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糸田 富得, 稗田 直美, 田中 真吾
2016 年 41 巻 2 号 p.
200
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
目的
重症心身障害児の介護負担となっているものに入浴介助がある。障害児の日常生活用具の給付事業として入用補助具の申請も可能であるが、耐用年数が8年間となっており、成長期にある児への用具申請は現実的ではなかった。そこで、介助者の負担を軽減するために乳幼児の椅子として市販されているバウンサーを入浴介助用具(以下、改良型バウンサー)に改良し、その有用性について検討した。なお本報告に関しては、家族の同意を得ている。
方法
平成27年1月〜3月の間、改良型バウンサー使用前後で母親、訪問看護師7名に身体的負担、安全性、児の機嫌についてアンケート調査を行い、評価した。
児の紹介:3歳 男児 先天性皮膚洞、水頭症VIPシャント術後
製作方法:1.購入時のシートを剥がし、布の滑りを防止するために、滑り止めテープを巻く 2.張り布は洗濯、乾燥がしやすいようにポリエステル布を選択 3.確実に体重を支持し、着脱が簡単にできるように頭部、胸部、骨盤帯、大腿部の4分割で布を装着 4.身体形態に合わせて布の張りを調整できるようにマジックテープで固定。
結果
アンケートではすべての項目で改善がみられた。
考察
改良型バウンサーを使用することで、介助者の身体的負担は軽減した。また浴槽内に落下させる危険性がなくなり、すべての介助者で安全に入浴介助を行うことができるようになった。児は自由に頸部や手足を動かせるようになったため、過緊張による疲労や不安から解放され、入浴時の機嫌がよくなった。成長発達段階に応じた福祉用具の選択はセラピストの重要な役割である。今回使用した改良型バウンサーは入浴時の介護負担軽減だけでなく、遊びや外出先でも活用でき、児と家族の活動範囲を広げQOLを向上させることができた。
おわりに
成長発達段階に応じた福祉用具を選択し、家族の生活のサポートは訪問セラピストの重要な役割である。
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−ケースを通しての考察−
直井 寿徳
2016 年 41 巻 2 号 p.
200
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
スマイル訪問看護ステーションは東京都足立区で15年間、小児を中心に在宅支援を行っている。支援の基本は、家でその子とその家族が楽に楽しく過ごせるようになることであり主役はその子とその家族である。訪問が開始される際にはどういった目的で利用したいかを聴取している。しかし訪問リハでは「緊張が強くて困っている」「変形、拘縮にならないようにしたい」というような要望がほとんどであり生活上で「これが困っている」「こうなって欲しい」というような要望はほとんど聞かれない。今回、訪問リハを開始する際の目標設定に対しての問題と考察をケースの経験を通してお伝えしたい。
症例
高等部を卒業し、地域の生活介護型の通所や家での生活が落ち着き、家でも困っていることはないと聴取された。そのため練習を終了しましょうと伝えると「赤ちゃんのときから受けていた訓練が無くなると不安である」と言われる。通所と連携をとり通所内でやれることを確認し、訪問の頻度を下げていった。本人、家族ができる、生活がしにくくならないことを確認してもらい練習終了とした。
考えなくてはいけないこと
上記の例からいくつかの問題が示唆される。それは「困っていることがない」のに練習をすること、「練習がなくなると不安である」ということ、「通所での関わり」についてなどである。
考察
目標の設定は本人、家族から出された方が本当に解決しなくてはならないことが出やすい。そしてより具体的な目標であればあるほど日々やることがはっきりとしてくる。そのため結果もはっきりとし、モチベーションも保ち続けられやすいように感じる。本人、家族が終了を含めた「こうしたい」「こうなりたい」という選択ができるようになるには関わるスタッフが乳幼児期からその子とその家族に、時期に合わせた対応をしていくことが大事であると考えている。
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箱石 文恵, 諌山 徹太郎, 永田 映子, 宍倉 啓子
2016 年 41 巻 2 号 p.
201
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
医療度の高い障害児者は訪問診療・看護を利用しながら、家族の献身的なケアによって在宅生活を維持している。自宅以外で過ごす場が家族のレスパイトとなり、在宅生活を継続するための大きな役割を持つと考える。今回、在宅呼吸器を使用する3例につき検討し、郷の役割を明確にしたい。
症例
症例1:7歳男児、キアリ奇形、二分脊椎、気管切開、夜間呼吸器、経鼻経管栄養、7回/日導尿。呼吸抑制のため5歳まで入院生活だった。退院カンファで吸引が頻回であり母の負担は大きく、毎日訪問看護を導入し在宅生活を開始した。郷の利用は母付き添いで週1回の日中一時を6カ月間続けた後、看護師添乗で送迎し単独利用となった。現在、特別支援学校の通学籍で母が付添っているが、学校での成長は目覚しい。
症例2:3歳女児、ネマリンミオパチー、気管切開、呼吸器、カフアシスト®、胃瘻、浣腸。通院以外に外に出る機会が少なく、情緒的な成長のため母子ともに外に出る場を求めており、訪問看護からの紹介で日中一時利用を始めた。母付き添いで週1回の利用を6カ月間続けた後、看護師添乗にて送迎対応し単独利用となった。
症例3:3歳男児、メビウス症候群 気管切開、呼吸器、経鼻経管栄養。父が夜勤の勤務へ転職し、母は金融関係の時短勤務の常勤。1歳11カ月で母の職場復帰のため郷への申し込みがあり、家族の付添いは3回/ 4週間で単独利用となった。郷は2日/週の単独利用をしており、当施設以外に地域活動ホームを2カ所利用。数カ月に1回はメディカルショートや重症児者施設の短期入所も利用している。
結果・考察
呼吸器をしている超重症児の預かりの場は、医療的ケアを引き継ぐだけではなく、本人の表現やしぐさ様子等を丁寧に聞き取る必要がある。そのことが家族にとって安心して委ねることになる。学校では母の付添いが必要であり、日中一時の預かりの場は母のレスパイトのために大きな意義がある。
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早野 節子, 加藤 はる江, 岡田 あつ子, 角田 隆子, 北風 なおみ
2016 年 41 巻 2 号 p.
201
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
重度の障がいを持ち、医療ケアなどのために通所が難しい就学前のお子さんへの訪問療育を展開し、早期療育による可能性の引き出しや、より良い在宅生活を目指して支援したい。
方法
当法人では、4年前より元特別支援学校の教師3名による訪問療育「いるか」の活動を行っており、今までの延べ利用者は20名となっている。訪問スタッフはヘルパー資格を取り、居宅身体介護と組み合わせながら療育の時間は自費を頂いている。平成30年度開始予定の居宅訪問型児童発達支援の創設をふまえ、制度化に向けての考察を始めている。
成績
総合支援法では訪問療育は認められないため、自費での提供となっているが、子育て中の若い家庭には経済的負担がかかっている。しかし、在宅を余儀なくされている重症心身障がい児にとっては貴重な時間であり、重度の障がい児のケアに戸惑っている親にとっても、子どもを見つめなおす良い機会であると言われている。また、訪問療育を始めて表情が豊かになったり、脳波に変化が見られたりといった報告もある。
結論
いるかの訪問療育は、居宅身体介護と組み合わせることで自費の金額を安く押さえて行っているが、本来、子どもの支援は社会の役目であり、障がいの程度や受け入れ先の都合などで差別があってはならない。現在のような社会的状況が続くことは、差別解消法にも違反することであろう。どんな障がいがあろうとも子どもは子どもである。すべての子どもたちの健やかな成長を願い、方法を模索して早期療育を行い、家族も含めて支援していくことが今、求められていると思う。
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佐々木 智教, 篠原 義文
2016 年 41 巻 2 号 p.
202
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児(者)の在宅生活において、各種サービスの利用は不可欠であり、特に生活介護は定期的に利用されている方が多い福祉サービスのひとつである。これら在宅医療・福祉サービスに対するニーズ調査等は多く報告されているが、実際の利用状況に関する報告は少ない。今回は当園生活介護事業所の2年間の出席状況ならびに欠席理由について調査を行ったので報告する。
対象と方法
対象は当園生活介護事業所(定員10名)に登録されている利用者様のうち、2年間利用登録内容に変更がなかった24名(男性13名、女性11名、平均年齢30.25±6.92歳)とした。調査方法は平成26年4月〜平成28年3月までの出席状況ならびに欠席理由を記録より後方視的に調査した。
結果
2年間の総利用予定人数4,384人に対して、出席人数3,723人、欠席人数661人、出席率84.92%であった。欠席人数661人のうち、何らかの疾病に伴うものが全体の約5割(体調不良239人、入院53人)と最も多く、次いで医療・福祉サービスの利用に伴うものが約3割(定期通院94人、リハビリ52人、短期入所80人)、その他が約2割(ご家族の都合119人、不明8人、天候など16人)という内訳であった。また気管切開や胃瘻等の医療的ケアを必要とされる方々は医療的ケアがない方々に比べ、入院やリハビリ、短期入所の利用に伴う欠席が多かった。
考察
重症心身障害児(者)が在宅生活を継続する上で医療・福祉サービスを併用することが重要であり、医療的ケアを要するより重度の方々はそれらに伴う欠席が多かった。しかし、この背景として個々の障害特性や環境因子等(ご家族の介護力、サービスの利用量、地域特性など)の様々な要因が影響していることが予測され、今回の結果のみで在宅の方々の傾向、特性を断定することは困難であり、今後さらなる調査が必要と考える。
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竹内 絵美
2016 年 41 巻 2 号 p.
202
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
長野県立こども病院(以下、当院)では2013年10月より病棟薬剤業務を開始し、在宅支援病床における薬剤師業務の一環として調剤薬局による在宅訪問薬剤管理指導導入に至った6例、在宅療養中の患者の入院時内服薬の変更について薬剤管理指導を行った1例について報告する。
方法
対象は病棟薬剤業務開始後に当院の在宅支援病床に入院した長期在宅療養を行っている外来患者、在宅療養に向けケア取得に取り組む入院患者とした。導入に際し病院関係者と地域支援関係者で行われる関係者会議に調剤薬局担当薬剤師にも出席を依頼し、調剤における薬包紙への印字等の家族の希望を情報共有するとともに、在宅導入後の家族や薬局の要望にも対応した。導入後の入院加療に際し患者の様子を聞き取り、自宅での内服治療を適切に行えるよう内服薬の説明等の薬剤管理指導を行った。
結果
対象患者の内服薬の多くは散剤の調剤となるため、調剤には時間を要する。外来の受診の際には診察以外にも時間がかかるため院内処方の薬受け取りまでの待ち時間が問題となっていた。また、医療材料、呼吸器などの運搬も負担となっていた。入院患者においても、患者家族への聞き取りの中で、退院後の内服薬の服用ミスに対する不安があるとの意見があった。在宅訪問薬剤管理指導を導入したことで内服薬は院外処方箋を受け取りファックスの送信だけで帰宅できるため、待ち時間の短縮や荷物の軽減、内服薬を訪問薬剤師が一緒に確認することにより心的負担の軽減につながった。在宅訪問薬剤管理指導を行っている患者に対し入院中に薬剤管理指導を行うことで、患者家族や医療者間で患者の状態や治療方針などの情報共有することができた。介護者への聞き取りにより内服薬の1包化や投薬時間の調整など自宅での生活に合わせた処方提案を行い、退院時には調剤薬局へ内服薬の変更内容の情報提供をすることで在宅療養へスムーズに移行できた。
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石原 道子, 土屋 由利子, 鈴木 絵美, 鈴木 弘子, 中澤 真由美, 打林 友子, 高橋 由起子
2016 年 41 巻 2 号 p.
203
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
NICU等より在宅移行支援を実施した対象児と家族の実態を把握し在宅移行支援の在り方と今後の課題を考える。
研究方法
東京都在宅重症心身障害児(者)訪問看護利用者の内2013年4月から2016年3月まで実施した191事例の基礎情報、在宅移行支援記録から支援内容を抽出し、退院時の在宅支援体制、家族状況を単純集計し、在宅移行支援の関連要因を分析した。倫理的配慮は全国重症心身障害児(者)を守る会の倫理委員会の承認を得た。
結果
NICU等から在宅移行する事例は増加している。背景要因をみると、年齢(0〜1歳93.7%)、起因疾患(先天奇形56%、周産期の原因27.8%)、超重症児スコア(超重症児44%準超重症児42.9%)、医療ケア(人工呼吸器50.8%、気管切開39.8%、酸素40.3%、経管栄養86.4%)で低年齢化、重症化している。退院時の医療機関は周産期母子医療センターが93.1%であった。出生から退院までの期間が短くなっている。また在宅1年半以内に12.6%が死亡している。家族背景をみると、核家族92.1%、乳幼児がいる34%、育児休暇中10.5%であった。また精神疾患等家族問題を抱えている事例がみられる。退院前関係者会議は100%実施されていた。社会資源は、在宅診療医39.3%、訪問看護92.1%、訪問リハビリ14.7%、訪問介護3.1%、短期入所5.2%、相談支援専門員の関わりは1.6%であった。家庭訪問26.2%、外泊支援39.8%で、76事例延べ141回支援した。
考察
重症心身障害児の在宅移行支援は、1.点でなく線でとらえ各時期の目標と達成度を家族とともにアセスメントしながら進める。2.在宅生活をイメージできるように支援する。3.病院と地域が情報共有しながら支援し、児と家族の不安やとまどいに寄り添い、家族力にあわせた支援体制を構築し関係機関と重層的に関わり連携することが重要であると考える。
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市之瀬 美穂, 福島 華子
2016 年 41 巻 2 号 p.
203
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
医療ケアの依存度が特に高く退院の希望はあるが、退院へ踏み切れない母親の思いの変化、なぜ長期入院から退院できたのかを明らかにする。
方法
研究の同意が得られた超重症児を持つ母親2名からインタビューガイドに沿い半構成的面接を行い、記録と面接内容から逐語録を作成し分析した。倫理的配慮、協力への自由意志、匿名性の確保、公表な可能性について口頭および文書で説明し同意を得た。またA病院の倫理委員会で承認を得た。
結果
二人の母親から110のコードが抽出され、13のサブカテゴリーに分類し、5のカテゴリーを見出した。内容は、母親は出産直後から《児への愛情と受け入れがたい現実への混在した思い》があった。また児の病状が安定するまでに長期間を要し、人工呼吸器やCV管理等気を抜けない医療ケアが多いため《少しの変化も見落とせない重圧》を感じていた。児と一緒に暮らしたいと思う反面、母親と看護者の退院に対するペースのずれを感じ《医療者とのペースや認識の違い・ずれ》に葛藤していた。看護者も母親とのペースのずれを記録していた。先の見えない生活に不安を感じていたが、その中で短期退院を繰り返し、家での生活を経験し自信があるわけではないが重圧への慣れ・開き直りや母親同士の情報交換から《現実の受け入れと前向きな気持ち》になった。さらにずれはあったが、看護者は母親が退院に取り組む姿勢を支持し、後押ししたこと、また社会資源を活用することにより《母親の身体的・精神的余裕》が得られた。
考察
看護者は不安を感じる母親の複雑な心情をありのままに受け止めることが必要である。母親は短期退院を繰り返し体験することにより児がいる生活を再構築していく。退院に対するペースや認識にずれを感じたときは不安の傾聴、目的の共有が必要である。社会資源の提案や家族に退院の決定を委ねることにより母親の身体的・精神的余裕が得られ長期退院することができた。
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田邊 文子, 汐田 まどか
2016 年 41 巻 2 号 p.
204
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児者(以下、重症児者)は、肺炎などの急性疾患罹患後や、合併症に対する術後、急性期治療は終了しても、通常の生活に戻るには時間を要する。介護者は、入院中に増えたケアについて、継続すべきか簡素化できるかの判断がつかず、いつ活動を再開してよいのか、見通しを持てないまま不安を抱えている。
当センターでは、急性期病院に入院治療後、退院に不安を抱える重症児者に対し、在宅復帰を目的とした入院を行ってきた。重症児者は個別性が高く、症例ごとに対応してきたが、振り返りまとめたことによって、共通点や課題がみえたので報告する。
方法
2011年4月から2016年5月の5年間に在宅復帰目的で入院した延べ13例(実数5例)について、カルテより後方視的に検討。
結果
年齢は9歳から37歳、超重症児スコアは8点から44点で平均34点、入院期間は11日から158日で平均61日であった。転帰は退院が8例、状態悪化による転院が5例であった。
入院では、1)身体機能の評価。特に経年的な病態の変化の把握。2)集中的なリハビリテーションや医療的ケアにより、体調を安定させる。3)元の生活を前提にしたケアの見直しと、生活のシミュレーション。4)福祉サービスの調整、情報の共有と引継ぎ。を行った。
症例ごとに本人、家族が望む生活スタイルや価値観は異なる。それを実現するためには、1)に基づいた3)が重要であった。
考察
医療モデルのゴールと生活モデルのゴールにはギャップがあり、そこを調整し橋渡しをすることが当センターの役割と考える。また、急性期から生活までを総合的な視点にたってコーディネートする機能の充実が今後の課題である。
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近藤 正子, 船戸 正久, 竹本 潔, 飯島 禎貴, 和田 浩
2016 年 41 巻 2 号 p.
204
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
NICUや小児病棟から何らかの要因によりスムーズに在宅移行が進まない児に対し、療育施設は多職種で支援できる特徴がある。今回、中間施設として在宅移行支援を実施した5年間の利用児を対象に当センターに入院するまでを調査した結果を報告する。
対象
2011年5月〜2016年3月に当センターで在宅移行支援を利用した29名を対象とした。29名中在宅移行児は22名(内在宅死亡1名、施設入所2名)、利用中に死亡が2名、病院・施設在籍が5名である。
結果
5年間の申し込み数は42名で29名の方が当センターで在宅移行支援を受けた。入院期間は平均92日であった。在宅移行支援を受けた年齢は、1歳未満7名、1歳7名、2歳4名と半数を占めている。問い合わせはほとんどが医師間であった。利用児は医療度も高く呼吸器13名、気管切開24名、酸素12名、吸引27名、経管栄養27名であった。病名等から出生後在宅経験がない児は13名、在宅経験があり基礎疾患の重度化が7名、基礎疾患があり他の理由で重度化した児が3名、中途障害児が6名であった。利用時に身体障害者手帳を取得していた児は19名、療育手帳は12名であった。また、26名がリハを実施していた。在宅移行においての家族の要望は、医療面では医療ケア・手技の指導と確認をして欲しい、緊急時の対応を教えて欲しい。生活面ではイメージや自信をつけたい、シミュレーションをしたい。リハについては自宅で行えるリハを教えて欲しい、バギーを作製したい。また、嚥下に対しての要望も多かった。
まとめ
在宅生活にスムーズに移行できない原因は、医療度が高いことやケアを行う上で妨げとなる身体の課題(定頸していない、拘縮している)等、いくつもの要因が重なって在宅生活に対するイメージが描けていないと考える。今後、医療ケア児(医療度が高いが身体、知的に重度でない)に対しての支援が課題になると思われる。
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景山 朋子
2016 年 41 巻 2 号 p.
205
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
当園では医療型障害児入所施設として、主たる対象を重症心身障害児者(以下、重症児者)とした計画相談を実施し現在約200名の相談支援を担っている。医療ケアの濃厚な重症児者については、家族だけでなく県内各地の相談支援事業所、市町村、療育機関や居宅事業所から計画相談の依頼を受ける。ケースを重ねることで、NICUや小児病棟を有する医療機関との連携が深まり、医療ケアの濃厚な長期入院児者の在宅移行支援においても相談支援の介入を求められるようになった。
方法
相談支援専門員として、医療ケアの濃厚な在宅重症児者のサービスを組み立てる際は、優先課題を本人の体調の安定とし、病院ソーシャルワーカーとの協働により、かかりつけ医、緊急時の受け入れ先、訪問看護による日々の健康管理について、医療機関における役割分担や連携が図られるよう計画に落とし込んだ。次に家族に在宅生活のイメージを持てるような支援を行いながら、家族のレスパイトのための短期入所や、介護負担を軽減するための訪問入浴、通院介助、外出のための移動支援、兄弟の保育園の送迎時の家庭見守りなど、在宅生活を継続させるためのサービスを導入した。在宅生活が落ち着いたところで、親子が地域から孤立しないように、友だちとともに療育や教育が提供され、成長発達が促されるよう支援した。
結果
県内全域を見渡すと、医療、福祉、教育についての社会資源の偏りや、市町村の対応、サービスの支給量等に格差があり、地域や利用する機関により重症児者の生活の質が大きく左右される現状が明らかになった。同時に、家族の力量や思いの強さによっても、在宅生活の継続の可否が分かれた。
考察
医療的ケアが濃厚な重症児者をとりまく地域の実情をふまえ、あたりまえに在宅生活を送るための合理的配慮として、いかにサービスや支援を要望し提供できるか、いかに家族に寄り添い支えられるか、相談支援専門員の力量が問われるのではないかと考える。
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渡辺 美緒, 臼田 由美子
2016 年 41 巻 2 号 p.
205
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
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背景
群馬県では、平成25年度および26年度小児等在宅医療連携拠点事業に参加、群馬県健康福祉部医務課、群馬県看護協会と当院が中心となり、群馬県での小児在宅医療支援推進に取り組んだ。拠点事業終了後も県独自事業として継続している。今回その事業内容の一つである県内医療資源調査として訪問看護ステーション(以下、ST)に行ったアンケート結果をもとに、その成果と今後の課題について検討したので、取り組みの内容とあわせて報告する。
対象
アンケートA(以下、A):平成25年12月に県内のST 116カ所にアンケートを配布、93カ所から回答を得た。
アンケートB(以下、B):平成27年12月に県内のST 149カ所にアンケートを配布、87カ所から回答を得た。
結果
小児の医療的ケアについて対応の可否を問うたところ、人工呼吸器の管理が可能なSTはA 21カ所、B 30カ所であった。また、気管内吸引はA 42カ所、B 55カ所、経鼻胃チューブの交換はA 26カ所、B 40カ所、胃瘻の管理はA 43カ所、B 55カ所、中心静脈カテーテルの管理はA 32カ所、B 43カ所、麻薬による疼痛コントロールはA 20カ所、B 28カ所、終末期の医療的ケアはA 20カ所、B 32カ所のSTが可能と回答した。
考察
当県では、平成25年度より医師、訪問看護師、相談支援専門員などに向けた研修会に加え、多職種が集うシンポジウムやワークショップなど実際に意見交換のできる企画を行ってきた。今回のアンケートでは、いずれの医療的ケアも2年間で対応可能なSTが増加した。実際に行ったことのあるSTはいまだ限られており、低年齢での対応には相談が必要など年齢による制限もあるが、3年間の取り組みにより小児の在宅医療的ケアに対するST側の姿勢や意識に働きかけることができたと考えられる。その一方で、地域診療所との連携はいまだ緒に就いたばかりである。各職種との連携に加え、今後は多職種が協働した支援の形を構築することが大きな課題である。
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村田 博昭, 高橋 純哉, 大橋 浩, 岩本 彰太郎, 村松 順子, 山形 郁広, 横山 尚子, 大友 正明, 倉橋 美由紀, 安間 文彦, ...
2016 年 41 巻 2 号 p.
206
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
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重症心身障害児(者)の在宅支援として三重県の医療福祉施設では国立病院機構鈴鹿病院、国立病院機構三重病院、三重県立草の実リハビリテーションセンター、済生会明和病院なでしこで短期入所、日中一時支援(日帰り入院)および通所サービスが実施されている。われわれは4施設の状況について集計し、施設の地域偏在や医師看護師確保の問題から未就学児、超重症児はほぼ三重病院のみで受け入れていること、および病床数不足など、三重県の現状と課題について本学会などで報告してきた。今回は27年度までの6年間を集計し、その経過と利用状況について分析し報告する。
対象方法
平成22〜27年度の各施設の短期入所、通所サービス利用状況、大島分類、超重症児スコア、年齢、居住地などを集計したデータを収集した。なお今回の調査には個人を特定するデータは含んでいない。
結果
施設の短期入所利用合計者数の年間のべ数(日・人)は22〜24年度は1500〜2000であったのが、25年度2348、26年度2622、27年度2445であった。なでしこでは前年度より増加(67→143)したが、三重病院では減少(1544→1295)、草の実と鈴鹿はほぼ横ばいであった。月別ではこれまでと同様に8月が最多で希望日の集中がみられた。実際に利用した月ごとの実人数の26年度と27年度の比較ではは三重病院で減少したが(381→313)、他の施設ではほぼ同数であった。超重症児はなでしこが昨年度から受け入れを開始したため(0→7)、全体でも27→36に増加した。
考察
なでしこでは27年途中から小児科医・看護師が増員となり人工呼吸管理の超重症児の受け入れが可能となった。一方三重病院の減少は他科病棟での空床が減少したことが影響した。在宅支援としての短期入所受け入れには病床、医師、スタッフの確保、地域格差の問題など解決すべき課題が多く残っている。
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高尾 智也
2016 年 41 巻 2 号 p.
206
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
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背景
近年、周産期医療の進歩により重症新生児の救命率が上昇し、生命予後の改善とともに気管切開、人工呼吸器管理、経腸栄養管理が必要な重症心身障害児(以下、重症児)が増えてきた。重症児は、出生後より医療的ケアを要し長期入院が必要で、なかなか在宅移行が進まず、在宅移行が出来たとしても家族の負担が増え、地域の支援が必須である。
取り組み
平成29年4月に80床の医療型重症心身障害児者施設を開設するにあたり、今後の中・西播磨地域における重い障害のある人たちの地域での健やかな育ちと豊かな暮らしの支援のために、さまざまな立場の人たちが集まりネットワークを構築することをコンセプトに、平成27年9月に重度障害支援ネットはりまを立ち上げた。医療として医師、看護師、福祉として姫路市地域自立支援協議会、福祉に関わる事業所、教育として養護学校、姫路市教育委員会、地域として姫路市肢体不自由児(者)のこれからを考える会など様々な主要組織のメンバーで構成された。月に1回の実行委員会、年2回の地域研修会、年2回の広報誌発行などを行い、重症児を支援するネットワーク構築を行っている。
活動
平成27年9月 第1回実行委員会
平成27年10月 第1回研修会
平成27年12月 広報誌発行
平成28年5月 第2回研修会
今後の課題
医療的ケアを必要とする人たちへの在宅療養支援を担う医療・福祉・教育の3本柱である医療機関、療育施設、教育機関がいまだ不足しており、重い障害のある人たちの地域での生活を支援するためには、地域の総合的な協力と取り組みが重要である。かかりつけ医の不足、急性期医療体制、訪問看護や訪問リハビリの充実などの医療的課題、ショートステイ・デイケア、通所・訪問介護、相談支援事業などの福祉事業の課題、教員への医療的ケア指導・普及や学校看護師の配置など教育現場の課題などを解決し、医療的ケアを必要とする人たちがさらに地域とともに暮らしていける支援体制の充実が必要。
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−そのニーズの変化−
小林 拓也, 二宮 悦
2016 年 41 巻 2 号 p.
207
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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重症心身障害児(者)の日中一時預かりを通じ在宅医療を提供する“メディカルデイケア”(以下、デイ)は、全国各地で広がりつつある。デイを始めたきっかけは施設ごとに異なるだろうが、求められる医療・サービスの内容は、地域・家族のニーズに従って変化していく。
私たちは、平成11年以降、障害児(者)の日中一時預かりを行ってきた。17年間で、利用目的、即ちニーズの変化を実感している。今回、預かりの利用開始年齢と、退院から利用開始までの在宅療養期間に着目し、預かりへのニーズの変化を検討した。
平成28年3月までの利用開始者中、重症心身障害児(者)は100名。利用開始年齢は0から29歳、平均6歳であった。開設当初2年間は利用開始者24名、平均8.2歳、平成13から20年は49名、6.6歳。平成21年以降は27名、3.1歳であった。在宅期間が明らかなケースは計68名。在宅期間は2日から29年で、平均4.0年であった。開設当初2年間は10名、在宅期間は平均5.5年、平成13から20年は36名、4.3年、平成21年以降は22名、3.0年であった。利用開始年齢の低下と在宅期間の短縮を認めた。ここ5年間に限ってみるとこれらの特徴がさらに顕著であり、加えて呼吸器等医療的ケアの高度化が特徴的である。
これらの変化は、デイに対するニーズの変化の反映と考えられる。開設当初は、「医療的ケアを必要とする重症心身障害児(者)でも預かってもらえる施設が出来た!」と、レスパイト目的や保護者の就労目的での利用が多数を占めている。次に、デイの医療的側面が着目され、人工呼吸器等高度な医療的ケアへの対応を含む健康管理や、急性疾患への対応がニーズとして増大。近年は、高度な医療的ケアを要するケースでの在宅移行支援と、他の福祉・教育機関での医療的ケアへのサポートを期待しての利用開始が増加している。
新たにデイを開設、もしくは開設しようという施設や所管行政機関のニーズ把握の一助になればと考え報告する。
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片岡 愛
2016 年 41 巻 2 号 p.
207
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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近年、気管切開や在宅人工呼吸器など高度な在宅ケアを必要とする重症心身障害児は増加しつつある。一方で、高度な医療的ケアを必要とする児でも、在宅での生活が可能となったと言える。NICUやPICUで救命され、状態が安定した児が、家庭に戻り当たり前の暮らしを送るための支援、すなわち在宅医療支援が重要になってきている。4月からの厚生労働省の診療報酬改定に伴い、在宅医療への関心も高まっている。ここで、在宅医療の意義をもう一度、考えたい。「四季を感じる生活の中で、家族と一緒にこどもは家庭で成長する」という神奈川県立こども医療センター前々総長大濱先生の言葉に表現されているように、児は、両親や兄弟など家族の声を聞き、家族の笑顔の中で成長し、家族もまた児とともに成長する。実際に私も、在宅に移行した児が家族のもとで過ごすことで、情緒が安定し、表情が豊かになるなどの変化を多く経験してきた。
安心、安全の場であってこそ、在宅医療は成り立つ。入院が必要になったときには入院できるという安心感、小児期から成人期へ移行後も安心して医療が受けられるという安心感、家族が困ったときには困ったと言える場の提供も必要である。
「医療を含め社会が子どものことを考えてくれている」と家族が実感でき、「子どもも守られている、安心安全の場」と感じられる在宅医療を柱に、今できていることを認めあいながら、家族、病院そして学校、社会全体で誰もが、やりがいをもって笑顔でできることを一つ一つ考えていきたい。医療と看護、福祉、地域社会みんなの思いと力が必要で欠かせない。ともに認めあい、支えあい、その先にある「笑顔が笑顔をつくる在宅医療」を思い描けたら素晴らしいと思う。
最後に再度強調したい。在宅医療の推進が求められている今、在宅医療は何のためにあるのか、どうなったらいいのか、在宅医療の未来像を…。
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山本 寿子, 本橋 裕子, 竹下 絵里, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 中川 栄二, 須貝 研司, 佐々木 征行
2016 年 41 巻 2 号 p.
208
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、大脳皮質、皮質下の炎症・脱髄を進行性に示す疾患であるが、大脳皮質・脳幹機能を評価できる大脳誘発電位の変化を検討した報告は少ない。SSPE患者に対して当院で行った大脳誘発電位(視覚誘発反応fVEP、聴性脳幹反応ABR、体性感覚誘発電位SEP/SSEP、瞬目反射Blink(BR))を行った症例に対し、病期と大脳誘発電位の変化をした検討した。
対象
2004年2月から2016年6月まで当院小児神経科に入院歴のあるSSPEの4症例。全例が男児で、発症年齢は平均7.7歳(5〜11歳)、平均観察期間は13年(6〜30年)。検査が行われたのは、延べ回数でJabbour 1期:1回、2期:6回、3期:20回、4期1回であった。
方法
fVEP、ABR、SSEP、BRの波形・潜時を診療録から後方視的に検討した。今回の検討では、各波形の分離・再現性が良好であり、fVEPでは4波潜時、ABRでは5波潜時、SSEPではN13およびN20潜時、BRでは両側でR1潜時が、+2SD以内であることを以って正常とした。
結果
Jabbour1期ではfVEP、ABR、SSEPの波形描出は良好であり、BRを含めたいずれの検査においても潜時延長を認めなかった。Jabbour 2期では正常なのはfVEP4/5(80%)、ABR4/6(66%)、SSEP3/6(50%)、BR4/6(66%)であった。Jabbour3期では正常なのはfVEP1/20(0.5%)、ABR11/20(55%)、SSEP6/20(30%)、BR7/20(35%)であった。Jabbour4期ではABR、SSEP、BRすべて異常であった(fVEPは未実施)。
結論
今回の検討では、Jabbour分類の進行とともに、SSEP、fVEPの異常がより早期から認められた。Jabbour3期まではABRは正常の例が多かったことから、SSEPの児においては音刺激を用いた療育活動は有効である可能性がある。また、SSPEの進行期によって各大脳誘発電位の異常出現度が異なることから、大脳誘発電位はSSPEの神経細胞障害の拡がりを推測することに寄与すると思われる。
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久保田 雅紀, 石島 亜純, 渡辺 美夏, 相田 文彦, 田中 宏子, 町田 裕一, 森川 昭廣, 野田 真一郎
2016 年 41 巻 2 号 p.
208
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障がい児(者)(以下、重症児)には呼吸器感染症の罹患が多々見られる。当施設で2014年〜2015年に呼吸器検体から分離された細菌の約半数はPseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)とStreptococcus pneumoniae(S.pneumoniae)だった。そこで今回、両菌に対する各種抗菌薬感受性を検討したので報告する。
方法
対象は当施設に入所する重症児で、2014年1月〜2015年12月の2年間、気道感染または保菌検査で痰培養し、P.aeruginosaの分離された57例(2014年:27例、2015年:30例)と、S.pneumoniaeの分離された42例(2014年:18例、2015年:24例)(同一患者から同一年に複数回分離した場合、その年の最も新しい分離株を採用)とし、各種抗菌薬感受性を年単位で集計した。培養は株式会社LSIメディエンスで実施し、抗菌薬感受性の判定はCLSIのガイドライン(2013)に従った。
結果
P.aeruginosaはペニシリン系、第3世代セファロスポリン系、アミノグリコシド系抗菌薬の感受性株が80%以上だったが、ニューキノロン系は80%未満だった。カルバペネム系はメロペネムが80%以上だったが、イミペネム/シラスタチンは80%未満だった。
S.pneumoniaeはペニシリンGにすべて感受性を示した。ニューキノロン系の感受性株は80%以上、マクロライド系は0%だった。
考察
P.aeruginosaに対するIPM/CS感受性を2014年と2015年で比較すると、感受性株が減少して中等度耐性株が増加した。メタロβ-ラクタマーゼ産生型は認めなかった。
S.pneumoniaeはペニシリンGの感受性が保たれており、治療に有効と考えられた。ニューキノロン系のレボフロキサシンは両年で1例ずつ耐性株を認めたが同一患者からの分離だったので検査歴を詳細に追うと、2014年1月は感受性株が分離されたが以降のMIC値が徐々に上昇し、半年後に耐性株が分離された。2012年から2015年の内服用ニューキノロン系の年間使用量を調べると、2013年と2014年の使用量が多く、2015年は大きく減少していた。
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米衛 ちひろ, 中川 栄二, 竹下 絵里, 本橋 裕子, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 須貝 研司, 佐々木 征行
2016 年 41 巻 2 号 p.
209
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
重症心身障害児(者)(以下、重症児者)は、呼吸障害に伴い自発的排痰が困難なため、呼吸器感染のリスクが高い。当院の重症児者病棟で提出された喀痰培養結果から、起因菌について検討し重症児者における下気道感染症の特徴と治療について検討する。
方法
当院の重症児者病棟で2010年11月〜2016年5月までに下気道感染症と診断され、培養検査に適した喀痰を採取された16名(全例大島分類1)、51検体について、喀痰培養検査結果と治療経過から起因菌と推定される細菌を集計した。さらに気管切開(気切)群10名31検体、非気管切開(非気切)群6名20検体に分けて検討した。
結果
全体での主な検出菌比率は、H. influenzae 36.1%、S. pneumoniae 18.0%、M. Catarrhalis 16.8%、Streptococcus属10.8%、P. aeruginosa 3.6%であった。MRSAによると考えられる下気道感染症はなかった。気切群ではH. influenzae 34.0%、S. pneumoniae 24.0%、M. Catarrhalis 18.0%、Streptococcus属14.0%、P. aeruginosa 4.0%であった。非気切群ではH. influenzae 39.3%、Streptococcus属21.2%、M. Catarrhalis 15.1%、S. pneumoniae 15.1%、P. aeruginosa 3.0%であった。
考察
市中肺炎と同様にH. influenzae、S. pneumoniae、M. Catarrhalisは多く認めた。特に非気切者の下気道感染で口腔内常在菌であるStreptococcus属の比率が高い傾向にあったのは、誤嚥による下気道感染が多いためと考えた。重症児者ではP. aeruginosaやMRSAが喀痰から検出されることが多いとされる。今回の検討では起因菌としての検出率は高くなかった。当院では以前広域の抗菌薬を使用してP. aeruginosaやMRSAが増えた経過があり、約10年前から狭域の抗菌薬使用に取り組んでいる。適切な抗菌薬の使用を行ってきたため、今回P. aeruginosaやMRSAによる感染症は少なかったと考えた。
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竹内 元浩, 平城 徹, 平城 直子
2016 年 41 巻 2 号 p.
209
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
嫌気性菌は培養困難で分離頻度は低いが、実際には無視できない病原体である。今回、われわれは当施設で経験した嫌気性菌感染症について報告する。
方法
重症児者病棟入所者および在宅患者において過去10年間に分離された嫌気性菌について後方視的に検討した。
結果
2006年以降、嫌気性菌が分離されたのは以下の8症例であった(菌名、検体、感染症名の順に記載)。(1)Peptostreptococcus anaerobius(胸水)、膿胸(2)Peptostreptococcus micros、Fusobacterium nucleatum(肺穿刺膿)、肺膿瘍(3)Streptococcus intermedius(胸水、血液)、膿胸(4)Prevotella oris、Fusobacterium nucleatum(穿刺膿)、副鼻腔炎+前額部膿瘍(5)Finegoldia magna(耳漏)、副鼻腔炎+中耳炎(6)Bacteroides thetaiotaomicron(血液)、イレウス+敗血症(7)Bifidobacterium species 血液、イレウス+敗血症(8)Bacteroides fragilis(血液)、菌血症
考察
嫌気性菌が分離されたのは8例のみであった。呼吸器系3例は肺化膿症で、すべて口腔内常在菌であり誤嚥が示唆された。副鼻腔炎に関連した症例も2例あり、積極的に嫌気培養を行う価値がある。イレウスに伴う敗血症、即ちBacterial Translocation(BT)の2例は死亡の転帰を取った。1例は「善玉菌」とされるビフィズス菌であったことが注目される。背景疾患を有しない菌血症の症例(8)は、Bacteroidesであったことより、腸管由来のBTと思われる。健常者のBT発症例も報告されているので、消化管に問題の多い重症心身障害患者の熱源不明感染症ではBTも念頭に置く必要がある。
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田村 えり子, 大瀧 ひとみ, 三原 幸織, 根崎 末利子, 内山 晃, 大石 勉, 白井 徳満
2016 年 41 巻 2 号 p.
210
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
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はじめに
施設長期入所者における感染症に対する獲得免疫の特異性や加齢による免疫機能低下は明らかにされている。しかし、高齢化の進行しつつある重症心身障害児者施設における感染症に対する獲得免疫能の評価は十分なされていない。重症児者施設である当園において、麻疹、風疹、ムンプス、水痘ウイルスに対する抗体価を酵素免疫抗体法(EIA法)で測定し検討したので報告する。
対象と方法
対象は園生174名、対照は当園職員274名である。園生の平均年齢は男48.2歳(n=94)、女50.7歳(n=80)。約4割の園生が在園40年以上である。職員男の平均年齢は44.2歳(n=98)、女45.5歳(n=176)である。園生と職員のウイルスIgG抗体価はEIA法で測定。日本環境感染学会基準に従い抗体保有状況を園生職員間、男女間、および年代間で比較検討した。有意性の検定にはStudentのt検定とPearsonのχ2乗検定を使用した。
結果および考察
麻疹抗体保有率は園生70.1%:職員66.8%、風疹は55.7%:90.5%、ムンプス45.4%:69.0%、水痘90.2%:98.9%であった。麻疹と水痘では園生職員間、男女間において抗体価・抗体保有率に有意の差はなかったが、麻疹では園生職員ともに年齢と抗体保有率は正の相関を示した。風疹では園生職員間の抗体保有率に有意の差を認めた(p<0.001)。2012〜2013年の風疹流行に際して職員に積極的にワクチン接種を実施したことも差の要因と考えられた。一方、ムンプスではそのようなワクチン接種はなかったが園生職員間で有意の差を認めた(p<0.001)。
結論
風疹とムンプスで園生の抗体保有率は職員と比べて有意に低値を示した。未感染での入園、ワクチン接種やブースターの機会が低頻度となったことも要因の一つと考えられる。ワクチン予防可能疾患(VPD)に対する積極的な接種の推進は重要と考えられる。
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市山 高志, 杉尾 嘉嗣
2016 年 41 巻 2 号 p.
210
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
当センター長期入所中の重症心身障害児(者)に対するインフルエンザワクチン2回接種の必要性を検討する。
方法
当センター長期入所中の重症心身障害児(者)76例および肢体不自由児2例、計78例(5歳から53歳)に対して2013年11月〜2014年1月の間にインフルエンザワクチンを4週間間隔で2回接種した。接種量はすべて0.5mlとした。ワクチン接種前および1回目と2回目ワクチン接種後約3週間に合計3回の採血を行い、H1N1(Aソ連型)、H3N2(A香港型)、B型の抗体価をHI法で測定した。抗体価40倍以上を「抗体保有」、ワクチン接種後の抗体価が40倍以上かつ接種前の抗体価から4倍以上の上昇を「陽転」と判定した。
結果
H1N1(Aソ連型):接種前抗体保有率48.7%、1回接種後75.6%、2回接種後82.1%、1回接種後抗体陽転率16.7%、2回接種後17.9%だった。H3N2(A香港型):接種前抗体保有率41.0%、1回接種後69.2%、2回接種後65.4%、1回接種後抗体陽転率20.5%、2回接種後15.4%だった。B型:接種前抗体保有率15.4%、1回接種後28.2%、2回接種後24.4%、1回接種後抗体陽転率5.1%、2回接種後2.6%だった。
考察
今回の検討では、1回目のワクチン接種では陽転せず、2回目のワクチン接種で陽転した患者はH1N1(Aソ連型)で2例、H3N2(A香港型)、B型では0例だった。本所見よりインフルエンザワクチンは2回接種の必要がないことが示唆された。また過去の健常児(者)の報告に比し、ワクチン接種後の抗体保有率、陽転率が低く、重症心身障害児(者)の免疫能の低下が示唆された。
結論
重症心身障害児(者)であってもインフルエンザワクチンは1回接種で十分と考えられた。
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高尾 智也
2016 年 41 巻 2 号 p.
211
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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重度痙縮による障害を改善する方法としてバクロフェン髄腔内投与療法(以下、ITB療法)は、非常に有用な方法である。今回、われわれは重症心身障害児(者)の2例に対してITB療法を施行し、有効であったので報告する。症例1は、脳性麻痺、重症痙縮の5歳の男児。筋緊張亢進に対してボトックスを近医で受けていたが、効果が1カ月持たないためITB療法を希望され4歳時に当院受診された。スクリーニング検査にてバクロフェン25μgで効果を認め、ITB髄注ポンプ植え込みを施行した。術後はバクロフェン50μg/日にて、下肢の筋緊張は軽減し、術後8日目に退院した。術後は患児の表情も良くなり、患児の状態を見ながら徐々に増量している。現在は家族の希望でバクロフェン199μg/日にて筋緊張コントロールも良好で家族も満足している。症例2は脳性麻痺、重症痙縮の20歳の男児。年々、上下肢の筋緊張が悪化し、側弯も進行してきたためITB療法を希望され19歳時に当院受診された。スクリーニング検査にてバクロフェン25μgで効果を認め、ITB髄注ポンプ植え込みを施行した。術後はバクロフェン57μg/日にて、上下肢の筋緊張は軽減し、術後9日目に退院した。術後は患児の表情も良くなり、家族の希望でバクロフェン380μg/日まで増量し、筋緊張コントロールは良好で家族も満足していたが、筋緊張が取れるにしたがい、自分で除圧できなくなり仙骨部の褥瘡が悪化したため、内服薬を減量中である。重症心身障害児(者)の痙縮は日常生活・介護支援上の重篤な阻害因子になるだけでなく、痙縮に由来する疼痛によりさらに痙縮が増悪し、側弯の進行などの負の連鎖を形成している。痙縮を軽減することは障害児(者)医療において大きな意義を持っており、適切な筋緊張コントロールと長期的な評価が重要である。
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三鴨 可奈子, 川谷 歩, 玉崎 章子, 片桐 浩史
2016 年 41 巻 2 号 p.
211
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重度痙縮はADLやQOLを著しく阻害する。重度痙縮に対して髄腔内バクロフェン療法(ITB療法)が施行された脳性麻痺児の治療開始後4年間の経過を報告する。
症例
症例は四肢麻痺、女児。粗大運動能力システム(GMFCS)レベル5。6歳時筋緊張は亢進し全身性痙縮を呈していた。ATNRの肢位をとりやすく姿勢介助が困難、唾液でムセたりオムツ交換がしにくいなど介助の問題も抱えていた。緊張は亢進しやすく、玩具を怖がった。ボツリヌス毒素療法が施行されたが介助上の変化はみられず、スクリーニングトライアルを経てポンプ埋込み術が施行された。
経過
Ashworth評点は術前上肢平均2、下肢平均3.25であったが下肢優位に低下し、術後3カ月で上下肢ともに1.25となり4年後も維持されている。股関節の側方化率は右64%、左54%であったが、術後4カ月で右30%、左48%と低下、4年後では右34%、左7%となり股関節亜脱臼は改善した。術直後よりATNRが出現しにくくなり姿勢介助も容易になった。粗大運動能力尺度(GMFM)は術前6%から術後4カ月で8.8%へ向上し4年後も維持されている。機嫌がよくなり、玩具を怖がらなくなりオムツも替えやすくなった。摂食機能は改善し、嚥下がスムーズになった。一方自力排便は困難となった。筋緊張低下による支持性低下と、埋込み部分の突出に対し車椅子の修理など姿勢の配慮が必要となった。術後2年8カ月で側弯を発症し動的脊柱装具による治療を開始した。
考察
症例は全身性の重度痙縮を呈していたが、ITB療法により痙縮が改善するととともに多くの効果と変化を認めた。股関節亜脱臼は改善し姿勢反射は統制され運動機能は向上した。介助は軽減されADL・QOLは拡大した。埋込みポンプは小児の体格に対して大きく、症例は姿勢に配慮が必要であった。筋緊張が低下したことに伴う二次障害もみられている。脳性麻痺児へのITB療法では、きめ細やかな姿勢管理が必要である。
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青山 祐樹
2016 年 41 巻 2 号 p.
212
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
重症心身障害者(以下、重症者)は、身体的な特徴から褥瘡を発生するリスクが高い。褥瘡予防には体圧分散マットレスの使用が推奨されている。また、近年褥瘡治療や循環動態に与える振動の効果が報告されている。本研究では重症者1名に対し、褥瘡治療に有効とされている振動とポジショニングによる除圧を実施し、その褥瘡対策の有用性を明らかにすることを目的とする。
方法
67歳男性。進行性家族性対麻痺疑い・てんかん。大島分類:1。経鼻胃管チューブより経管栄養。右大転子部にStageIIの褥瘡を有する。
方法
マットレス(スーパーフレックス)上にて、右下側臥位のポジショニングを設定した。設定は、大転子部を除圧するため体幹と大腿部にクッションを挿入した。褥瘡近位の膝下(マットレスの下)に振動器(リラフィール)を設置した。1日3回25分間振動を実施した。
褥瘡の経時的変化はDESIGN-R®(褥瘡経過評価表)で評価し、ポジショニング設定前後の体圧分布評価(SRソフトビジョン)を実施した。
結果
DESIGN-R®結果は開始時にD2-e0s3i1g1n0p0(5点)、7週目はD1-e0s3i1g0n0p0(4点)、10週目にはD1-e0s0i1g0n0p0(1点)と変化した。体圧分布評価よりポジショニングなしの大転子部圧は147mmHg、ポジショニングのみで49mmHg、ポジショニングとリラフィールでは49mmHgであった。
考察
振動とポジショニングによる褥瘡対策を重症者に対し行った。DESIGN-R®の結果より開始後7週目から改善を示し、10週目で皮膚損傷は回復した。体圧分布結果からリラフィールを挿入してもポジショニングの除圧効果が損なわれないことが認められた。血行循環の改善および除圧によって褥瘡が改善したと考えられた。
倫理的配慮、説明と同意
本研究は当センター倫理委員会の承認を得て実施した。また、対象者のご家族に、今回の研究内容と個人情報の取り扱いについて十分な説明を口頭および文書にて行い、同意を得た。
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河﨑 洋子, 松本 葉子, 西村 美緒, 八木 麻理子
2016 年 41 巻 2 号 p.
212
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
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はじめに
重症心身障害児者の合併症として脊柱側彎変形は多く見られる。脊柱変形は胸郭の変形を来し拘束性換気障害により呼吸機能低下を引き起こす他、消化管の偏位により胃食道逆流症を引き起こし、気管切開や胃瘻造設などの医療ケアを要する誘因となり、重症児者のQOLに大きく関わると考える。しかし脊柱側彎と重症児者の合併症や医療ケアの関係について直接的に検討された報告は余りないため、今回検討を行った。
対象と方法
対象は当センター入所中で脊柱側彎変形の評価を行った75例。Cobb角が60度以上の群を重度側彎群、60度未満の群を軽度側彎とし、両群について合併症(胃食道逆流症、気管軟化症)と医療ケア(気管切開、呼吸器装着、経管栄養)について比較検討した。また彎曲の形状により単一側彎群とS状側彎群に分類し両群についても同様の項目について比較検討した。統計はt-testにて検定し、統計学的有意差は5%未満とした。
結果
脊柱変形評価を行った75名の年齢の中央値は39歳で、男性48例、女性27例であった。75例中側彎を認めた72例のCobb角の平均は40.8度で、重度側彎群が54例、軽度側彎群が18例であった。また脊柱変形の形状は単一側彎群37例とS状側彎群35例であった。合併症と医療ケアの5項目すべてにおいて、重度側彎群が軽度側彎より有意に高率であった。また気管軟化症と胃食道逆流症、呼吸器装着の3項目においてS状側彎群が単一側彎より有意に高率であった。
考察
今回の検討の結果、重度の側彎は胃食道逆流症や気管軟化症の合併症の誘因となり、その結果気管切開や呼吸器装着、経管栄養といった医療ケアを要し、さらに彎曲の形状がS状側彎の場合は合併症を高率に認めると考えられた。今回検討した75名は全例脊柱固定術を受けておらず、体幹装具の装着や理学療法等の内科的治療で経過をみているが、外科的治療の適応について今後は症例に応じて十分な検討を行う必要性があると考えた。
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