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−在宅での適正な薬剤管理のために−
倉本 敦夫, 塩地 園代
2016 年41 巻2 号 p.
313
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
東京都では重症心身障害児(者)(以下、重症児)を含む医療的ケア児(以下、医ケア児)の多くは在宅で生活し、地域薬局から調剤を受けている。当施設でも、多くの医ケア児が外来を利用し、また、重症児の短期入所時にお薬手帳(以下、手帳)等を用いて薬剤管理指導時に持参薬確認を実施しているが、これらの業務を通し、かかりつけ地域薬局とのさらなる情報共有の必要性を痛感している。手帳はかかりつけ薬局との情報共有にも有効なツールであるが、一般に使用されている汎用の手帳では、医ケア児の調剤には情報量が少ない。そのため、保護者からの口述情報で補完されているが、曖昧になりがちであり、また、個々の保護者の影響も大きい。そこで、調剤に必要な情報を確実に共有するため、医ケア児を対象とした「療育お薬手帳」を作成したので報告する。
目的
手帳の活用により、医ケア児の在宅での、薬の与薬管理情報の適正化を図る
方法
市販ならびに利用者持参の手帳の項目を調査し、入所時に持参薬剤の評価に実際に情報収集した項目、薬剤師より指導・助言を行った項目について比較し、優先度が高い項目を精査して、手帳を作成した。
結果
経腸栄養等の項目、調剤項目、薬学的サービスの要求ならびに経腸投与の状況等の情報の必要性が高かったことから、これらの項目を追加した。
考察
医ケア児の情報、たとえば経管の有無や径の情報等は調剤上−味を考慮し顆粒にするか、錠剤を粉砕するか、細すぎて多剤への変更が必要であるか等−きわめて重要な情報ではあるが、地域薬局によっては現在のところ余りなじみがなく、使い慣れない項目もあり、調剤を受ける薬局が適切に活用できるかがポイントとなる。今回の手帳作成を機に、療育施設から地域薬局へ、HPや薬薬連携等を通して医ケア児の特徴的な情報を発信し、共有していける仕組みを構築していくことが今後の課題と考えている。
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堀江 久子, 鈴木 美紀, 三井 尚子
2016 年41 巻2 号 p.
313
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
東京都の委託事業として、東京都重症心身障害児(者)在宅医療ケア体制整備事業を実施し、協力を得られる医療機関の「かかりつけ医名簿(診療所)」を作成した。これらの情報が、患者や家族の視点から、実際の情報提供や診療に結びつくかを検証したので報告する。
目的
当センター利用の重症心身障害児(者)とかかりつけ医名簿の情報を結び付ける。また、かかりつけ医名簿の情報に結び付かないケースを分析して、今後の支援を検討する。
対象と方法
江東区、江戸川区、墨田区、中央区の4区に居住する、東部療育センターを利用する重症心身障害児(者)141名の家族に、平成26年に現在の医療機関の利用状況、平成27年にかかりつけ医利用の意向についてMSWよる聞き取り調査を行った。
結果
すでに診療所の利用(75名/141名、53%)や訪問看護の利用(65名/141名、46%)が多くあった。重症心身障害児(者)にも対応できる訪問診療や往診を専門とした在宅支援診療所があり、すでに利用されているという地域特性もあった。超重症、準超重症の家族は、かかりつけ医の利用について、慎重に考えていた。重症児スコアが9点以下の方が、かかりつけ医の情報に結びつきやすかった。
考察
眼科、皮膚科、耳鼻科等の診療が必要な際には、「かかりつけ医」名簿の情報が有効であるが、対象者に必要なより詳細な情報も加えながら、長期的に情報提供していくことが必要である。重症児スコアの低い方は、かかりつけ医の利用に前向きであり地域の医療機関との連携により、地域で診療が受けられる機会が増えていく可能性がある。今のところ、超重症、準超重症な方は、包括的かつ専門的に関われる当センターのような療育機関にもかかりつけ医機能を求めており、役割を果たす必要があると考える。
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荒木 千春, 川村 陽子
2016 年41 巻2 号 p.
314
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
A氏は、重度知的障害、脳性麻痺と診断され自宅療養中31歳時に肺炎で医療型病院に入院された。その後、介護者(母親)の病気により在宅介護が難しく、A氏の行動障害などから医療型病院での長期入院も困難となり、平成27年11月当院転院となった。転院当初より、特徴的な顔貌、強度の四肢チアノーゼなどから染色体異常を疑い検査を行い1q4モノソミーと判明した。今回、希少な疾患患者の行動障害に注目し看護を行ってきたので報告する。
患者紹介
A氏、35歳、女性、四つ這い移動、大島分類5、強度行動障害スコア10、医療度判定スコア26、おむつ使用、食事はスプーン使用の一部介助、清潔全介助。知的障害、てんかん、側弯、高脂血症、不整脈、少短頭、短頸、小顎、眼瞼裂斜上、平坦な鼻梁他。行動障害:奇声を発する、物事に固執する、自傷行為(髪を掻き毟る、顔を叩く)、他害行為(頭を叩く、身体に覆い被る)
看護介入結果
転院当初からB氏(80歳女性)への固執が見られ、B氏が嫌がり逃げるようになったところ、B氏に対して覆い被る、叩くなどの行動が見られた。特徴的な顔貌により表情も特異で、看護者がA氏の思いを汲み取れなかった。乱暴行為そのものには断固たる姿勢が必要なため、B氏との距離を取るように別空間で過ごす計画にした結果、奇声をあげ髪を掻き毟るなどの自傷行為が見られた。そのため、B氏と同じ空間で職員が見守る方法に変更した。また、職員が声掛けを多くする等意図的な関わりを増やしたことで、B氏への固執が薄れ乱暴行為は見られなくなった。
考察
A氏の乱暴行為は、依存しようと思っても甘えを受け入れてもらえなかったと感じたとき、依存できなかった人に対しての行動と捉えた。また、強い対人希求があるA氏にとって、B氏と話したことが強いストレスになったと考え、対人希求に対応した方法を取ったことが効果的であったと考える。
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岸本 鈴代, 森本 弥生, 門脇 知恵子
2016 年41 巻2 号 p.
314
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
目的
病院移転という環境の変化に伴い、行動障害が悪化することなく過ごすことができる
方法
期間:移転前の平成27年5月の1週間、および、移転後9月の1週間
対象:強度行動障害児(者)19名のうち、不眠によって自傷より外傷に発展する患者5名
方法:1.行動障害の標準看護計画の作成 2.強度行動障害児(者)の部屋割りおよびベッド配置 3.睡眠時間と行動障害の悪化の有無倫理的配慮:家族に個人が特定できないようにすることを説明し、了解を得る。
結果
1.看護職員の経験年数や思考により行動障害児(者)への対応にばらつきがあった。行動障害標準看護計画の作成にあたり経年別・職種別の意見交換を行うことで、看護職員が共通認識することが出来た。2.消灯後、看護職員の足音や姿を見て啼泣したり自傷が見られていたD氏は、睡眠まで2時間かかっていたが、スタッフステーションから遠い部屋にすることで、30分以内で睡眠出来ている。また、同室者のベッド柵を叩く音で夜中に覚醒していたA氏は、同室者を変更することで朝まで良眠出来ている。3.移転前に比べ移転後には睡眠時間は平均1.89時間増加している。行動障害の悪化による治療や自傷による外傷の悪化はない。
考察
行動障害標準看護計画を作成することにより、行動障害に対する危険回避や予測行動が明確になり、個々にあった対応を統一することができた。また、オープンフロアーから4人部屋への変化に対しては、強度行動障害児(者)個別に気になる音、気にならない音を区別して、生活のリズムや行動を踏まえて、部屋割りしたことは、身体の生理的リズムが整い睡眠時間の増加につながったと考える。さらに睡眠が整のったことで、行動障害の悪化の予防が出来たと考える。
結論
行動障害児(者)個々に対して統一した看護介入を実施することは、移転に伴う環境の変化に対応でき、行動障害悪化予防に効果的であった。
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−情報共有ツール「つなぐ」について−
小川 智美
2016 年41 巻2 号 p.
315
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
当センターリハビリテーション療法部小児療法室では、障害児(者)のライフステージに合わせ、未就学期・学齢期・成人期の各ワーキンググループ(WG)を立ち上げ、各ステージに必要な支援や研修などを検討し実施している。今回、未就学期WGの活動の一つ、情報共有ツール「つなぐ」についての活動内容、経過ならびに今後の方針について報告する。
活動内容および経過
千葉県では、療育を必要とするお子さんの情報伝達ツールとして、ライフサポートファイル(以下、LSF)が推奨されており、現在、県内の約5割以上の市町村で作成、使用されているが、療育場面や当センターでの使用経験は少ない。またLSFは、知的・発達障害児のライフステージが移行しても支援が継続できることを目的に作成されている。そのため多機関連携目的や肢体不自由児には適さないなど、われわれが行った保護者のアンケートから意見が挙げられていた。以上より、分かりやすく、誰もが使用しやすいよう自由度のある書式「つなぐ」を作成した。また、「つなぐ」を渡すだけではなく、書き方を提案し実践する「書こう会」をH27年8月の親子入園児の保護者から実施し、「つなぐ」の試用を開始した。「書こう会」では、見本を見せ、訓練場面、座位保持等の道具、玩具の写真を提示し、リハスタッフと一緒に作業することで、ファイル記載をスムーズに促すことができた。また、退園直前のフィードバックでは、活用方法、書き方は一緒に行うことで分かりやすく、書式も簡単なため、情報共有ツールとして使用しやすいとの意見が多く挙げられた。
今後の方針
外来移行した際にも「つなぐ」を活用するために、方法やモチベーションの維持、実際の使用状況の確認など、継続的な関わりが重要であることが考えられた。併せて、地域療育機関への説明、情報提供なども必要であることから、当センターの社会福祉士との連携の重要性も示唆された。
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藤岡 由夏, 雨宮 馨, 中村 由紀子, 小沢 浩
2016 年41 巻2 号 p.
315
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
近年、在宅の重症心身障害児者(以下、重症児者)は増加している。一方で一般クリニック(以下、CL)への受診は困難とされる場合が多い。先行研究において重症児者の家族から一般CLへの受診の難しさや不安が聞かれていた。今回一般CLへのアンケートを行い、CL側としてどのような条件が重症児者の通院の可能性を拡大、もしくは困難にしているかを検討した。
対象・研究方法
八王子市内において小児診療を行っている、または重症児者の診療をすでに行っていた一般CL11施設へアンケート調査を行った。
結果
回収率は100%で診療科は延べ15科あり、内科系外科系がほぼ半数だった。11施設中、重症児者が通院しているCLは9施設であり、各CLにおける重症児者の受診人数は1〜16名、平均4.2名であった。約半数の施設がバリアフリーであった。診察時間は半数で通常の約2倍の時間を要し、7施設は重症児者の診察に困難を感じていた。今後新たな重症児者の受け入れは9施設が可能であり、そのうち2/3が事前連絡必要と回答した。ほとんどの施設で既往歴・ADLの情報を必要としていた。
考察
重症児者の診察は時間を要する場合が多く、他の患者への影響があることから多数の受け入れは難しいと考えられる。しかし予約の調節やスタッフ間の協力などの工夫で重症児者の診察を行っているCLもあり、今後の受け入れに関しても協力的な回答が多かった。重症児者の診察では、医師からの情報提供を必要としているCLも多い。受診する側・紹介する側の配慮が必要であり、保護者の理解や協力も不可欠である。また、受けたCL側が相談できる体制や依頼内容の明確化で協力が得られやすくなるのではないかと考えられる。地域CLの診療状況を調査することで、重症児者家族への地域診療体制の情報提供が可能となるため、引き続きアンケートを実施していきたい。
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−現状と課題−
遠渡 絹代, 若山 志ほみ, 古田 晃子, 河村 昌子
2016 年41 巻2 号 p.
316
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
目的
A県で在宅生活をしている重症心身障がい児に携わる専門職を対象に、地域連携における現状と課題を明らかにする。
方法
研究対象者:福祉施設(一部病院機能を有する)、訪問看護ステーション、特別支援学校の看護師、保育士、理学療法士、養護教諭、教諭、相談支援専門員、計9施設・16名
研究方法:「障がい児に携わる専門職の地域連携に関する現状と課題」をテーマに、各専門職の意見を聞くことで得られる相乗効果を期待して、120分のグループインタビューを実施した。
分析方法:得られたデータは逐語録を作成し、内容を整理した。
倫理的配慮:本研究はB大学研究倫理審査部会の承認を得た。
結果
地域連携に関することとして、どの専門職も「顔の見える関係を作ることが大切である」が、「困難事例と捉えられないかぎり顔を見合わせることはない」と答えた。理学療法士は「施設間の連携がなく、個々に活動している」、教諭からは、「個人情報の保護等により医療職と話す機会が減った」、看護師からは「障がい児は多数の医療機関、他職種が関わっており、その調整を家族が担っている」と答えた。
医療的ケアの重症児を支援している看護師からは、「新しい医療についていけていない」、「家族から引継いだ医療的ケアに戸惑いがあっても確認ができない」、などの技術的な面に不安を訴えていた。
制度に関する意見として、看護師から「障がい児の成長に伴い、支援内容が変化するが、ライフステージに合わせたコーディネートができていない」、などの意見があった。
考察
地域連携が必要であると考えているが、現状として、十分に取ることが出来ていないということや、経験値の中で障がい児の医療的ケアをしなければならないという技術の不安も明らかになった。さらに、障がい児のライフステージにあった継続した職種間の地域連携が必要であることが共通理解できたのではないかと考えられる。
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−研修会を実施して−
河村 昌子, 遠渡 絹代, 若山 志ほみ, 古田 晃子
2016 年41 巻2 号 p.
316
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
障がい児に携わる専門職を対象としたグループインタビューの結果から、a.地域連携の構築の必要性、b.医療的ケア技術に関する不安の軽減の2点が課題として示された。その課題を受け研修会を実施した。
目的
地域連携を意識した医療的ケアの研修会の効果を明らかにする。
方法
研究対象者:障がい児に携わる看護職で研修会に参加した9名
研究方法:研修会は講義と演習で約6時間とした。内容は人工呼吸器を装着している患児の看護をテーマに、小児看護専門看護師と医療機器会社の社員を講師とした講義と、日常生活支援の演習とした。研修中は参加者と講師が積極的にコミュニケーションできるように環境を整えた。
データ収集方法:対象者による研修後の質問紙調査
分析方法:単純集計と内容を類似性で整理した。
倫理的配慮:B大学研究倫理調査部会の承認を得た。
結果
質問紙調査は9名中8名から回答を得た。参加して「よかった」と答えた参加者は8名中7名で、「まあまあよかった」と答えた参加者は1名であった。参加して感じたことについては「日常に行っている技術や看護の再確認ができた。」「演習があったのでわかりやすかった。」「他の施設とコミュニケーションが図れた。」「少人数であったため、アットホームな雰囲気があり、質問しやすかった。」などの意見があった。活用できそうな内容については「人工呼吸器や、胃瘻の子どもの援助に生かせる。」「人工呼吸器を直接触って、実習できたので活用しやすい。」などの意見があった。今後研修がある場合の参加の希望者は7人であった。
考察
地域で障がい児に携わる看護職が抱える課題に焦点を合わせ、実際の医療機器を使用した演習は、技術の振り返りや、不安の軽減につながった。また、コミュニケーションに重点を置いた研修会は、他の施設の看護師と顔の見える関係となり、地域連携の基礎作りに役立った。
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岩崎 裕治, 堀江 久子, 藤野 孝子, 益山 龍雄, 加我 牧子
2016 年41 巻2 号 p.
317
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
東京都の委託事業として、平成25年度より3年間、東京都重症心身障害児(者)在宅医療ケア体制整備モデル事業を実施したので、その内容と効果につき報告する。
目的
この事業の目的は、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が地域で安心して暮らせるために身近なかかりつけ医を増やす、また地域のネットワーク構築を図るというものである。
方法
江東区、江戸川区、墨田区、中央区の4区で、連絡会、研修会の開催、事例集発行、かかりつけ名簿作成等実施した。また医療機関ならびに重症児(者)の保護者を対象にアンケート調査を実施した。
結果
3年目では診療所の1176施設中507施設から回答があった。重症児(者)の診療は、83施設で行っており、定期的な診察、体調不良の初期治療、予防接種などであった。連携・支援の条件では、通院している病院との情報共有、症状悪化時の病床確保などであった。初年度と3年目を比較すると、回収率(17.7→43.1%)、診療している施設数(21→83)ともに増加がみられた。かかりつけ医名簿への登録も24→114施設へと増加した。病院では55施設中22施設より回答があり(回収率40.0%)、重症児(者)の緊急時受け入れ可能7施設、レスパイト入院受け入れ可能5施設であった。保護者へのアンケートは2年目に実施し、141名中75名がすでに地域の診療所で診療を受けていた。内容は定期診察、予防接種などで、また歯科、耳鼻科、眼科なども多かった。
考察
この事業の実施により、地域での重症児(者)の診療の拡大に効果があった。しかし各医師会での取り組みや、他の小児在宅医療連携拠点事業なども同時に実施されており、これらの影響も大きいと思われた。地域での有効な在宅医療の展開には、他の取り組みとの連携が必要であった。また医師以外の職種(訪問看護、相談支援専門員など)との連携も重要と考えられた。
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重盛 和子, 福永 典子, 島途 漠
2016 年41 巻2 号 p.
317
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
利用者支援の方法の一つとして、医療的問題や介護上の困難さといった「課題」の改善(達成)がある。しかしながらその「課題」とは利用者にとってのある一面であり、それにこだわると支援の幅も狭まってしまうのではないかと研究者らは感じていた。そこで、実際の利用者との関わりでの、職員が利用者に対して「嬉しさ」や「楽しさ」を抱く場面に着目した。そのような場面では、職員は利用者に対して「課題」とは別の、様々な視点が生まれる可能性があると考えた。
研究目的
1.利用者への肯定的な感情を体験した場面について明らかにする。2.利用者についての肯定的な視点についての記述が可能かどうか、評価シートの機能を検証する。3.その記述を元に利用者の新しい一面を発見し、利用者支援の幅を広げることの一助とする。
研究方法
1.医療度の高い利用者の多い病棟職員への面接の実施 2.面接の逐語記録をデーターとし評価シートを作成3評価シートの試行
結果
利用者と職員との関わりの中では、職員が利用者に対し「嬉しさ」や「楽しさ」といった肯定的な感情を抱く場面があり、逐語記録の内容を精査すると、利用者の反応や変化を見た場面」「直接触れるような関わりの場面」「利用者家族との場面」「職員自身で思う所」に大別された。また実際の看護・介護の成果を実感して「やりがい」を感じたという職員のポジティブな面を見ることができた。
考察
評価シートを試行して研究者らが意図した通り、記入内容は利用者の肯定的な面がピックアップされており、評価シートに記入することで、利用者の好きなこと、いきいきとした様子などを再発見できる機会になった。テーマを自らの体験に照らしあわせることで、残念な結果に終わってしまった体験でも、前向きに考え直せることが出来、評価シートを誰でも読むことができるように開示することで「自分にも似たようなことがあった」と感情を共有し共感してもらえる場になった。
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釜崎 和幸
2016 年41 巻2 号 p.
318
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症者)は、言葉を発したり自分の意思を伝えたりすることが困難なことから、コミュニケーションがとりにくい傾向にある。しかし私たちは、重症者とコミュニケーションを取りながら、看護・介護を行っている。そこで、重症者病棟に勤務されている看護師・療養介助員を対象に、普段重症者に対して行っているコミュニケーションはどのようなものかを調査したので報告する。
対象と方法
対象:当院の重症者病棟に勤務している看護師・療養介助員
方法:コミュニケーションについての、自作のアンケートに回答してもらい調査する。
結果
対象の職員は65名であり、そのうち57名からの回答があった。平均の看護師・療養介助員経験年数は10.7年、今の重症者病棟の平均経験年数は2.4年、過去の重症者病棟の経験も含めると、平均4.4年の経験年数であった。「重症者とコミュニケーションを取るために行っていることはなんですか」の質問に対しては、声掛け・表情を観察・目線を合わせる・ボディタッチという方法が多く行われていたが、「特によく行っている方法はなんですか」の質問に対しては、声掛け・表情の観察・バイタルサイン測定といった方法が行われていた。「重症者とどの程度コミュニケーションが取れていると実感しているか」の質問では、比較的コミュニケーションが取れていると感じている方が多くいた。コミュニケーションが取れていると感じた場面では、「声掛けで笑顔が見られた」「リラックスした表情が見られた」など、表情の変化によってコミュニケーションが取れたと感じたり、「バイタルサインが安定した」といった客観的な情報からコミュニケーションが取れたと感じたりした方が多くいた。
まとめ
いろいろな方法で重症者とコミュニケーションを図っていることが、今回の調査で分かった。これらの方法を駆使して、今後も重症者とコミュニケーションを取っていきたいと思う。
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鯵坂 誠之, 池田 友美, 中山 祐一, 吉田 広美, 金 京蘭, 郷間 英世
2016 年41 巻2 号 p.
318
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
A施設では、平成27年9月に、重症心身障害児を対象とした既存の放課後等デイサービスに併設するかたちでコミュニティ・カフェを開設した。本研究は、障害者が地域で豊かな生活を送るためのケア環境支援の一つとしてコミュニティ・カフェを位置付け、その在り方を介護スタッフの視点から検討することを目的とする。
方法
カフェに関わりのあるA施設の介護スタッフ6名を対象に半構成的面接法を用いてヒアリングを行い、「カフェでしたいこと」「カフェでできること」「カフェに求められること」に関する自由意見を収集した。その内容をICレコーダーに記録するとともに言語データとして逐語化し、質的帰納的に分類した上でカテゴリー化を行った。
結果と考察
対象者から得られた言語データは全93個であり、その言語データを質的帰納的に分類した結果31個の概念に収束され、その上位階層として12個のカテゴリーに収束された。その結果、介護スタッフから見たコミュニティ・カフェの在り方として、Ⅰ:自信をつけるために人々とつながることのできる憩いの場、Ⅱ:場づくりのための持続的な雰囲気づくり、Ⅲ:障害者主体の体験型イベント、Ⅳ:笑顔をつくるためのしつらえ、Ⅴ:情報発信とその働きかけ、の5つのコアカテゴリーが示された。このうちⅠ〜Ⅲのためには、地域住民との関係を考慮しながらも障害者が主体的に関わることのできる企画等の支援が重要であり、Ⅳのためには運営側(事業主やスタッフ)の負担を抑えた空間整備等の支援が重要であると考えられる。特に憩いの場の創出には持続的な雰囲気づくりが求められるが、そのためには日常的・定期的にイベントを開催するなどの工夫も必要となってくる。ⅤについてはⅠ〜Ⅳを情報発信していくことが求められている。今後は企画等の支援を段階的に整えていくとともに、実証実験等により空間整備等の支援を検討していくことが課題である。
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林 恵津子, 加藤 るみ子, 田中 裕
2016 年41 巻2 号 p.
319
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
目的
重症心身障害のある人は行動表出に制限があるため、視覚刺激に対して振り向きや追視、注視で応答をすることが難しい例が多い。療育では視覚刺激を呈示することがあるが、刺激を受容しているか行動反応のみでは判断が難しい。自発性瞬目は刺激への定位や注意と関連することが先行研究により指摘されている。重症心身障害のある人でも瞬目は観察される例が多い。そこで、本研究では瞬目を指標として視覚刺激の定位と注意の維持について評価することにした。
方法
5名の協力者は視覚刺激に対する振り向きや追視、注視が観察されなかった。関わり前のベースライン場面、視覚刺激を提示しない条件として素話場面、視覚刺激を呈示する場面としてパペット呈示場面を設定した。支援者の関わる両場面ともストーリー内容と呈示時間は同じとした。協力者の瞬目をビデオカメラで録画した。1/33秒単位で瞬目の出現と眼瞼の閉・開の所要時間(瞬目の持続時間)を同定した。
結果
5名とも、ベースライン場面では、瞬目の出現は乏しくその持続時間も長かった。ベースライン場面と素話場面の瞬目を比較すると瞬目の頻度は上昇し、持続時間は短縮した。関わりにより覚醒が高まったと考えられた。瞬目を素話場面とパペット呈示場面で比較すると、5名の協力者の内4名に瞬目の様相に差異が見られた。3名はパペット呈示当初において、持続時間の短い瞬目の出現が多く観察された。このような瞬目の様相から、視覚刺激への定位が考えられた。また、1名は、パペット呈示場面において素話場面よりも持続的に瞬目の頻度が上昇し、持続時間の短い瞬目の出現が観察された。視覚刺激に対する注意の維持が考えられた。
結論
行動表出上は視覚刺激に対して振り向きや追視、注視などの明確な行動反応が観察されない事例でも、瞬目では反応が観察された。瞬目は重症心身障害児者の刺激受容評価に有効な指標であった。
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−初期段階でのリフレクションの重要性−
清家 幸子, 川口 英里香, 石黒 千鶴
2016 年41 巻2 号 p.
319
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
私たちは2015年5月に予期せぬ死亡事例を経験し、当日居合わせたスタッフと周囲のスタッフの中に疑問が解決されないまま不信感につながり困惑した空気が病棟内に流れることになった。そのため事故分析チャートをもとにグループワークを行い事故要因の共有、初期段階でそれぞれの思いが語れる場となり、前向きに今後の事故再発防止に取り組むことができたのでここに報告を行う。
事例
63歳男性診断名は脳性麻痺、知的障害、徐脈頻脈症候群。大島分類:1。日常生活全介助、自力での動作は困難。事故発見時の状況19:10発見。発見時は布団に入床、多量の発汗、深めの側臥位、廊下と反対方向を向き顔を枕で埋めている体勢で心肺停止、嘔吐の様子もなく顔色蒼白、窒息または循環器疾患が主な原因として考えられた。
実施および結果
事故後の病棟の対応として、事実の確認を明確にし、皆が当事者意識を持ってもらいスムーズな業務改善を行うこと、リフレクションの機会にすることを目的とし、要因の背景を全スタッフと共有していくために6〜10名ほどのグループに分け説明した。また、疑問や不安な声に対してはミーティング等を活用し、早急に解決していくようにした。次に強化月間として2カ月間、ミーティング時に安全チーム10か条を読み上げ、指差し確認を実施。これによって皆が急変時に必要な情報を確認し、チームとして取り組むことで安全風土が構築されつつあると考えられた。
考察
チームで早期に事実背景を共有することは改善に向けた構築にはとても重要であり、分析を可視化することで一つの事例にはいくつもの要因背景が重なり合っていることを明確にすることができた。しかし死因が明確にされていないことで当日居合わせた職員の罪悪感は軽減することはできても無くすことはできない。医療事故調査制度の施行もあり、このような事故事例発生時のセンターとしてのシステムの構築が今後の課題となっている。
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−対処・治療方法とその選択−
中谷 勝利, 高橋 長久, 北住 映二
2016 年41 巻2 号 p.
320
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児者では、さまざまな原因で吃逆反射が誘発され、ときに長時間持続して睡眠障害や体重減少などQOLの低下を招くことがある。今回、吃逆に対して治療を施行した症例についてまとめ、治療方法とその選択に関して文献的考察を加えて検討した。
対象
2016年5月までに当センター外来または入所利用者のうち持続する吃逆に対して治療を施行した8人(全例男性)。基礎疾患は脳性麻痺が2例、低酸素性脳症後遺症が2例、神経変性疾患が2例、頭部外傷後遺症が1例、重度精神遅滞が1例だった。大島分類は全例1で、6例で胃食道逆流症を合併していた。
結果
全例で薬物治療が試行され、7例でバクロフェン(1包0.08〜0.20mg/kg、効果あり1、やや効果あり4、効果なし2)が、3例でクロルプロマジン(1包0.24〜0.36mg/kg、全例効果あり)が使用され、他にクロナゼパム、ジアゼパムの使用が各1例で、それぞれ効果は無かった。胃食道逆流症の治療では、プロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーの定時内服には効果が認められず、1例で噴門形成術により吃逆が消失し、1例で胃食道逆流症の改善に伴い吃逆の回数が減少した。漢方薬などその他の薬剤の使用はなかった。
考察
吃逆反射の求心路は舌咽神経咽頭枝や迷走神経・横隔神経および交感神経で、中枢は延髄背側の疑核腹外側部分の網様体にあり、視床下部などの上位中枢の抑制を受ける。薬物治療としてはクロルプロマジンに保険適応があり、GABA作動薬であるバクロフェンが反射に抑制的に作用すると言われている。重症心身障害児者では咽頭への刺激、胃食道逆流症や胃拡張、肺炎・胸膜炎などによる横隔膜への刺激などによって吃逆反射が誘発され、その誘因によって治療方法の選択肢も異なったものになると考えられる。吃逆の持続によってQOLが低下することもあり、薬剤の副作用なども考慮した適切な治療を行う必要がある。
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森井 和枝, 沖川 悦三, 村田 知之, 辻村 和見, 松田 健太, 長谷川 玄哉
2016 年41 巻2 号 p.
320
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
重症心身障害児者は嚥下機能の障害に伴い呼吸機能の低下を来す。気道クリアランスや呼吸困難の軽減、肺許容量・ガス交換の改善、下側肺障害や褥瘡予防などのためには体位変換が重要となる。しかし、成長し身体的に大きく体重が重くなると、特に腹臥位姿勢への変換が困難となる。今回、成長しても利用しやすい腹臥位保持装置付き車椅子の製作を試みたので、その概要と使用状況について紹介する。
構造と仕様
本車椅子は仮合わせを繰り返し、ティルト角度を後傾10度〜前傾50度、リクライニング角度を90〜140度とした。前方ティルト後の後傾操作を容易にするため、体重補完用に電動アシスト機構を取り付けた。前輪(キャスター)は5インチ、後輪は12インチとし、全長は約1050mm、全幅は約780mmのサイズとなった。
対象および使用状況
対象者はレノックス・ガストー症候群、18歳、女性、身長150cm、体重48.5kgであった。身体機能は嚥下機能の低下により1時間に数回の吸引が必要であり、栄養摂取は胃瘻にて実施していた。本車椅子への乗車方法は、先ず後方ティルトした状態で移乗させ胸当てをセットする。その後、状態をみながら前方ティルトしていく。前傾後はサチュレーションも良好であり、以前から希望していたハンドサッカーにも参加できるようになった。
結語
体位変換は身体機能を良好に維持するために欠くことができない。特に自ら体位を変えることのできない重症心身障害児者にとっては、とても重要かつ必要な介護行為となる。容易に腹臥位姿勢がとれる車椅子は、介護者の負担を軽減するとともに、重症心身障害児者の活動範囲を拡大し積極的な社会参加を支える基盤となるであろう。
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−医療型障害児入所施設からの紹介−
菅沼 雄一, 吉井 牧子, 片山 由美子, 豊島 彩子, 冨樫 怜奈, 加藤 康子, 星 順, 奈須 康子
2016 年41 巻2 号 p.
321
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
重症心身障害児は著しく運動や表現が制限されるために、成長の過程において年齢に応じた遊びを経験する機会が少ない現状にある。また身体が発育した児は、より介助者の負担も増え、行えることが減少する傾向にある。近年、補装具や玩具が著しく発展しているが、重度の運動障害をもつ子どもたちが遊べる遊具はまだ少なく、各々の施設・学校などで一からモノづくりをしながら遊びや活動を考案している現状がある。今回、我が施設におけるリハビリテーションおよび療育活動における、様々な遊具を用いた遊びや活動の一部を紹介し、今後の展望と課題を提示させていただく。
遊具と遊び方
今回、強化ダンボール、イレクターパイプ、木素材の遊具を用意し使用した。ブランコは親子兄弟で乗ることを想定し、スペースを確保することで姿勢保持具も併せて使用できた。揺れる遊具は関節可動域の狭い子どもでも乗れるようにし、抗重力運動や揺れ遊びができるものを用意した。気管切開をしていて呼吸器の必要な子どもについては接続管と気管カニューレが動かないように工夫をし、できるかぎり大きな動きを取り入れられるように配慮した。これにより、重度の運動障害のある子どもや医療依存度の高い子どもでも、ダイナミックな遊びや家族とともに楽しむ遊びを工夫することができた。
今後の課題と展望
今回、施設外部のリハ工学とデザインの専門家に協力していただくことによって、転倒や破損のリスクを最小限に抑える遊具の工夫を行えているが、多様で容易な誰もが使えるデザインを検討していく必要がある。呼吸器を24時間必要とする子どもたちには移乗の際により多くの人手が必要となり、喀痰吸引が必要な子どもにはご家族もしくは医師・看護師等の協力が不可欠となる。今後、衛生面への配慮や協力体制のマニュアル化を行うことで、より多くの子どもたち・ご家族が有意義な時間を過ごす場面を増やせるようにしたいと考えている。
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中友 千芳子, 清水 三花
2016 年41 巻2 号 p.
321
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
当院では、平成19年に「重症心身障害児(者)病棟の身体拘束・行動制限等に係る検討委員会」を立ち上げ、以降毎月「身体拘束と行動制限等に関する評価会」(以下、身体拘束評価会)を実施している。平成27年度より身体拘束評価会内容・構成員を見直し、身体拘束担当看護師を加えて有効的な実践につなげたことにより、身体拘束等の最小化に対し一定の成果が見られたので報告する。
方法
対象者:身体拘束および行動制限を行っている全利用者(32名)。
方法:1)身体拘束評価会を月1回実施。内容の見直し、検討。2)検討した内容を実践。3)実践した内容を次回評価会にて評価、再検討。
結果
身体拘束および行動制限の内容として、「服紐」、「つなぎ服」、「高柵ベッド」、「施錠部屋」、「股紐(車椅子)」、「ミトン」の6項目で検討を行い、最小化を図る取り組みを開始した。一定程度、数の減少を図ることができたが、安全上の理由による身体拘束等は現状維持となっている。対象者の身体拘束等の内容を見直すと、身体拘束等に至る理由や方法、程度など職員間で認識に差があったことがわかった。現状の見直しや最小化に向けての取り組みは、利用者への支援のあり方を見直す機会となり、QOLの向上につなげることができた。
考察
解消されたケース、解消できないケースを問わず、個々の要因分析や見直しを定期的に行い、身体拘束等を行う時間や方法等の検証を継続していくことが大切であると考える。他職種による検討の有効性は、身体拘束等を行わなければならない事象を多面的に捉え、様々なアプローチの方法を検討できることであると考える。
課題
現状の体制の継続、および職員の身体拘束等に対する問題意識の維持・向上が今後の課題と考える。また、病院全体として身体拘束等に対する問題意識を持つことができるように、当該病棟から病院全体へ発信していくことも重要と考える。
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藤本 明, 今村 和典, 佐藤 圭右
2016 年41 巻2 号 p.
322
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
当施設は、2014年2月13日から降り始めた大雪に見舞われ、倒木による断線により広範囲の停電が発生した。生命維持装置などは非常用電源で賄えたが、約20時間の暖房運転の停止が余儀なくされた。そこで、長時間停電時に冷暖房を確保する方法はないか検討した。
経過
停電時の状況:非常時の電源は、自家発電装置(発電機容量:120KW・三相交流(以下、三相)200V)から単相交流(以下、単相)100Vに変圧されることにより得られ、医療器具のための非常回路コンセントなど(計17.36KW)に出力されている。それ以外にも、消火設備などに三相200Vが25.85KW使われている。一方、空調設備は一部に単相100Vのものもあるが、単相200Vのものもあり使用できない。また、発電機容量内での空調設備の稼働の適否も未検討であった。
解決方法:超重症児者病棟20床を空調設備を稼働可能にする病棟と定め、検討を行った。空調設備として、三相200Vが12.49KW、単相200Vが16.50KW必要であった。その他、前述の三相200Vおよび単相100Vが必要であった。また、以上は安定動作時の消費電力であり、起動時などにはそれ以上の電力を必要とする。しかし、スコットトランスへの置換工事と、稼働手順さえ整備すれば、空調設備が稼働可能であることがわかった。
その後:置換工事を行い、稼働手順のマニュアルを整備して、自家発電装置を用いた災害訓練を実施した。また自家発電の燃料タンクも増設。これにより約25時間の連続運転が可能となった。
まとめ
夏冬の長時間停電時でも利用者が体調を崩すことなく生活ができ、また、他病棟利用者の避難場所としても活用できるようになった。災害時における社会福祉施設の役割として、今後当施設は、被災した地域の障がい者等から頼られる緊急避難場所としても確たる役割を果たせるよう整備を進めたい。
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−よりよい口腔ケアに向けた取り組み−
宮本 昌子, 松野 頌平, 中嶋 靖潤, 山野 恒一, 塩川 智司
2016 年41 巻2 号 p.
322
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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緒言
重症心身障害児者は、重度の知的・身体障害のため口腔ケアが困難となることが報告されている。また、常設の歯科がないため、口腔内の状態把握や機能維持に難渋する施設が多い。当苑では、常勤の歯科衛生士による専門的ケアに加え、他職種が適切なケアを実施できるよう取り組んでいる。ケア用のコップに、各利用者の注意点を記載することに加え、「口腔ケアのトリアージタグ」を作成することにより、専門的ケアの必要な利用者を職員間で共通認識できるよう工夫を行っている。また、職員対象の定期的な口腔ケア研修会により、情報提供や実技指導を行っている。今回、当苑歯科の取り組みの成果を把握するため、口腔ケアについての意識調査を行った。
方法
口腔ケアを行う機会の多い職種(看護師、介護士、ヘルパー)30名を対象にアンケートを行った。調査内容は、1)「口腔ケアのトリアージタグ」の意味を理解しているか、2)口腔ケアの重要性を理解しているか、3)口腔ケアの手技に自信があるか、4)口臭が気になる利用者がいるか、5)当苑に入職してから口腔ケアへの意識が変化したか、の5つとした。
結果
1)「理解している」100%、2)「重要である」100%、3)「自信がある」50%、「自信があるとはいえない」40%、「自信がない」10%、4)「ときどき気になる」100%、5)「高まった」90%、「変わらない」10%、というアンケート結果であった。
考察
トリアージタグの使用により効果的な口腔ケアが実践できる可能性が示唆された。当苑全体としては、口臭が激減したという意見がある一方で、歯科衛生士が重点的にケアできていない利用者では口臭が気になっていることが明らかとなった。また、ケアの重要性を理解していても実施が困難なため、歯科衛生士の専門的ケアが必要となる場合があることが示唆された。適切な口腔ケアは利用者のQOL向上につながるため、多職種がよりよい口腔ケアを実践できるよう今後も取り組んでいく予定である。
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大矢 祥平, 金坂 一篤, 阿部 桂子, 栗林 欣子, 尾上 望, 田邉 良
2016 年41 巻2 号 p.
323
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児(者)の骨折に関して、骨折要因検討や予防に関する取り組みの報告は多くあるが、実際に骨折した後のケアに関する報告は少ない。今回、骨折した重症心障害児に対して肺炎など二次的な合併症の予防を目的に姿勢および呼吸ケアを行ったので報告する。
対象
7歳、女児。横地分類A-1。単純気管切開にて24時間人工呼吸器管理。本児は以前は肺炎などを繰り返していたが、腹臥位などの姿勢ケアおよび呼吸の状態に応じた体位ドレナージや排痰ケア(肺内パーカッションベンチレータおよびカフアシスト®)を導入したことにより、約1年は大きく体調を崩すことなく過ごしていた。某日、他動運動に対する過剰な緊張から右大腿骨頸部骨折が発見され、8週間のギプス固定となった。受傷機転は不明であった。今回の報告にあたって、御家族に主旨を説明し書面にて同意を得た。
方法
理学療法士(以下、PT)と病棟看護師で、ギプス固定中における肺炎等の二次的な合併症予防のためのケアについて検討し、「可能なかぎり姿勢変換を行い、呼吸ケアを継続していく」ことを確認した。特に本児は、背側の肺に換気不良を呈することが多かったため腹臥位等のポジショニングを検討する必要があった。PTは腹臥位や深側臥位のポジショニング方法および安全な姿勢変換方法の検討を行い、病棟看護師とともに方法の実演し併せて書面にて伝えた。病棟看護師は、その方法を病棟チーム内で共有し姿勢および呼吸ケアを行った。
結果
8週間のギプス固定期間中は、再骨折や肺炎等で大きく体調を崩すことなく過ごすことができた。
考察
今回念頭に置いたことは、児の状態に応じた適切な姿勢ケアおよび呼吸ケアの継続と、再骨折しないようにするための安全な姿勢変換方法であった。職種間で方法を細やかに検討したことが、ギプス固定中に骨折を再度起こさずに、また体調を崩すことなく経過した要因であることが考えられる。
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住好 愛梨, 上原 隆浩
2016 年41 巻2 号 p.
323
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
当センター重度知的障害者病棟において、高齢化が進んでおり、それに伴い、以前に比べ日中の活動量の低下が起きている。近年、転倒や歩行中のふらつきを目にすることが多く、また受傷機転不明の骨折者も多い。そこで転倒が骨折のリスクを挙げる要因につながると考え、リハビリ科と共同で転倒防止委員会を立ち上げた。取り組みを行った結果、転倒予防に関して1つの傾向を見つけることが出来たので報告する。
方法
月1回、1時間のカンファレンスを看護師・看護助手・理学療法士で実施。対象は当センター入所者49名、平均年齢49.5歳。病棟職員に利用者の転倒に対してのアンケートを実施。結果より転倒の危険性が高いと思われる利用者を挙げ、生活状況・問題点の把握・共通認識を行いその対応を検討。対応策は、原則翌月までに実施。さらに転倒アセスメントスコアシートにてアセスメントを実施。危険度1〜3に分類した。
結果
アンケート、転倒アセスメントシートより11名(男性8名、女性3名)について対応を検討した。11名に日中何らかの転倒リスクがあり、その内6名は夜間にも問題があった。個別のリスクに対し対応策を検討。声掛けやトイレ誘導時間の変更など少しの環境調整やスタッフの配慮により9名については転倒リスクを減らすことが出来た。
考察
委員会立ち上げまでは、転倒原因の大半は利用者本人の問題ではないかと考えていたが、転倒リスクについてデータを取った結果、本人以外の要因でも転倒リスクが高くなることが分かり、少しの環境調整・配慮で転倒リスクを軽減出来た。この結果より、重度知的障害者の転倒、骨折予防として本人の身体機能だけでなく、その他の要因についても評価、対応することが重要である。9名については転倒リスク軽減が出来たが2名についてはリスク軽減につながらなかったことについては今後の課題である。
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−体圧測定を用いたエアマットからの離脱の試み−
田中 美智子, 橋本 洋之, 神前 多樹子
2016 年41 巻2 号 p.
324
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
フリー
はじめに
重度心身障害者は自力で体移動が出来ず褥瘡のリスクが高い。その予防のためにエアマットを使用することは効果的であり推奨されている。当施設でも在宅時に褥瘡が発生しエアマットを使用し入所後も引き続いて利用されている利用者が数名いた。エアマットは圧の切り替えによって長時間の皮膚への圧迫を防ぐことができるが、ベッドを移動した後のコンセントの入れ忘れ、熱がこもりやすい、ベッド上でのケアがしにくいなどの難点もあった。今回入所前からエアマットを使用していた利用者に対して体圧分布測定を実施しエアマットの必要性を評価し体圧分散マットへの移行を試みた。
方法
在宅時に褥瘡を認めた後にエアマットを使用し始めた三人の利用者に対して褥瘡リスクアセスメントツールを用いてリスクを評価した。エアマット使用時と体圧分散マット使用時の体圧分布を測定した。体圧が多くかかる部位に関してポジショニングやマットの種類を検討した。体圧分散マットへ変更後褥瘡発生の有無を評価した。
結果
褥瘡リスクアセスメントの結果は3名ともOHスケール、ブレーデンスケール共に高リスクであった。圧測定ではエアマットの方が仙骨部等局所に対する圧は低いが、他の体圧分散マットでも圧はそれほど高くないことがわかった。褥瘡スクリーニング評や圧測定の結果を元にポジショニングや使用するマットの種類を決めた。エアマット離脱後も新たな褥瘡の発生は無かった。
考察、まとめ
重症心身障害者にとって褥瘡発生のリスクは局所の圧迫だけでなく関節のこう縮、筋緊張亢進等の身体的特徴から発生する摩擦とずれが原因となるものが多い。褥瘡予防のためマットの選択、個別の好発部位の把握、ポジショニングの工夫をチームとして取り組みエアマット使用の可否が検討出来た。
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児玉 美恵子, 齊藤 宏美
2016 年41 巻2 号 p.
324
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児者(以下、重症児者)施設の多くは、生活主体の療養環境と医療体制とを併せ持ち、多職種の職員がその日常を支えている。その中で、重症児者の高齢化や機能低下に伴い、急変時の対応には常に不安を感じていると思われるが、その不安は職種によって様々であると予想される。また、急変時における一次救命処置(BLS)には正確な知識と技術が必要である。今回A施設では、救急体制の質の向上を図るために多職種合同のBLS講習会を開催した。そこで、急変対応時の問題点、BLS講習の効果、および、今後の課題などを検討したので報告する。
対象者・方法
対象者:重症児者施設に勤務する職員
看護職(23名)・生活支援員(9名)・OT(1名)
方法:日本救急医学会認定BLSコースを受講1)講習前および講習3カ月後に、BLSに関する認知度、知識などに関するアンケート調査を実施2)講習3カ月後に蘇生人形を使用し習熟度を確認結果BLS受講および実施経験は生活支援員より看護職の方が多かった。講習前のアンケートではBLSの認知度は低く知識は曖昧であったが、講習後ではいずれも改善された。さらに、講習後の習熟度では正しく実施できるようになった職員が多かったが、技術習得には幅があった。一方、講習前と比べ、後にはBLSに対する不安をより強く感じた職員が多かった。
考察・結論
急変の場面に遭遇する機会が多い看護職においても、受講前のBLS認知度、知識は比較的曖昧であった。受講後、多くは改善されたが、習熟度には差がみられており、今後も定期的に知識・技術を確認していくことが必要と思われる。一方、受講後、より不安を持つものが増えたのは、前には心構えができていなかったのに対し、急変が常に起こり得ることを強く認識するようになったためと考えられる。今後は、講習を継続するのみならず、急変時の役割分担やシミュレーション教育を取り入れたシステムの構築をしていくことが重要と思われる。
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市原 真穂, 下野 純平
2016 年41 巻2 号 p.
325
発行日: 2016年
公開日: 2020/08/08
ジャーナル
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目的
日中活動支援は重症心身障害児者の社会参加を支えるサービスである。利用者の医療ニーズは高まり、その対応が求められている。そこで、看護実践能力の向上を図る方法の検討を目的に、日中活動支援に関わる看護師を対象に調査を実施した。そのうちの施設内外における連携上の課題を報告する。
方法
全国重症心身障害日中活動支援協議会事業所に勤務する看護師に無記名の自記式質問紙を郵送した。調査項目は、事業所等の概要、他職種との関わりの困難、施設外の連携の困難等であった。選択項目は集計し、自由記載は内容分析した。所属施設の倫理審査の承認を得て実施した。
結果
261施設に郵送し68名の看護師より回答を得た。年齢は「50歳代」が最も多く28名(41.8%)であった。「臨床経験20年以上」が28名(43.1%)、現施設での経験年数は「12年以上」が最も多く18名(27.3%)であった。未就学児利用者の38.4%に医療的ケアがあり9.5%が超重症児であった。18歳以上利用者の33.5%に医療的ケアがあり11.8%が超重症児であった。「他職種との関わりに困難を感じたか」という質問では27名(39.7%)が「有」と回答した。自由記載内容は「基礎知識の相違」「体調に関する判断の相違」「危機管理意識の相違」「日常生活ケアと医療ケアの認識の相違」であった。「急性期医療や地域の専門職との関わりに困難を感じたか」という質問では17名(27.0%)が「有」と回答した。自由記載内容は「訪問看護や他利用施設との連携」「かかりつけ医以外の救急搬送時」「新たな医ケア導入メリットに対する医師との認識の相違」であった。
考察
重度化する利用者の状態管理に対して連携に困難を抱きつつ責任を負う看護師の実態が明らかになり、重度化に伴う他職種への教育的な役割も示唆された。
本研究は、JSPS科研費(26893257)の助成を受けて実施した研究の一部である。
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