。導入に際し病院関係者と地域支援関係者で行われる関係者会議に調剤薬局担当薬剤師にも出席を依頼し、調剤における薬包紙への印字等の家族の希望を情報共有するとともに、在宅導入後の家族や薬局の要望にも対応した。導入後の入院加療に際し患者の様子を聞き取り、自宅での内服治療を適切に行えるよう内服薬の説明等の薬剤管理指導を行った。 結果 対象患者の内服薬の多くは散剤の調剤となるため、調剤には時間を要する。外来の受診の際には診察以外にも時間がかかるため院内処方の薬受け取りまでの待ち時間が問題となっていた。また、医療材料、呼吸器などの運搬も負担となっていた。入院患者においても、患者家族への聞き取りの中で、退院後の内服薬の服用ミスに対する不安があるとの意見があった。在宅訪問薬剤管理指導を導入したことで内服薬は院外処方箋を受け取りファックスの送信だけで帰宅できるため、待ち時間の短縮や荷物の軽減、内服薬を訪問薬剤師が一緒に確認することにより心的負担の軽減につながった。在宅訪問薬剤管理指導を行っている患者に対し入院中に薬剤管理指導を行うことで、患者家族や医療者間で患者の状態や治療方針などの情報共有することができた。介護者への聞き取りにより内服薬の1包化や投薬時間の調整など自宅での生活に合わせた処方提案を行い、退院時には調剤薬局へ内服薬の変更内容の情報提供をすることで在宅療養へスムーズに移行できた。
  • 石原 道子, 土屋 由利子, 鈴木 絵美, 鈴木 弘子, 中澤 真由美, 打林 友子, 高橋 由起子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 203
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 NICU等より在宅移行支援を実施した対象児と家族の実態を把握し在宅移行支援の在り方と今後の課題を考える。 研究方法 東京都在宅重症心身障害児(者)訪問看護利用者の内2013年4月から2016年3月まで実施した191事例の基礎情報、在宅移行支援記録から支援内容を抽出し、退院時の在宅支援体制、家族状況を単純集計し、在宅移行支援の関連要因を分析した。倫理的配慮は全国重症心身障害児(者)を守る会の倫理委員会の承認を得た。 結果 NICU等から在宅移行する事例は増加している。背景要因をみると、年齢(0〜1歳93.7%)、起因疾患(先天奇形56%、周産期の原因27.8%)、超重症児スコア(超重症児44%準超重症児42.9%)、医療ケア(人工呼吸器50.8%、気管切開39.8%、酸素40.3%、経管栄養86.4%)で低年齢化、重症化している。退院時の医療機関は周産期母子医療センターが93.1%であった。出生から退院までの期間が短くなっている。また在宅1年半以内に12.6%が死亡している。家族背景をみると、核家族92.1%、乳幼児がいる34%、育児休暇中10.5%であった。また精神疾患等家族問題を抱えている事例がみられる。退院前関係者会議は100%実施されていた。社会資源は、在宅診療医39.3%、訪問看護92.1%、訪問リハビリ14.7%、訪問介護3.1%、短期入所5.2%、相談支援専門員の関わりは1.6%であった。家庭訪問26.2%、外泊支援39.8%で、76事例延べ141回支援した。 考察 重症心身障害児の在宅移行支援は、1.点でなく線でとらえ各時期の目標と達成度を家族とともにアセスメントしながら進める。2.在宅生活をイメージできるように支援する。3.病院と地域が情報共有しながら支援し、児と家族の不安やとまどいに寄り添い、家族力にあわせた支援体制を構築し関係機関と重層的に関わり連携することが重要であると考える。
  • 市之瀬 美穂, 福島 華子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 203
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 医療ケアの依存度が特に高く退院の希望はあるが、退院へ踏み切れない母親の思いの変化、なぜ長期入院から退院できたのかを明らかにする。 方法 研究の同意が得られた超重症児を持つ母親2名からインタビューガイドに沿い半構成的面接を行い、記録と面接内容から逐語録を作成し分析した。倫理的配慮、協力への自由意志、匿名性の確保、公表な可能性について口頭および文書で説明し同意を得た。またA病院の倫理委員会で承認を得た。 結果 二人の母親から110のコードが抽出され、13のサブカテゴリーに分類し、5のカテゴリーを見出した。内容は、母親は出産直後から《児への愛情と受け入れがたい現実への混在した思い》があった。また児の病状が安定するまでに長期間を要し、人工呼吸器やCV管理等気を抜けない医療ケアが多いため《少しの変化も見落とせない重圧》を感じていた。児と一緒に暮らしたいと思う反面、母親と看護者の退院に対するペースのずれを感じ《医療者とのペースや認識の違い・ずれ》に葛藤していた。看護者も母親とのペースのずれを記録していた。先の見えない生活に不安を感じていたが、その中で短期退院を繰り返し、家での生活を経験し自信があるわけではないが重圧への慣れ・開き直りや母親同士の情報交換から《現実の受け入れと前向きな気持ち》になった。さらにずれはあったが、看護者は母親が退院に取り組む姿勢を支持し、後押ししたこと、また社会資源を活用することにより《母親の身体的・精神的余裕》が得られた。 考察 看護者は不安を感じる母親の複雑な心情をありのままに受け止めることが必要である。母親は短期退院を繰り返し体験することにより児がいる生活を再構築していく。退院に対するペースや認識にずれを感じたときは不安の傾聴、目的の共有が必要である。社会資源の提案や家族に退院の決定を委ねることにより母親の身体的・精神的余裕が得られ長期退院することができた。
  • 田邊 文子, 汐田 まどか
    2016 年 41 巻 2 号 p. 204
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児者)は、肺炎などの急性疾患罹患後や、合併症に対する術後、急性期治療は終了しても、通常の生活に戻るには時間を要する。介護者は、入院中に増えたケアについて、継続すべきか簡素化できるかの判断がつかず、いつ活動を再開してよいのか、見通しを持てないまま不安を抱えている。 当センターでは、急性期病院に入院治療後、退院に不安を抱える重症児者に対し、在宅復帰を目的とした入院を行ってきた。重症児者は個別性が高く、症例ごとに対応してきたが、振り返りまとめたことによって、共通点や課題がみえたので報告する。 方法 2011年4月から2016年5月の5年間に在宅復帰目的で入院した延べ13例(実数5例)について、カルテより後方視的に検討。 結果 年齢は9歳から37歳、超重症児スコアは8点から44点で平均34点、入院期間は11日から158日で平均61日であった。転帰は退院が8例、状態悪化による転院が5例であった。 入院では、1)身体機能の評価。特に経年的な病態の変化の把握。2)集中的なリハビリテーションや医療的ケアにより、体調を安定させる。3)元の生活を前提にしたケアの見直しと、生活のシミュレーション。4)福祉サービスの調整、情報の共有と引継ぎ。を行った。 症例ごとに本人、家族が望む生活スタイルや価値観は異なる。それを実現するためには、1)に基づいた3)が重要であった。 考察 医療モデルのゴールと生活モデルのゴールにはギャップがあり、そこを調整し橋渡しをすることが当センターの役割と考える。また、急性期から生活までを総合的な視点にたってコーディネートする機能の充実が今後の課題である。
  • 近藤 正子, 船戸 正久, 竹本 潔, 飯島 禎貴, 和田 浩
    2016 年 41 巻 2 号 p. 204
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに NICUや小児病棟から何らかの要因によりスムーズに在宅移行が進まない児に対し、療育施設は多職種で支援できる特徴がある。今回、中間施設として在宅移行支援を実施した5年間の利用児を対象に当センターに入院するまでを調査した結果を報告する。 対象 2011年5月〜2016年3月に当センターで在宅移行支援を利用した29名を対象とした。29名中在宅移行児は22名(内在宅死亡1名、施設入所2名)、利用中に死亡が2名、病院・施設在籍が5名である。 結果 5年間の申し込み数は42名で29名の方が当センターで在宅移行支援を受けた。入院期間は平均92日であった。在宅移行支援を受けた年齢は、1歳未満7名、1歳7名、2歳4名と半数を占めている。問い合わせはほとんどが医師間であった。利用児は医療度も高く呼吸器13名、気管切開24名、酸素12名、吸引27名、経管栄養27名であった。病名等から出生後在宅経験がない児は13名、在宅経験があり基礎疾患の重度化が7名、基礎疾患があり他の理由で重度化した児が3名、中途障害児が6名であった。利用時に身体障害者手帳を取得していた児は19名、療育手帳は12名であった。また、26名がリハを実施していた。在宅移行においての家族の要望は、医療面では医療ケア・手技の指導と確認をして欲しい、緊急時の対応を教えて欲しい。生活面ではイメージや自信をつけたい、シミュレーションをしたい。リハについては自宅で行えるリハを教えて欲しい、バギーを作製したい。また、嚥下に対しての要望も多かった。 まとめ 在宅生活にスムーズに移行できない原因は、医療度が高いことやケアを行う上で妨げとなる身体の課題(定頸していない、拘縮している)等、いくつもの要因が重なって在宅生活に対するイメージが描けていないと考える。今後、医療ケア児(医療度が高いが身体、知的に重度でない)に対しての支援が課題になると思われる。
  • 景山 朋子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 205
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 当園では医療型障害児入所施設として、主たる対象を重症心身障害児者(以下、重症児者)とした計画相談を実施し現在約200名の相談支援を担っている。医療ケアの濃厚な重症児者については、家族だけでなく県内各地の相談支援事業所、市町村、療育機関や居宅事業所から計画相談の依頼を受ける。ケースを重ねることで、NICUや小児病棟を有する医療機関との連携が深まり、医療ケアの濃厚な長期入院児者の在宅移行支援においても相談支援の介入を求められるようになった。 方法 相談支援専門員として、医療ケアの濃厚な在宅重症児者のサービスを組み立てる際は、優先課題を本人の体調の安定とし、病院ソーシャルワーカーとの協働により、かかりつけ医、緊急時の受け入れ先、訪問看護による日々の健康管理について、医療機関における役割分担や連携が図られるよう計画に落とし込んだ。次に家族に在宅生活のイメージを持てるような支援を行いながら、家族のレスパイトのための短期入所や、介護負担を軽減するための訪問入浴、通院介助、外出のための移動支援、兄弟の保育園の送迎時の家庭見守りなど、在宅生活を継続させるためのサービスを導入した。在宅生活が落ち着いたところで、親子が地域から孤立しないように、友だちとともに療育や教育が提供され、成長発達が促されるよう支援した。 結果 県内全域を見渡すと、医療、福祉、教育についての社会資源の偏りや、市町村の対応、サービスの支給量等に格差があり、地域や利用する機関により重症児者の生活の質が大きく左右される現状が明らかになった。同時に、家族の力量や思いの強さによっても、在宅生活の継続の可否が分かれた。 考察 医療的ケアが濃厚な重症児者をとりまく地域の実情をふまえ、あたりまえに在宅生活を送るための合理的配慮として、いかにサービスや支援を要望し提供できるか、いかに家族に寄り添い支えられるか、相談支援専門員の力量が問われるのではないかと考える。
  • 渡辺 美緒, 臼田 由美子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 205
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    背景 群馬県では、平成25年度および26年度小児等在宅医療連携拠点事業に参加、群馬県健康福祉部医務課、群馬県看護協会と当院が中心となり、群馬県での小児在宅医療支援推進に取り組んだ。拠点事業終了後も県独自事業として継続している。今回その事業内容の一つである県内医療資源調査として訪問看護ステーション(以下、ST)に行ったアンケート結果をもとに、その成果と今後の課題について検討したので、取り組みの内容とあわせて報告する。 対象 アンケートA(以下、A):平成25年12月に県内のST 116カ所にアンケートを配布、93カ所から回答を得た。 アンケートB(以下、B):平成27年12月に県内のST 149カ所にアンケートを配布、87カ所から回答を得た。 結果 小児の医療的ケアについて対応の可否を問うたところ、人工呼吸器の管理が可能なSTはA 21カ所、B 30カ所であった。また、気管内吸引はA 42カ所、B 55カ所、経鼻胃チューブの交換はA 26カ所、B 40カ所、胃瘻の管理はA 43カ所、B 55カ所、中心静脈カテーテルの管理はA 32カ所、B 43カ所、麻薬による疼痛コントロールはA 20カ所、B 28カ所、終末期の医療的ケアはA 20カ所、B 32カ所のSTが可能と回答した。 考察 当県では、平成25年度より医師、訪問看護師、相談支援専門員などに向けた研修会に加え、多職種が集うシンポジウムやワークショップなど実際に意見交換のできる企画を行ってきた。今回のアンケートでは、いずれの医療的ケアも2年間で対応可能なSTが増加した。実際に行ったことのあるSTはいまだ限られており、低年齢での対応には相談が必要など年齢による制限もあるが、3年間の取り組みにより小児の在宅医療的ケアに対するST側の姿勢や意識に働きかけることができたと考えられる。その一方で、地域診療所との連携はいまだ緒に就いたばかりである。各職種との連携に加え、今後は多職種が協働した支援の形を構築することが大きな課題である。
  • 村田 博昭, 高橋 純哉, 大橋 浩, 岩本 彰太郎, 村松 順子, 山形 郁広, 横山 尚子, 大友 正明, 倉橋 美由紀, 安間 文彦, ...
    2016 年 41 巻 2 号 p. 206
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の在宅支援として三重県の医療福祉施設では国立病院機構鈴鹿病院、国立病院機構三重病院、三重県立草の実リハビリテーションセンター、済生会明和病院なでしこで短期入所、日中一時支援(日帰り入院)および通所サービスが実施されている。われわれは4施設の状況について集計し、施設の地域偏在や医師看護師確保の問題から未就学児、超重症児はほぼ三重病院のみで受け入れていること、および病床数不足など、三重県の現状と課題について本学会などで報告してきた。今回は27年度までの6年間を集計し、その経過と利用状況について分析し報告する。 対象方法 平成22〜27年度の各施設の短期入所、通所サービス利用状況、大島分類、超重症児スコア、年齢、居住地などを集計したデータを収集した。なお今回の調査には個人を特定するデータは含んでいない。 結果 施設の短期入所利用合計者数の年間のべ数(日・人)は22〜24年度は1500〜2000であったのが、25年度2348、26年度2622、27年度2445であった。なでしこでは前年度より増加(67→143)したが、三重病院では減少(1544→1295)、草の実と鈴鹿はほぼ横ばいであった。月別ではこれまでと同様に8月が最多で希望日の集中がみられた。実際に利用した月ごとの実人数の26年度と27年度の比較ではは三重病院で減少したが(381→313)、他の施設ではほぼ同数であった。超重症児はなでしこが昨年度から受け入れを開始したため(0→7)、全体でも27→36に増加した。 考察 なでしこでは27年途中から小児科医・看護師が増員となり人工呼吸管理の超重症児の受け入れが可能となった。一方三重病院の減少は他科病棟での空床が減少したことが影響した。在宅支援としての短期入所受け入れには病床、医師、スタッフの確保、地域格差の問題など解決すべき課題が多く残っている。
  • 高尾 智也
    2016 年 41 巻 2 号 p. 206
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    背景 近年、周産期医療の進歩により重症新生児の救命率が上昇し、生命予後の改善とともに気管切開、人工呼吸器管理、経腸栄養管理が必要な重症心身障害児(以下、重症児)が増えてきた。重症児は、出生後より医療的ケアを要し長期入院が必要で、なかなか在宅移行が進まず、在宅移行が出来たとしても家族の負担が増え、地域の支援が必須である。 取り組み 平成29年4月に80床の医療型重症心身障害児者施設を開設するにあたり、今後の中・西播磨地域における重い障害のある人たちの地域での健やかな育ちと豊かな暮らしの支援のために、さまざまな立場の人たちが集まりネットワークを構築することをコンセプトに、平成27年9月に重度障害支援ネットはりまを立ち上げた。医療として医師、看護師、福祉として姫路市地域自立支援協議会、福祉に関わる事業所、教育として養護学校、姫路市教育委員会、地域として姫路市肢体不自由児(者)のこれからを考える会など様々な主要組織のメンバーで構成された。月に1回の実行委員会、年2回の地域研修会、年2回の広報誌発行などを行い、重症児を支援するネットワーク構築を行っている。 活動 平成27年9月 第1回実行委員会 平成27年10月 第1回研修会 平成27年12月 広報誌発行 平成28年5月 第2回研修会 今後の課題 医療的ケアを必要とする人たちへの在宅療養支援を担う医療・福祉・教育の3本柱である医療機関、療育施設、教育機関がいまだ不足しており、重い障害のある人たちの地域での生活を支援するためには、地域の総合的な協力と取り組みが重要である。かかりつけ医の不足、急性期医療体制、訪問看護や訪問リハビリの充実などの医療的課題、ショートステイ・デイケア、通所・訪問介護、相談支援事業などの福祉事業の課題、教員への医療的ケア指導・普及や学校看護師の配置など教育現場の課題などを解決し、医療的ケアを必要とする人たちがさらに地域とともに暮らしていける支援体制の充実が必要。
  • −そのニーズの変化−
    小林 拓也, 二宮 悦
    2016 年 41 巻 2 号 p. 207
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の日中一時預かりを通じ在宅医療を提供する“メディカルデイケア”(以下、デイ)は、全国各地で広がりつつある。デイを始めたきっかけは施設ごとに異なるだろうが、求められる医療・サービスの内容は、地域・家族のニーズに従って変化していく。 私たちは、平成11年以降、障害児(者)の日中一時預かりを行ってきた。17年間で、利用目的、即ちニーズの変化を実感している。今回、預かりの利用開始年齢と、退院から利用開始までの在宅療養期間に着目し、預かりへのニーズの変化を検討した。 平成28年3月までの利用開始者中、重症心身障害児(者)は100名。利用開始年齢は0から29歳、平均6歳であった。開設当初2年間は利用開始者24名、平均8.2歳、平成13から20年は49名、6.6歳。平成21年以降は27名、3.1歳であった。在宅期間が明らかなケースは計68名。在宅期間は2日から29年で、平均4.0年であった。開設当初2年間は10名、在宅期間は平均5.5年、平成13から20年は36名、4.3年、平成21年以降は22名、3.0年であった。利用開始年齢の低下と在宅期間の短縮を認めた。ここ5年間に限ってみるとこれらの特徴がさらに顕著であり、加えて呼吸器等医療的ケアの高度化が特徴的である。 これらの変化は、デイに対するニーズの変化の反映と考えられる。開設当初は、「医療的ケアを必要とする重症心身障害児(者)でも預かってもらえる施設が出来た!」と、レスパイト目的や保護者の就労目的での利用が多数を占めている。次に、デイの医療的側面が着目され、人工呼吸器等高度な医療的ケアへの対応を含む健康管理や、急性疾患への対応がニーズとして増大。近年は、高度な医療的ケアを要するケースでの在宅移行支援と、他の福祉・教育機関での医療的ケアへのサポートを期待しての利用開始が増加している。 新たにデイを開設、もしくは開設しようという施設や所管行政機関のニーズ把握の一助になればと考え報告する。
  • 片岡 愛
    2016 年 41 巻 2 号 p. 207
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    近年、気管切開や在宅人工呼吸器など高度な在宅ケアを必要とする重症心身障害児は増加しつつある。一方で、高度な医療的ケアを必要とする児でも、在宅での生活が可能となったと言える。NICUやPICUで救命され、状態が安定した児が、家庭に戻り当たり前の暮らしを送るための支援、すなわち在宅医療支援が重要になってきている。4月からの厚生労働省の診療報酬改定に伴い、在宅医療への関心も高まっている。ここで、在宅医療の意義をもう一度、考えたい。「四季を感じる生活の中で、家族と一緒にこどもは家庭で成長する」という神奈川県立こども医療センター前々総長大濱先生の言葉に表現されているように、児は、両親や兄弟など家族の声を聞き、家族の笑顔の中で成長し、家族もまた児とともに成長する。実際に私も、在宅に移行した児が家族のもとで過ごすことで、情緒が安定し、表情が豊かになるなどの変化を多く経験してきた。 安心、安全の場であってこそ、在宅医療は成り立つ。入院が必要になったときには入院できるという安心感、小児期から成人期へ移行後も安心して医療が受けられるという安心感、家族が困ったときには困ったと言える場の提供も必要である。 「医療を含め社会が子どものことを考えてくれている」と家族が実感でき、「子どもも守られている、安心安全の場」と感じられる在宅医療を柱に、今できていることを認めあいながら、家族、病院そして学校、社会全体で誰もが、やりがいをもって笑顔でできることを一つ一つ考えていきたい。医療と看護、福祉、地域社会みんなの思いと力が必要で欠かせない。ともに認めあい、支えあい、その先にある「笑顔が笑顔をつくる在宅医療」を思い描けたら素晴らしいと思う。 最後に再度強調したい。在宅医療の推進が求められている今、在宅医療は何のためにあるのか、どうなったらいいのか、在宅医療の未来像を…。
  • 山本 寿子, 本橋 裕子, 竹下 絵里, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 中川 栄二, 須貝 研司, 佐々木 征行
    2016 年 41 巻 2 号 p. 208
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、大脳皮質、皮質下の炎症・脱髄を進行性に示す疾患であるが、大脳皮質・脳幹機能を評価できる大脳誘発電位の変化を検討した報告は少ない。SSPE患者に対して当院で行った大脳誘発電位(視覚誘発反応fVEP、聴性脳幹反応ABR、体性感覚誘発電位SEP/SSEP、瞬目反射Blink(BR))を行った症例に対し、病期と大脳誘発電位の変化をした検討した。 対象 2004年2月から2016年6月まで当院小児神経科に入院歴のあるSSPEの4症例。全例が男児で、発症年齢は平均7.7歳(5〜11歳)、平均観察期間は13年(6〜30年)。検査が行われたのは、延べ回数でJabbour 1期:1回、2期:6回、3期:20回、4期1回であった。 方法 fVEP、ABR、SSEP、BRの波形・潜時を診療録から後方視的に検討した。今回の検討では、各波形の分離・再現性が良好であり、fVEPでは4波潜時、ABRでは5波潜時、SSEPではN13およびN20潜時、BRでは両側でR1潜時が、+2SD以内であることを以って正常とした。 結果 Jabbour1期ではfVEP、ABR、SSEPの波形描出は良好であり、BRを含めたいずれの検査においても潜時延長を認めなかった。Jabbour 2期では正常なのはfVEP4/5(80%)、ABR4/6(66%)、SSEP3/6(50%)、BR4/6(66%)であった。Jabbour3期では正常なのはfVEP1/20(0.5%)、ABR11/20(55%)、SSEP6/20(30%)、BR7/20(35%)であった。Jabbour4期ではABR、SSEP、BRすべて異常であった(fVEPは未実施)。 結論 今回の検討では、Jabbour分類の進行とともに、SSEP、fVEPの異常がより早期から認められた。Jabbour3期まではABRは正常の例が多かったことから、SSEPの児においては音刺激を用いた療育活動は有効である可能性がある。また、SSPEの進行期によって各大脳誘発電位の異常出現度が異なることから、大脳誘発電位はSSPEの神経細胞障害の拡がりを推測することに寄与すると思われる。
  • 久保田 雅紀, 石島 亜純, 渡辺 美夏, 相田 文彦, 田中 宏子, 町田 裕一, 森川 昭廣, 野田 真一郎
    2016 年 41 巻 2 号 p. 208
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障がい児(者)(以下、重症児)には呼吸器感染症の罹患が多々見られる。当施設で2014年〜2015年に呼吸器検体から分離された細菌の約半数はPseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)とStreptococcus pneumoniae(S.pneumoniae)だった。そこで今回、両菌に対する各種抗菌薬感受性を検討したので報告する。 方法 対象は当施設に入所する重症児で、2014年1月〜2015年12月の2年間、気道感染または保菌検査で痰培養し、P.aeruginosaの分離された57例(2014年:27例、2015年:30例)と、S.pneumoniaeの分離された42例(2014年:18例、2015年:24例)(同一患者から同一年に複数回分離した場合、その年の最も新しい分離株を採用)とし、各種抗菌薬感受性を年単位で集計した。培養は株式会社LSIメディエンスで実施し、抗菌薬感受性の判定はCLSIのガイドライン(2013)に従った。 結果 P.aeruginosaはペニシリン系、第3世代セファロスポリン系、アミノグリコシド系抗菌薬の感受性株が80%以上だったが、ニューキノロン系は80%未満だった。カルバペネム系はメロペネムが80%以上だったが、イミペネム/シラスタチンは80%未満だった。 S.pneumoniaeはペニシリンGにすべて感受性を示した。ニューキノロン系の感受性株は80%以上、マクロライド系は0%だった。 考察 P.aeruginosaに対するIPM/CS感受性を2014年と2015年で比較すると、感受性株が減少して中等度耐性株が増加した。メタロβ-ラクタマーゼ産生型は認めなかった。 S.pneumoniaeはペニシリンGの感受性が保たれており、治療に有効と考えられた。ニューキノロン系のレボフロキサシンは両年で1例ずつ耐性株を認めたが同一患者からの分離だったので検査歴を詳細に追うと、2014年1月は感受性株が分離されたが以降のMIC値が徐々に上昇し、半年後に耐性株が分離された。2012年から2015年の内服用ニューキノロン系の年間使用量を調べると、2013年と2014年の使用量が多く、2015年は大きく減少していた。
  • 米衛 ちひろ, 中川 栄二, 竹下 絵里, 本橋 裕子, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 須貝 研司, 佐々木 征行
    2016 年 41 巻 2 号 p. 209
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)は、呼吸障害に伴い自発的排痰が困難なため、呼吸器感染のリスクが高い。当院の重症児者病棟で提出された喀痰培養結果から、起因菌について検討し重症児者における下気道感染症の特徴と治療について検討する。 方法 当院の重症児者病棟で2010年11月〜2016年5月までに下気道感染症と診断され、培養検査に適した喀痰を採取された16名(全例大島分類1)、51検体について、喀痰培養検査結果と治療経過から起因菌と推定される細菌を集計した。さらに気管切開(気切)群10名31検体、非気管切開(非気切)群6名20検体に分けて検討した。 結果 全体での主な検出菌比率は、H. influenzae 36.1%、S. pneumoniae 18.0%、M. Catarrhalis 16.8%、Streptococcus属10.8%、P. aeruginosa 3.6%であった。MRSAによると考えられる下気道感染症はなかった。気切群ではH. influenzae 34.0%、S. pneumoniae 24.0%、M. Catarrhalis 18.0%、Streptococcus属14.0%、P. aeruginosa 4.0%であった。非気切群ではH. influenzae 39.3%、Streptococcus属21.2%、M. Catarrhalis 15.1%、S. pneumoniae 15.1%、P. aeruginosa 3.0%であった。 考察 市中肺炎と同様にH. influenzae、S. pneumoniae、M. Catarrhalisは多く認めた。特に非気切者の下気道感染で口腔内常在菌であるStreptococcus属の比率が高い傾向にあったのは、誤嚥による下気道感染が多いためと考えた。重症児者ではP. aeruginosaやMRSAが喀痰から検出されることが多いとされる。今回の検討では起因菌としての検出率は高くなかった。当院では以前広域の抗菌薬を使用してP. aeruginosaやMRSAが増えた経過があり、約10年前から狭域の抗菌薬使用に取り組んでいる。適切な抗菌薬の使用を行ってきたため、今回P. aeruginosaやMRSAによる感染症は少なかったと考えた。
  • 竹内 元浩, 平城 徹, 平城 直子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 209
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 嫌気性菌は培養困難で分離頻度は低いが、実際には無視できない病原体である。今回、われわれは当施設で経験した嫌気性菌感染症について報告する。 方法 重症児者病棟入所者および在宅患者において過去10年間に分離された嫌気性菌について後方視的に検討した。 結果 2006年以降、嫌気性菌が分離されたのは以下の8症例であった(菌名、検体、感染症名の順に記載)。(1)Peptostreptococcus anaerobius(胸水)、膿胸(2)Peptostreptococcus micros、Fusobacterium nucleatum(肺穿刺膿)、肺膿瘍(3)Streptococcus intermedius(胸水、血液)、膿胸(4)Prevotella oris、Fusobacterium nucleatum(穿刺膿)、副鼻腔炎+前額部膿瘍(5)Finegoldia magna(耳漏)、副鼻腔炎+中耳炎(6)Bacteroides thetaiotaomicron(血液)、イレウス+敗血症(7)Bifidobacterium species 血液、イレウス+敗血症(8)Bacteroides fragilis(血液)、菌血症 考察 嫌気性菌が分離されたのは8例のみであった。呼吸器系3例は肺化膿症で、すべて口腔内常在菌であり誤嚥が示唆された。副鼻腔炎に関連した症例も2例あり、積極的に嫌気培養を行う価値がある。イレウスに伴う敗血症、即ちBacterial Translocation(BT)の2例は死亡の転帰を取った。1例は「善玉菌」とされるビフィズス菌であったことが注目される。背景疾患を有しない菌血症の症例(8)は、Bacteroidesであったことより、腸管由来のBTと思われる。健常者のBT発症例も報告されているので、消化管に問題の多い重症心身障害患者の熱源不明感染症ではBTも念頭に置く必要がある。
  • 田村 えり子, 大瀧 ひとみ, 三原 幸織, 根崎 末利子, 内山 晃, 大石 勉, 白井 徳満
    2016 年 41 巻 2 号 p. 210
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 施設長期入所者における感染症に対する獲得免疫の特異性や加齢による免疫機能低下は明らかにされている。しかし、高齢化の進行しつつある重症心身障害児者施設における感染症に対する獲得免疫能の評価は十分なされていない。重症児者施設である当園において、麻疹、風疹、ムンプス、水痘ウイルスに対する抗体価を酵素免疫抗体法(EIA法)で測定し検討したので報告する。 対象と方法 対象は園生174名、対照は当園職員274名である。園生の平均年齢は男48.2歳(n=94)、女50.7歳(n=80)。約4割の園生が在園40年以上である。職員男の平均年齢は44.2歳(n=98)、女45.5歳(n=176)である。園生と職員のウイルスIgG抗体価はEIA法で測定。日本環境感染学会基準に従い抗体保有状況を園生職員間、男女間、および年代間で比較検討した。有意性の検定にはStudentのt検定とPearsonのχ2乗検定を使用した。 結果および考察 麻疹抗体保有率は園生70.1%:職員66.8%、風疹は55.7%:90.5%、ムンプス45.4%:69.0%、水痘90.2%:98.9%であった。麻疹と水痘では園生職員間、男女間において抗体価・抗体保有率に有意の差はなかったが、麻疹では園生職員ともに年齢と抗体保有率は正の相関を示した。風疹では園生職員間の抗体保有率に有意の差を認めた(p<0.001)。2012〜2013年の風疹流行に際して職員に積極的にワクチン接種を実施したことも差の要因と考えられた。一方、ムンプスではそのようなワクチン接種はなかったが園生職員間で有意の差を認めた(p<0.001)。 結論 風疹とムンプスで園生の抗体保有率は職員と比べて有意に低値を示した。未感染での入園、ワクチン接種やブースターの機会が低頻度となったことも要因の一つと考えられる。ワクチン予防可能疾患(VPD)に対する積極的な接種の推進は重要と考えられる。
  • 市山 高志, 杉尾 嘉嗣
    2016 年 41 巻 2 号 p. 210
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 当センター長期入所中の重症心身障害児(者)に対するインフルエンザワクチン2回接種の必要性を検討する。 方法 当センター長期入所中の重症心身障害児(者)76例および肢体不自由児2例、計78例(5歳から53歳)に対して2013年11月〜2014年1月の間にインフルエンザワクチンを4週間間隔で2回接種した。接種量はすべて0.5mlとした。ワクチン接種前および1回目と2回目ワクチン接種後約3週間に合計3回の採血を行い、H1N1(Aソ連型)、H3N2(A香港型)、B型の抗体価をHI法で測定した。抗体価40倍以上を「抗体保有」、ワクチン接種後の抗体価が40倍以上かつ接種前の抗体価から4倍以上の上昇を「陽転」と判定した。 結果 H1N1(Aソ連型):接種前抗体保有率48.7%、1回接種後75.6%、2回接種後82.1%、1回接種後抗体陽転率16.7%、2回接種後17.9%だった。H3N2(A香港型):接種前抗体保有率41.0%、1回接種後69.2%、2回接種後65.4%、1回接種後抗体陽転率20.5%、2回接種後15.4%だった。B型:接種前抗体保有率15.4%、1回接種後28.2%、2回接種後24.4%、1回接種後抗体陽転率5.1%、2回接種後2.6%だった。 考察 今回の検討では、1回目のワクチン接種では陽転せず、2回目のワクチン接種で陽転した患者はH1N1(Aソ連型)で2例、H3N2(A香港型)、B型では0例だった。本所見よりインフルエンザワクチンは2回接種の必要がないことが示唆された。また過去の健常児(者)の報告に比し、ワクチン接種後の抗体保有率、陽転率が低く、重症心身障害児(者)の免疫能の低下が示唆された。 結論 重症心身障害児(者)であってもインフルエンザワクチンは1回接種で十分と考えられた。
  • 高尾 智也
    2016 年 41 巻 2 号 p. 211
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    重度痙縮による障害を改善する方法としてバクロフェン髄腔内投与療法(以下、ITB療法)は、非常に有用な方法である。今回、われわれは重症心身障害児(者)の2例に対してITB療法を施行し、有効であったので報告する。症例1は、脳性麻痺、重症痙縮の5歳の男児。筋緊張亢進に対してボトックスを近医で受けていたが、効果が1カ月持たないためITB療法を希望され4歳時に当院受診された。スクリーニング検査にてバクロフェン25μgで効果を認め、ITB髄注ポンプ植え込みを施行した。術後はバクロフェン50μg/日にて、下肢の筋緊張は軽減し、術後8日目に退院した。術後は患児の表情も良くなり、患児の状態を見ながら徐々に増量している。現在は家族の希望でバクロフェン199μg/日にて筋緊張コントロールも良好で家族も満足している。症例2は脳性麻痺、重症痙縮の20歳の男児。年々、上下肢の筋緊張が悪化し、側弯も進行してきたためITB療法を希望され19歳時に当院受診された。スクリーニング検査にてバクロフェン25μgで効果を認め、ITB髄注ポンプ植え込みを施行した。術後はバクロフェン57μg/日にて、上下肢の筋緊張は軽減し、術後9日目に退院した。術後は患児の表情も良くなり、家族の希望でバクロフェン380μg/日まで増量し、筋緊張コントロールは良好で家族も満足していたが、筋緊張が取れるにしたがい、自分で除圧できなくなり仙骨部の褥瘡が悪化したため、内服薬を減量中である。重症心身障害児(者)の痙縮は日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮に由来する疼痛によりさらに痙縮が増悪し、側弯の進行などの負の連鎖を形成している。痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持っており、適切な筋緊張コントロールと長期的な評価が重要である。
  • 三鴨 可奈子, 川谷 歩, 玉崎 章子, 片桐 浩史
    2016 年 41 巻 2 号 p. 211
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重度痙縮はADLやQOLを著しく阻害する。重度痙縮に対して髄腔内バクロフェン療法(ITB療法)が施行された脳性麻痺児の治療開始後4年間の経過を報告する。 症例 症例は四肢麻痺、女児。粗大運動能力システム(GMFCS)レベル5。6歳時筋緊張は亢進し全身性痙縮を呈していた。ATNRの肢位をとりやすく姿勢介助が困難、唾液でムセたりオムツ交換がしにくいなど介助の問題も抱えていた。緊張は亢進しやすく、玩具を怖がった。ボツリヌス毒素療法が施行されたが介助上の変化はみられず、スクリーニングトライアルを経てポンプ埋込み術が施行された。 経過 Ashworth評点は術前上肢平均2、下肢平均3.25であったが下肢優位に低下し、術後3カ月で上下肢ともに1.25となり4年後も維持されている。股関節の側方化率は右64%、左54%であったが、術後4カ月で右30%、左48%と低下、4年後では右34%、左7%となり股関節亜脱臼は改善した。術直後よりATNRが出現しにくくなり姿勢介助も容易になった。粗大運動能力尺度(GMFM)は術前6%から術後4カ月で8.8%へ向上し4年後も維持されている。機嫌がよくなり、玩具を怖がらなくなりオムツも替えやすくなった。摂食機能は改善し、嚥下がスムーズになった。一方自力排便は困難となった。筋緊張低下による支持性低下と、埋込み部分の突出に対し車椅子の修理など姿勢の配慮が必要となった。術後2年8カ月で側弯を発症し動的脊柱装具による治療を開始した。 考察 症例は全身性の重度痙縮を呈していたが、ITB療法により痙縮が改善するととともに多くの効果と変化を認めた。股関節亜脱臼は改善し姿勢反射は統制され運動機能は向上した。介助は軽減されADL・QOLは拡大した。埋込みポンプは小児の体格に対して大きく、症例は姿勢に配慮が必要であった。筋緊張が低下したことに伴う二次障害もみられている。脳性麻痺児へのITB療法では、きめ細やかな姿勢管理が必要である。
  • 青山 祐樹
    2016 年 41 巻 2 号 p. 212
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    目的 重症心身障害者(以下、重症者)は、身体的な特徴から褥瘡を発生するリスクが高い。褥瘡予防には体圧分散マットレスの使用が推奨されている。また、近年褥瘡治療や循環動態に与える振動の効果が報告されている。本研究では重症者1名に対し、褥瘡治療に有効とされている振動とポジショニングによる除圧を実施し、その褥瘡対策の有用性を明らかにすることを目的とする。 方法 67歳男性。進行性家族性対麻痺疑い・てんかん。大島分類:1。経鼻胃管チューブより経管栄養。右大転子部にStageIIの褥瘡を有する。 方法 マットレス(スーパーフレックス)上にて、右下側臥位のポジショニングを設定した。設定は、大転子部を除圧するため体幹と大腿部にクッションを挿入した。褥瘡近位の膝下(マットレスの下)に振動器(リラフィール)を設置した。1日3回25分間振動を実施した。 褥瘡の経時的変化はDESIGN-R®(褥瘡経過評価表)で評価し、ポジショニング設定前後の体圧分布評価(SRソフトビジョン)を実施した。 結果 DESIGN-R®結果は開始時にD2-e0s3i1g1n0p0(5点)、7週目はD1-e0s3i1g0n0p0(4点)、10週目にはD1-e0s0i1g0n0p0(1点)と変化した。体圧分布評価よりポジショニングなしの大転子部圧は147mmHg、ポジショニングのみで49mmHg、ポジショニングとリラフィールでは49mmHgであった。 考察 振動とポジショニングによる褥瘡対策を重症者に対し行った。DESIGN-R®の結果より開始後7週目から改善を示し、10週目で皮膚損傷は回復した。体圧分布結果からリラフィールを挿入してもポジショニングの除圧効果が損なわれないことが認められた。血行循環の改善および除圧によって褥瘡が改善したと考えられた。 倫理的配慮、説明と同意 本研究は当センター倫理委員会の承認を得て実施した。また、対象者のご家族に、今回の研究内容と個人情報の取り扱いについて十分な説明を口頭および文書にて行い、同意を得た。
  • 河﨑 洋子, 松本 葉子, 西村 美緒, 八木 麻理子
    2016 年 41 巻 2 号 p. 212
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/08/08
    ジャーナル フリー
    はじめに 重症心身障害児者の合併症として脊柱側彎変形は多く見られる。脊柱変形は胸郭の変形を来し拘束性換気障害により呼吸機能低下を引き起こす他、消化管の偏位により胃食道逆流症を引き起こし、気管切開や胃瘻造設などの医療ケアを要する誘因となり、重症児者のQOLに大きく関わると考える。しかし脊柱側彎と重症児者の合併症や医療ケアの関係について直接的に検討された報告は余りないため、今回検討を行った。 対象と方法 対象は当センター入所中で脊柱側彎変形の評価を行った75例。Cobb角が60度以上の群を重度側彎群、60度未満の群を軽度側彎とし、両群について合併症(胃食道逆流症、気管軟化症)と医療ケア(気管切開、呼吸器装着、経管栄養)について比較検討した。また彎曲の形状により単一側彎群とS状側彎群に分類し両群についても同様の項目について比較検討した。統計はt-testにて検定し、統計学的有意差は5%未満とした。 結果 脊柱変形評価を行った75名の年齢の中央値は39歳で、男性48例、女性27例であった。75例中側彎を認めた72例のCobb角の平均は40.8度で、重度側彎群が54例、軽度側彎群が18例であった。また脊柱変形の形状は単一側彎群37例とS状側彎群35例であった。合併症と医療ケアの5項目すべてにおいて、重度側彎群が軽度側彎より有意に高率であった。また気管軟化症と胃食道逆流症、呼吸器装着の3項目においてS状側彎群が単一側彎より有意に高率であった。 考察 今回の検討の結果、重度の側彎は胃食道逆流症や気管軟化症の合併症の誘因となり、その結果気管切開や呼吸器装着、経管栄養といった医療ケアを要し、さらに彎曲の形状がS状側彎の場合は合併症を高率に認めると考えられた。今回検討した75名は全例脊柱固定術を受けておらず、体幹装具の装着や理学療法等の内科的治療で経過をみているが、外科的治療の適応について今後は症例に応じて十分な検討を行う必要性があると考えた。
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