日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
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最新号
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第2報
巻頭言
  • 末光 茂
    2019 年 44 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    年度が改まり、9月20日~21日の第45回日本重症心身障害学会学術集会も5か月後に迫りました。 今回のテーマは「重症児(者)をインクルーシブな世界の光に」とさせていただきました。相模原事件は、われわれ重い障害児(者)に関わる職員はもちろん、ご家族、そして何よりも障害のある方々に、大きなショックを与えました。 国でもこのことを深刻に受け止め、糸賀一雄記念財団に依頼し、全国数か所で障害児(者)に関わる職員の資質向上のための研修会「共生社会フォーラム」を開催しています。 1月22日~23日岡山で開催されたフォーラムでは、毎日新聞論説委員の野澤和弘氏が、糸賀一雄先生の「この子らを世の光に」について熱く語ってくださいました。 重症児(者)の福祉は、昭和42年(1967年)児童福祉法の改正に伴い、病院でありかつ児童福祉施設としてスタートし、52年が経過しました。その間、関係者の粘り強い努力により、重症児(者)本位の、そして医療と福祉を一体化した取り組みが全国に広がってまいりました。それは教育分野にも広がり、さらに地域での在宅中心の暮らしのための諸条件も一歩一歩充実しつつあります。 医療と福祉を一体的に提供する「医療福祉」の考えを最初に提唱し、実践してきたひとつが岡山の地であり、「川崎医療福祉大学」であると自負しています。 「全国重症心身障害児(者)を守る会」の北浦雅子会長と今は亡き社会福祉法人旭川荘の江草安彦前理事長が共に述べていたのが、「『世界に冠たる』重症児施策である」との評価です。 このことを国際的な視点で検証する一環として、海外の若手の研究実践家を招聘し、東京と岡山の施設ならびに在宅支援をつぶさに視察していただき、その評価とともに自国の実践を紹介しあい、今後の地球規模での進むべき方向を共有するひとときを持ちたいと企画しています。候補にオーストラリアとスコットランドの代表が挙がっています。 一方、国の社会保障制度が厳しさを増す中で、重症児(者)施策の歴史と現状をふりかえり、今後も安心安全な制度に向け課題を明示していただくべく、加藤勝信川崎医療福祉大学客員教授(前・厚生労働大臣)に記念講演をいただきます。 シンポジウムは、「医療的ケア児」と「大地震・大雨災害と重症児(者)」、さらには「国際的視点からみた日本の重症児(者)支援の評価と課題」を企画し、それぞれ座長等をお願いし、快諾いただきつつあります。 今回、初めての企画として「自主シンポジウム」も計画していますので、積極的な提案をお待ちしています。 また、全国的に注目されている「医療的ケア児」について広く市民にも理解していただくべく、2日目の午後、場所を倉敷市の「川崎医療福祉大学」に移し、野田聖子衆議院議員に「医療的ケア児の母親として」の記念講演をいただくとともに、地元岡山でのインクルーシブな地域づくりに貢献いただいている各方面の代表者によるシンポジウムを企画しています。 また、地元倉敷のジーンズを生かしたファッションショーを企画中です。懇親会には、京都で自閉症を中心とする発達障害の方々が製造している地ビール「西陣麦酒」をふるまわせていただきます。 2日目は、岡山コンベンションセンターの学会場から川崎医療福祉大学に貸し切りバスで移動し、ファッションショーまでの間、障害のある人による特製カレーをご用意させていただきますので、ぜひお召し上がりください。 岡山の後楽園ならびに倉敷の大原美術館等、学会前後に楽しんでいただくことも含め、一人でも多くの方のご参加をお待ちしています。
会長講演
  • 岩崎 裕治
    2019 年 44 巻 1 号 p. 3-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 近年、在宅において、また施設内において、重度の医療的な対応を必要とする利用児(者)が増加してきている1)。たとえば呼吸管理がその代表的なものであるが、呼吸管理一つとっても、侵襲的なものからマスクを使用しての管理がある。また様々な呼吸器の種類があり、またその設定も様々である。IPV、カフアシストなど呼吸の補助となる医療的な手段も多く導入されている。われわれはそのような医療の進歩に対して、新たな知識と技術を獲得し、適切な対応を求められている。感染症への対応、安全対策なども新規の医療の導入に伴い、今までの対応を修正するなど検討が必要となる。このような高度の知識や技術の獲得、また新規の器材などへの対応は、病院にかぎらず、地域の通所や、学校などの現場でも必要とされてきている。一方、療育施設は病院でもあり、また福祉や生活の施設でもある。病院と同様な医療的な対応を必要とされながらも、療育施設の役割である、生活を守り、福祉を充実させることが同時に必要とされる。 今回、本学術集会のテーマとして「高度医療と療育」を選んだのは、様々な療育施設や福祉現場で、このように高度な医療が導入されている現状があり、医療が必要な利用児(者)にそれぞれの現場で工夫をしながら生活の質を高めていく取り組みがされていると考え、その知識や経験を共有し、今の時代の療育を語り合えればという意図である。 Ⅱ.当センターの取り組み・課題 われわれの施設は2005年に開設されたが、当初から高度な医療に対応できるようにと考えられ運営されてきた。そのため、ハード面では個室対応・空調設備などの構造的な配慮、モニター類や呼吸器の整備など、ソフト面では看護師配置比率の増加などが配慮されている。また重度化に対応する専門職種の養成、多職種連携(呼吸ケアチーム、摂食ワーキンググループなど)を構築し日常的なケアに活かしている。 そのため、当初から他の施設に比べ、利用児(者)の重症度はかなり高いという現状があったが、年々さらに重度化している。図1は、当センターの契約入所、短期入所、医療入院の準・超重症児(者)の比率だが、年々高くなってきているのがわかる。図2は、短期入所での医療的ケアの推移であるが、ご覧のように気管切開や人工呼吸器管理などの呼吸に関連したケアが多くなってきている。 このような今まではあまり経験していなかった状況の中で、まずは命を守り、また生活を支えていかなければならない。これは施設だけでなく、日中活動の場や、学校、在宅などでも同様の状況がある。当センターの短期入所で持ち込まれた呼吸器の種類は15種類であり、多様な器材に対応しなければならない。新しい呼吸器やカフアシストなどの器材が持ち込まれる事前に勉強会を開いて準備を行っている。また、医師・看護師(慢性呼吸器疾患看護認定看護師)・MEなどを中心とする呼吸ケアチームが、重要な役割を担っている。このような、それぞれの職種の専門性、そしてチームアプローチが、高度医療に対応する際に必要となってくると考える。また特に在宅の患者の重症度があがってきており、訪問診療・訪問看護・訪問リハなどの介入が普通に行われるようになり、これらの事業所との連携も大切になっている。 Ⅲ.高度な医療とは 医学中央雑誌にて、重症心身障害をキーワードに、直近20年間の文献と、それ以前の文献の題を比較してみた。その中で増加していたり、新たに投稿されている項目を挙げてみると、呼吸器関連(呼吸リハ、呼吸器、IPV、カフアシストなど)、外科治療・検査(呼吸器外科、喉頭気管分離、腹腔鏡手術など)、新しい治療(新規抗てんかん薬、透析など)、遺伝子検査、歯科関連、人生の最終段階における医療などであった。高度な医療というのが何を意味するのか考えると、一つは、常にこのような生命を支える、新しい知識・技術の習得が必要である。また今回の学会でも取り上げた専門看護師のように各職種の専門性を高めていく、また呼吸ケアチームのように、専門家を中心とした多職種の連携により医療を進めていくことも必要である。さらに、現在は濃厚な医療を在宅で行いながら生活している重症児(者)も増加しており、これは今後さらに増加してくると思われ、地域との連携や支援がかかせない。 Ⅳ.高度な医療に対応する療育とは このような高度な医療が増加することで当然医療的なケアに時間がかかっていると考えていたが、しかし昨年度の当センターでの調査によれば、超重症児(者)が増加して、医療的なケアにももちろん時間がかかっているが、入浴や清拭などの生活行為にもより時間をとられるようになっている。そのため、多くのマンパワーや時間が必要になり、このままの体制では最低限の生活の保障ができなくなってしまうのではとも危惧している。ましてや、社会参加や、レクリエーションなどへの参加も制限されかねない。しかし命を守り支えていくことが崩れてしまうとそれも問題である。このような状況の変化に伴い、医療や生活を支える基盤の体制を見直していく必要があると考えている。さらに、短期入所は、在宅生活を支える上でかかすことのできないサービスであるが、短期利用児(者)は長期入所者に比べ体調変化が著しく大きく、ケアに時間やマンパワー、細心の注意が必要である。このような重度化への対応や在宅支援の取り組みなどのため、医療的ケアの複雑さが増し時間がかかるだけではなく、一般の生活関連のケアにも時間がかかっている。高度な医療が拡がることで今まで治療できなかった方にも治療を提供できるようになったことは大いに評価できるが、生活とのバランスへの配慮など検討が必要となってきている。 このような高度な医療を必要とする超重症児(者)に対して、各施設や教育機関で様々な取り組みがなされている。医学中央雑誌で、過去20年間で発表された超重症児に関する文献を検索すると292題の原著論文、症例報告がみられた。この中で目立つのは、個別活動・グループ活動などの実践的な取り組みや、感覚刺激やタッチングなどを用い表出などを促したコミュニケーションを主体とした取り組み、離床などの環境調整、学習支援、生理学的・脳科学的な評価方法などの検討などである(表1)。重症度が高くなり、意思や感情の表出が乏しい患者に対して、感覚刺激などの介入を行い、その評価を臨床的なものだけでなく、科学的な方法を用いて評価していくということが、様々な施設や教育系の先生方から報告されている。 Ⅴ.重症者の自立、意思決定支援、アドバンス・ケア・プランニング 療育を最初に提唱された高松は、現代のあらゆる科学文明を駆使して総動員して、自由度の拡大、可能性を追求するものと療育を定義された。さらにその目的として、自活の途の立つよう育成することとされた。岡田は、障害が重度であると自活ということが困難であるが、他人の手を借りても地域で主体的に暮らせれば、それが自立として考えてもよいのではとしている2)。また選択の主体性を追求することが自立につながるとしている。 厚労省も、2017年に障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援のガイドラインを発表した。それによると、事業者は、ガイドラインの内容を踏まえ、各事業者の実情は個々の障害の態様に応じて不断に意思決定支援に関する創意工夫を図り、質の向上に努めなければならないとされている。 このように、これまで以上に本人の意思や意向を個別支援計画などに反映しようという取り組みが始まっている。今回公開講座でもとりあげているアドバンス・ケア・プランニングもそのうちの一つである。われわれの施設でも意思決定支援ワーキンググループを立ち上げ、検討を始めているが、重度化している利用児(者)の意思や意向をどのように把握するかは大きな課題である。厚労省の研究班で作成した「重症心身障害児(者)等コーディネーター育成研修テキスト」によると、意思の表出が困難な重症児(者)のコーディネーターは、まず生活の各領域におけるアセスメントを行い、ニーズを把握していくことが重要であるとされている。さらに、本人の意思確認を最大限の努力で行うこと(コミュニケーション支援)、また、その本人に関わる多くの人から情報(様々な場面での表情、感情、行動など)を集め、根拠を明確にしながら、本人の最善の利益の観点から意思決定支援をすすめるとされている。本人の意思を表出し、表現できるように支援すること、それを支援者がどう捉えていくのか、仮説やこれまでの経験をもとに本人の意向をていねいに理解し、代弁するという困難な課題の解決が求められている。 Ⅵ.まとめ 医療の進歩とともに、療育の現場にも、新たな医療行為や医療的ケアが必要とされてきているが課題も多い。そのうち特に重要と考えているいくつかの課題につき論じた。本学術集会をとおして、これらの課題につき議論を深めていければ幸甚である。
特別講演
  • −動物にもある共感と嫉妬−
    渡辺 茂
    2019 年 44 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.なぜネズミで研究するのか 共感は現在最も注目を集めている現象の一つである1)2)。他人の不幸に共感したり、逆に、不公平であることを嫌悪したり、他人を嫉妬したりするのは人間の自然な感情であり、いわば、人間の人間らしい面だとも考えられる。なぜ、この現象を動物で研究する必要があるのだろうか。18世紀の大生物学者であるルイ・ビュッフォンは「もし動物がいなければ、人間の本性はさらに一層不可解なものとなるだろう」と述べている。つまり、人間のことは動物と比較することによって理解が深まる。共感や嫉妬は人間の自分の気持ちを他者と比較することによって生じる情動である。人間で見られるそのような情動がネズミでも見られれば、その進化的起源が明らかになるばかりでなく、人間ではできない実験的研究が可能になり、その神経基盤の解明が可能になってくる3)4)。 Ⅱ.共感を単純化して考える 共感については哲学者、社会心理学者などが様々な定義、分類、理論を展開してきた。これを動物実験で研究するには、なるべく単純化することが必要である。前提としては、まず自分と他人のすくなくとも二人(動物では2個体)がいることである。つまり、共感は個体が複数いることによって成り立つ個体間現象なのである。共感については、相手の気持ちがわかるという認知的側面を強調する立場と、相手の情動によって自分も快感を感じたり、逆に不快を感じたりする情動的側面を強調する立場があるが、まずは他者の情動表出によって起きる情動反応と考えよう。どのような情動が起きるかについても様々な意見があるが、単純化すれば、快か不快か、ということに還元できる。そう考えれば共感は図1のように表すことができる。 幸せな人を見て自分も幸せになるのを「正の共感」としておこう。ヒトではごく普通に見られる現象で人間の基本的な共感と思われるこの正の共感は、動物では案外見つけにくい。逆に、他者の不快が自分の不快になることを「負の共感」とする。この正の共感、負の共感に共通する特徴は他者の状態と自己の状態が一致していることである(状態一致性といわれる)。この「同じ気持ちになる」二つの共感が狭い意味での共感と言われるものである。 しかし、自分の情動は他者の情動と一致するものばかりではない。他者の幸福がむしろ不快に感じられる場合も考えられる。いわゆる嫉妬などはこれに含まれる。これは狭い意味の共感としてあげたもの以上に人間の行動を支配している情動のようにも思われる。まことに人間の暗い側面のように思え、ヒトの発達した社会性が生み出した負の遺産のように見えるが、のちに述べるように動物にもその原始的なものが認められる。ということは、この情動もヒトの文化が独自に生み出したものではなく、なにか生物学的な意味のある情動だと考えられる。ここでは、この情動を「不公平嫌悪」としておこう。 さらに複雑なものに他者の不幸を快とする場合もあり、日本語での「他人の不幸は蜜の味」ということに相当する。日本語あるいは英語の単語でこの情動を表すことばはないが、ドイツ語ではシャーデンフロイデ(Schadenfreude)という単語がある。 さて、このように考えてくると共感とはまことに矛盾した情動だということになる。同じ他者の不幸があるときには悲しみに(負の共感)になり、別の場合には快感(シャーデンフロイデ)になる。他者の幸福も喜び(正の共感)になったり、不公平嫌悪になったりする。 Ⅲ.正の共感 「貧苦は共にできても、富貴は共にできない」というくらいで、他者の幸福を自分の幸福とするのは他者の不幸を悲しむより難しいことかもしれない。しかし、友人や家族の幸福を祝福し、一緒に喜ぶというのはヒトでは普通に見られる。しかし、幸福の共感の動物研究は例が少ない。ひとつには動物の快感の測定が難しいという問題がある。 中枢作用を持つ薬物の中には快感を起こすものがあり、それらの薬物の中には社会的促進があるものが知られている5)。薬物による快感の測定方法としては条件性場所選好(Conditioned Place Preference: CPP)がよく用いられる。環境の異なる区画(たとえば白い部屋と黒い部屋)からなる装置に動物を入れて自由に行き来させ、予めそれぞれの区画での滞在時間を測定しておく。ついで薬物を投与してある区画(たとえば白い部屋)に閉じ込め、別の日には溶媒を投与して別の区画(たとえば黒い部屋)に閉じ込めるということを繰り返す。その後、動物を自由に動き回れるようにしてそれぞれの区画での滞在時間を再び測定する。投与薬物が何らかの快を引き起こしていれば、その投与と結びついた区画での滞在時間が増加するはずである。 マウスを使ったCPPでこの強化効果の社会的促進を検討する。1個体でなく2個体同時にメタアンフェタミン(ヒロポン)を投与する。つまり、仲間と一緒に覚せい剤を投与する。生理食塩水投与の日には2個体とも生理食塩水を投与される。この手続きを繰り返した結果、アンフェタミンの区画の滞在時間が1個体で実験した場合より増大することがわかった6)。つまり、他者と自己が同じ快の状態であると、薬物の強化効果は強くなるのである。 社会的促進の簡単な説明としては、薬物自体の効果と薬物を投与された個体の強化効果が加算された結果だというものがある。このことを解明するためにマウスを2群に分け、一方の群はヒロポン投与の経験をさせておく7)。他方の群は生理食塩水投与の経験をさせておく。ついで、ある種のCPPを行うが、被験体のマウスは薬物の投与を受けるのではなく、薬物を投与されたケージ・メイトと一緒に一方の区画に入れられ、翌日は生理食塩水を投与されたケージ・メイトと一緒に他方の区画に入れられる。つまり、薬物の強化効果を調べるのと同じ方法で薬物投与されたケージ・メイトの持つ強化効果を調べたのである。その結果、事前にヒロポンの経験をさせた群ではヒロポン投与個体の強化効果が認められるが、ヒロポンの経験がない群ではヒロポン投与個体の強化効果は認められなかった。このことはヒロポン強化効果の社会的促進は薬物投与の共通経験を介したものであることを示唆する。面白いことにモルヒネではこのような効果は観察されない。   Ⅳ.負の共感 同種の他個体の負の情動表出が嫌悪的なものであることはヒト以外の動物でも広く認められている。心拍などの自律反応でも他個体の情動反応で変化が生じることがわかっているが、行動指標でこの共感を明らかにした最初の研究はチャーチ8)のものである。彼はまずラットにレバー押しのオペラント条件づけを訓練した。反応が安定したところで、実験箱の隣で他のラットに電撃をかける。電撃をかけられたラットは痛覚反応を示す。するとレバーを押していたラットはレバー押しをやめてしまう。つまり反応が抑制されてしまう。この抑制は繰り返しによって消失する。わたしたちの実験室では同じような現象をハトのオペラント条件づけで確認した9)。 他者の嫌悪反応は自分の嫌悪的経験の信号であり、他者の嫌悪反応によって事前に逃避すれば、自分の嫌悪経験を避けられるかもしれない。これには個体発生的な経験(学習)で獲得されるものがある。先ほどのハトやラットの実験で、他個体に電撃がかかると、それに続いて自分にも電撃がかかるように条件づけをする。この場合、隣の個体の痛覚反応が条件刺激(CS)、自分の電撃が無条件刺激(UCS)になる。この後、ハトを再びオペラント箱に入れて隣で別のハトに電撃をかけると、オペラント反応は再び抑制される。これは、条件づけをしたのだから、当然のことである。別の個体には、このような条件づけをしないで、ただ電撃をうける経験だけをさせる。条件づけをしていないにもかかわらず、この同じ経験を持つ個体でも隣のハトの痛覚反応でオペラント反応が抑制されるようになる。すなわち、条件づけではなく共通経験が共感を促進したことになる。 他者の負の情動表出が嫌悪的であるということは道徳の起源であるとも考えられる。他者を傷つけることに負の情動が伴うことは、文化、時代による程度の差はあってもヒトに共通しており、そのことから、マーク・ハウザーはヒトが民族や時代を超えて共通の普遍文法を持つように、ヒトに共通する普遍道徳があるのではないかと考えた 10)。 (以降はPDFを参照ください)
教育講演1
  • 須貝 研司
    2019 年 44 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 2006年以降、新規抗てんかん薬としてガバペンチン(GBP)、トピラマート(TPM)、ラモトリギン(LTG)、レベチラセタム(LEV)、スチリペントール(STP)、ルフィナミド(RUF)、ビガバトリン(VGB)、ペランパネル(PER)、ラコサミド(LCM)が使用可能になったが、STPはDravet症候群、VGBはWest症候群のみの適応で、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))となる前の疾患への適応なので除いて、重症児(者)のてんかん治療におけるその適応と長所、問題点について述べる。 Ⅱ.重症児(者)のてんかんの問題と対応1) ①West症候群後のてんかん、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群、新生児仮死や細菌感染症・急性脳炎・脳症後遺症など、難治てんかんが多い。さらに、West症候群、Lennox-Gastaut症候群、Dravet症候群なども変容しており、これらの症候群に対する定型的な治療は当てはめられない。したがって、発作症状で薬剤選択をする必要がある。類似の発作症状の場合、詳細な脳波判読はできなくてもよいので、脳波所見が全般性か焦点性かを判断し、それをもとに全般発作か焦点性発作かを鑑別して薬剤選択をすればよい2)。 ②気がつかれやすいか否かのためもあるが、強直発作、強直間代発作、ミオクロニー発作、脱力転倒発作が多く、複雑部分発作や非定型欠神発作などは少ない。このような発作に対する薬が多く必要となる。 ③抗てんかん薬が多剤併用になることが多く、そのため抗てんかん薬同士の相互作用に注意を要する。 ④合併症、併存症が多いため多種類の抗てんかん薬以外の薬(向精神病薬、一般薬)を服用していることが多く、抗てんかん薬との相互作用に注意を要する。 ⑤自分で訴えられないために副作用に気がつかれにくいので、使用している抗てんかん薬の副作用を念頭に置いて早期発見に努めることが重要である。 Ⅲ.新規抗てんかん薬の特徴 新規抗てんかん薬はこれらの問題にかなり対応しうる。 1.発作症状への効果 筆者は発作症状に対する薬剤選択は表1のように考えているが、新規抗てんかん薬では、それまで難治だった強直発作、強直間代発作に対しては、LTG、PER、RUF(Lennox-Gastaut症候群に)、ミオクロニー発作にはTPM、LEV、複雑部分発作にはGBP、TPM、LEV、LCMが有効という印象がある。 2.精神症状併存例への対応3)4) 重症児(者)はしばしば興奮、攻撃性をはじめ精神症状を示すが、精神症状併存例に使用を避けるべき薬として、うつ病性障害では、TPM、LEV、不安障害ではLTG、LEV、精神病性障害ではTPM、LEVは避けるべきこと、知的障害、発達障害ではLTGの興奮に注意し、自閉症などの発達障害ではLEVの攻撃性亢進に注意すべきことと、逆に精神症状併存例に使用して良い抗てんかん薬がわかってきた(表2)。 一方で、抗てんかん薬により精神症状を来すことがあり、抗てんかん薬の多剤併用、急速増量、高容量投与時には精神症状を来すことがあるので注意する。エトスクシミド(ESM)、ゾニサミド(ZNS)、プリミドン(PRM)、高容量のフェニトイン(PHT)、TPM、LEVでは急性精神病(統合失調症様の症状であり、幻覚妄想、興奮、攻撃性などを示す)、ベンゾジアゼピン系薬剤の急激な離脱では急性精神病、フェノバルビタール(PB)でうつ状態、精神機能低下、ESM、クロナゼパム(CZP)、ZNS、TPM、LEVでうつ状態、CLBで軽そう状態、LEVで攻撃性亢進(特に自閉症などで)、LTGで不眠、不安、興奮が起こりうる。 3.相互作用5〜9) 新規抗てんかん薬は他の薬(抗てんかん薬、向精神病薬、一般薬ともに)に影響を及ぼさない点は、多剤併用になりやすく、また併存症が多くて種々の薬を飲んでいる重症児(者)にも安心して使える大きな長所である。 なお、ここでは、向精神病薬、一般薬に関しては、主に重症児(者)で使用されるものに限ることにする。 (1)抗てんかん薬 旧来薬でフェノバルビタール(PB)、PRM、カルバマゼピン(CBZ)、PHTは肝臓の薬物代謝酵素を誘導するので多くの新規抗てんかん薬の血中濃度を下げ、バルプロ酸(VPA)は肝臓の酵素を阻害するのでいくつかの抗てんかん薬の血中濃度を上げ、調節を要するものが少なくない。PRMはあまり使われないので表3では省いてある。 新規抗てんかん薬は他の薬にあまり影響を及ぼさず、TPMがVPAを下げ、PHTを上げ、LTGがCZPを下げ、RUFがPB、PHTを上げ、CBZ、LTGを下げ、PERがPBを下げるが、元の抗てんかん薬の量の調節を要するほどではない。 しかし、新規抗てんかん薬自身は旧来薬により大きな影響を受ける。酵素誘導薬剤(PB、CBZ、PHT)は、GBP以外の新規抗てんかん薬を大幅に下げ、またVPAはLTGとRUFを大幅に上げるので、調節が必要になる(表3)。 (2)向精神病薬 重症児(者)の興奮や自傷他害に対する向精神病薬(リスペリドン、ハロペリドール、クロルプロマジン、アリピプラゾール、クエチアピンなど)は旧来薬の血中濃度を上げ、旧来薬により効果が減弱する。多くの場合、大幅な変化ではないが、注意を要する。 新規抗てんかん薬では、LTGはセルトラリンにより下がり、TPMがハロペリドールを上げ、リスペリドンを下げるのみであり、他の相互作用はない(表4、表5)。 (3)一般薬 旧来薬では、PB、CBZ、PHT、バルプロ酸(VPA)の血中濃度は、抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン、ジフェニルヒドラミンなど)、オメプラゾール、ランソプラゾール、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンなど)、アスピリンなどのいくつかで上がり、制酸剤(水酸化アルミニウムなど)、ワーファリンのいくつかで下がる。大幅な変化ではないことが多いが注意を要し、VPAはカルバペネム系抗生物質(メロペネムなど)静注で大幅に下がるので、VPA服用時はカルバペネム系抗生物質の使用は禁忌である。 PBは抗ヒスタミン薬の効果を、VPAはワーファリンの効果を上げ、PB、CBZ、PHTはアセトアミノフェン、モンテルカスト、ジゴキシン、ワーファリン、甲状腺ホルモン(レボチロキシンなど)のいくつかの効果を下げる点は、大幅ではないものの注意を要する。 新規抗てんかん薬では、GBPは制酸剤(水酸化アルミニウムなど)で血中濃度が下がり、LTGはアセトアミノフェンにより下がるのみであり、TPMがジゴキシンを下げるのみである(表6、表7)。 4.腎障害、肝障害への対応10)11) 高齢化に伴い、重症児(者)で肝障害、腎障害は少なくない。抗てんかん薬は主に肝と腎で代謝されるが、薬剤によって異なる。肝障害、腎障害の場合は、血中濃度の上昇に注意し、減量を考慮する。肝炎ではあまり上昇しないが、肝硬変では上昇する。腎透析の場合は、どの薬でも血中濃度は低下する。 臭化カリウム以外の旧来薬(表8上段)とPERは肝障害時に減量を考慮すべきだが、新規抗てんかん薬(表8下段)は肝代謝でないものが多く、半数は調節不要である。しかし、GBP、LEVは腎障害時に減量を考慮する必要がある。また、LTG、TPM、PERは肝と腎で代謝されるので、肝障害、腎障害いずれでも注意を要する。     Ⅳ.新規抗てんかん薬の適応と副作用 適応、長所、使用した印象と注意点、副作用を表にまとめる(表9)。
教育講演2
  • 小池 敏英
    2019 年 44 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 近年、肢体不自由特別支援学校の実践活動の中で、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の注意プロセスを、学習項目に入れて評価する必要性が指摘されている。従来の心理学では、明瞭な表出として認められる応答的行動に基づき、コミュニケーション発達を把握する手法が中心であった。一方、脳機能イメージングなどの手法により、行動では観察が難しい心理過程であっても、注意プロセスには、脳の広範な部位が関与することが明らかとなった。これにより、行動上では顕在化しない心理プロセスを含めて、発達を評価するアプローチが取られるようになってきた。 本教育講演では、注意プロセスの中でも、心拍活動を指標として出現様相が検討されてきた期待反応について、重症児(者)の特徴を検討した研究について述べる。次に、期待反応を中心とした行動評価に基づく重症児(者)のコミュニケーション把握とその支援について、肢体不自由特別支援学校でのアプローチを中心に紹介する。 Ⅱ.重症児(者)の期待反応の特徴と支援について 発達初期の子ども(約6・7か月児)では、期待反応は、いないいないバー遊びの中で明瞭にみられる。大人が「いないいない」と言うと、子どもは大人を注視し、大人が「バー」と言って顔を見せると、喜んで笑顔を示す。しかし、期待反応が活発な子どもは、まだ大人に対して自分の要求を指差し等で表出・伝達することは困難であり、欲しいものを取ろうとする行動のみを示す。このことは、大人に対する要求伝達が困難であっても、大人の働きかけが快をもたらすことを理解し、手がかり刺激(「いないいない」)が「バー」を予告することの理解が可能であることを意味する。北島・小池・片桐(1994)1)は、行動表出が微弱な重症児(者)の中には、周囲の出来事の時間関係を理解し、働きかけを期待する者がいるのではないかと考え、重症児(者)における期待反応の特徴を、心拍活動を手がかりに検討した。北島ら(1994)1)は、期待を引き出す働きかけを、予告刺激(S1刺激)と働きかけ(S2刺激)に分けて構造化し、心拍測定場面を設定した。 対象は、重症児(者)12名とした。生活年齢は11歳8か月から23歳7か月であった。遠城寺式乳幼児分析的発達検査の対人関係、発語、言語理解の3領域の平均年齢は平均9か月であった。 刺激提示装置は、ログハウスに見立て、対象者の前方に設置した。ログハウスの窓として対象者の前方2mに液晶シャッタースクリーンを設置した。この液晶シャッタースクリーンは縦50cm、横60cmの液晶スクリーンを透明のアクリル盤に固定したもので、電圧を負荷すると乳白色から透明になる。これにより実物の視覚刺激を時間制御して呈示できた。対象者の前方80cmには花で装飾した衝立を置き、ログハウスと衝立の間(120cm)を緑色の布で覆った。デジタル録音されたチャイム音が呈示されると同時に、液晶シャッタースクリーンは乳白色から透明になり、2秒間、人形を振る人(実験援助者)の上半身を呈示した(以下、S1)。その後、人は緑色の布をくぐり、衝立の背後へ移動した(S1-S2間隔、3秒間)。デジタル録音された対象者の名前がスピーカーから呈示されると同時に、衝立の背後から対象者の眼前80cmに同じ人が上半身を呈示し人形を振り、引き続き呼びかけを行った(以下、S2)。デジタル録音された音刺激と液晶シャッタースクリーンは、パソコンにより時間制御した。1セットはS1とS2の対呈示20試行で構成した。長時間の連続実施が困難であった対象者に対しては、3日に分けて実施した。 記録については、情動表出を行動記録し、あわせて心拍活動を記録した。情動表出については、対象者の正面に設置したVTRカメラにより対象者の顔を中心に上半身を撮影し、ビデオに録画した。心電図は、胸部より修正1誘導法により時定数0.1秒で導出し磁気記録した。 分析については、情動表出に関する行動分析と心拍活動の分析を行った。情動表出について、ビデオ録画を再生し顔の表情や発声を中心に行動観察した。各試行のS1呈示時、S1-S2間隔、S2呈示時の時点ごとに、3つの評価項目のうち1つを記録用紙に記入した。評価項目は、笑い(発声を伴う快表情)、微笑(快表情)、無表情(表情に変化なし)である。笑いと微笑を情動表出とし、情動が表出された時点の組合わせにより3つの表出パタンを設けた(表1)。なお、その他の情動表出は総試行中4.5%の生起率を占めるにすぎなかったため、パタンとはしなかった。 心拍反応については、サンプリング間隔5ミリ秒でA/D変換し、R波を検出後、R波-R波間隔を求めた。S1呈示前3秒からS2呈示後2秒までの10秒間について、S1呈示時点を基準として500ミリ秒ごとの心拍値を算出した。各対象者について、全試行における各時点の平均心拍値と標準偏差を求めた。また情動表出パタンごとに各時点の平均心拍値を算出した。心拍変動の大きさを表示する際には、S1呈示前3秒間の平均心拍値を基準として用いた。 結果と考察について次に述べる。 情動表出のパタンに基づいて、対象者は、α 群、β 群、γ群の3群に分けることができた(表2)。α 群は2名認めた。β 群は6名認めた。γ群は4名認めた。 α群の対象者では、情動表出がパタンAを示した試行時の平均心拍活動は、S1時点で心拍率が、S1前の基準と比べて減少を開始し、S2時点まで減少が持続した。また、情動表出がパタンBを示した試行時の平均心拍活動も、パタンAと同様な応答経過を認めた。これより、α群の対象者では、情動表出がパタンAを示す試行では、「S1に注意を向け、S2を期待する」という注意プロセスとしての期待反応が明瞭に生起していることを確認することができた。また、S2時点でのみ笑いないし微笑が表出するというパタンBの試行においても、注意プロセスとしての期待反応は生じていることを推測できる。 β群の対象者では、情動表出がパタンAを示した試行時の平均心拍活動は、S1時点で心拍率が、S1前の基準と比べて減少を開始し、S2時点まで減少が持続した。また、情動表出がパタンBを示した試行時の平均心拍活動は、パタンAと同様な応答経過を示す事例とともに、S1後明瞭な心拍減少を示さなかった事例を認めた。これより、β群の対象者では、S1呈示時点で笑いないし微笑が表出していない場合には、注意プロセスとしての期待反応が生じている事例とともに、生じていない事例の存在を指摘できる。 γ群の対象者では、パタンCの試行時の平均心拍活動は、S1時点で心拍率が減少するが、S2時点まで減少が持続しないという心拍応答を認めた。 北島・竹形・牧野・小池(1998)2)はまた、図1に示す働きかけを行う中で、介助者が働きかけを対象者とともに受け止め、S1-S2間隔における話しかけや、S2の提示に対して、対象者とともに情動表出を行うという援助条件を設定した。図1中の心拍記録が示すように、援助条件(図中実線)では、統制条件(図中点線)と比べて、心拍率の減少は、S2時点まで持続した。このことは、期待反応に伴う注意プロセスが活発化したことを示している。 以上の検討から、遠城寺式乳幼児分析的発達検査のコミュニケーションに関連した領域(対人関係、発語、言語理解)の平均年齢が9か月の重症児(者)を対象として、期待反応に伴う注意プロセスの生起を、心拍活動で評価可能であることを指摘できる。特に、情動行動の表出が明瞭でなくても、期待反応の注意プロセスが生じていた。期待反応に伴う行動表出は、日常生活の様々な場面で認められることを推測できる。したがって、対象児の期待反応の注意プロセスを、日常場面の行動から評価し、それに基づいてコミュニケーション支援を行うことは、子どもの多様な支援につながることが考えられる。また、介助者が、働きかけに対する注意を促すことで期待反応が促進されることが明らかになった。期待反応は、S1刺激とS2刺激の関係の意味理解を反映していることから、注意を促進することで、重症児(者)の環境認知の改善が可能であることを指摘できる。このことは、コミュニケーション支援を教育場面で行う上で有用な知見であることを指摘できる。 Ⅲ.期待反応の行動観察に基づくコミュニケーションのアセスメントと支援 上述の心拍活動に基づく研究より、指差しや視線による要求表出が明瞭でなくても、大人に対する期待反応が活発である事例を認めることができた。学校教育においては、大人は、子どもの注意を把握しながら働きかけを行い、その中で、子どもはコミュニケーション・スキルを学習していく。学校教育における子どものコミュニケーション・スキルは、コミュニケーション学習の達成レベルとして捉えられている。これより、学校教育では、期待反応を行動観察により把握し、重症児(者)がコミュニケーション・スキルを学習している状況をアセスメントすることが必要であることを指摘できる。 (以降はPDFを参照ください)
教育講演3
  • 福井 トシ子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.地域包括ケアシステム Ⅱ.日本看護協会将来ビジョン Ⅲ.日本看護協会が目指す地域包括ケアシステム Ⅳ.全世代型地域包括ケアシステムに向けて -全世代型地域包括ケアシステム構築に向けた日本看護協会の取り組み- Ⅴ.地域包括ケアシステム構築から地域共生社会へ 地域共生社会の実現に向けた包括的な支援体制の整備等について http://www.mhlw.go.jp/topics/2018/01/dl/tp0115-s01-01-04.pdf Ⅵ.地域共生社会-取組みの実際 Ⅶ.まとめ 人々が健やかに生まれ、育ち、また、疾病や障害があったとしても地域において生活を続けていくには、医療と生活の両方の視点を持つ看護職を育成・配置する看護管理者が、重要な役割を果たす。 地域のあらゆる場所で働く看護職が連携し、その役割を発揮することで、人々が切れ目のないケアを受けられるよう、看護管理者が取組みを進めていくことが期待されている。 ●動画のURL http://www.nurse.or.jp/home/about/tagline/movie/introduction.mp4
シンポジウム1:人工呼吸器管理の院内から在宅まで
  • 石川 悠加
    2019 年 44 巻 1 号 p. 43-45
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 近年の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の呼吸ケアの最適化のコクラン・レビュー1)に「英国では、経済的および政治的な流れとして、重症児(者)が急性期病棟を退院し、地域でケアすることを進めている。先を見越した呼吸ケア、専門機関へのアクセスの改善、習熟したスタッフにより、適切に退院し、再入院を防ぐことができる。脆弱な重症児(者)が、公正なケアを受け、それが安全で効果的で、子どもと家族のQOLを高めるためには、エビデンスに基づいたアプローチが求められる。ケアが大変な家族に、これ以上効果が確認されていない呼吸ケアや専門的でない呼吸ケアで負担を増やしてはならない」と記載されている。 小児の呼吸の研究は 膵嚢胞線維症、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど神経筋疾患が多く、重症心身障害児(者)の研究は少ない。このため、神経筋疾患のガイドラインやエキスパートの意見である「筋力低下の小児の呼吸ケアガイドライン」2)、「神経筋疾患の気道クリアランスに関する国際会議」3)4)を参考にして行うことが勧められる。 Ⅱ.対象・方法 当院に長期入院の重症児(者)106例の人工呼吸管理方法を調べる。 Ⅲ.結果 人工呼吸管理は、終日の気管切開人工呼吸3例、非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation=NPPV)15例(このうち終日5例、睡眠時10例)であった。鼻マスクが2例、他は口鼻マスクを使用していた。気管切開チューブ留置例は2例であった。気管切開は、当院で30年前に実施した1例以外は、NICUからの転院例、脳外科術およびイレウス術後例であった。NPPVは、気管挿管の抜管困難、睡眠呼吸障害、急性呼吸不全をきっかけに導入している。終日NPPVの1例では、経鼻エアウェイの中に細い管を留置して咽頭喉頭周囲の唾液の持続吸引を行っている。 終日NPPV使用者のうち、入浴時に酸素付加の手動換気は2例、鼻カニュラによる酸素投与は3例、顔色不良やSpO2低下時は手動換気補助を適宜行うのは5例であった。機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation-MI-E)の定期的使用は、気管切開人工呼吸使用者で2例、気管切開チューブ留置使用者で1例であった。 Ⅳ.考察 NPPVの限界は、咽頭や喉頭の機能の低下や上気道の痙性により、咳介助によっても十分な咳が維持できない場合、NPPVを使用してもSpO2が95%を保てない場合であった。小児の長期NPPVは、熟練した専門多機能のセンターで導入・再調整が必要であると報告されている5)。最近、NPPVが睡眠呼吸障害を誘発することもあり6)、睡眠時にSpO2と経皮炭酸ガス分圧を測定して条件調整することが必要であった。 小児の在宅人工呼吸のガイドラインが、カナダで2017年に公表されている7)。米国の「小児の長期在宅気管切開人工呼吸ガイドライン」8)には、退院クライテリアが示されたが、本邦ではそれを満たす家族は限られると推察される。本邦には、成人にも小児にも在宅人工呼吸のガイドラインはないが、「小児の在宅人工呼吸マニュアル」(日本呼吸療法医学会)が2017年に公表された。これは、ガイドラインの作成には、エビデンスの高い報告や自国の報告に基づいて委員会の意見を総合する必要があるが、現時点では困難と考え、マニュアルにした経緯がある、本邦の長期人工呼吸管理は在宅だけでなく、病院や施設に多く、複雑な様相を呈している。 このような事情をふまえ、ドイツの「慢性呼吸不全に対するNPPVと気管切開人工呼吸のガイドライン」の小児の項目から、重症児(者)の長期呼吸管理において共有したい部分を以下に抜粋する9)10)。「長期の換気不全を認める小児の疾患は複雑で多様な障害を持つ。しかし、疾患にかかわらず、人工呼吸は呼吸機能障害を正常化し、血液ガスを適正化し、睡眠を改善し、病理を軽減する。それにより、入院期間あるいは呼吸不全による体調不良期間を短縮し、死亡を減らし、QOLを促進する。 小児における慢性呼吸不全の診断は、肺活量や咳の評価などは正確にできないため、血液ガス(非侵襲的に経皮的な酸素飽和度や炭酸ガス分圧測定も含め)を測定する。ただし、呼吸の残存機能を測定できないため、ストレスがかかる状態(発熱、上気道炎、手術)で、代償機能が急速に破たんし、人工呼吸を要したり、条件調整を要することがある。 小児の長期人工呼吸は、成人と異なり、専門的な多科多職種が関わるセンターで行う。小児におけるNPPVや機械による咳介助への協調性の欠如は、経験あるセンターでは問題にならない。適応が的確で、好みに合わせて調整することにより、大半の子どもは治療の効果を得て耐容し、要求もする。子ども自身で訴えが改善することに気づくと、さらに受け入れが改善する。ただし、小児のNPPVの人工呼吸器の選択において知っておくことは、①筋力低下のある子どもではトリガー困難、②一回換気量が少なく、呼吸数や呼吸の深さが不規則、③覚醒時に睡眠時より高い換気補助を要する場合もあること、④睡眠のステージ、発熱、感染により換気補助の必要度変化、などである。また、NPPV使用者が成人へ移行する場合、境目なく専門性の高い熟練のすべてが引き継がれるようにする。 小児において、気管切開は発達の重大な障害となる。発語や嚥下の障害となり、緊密な観察やサポートを要する。日常の活動(水泳など)は非常に限られた環境でのみ可能で、幼稚園や学校に、質が保障された看護師の付き添いを常に要する。気管切開は、子どものボディー・イメージに明らかに影響し、周囲の関係者にかなりの負担となる。さらに、成人よりチューブ関連の緊急事態(チューブ閉塞、事故抜去、チューブから誤嚥や気管内異物)が頻回に起こる。このため、気管切開は、限られたものにすべきである。成人と同じく、気管切開は、あらゆるNPPVの選択肢を使い尽くした後にする。 気管切開の決定プロセスは、子ども、両親、セラピストの個人的考え、倫理、宗教的信念により形成される。進行性の基礎疾患や、発達の予後の見通しが好ましくない場合葛藤に発展する。医師にとって、苦痛を軽くするのでなく長引かせるかもしれないというジレンマが生じる。両親にとって、気管切開をしないと子どもの命に危険が差し迫っている場合、気管切開をしない選択は困難になる。そこで、臨床倫理委員会や緩和ケアチームの組み入れが、この手ごわく悩ましい決定プロセスの助けになる」。 ドイツには、在宅人工呼吸センター(ICUやウィーニング専門部門も含む)の認定制度がある。さらに、気管切開人工呼吸専門部門とNPPV専門部門を備えた新たな在宅人工呼吸センターの認定制度が提案されている。重症児(者)の擁護と家族や関係者のQOLに最も影響する専門呼吸ケアは、欧米先進国において経験と研究が蓄積されつつあることを認識し、真摯に取り組む必要がある。
  • 佐藤 圭右
    2019 年 44 巻 1 号 p. 47-49
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 当施設は大分県臼杵市に位置し、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の入所利用者71人(2018年5月末現在・定数74床)のほか、人口179,891人(2018年3月現在)を有する大分県南部5市と、同じく人口476,868人の大分市の一部地域から、在宅利用者が、外来診療(2017年7,225人:発達外来含む)・ショートステイ(同862人・日)・生活介護など(同2,279人)を利用するために来所されている。大分県の在宅人工呼吸器利用者は大分市や別府市に集中しているが、それ以外の市町村にも若干人存在している。 このような当施設での、人工呼吸管理について報告する。 Ⅱ.人工呼吸器と心拍呼吸監視モニタの管理について 当施設では、臨床工学士は雇用できていない。そのため、人工呼吸器の機種はできるかぎり統一し、リースで運用している。この利点として、①機種の統一により操作が簡便であり、看護師の負担が軽減した;②機種の保守点検はリース業者が行う;③人工呼吸器の利用に増減を生じてもその稼働率は変わらない;④最新機種などに交換可能、などが挙げられる。その一方で、①急性増悪時などの対応はできない;②故障時の予備がない、などの欠点も挙げられる。欠点②に対しては、リース業者を県内に拠点を持つ事業者にするなどで緊急時に迅速に対応できるように配慮している。 また、人工呼吸器条件の指示は転記せず、原本をベッドサイドに持っていき、その場で確認するようにしている。 一方、心拍呼吸監視モニタ(以下、モニタ)は購入して運用しているが、必要時に買い増していることもあり、機種の統一はできていない。 運用に際しては、モニタがなぜ必要かを看護師が意識するように指導している。すなわち、モニタは急変が予測される患者の状態を監視するためであり、アラームが鳴ったら傍らにいる看護師が声を上げて駆けつけるようにしている。逆に駆けつけないのであればモニタの必要はない、という意識を持つようにしている。そのため、当施設ではアラーム音が鳴り放しているのを聞くことはまずない。 Ⅲ.長期入所児(者)に対して 当施設では、一時期、気管切開による人工呼吸(TPPV)療法児(者)が4人、マスクによる人工呼吸(NPPV)療法者が2人いたが、現時点では、それぞれ2人、1人ずつである。また、気管切開児(者)は10人で、超重症児(者)9人、準超重症児(者)12人である。これらの重症児(者)を含め、呼吸器感染症などを繰り返す入所児(者)に対し、理学療法士(PT)による呼吸理学療法(RPT)を休日などを除きほぼ毎日行っている。また気管切開児(者)に対しては、年に数回の気管支鏡検査を実施している。 気管支鏡検査は、当施設で準備した軟性内視鏡を用い、手技は当施設近隣の耳鼻科開業医に依頼している。この検査により、気管腕頭動脈瘻など気管切開に伴う重篤な合併症を事前に察知することも可能になると考える。 一方RPTは、一般的なリラクセーションや胸郭可動域訓練、体位排痰法1)2)以外にも、機械による咳介助(MI-E)3)や肺内パーカッションベンチレータ(IPV)3)を用いて気道クリアランスの維持を図るようにしている。現時点で、MI-Eは気管切開児(者)2人、気管切開なし者3人に、IPVは気管切開児(者)のみ3人に対して行っており、両方行っている気管切開者が1人いる。これらの導入により気道感染が明らかに減じたとは言えないが、過去にカフアシストを行っていて現在NPPV中の重症者も含めて、それらの経験があるため、気道感染時にはMI-Eなどの導入は速やかであった。 また、呼吸管理中は、人工呼吸器のアラーム以外にもSpO2や脈拍数のアラームは適切に設定し、不必要にアラームが鳴ることのないように徹底している。さらに、モニタのトレンド機能によるSpO2や脈拍数の夜間の変動結果を用いて人工呼吸器の条件も半年に1回程度評価している。近年、後述のTcPCO2モニタの導入も考慮している。 Ⅳ.短期入所児(者)に対して 短期入所児(者)のうちNPPV者は1人だが、排痰機能の弱い重症児(者)は少なくなく、外来でのRPTはMI-Eも含めて行っており、家庭では家族で蘇生バッグを用いた排痰訓練ができるような指導を行っている。呼吸機能の低下が予測される神経筋疾患児などは短期入所時に終夜睡眠ポリグラフィー検査も行い、呼吸器導入時期の判定の一助とした(図1)。 さらにNPPV者は、長期入所児(者)と同様に、短期入所時にモニタのトレンド機能を利用し、人工呼吸器条件を半年に1回程度評価しているが、夜間のCO2の評価は行えていなかった。今回、TcPCO2モニタにより夜間PCO2が高いことがわかり、人工呼吸器条件の変更につながった。 Ⅴ.考察・まとめ 人工呼吸器は、近年の機器の進化に伴い、より簡易かつ安全に使えるようになってきた。しかし、気道クリアランスの維持や人工呼吸器条件の評価など普段から気を付けるべき点は少なくなく、症状増悪時の備えも必要であろう。当施設ではPTを中心にRPTを行ってきたが、看護師もMI-Eを行える体制を作るなど、高年齢化し、より呼吸管理が必要となってくる重症者への対応にシフトする必要もあると考えている。
  • 大野 進
    2019 年 44 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 当院は3病棟100床のNICUを持たない中間施設で、主に重症心身障害児や神経筋疾患患者に対して在宅人工呼吸器を導入してきた。近年ではNICUの長期入院患者を受け入れて、在宅移行を目的とする事業「NICU後方支援」を行っていることもあり、在宅人工呼吸器の導入数が年々増加している。現在、在宅人工呼吸器の管理人数は113名で排痰補助装置の管理人数は67名(図1)となっている。そのうち人工呼吸器は使用していないが、排痰補助装置のみを市町村の助成でレンタルしている患者が7名となっている。 人工呼吸器の管理方法について、院内導入、在宅導入、外来およびレスパイト、機器管理のそれぞれについて報告する。 Ⅱ.院内導入 2010年までは積極的に臨床工学技士が人工呼吸器業務に介入していなかったこともあり、それぞれの主治医が人工呼吸器を管理していた。その結果、院内導入に使用する人工呼吸器は経口挿管用、TPPV用、NPPV用を合わせると8機種を使い分けていた。種類や回路構成も複雑であり機種選定も的確とは言えない状態であった。そこで医療安全対策室と協議して、できるかぎりシンプルな運用を目指すこととなった。まず院内で人工呼吸器を導入する場合は、酸素ブレンダーを搭載しているフィリップス社製トリロジーO2®のパッシブ回路で経口挿管・TPPV・NPPV共に使用することとした(図2)。またNPPVのマスクは呼気ポート付きと呼気ポートなしタイプが混在していたため、すべて呼気ポート付きマスクへと統一した。気管切開の回路構成はヒーターワイヤーがないタイプを使用していたが、加湿不足にしばしば陥るため基本的には全例ヒーターワイヤー入りの回路構成とした(図3)。 Ⅲ.在宅導入 2010年までは、急性期に使用していた呼吸器と在宅で使用する人工呼吸器に違いがあったため、急性期を脱した患者を在宅機種に移行する際は、医師の立ち合いのもと慎重に同調性や換気効率等を評価する必要があった。そこで在宅機もTPPV・NPPV双方とも酸素ブレンダーの搭載していないトリロジー100®を使用することとした。これによって院内器から在宅器に載せ替えの際に同調性や換気効率の評価はほとんど不要となりスムーズな移行が可能となった。また家族からは急性期に使用していた機種と同様の機種で在宅に帰れることで安心できるとの声も頂いた。 Ⅳ.人工呼吸器データ解析 2010年までに使用していた人工呼吸器のデータ解析はできなかった。そのため在宅での使用状況の確認やトラブルの対応は家族からの聞き取りで行っていたが、トリロジー® に統一後は、積極的にデータ解析を行うようにした。データ解析の1例として、他院で人工呼吸器をフォロー中の患者がレスパイトで当院を利用中にカニューレ閉塞が発生した。データ解析を行うとカニューレ閉塞前から一回換気量の低下、呼吸数と自発呼吸割合の増加をトレンドデータで捉えることができた。家族はカニューレ閉塞直前に起こる呼吸回数の増加は吃逆と捉えており、また一回換気量等の数値データに関して理解は乏しかった。そのためこのデータを元に家族には呼吸のアセスメントについて再指導を行い、同時に加湿不足が原因と判断して、ヒーターワイヤー入りの加温加湿器に変更した。指導および加温加湿器の変更後は頻回なカニューレ閉塞は消失した。 Ⅴ.トリロジー以外の人工呼吸器レスパイト対応 他院で人工呼吸器を管理している患者が当院のレスパイトを利用する場合は、医療安全の側面からトリロジーに載せ替えてレスパイトを利用してもらうこととしている。載せ替え方法は、初回のレスパイト時に臨床工学技士と主治医立ち合いのもとで載せ替えを行っている。機種ごとに異なるモードや機種固有の特徴を理解し翻訳する必要があるが、いままで載せ替えができなかった例はない。2回目以降のレスパイトでは、主治医が指示を出していれば、臨床工学技士がトリロジー100®を準備して看護師が載せ替えを行っている。これにより医師による毎回の立ち会いは不要で、レスパイト中の対応も医師、看護師共に使い慣れた呼吸器で管理できている。 1.機器管理 当院で所有しているトリロジーO2®は3台しかないため、人工呼吸器が不足した場合は、トリロジー100®を院内レンタルできるように整備している。また夜間・土日祝日などで臨床工学技士が不在の場合にも対応できるようにTPPV用とNPPV用の呼吸器を常時1台ずつ使用できる状態にしている。 2.結果 急性期に使用する機種と在宅で使用する機種を基本的に統一したことで、医師および看護師が安心して管理できるようになった。その結果トリロジー特有の特殊な設定も臨床工学技士が不在でも使用することもできるようになった。データ解析は今まで見えなかったデータを可視化することができるため、在宅の管理にとって欠かせないツールとなった。また急性期用のトリロジーO2®から慢性期用のトリロジー100®への移行は臨床工学技士のみでも可能となり、医師の労務軽減にも貢献できていると考えている。 Ⅵ.考察 人工呼吸器の機種を統一するとメリットもあるがデメリットも存在する。そのためメリットを十分に生かすために徹底して機能や管理方法を追求していくことが重要であると考える。 Ⅶ.結語 人工呼吸器管理について機器の管理を中心に述べた。当院のような中間施設では急性期から慢性期までと対象の幅が広いため、適切な運用管理がなければ多くの臨床的なニーズには応えきれない。そのためには医療安全を始めとする多職種による適切なチーム医療のもとで安全を担保しつつ最適な医療を提供できるように工夫する必要がある。
  • 益山 龍雄
    2019 年 44 巻 1 号 p. 55-57
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 2016年6月の児童福祉法の改定により医療的ケア児の就学に向けての取り組みが加速している。2017年の文部科学省の調査では、呼吸器をつけて在宅で生活している児童・生徒数は、公立の特別支援学校1418人、公立の小中学校の189人となっており、年々増加している。学校で呼吸器管理を行う場合には、学校の環境設備・体制、呼吸器管理を行うために必要な知識を習得するための学習や研修の機会、実施マニュアル、チェックリストが必要である。 Ⅱ.事例紹介 事例は、難治性てんかん、呼吸器感染症のために、入院が頻回となり通学できなかったが、気管切開・在宅人工呼吸器管理となり、週2回通学できるようになった。しかし、往復2時間の車での通学と学校での待機は母にとって負担が大きかった。小学3年時に自宅から車で3分ほどの場所に特別支援学校ができ、その後、医療的ケア児の看護師が配置になり、近隣の医療センターで実施している週2回の学校への送迎付きのレスパイト事業が放課後夕方まで利用できるようになり環境が年々改善していった。これらにより高等部3年までの10年間ほぼ毎日通学できた。 通学をすることは、本人にとって規則正しい生活リズムができ、たくさんの人に声かけしてもらう機会となり、修学旅行(1泊2日)等の学校行事も参加でき、すべてが貴重な体験となった。家族にとっても悩みや喜びを共感できる仲間と情報交換の場ができたこと、さらに、時間にゆとりができ、弟のための時間がとれたことは大きなメリットであった。一番は、本児の成長を実感したことであった。 児童・生徒の自宅から学校までの距離の他に、学校と医療機関との距離も大切な要素である。併設しているのか、近距離にあるのか、離れているのかで緊急時の対応が大きく異なる。さらに学校での看護師体制によっても異なる。 Ⅲ.学校の設備・環境 学校医、指導医をしている立場として、学校の設備環境を見てみると、病院や施設では常に専門職の目とモニターで状態を把握するが、学校では専門職が少なく、モニターも学習の妨げにならない音量にする必要があり、またコンパクトなものになるため安全・安心の確保が不十分になる。 教室内にはコンセントが少なく、呼吸器、加温加湿器、吸引器、吸入器など一人で複数の電源が必要であり、たこ足配線となっている。また、空調も十分ではなく室温が不安定になる。さらに、自宅から学校までの通学時以外にも、教室間や校庭、トイレなど移動が多くそのたびに器械を動かす必要がある。 呼吸器管理を行うときに必要な設備・環境としては、 ・適切な配線・電源 ・適切な室温、湿度調整ができる環境 ・医療機器、用具などの収納スペース ・器材の洗浄などができる流し台 ・容易に通行できる出入口 ・安全に乗り降りできるスペース ・他の児童と同じ目線の高さになるような台(ベッドのようなもの) ・教室間の移動手段、トイレ、駐車場 以上のような環境を整えることが第一に必要である。 Ⅳ.安心・安全のために さらに、現場の不安や保護者の不安を取り除き、安心・安全なものにするために以下のことが必要である。 ・呼吸器管理や緊急時の対応についての講義や研修・実技訓練 ・呼吸器を扱うための手順書、チェックリスト ・緊急時(気管カニューレ抜去時、呼吸器のアラーム時)の対応 ・保健室職員、教員、学校介護職員などがチームとして、一人ひとりの体調の変化や機器について把握し情報共有をはかること ・いつでも気軽に相談を受けつける主治医、指導医、学校医の存在と緊急時にすぐに対応できる後方支援病院の存在 ・保護者との信頼関係(児童を中心として保護者を含めたチームを作ることが必要) 近年、在宅呼吸器は、軽量コンパクトとなり、様々なモードに対応でき、内蔵バッテリーも長時間もつようになって、表示も日本語となりアラームもわかりやすくなっている。ただ、種類が非常に多く、それぞれの機種ごとに名称や扱い方が異なり、常に個々の特性を理解する必要がある。 Ⅴ.マニュアル・チェックリストの必要性 学校で呼吸器管理を行う場合は、マニュアルが不可欠である。 ・医療的ケア全般のマニュアル ・TPPV(Tracheostomy positive pressure ventilation)に関しての総論的なマニュアル ・NPPV (Noninvasive positive pressure ventilation)に関しての総論的なマニュアル(マスクフィティングを含む) ・個々の児童が使用している呼吸器についてのマニュアル ・日常的な観察項目や備品についてのチェックリスト ・緊急時マニュアル(気管カニューレ抜去時、呼吸器停止時など) 呼吸器管理のマニュアルとして読んでほしい本は、日本呼吸療法学会から出版された『小児在宅人工呼吸療法マニュアル』と今回の座長の石川先生が書かれているNPPV療法についてのバイブルといえる『非侵襲的人工呼吸療法マニュアル』である。その学校の設備や立地条件を考えてマニュアルを作成する必要がある。 呼吸器のチェックシートをつくり、複数の目で確認をすることも大変重要である。それぞれの内容の例としては、備品確認のチェックシートや呼吸器の動作確認のチェックシートが挙げられる。備品確認のチェックシートの例としては、 呼吸器:□人工呼吸器、バッテリーの残量確認 □加温加湿器・人口鼻 □用手蘇生器 □テスト肺  □電源コード 学校までの移動中や学校内でつかう吸引器でも、想定されるトラブルとして、倒れて故障、途中でバッテリー切れ、AC電源忘れ、動作不良などがおこる可能性がある。また、震災や停電時などの非常時用として足踏み式吸引器や手動式吸引器がいざというときの備えとして必要である。 また、これは学校の例ではないが、30名以上の呼吸器の方を受け入れている当センターでみられたインシデント・アクシデントとしては、 ・呼吸器、加湿器の電源忘れ ・呼吸器回路の亀裂 ・人工鼻のはずし忘れ ・ウォータートラップの水が回路内に逆流 ・気管カニューレの事故抜去 ・呼吸器の突然の動作停止 などがあり、これらに対する対処法をあらかじめ想定し周知しておくことが大切である。 気管カニューレの事故抜去時の再挿入については、厚労省の回答によっても、緊急時は看護師が行うことは、法律的にも問題のない行為であることが明文化されている。しかし、そのためには、個々の児童に対して実際に気管カニューレを挿入することを体験しておく必要があると思われる。気管カニューレの再挿入のしやすさもケースごとに異なり、また、緊急時には姿勢がうまくとれないなどいつもと異なる状態が想定されるためである。 学校で人工呼吸器管理を行う場合には、チームで観察していく環境が必要である。 そのために大切なことは、石井光子先生が重症障害児(者)医療講習会でも述べられていたように「看護師だけで抱え込まないで、教員も巻き込んで学習する!!」ことが大切である。また、医療的ケアは、家族や担当教員などその子と関係の深い人だからできることもあり、下村和洋先生が述べられているように関係性と専門性の調和を築くことが大切である。 Ⅵ.最後に 今回、参加している皆さんがそれぞれの専門性から学校と協力していくことにより、呼吸器をつけた子どもたちが、安全にそして安心して当たり前に通学することができるようになる環境をつくっていくことが望まれる。
  • 中野 絵里子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 59-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 2010年から診療報酬として「呼吸ケアチーム加算」の算定が可能になった。その条件としては、人工呼吸器を装着してから1か月以内であること、また、チーム活動が人工呼吸器の離脱のための活動として認められた場合にのみである。しかし重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))にとっての人工呼吸器は必ずしも離脱をゴールとしない場合がほとんどであり、診療報酬は対象外となる場合が多い。しかし筆者は診療報酬が算定できない療育施設でも呼吸ケアチームは重要な役割を果たすと考えている。 当センターは区部東南部地域の総合療育拠点施設として特に医療ケアの重い方を積極的に受け入れるとともに在宅支援に力を入れることを目的として2005年に開設した施設である。2017年度は契約入所、短期入所、医療入院合わせて超重症・準超重症児(者)の割合は77.9%と高く、人工呼吸器装着者は契約入所者で29%、レスパイト入所者で41%であった。また人工呼吸器を装着していなくても呼吸に何らかの問題が生じている利用者は多く、呼吸に関する医療ニーズは非常に高い施設である。そのうえ超・準超重症児(者)の割合は年々増加し、人工呼吸器装着者はこの10年間で1.6倍にまで増加した。レスパイトで受け入れる利用者の持ち込み人工呼吸器も多様化してきており、医療ケアは煩雑化が著しい。このように当センターは病院として生命維持・治療を行う機能もあるが、それだけでなく生活を豊かにする援助、関わりが必要な療育施設である。そしてそれは安全で安楽な日常が前提として存在している。しかし呼吸ケアチームが立ち上がる前の当センターの実情は院内で採用していない人工呼吸器等医療機器の持ち込みがあった場合において、初めて見る機種であっても勉強会の開催は実施しておらず、安全管理上必ずしも問題ないと言えるものではなかった。 人工呼吸器に関しても単なる生命維持装置として捉えるのではなく、重症児(者)の生活を豊かにするためのツールとして考えた場合、安全に管理できる能力が何よりも求められる。そこで当センターは人工呼吸器を装着している利用者に対し、離脱の是非については問わずに質の高い療育の提供とQOL向上を目指すために、呼吸ケアチーム(RCT)を2014年に立ち上げた。 Ⅱ.当センターRCTの実際 当センターRCTメンバーは医師1名、慢性呼吸器疾患看護認定看護師1名、感染管理認定看護師1名、臨床工学技士1名、理学療法士1名、事務局1名の計6名で構成されている。RCTが最初に行った活動の一つとして呼吸ケアに関する職員のニーズを把握すべくアンケートを実施した。対象は看護師、准看護師、生活支援員、リハビリスタッフなど直接ケアに携わる職員162名に実施し、回収率は99%であった。呼吸ケアに対する興味は「とても興味ある」「やや興味ある」合わせて81%となり、スタッフの呼吸ケアに対する興味の深さを改めて認識する機会となった。呼吸ケアに関する学習会に対する意欲は「参加したい」「勤務が合えば参加したい」が合わせて99%であった。これにより職員の呼吸ケアに対する興味の高さが伺えた。同時に呼吸に関する職員の学習の機会が非常に少ないのではないかということが浮き彫りになった。現在こそ臨床工学技士は配属されているものの、開設からしばらくはMEの担当職員は外部委託の職員だったため、人工呼吸器に関して不安が生じた場合、どこに相談すべきかわからず、漠然とした不安を抱えていた職員は少なからず存在していたはずである。呼吸関連の新しい機器が導入された場合やレスパイト利用者で、当センターで採用していない呼吸器を持ち込む場合には本使用の前に学習会を企画し、現場の混乱が生じないように働きかけた。その他アンケートで要望の高かった内容やそのとき院内で話題になっていることに関しての学習会も実施している。講義形式の他、学習の効果を高めるために演習を積極的に取りいれるようにして3、4か月に1回の頻度での開催で現在に至っている。 RCTでは学習会といった教育的な活動が多いが、呼吸関連のマニュアルを改編したり、実際に生じたインシデントに関する分析なども行っている。その他NPPVマスクの調整の相談を受けることや、家族の相談を受けるなどといった実践も実施している。RCTを院内でアピールする方法として毎月新聞を発行し、そのときにトピックスとなった内容や、新規導入の機器紹介、実際に生じたインシデントに関して知識不足が原因と考えられる場合には写真付きの解説を掲載し、他部署での同様のインシデントが生じないような働きかけも行っている。また、定期的にベッドサイドラウンドを行っている。多職種で同一利用者のベッドサイドに集合することは、多角的な視点で利用者を捉えることができ、現場に赴いて初めて気づく点も多いため貴重な時間である。 Ⅲ.これからの課題 まず、RCTは人工呼吸器の装着者に対し、質の高い療育の提供とQOL向上を目指すために設置をしたが、人工呼吸器の装着がなくても呼吸に何らかの障害を持つ重症児(者)は非常に多く存在している。彼らに対しても関わっていかなくてはならないと考えている。 また、現在当センターのRCTは先述したコアメンバーのみで活動をしている。しかし実際の現場で生じている問題や課題に関して、即時での抽出が困難である。そこで各部署から看護師を1名ずつ選出し、RCTナース会を設置した。各現場でコーディネーターとしての役割を担い、RCTにリンクさせることを目的としている。RCTで実施しているベッドサイドラウンドもフィードバックにはタイムラグが生じてしまうため、現場の看護師であるナース会のメンバーの同席を促し、ラウンドの効果を高めていきたいと考えている。 Ⅳ.おわりに RCTでの活動は呼吸ケアを実践していくために一歩一歩着実に前進していると確信している。しかし手さぐりで実施しているのも事実である。他の施設も同様ではないだろうか。もしくは診療報酬の対象にならないため、活動に対して手をこまねいている施設も存在しているのではないだろうか。重症児(者)の施設だからこその経験知もそれぞれが掌握しているだろう。療育施設におけるRCTでの活動や成果について少しずつ報告は上がってきている。より一層多くの施設と共有ができ、さらに連携を図ることができるようになるのが願いである。
シンポジウム2:いのち輝く生活を多職種と協働で支える看護の専門性を考える
  • -多職種との協働と専門性の高い看護師の役割に焦点をあてて-
    荒木 暁子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 61-62
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 重症児の重症化・高齢化、医療的ケア児の学校や地域生活への参加が促進される中、医療依存度の高い方々の地域生活支援がますます求められている。ここでは、看護師の専門性について、多職種との協働における看護師の役割、そして、専門性の高い看護師の活用を述べる。 Ⅱ.重症児ケアにおける看護師の役割 看護師は対象の疾患や障害を理解し、安全・安楽な医療を提供し、健康状態を維持・向上させる。その視点は、生活、成長・発達、心理・社会、スピリチュアルな面を包括し、ゆえに、対象のこれまでを理解し、今何が必要か、何を優先すべきか、この先どういう問題が生じ、どのような先手を打っておくことが必要かを最も身近で知り、関わることができる。健康状態の基盤を整えることで、QOLを高めることに寄与する。 重症児看護は生活の中で疾患管理や成長発達支援が連続的に行われ、それを調整する中心は家族や看護師であるため、看護師のこのような強みが最大化する領域であると考える。実際の重症児ケアにおいては、医師や療法士と協働し、疾患管理・健康管理・リハビリテーションを行い、保育士や介護職がQOL向上への支援が最大限できるよう一緒に考えていくなど、チームを活性化する役割がある。 また、重症児や医療的ケア児の健康状態は安定しているように見えても、成長発達や加齢による身体変化の影響を受け、不安定、あるいは、徐々に予備力が小さくなるなど、急激な悪化を見せることもある。対象の比較的長いスパンの中での変化と今の優先事項を判断するのは難しい。家族やチームの意思決定を支援することも重要な役割である。 これらの役割を発揮するための看護師の実践能力は、臨床現場において積み上げられていく。日本看護協会は「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)(2016,JNA)」(以下、JNAラダー)を公表し、あらゆる場で働くすべての看護師に共通する看護実践能力の指標を示した。JNAラダーは看護実践能力に焦点化し、ニーズをとらえる力、ケアする力、協働する力、意思決定を支える力の4つの力で構成されている。重症児の対象特性に沿った専門的な看護知識・技術があるが、上述した協働する力や意思決定を支える力についても、重症児看護の実践能力の高まりを教育やキャリア支援に活用できると考える。 Ⅲ.専門性の高い看護師への期待 専門性の高い看護師として、専門看護師(CNS、13分野)、認定看護師(CN、21分野)、認定看護管理者(CNA)は、日本看護協会において個人認定を行い、5年ごとの更新制により実践力を維持・向上させており、診療報酬など社会的にも高く評価されている。 重症児看護の領域では、小児看護専門看護師、家族支援専門看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、緩和ケア認定看護師、慢性呼吸器疾患看護認定看護師、訪問看護認定看護師などが関わることが多い。 他にも、大学院で特定行為研修を含む教育カリキュラムを修了した者、特定行為研修や学会認定研修などを修了した者などがいる。日本重症心身障害福祉協会は、2012年度より協会認定重症心身障害看護師の認定を開始し、すでに500名以上が誕生した。 医療依存度の高い重症児や医療的ケア児は地域のあらゆる場で医療的な管理を必要とするため、あらゆる場で看護を提供できるようにし、対象の価値を中心とする医療やケアへシフトする必要がある。専門性の高い看護師は、元々の重症児看護の繊細なアセスメントや看護に加えて、臨床推論力や病態判断力を強化することにより、適切な医療的ケアの提供や、速やかな症状マネジメントを可能とする。そして、対象・家族や多職種へ状態を説明し、チームのキーパーソンとしての役割が求められている。このように、昨今の疾病構造や医療提供体制の変化の中、あらゆる場においてその専門的な知識・技術を必要とする人たちに看護を提供できるよう、より自立した判断と説明力が求められており、日本看護協会では認定看護師教育に特定行為研修を組み込むなど制度を再構築しているところである。 また、専門看護師による包括的な成長発達支援、家族支援も重要である。重症児や医療的ケア児は生まれたときから、親子関係の構築、NICUからの退院移行支援、その後も、障害福祉サービスなどの活用が必要であり、成長発達に沿って変化する課題への対応、本人・家族の意思決定を支援することが期待される。 加えて、これらの専門性の高い看護師や看護管理者には、個々の対象へのサービス調整のみならず、地域のサービス資源やその提供状況と地域の重症児全体を見て、保健師や行政とつながり、地域のサービス提供上の課題を解決してほしい。
  • 落合 三枝子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 63-64
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
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    Ⅰ.公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 専門看護師研修部会の役割 専門看護師研修部会は、公益社団法人日本重症心身障害福祉協会(以下、福祉協会)の中にある委員会の中に属している。その委員会の一つ、人材育成・研修委員会の中に職員研修部会と専門看護師研修部会とがある。専門看護師研修部会の役割は、福祉協会認定 重症心身障害看護師制度の運営である。主な業務の内容は、教育機関の認定と認定更新、福祉協会認定重症心身障害看護師の認定、5年後の認定更新であり、この制度の実施や改善のための検討を重ねている。委員は各教育機関から選出され、現在8名と福祉協会認定重症心身障害看護師認定審査委員長1名、研修部会の口分田委員長で構成されている。 Ⅱ.福祉協会認定 重症心身障害看護師制度設立の経緯 2006年の診療報酬改定による7対1入院基本料の影響で、東京都内の重症児(者)施設(現医療型障害児入所施設、療養介護事業所)では、看護師確保が困難になり在宅重症児(者)の短期入所用ベッドを一部制限せざるをえなかった。2008年、東京都内の重症児(者)施設の看護管理者たちは、重症児(者)施設が抱える人材確保と人材育成に関する実態、課題と解決の方向性を明らかにするために、社団法人日本重症児福祉協会(現公益社団法人日本重症心身障害福祉協会)に加盟する全国118施設の看護師(新人看護師3年未満・中堅看護師5年以上)と看護管理者を対象に実態調査を行った。その結果、新卒採用者の離職率が高いこと、重症児(者)施設以外への転職が主な退職理由が多かったことが浮き彫りになった。全国の看護管理者からは、研修の充実を求める意見が多数寄せられた。これまで培ってきた重症心身障害看護の経験知・暗黙知を形式知として体系化していくことの必要性と、その経過の中で重症心身障害看護の専門性が構築されていくことが期待された。そこで2009年4月日本重症児福祉協会に看護専門研修委員会(現専門看護師研修部会:各地区の重症児施設から選出された委員で構成された組織)が設置され、認定教育機関の創設や教育機関での受講修了者に対する認定審査制度についての検討が始まった。 2011年10月に認定教育機関第1号として東京都が認定され、次いで近畿、中国・四国、九州、神奈川、埼玉、関東・中部・千葉(埼玉以下は2016年に合併し関東・中部と名称変更)現在全国に7か所の教育機関があり、施設の看護管理者や福祉協会認定重症心身障害看護師等が中心に運営を行っている。 教育機関の教育目標は、「重症心身障害の看護分野において、高い倫理観と熟練した看護技術および知識を用いて、水準の高い看護実践のできる看護師を育成することにより、重症心身障害領域における看護ケアの向上を図ること」である。看護の対象となる重症児(者)は病態や障害像が非常に個別的であり、専門的な知識・技術が必要である。重症心身障害看護を経験している中堅看護師が、この研修を受講し知識・技術をさらに深め、より質の高い看護を提供でき、自信を持って後輩の育成に当たれるように成長してほしいという思いを基に設立された。そのため、研修受講条件は、看護師通算経験年数5年以上、重症心身障害看護師通算経験年数3年以上とした。 重症心身障害看護師の専門性として、「病気や障害の理解」「フィジカルアセスメント」「呼吸管理」「ポジショニング」「摂食・嚥下障害への援助」「循環動態管理」「成長発達への援助」「コミュニケーション」「権利擁護」「アドボゲーター(代弁者)」「リスクマネージメント」「感染防止対策」「ターミナルケア」「家族ケア」「重症児(者)に関する関係法規」「療育におけるリーダーシップ(他職種連携)」「特別支援学校等教育機関との連携」があげられ、これらの項目を取り入れシラバスを作成し、研修合計時間は180時間以上とした。シラバスの統一を図ったのは2015年、すべての教育機関で統一した内容で教育が開始されたのは、2018年度からである。今後は、講義内容や研修自体の評価も必要と考える。 Ⅲ.福祉協会認定 重症心身障害看護師の役割 福祉協会認定重症心身障害看護師を取得するためには、まず、教育機関での研修を修了し、研究論文または、課題レポート2題とともに書類を提出し認定申請を行う。書類審査、論文・レポート審査を行い、合格すれば福祉協会認定重症心身障害看護師の取得ができる。2018年(第7回)までの累計者数は444人であり、2017年から始まった認定更新者数の累計は74人である。2018年度までの認定申請者は508人(合格率87.7%)であった。取得後の役割は、「重症心身障害児者および家族に対し、熟練した看護技術および知識を用いて専門性・個別性の高い看護を実践する」「看護実践を通して、看護・療育スタッフに対し教育的支援を行う」「重症心身障害児者を取り巻く今日的課題に積極的に取り組む」である。2017年、全国の教育機関で研修を受講し、現在も受講当時の施設に勤務している看護師409人を対象に研修目的の「看護の質・専門性の向上」と「指導的役割の遂行」に成果が認められたかの検証を行うためアンケート調査を行った。先に挙げた専門性18項目について研修前と比較して看護が深まったかを4段階(そう思う・ややそう思う・あまりそう思わない・そう思わない)で自己評価し、そう思う・ややそう思うの合計が50%以上の看護は16項目あり、看護の向上はあったと考える。施設内での役割も受講後は研修などの講師、新人指導が増えており、特に看護部内や施設内の講師を担う役割は2倍以上に増えており、役割の拡大はあったといえる。研修を受講することで、看護の専門性を深め、施設内での役割が増え、きちんとした根拠を伝え、後輩の指導、育成に取り組まれていることがアンケート調査からわかった。 重症心身障害看護の特徴には、健康を守る、生活を支える、成長発達を促す、QOLの向上、家族を支える等があるが、個別性の高い重症児(者)の看護は、より専門的な知識・技術が必要である。日々の生活を支えるには他職種との協働・連携も必要である。より多くの重症心身障害看護に関わる看護師にこの研修を受講してもらい、それぞれの施設の中で、質の高い看護実践と指導的役割を担ってもらいたい。今後の重症心身障害看護師に期待することは、施設の中では、根拠を持って後輩の指導・育成にあたること、それぞれの専門性を生かし、多職種との協働と連携を行い、より良いケアを行ってもらいたい。施設間での情報共有や交流を通し、自施設の教育や生活、日中活動の取り組み等、より良く提供できるよう目指してほしい。地域に向けては、施設の中で子どもの頃から大人までの切れ目のないケアを行ってきたからこそ、在宅で生活をしているそれぞれのライフステージに合わせたケアの提供やアドバイスができると考える。今まで培った知識・技術を他の重症児(者)に関わる看護師に伝え、協働し、在宅重症児(者)・医療的ケア児等が地域で暮らしていけるようなサポートの仕組みをそれぞれの地域で作ることが必要だと考える。看護管理者とともに重症心身障害看護師が関わっていける環境作りも必要である。入所施設・地域で生活をしている方々がより良い生活が送れるようになることを期待する。
  • 金 志純
    2019 年 44 巻 1 号 p. 65-67
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 医療福祉を取り巻く社会状況は急激に変化しており、看護職者に対して期待される役割は大きくなっている。その中で、看護の専門性が問われている。 看護の専門性、独自性とは一体なんだろうか。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))看護における専門性について、食事への援助を中心に考えてみたい。 Ⅱ.看護の専門性とは 看護の専門性とは、他の医療・福祉職と代替不可能な内容を意味する。久米ら1)は、看護職者が他の職種と異なることは、「複数でチームを組みながら個々の対象の病状管理を行い、入院や入所などの集団生活から生じる問題への対処、他職種間の管理調整機能などがある」としている。また、看護の専門性は「自律性」であるとされており、患者ケアの成果に直接的影響を与える不可欠要素として注目されてきた2)。 つまり、看護をどのように認識し、仕事が自身の成長にどのように関与しているかを看護職者自身が認識することが、職業的な自己実現と結びつき、その結果として、看護の質の向上につながっていくものということである。 看護の本質は、対象者の利益を第一に考え、対象者の代弁者となることである。高橋ら3)は、「看護とは対象に関心を寄せ、その人の苦痛を感受し、その苦痛をなんとか和らげたいという衝動により行為化する」としている。その結果、対象者の状態や生活がより良いものとなり、対象やその家族からのフィードバックがあることで、看護職者は自身の看護の効果や影響を認識し、自律性の向上につながるのである。しかし、重症児(者)看護は対象の気持ちを判断しきれない現状もあり、提供しているケアが対象をより良いものにできているのかのジレンマから、看護独自の機能や役割を認識しづらい面もあると感じる。このような重症児(者)看護の中で、食事を中心とした看護の専門性について、私が経験した事例を紹介する。  Ⅲ.事例紹介 1.対象 精神運動発達遅滞、慢性呼吸障害のあるミオチュブラーミオパチー男児。ほぼ寝たきりで大島分類4の重症心身障害児である。生後11か月頃にNICUから在宅移行も、肺炎を繰り返し経鼻経管栄養、単純気管切開、人工呼吸管理となる。5歳時に当院入所となる。 2.経過 入所時の全身評価では、ミオパチー顔貌で縦長の顔、シワは浅く両口角はやや下垂しており、眼球運動制限がみられた(図1)。全身は低緊張で膝,足関節軽度拘縮、両臼蓋低形成で右股関節脱臼。呼吸機能は、右下葉S6~9、10、11と左肺S10に無気肺があり、呼吸器トリロジー100 S/Tモード終日装着されていた。 運動機能は、背臥位での軽度の姿勢変換は可能も、抗重力活動は乏しく頻脈傾向であり、手指の巧緻性はあるが筋力の弱さがみられた。 コミュニケーション面では、周囲への関心は強く模倣が活発、簡単な言語理解は可能であり、認知・適応面での発達年齢は1歳9か月相当(新版K式発達検査2001)であった。 生活環境に慣れた入所半年頃より、担当の作業療法士と共に摂食嚥下評価を行った。生後哺乳経験はなく、在宅ではシリンジで味噌汁などを味見させることがあったようである。初回評価では、舌の弛緩と萎縮があり、口腔咽頭知覚は鈍麻で嚥下運動は認めなかった。主治医協力の下、理学療法では抗重力姿勢保持能力の強化、作業療法士と連携し一緒に食べることの楽しみを感じられる関わりから始め、段階的摂食訓練を病棟でプログラムした。また、病棟介護士や言語聴覚士、支援学校教員と保育的・教育的視点を持った援助方法の統一を図った。 段階的経過の中で、2年後には耐久性の向上と発語や発声量の増加、ペースト食の自食(摂取量限定)が可能となった。発達年齢は3歳3か月相応となり、入所後4年が経過した現在では、摂取量は限定されているものの、食への興味や楽しみを持ち、日々職員や他の利用者と関わられている(図2)。しかしながら、このような結果を介入当初は予想していなかったのである。 Ⅳ.食事の援助を通した看護の専門性 本症例を通して看護の専門性とは何かを考えてみると、他職種の役割と機能を理解し、生活を通して対象への効果と影響を考えることが、まずは重要といえる。また、食事の時間が対象にとってどのような時間なのか、どのような時間になり得るのかを様々な情報から深く理解することである。これは、対象に寄り添って考えるケアリングの精神といえる。 重い障害を持つ重症児(者)であっても、対象の将来性や可能性を限定せず、リスク管理を行いながらも様々な機会を幅広く持てる支援が、このような大きな成長への支援につながったと考える。このように、専門的評価と包括的視点で物事を捉えることが必要であり、その中での自身の役割を認識し、必要性に合わせて役割を変化させることができるほど、支援の幅が広がる。つまり、看護職者に求められるのは、対象の潜在的ニーズを捉え寄り添い、他職種との調整役としてマネージメントし、協働してケアしていく力である。これらの専門性を幅広く発揮することで、私たちは対象の成長や笑顔を通して自身の自己実現につなげることができるのである。 Ⅴ.今後の課題 このような重症児(者)看護における専門性は、自然と身につくものではなく、現場で育てていく必要がある。そのためには、知識や技術の伝承のみならず、看護の本質とそれに迫る思考過程について深く伝えることが重要と考える。対象のニーズを捉えケアする中で、いかに良い経験につなぎ、看護職者の主体性や自立性を獲得するための体験経験をいかに言語化していくかが重要といえる。 現場での体験や経験を振り返り、吟味し、意味づけ、発展させていくための機会を確保できる雰囲気づくりや教育システムの構築が今後の課題と考える。  Ⅵ.まとめ いのち輝く生活を多職種と協働で支えるためには、看護観を深め、他職種と連携し、対象の生活がより良いものになるよう努力していくことが大切と考える。 医療ケアのみではなく、生活を支え、対象の可能性や将来性を引き出し、どのような関わりやケアが、一人ひとりの生活を豊かで輝くものにできるのか、私たちの能力や人間性が大きく関わっていく。 そのためには、日々対象とご家族の立場に立ち、寄り添うことを忘れず、常に関係職種と考え議論し、発展していく必要があると考える。 最後に、写真の使用に関し、承諾を頂きましたAさんとご家族に感謝申し上げます。
  • 荒谷 智子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 69-71
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 看護師の役割は「傷病者や妊産婦の療養上の世話や、診療の補助を行うこと」であり、 “人を看る”という看護師独自の視点で観察や判断をし、患者の生命と生活を支える専門家であると言える。 私たちが対象とする重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の看護師の役割は、日常生活の援助が大きな割合を占めている。しかし、障害による合併症の重症化やフレイルに伴い、生命を支える医療が複雑化しており、人工呼吸器などの高度な医療機器を治療目的として使用するだけではなく、日常生活を支える一部として20年以上使用していることもあり、日常生活援助の中に高度な医療機器の管理が必要となる。また、日常生活の援助を通し、体調の変化を敏感に察知する能力や、骨折のリスクや肺炎のリスクを減少するために、毎日のケアにも細心の注意を払う必要があり、重症児(者)の生活と生命を支える専門家である看護師は療育の中でも大きな役割を担っている。 Ⅱ.重症児(者)の「対象」の特性と「場」の特性 窪田1)は重症児(者)看護の特徴には「重度な身体障がいに加え意思決定できないという「対象」の特性と病院機能と児童福祉施設の機能を併せもつ機関である「場」の特性があり、関わる人のありようや想いを問う徳の倫理が必要である」と述べている。そのため、特性を理解しケアに活かすことが重症児(者)看護には大変に重要なこととなる。 「対象」の特性とは、生まれたときからの心身障害により、言語的コミュニケーションが困難であり、意思決定能力も低いことである。これは、身体機能や認知能力が徐々に低下し、意思決定が困難になる認知症とは異なり、重症児(者)の場合は、自分の意思を正確に他者に伝え、人生に関わる重要な意思決定を行う判断能力が生まれたときから困難であるという大きな違いがある。このような「対象」の特性から、重症児(者)看護にたずさわる看護師には、代弁者として、重症児(者)の権利を擁護する役割が重要となる。 「場」の特性としては、当センターの入所者227名中の平均年齢は50.9歳、30歳以上の割合は89.4%。平均入所期間は33年、入所期間が40年以上の入所者は55.3%であり、施設利用者の高齢化および、入所期間が長期化している。ケアをする看護師も当センターでの経験年数が20年以上の者が多く、受け持ち看護師として、重症児(者)に長い期間に関わることが多い。これは外来通院や入院期間の短縮、病院から地域へと医療の場の転換を求められている病院の看護師と患者の関係とは異なる時間の流れがある。 図1に重症児(者)の「人生の軌跡」「病みの軌跡」を示した。 重症児(者)は生まれてから成長する時期を過ぎ、ある一定の時期になると急激に機能低下が目立つようになり、その後長い時間をかけて、生命の危機を何度も乗り越えながらエンドオブライフの時期を迎える。 重症児(者)の入所期間が長いこと、またそこで働く看護師経験が20年以上である者が多いことからも、一人ひとりの重症児(者)の「人生の軌跡」や「病みの軌跡」を共に経験し、共に過ごすことは、重症児(者)看護の「場」の特性であると考える。 Ⅲ.ナラティブの伴走者として ナラティブとは、「語り」「物語」という意味があり2)「人間はそれぞれ自分の物語を生きている」と言われている。「障害」や「病い」もまた、ナラティブの中の出来事として、一人ひとりが自分らしく向き合い、物語を創りあげている。 重症児(者)の入所施設の看護師は、24時間、365日利用者の日常生活の援助をしながら、長い時間を共に過ごし、一人ひとりの重症児(者)のナラティブの伴走者として物語を一緒に創りあげている脇役であると考える。言葉として語ることが困難な重症児(者)であっても、脇役として日常生活援助を通し、たくさんの時間を過ごすことで、潜在化されている訴えを読み取り、顕在化することができるときもある。これは重症児(者)の看護師に特有の「気づき」であり、時間をかけて培うことができる重要な感性や能力であると考える。重症児(者)一人ひとりのナラティブからの考察を通して得た非言語的な「気づき」や「経験知」「実践知」を概念化することができれば、重症児(者)看護の専門性がさらに高まると考える。 Ⅳ.緩和ケア認定看護師として 緩和ケアとは、「苦痛を取り除いてQOLの維持や向上を目標とするケア」である。苦痛を身体面のみで評価するのではなく、精神的苦痛、心理社会的苦痛、スピリチュアルな側面のすべてを評価し、介入する「全人的苦痛」の緩和を目標とする。また、終末期に限定するケアではなく、生命を脅かす疾患の診断の早期から介入し、苦痛によるQOLの低下をできるかぎり緩和するケアである。重症心身障害児は、小児の緩和ケアでは、非進行性ではあるが、呼吸器などを必要とし、重篤な状態に陥る可能性があり、小児期には死に至らないものの、継続的な緩和ケアが必要であり、重症心身障害児すべてを生まれたときから緩和ケアの対象とし、死に至るときまで緩和ケアを継続的に行う必要があると言われている。また、行う医療も治療を目指すものと緩和のための医療を厳密に区別することは難しく、経過や死期を予測することも容易ではないと考えられる。 重症児(者)は日常的に筋緊張や変形拘縮の痛みなど、目に見えない苦痛が常に存在すると考えられる。しかし、痛みは主観的なものであり、訴えてもらわなければ他者には伝わりにくいものである。図2に重症児(者)の緩和ケアの考え方を示した。 常に何らかの痛みや苦痛があり、それを伝える手段が困難である重症児(者)にとって、関わる私たちが常に苦痛を緩和する方法を考えること、また、私たちの行う日常生活ケアがさらなる苦痛を与えるものになってはいけない。生命と生活を支える専門家である看護師が、毎日のケアを丁寧に積み重ねることが重症児(者)の緩和ケアになる。重症児(者)看護は緩和ケアそのものであると言っても過言ではない。 重症児(者)看護の看護師は重症児(者)一人ひとりのナラティブの伴走者として、「対象」や「場」の特性を活かし、常に緩和ケアを意識し毎日のケアを大切に積み重ねることが、大切ないのちを最期まで輝くものにできると考える。
  • 窪田 好恵
    2019 年 44 巻 1 号 p. 73-74
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設には、医療法による病院機能と児童福祉法による施設機能の2つを併せ持つという場の特性がある。そのため、そこで行われている看護には福祉職との協働の仕方に特徴があるといえよう。重症児(者)施設は、設立以来、長年にわたって看護師不足が続いてきた。西藤らは、重症児(者)施設に就職して3年以内の看護師の離職率が41.9%であったと報告1)している。就職してもすぐに辞めていく看護師と長年にわたって就労している看護師がいるが、その差異は、福祉職との協働にも関連するのではないかと考える。本稿では、立命館大学大学院先端総合学術研究科博士論文2)の一部を加筆修正し、重症児(者)のくらしを支える看護師は、福祉職とどのように協働し、なぜくらしを支える看護を継続できているのかを述べる。 Ⅱ.対象・方法 対象:重症児(者)施設に1~41年間の勤務経験がある看護師16名 方法:インタビュー調査による語りを一次データとして、KJ法により帰納的に分析し、カテゴリー化した。さらにその結果を重症児(者)施設の歴史的背景を踏まえながらマトリックス分析3)した。 Ⅲ.結果・考察 看護師16名のインタビューの結果を帰納的に分析すると、11のカテゴリーと次の6つのコアカテゴリーが生成された。〈職場選択の動機〉〈看護の場の特性〉〈職業的アイデンティティの揺らぎ〉〈就労継続を支える肯定感〉〈重症児(者)看護の基盤となるもの〉〈看護の再定義〉である。さらに、研究対象者を縦軸にカテゴリーを横軸にして歴史的背景と関連させてマトリックス分析を行うと、看護師の就職した時期により1970年代までの第一世代、1980~2005年までの第二世代、2006年以降の第三世代の3つの世代に分類できた。その理由は、戦後の社会的背景や法の整備による重症児(者)を取り巻く環境の違い、法整備による職員配置等の違い、入所している重症児(者)の重症度と年齢の違いなど、看護の対象者が変化したことである。 1.看護の場の特性 重症児(者)施設における〈看護の場の特性〉は、福祉職との協働の仕方が一般病院とは異なっている。それは福祉職と職種の境界のない援助方法により、補完的に日常生活援助を繰り返していることである。また、観察力や洞察力を必要とし、成長・発達の可能性を信じながら、わずかな反応を手掛かりにして生涯にわたってケアを行っているところに特徴がある。 第一世代の看護師3名は、入所者全員が小児である時代に、「みんなで一緒に」「家族のように」保育士らと一緒に試行錯誤で援助を行ってきた。時に福祉職との対立もあったが、「楽しかった」と感じている。第二世代の看護師5名の時代は、入所者の年齢が成人に達するようになり障害の程度も重度化した。この世代の看護師にはロールモデルがいて、たとえば「運動会の実行委員長」であったり、「ある雪の日にベランダで雪だるまを作って子どもたちを喜ばせた看護師」であったりする。第二世代の看護師たちは、「看護は生活の支援」であり、福祉職との協働の仕方を当たり前と捉えていた。 2.就労継続を支える肯定感と職業的アイデンティティの揺らぎ 第一世代、第二世代の看護師には〈職業的アイデンティティの揺らぎ〉はなく、〈就労継続を支える肯定感〉があった。一方、第三世代の新人看護師8名は、〈職業的アイデンティティの揺らぎ〉を感じていた。その理由は、重症児(者)施設では、一般技術を習得する機会が少ないことや、職場文化に馴染みにくいことである。そのために、福祉職と協働するメリットを感じていても、それを肯定的に受け止めることが難しく、先輩や上司の支えがないと感じた新人看護師は離職を決意していた。他方、先輩や上司の支えがあると、〈就労継続を支える肯定感〉に変化していた。 3.看護の再定義と関連する要素 看護師の業務は、法的には診療の補助業務と療養上の世話である。しかし、看護の歴史を辿ると、看護師のアイデンティティが揺らいだ時期があった。野島は、第二次世界大戦後、多くのパラ・メディカルの出現により、看護師たちは機能の独自性を持たない看護の立場が揺らいだことをきっかけに、V・ヘンダーソンをはじめとした看護理論家たちにより、看護の本質は日常生活や人間関係にあるとする看護論が提唱されたと報告4)している。今回の看護師たちも同様に、一般病院で行っている非日常である診療の補助業務よりも、くらしの場における日常生活援助こそ看護であると捉えている。 上野は、「経験の再定義とは、新たなカテゴリーによって自分自身の経験が別の意味を与えられることを言う」5)と定義している。本稿で〈看護の再定義〉と概念化したのは、一般病院とは異なる、重症児(者)看護を経験した看護師たちの看護が、再定義されたと考えるからである。第一世代の看護師と第二世代の看護師は、くらしの中の〈看護の再定義〉が容易に起きていた。しかし、第三世代の看護師は、医療の機能分化にあわせた教育を受けているため、診療の補助業務ができないことで看護師としてのアイデンティティが揺らいでいる。近年入所者の重度化により、日常生活援助を行うロールモデルの姿を見る機会が少なくなった。さらに、長い期間に醸成された職場文化への適応や福祉職との協働の仕方にも困惑していた。こういったことが〈看護の再定義〉を起きにくくしていると考える。 しかし、どの世代の看護師にも共通することがある。次の2点である。1点目は、「障害児(者)との接点」や「くらしの中の看護が好き」という〈職場選択の動機〉が明確なことである。2点目に、〈重症児(者)看護の基盤となるもの〉として、重症児(者)への愛情や使命感を感じ、一人ひとりの人生に寄り添っていきたいという思いがある。〈就労継続を支える肯定感〉に変化していた第三世代の看護師も同様であり、〈看護の再定義〉が起きつつあると考える。 重症児(者)施設に勤務する看護師は、福祉職と職種の境界なく、補完的に日常生活援助を繰り返す看護を、「これでいい」と了解できれば〈看護の再定義〉が起きる。〈看護の再定義〉が起きれば就労継続し、起きなければ離職に至ると考える。近年、高齢化が進み、医療政策は「病院完結型」から「地域完結型」へとシフトし、治療する医療から病気や障害を持ちながら生活する人々を支える医療へと転換していく時期であるといえる。福祉職と協働する重症児(者)看護のありようは、常に医療を必要とする人のくらしをより良いものにすることや、医療・福祉はどのように連携を行うことが望ましいかということに示唆を与えるものであると考える。
教育セミナー1
  • 福水 道郎
    2019 年 44 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.睡眠の効用 脳には老廃物を運び出すリンパ系がないと信じられてきたが、近年の研究で発見されたグリア細胞(アストロサイト)を介する「グリンパティック系(Glymphatic system)」1)という導管システムは睡眠中に最も活発に働くことがわかってきた。神経−内分泌−免疫系バランスの調整、脳と体の休息・健康保持・増進、成長ホルモンによる体の発育・成長・修復・新陳代謝の促進、アンチエイジングなどや、血糖値の上昇などによる血管障害の抑制、動脈硬化・発ガンの予防・修復のみならず脳(記憶・思考・情報処理システム)の発育・コンディショニングなどすべてに睡眠は関わっていると言われている2〜6)。 Ⅱ.障害とは 障害とは、大きくは身体障害、知的障害、精神障害(統合失調症、気分障害、てんかん、発達障害[自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害]、心的外傷後ストレス障害等)に分けられる。そのうち身体障害の内訳は、肢体不自由が最も多く、次いで内部障害(ペースメーカー装着、人工透析など)、聴覚障害、視覚障害と続く。上記の障害のある人が障害者手帳を取得することで、障害の種類や程度に応じて様々な福祉サービスを受けることができるが、基本的に睡眠障害単独では手帳を取得するのは難しい。 一方、障害の世界保健機構の分類(1980)では階層性を示し、Impairment(機能障害)がDisability(能力低下がある個人レベルの状態)に結びつき、それがさらにHandicap(社会的レベルの不利)となる。今回はその階層性には含まれていないが、上記の手帳を交付されるDisorder(正常な精神・身体機能が撹乱され変調をきたした状態)の睡眠について主に概説する(表1)。なお障害の世界保健機構の分類は2001年に社会の中でもお互いを認め共に暮らしていこうというノーマライゼーションの意識が高まった結果、一方向の矢印から相互作用モデルの国際生活機能分類に変わった。 Ⅲ.てんかんと睡眠障害7) てんかん患者の約50%に睡眠障害を合併すると言われ、てんかん発作は覚醒時にも睡眠時にも起きるので、てんかん発作と鑑別すべき睡眠障害もある。てんかん発作は日中の眠気、睡眠覚醒リズム、睡眠の構築に影響するが、概日リズムの周期はてんかん発作の起こりやすさを調節している可能性があり、睡眠覚醒リズムの乱れ・睡眠不足はてんかん発作の症状・頻度・抑制効果や脳波のてんかん源性波形に影響する。 1.抗てんかん薬の睡眠に対する影響7) 抗てんかん薬はNa、Caチャンネルの機能を変化させ、GABAやGlutamateの神経伝達を調節するため、入眠潜時や、睡眠の量、睡眠の持続、睡眠サイクルの各段階の量、睡眠と覚醒の構築に影響する。ほとんどの抗てんかん薬は鎮静作用があり、日中眠気によりうとうとする時間が長くなることがある。この眠気による傾眠状態により、けいれんの頻度が増加することがある一方、抗てんかん薬はより良い睡眠に寄与することがあり、これは睡眠中の発作を減らしたり、昼間の発作症状や眠気を改善させることにも関係している。迷走神経刺激療法やケトン食療法でも睡眠への影響の報告があり、迷走神経刺激療法では刺激後に加療の必要な閉塞性無呼吸のみられる例があるので、術前のチェックが必要である。 2.てんかんと鑑別すべき病態 1)ナルコレプシーの情動脱力発作8) Niemann-Pick Type病C、Coffin-Lowry症候群、Prader-Willi症候群、筋緊張性ジストロフィーや多発性硬化症、視床下部または上部脳幹を障害する占拠性病変などでもナルコレプシー様の病態を呈するが、知的障害のあるKlinefelter症候群で、てんかんと鑑別すべき情動脱力発作(強い情動に伴って突然に両側性に起こる姿勢筋緊張の喪失)のあるナルコレプシーの報告もある。 2)ノンレム関連睡眠時随伴症9) てんかんと鑑別すべきノンレム関連睡眠時随伴症には3病態がある。座る、起立、歩行、逃走など複雑な移動行動からなる夢遊病(睡眠時遊行) 、強い恐怖を示し、悲鳴や啼泣、交感神経系の興奮(頻脈、呼吸速迫、皮膚紅潮、発汗、散瞳、筋緊張亢進)が目立つ睡眠時驚愕症(夜驚症)、驚愕、徘徊や恐怖はないが、呻き、泣いたり、叫んだり、手足をばたばたさせるような精神的錯乱行動をする錯乱性覚醒である。ノンレム関連睡眠時随伴症(覚醒障害)は病態生理の詳細は不明だが、正常に認知覚醒が機能せず、視床帯状回経路の活性化と視床皮質の覚醒系の引き続く不活化など睡眠と覚醒の特徴が一緒に起こる一種の解離状態と考えられている。幼児期以降思春期頃までみられるが自然消失することが多い。ただし、知的障害を持つ例など幼児期からエピソードが引き続く例もあるのでその場合は少量のイミプラミンやベンゾジアゼピン系薬などで治療が必要になってくる場合がある。複数型のノンレム関連睡眠時随伴症、寝言が合併することが子どもでも少なくない。てんかんに合併することもよくあり、治療により脳波が改善し、随伴症症状も消失することがある。 3)レム関連睡眠時随伴症9) 悪夢障害(下記Ⅳ、Ⅴも参照)で認められる悪夢は子どもに多く、子どもの頃から始まり、6~10歳頃が悪夢を見やすいピーク年代である。子どもの10〜50%は親が心配になるほど強烈な悪夢をみるが、てんかん発作と違って記憶がある。悪夢は大脳辺縁系・傍辺縁系・前頭葉前部(扁桃体、内側前頭葉前部、海馬、帯状皮質前部など)の感情の変化やストレッサーへの反応の制御を行う部位のネットワークにおける一時的(毎日の心配事など)、あるいは長期間(トラウマなど)の特異的な機能不全と考えられている。悪夢では就寝前2〜3時間のテレビ等視聴、閉塞性無呼吸、むずむず脚症候群、抗うつ薬、降圧薬、ドパミン受容体作動薬、入眠補助薬(スボレキサント)などが誘因となるので、これらを避けたり、加療する。その上で薄暗い夜間照明をつけたり、毎晩寝る前に悪夢に楽しい結末をつけるようなお話を10〜15分したり、心が落ち着くような場面の絵を描いて、恐怖を軽減させるイメージリハーサル法も試みられることがある10)。特にてんかんと鑑別すべきレム睡眠行動障害は小児での報告もあり、自閉症や、SSRI、三環系抗うつ薬内服、またはバルビツール系薬・カフェイン等の離脱症状などでもみられる。 Ⅳ.注意欠陥多動性障害(ADHD)と睡眠障害11) 12) 覚醒・ADHDに関わるドーパミン・ノルアドレナリン・ヒスタミンなどの神経系は認知機能にも深く関係するが、眠気は多動や落ち着きの無さとして現れることがあり注意が必要である(図1)。そのため幼児期発症のナルコレプシーでは眠気の訴えがないことがあり、ADHDと診断される可能性があり注意が必要である。一方ADHDの約40%が日中の眠気を訴えるといわれる。眠気と特に不注意症状との関連性は強い。脳画像研究や脳波定量解析などからはADHDと過眠症は一部類似した所見が得られているが、睡眠検査では典型的な過眠症とは異なる結果となることも多い。またベッドに行きたがらず寝付きが悪く、中途覚醒、夜型・睡眠相後退パターンがあり、朝起床がうまくいかないことも多く、むずむず脚症候群や周期性四肢運動の合併が多い。衝動性や不安などが併存していることもあるが、睡眠障害が後に不安、うつ、反抗挑戦性障害が出てくる予測因子となることもある。いびき・無呼吸も合併しやすいとの報告はあるが、ADHDが睡眠時閉塞性無呼吸の合併症である可能性もある。マンハイム大学の研究では、ADHDの夢の頻度は健常者と変わらないが、恐怖や不安などネガティブな感情を帯びることが多く、不運や脅迫、失敗や破綻に終わる結末などの悪夢が多かった12)。ADHDの10〜15%に夜尿症の合併があり、ADHDの薬物治療にて夜尿症が改善する可能性がある。中枢神経刺激薬は特に睡眠起始の遅れ、睡眠持続の短縮、夜間覚醒を引き起こす。総睡眠時間の延長、睡眠相の変化の増加、レム睡眠の増加、レム活動指標の増加、レム期の分断化等も報告されており、刺激薬と関係しているといわれるが、ADHDの実行機能等の病態と関係している可能性もある。 1.ADHDの睡眠障害に対する治療9) 患者により中枢神経刺激薬の影響は異なるが、メチルフェニデートを使った場合は1〜2か月で睡眠の変化は落ち着くことに留意する。日中の眠気がある場合はメチルフェニデートを使用せざるを得ない。その後も睡眠相後退や不眠がみられる場合量を調節し、徐放性製剤を使っていない(本邦では速放性製剤の適応はないので使用しないと思われるが)場合は午後遅い時間以降の投与を減量する。さらに続く場合はアトモキセチン(非刺激薬、寝起きを良くする)に変え、それでも引き続く場合は抗ヒスタミン薬 、トラゾドン、ミルタザピンあるいはメラトニン等を追加し、さらに改善しなければクロニジンを使うともいわれる。グアンファシン(非刺激薬)は眠気が副作用で、夜間投与で中途覚醒を促す場合があるが、朝投与でうまくいく場合がある。 (以降はPDFを参照ください)
教育セミナー2
  • 向井 美惠
    2019 年 44 巻 1 号 p. 81-89
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 重症心身障害児(者)(以下重症児(者))の摂食嚥下障害に対応するには、摂食嚥下障害への対応について機能不全を考慮して以下の3領域に分け、ハビリテーションの領域で対応するのが合理的である。 1.ハビリテーション:種々の疾病が機能獲得を阻害する因子として働き、摂食に関わる諸機能の発達が妨げられている発達期に対する機能獲得を促す領域 2.リハビリテーション:獲得した摂食嚥下機能が種々の疾病や事故等によりその一部または全部に機能不全が生じた人に対する機能回復の領域 3.機能維持:加齢とともに環境因子に対する脆弱性が高まったフレイルやサルコペニア(加齢性筋肉量減少症)などの加齢に伴う口腔機能障害の進行を可能なかぎり遅くする対応領域。 重症児(者)の摂食嚥下障害に対する臨床対応は年齢にかかわらず機能獲得を促すハビリテーション領域での対応がほとんどである。そこで、ここではハビリテーション対応について記載する。 Ⅱ.重症心身障害児(者)の摂食嚥下ハビリテーションの特徴 重症児(者)は摂食嚥下機能が未発達で機能不全がみられる場合がほとんどであり、摂食嚥下リハビリテーション領域では発達期摂食嚥下障害児(者)とよばれることもあり、出生以後に十分な摂食嚥下機能を獲得していないものを指している。具体的には小児期のみならず成人期以降までの摂食嚥下機能が獲得されていない場合であり、ハビリテーションにあたっては以下の点に留意することが大切である。 ・身体成長に伴う摂食嚥下器官の構造的な変化に加えて、個々の運動機能、感覚機能、認知機能の変化も著しい時期であることを考慮した対応が必要である。 ・重症児(者)の嚥下障害は成人の中途障害者と異なり、個々の発育変化に加えて育児環境や療育環境に合わせた対応が必要となる。そのため、摂食嚥下機能の獲得のみならず、機能の維持および増齢による機能低下の対応も考慮する必要がある。  また、継続して経管による栄養摂取が主となり、口からの摂取経験が少ない重症児(者)は、口腔咽頭領域の動きが改善されても、摂食時にどのように口腔・咽頭・喉頭部を動かすかの協調を学ぶことができずに、症状として摂食・嚥下障害を呈している場合もある。呼吸との非協調や口腔咽頭領域の触覚過敏によるムセや嘔吐などによる不快症状も原因となって、その後も嚥下障害によって経口からの摂取が進まない場合もみられる。また、基礎疾患による長期の経管栄養の持続は、口腔領域の動きが改善されても経管に固執して経口摂取を拒否する経管依存症状を呈する小児もときどき見受けられる。このように重症児(者)の嚥下障害の障害の特徴は、器質的な異常と機能的な発達遅滞に加えて、精神心理的な要因を含めた摂食嚥下機能の発達を阻害している修飾因子が存在している。 Ⅲ.摂食嚥下ハビリテーションの臨床 1.基本診査の流れ 基本診査の流れを表1に示した。重症児(者)が対象の場合には、客観的な機能評価法である最大努力下嚥下(RSST)、改良水飲み試験(MWST)、計器による舌圧測定、口唇圧測定、パ・タ・カの発音をできるだけ速く連続させるディアドコキネシスによる評価は困難な場合がほとんどである。そのため実際の食物摂取時の外部観察評価に重きをおく場合が多い。 2.摂食時の観察評価 摂食時の食物の流れに沿って外部からの観察評価の対象となる動きを図1に示した。 摂食嚥下のプロセスは通常は5期(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)に分けられ評価もされることが多いが、ハビリテーションにおいては準備期を捕食と咀嚼にわけて観察評価すると機能不全が明確になり対応が容易となる。 機能獲得を目指すハビリテーションにおいては、食物の物性(テクスチャー)を感知し、その後の食物処理(押しつぶす、噛みつぶす、そのまま飲み込む)を変える動きの機能(捕食)を評価することが一連の摂食嚥下機能獲得に大きく影響することから、準備期を捕食と咀嚼に分けて評価することが多い(図1)。 Ⅳ.機能評価にあたっての基礎知識 1.摂食嚥下機能獲得の基本 摂食嚥下機能の獲得には摂食器官である口腔での諸感覚に加えて視覚、嗅覚などの五感の感覚刺激(図2、3)に対応して引き出された動きを目的に合わせた協調動作として学んで機能として獲得する必要がある。重症児(者)のハビリテーションの第一歩はこれらの感覚刺激を摂食嚥下の動きに結び付ける介助や訓練への意識であろう。 2.摂食嚥下機能の獲得過程(定型発達)と機能不全の症状 乳幼児の定型発達における摂食機能の獲得過程は、離乳が開始されていない哺乳の時期である①経口摂取準備、離乳初期のペースト状の食物を嚥下する機能が獲得される②嚥下機能獲得期、スプーンなどの食具から口唇で取り込むことができる③捕食機能獲得期、口中に摂りこんだ軟らかい軟固形食を舌と口蓋前方部で押しつぶす機能が獲得される④押しつぶし機能獲得期、少し硬い軟固形食を臼歯部相当の歯ぐきですりつぶす⑤すりつぶし機能(咀嚼)獲得期、の発達の特徴と障害されたときの症状および口唇と舌の動きの外部観察評価を図4に示した。 Ⅴ.機能獲得過程に基づく臨床対応 1.経口摂取準備不全の症状とその対応 上肢や手指の機能に障害のある重症児(者)は、口腔顔面領域への触覚を始めとして感覚刺激が圧倒的に少なくなるため、刺激によって引き出される口腔周囲の動きも当然少なくなる。摂食嚥下機能の発達を促す感覚刺激の体験不足は、口腔領域の過敏や鈍麻などを引き起こすことも含めて機能発達の大きな阻害要因となる。また、この時期に多くみられる経鼻経管栄養法の主な問題点および気管切開の功罪について表2に示した。 (1)機能不全の症状 ・摂食拒否 ・接触拒否(触覚過敏) ・原始反射の残存 ・経管依存症 (2)対処法 ・疾病特徴の把握 ・脱感作(触覚刺激の経験) ・口腔衛生の改善 ・五感(視覚、嗅覚、味覚)刺激経験の付与 ・注入時の姿勢 ・注入時間の調整(食べる意欲) ・嘔吐(GER)への対応、など 2.嚥下機能不全の症状とその対応 食物が口腔内に入ることは可能であるが、口腔から咽頭に移送する過程や嚥下反射に伴う咽頭、喉頭の動きの強さや関与する器官の協調が不全のためスムーズに嚥下機能が営めない状態である。重症児(者)の場合は年齢にかかわらず、吸啜運動が残存する乳児様嚥下や嘔吐様の動きで嚥下する逆嚥下(舌突出嚥下)の動きがみられることが多い。また、呼吸との協調不全や食物の咽頭残留等が原因のむせ、ぜい鳴等の症状を伴うことも多い。 (1)機能不全の症状 ・むせ ・乳児様嚥下 ・逆嚥下(舌突出)  ・ぜい鳴 ・流涎 など (2)対処法 ・嚥下に関連する筋群が容易に動けるよう頸部前屈の姿勢をとらす。 ・触覚刺激や味覚刺激などにより唾液の分泌を促し、嚥下促通訓練を行う(図5)。 ・ペースト状の食物や飲料に不随意に咽頭に流れ込まないようにトロミをつける。 ・舌で咽頭への移送の動きを容易にするために、下顎を閉口位になるよう介助する。 ・嚥下後に口腔内を診て舌背、口蓋、口腔前庭に食物残渣が残量していないかチェックし間接訓練(舌、頬、口唇)に結び付ける。 *嚥下促通訓練 (間接訓練法) ガムラビング(歯肉マッサージによる嚥下促通訓練)(図6) 方法 ・訓練前に口腔のケアを行う。 ・口腔内が過敏症状を呈する場合には行わない。 順序 ① 顎を介助して閉鎖させる。    ② 指腹を前歯部の歯頸部に当て後方臼歯部に向かってこする。 ③ 後方から前に戻るときには指は歯茎から浮かす。 ④ 口腔内を上下左右4等分して順次行う。 ⑤ 唾液嚥下の確認を忘れずに行う。 3.捕食機能不全の症状と対応 食具(スプーン、フォークなど)から自らの随意運動によって食物を口腔内に摂り込めない。捕食機能不全は口唇・口蓋・舌という鋭敏な感覚器による物性感知不全となり次の食物処理(押しつぶし、咀嚼など)に必要な適切な物性の情報を認知できず、適切な処理がなされないまま丸飲みや口にためたままなかなか飲み込まない等の症状を引き出す原因となる。捕食は体に食物を摂り込む最初の機能のため、その後の一連の摂食嚥下機能の生理(感覚―運動系)の適切な流れを作れない。ハビリテーションにおいては捕食機能は機能発達の礎ともなる非常に重要な機能である。 1)機能不全の症状 ・下顎運動の随意性が乏しく1回の開閉運動で食具から食物を捕食できない。 ・過開口(口を大きく開きすぎる)。 ・閉口時に口唇の動きにより食物摂取ができない。 ・摂食時に口呼吸になりやすい。 2)対処法 ・顎、口唇の随意的閉鎖の介助(前方、側方、後方)(図7) ・上唇での摂り込む動きの補助 ・スプーンからの一口量のコントロール ・口唇の動きを促す間接訓練(口唇訓練) *捕食機能不全に対する間接訓練法 口腔周囲筋の運動訓練 口腔周囲筋の運動障害は、捕食、咀嚼など準備期の動きを阻害するばかりか、前頸筋群と協調して営まれる嚥下運動にも大きく影響する。 口腔周囲筋の筋力増強、コントロール能力改善に有効である。 (以降はPDFを参照ください)
教育セミナー3
  • −柔軟性への支援、三角マットを使用した側臥位姿勢の実践報告−
    染谷 淳司
    2019 年 44 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    今回学会発表させていただいた表題の内容は、第41回学会シンポジウム1にて、その時代的な背景も含めて「重症心身障害児(者)の健康と生活の為の姿勢支援の研究と実践の報告」として発表し当学会誌第41巻1号にて報告1)したが多くで重複している。よって、その重複を極力避けて今回は副題の内容を著した。 要約 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))においての姿勢環境支援は彼らの命と健康や生活に関わる必需的な課題である。「ポスチュアリング」は適切な構えと体位を選定し、適応可能で機能的である多様な姿勢の生活化であり、健康と生活支援の基盤である。今回は、その主要な要因である身体の柔軟性(変形・拘縮)への対応を確認した。そして、側臥位姿勢保持環境の一方法として三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用した側臥位姿勢の実践やその有効性について具体的な内容を報告した。 Ⅰ.はじめに 重症児(者)での姿勢環境支援において、変形や拘縮の理解と丁寧な対応は重要である。当院では長年にわたり、三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用して側臥位姿勢を支援してきたのでその経過や実践について報告する。 Ⅱ.ポスチュアリングの定義2) 姿勢(posture)の定義には、構え(attitude)と体位(position)の両者が含まれる。前者は頭部・体幹や四肢の相対的位置関係で、たとえば、座位でも長座位、椅子座位、正座などの違いを表す。後者は身体全体の重力方向に対する位置で、立位、膝立ち位、座位、側臥位、背臥位、腹臥位などを示す。この両要素の適切な選定を姿勢の選定(ポスチュアリング:posturing)、生活場面での積極的な姿勢保持環境の整備・保持機器の活用をポスチュアリング・アプローチとした2)。さらに、2001年、臥位である腹臥位、四つ這い位、体幹前傾の膝立ち位など顔面および胸腹部を下に向け支持した姿勢を「腹臥位系姿勢」と定義にした3)。 姿勢選定における総合的な姿勢パターンの関連とポスチュアリングのガイドライン4)を図1で示す。なお、ポスチュアリングの総合的な内容2,5,6)、典型的な運動障害分類と各典型例での実践報告7)、姿勢の分類4)をご参照されたい。 Ⅲ.身体の柔軟性を考える −変形や拘縮、耳や腰部の褥瘡への対応− 1.姿勢支援の大指針 構えの選定の指針は、その方にとって固有で歴史あるその姿勢を決して修正しようとすることでなく、柔軟性を求め適度な可動域(「遊び」の要素)を残した構えを検討し、全身にわたって、適切なアライメントを保障できるように対応することである。運動学的には「その方なりの無理のない適度な脊柱伸展+頭部体幹の正中位・中間位保持」と「相関した上肢・下肢の構えと保持」(以下、構えバランス)が基本となる。具体的なハンドリングを紹介する。たとえば体幹屈曲優位に対してはその屈曲適応(呼気優位)をさらに促した後に伸展運動(吸気適応)に移行しその方なりの最大伸展位を見出し、それよりも適度に屈曲を許した伸展位保持を基本とする。反対に体幹伸展優位ならその伸展運動(吸気適応)を十分に促した後にその方なりの屈曲運動(呼気適応)に移行して得られた最大屈曲位から適度な伸展要素を許した屈曲位保持への順応を基本とする。このような「適度な遊びある構えの設定を3次元的に用意する」ことで、無理のない中間位姿勢が定まる。このような意図的な手順にてその方なりの構えバランスが選定され、姿勢作りでの基本的な構えとなる。身体的負担を和らげ、受動的・活動的に自らの姿勢を担えるように支援したい。これらには、呼吸調整や重力適応が肝心でポスチュアリングがその重要な手立てである。 2.基本的な変形や拘縮は相関し合い形成される、その過程の理解と対応4) 1)重症児(者)の脊柱側彎に対する具体的なアプローチと検討 南雲は整形外科医石原昂氏と共に、1997年にそれまでの重症心身障害児(者)の調査・研究から、脊柱や骨盤帯変形と呼応する股関節の後方脱臼を主とした非対称的な両下半身変形(windblown hip deformity)について論文5)8)をまとめている。この姿勢パターンを示すケースにおいて、腰椎の回旋方向(凸側)と骨盤帯の回旋が一致する同側群と反対になる対側群が存在する。このようなケースに対して対側方向へ他動的に骨盤帯を回旋するハンドリングを行うと、同側群ではcobb角の減少とともに椎体回旋度の減少が得られるが、対側群ではcobb角の減少は得られるが椎体回旋度は増加する。則ち対側群では両下肢の正中位方向へのハンドリングが腰椎の回旋変形を増強するので、生活介助や姿勢保持には慎重を期すように述べている。これらは股関節脱臼や拘縮、3次元的な脊柱・ 胸郭変形などの対応にも関連し合ってくるので慎重に検討すべきである。 2)中枢部の基本的な変形・拘縮への対応    (1)股関節脱臼に対しての水平面の対応 頭部・体幹の正中位・中間位保持を得ることを最優先に対応する。それに呼応しつつ脱臼や拘縮、過緊張などから生じる可動域制限に無理のない程度の関節運動域とする。 (2)脊柱・肋骨隆起など高度変形への対応 脊柱の変形は胸郭変形に直結する。側弯凸側の後側面では肋骨隆起が、前面では扁平化が著明である。側弯短縮側では、下部肋骨の過剰な突出が生じる。基本方針は同様に、サポート面は身体の形状にあわせて用意する。 (3)下部肋骨と腸骨稜との間隙狭小化・接触への対応 腰椎の過前弯・回旋・側弯・ねじれを伴った重度変形では、短縮側の腸骨稜と下部肋骨が接触するか、ねじれ重なる状態となる。背臥位では間隙狭小部の骨盤帯は基底面として残し、呼応する短縮過緊張状態の腰背部筋群は緊張緩和しつつ下部肋骨は連続する胸郭と共に全体的に無理なく拳上・伸長・対側方向に回旋に誘導する。三次元的に遊びのある位置を基本位置(構え)としソフトな面的保持具を挿入することで、胸郭と腸骨稜との間隙が拡がり、腹部がリラックスする。座位での対応は同様だが、抗重力要因を考慮する。リクライニングを倒して従重力位にして姿勢を整え、適応を図る必要がある。これは座位での構え選定の基本である。この部位は側腹部皮膚損傷が合併しやすく、入浴後のワセリンにてのマッサージなど皮膚ケアを並行して日常的に行いたい。 3.膝窩角(Popliteal Angle:PoA) について 重症児(者)の姿勢支援では股関節や骨盤帯と連動する膝屈筋群の影響が大きく、幼少期より柔軟性を維持していくことが重要である。膝屈筋群の柔軟性の評価に「膝窩角」がある。今回、膝窩角の測定は安静背臥位、股関節90°屈曲位にて膝関節伸展した際の膝伸展0°からの不足分の角度とした。30°で歩容、 70°以上で端座位では骨盤運動の制約や足部の位置に影響がでる。 4.耳や腰部の褥瘡への対応から考える −「構えバランス」とともに「荷重バランス」とが整合できて「全身の姿勢バランス」が成り立つ− 全姿勢において、身体機能に有効な「構えバランス」の選定が整い、そして、重力対応としての「荷重バランス」の選定がなされることで安心でき機能的な「全身の姿勢バランス」が選定できる。今回は、耳褥瘡や腰部短縮部の側腹部皮膚損傷に関して考える。前記した体幹の三次元的変形と呼応する非対称的な下肢変形において、対側群においては、顔面側で体幹が凹側下の半背臥位姿勢が一般的な姿勢となる。この際、顔面側の側頭部や耳、肩、腰部や骨盤帯には他の部位より大きな体圧がかかりやすい。前記した総合的な「構えバランス」を用意できたとしても、ベッド内にて上半身をギャッジアップするとさらに荷重が増強され、耳や腰部短縮部の負担が増強してしまう。この対応として、全身の「構えバランス」を保ちつつ、頭部側を後方、下半身側を前方となるようにベッド内で全身を斜めに設定にすることで、全身の体圧バランスが均等化し、顔面側の側頭部や凹部側腹部での荷重を軽減することができる。このような「構えバランス」と「荷重バランス」を整合した姿勢選定により、耳褥瘡や側腹部皮膚損傷を予防し改善することができる。今後ベッド内の側臥位姿勢支援として定着させたい(図2)。これは一例であり、すべての姿勢の選定に関与する内容である。たとえば、車いす製作においても「構えバランス」とともに「荷重バランス」を合わせて検討する。 Ⅳ.三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用した側臥位姿勢の支援の経過と実践報告(オリジナル三角マット「アンミンサン®」を使用して) 1.夜間姿勢保持の研究から 夜間姿勢保持の研究9)では、当時の病棟で最も睡眠が不安定で呼吸や消化器系の対応が困難な準超重症者を対象に、呼吸機能に望ましく、介護しやすい姿勢保持と姿勢変換の方法を検討した。脊柱や胸郭の重度変形に対して、モールド型の側臥位姿勢保持具を製作し覚醒時の呼吸機能と骨関節系評価を行い、良い結果が得られたので、夜間姿勢保持装置を製作した。実際にベッド内で使用し適応を図ることで、深夜の呼吸機能評価で安定した呼吸が確認できた。夜間の姿勢管理の重要性が再認識され、「夜間姿勢をも担う側臥位保持装置は医療的側面を持つ重要な生活用具である」と提言できた。この結果を指針にして、重症児(者)にて体幹の三次元的変形や肩関節の重度可動域制限がある方々には個別フルオーダーでの側臥位保持装置の製作を含めた姿勢環境支援を行ってきた。 (以降はPDFを参照ください)
教育セミナー4
  • 酒井 朋子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))においては、骨折が少なからず経験される。年間骨折率は2.4~4%ほどで1〜3)、骨折は下肢に発生しやすい。受傷機転は不明であることが多く、特に経管栄養者に不明例が多い。骨折の危険因子としては、抗けいれん薬の使用や経管栄養者であること、脳性麻痺の型、運動レベルと骨粗鬆症の程度、骨折歴があげられている4)5)。骨密度は小児期からすべての世代にわたり低下しており、中でも経管栄養者ではさらに低値となっている。重症児(者)骨折が疑われるときにはX線検査を行うことが望ましい。不顕性骨折の可能性もあるため、一度のレントゲンでは診断せず、1、2週後の再検査で同部に化骨形成の有無を検討することは有効である。治療においては患部の固定で十分な骨癒合が得られることが多い。予防としては、定期的に骨密度を測定し骨粗鬆症の状態を検査し、血液検査をもとにしたビタミンD、Kの補充、重症例ではビスフォスフォネート薬の使用も検討される。重度骨粗鬆症に対する認識をもつとともに、着脱しやすい洋服の選択、マンパワーの獲得やスライドボード等の介護用具の使用は有効である。
第3回看護研究応援セミナー
  • 石井 美智子, 田中 千鶴子, 倉田 慶子, 鈴木 真知子, 仁宮 真紀, 佐藤 朝美, 濱邉 富美子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 105
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    看護研究応援セミナーは、実際に研究活動をしている看護師さんに講演して頂き、セミナーに参加してくださる方々と共にディスカッションを交えながら運営してきました。第3回目を迎えた今回は、知りたいことに積極的に取り組める看護研究のテーマの見つけ方を皆さんと検討したいと思い「実践の中から看護研究のテーマを探そう」というテーマでセミナーを企画しました。 看護研究のテーマの絞り込みに苦労したことはないでしょうか?「あれも気になる」「これも気になる」と、テーマが複数出てきてしまい、なかなか一つのテーマに絞り込めずに「決められない」と、迷ったりしていませんか?日常の看護実践で疑問に感じること、利用者さんが抱えている問題の背景にあること、知りたいことはたくさんありますが、1つの研究で取り扱えるのは、1つのテーマです。鈴木真知子先生には、「研究目的が曖昧であったり、大きすぎて、必然的に方法の焦点が定まらず、目的に応じた方法になっていない」時にどのようにテーマを絞り込んでいけば良いのかを事例を提示して頂きながら、お話しして頂きました。また、仁宮真紀さんには、日常の看護実践からどのように研究に結び付けているのかを小児看護専門看護師の活動を通して、お話しして頂きました。 講演後のテーブルディスカッションでは、活発な意見交換がなされていました。「テーマの絞り方が勉強になった。テーマになりそうなことを探してしまうが、気づきが重要、雑談から気づきたい」「看護業務の中で研究の時間をとることは難しいが、『委員会業務』にしているという実践例を聞き実施してみたい。」などの意見が出ていました。講義とディスカッションが結びつき、今後の取り組みへのヒントを得られていたようです。 今回のセミナーの内容をお二人の先生にご執筆頂きました。看護研究を始めるときやテーマの抽出に煮詰まってしまったときに、ぜひ、お読み頂きたいと思います。どのようにして、テーマを絞り込んでいけば良いのか、その道筋を解説して頂きました。また、日常のケアから、どのように看護研究に結び付けているのか、事例を通してご執筆頂いています。看護研究が看護の質を高めるための活動となることを願っています。
  • 鈴木 真知子
    2019 年 44 巻 1 号 p. 107-109
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    本セミナーでは、「実践の中から看護研究のテーマを探そう −研究の進め方を一緒に考えてみましょう!!−」というテーマで話をさせていただきました。ここでは、セミナーでお話しした内容の概要をご紹介させていただきます。 Ⅰ.背景と事例 日本重症心身障害福祉協会による重症心身障害看護師の第7回認定審査の結果が、71名の内、合格者60名(合格率84.5%)であり、例年に比べると「論文のスタイルは整ったものの、合格率は横ばい状態」でした。不合格と判断した論文や気になった点を委員で検討したところ、「テーマが大きすぎて目的に応じた方法にはなっておらず、何を目指した研究なのかが不明瞭。そのために、目的に応じた結果も得られていない」ということが課題の一つとして挙げられました。これは毎年指摘されていることです。そこで、「知りたいことに積極的に取り組める看護研究のテーマの見つけ方」という、少し大きいところから研究の進め方を考えることにしました。 「みなさんならどう考えますか??」という問いのもと、研究テーマの例を挙げ、考えを進めていきました。 例;重症心身障害児施設で働く看護師の決められた服装について、自由な服装にすれば、入所者の家族や職員に良い印象、親しみやすさを与えるのではないかという疑問を持ち、看護師の自由な服装によるその影響を研究目的とする、というものです。 Ⅱ.研究テーマを考える場合のポイント(参考文献:黒田裕子:黒田裕子の看護研究 step by step, Gakken) テーマを考える上でのポイントを5つ、お示ししました。 ポイント1.先入観、偏見、邪念は捨ててテーマを考える ポイント2.それは「研究」によって明らかにしなければならないような疑問だろうか? 研究疑問になりえるものと、そうではないものがある。個人的な感情ではなく、先ずは、論理的な思考により、筋道立てて、手持ちの知識を土台にして考える ポイント3.看護の中で起こっている事実や現象を、客観的に見ようとする姿勢や視点があるだろうか ポイント4.数値で表すことが可能なデータについては、極力数値で表す ポイント5.わざわざ研究を行う必要があるのか ① その研究疑問が真に看護研究として価値があるか、② 医療や福祉領域において何らかの貢献となるか、③ 新しい発見、さらなる問題解決に結びつくか 上記のようなポイントのもと、特に研究テーマの絞り込みのスタートでは、◇気づいたり問題だと感じたりしたその内容が、何かおかしい、疑問と思ったときに、ちょっとひと呼吸、瞑想の時間を持ち、次のような点についてもう一度熟慮してみましょう。 1.業務改善と研究を同レベルで思考していませんか? 2.すでに過去に研究がありそうなことではありませんか? 3.あまりにも膨大なことに取り組もうとしていませんか? 4.看護の視点で見ることができていますか? 5.専門家の話、文献などで解決することではありませんか? 6.思考は論理的でしょうか? 7.研究テーマを生かした研究方法が組み立てられていますか? 8.動機とテーマの方向性はつながっていますか? 9.事例にヒントが潜んでいます。事例に立ち戻って考えてみると、どんなことが挙げられますか? 最も大切なことは、研究の背景(序文)がどのようなものかということです。つまり、十分な文献検討ができているか、自分の研究テーマについて、すでにどのような発表がなされているか、どのような点に着眼されているか、自分の研究の目的=何故この研究が必要なのか、自分の研究の意義(どのような点が先行研究と異なるのか)、などについて、先行研究と比較し検討することです。それらが研究を焦点化するうえでは、重要なヒントを与えてくれます。つまり、そこだけを見るのではなく、研究の位置づけ、背景からテーマを捉えることが、実践に根ざした良い看護研究につながるということです。 Ⅲ.具体例を通して考える 先の研究例から、テーマの焦点化をもう少し具体的に考えてみましょう。 テーマは、看護師の「自由な服装」が入所者家族や施設職員に与える印象(家庭的な雰囲気、親しみやすい、その役割にふさわしい)への効果検討です。先行研究からは、決められたユニフォームにはメリットとデメリットがあること。病院看護師のユニフォームについては、好まれる色、カラーユニフォームに対する印象の変化があるが、入所施設や福祉施設では看護師ユニフォームに関する報告がないことが分かりました。そこでは、過去何年間の文献を検討しましたか? 通常は、過去10年間の文献を調べます。どんな検索ソフトを用いましたか?キーワードはなんですか? 病院で勤務する看護師のユニフォームに関する文献はあったようですが、病院と施設とでは、何が異なるのでしょうか? 過去の文献を通して検討してみると、テーマは全く同じではないかもしれませんが、テーマの見方を少し別の角度から見直すと、すでに知見を得ているかもしれません。先行研究では十分な結果を得ていないとしたら、それはどのようなことからでしょうか? つまり、例示したものは、研究の背景となる過去の文献を通して、テーマの検討が十分に行われたのかどうかが疑問として生じます。 次に目的に応じた方法という点について、考えてみます。 方法は、独自に作成した調査用紙を用い、アンケート調査を実施しました。対象者は自施設の職員73名(回答者54名)と入所者家族40名(回答者24名)であり、結果は、質問項目別に整理した対象者数の割合と、自由記述内容を分類したものを用い、傾向として示していました。目的では、「看護師の服装による影響を調べる」としています。統計学的に「傾向」や「影響」をいうには、どのような手続きが必要でしょうか? 割合の比較により傾向や影響がいえるでしょうか? 「看護師が自由な服装で勤務することによる、入所者の家族と職員に与える印象を調べる」という研究テーマは、よく分かりました。ところが、先のポイントとして述べた「研究テーマを生かした方法へと考えが進んでいるだろうか?」から考えると、目的に書かれている「その効果を検討する」ことと、タイトルに示されている「看護師の服装とその影響」は、「印象を調べる」という研究目的に対して、研究テーマを生かした方法として思考が論理的につながっているとは言えないようです。 「印象」を「影響や効果」として調べるということは、どのようなことを意味しているのでしょうか? テーマを解明するために「正しい統計学的な方法が用いられたかどうか」を考える前に、「印象」「影響」「効果」という言葉(概念)を、もう少し丁寧に、慎重に、見直す(考える)必要がありそうです。 Ⅳ.おわりに 本当に疑問として思ったことは、何だったんだろう‥? 苦しい闘いですが、スタート時点での研究テーマの絞り込みの作業が、その後に続く研究のキーになります。 そこでは、繰り返しになりますが、文献に立ち戻り、「文献に聞いてみる」ことや、上司・仲間との意見交換、これまでに研究を実施し、研究をまとめて報告した経験を持つ先輩ナースや専門看護師、大学の教員などに、考えている研究テーマのアイデアを聞いてもらい、意見をもらうことが役立つと思います。論文の「背景」にあたる部分を書き、それを誰かに読んでもらい、意見を求めることができたら、なお望ましいと思います。 業務改善でもかまいません。疑問に思っていることをキーワードにして文献にあたり、文献を深く読みこなす。参考にする文献は、権威あるものと評価されている学術誌で、原著論文を選びましょう。そして、過去の研究からいえること、まだ十分言い尽くされていないことは何か、自分が疑問として思っていることは、そこではどのような方法を用いて検討されているか、などを整理するところから、先ずは、はじめてみましょう。アクションを起こすことが大切です。Let's do it !!
  • −看護師のモチベーションの向上を目指して−
    仁宮 真紀
    2019 年 44 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.院内研究の支援体制の構築 看護師のキャリアアップの一環として、院内研究を現任教育の必須項目にしている病院や施設は多い。当院では、経験年数にかかわらず、いつでも誰でも研究を行うことができる。しかし、部署によって研究の実施状況には差異があり、研究を行ったとしても「いつ、誰が、何の研究を行っているのか」の共通認識を施設職員全員が持つことが難しい状況であった。 筆者は、小児看護専門看護師として当院に勤務しており、2016年2月より病棟所属の看護主任から研修研究担当看護主任へと異動になった。それを機とし、院内研究(本稿では、看護研究のことを指す)はもとより、看護師の現任教育に関わることになり、徐々に教育指導体制の基盤を整えていった。 2018年4月より、整肢療護園看護科長の理解と協力を得て、院内研究の支援や、療育に関する専門研修を行うための組織である「専門部会」を発足させた。専門部会の構成メンバーは、小児看護専門看護師(2名)、Pre小児看護専門看護師、重症心身障害看護師、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト・ジャパン、3学会合同呼吸療法認定士、感染制御実践看護師の7名とした。それぞれの専門分野の専門的知識を活かした研究指導および研修開発を行う体制を整えることができた。 本稿では、筆者が実際に行っている院内研究の指導の実際や、指導を行う際に心がけている点などを、研究を行った看護師の感想などを織り交ぜながら紹介していく。 Ⅱ.院内研究の指導の実際 1.A看護師の「呟き」から始まった院内研究 2015年の暮れ、休憩室でA看護師と談笑していたとき、A看護師が、ふと「親子入園での看護師の関わり方に物足りなさを感じている」と筆者に呟いた。筆者はその呟きが気になり、それ以降、日々の雑談の中でA看護師に「具体的に何に対して物足りなさを感じているのか?」「それは、いつどのようなときに感じるのか?」などを聞いていった。 その後、筆者から「今感じている物足りなさの正体を探るために、研究という方法がある」とA看護師に伝えたところ、A看護師は「研究するのは初めてだけど、やってみたい」と答え、2016年3月にA看護師の院内研究はスタートした。 2.「研究」のプロセスを一緒に経る A看護師をはじめ、院内の若手看護師たちは臨床での研究を行った経験がない看護師が多い。そのため、最初にA看護師に研究のプロセスを説明し、一つひとつの研究のプロセスを研究チームの看護師たちと一緒に丁寧に辿ることに努めた。 現在は、4年制大学を卒業している看護師も増えているため、卒業研究を行うことで研究の一連の流れを学んでいる看護師もいる。しかし、研究の方法は理解していても、学生のときに行った研究と臨床で働きながら行う研究のプロセスには、研究者としての立ち位置や研究方法の選択の仕方、研究時間の確保などには大きな違いがある。そのため、看護師に「何がやりたいのか?」と問いかけるだけではなく、「どうすれば具体的に研究が進むのか」というプロセスを一緒に辿ることが重要であると考えている。 3.院内研究の難関は「倫理審査」と「日程調整」 看護師や療育支援職員が院内研究を行う上において、最初の難関は院内の倫理審査委員会の承認を得ることであると言っても過言ではない。特に、「倫理的配慮」に関しては、被験者の権利を擁護するための具体的な方策を記述するということに現場の職員は慣れていない。被験者が重症心身障害児(者)(以下、重症児)やその家族ではなく、施設職員である場合も、「強制力が働く可能性があること」や、「能力評価の対象になること」等々の観点は職員に注意深く伝えていく必要がある。 また、看護師は変則勤務であることが多いため、チームで研究を行う際にはメンバーとの日程調整が大きな課題となる。研究チームが3名以上の場合は、最低でも月に一回程度、研究チームの2名が同じ勤務帯で研究時間を確保できるように、病棟責任者もしくは研究指導者には可能な範囲での勤務調整を求めたい。 Ⅲ.院内研究における看護師の困難と学び 筆者は研修研究担当に配属されてから、現在まで7組の研究グループの指導を行ってきた。研究を実施した看護師から、研究を通して大変だったことと良かったこととして、下記のような意見があった。 <研究をして大変だったこと> A看護師:病棟業務や委員会と並行するので、時間がなかった。アンケート結果で母親の否定的な意見を読んで精神的なダメージを受けた。 B看護師:とにかく時間確保が大変だった。業務時間外は仕方ないと思ってもキツかった。 C看護師:資料収集や勉強したい分野を調べるまでに時間がかかったこと。研究手順が分からなかった。 D看護師:研究の時間を捻出することが難しかった。 <研究をして良かったこと> A看護師:追究していくと、多方面からアプローチしてみたいと思うことができ、研究って案外面白いと思った。病棟のケアを振り返ることができた。 B看護師:普段気になっていたことや雑談していたことが研究を通して知ることができ、具体策や「その先」が見えてきた。 C看護師:チームで成し遂げる経験ができた。いろんな考え方があったり、いつも一緒に働いているスタッフでも新しい一面を見つけて、お互いを認め合って尊重することができた。 D看護師:他部署との連携がとれた。様々な角度から子どものケアを考えることができた。 以上のように、臨床の場で研究を行う看護師は、「業務を行いながら研究時間を捻出すること」に対して負担を感じていたことが分かる。多くの施設で、研究時間の確保の問題は頻繁に議論されているであろう。この時間の問題を解決するための策として、「研究委員会」の立ち上げを提案する。委員会であれば業務時間内に実施できる可能性が出てくる。これには組織や管理職の理解が必須であるので、管理者に根気よく説明していく必要がある。 しかし、看護師たちは時間の問題に苦心しながらも、研究を行うことで重症児に対する看護を俯瞰して見ることができたため、自己の看護を振り返ることができたり、病棟職員の新たな一面や新たなケアを発見することができていた。これは、個々の看護観の醸成にもつながり、研究を行った看護師だからこそ習得することができた貴重な体験であると考える。 Ⅳ.すぐにできる院内研究支援 1.研究テーマの見つけ方 研究テーマをどのように見つけるかということは、院内研究を行う際に最初に直面する課題でもある。臨床では、「研究をしなければいけない状況になった→テーマが見つからない→無理やり探して見つける→興味を持てず、研究が苦痛になる」という負の連鎖が起こる場面を何度も見てきた。本来であれば、看護師がある現象に対して、「どうしてなのだろうか?」と疑問を抱き、その疑問を「探求してみたい」というパッションを湧き上がらせることから研究は始まる。 看護師は日々の煩雑な業務の中で、常に疑問を持ちながらケアを行っている。たとえば、「なぜ心拍が高いのか?」と疑問を抱き、「その原因を解明したい」と考え、「痛みがあるのかもしれない」、「痰が溜まってきたのかもしれない」、「何か伝えたいことがあるのかもしれない」等と探りながら、ケアを行っている。このように考えると、研究テーマはすぐに見つかるはずである。しかし、「研究は難しい、時間を取られる」等の先入観が、看護師が抱く疑問を研究に結びつくことを困難にしているのかもしれない。 こうした看護師の疑問を研究テーマに結びつけるためには、日頃の休憩室におけるちょっとした雑談や相談の中での「ちょっとした呟き」を見逃さずに、「その疑問を研究という形で追求してみよう」と勧めることが、看護師のモチベーションを向上させる一助になるのではないかと考える。 2.臨床ならではの研究の仕方 教育機関に在籍している場合や、何らかの資格取得のための養成講座に在籍している場合は、研究時間を確保しやすい状況にある。しかし、臨床の看護師が研究を行う場合、文献検索やデータ分析、考察を導くための構想に対して、業務外での多くの時間を費やすことは変則勤務交替の看護師にとってかなりの負担となっている。その負担感によって研究のモチベーションが下がることもある。 そこで、筆者は臨床ならではの研究の進め方として、研究テーマに関連する他施設への見学研修を行ったり、研究チームに入っていない看護師たちとテーマに類似した内容のディスカッションを行う時間を設けたりするなどの「研究テーマに関連するアクション」を行うことを研究指導の一環として実施している。このアクションを行うことで、看護師はデータを多角的かつ客観的に読み取ることができやすくなるのではないかと考えている。 3.学会への参加を積極的に行う 臨床の看護師は、研究や学会に対して「敷居の高いもの」という認識が少なからずあるように見受けられる。研究を行って新たな知見を導き出していても、「学会で発表するのは、レベルが高くて無理」という声も聞く。しかし、重症児は個別性が高く、ケア一つひとつに特殊性がある。そのため、事例研究の積み重ねを他の施設の看護師や職員と共有し合うことが、重症児のケアの質の向上やケアの工夫に関しては何よりも重要であると考える。 このような考えの元、筆者は自分が発表する学会には、臨床の看護師たちと一緒に参加するようにしている。「まずは学会に行ってみる」というところから始め、研究に関心を持ってもらうことが重要である。 (以降はPDFを参照ください)
公開セミナー:これからの治療・ケアに関する話し合い~アドバンス・ケア・プランニング~について考える
  • 〜アドバンス・ケア・プランニング(ACP)〜について考える
    余谷 暢之
    2019 年 44 巻 1 号 p. 115-119
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.アドバンス・ケア・プランニングとは アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは「今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスである」とされている。ACPの目標は、重篤な疾患ならびに慢性疾患において、患者と家族の価値や目標、選好を実際に受ける医療に反映させることにある。ACPには、①病状の認識を確認すること ②療養や生活に関する不安や疑問を尋ねること ③療養や生活で大切にしたいことを尋ねること ④治療の選好を尋ね最善の選択を支援すること ⑤代理意思決定者を決めてその裁量の余地について話し合うことなどが含まれる。DNAR(Do not attempt resuscitation:患者が心停止ないし呼吸停止に陥った際に心肺蘇生の処置を行わないことを前もって指示しておくこと)やリビングウイル(生前意思)のように希望を紙に記載し結果を共有するだけでなく、そのプロセスを共有することで、その背景や理由、価値観を共有することができる点に違いがある。 Ⅱ.なぜアドバンス・ケア・プランニングが重要なのか Temelらは転移性非小細胞肺がんの患者に対して早期に緩和ケアが介入することで、QOLの向上、不安抑うつの低下につながることを報告した1)。また同時に、早期緩和ケア介入群では予後が2.7か月延長するとの結果を示し、大きな反響を巻き起こした。その後の追研究でTemelらは、早期緩和ケア介入群においては、患者自身が自分の正確な予後を知っているために、化学療法を受ける割合が低く(9% vs 50% p=0.02)それが予後の延長につながっているのではないかと報告した2)。こういった背景から、緩和ケアの重要な要素としてACPが位置づけられるようになり、欧米各国において、ACPが保健医療政策において重要な位置づけを持つようになってきている。 ACPを導入する際は、これまでの病状経過を振り返りながら、ゆっくりと患者、家族が現状をどのようにとらえているかを確認した上で、今後の意向について尋ねていくと導入しやすいことがある。こういった話し合いを予め行っておくことで、直面する複雑な医療状況の中で、何を大切にして考えていくかについての目安とすることができる。小児領域においてもACPを行うことで、終末期における決断において十分な情報を事前に知ることができる、患者家族が医療従事者とよりよいコミュニケーションがとれたと感じる、望まない心肺蘇生など本人にとって利益の少ない積極的治療の制限を行う割合が高くなるなど有用性を示す報告がある3)4)。しかし実際は、予後がはっきりしないことや、医療者と患者家族の病状認識にギャップがあること、希望を失ってしまうのではないかという医療者自身の不安などが障壁となり、医療者自身がACPを行うことにためらいを感じることが多いと報告されている5)6)。 Ⅲ.アドバンス・ケア・プランニングを切り出すタイミング ではどのようなタイミングでACPを始めたらよいのだろうか?ACPは早すぎても遅すぎても効果的でないとされている。いわゆる「自分事」になる前のタイミングで行うACPはあくまで仮の決定になり、実際の選択する際に違う選択をすることが多いとされている。一方で、生命の危機に直面するような場面では、話し合いが行われても行われる医療行為をするかしないかに限られてしまい、その背景にある価値観や目標が探索されないという問題が出てくる。 ACPを切り出すタイミングとして、Surprising questionという考え方がある。これは、「この患者さんが1年以内に亡くなったら驚きますか?」と患者に関わる様々な職種間で検討をし、もし驚かないのであれば緩和ケア・ACPを開始するほうがよいという考え方である。成人領域では非がん患者においてもこのようなツールが利用されており7)、小児においても有効性が検証されている8)。様々な職種が関わる場面においてはこういったツールを使いながら見通しを共有し関わることが特に終末期においては大変重要になる。 Ⅳ.神経疾患におけるアドバンス・ケア・プランニング 神経疾患における緩和ケアは特有の難しさがあるとされている。 がんは、進行しても比較的全般的機能が保たれており、死亡前1、2か月で急速に全般的機能の低下が見られることが多い。またがんは、原発巣や種類が違っても、症状や臨床経過において一定の共通性、法則性が認められ、その共通性や法則性は終末期になればなるほど顕在化するという特徴がある。 一方で、神経疾患においては、がんと比較し長期にわたり変化しやすい特徴がある(図1)。またもともとの疾患の軌跡に共通性がほとんどなく、終末期を正確に把握することが難しい。また小児神経疾患の場合、きちんとした診断がつくまでに、数か月から年余にわたることがあり、きちんとした診断がつかないままになっていることも珍しくない。また同じ疾患であっても症状や重症度に幅があるため、共通性、法則性を持って対応することは難しく、緩和的な対応が必要かどうかの判断は疾患によるというよりもその子が必要かどうかで判断せざるを得ない。 状態が変化しやすい神経疾患においては、予防的対応、治療的対応、緩和的対応が混在して必要となる場合が多い。したがって普段から、突然の状態悪化時も含めてこれからどのように過ごしたいかについての話し合いを行っておくこと、アドバンス・ケア・プランニングがとても大切になる。急変による状態悪化が起こりやすい神経領域においては、急変時のDNARや緊急時の気管内挿管を行うか行わないかについての話し合いはがん領域に比較して行われている頻度が高いのに対して、病状についての話し合いや、病状理解の確認などの話し合いががん領域に比べて行われない傾向がある6)。日常診療の中で患者家族と現在の病状の共有とこれからの見通しを意識して話し合うことが大切といえる。 Ⅴ.アドバンス・ケア・プランニングの進め方 厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を制定し、意思決定支援や方針決定の流れを図のように示している(図2)。小児領域における意思決定の話し合いにおいては、①本人の意思が確認できない場合にどのように対応するか ②本人の意向をどこまで尊重し対応するかという大きな二つの課題がある。 1.本人の意向が確認できない場合 本人の意思が確認できない場合は、現在/過去の直接的、間接的表現の情報を集めて本人の意思を推測する必要がある。自分で意思表示ができない乳幼児や発達に問題がある児の場合は、本人の直接的な表現がないため、間接的な意思表示を踏まえて推定する必要がある。たとえば、侵襲的なケアを反復して拒否するなどはそれに該当することがある。ただ、その拒否にも他の要素の影響がある場合もあり、判断に悩むことが多い。その場合、家族の声が患者の推定意思に関する強い根拠となり得る。 家族の声には、2つの役割があるとされている。一つは、「患者の声を代弁するものとしての家族の声」であり、もう一つは「患者のことを大切に感じ、世話をするものとしての意向を表現するものの声」である。家族自身は自分が話している言葉が家族自身としての言葉か、それとも患者の代弁者としての言葉か意識していることはないことが通常であるため、医療者はその違いに注意する必要がある。「この子ならどのように考えますか?」などと問いかけることで、患者自身の意向を代弁する言葉として聞くことができるかもしれない。一方で、患者自身の代弁者ではなく、家族自身の意向や意見も意思決定において重要な根拠となり得ることも事実である。その際に、家族は介護負担や経済的負担、他のきょうだいの利益保護などの点において、患者との間に利益相反関係にある可能性がある視点も忘れてはいけない。必ずしも家族の意向を聞くことが患者の利益につながらない可能性も想定しておくことが重要である。  2.本人の意向をどこまで尊重し対応するか 思春期の患者や、意思決定能力が十分でない患者の意向を、実際の医療やケアの意思決定にどこまで尊重するかも大きな課題である。子どもの権利条約では、子どもが持つ権利として12条で自己の意見を表明する権利を、13条では知る権利を謳っており、子どもであることを理由に意思決定に参画しないことは避けるべきである。一方で、医療における意思決定について法律上何歳以上で意思決定できるとみなすかについての規定はない。意思決定能力の判断基準としては、①理解 ②認識 ③論理的思考 ④表明の要素が満たされることとする考え方がある9)。また、介入の性質と本人の意向によって異なった意思決定能力を判断する基準を採用するSliding scaleという考え方もある10)。日本における思春期患者診療においては、ACPを本人と行うことはまだまだ少なく、多くは家族と行っていることが多いという現状がある5)6)。一方で、思春期患者の96%が自分自身の病気の予後について正しくすべて知っておきたいと話したとの報告もある11)。前述した意思決定能力の判断基準に当てはめながら、意思決定能力について評価し、本人の意向を実際の医療に反映させる努力が必要であるといえる。 (以降はPDFを参照ください)
  • 雨宮 馨
    2019 年 44 巻 1 号 p. 121-125
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)は「患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて、患者・その家族の価値観を明らかにし、これからの治療やケアの目標や選好を明確にするプロセスのこと」1)2)であるが、治癒できない病気や進行していく病状がある場合、ACPを行い、治療やケアの目標や実際の方法を考えていく上で、自宅でできるかぎり過ごすことを選択した場合に在宅医療は必須といえる。厚生労働省は在宅医療を推進しているが、なぜ在宅医療が必要なのか、在宅医療について紹介し、その後在宅でのACPについて述べたいと思う。ACPについてのエビデンスについては、国立成育医療センターの余谷氏の稿を参照いただきたい。ここでは、在宅で過ごす重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))に向けて、以前から実践してきたACPの実際の経験をお伝えしたい。 Ⅱ.在宅医療が必要な理由 医療が進歩を遂げる中、重症児(者)への医療の選択肢が幅広くなり、生命予後は改善されている。医療介入が積極的に行われるようになったことで、自宅で過ごす濃厚な医療ケアを必要とする超重症児(者)や準超重症児(者)といわれる重症児(者)の数は増加している3)。医療が進んだことにより自宅で介護する家族の介護負担は増えており、環境や法の整備が少しずつ成されているが、支援は十分とは言えない状況である。重篤な子どもの介護や状態について、誰に相談したらいいのか分からない、相談しても適切に理解してもらえないといった困り感がある患者家族も多いのではなかろうか。 在宅医療は、病院に通うことが困難な患者に対し、自宅で医療の支援を行う医療であり、介護する患者家族のニーズに寄り添うことができる医療といえる。前田氏は、小児在宅医療の目的または理念として、「全ての子ども、どんな重い障害や病気をもった子どもも、一人の「人」として大切にされ、家族の絆、地域のつながりの下で、それぞれがもって生まれた「いのち」の可能性をできるかぎり発揮して、生き切ることができる社会を実現する。在宅医療という形で、地域基盤の多職種連携による包括的ケアを行い、患者家族が中心のケア(Patient & Family-Centered Care)を実現する」と述べている4)。 在宅医療の一例として、さいわいこどもクリニックの現状について述べる。さいわいこどもクリニックでは、非常勤医師を含め4名の医師で50名ほどの在宅患者を支援している。往診患者は、年齢は0~30歳代で、全患者が医療的ケアを必要としており、バックアップの近隣病院がほぼ決まっている。月1~4回の往診に加え、24時間体制で家族からの相談の電話に対応し、状態に応じて緊急往診または入院の判断などを行っている。地域基盤の多職種連携にも力を入れており、患者の病状や支援の方向性や災害時対応を検討するカンファレンスを多職種で積極的に行っている。 成人の在宅医療は、慣れ親しんだ自宅で最期まで過ごしたいと望む人が多いことを受けて、厚生労働省推進の下、自宅での看取りを支援することが大きな役割となっている5)6)。当院でも家族が希望される場合に自宅での看取りを支援することがあり、その際には、訪問看護等と連携しながら臨時の往診や夜間の緊急往診を行い、家族の不安に最大限寄り添えるよう支援している。また病院での看取りを希望される場合には、できるかぎり病院の主治医と連携し、終末期に病院でのカンファレンスに参加したり、病院主治医とは別にACPを行ったりと悩む家族の精神的な支援をしている。 在宅で過ごす重症児(者)の多様化・濃厚化する医療の支援はもちろんのこと、重症児(者)本人への家族の個々の思いやその子が生きることへの多様な価値観に対応するために、今後ますます在宅医療は欠かせないものといえる。 Ⅲ.在宅でのACP 1.悩むACPのタイミング 重症児(者)は、がん患者と異なり、病状進行の程度は様々なため、今後の病状についての予測を的確に行うことは困難である。ACPは「患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて、患者・その家族の価値観を明らかにし、これからの治療やケアの目標や選好を明確にするプロセスのこと」であるが、慢性の経過であるがゆえに、普段から関わる患者家族と点で関わる医療者では病状のとらえ方に開きがあることが多いため、ACPがより必要といえる。ただ、どの程度の急変を見越して、患者家族と事前に話をしておくことが適切か、いつの時期に行うことが適切かを見定めるのは難しいと感じるであろう。特に在宅の場では家族が介護しており、悪い予測を伝えることで家族の不安をあおるのではないかと懸念されたり、患者家族が病状を把握していない時点でACPとして起こり得る急変の話をしたりすると「なぜ悪い話ばかりするのか」と誤解されたりすることもある。成人在宅医療の現場でも、緩徐な進行をたどる神経疾患のACPは必ずしも行われていない現状がある。 しかし、実際に在宅療養している重症児(者)が急変し重篤な状態に陥ると、急性期病院で初めて会う医師から厳しい話を突然受けることになる。医師から事前に重篤な状態に陥る可能性を告げられていなかった場合、家族は「こんなことになるとは思わなかった」と当然混乱するであろう。急性期治療に従事する医師の負担感も大きく、普段関わっていない病院医師からは「普段関わっている医師が適切に病状を事前に伝えておいてほしい」といった希望が聞かれる。 重症児(者)では、家族は身体に様々な問題のある状態を当たり前として受け入れながらともに生活していくため、家族の病識が医療者とずれやすいといえる。ACPと身構えて行うことは医療者にとって負担感のあることかもしれないが、重症児(者)のACPとして大切な一歩は、まず患者の現在の病状について家族と共有することである。ACPはあくまでプロセスであり、一度に全体を話すということではなく、ACPのタイミングとしては、①自宅で一時だが家族が不安になるようなエピソードがあったとき(カニューレが抜けた、嘔吐して顔色が悪くなったなど)、②肺炎等なんらかの感染症で緊急受診や入院を必要とし、回復した後、③様々な検査を行い、結果を説明された後、④親しい人が重篤な病気になった/または急変したといった話を聞いたことをこちらに話してくれたとき、⑤急変があった重症児(者)の友人の話が出たときなどが挙げられる。外来の短い時間でも「○○といったことがあることもあるから、気を付けてね」と一言声をかけるだけでも家族の患者への病状理解の一助になることもある。 2.ACPの内容 家族が介護する中で抱える希望や不安に触れる機会も多い。在宅医療の依頼を受ける重症児(者)は医療的ケアが多く、介護者である親は子どもが急にSpO2が下がり顔色が悪くなったといったような命の危機を感じさせられる経験をすることも多い。自宅では実際の急変時に家族のみで対応しなくてはいけないことがほとんどなため、心肺停止といった状態に至った場合には実際の対応は困難といえる。在宅医療では終末期の緩和も含め自宅での看取りに対応することも可能であり、家族と関係をある程度築き情報提供した上で、実際にわが子が死に直面する状況に至った場合にどのようにしたいか、入院してどのような治療を受けたいのか、自宅で穏やかに過ごしたいのかといった方向性をある程度確認することも努力している。ACPとして、①本人の病状とそれに対し今後起こりうることと対応方法 ②死に直面した状態の際には自宅でできる終末期の緩和方法や心肺蘇生についてといった内容を具体的に説明し、親の子どもに対する人生観や死生観、希望を踏まえ、どのような医療を望み、医療を受けどう生きてほしいのかをともに考えていく必要がある。    重症児(者)のACPの課題として、代理意思決定の問題が存在する。在宅医療では自宅に訪問するため、患者本人の病状のみならず、本人の療養環境や家族背景、教育や福祉の介入状況などが把握でき、それらを交えて関わるので、家庭の中での「○○くん/ちゃんとは」という患者の存在を共有しやすい。この子とどう過ごしたいかといった親の実際の希望を聞くことも多く、周囲の状況を交えながら、患者にとっての最善の利益を考えながら診療に反映することが可能といえる。ただ、患者の存在について共有するには時間が必要であり、在宅期間が短い乳幼児はACPが非常に難しいといえる。 3.外来のみの在宅重症児(者)へのACP 外来診療でのACPは、患者が肺炎等で入院し回復した後や知り合いの死などをきっかけに行っている。重症者の場合は長い年月を患者と過ごしており、介護している家族も年齢を重ねているため、医療側が適切な医療情報を提供すれば、本人にどう生きてほしいかを語ってくださる方が多い。急変時は他院に運ばれることになるため、家族は当然混乱に陥る。そのようなときに、家族が悩んだ末に侵襲的な高度医療を望まないという場合には、十分に患者の病状を理解した上で家族が選択したことがわかるような意思表示の書類を作成し、さらにお財布に入るサイズの意思表示カードを家族とともに作り、急変の際に少しでも意向が反映されるよう支援している。 (以降はPDFを参照ください)
  • 北住 映二
    2019 年 44 巻 1 号 p. 127-131
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.重大な医療の方針の検討の仕方について 心身障害児総合医療療育センター(以下、当センター)では、平成17年に倫理委員会規定を定め、「薬物治療や検査、調査・研究についての専門部会」、「センター利用者権利擁護のための専門部会」とともに、「終期医療についての専門部会」を設置し、この専門部会で、入所児(者)の気管切開など重大な医療の方針についての検討を行うこととした。当センターの重症心身障害児者施設むらさき愛育園において入所者の加齢が進み人生の最終段階を視野に入れた検討が必要となってきていた中でのことであり、「終末期医療」ではなく「終期医療」についての部会とした。 厚生労働省による平成19年「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は、平成27年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」と名称が改められた。平成30年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」として改訂され、<アドバンス・ケア・プランニング>の概念が盛り込まれ、医療・介護の現場での普及を図るための文言変更や解釈の追加が行われた。ガイドライン自体(資料1)はシンプルなものだが、解説編(資料2)に詳細な説明がなされている。平成19年のガイドラインも30年改訂版も基本的趣旨は同じであり、医療の選択、開始、差し控えなどについて一律に基準を決めるのではなく、本人、家族、医療・ケアチームの間の合意形成の積み重ねのプロセスを、大事にしていくことが基本とされ、「本人、家族等、医療・ケアチームが合意に至るなら、それはその本人にとって最もよい人生の最終段階における医療・ケアだと考えられます」とされている(「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」解説編、【基本的な考え方】、表1に抜粋)。 この趣旨に則り、御家族の基本的意向を踏まえながら関係スタッフが意見を出し合いながら合意形成を行うようにしている。検討の際には、4つの図をまとめた図1のシートを共通基本資料として、カンファレンスを行うようにしている。 利用者は、重度な障害があっても充分な医療を受ける権利があり、スタッフもそれを行う義務がある。一方で、過剰な医療を拒否する権利もあり、スタッフはそれを差し控える義務もある。そのバランスをどのように考えていくかは、その医療を受けた場合のQOLと、その人が人生のどの地点にいるかが、判断の基本となる。気管切開、人工呼吸器治療などの医療は、同じ内容であっても、人生のどの段階で行われるかによって意味が異なる。人生の途上期や中盤期では、人工呼吸器治療はそれを使用することにより学校にも通え、安定した広がりのある生活を支えるための手段だが、人生の晩期における使用、陸上競技にたとえれば最終の第4コーナーの時期での使用は、本人の明確な希望がなく行われる場合は、消極的な意味での延命治療という意味が強くなる。重症心身障害者において、それぞれの人が、人生のどの地点にいるかの判断は難しいとしても、<重い障害があるからということによる判断・対応>ではなく、<その人が人生のどの地点にいるか、寿命のどの段階にあるか>による判断が、基本となるべきである。また、入所施設においては、スタッフ数などのソフト面の限界、スペースや機器などハード面の限界があり、「限られた医療資源」の問題が、判断のための一つの重要要素とならざるを得ない。 このような基本的事項を踏まえながら、具体的に関係者が検討を行うにあたって、臨床倫理の検討のための四分割表(ジョンセンら、資料3)を活用し、問題点や意見を整理して検討している。この四分割表の、<医学的適応・判断>については担当医師や看護師が担当する。気管切開については、当センターの「気管切開検討シート」へも医師が記入する。<QOL>、<患者の意向>については、看護・福祉の担当スタッフが分担する。それぞれの部分につきレポートを作成したり、この四分割表を大きく作り、それに記入するなどの形で、関係者が共通認識を行い、意見を出し合えるようにしている。この四分割表については限界も指摘されているが、実際の検討において関係スタッフが意見を出し合いながら合意形成するようにしていくためには有用である。 重症心身障害児(者)において基本的問題となるのは、<患者の意向>である。本人の意向の確認は困難なことが多く、家族の意向も確認不可能ないし不明確であるか、あるいは、家族の意向が必ずしも本人の「最善の利益」にかなっていない場合もある。本人と家族の意向が明確でない場合は、医師や管理職でなく、本人のケアに直接関わっているスタッフの意見が当事者の意向として優先されるべきと考えている。 当初は第三者委員を含めた倫理委員会で検討を行っていたが、早急な検討が必要な場合にスケジュール調整が間に合わなかったり、検討をしばしば必要とすることも多い。厚労省ガイドラインにおいて、医療・ケアチームでの十分な話合いでの合意形成が重視され、「医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである」(解説編)、「合意に至らない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を設置し、その助言により医療・ケアのあり方を見直し、合意形成に努めることが必要です」(解説編)とされていることに則り、最近は第三者や管理者を入れた倫理委員会でなく、直接担当スタッフができるだけ多く参加する「倫理カンファレンス」として検討を行い、必要と考えられる場合にメンバーを第三者委員などに拡大しての倫理委員会で検討を行うこととしている。 家族ではない後見人については、医療についての判断をする立場にはない。しかし、<施設や医療機関からの方針が、利用者の権利を尊重しているかどうかという点では意見を述べることができる立場、意見を述べるべき立場>にある。したがって、個々の入所者について家族がいない場合の決定的な検討の場には、後見人にも参加してもらい、その治療の方針の可否についての意見ではなく、その方針が本人の権利擁護にかなうものかどうかについての意見を出してもらうようにしている。 Ⅱ.アドバンス・ケア・プランニングの一つとしての、予めの意向確認 当センターむらさき愛育園入所者での高年齢者の増加傾向、および、家族の高齢化のため家族の意向確認が困難になってきている状況の中で、高齢化・機能低下・状態悪化・急変により、気管切開、人工呼吸器治療、気管内挿管、蘇生処置などを行う必要性が生じた場合に備えて、それらの対応をどのように行うかについて、家族への予めの意向確認の必要性が増えてきた。この予めの意向確認の内容や方法はどうあるべきかを、平成23年に、倫理委員会において、外部委員(元特別支援学校校長と弁護士)と、オブザーバーとしての父母会役員にも参加してもらい検討し、倫理委員会以外の職員にも検討過程を伝え意見を出してもらい、数か月をかけて、意向確認書を作成した。 蘇生処置については、当センターが医師が24時間勤務する医療機関であることと、利用者全員が最終的なエンドオブライフの時期にあるわけではないことから、蘇生処置を「希望する」「希望しない」という設問は不適切であると考えた。実際に、心停止があっても早期の短時間の蘇生措置により後遺症なく回復できている例が複数例ある。蘇生措置は、悪性疾患、心不全、腎不全、多臓器不全などでのエンドステージに至っている以外は基本的に行うこととし、それをどこまで行うかの設問と、回答選択肢としている。<設問>「急に、呼吸状態が非常に悪くなったり心臓の動きが止まったときに、マスクとバッグでの応急的な人工呼吸や短時間の心臓蘇生治療処置は、特別の場合(悪性腫瘍の末期など)以外は、通常の処置として行います。短時間の蘇生措置でも心臓の拍動が回復しないときに、どこまでの時間、治療処置を続けるかについて、どのような御意向をお持ちですか」 <回答選択肢>「・無理がない短時間の蘇生治療にとどめてほしい 。・家族の到着まで続けてほしい。・その他」 気管内挿管については、気管内処置(誤嚥した物の除去などのため)としての挿管と、人工呼吸器治療のための挿管は別に考え、「人工呼吸器治療を短期でも希望されない」場合でも、気管内誤嚥などの際の「気道内処置」のための挿管は必要かつ可能であれば行い、人工呼吸器治療を短期間でも希望しない場合は、気道内処置が終われば抜管するという方針としている。その前提で、<設問>「食物や痰などが気管に詰まって窒息や呼吸困難になっている可能性があるときに、誤嚥した物や痰などの吸引などの気管内処置のために、応急的な気管内挿管を行うことについて」 <回答選択肢>「・このような場合に気管内挿管による処置を行うことは差し支えありません。・このような場合に、気管内挿管による処置を行うことを希望しません。」としている。これについては、異論もあろうが、食事中の誤嚥による不測の事態の際に利用者の命を守り、関わった職員を守るためにも、このようにしている。 人工呼吸器治療については、短期間で済む可能性がある場合と、気管切開しての長期的な人工呼吸器治療の場合とで分けて意向確認している。 (以降はPDFを参照ください)
ランチョンセミナー1
  • 高見澤 滋
    2019 年 44 巻 1 号 p. 133-140
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 粘度が低い液状の経腸栄養剤を使用することで起こる下痢、胃食道逆流、ダンピング症候群などのいわゆる液体栄養剤症候群に対して半固形状流動食(半固形状の栄養剤やミキサー食)の有用性が近年報告されている1)。半固形状の栄養剤には半固形化した状態で販売、処方されるものと半固形化剤で液体栄養剤を半固形化したものがあるがこれまでは半固形化栄養剤、固形化栄養剤、半固形流動食、半固形栄養食など様々な名称で呼ばれており、その呼称は統一されていなかった。2013年に発行された静脈経腸栄養ガイドライン第3版(日本静脈経腸栄養学会編集)ではミキサー食を含めて粘度を有する経腸栄養剤を半固形状流動食(semi-solid medical food)という用語に統一して用いることを推奨している2)。ミキサー食は通常われわれが口で食べる食事(固形物)をミキサーやフードプロセッサーなどにかけて半固形状にしたものでブレンダー食(blenderized food)とも言う。 Ⅱ.胃瘻からのミキサー食の進め方 1.ミキサー食と食物アレルギー 哺乳期から経鼻胃管やEDチューブで経管栄養を行っていた小児では、胃瘻造設後に初めて食事(ミキサー食)を摂取することがある。この場合、初めて摂取する食材で食物アレルギーを起こす可能性があるため、食物アレルギーに注意してミキサー食を開始する必要がある。食物アレルギーを判定する方法として、血液検査(血中抗原特異的IgE抗体測定)があるが、IgE抗体が陽性となった食材のすべてにアレルギー症状を起こすわけではなく、またIgE抗体が陰性であった食材でもアレルギー症状を起こすことがあるため、ミキサー食を開始する前の食物アレルギー検査の必要性に関しては意見が分かれている。 胃瘻からミキサー食を投与する場合、離乳食を経口摂取で進める乳幼児と比較して多種類の食材を多量に投与できるため、食物アレルギー症状が強く出る可能性がある。そのため当院では、ミキサー食開始以前にミルクや栄養剤以外の食事を摂取したことがない患者にはミキサー食で使用する頻度が高い食材(卵黄、卵白、米、小麦、ミルク、鶏肉、ジャガイモ、大豆など)を中心に血中抗原特異的IgE抗体を測定し、IgE抗体が陰性の食材から開始するようにしている。また、IgE抗体が陽性になった食材は入院の上食物負荷試験を行ってから投与するか、少量から開始してアレルギー症状が出ないことを確認しながら増量するようにしている。前述したが、IgE抗体が陽性の食材でもアレルギー反応を起こさない場合があるため、不必要な食材の除去を回避するため、IgE抗体陽性の食材を用いた負荷試験を行うことが望ましい。これにより胃瘻からのミキサー食投与を安全かつ安心して行うことが可能になる。 2.ミキサー食導入から1回量確立までのスケジュール(図1) 1)在宅でミキサー食を導入する場合 ミキサー食は通常の食事を半固形状にしたものを使用するため、米飯(米粥)が主食となる。米にアレルギーがないことを確認した後、ヨーグルトからマヨネーズ程度の固さになるように米粥をペースト状にして先太のプラスチック製注射器を用いて、1日1回、栄養剤1回投与量の1/2~1/4の量で開始する。ミキサー食の1回投与量が、ミキサー食開始前の栄養剤の1回投与量に到達するまでの間は、ミキサー食注入後にそれまで使用していた液体栄養剤またはミルクを続けて注入し、ミキサー食と液体栄養剤を合わせた1回投与量がミキサー食開始前の栄養剤の1回投与量と同量になるようにする。米粥の注入を2~3日間問題なく行えたら、米粥をミキサー食開始前の液体栄養剤の1回投与量まで約1週間かけて増量する。米粥の1回投与量が液体栄養剤と同量まで増量できたら、ペースト状にした副食(肉、魚、野菜など)を米粥に追加して米粥:副食の割合(ml)が1:1になるようにする。ミキサー食の導入に際して、最初から米粥と副食をペースト状にしたものを用いても良いが、副食は食材によって粘度が変化するため、米粥を単独で用いて開始した方がミキサー食注入の手技を習得しやすい。ミキサー食開始1か月後の外来で、注入開始後の体調を確認して問題がなければ1日の注入回数を増やし、可能であればすべての胃瘻栄養をミキサー食へ変更する。 2)胃瘻造設術後にミキサー食を開始する場合 胃瘻造設術後は入院中にミキサー食を導入する。胃瘻造設術後1日目に術前1回投与量の半量の栄養剤またはミルクを術前と同じ投与回数で開始する。術後2日目に術前の3/4量、術後3日目に術前投与量と同量の栄養剤を投与し、術後4日目にミキサー食を開始する。ミキサー食は1日1回、栄養剤(またはミルク)の半量で開始し、術後5日目に栄養剤1回投与量と同量まで増量する(1日1回)。 3.ミキサー食の注入速度 成書には300~600mlの半固形状流動食を短時間(5~15分)で注入するとある。当院では、シリンジに吸った50 mlのミキサー食を15~30秒かけて注入し、2~3分の間隔を空けて繰り返し注入して1回の注入予定量を15~30分間で注入している。家族が食事をしている同じ時間帯にミキサー食を注入すると、適当な時間(30分間程度)をかけて注入することができる。在宅で胃瘻からミキサー食を注入している当院通院中の患者へのアンケート調査結果(49人中35人回答)によると、シリンジ1本(50ml)の注入にかかる時間は30秒未満が14人(40%)、30秒~1分が9人(26%)、1~2分が8人(23%)、2分以上が4人(11%)であった(図2)。ミキサー食1回にかかる時間は2分までが2人(6%)、2~5分が3人(9%)、5~10分が2人(6%)、10~20分が9人(27%)、20~30分が11人(33%)、30分以上が6人(18%)であった(図3)。1日のミキサー食の回数は1回が6人(18%)、2回が17人(52%)、3回が10人(30%)であり、1日3回の10人のうち8人はミキサー食以外の栄養剤を使用しておらずすべての栄養をミキサー食から摂取していた(図4)。 Ⅲ.ミキサー食の作り方 家庭でミキサー食を胃瘻から投与する場合、家族が食べるメニューと同じ食事をハンドミキサーやフードプロセッサーなどでペースト状にして投与する。胃瘻からのミキサー食を継続して行っていくためには家族の負担が少ない方が良い。そのためにもミキサー食が家族とは別のメニューにならないように極力家族と同じ食材をミキサー食にして使用する。 患者がペースト状の食事を経口摂取できる場合は、食べきれなかった分を胃瘻から注入する。きざみ食を経口摂取している場合は食べきれなかった分をミキサーにかけて胃瘻から投与する。入院中の患者にミキサー食を使用する場合は、副菜に使用する食材をすべて一緒にして「煮る」、「ゆでる」などの加熱をしてからミキサーにかけると、食材を別々に調理してでき上がったものをミキサーにかけるより調理行程が減って多人数のミキサー食に対応しやすくなる。 胃瘻からミキサー食を投与する場合、ミキサー食の水分量、エネルギー量を把握しておく必要がある。一般的に、米から作る全粥100gの水分量、エネルギー量はそれぞれ約83g、71kcalとされている。炊飯器で全粥を作ることも可能だが、在宅で全粥を作るときはご飯に水を加えてミキサーにかけた方が手間が少ない。ご飯50g(小さい茶碗半分弱、80kcal)に水分100mlを加えてミキサーにかけると適度な粘度のミキサー粥100ml(80kcal/100ml)ができ上がる(表1)3)。 米粥に副食(肉、魚、野菜、根菜など)を混ぜたミキサー食の水分量は重量の80~90%、エネルギー量はミキサー食100mlあたり80~90kcalとなり、通常の液体栄養剤(100kcal/100ml)よりエネルギー量が低い。また、注入時のシリンジにかかる荷重を減らす(粘度を下げる)ためにミキサー食の水分量を増やすとエネルギー量がさらに低下してしまうため必要なエネルギー量を投与するためには液体栄養剤より多い量を入れなければならなくなる。ご飯に酵素(αアミラーゼ:介護食調整用酵素製剤おかゆヘルパー、キッセイ薬品工業株式会社)を入れたものをミキサーにかけると、粘度が低いが(140mPa・s)高エネルギー(100mlあたり94kcal)のお粥(ベースライス)を作成することができる(図5)。これによりミキサー食のエネルギー量を減らさずかつ注入しやすい低粘度のミキサー食を作成することが可能になる4)。 (以降はPDFを参照ください)
ランチョンセミナー2
  • 位田 忍
    2019 年 44 巻 1 号 p. 141-149
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 嚥下障害を有し、経口からの栄養摂取に制限のある重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は長期栄養管理を必要とする代表例で、慢性偽性腸閉塞や短腸症候群による腸管不全と相まって、栄養管理に様々な工夫を要する。 ここではまず小児の栄養管理の意義を述べた後に重症児(者)に起こる病態に合わせた栄養管理を概説する。 Ⅱ.栄養管理の意義 1.栄養障害のアウトカム 栄養障害は、その重症度によって筋肉量および内臓蛋白の減少、免疫系の破綻、創傷治癒の遅延そして、最終的には臓器不全をもたらし、筋肉量が健常時の70%以下となるとnitrogen death(窒素死)に至るとされている1)。 2.小児の栄養障害のアウトカム 小児の栄養障害について考える際、“小児は成長発達する”という成人との相違点を十分に理解し、そのアウトカム評価においても成長と発達を考慮する必要がある。WHOの報告によれば、低身長は小児の慢性栄養障害の指標として、低体重は急性栄養障害の指標として位置づけられている2)。低体重・体重減少(痩せ)だけでなく低身長の患児には栄養障害の可能性を考えて適切な栄養管理を考慮する必要がある。大阪母子医療センターの入院患者を対象とした検討では、痩せと低身長という発育障害のある児は非障害群よりも血清アルブミン値が有意に低く、身長発育障害のある児は身長発育障害のない児より有意にアルブミン値が低いことも分かった3)(図1)。また、発育障害のある児は発育障害のない児に比べ入院回数が多く、いったん入院したら入院日数が長いことも示された。この結果から、適切な栄養管理が患者のQOL向上の一助になることが示唆される。 3.栄養評価法 栄養管理の第一歩は栄養状態を正しく評価することである。包括的な栄養評価の指標としては、身体計測(身長、体重、BMI、成長曲線など)、管理栄養士による食事調査、血液検査データ(アルブミン、Rapid turnover proteins:RTP、BUN/クレアチニンなど)、窒素平衡、基礎代謝、消化器症状(便秘、下痢、嘔吐など)、ADLや主観的包括的アセスメント(SGA)、理学的所見(皮下脂肪や筋肉の損失状態、腹水、皮膚・毛髪・爪の状態)(図2)などが挙げられる。中でも身体計測、アルブミン、皮膚・毛髪・爪の状態は簡便で重要な指標であり、短期的な栄養障害の把握にはRapid turnover proteins(RTP)が有用である。 Ⅲ.重症心身障害児(者)の栄養管理 1.重症心身障害児(者)の定義 重症心身障害とは重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態と考えられており、重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童を重症心身障害児としている(児童福祉法第7条の2、第43条の4)。重症心身障害は重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態を重症心身障害といい、その状態にある子どもを重症心身障害児という。さらに成人した重症心身障害児を含めて重症心身障害児(者)と呼ぶことに定めている。(全国重症心身障害児(者)を守る会HPより)大島分類ではIQ35以下、座位のみまたは寝たきりの状態を重症心身障害児に分類する。 また医療的ケアの重症度スコアが設けられている。以下のA+Bのスコアの合計25点以上は超重症児、10点以上は準超重症児とされている。 A.運動機能は座位まで B.介護スコア   呼吸管理    1.レスピレーター管理=10点    2.気管内挿管・気管切開=8点    3.鼻咽頭エアウェイ=5点    4.酸素吸入またはSpO290%以下が10%以上=3点         5.1回/時間以上の頻回の吸引=8点 または、6回/日以上の吸引=3点    6.ネブライザー継続使用または6回/日以上=3点   食事機能    1.IVH=10点    2.経口全介助=3点 経管(経鼻・胃瘻含む)=5点 腸瘻・腸管栄養=8点 持続注入ポンプ使用   他の項目    1.血液透析(腹膜灌流含む)=10点    2.定期導尿(3回/日以上)=5点、人工肛門=5点    3.体位交換(全介助)6回/日以上=3点    4.手術・服薬にても改善しない過緊張で、 発汗による更衣と姿勢修正を3回/日以上=3点 2.重症心身障害児(者)の様々な消化管機能障害 重症児(者)では栄養の消化吸収に直接関わる口から肛門までの消化管の様々な機能障害を伴うことから容易に栄養障害を来す。したがって栄養管理は様々な病態を理解して行う必要があり、患者と家族のQOLに直接影響する重要事項である。1)摂食機能の障害 2)嚥下機能の障害と誤嚥 3)消化管機能異常として繰り返す嘔吐があり、その原因には(1)胃食道逆流症 (2)周期性嘔吐症 (3)上腸間膜動脈症候群などを鑑別する必要がある。また4)空気嚥下症(特に気管切開後)や5)機能性便秘にも対応する必要がある。いくつかの病態を詳述する。 3)-(1)胃食道逆流現象(GER)と様々な病態(図3、4)  GERはもともと「げっぷ」として短時間の一過性の下部食道括約部(lower esophageal sphincter : LES) の弛緩(transient LES relaxation : TLESR)時に認められる4)。「げっぷ」は胃内のガスを排出するための生理的機構であり、迷走神経を介した自律神経反射である。この反射の刺激は咽頭刺激と胃内圧上昇である。この排出機構がなければ、嚥下のたびに飲み込まれた空気(一回の嚥下で約15ml)により、胃腸は拡張しきってしまう。またGERが何らかの症状や合併症を伴うものを胃食道逆流症GER disease : GERD)という5)。健康な人(児)でもGERは存在し、どの程度のGERをGERDとして治療の対象とするかについては明確でない。GERDの原因はTLESRが60%であり、食道裂孔ヘルニアなど逆流防止機構の障害や未熟性によるLES圧の低下は10%にすぎない。2つの刺激が増加する状態がGERを生じGERDの原因になる。 重症心身障害児(者)はGERの頻度はきわめて高く、またしばしば重症で、体重減少、誤嚥性肺炎、食道炎からの出血、食道狭窄、Barrett食道などを呈し6)、児の健康管理上大きな問題となる。GERの多い理由として、脊椎側弯による食道裂孔ヘルニアや腹壁筋の緊張による腹腔内圧の上昇、常に臥位であること、上気道の閉塞に伴い吸気時に食道が陰圧になるなどが推定される。咽頭嚥下障害から唾液や食物が咽頭にたまるとさらに誤嚥による呼吸障害がGERを誘発するため嚥下障害とGERはお互いに増悪因子となり卵と鶏の関係になる7)。また、なぜ嘔吐するかの鑑別も大切である。GERは牛乳蛋白アレルギーを合併していることが多い。牛乳蛋白アレルギーによるGERの特徴として、1)牛乳の胃排出不良による胃内圧上昇によりTLESRが誘発される。2)非IgE関連消化管アレルギー8,9)であることが多い。3)牛乳・乳製品を除去することでGERが軽快することなどがあげられる。既成の経腸栄養剤の多くの蛋白源は牛乳と大豆であることから、GERDの治療として排便処置などを試みた後、投与している栄養剤の変更も一考する。また、呼吸障害のあるGERDを有する重症児(者)は噴門形成術を行っても呼吸障害が残存する場合や、死亡の転帰を辿る場合があり、慎重な対応が求められる。貧血を伴うような吐血を繰り返す場合は上部内視鏡検査で食道炎あるいはBarrett食道を検索する必要がある。Sandifer症候群10)(図2)①食道裂孔ヘルニア ②胃食道逆流症 ③斜頸 ④姿勢の異常を伴う疾患であるが食道裂孔ヘルニアの合併については、必ずしも必要でないとされている。この姿勢の異常は、頭・頸が伸展し後弓張となる。頭は内側に曲げられ、頭を床に向けて子どもは上下逆さまになろうとしているようにみえる(図2)。ベッドに横たわり頭と頸をベッドの縁から床に向けて落とす姿勢もみられる。この姿勢で逆流に伴う痛みを緩和できるのではないかと考えられている。重症児(者)にもこの姿勢からGERDを疑うきっかけとなる。 3)-(3)上腸間膜動脈症候群(SMA)(図5) 上腸間膜動脈と大動脈の間を十二指腸が通過することから痩せ、側弯などの進行からこの2つの動脈の作る角度が狭くなることで起こる十二指腸の通過障害である。重症児(者)では側弯と痩せによりSMA様の十二指腸の通過障害を起こすことがありgastric outlet obstructionの原因となり頻回の嘔吐、胃食道逆流症によりさらに痩せが進行する悪循環が起きる。消化管の通過状況の精査を行い、栄養介入により体重増加を図ることがSMAを解除し悪循環を断ち切るのに有効である。 3.年齢とともに進行する栄養障害 重症児(者)の栄養障害は年齢とともに嚥下機能の低下や側弯が進行することで、頻回の嘔吐、胃食道逆流症、イレウスなどにつながり栄養管理に難渋するようになる。病態に応じた介入が不可欠となる。 (以降はPDFを参照ください)
ランチョンセミナー3
  • 中島 孝
    2019 年 44 巻 1 号 p. 151-157
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    Ⅰ.はじめに 当院は柏崎にあるが、良寛、日蓮、親鸞という自らの心をきわめた先人がすごした地域にあり、哲学者の梅原猛によれば日本の霊性の目覚めの場所である1)。この地で、神経難病、重症心身障害児(者)、遺伝性疾患の診療をする機会に恵まれたので、上記のテーマを中心に話をする。 Ⅱ.重症心身障害・難病における治療法開発における三つの問題 重症心身障害・難病における治療法開発における第一の問題は「神経系は自己複製能力のない一生涯同じ神経細胞により構成される(Giulio Bizzozero, 1846-1901)」、「神経細胞の軸索と樹状突起の成長と再生の泉は一旦、発達が終わると不可逆的に枯れてしまう(Ramon y Cajal, 1852-1934)」と考えられてきたことである。真面目に勉強した脳神経科学者はこの神経生物学のセントラルドグマにとらわれあきらめてきた。Ramon y Cajalは晩年、1928年「Degeneration & Regeneration of the Nervous System」で軸索の再生現象についての研究を紹介したが、ニューロン自体が傷つくと再生しないという考えを残した2)。今日は、そうではない新しい神経可塑性についての話をする。第二は1958年のFrancis Crickの分子生物学のセントラルドグマで、人の遺伝情報はDNAからRNAそして蛋白質に伝わるとするもので、蛋白からDNAに行くことはないというものである。遺伝性疾患治療はゲノム編集でのみ可能という意味にもなる。今日は、そうではない方法として、実用化されたアンチセンス核酸医薬などエピジェネティクスに基づく治療法の一つを紹介する。第三の問題は現代における健康・正常概念の問題点である。1948年世界保健機関憲章前文に「健康状態とは、身体的、精神的および社会的に完全に良好であること(complete well-being)であり、単に病気や病弱ではないことではない」ことから、重篤な障害を持つ治らない病気・不治の病の医療は無駄(medical futility)であり不要で、そのような人は生き続けるのは無駄、という論議の原因になっている考え方である。治らない患者は、病気に苦しむだけでなく、健康概念により棄てられる二重の苦しみを受け希望を失っている。そのような中で、当院は以下のような挑戦をしている。 Ⅲ.子どもとおとなのための医療センターの挑戦 私たちは、治らない病気の医療は無駄と考えず、人は生まれると100%の人が最終的に治らない病態になり、100%死ぬ運命にあるので、治る・治らないではなく、そのときに適切なケアで症状を安定させ、改善されれば良いと考えている。重篤な障害のある子(人)は、適切なケア・医療と教育により変化し成長発達し幸せになれると考えている。病気の重篤性と人の幸せは直接対応しない。年齢にかかわらず人は、適切なケアがあれば、変化し一生涯にわたって成長発達し、主体的に適応し、幸せになれると考えている。もちろん、高齢者もである。 Ⅳ.遺伝性疾患の自然歴はケア内容で変わる 本日はまず、事例としてデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)ケアの話をする。 1.DMDとは何か ヒトの遺伝子DNAで最長のジストロフィン遺伝子はジストロフィンで、この遺伝子変異によって起きる病気である。Exon欠失65%、Exon重複9%、点変異26%といわれている。DMDは重症型で、10歳前後に歩行不能となる病気である。BMD(Becker型)は軽症型である。診断は家族歴、病歴、臨床症状、臨床検査(CK)、遺伝子検査(MLPA法)で行う。約3分の1はMLPA法で異常を検出できず、筋生検のジストロフィン染色で診断していた。最近では次世代シークエンサ(NGS)で全長のジストロフィンが読めるようになってきたので筋生検の前に試みている最中である。 2.DMDの自然歴を変える試み:エピジェネティクス DMDの自然歴は20歳前後で呼吸不全や心不全で死亡するというものであった。国立病院機構では多専門職種によるチーム医療と特別支援教育(療育)を行い、呼吸ケア、心不全ケア、栄養管理、生活支援を行ってきたところ、生を肯定的にとらえた積極的な活動が可能になり、40歳代まで充実して生きられるDMD患者が増えてきた。多専門職種ケアとはmultidisciplinary careのことで、2018年のDMDの診断ケアのマネジメントpart2でも強調されている3)。このように、根本治療薬ではなく、症状コントロールによって自然歴がかわった。これはエピジェネティクスに基づく機序がはたらき、余命と生活の質を変えたと考えることができる。 Ⅴ.遺伝子を変えず蛋白発現を変える 1.DMDの例 DMDに対するアンチセンス核酸医薬も一つのエピジェネティクスに基づく治療法である。DMD発症のメカニズムの一つは、ジストロフィン遺伝子の欠失のエクソン塩基数が3の倍数でないとそれ以降のアミノ酸の読み枠のズレが起きることで起こる。3の倍数なら不完全ながらジストロフィン蛋白が産生され、Becker型になる。二つ目の機序は塩基配列が変わり、終始コドンになり、蛋白合成が早期に終了する異常である。前者に対してはアンチセンス核酸が、後者に対しては、終始コドンを読み飛ばすリードスルー(read through)誘導薬開発が進んだ。 2.アンチセンス核酸医薬の構造 RNAを基本としたオリゴマーは大変分解しやすいため、フラノース骨格の2位の水酸基(-OH)を2’Oメチル化(-OMe)したアンチセンス核酸(antisense oligomer, ASO)が臨床試験に多く使われてきた。これらはDMDの第三相臨床試験で、臨床的効果がほとんど得られず、一方でたんぱく尿や血小板減少症などの副作用が起きたため、全身投与では無理と考えられ臨床開発がすべて中止となった。現在、モルフォリーノ型またはペプチド付加モルフォリーノ型ASOが使われている。 3.アンチセンス核酸医薬やリードスルー誘導薬の効果と迅速承認制度 ASOやリードスルー誘導薬によりDMDのジストロフィン蛋白の発現は改善することが示されたが、筋力、歩行機能、日常生活レベルなどの改善を検証できていない。臨床試験(治験)でバイオマーカの改善が明らかならば、規制当局は迅速承認(accelerated approval)し、開発者は一定期間内に、Real worldでのデータであっても臨床評価指標において有効性を示せるなら良いとするやり方が始まった。 4.脊髄性筋萎縮症治療におけるヌシネルセン 脊髄性筋萎縮症(SMA)は下位運動ニューロン病でSurvival Motor Neuron 1(SMN1)遺伝子の変異または欠失により発症する。人には高い相同性のある遺伝子であるSMN2を持つが、exon 7の一塩基置換によりSMN2ではexon 7がskipされ、機能しないΔ7-SMN蛋白となっていることがわかった。SMAの病型は発症年齢と運動機能発達指標の最高到達点に基づき決定されるが、SMN2 遺伝子のcopy数とほぼ相関することがわかってきた。 ヌシネルセンは2’-O-2-methoxyethyl 型のアンチセンス核酸でSMN2のexon7がskipされないようにする作用がある。臨床試験として、ENDEAR試験4)、CHERISH試験5)が行われ、画期的な臨床効果から、米国、日本などで承認された。しかし、SMAⅠ型でも全員が人工呼吸器を免れたわけではなく、治療効果には課題がある。SMAⅡ型に対しても発症から投与までが遅れるほど、改善効果としては得られない問題がある。 Ⅵ.HAL®による神経可塑性の賦活と運動学習 本日は、医療機器HAL (Hybrid Assistive Limb)を例に、前述のアンチセンス核酸医薬やリードスルー治療薬の効果をさらに増強する神経可塑性の話をする。 1.HALとは何か HALと外形は似ている装着型ロボットはいくつかあるが、機能はまったく異なる。これらはHALと違って、何回使っても機能回復訓練効果はなく、外して良くなることはないのである。HALは装着して運動療法を行い外して機能改善効果を得る医療機器である。 HALの重要な機能はCIC(サイバニックインピーダンス制御)で、HALを装着して動いたときに重さを感じないメカニズムである。たとえば、重いラケットを使って練習した人が、軽いラケットでプレイするとまったく違う運動現象になり練習効果はでないように慣性モーメンや質量中心のズレを補正するものである。次はCAC(サイバニック自律制御)で、現在は立ち上がりと歩行の理想的なパターンが入っている。本人が歩こうとしたときに、正しい歩行運動パターンから教師あり学習(supervised learning)ができるのである。次に、HALらしいのは、CVC(サイバニック随意制御)である。HALは運動意図を皮膚からの運動単位電位から得ている。1つの脚に9個の電極を貼り歩行の随意意図を検出し、随意調整されたトルクを発生させることができる。電位さえ計測できれば、HALは動く6)7)。 (以降はPDFを参照ください)
ランチョンセミナー4
  • −重症心身障害児(者)のカルニチン欠乏−
    松井 潔
    2019 年 44 巻 1 号 p. 159-162
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    カルニチンは両親媒性のため多彩な機能を持つ。脂質代謝を調節する核内受容体peroxisomal proliferator activated receptorαは飢餓で活性化し、カルニチンの生合成とカルニチントランスポーターでの吸収を促進する。重症心身障害児(者)のカルニチン欠乏の頻度は高く、分画測定を行いカルニチン製剤、カルニチン添加栄養剤、ミキサー食等で治療/予防する。カルニチンの含まれない栄養剤、バルプロ酸、ピボキシル基含有抗菌薬は欠乏症のリスク因子である。ピボキシル基含有抗菌薬は可能なかぎり使用を控えたい。重症心身障害児(者)は筋量が少ないのでカルニチン製剤は長期に使用するのがよい。「カルニチン欠乏症の診断・治療指針」に基づいて診療を行う。
ユニバーサルファッションショー
  • 藤野 孝子, 靍田 健弥
    2019 年 44 巻 1 号 p. 163-168
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    協力:学校法人文化学園 文化服装学院  Ⅰ.はじめに 重症心身障害児(者)は体つきも異なり、手足も十分に動かすことができません。既成の洋服では、自分の身体にあった、気に入ったものがなかなか見つかりませんが、みんな、「かっこいい」や「かわいい」といった言葉はうれしく、おしゃれをすることが大好きです。 今回は東京都立東部療育センターの入所者と通所者でおしゃれ大好きな方の中から、5名の方にモデルになっていただき、普段なかなかできないその方の希望する、また機能性にも優れたファッションを、学校法人文化学園 文化服装学院の学生さんと先生にご協力いただき製作しました。 Ⅱ.佐田晴香さん ディズニーの音楽を聴いたりアニメを見たりするのが大好き。かわいいっていわれることもかわいいものも大好きで女子力とっても高め。もうすぐ家族の結婚式に出席するのに、シンデレラみたいなドレスで出席したいです。 【結婚式用のドレス】 「美女と野獣」のベルが着ているドレスが好きと伺い、アニメをみてドレスのデザインをしました。ジャカードの生地を使用し、ボリュームを出すために3段スカートを製作しました。トップスはボリュームのあるスカートとのバランスをとるためにアルファベットのVのような形のプリーツで肩幅を少し出しました。 仮縫いでは、袖ぐりが大きかったので、小さく調整しました。 ○仕立て○ トップスは、伸縮性があるカットソーの素材を使用し、後ろから前まで1枚で仕立て、前中心を開けました。スカートは、車椅子上でも着脱しやすいように上の2段は巻きスカートで、一番下の段が輪になっています。後ろにはゴムを入れました。このドレスは、レースを多く使用しているので、布地に合うレースを何度も選びなおしました。 大変だったところは、スカートの分量が大きく布地の幅に入らなかったので、切り替えなければならず、先生と相談しながら位置を調整しました。また、ギャザーの分量が多く、ウエスト部分の布が3枚重なり縫製も大変でした。 スカートの裾や身頃に遠くからでも光って見えるようにブルーのラインストーンをつけ、佐田さんのイメージに合わせたドレスになり、デザインしてよかったと思いました。 製作者:デザイン専攻1組 グワナン フェリシア アンジェリカさん ら3名 Ⅲ.菊池未来さん 好きなことはおしゃれをすること。髪を結ってもらうのも大好きです。夏祭りの花火大会では浴衣を着ました。みんなにかわいいと声をかけられ、とってもうれしかったです。今日はドレスです。とっても楽しみです。 【ラプンツェル風のドレスと髪型】 ラプンツェルが好きと伺ったので、デザインはラプンツェルのドレスにしましたが、紫のドレスのイメージをピンクにしました。トップスは胸元の編み上げがポイントで、ピンクに負けない紫のリボン、袖はピンクと紫のストライプのパフスリーブにしました。スカートは2段になっていて、可愛らしいボリュームのあるデザインにしました。裾にレースが付いているのがポイントです。 また、ラプンツェルのトレードマークである髪型も真似て、お花を髪にたくさんつけたデザインにしました。 ○仕立て○ トップスはコルセットの形をしっかり出したかったので、身頃にはボンディングの素材を使用し、袖は伸縮素材を使用しました。着脱がしやすいように、左身頃の肩、袖、脇がすべて開くように仕立てました。スカートも着脱しやすいように、上の段は巻きスカート、下の段が輪になっています。後ろにはゴムを入れました。 お花の髪飾りは、リボンを使用しました。素材はオーガンジーやサテンなど動きやすい素材ばかりだったので、手縫いやミシンが難しかったです。オリジナルのお花がどうしたら可愛くできるかを考えながら作業することはとても勉強になりました。 自分がデザインしたドレスを実際に菊池さんが着用した姿を見たときはとても感動しました。 製作者:デザイン専攻1組     三角 佑美江さん ら3名 Ⅳ.岩瀬雅弘さん 散歩が大好き。最近は秋葉原のメイド喫茶にも行ってきました。来年は20歳を迎えます。かっこいい晴れ着姿をみてください。 【成人式用の羽織】 来年の成人式で着れるようなド派手な和装の袴をデザインして欲しいとの要望だったので、派手な袴と岩瀬さんが大好きな黄色の着物をさがしてリメイクしました。工夫したところは、車椅子でも着脱しやすいように羽織の後ろ中心を開けて、後ろの丈を短くしました。また、派手なキラキラした感じを希望されていたので、箔をプリントしました。 羽織のプリントは、成人式で着用するということで、お祝いごとの際に使用されるおめでたい文様「松竹梅」の周りを太陽を象徴する形の「円」で囲んだものにしました。使用した色は、オレンジや朱色、金、銀、金箔、銀箔で、華やかな色合いを心がけました。 岩瀬さんの成人式という大切な記念日に着用する衣装のデザインに関われたこと、大変うれしく思います。喜んでもらえたらうれしいです。 製作者:  デザイン専攻1組 トウ ハクカイさん  ファッションテキスタイル科1組       江村 由理子さん ら3名 Ⅴ.山田桃子さん お母さんとテレビを見る時間は大好きなひとときです。今日はお化粧をしたりして、とてもワクワクしています。普段と違った衣装でステージに立てることを楽しみにしています。 【はいからさん風の袴】 山田さんは、はいからさん風の袴をアレンジしたデザインを希望されたので、はいからさんの特徴的な矢絣の着物とえんじの袴を探してリメイクしました。 リメイク前の着物では、袴の裾が長かったのでカットし、カットした部分の布で髪のリボンを作りました。通常着物は、袴の中に着ますが、山田さんは小柄で丈が長かったので着やすい丈に調整しました。袖も、肩ではしょり少し短くしました。帯は後ろで結びますが、腰が痛いかなと思い前に縫い付けました。 袴の生地が厚いため、アイロンがかかりづらく、裾をまつり縫いした後にプリーツをきれいに折るのが大変でした。 足元にはブーツを合わせたいと思っていたところ、お母様が袴に合う素敵なブーツを探してくださいました。とてもよく似合っていて大変うれしく思います。 製作者:服装科2年4組      森本 朱理さん ら4名 Ⅵ.内藤奈々さん ファッションショーをとっても楽しみにしていました。今年の春に高校を卒業し、大人の階段を駆け上がっている途中です。洋服やかわいいものが大好きです。今回は、ふんわりとしたかわいいドレスを希望しました。 【フリルたっぷりかわいいドレス】 内藤さんからの「かわいいドレス」の要望にこたえるため、ふわっとした感じを出すためにフリルをたくさんつけたところがポイントです。足がとてもきれいだったので、強調させるためスカート丈は短くしました。仮縫い時にトップスの丈が短かったため、丈を長くし、着脱時に必要な袖のゆとりを多くしました。パステル調の色が好みとのことだったので、パール入りのシャンパングリーンを選択しました。 ○仕立て○ 着脱しやすいように伸縮性があるカットソー素材を使用し、人工呼吸器にあたらないように衿ぐりを大きく開き、袖にもゆとりを多く入れました。普段からTシャツを着られているので、開きは特に作りませんでした。スカートはウエストにゴムを入れて着脱しやすくし、座るとスカートの膨らみが潰れてしまうのでパニエをいれてボリュームを出しました。 フリルがたくさんついていたので、フリル作りのためギャザーを寄せるという単純作業が辛くもありましたが、どんどん仕上がっていく過程の中で、もっとかわいくしたいと思い、ギャザーを留めたリボンにラインストーンをつけて、華やかさを出しました。 かわいいドレスが完成したときはうれしかったです。お母様にもとても喜んでもらえてよかったです。   製作者:デザイン専攻科1組    寺下 加陽里さん ら3名             さいごに 人工呼吸器や酸素を使いながら、少し緊張しながらもステージに立ったモデルの5人の皆様。当日は、アンバサダーとして開会のご挨拶をいただいた東部療育センター入所者の吉田優輝さんと一緒に、素敵な笑顔で最後までショーを楽しんでくれました。無事にショーを終えられたのは、学校法人文化学園 文化服装学院の先生と学生の皆様のご尽力と、モデルのみなさんと保護者の皆様のご理解ご協力があったからこそだと思います。心より御礼申し上げます。 写真や氏名の掲載は、保護者および関係者の了解を得て掲載しています。 ください)
原著
  • 藤岡 寛, 涌水 理恵, 西垣 佳織, 松澤 明美, 岸野 美由紀
    2019 年 44 巻 1 号 p. 169-176
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    学齢在宅重症心身障害児(以下、重症児)の主養育者とその配偶者それぞれのQOLとその関連要因について明らかにするために、在宅重症児の母親と父親に対して、主養育者とその配偶者それぞれのQOLとその関連要因を問う調査票を配布し、530ケースから回答を得た。主養育者の約9割は母親であった。主養育者は、フルタイム勤務よりパートタイム勤務または無職のケースが多く、睡眠時間は短く、夜間中途覚醒が頻繁であり、介護負担感が高く、QOLが低かった。主養育者・配偶者ともに、自身の夜間中途覚醒が少ないほど、身体的健康度が高かった。また、自身の介護負担感が低く、就業しているほど、精神的健康度が高かった。支援の方略として、身体的健康度を保つためには睡眠の確保や食事・運動等の生活習慣の整備、精神的健康度を保つためには介護負担感の軽減や就業に向けての助言が挙げられた。主養育者・配偶者それぞれのQOLの関連要因に、自身の変数だけでなく、パートナーや子どもを含む家族の変数が含まれていた。よって、主養育者への重点的支援に加えて、配偶者を含む家族全体への支援の必要性が示唆された。
  • 菅原 主水
    2019 年 44 巻 1 号 p. 177-183
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の骨折リスクを予測できる骨折リスク評価スケールの作成を試みた。当施設での骨折に関与している可能性のある因子について骨折群と非骨折群で有意差検定を行った結果、年齢50歳以上、女性で50歳以上、横地分類の移動機能2、3、4、横地分類の知的発達B、C、有骨折既往歴、酵素誘導性抗てんかん薬服薬、骨密度41%以下の7項目が骨折リスク因子として抽出された。これらの因子の骨折発生率の程度によりリスク因子に1~3点の点数を配分し、各リスク因子の合計点数により骨折リスクの有無を予測する骨折リスク評価スケールの作成を試みた。その結果、被検者の合計点数が6点以上で骨折リスクを有すると予測することができた。当施設のように動く重症児(者)の割合が多い施設では、本スケールの使用によりチームスタッフが統一した利用者評価を行うことができ、利用者情報の共有や職員意識の向上につながり、本スケールは骨折予防に有用である。
  • -管理者・機能訓練担当職員・保護者を対象として-
    中川 由佳里, 佐島 毅
    2019 年 44 巻 1 号 p. 185-192
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(以下、重症児)の放課後等デイサービスはまだ少なく、重症児を受け入れる工夫や配慮など明らかになっていないことが多い。そこで実態を明らかにし、必要な支援について検討することを目的に管理者・機能訓練担当職員・保護者に対して無記名自記式質問紙調査を実施した。対象は202か所の重症児の放課後等デイサービス事業所とし、回収された管理者91件、機能訓練担当職員79件、保護者128件について結果をまとめた。管理者の調査からは、重症児の放課後等デイサービスの収支が厳しいことが明らかになり、保護者の調査からは、医療的ケア児が利用できる放課後等デイサービスが地域にないことが課題としてみえ、その要因として収支の厳しさが考えられた。厚生労働省が目標を掲げていることから、今後重症児の放課後等デイサービスは増えていくと思われるが、現行の制度では経営の厳しさがあることから、質を低下させずに事業所が存続できるような報酬制度の見直しを検討する必要がある。
  • 櫻井 隆司, 羽鳥 麗子, 荒川 浩一, 小泉 武宣
    2019 年 44 巻 1 号 p. 193-199
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    障害児(者)では、高血糖を伴う血糖変動の異常を来しやすく、高血糖に対する積極的な対応が重要である。本研究では、A園に入園中の7~55歳の障害児(者)35名(男23名、女12名、年齢の中央値21歳)を対象とし、簡易血糖測定による血糖変動および血糖関連の異常の有無について後方視的調査を行った。経口摂取群では、7名中2名に血糖関連の異常値を認めたが、簡易血糖測定結果に異常を認めなかった。経管栄養群では、28名中13名(46.4%)に血糖関連の異常値を認め、4名(14.3%)に簡易血糖測定結果の異常を認めた。また、高血糖を認めた経管栄養管理中の2症例では、低 GI・GL流動食、低 GL流動食により血糖変動の幅は縮小した。障害児(者)では、血糖変動の異常の存在を疑い、積極的な診断と介入が重要と思われた。
  • 西原 みゆき, 山崎 喜比古
    2019 年 44 巻 1 号 p. 201-210
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、重症心身障害者児(者)(以下、重症児(者))の母親の主観的QOLに影響をもたらす要因を子のライフステージごとに肯定的、否定的の両側面から明らかにし、母親への支援示唆を得ることである。青年期以降の重症児(者)と暮らす母親6名を対象とし、ライフ・ライン・インタビューメソッドを用いた半構造化面接調査を行った。母親の主観的QOLは、子の障害の告知後や疾患の診断後に最も低い傾向にあった。その後、上昇、下降を繰り返し、過去の出来事に肯定的な意味づけをしながら回復に向かう母親と低迷していく母親に分かれた。主観的QOLを高める要因は、子の成長の実感、社会とのつながり、母親の社会的役割の再獲得、家族の支えが挙げられた。一方、主観的QOLを低くする要因は、子の健康状態の悪化、二次障害による治療の決断、親と子の二重介護の負担、母親自身の介護力低下が挙げられた。子のライフステージ各期の困難な状況に対する母親の回復を助けるためのアプローチの視点が見出された。
  • 中村 達也, 藤本 淳平, 鮎澤 浩一, 小沢 浩
    2019 年 44 巻 1 号 p. 211-219
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の嚥下を嚥下造影検査(VF)を用いて定量的に解析することにより、嚥下障害の要因を客観的に評価することを目的とした。健常成人23名(健常群)、重症心身障害児(者)のうち誤嚥および食塊の嚥下後咽頭残留(嚥下後残留)がみられなかった10名(障害Safe群)、誤嚥および嚥下後残留がみられた13名(障害Dysphagia群)を対象とし、ペースト食品3~5mlの嚥下をVFで側方から撮影した。VF動画より、嚥下開始前の食塊の咽頭での停留時間、嚥下関連器官の運動のタイミング、第二頸椎と第四頸椎を基準線とする座標面上での舌骨の移動距離を測定し比較した。結果、障害Safe群、障害Dysphagia群ともに健常群と比較して舌骨移動距離が小さかった。また、障害Dysphagia群では健常群と比較して食塊が深部に到達してから舌骨挙上が開始していた。これより、重症心身障害児(者)の嚥下に関しては、嚥下運動の問題を示す割合が多く、嚥下の知覚の問題を併せ持つ場合にはより深刻な嚥下障害となる可能性がある。
  • 平野 大輔, 谷口 敬道
    2019 年 44 巻 1 号 p. 221-228
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、レット症候群児(者)に見られる手の常同運動を減らす取り組みの実態について明らかにすることである。2016年度に全国の特別支援学校1,016校の校長、医療型障害児入所施設130施設のリハビリテーション部門責任者、独立行政法人国立病院機構重症心身障害児病棟73施設のリハビリテーション部門責任者、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院1施設のリハビリテーション部門責任者の合計1,220機関を対象に、郵送による質問紙調査を行った。216名(年齢3~53歳、横地分類A1~E6)のレット症候群児(者)の情報を得ることができた。104名において手の常同運動を減らす取り組みが行われていた一方、同数の104名では行われておらず、両群の状態像に違いはなかった。取り組み内容については、常同運動を制止する取り組みに比べ、手の使用を促す取り組みが多く、横地分類A1~A6の児(者)に対しては、感覚刺激を用いた取り組みが多かった。事例毎に様々な取り組みが行われていたため、今後はどのような児(者)にどのような取り組みが効果的であるかを検討する必要がある。
  • 小田 望, 永江 彰子, 大前 登典, 山下 久美子, 木内 正子, 藤田 泰之, 口分田 政夫
    2019 年 44 巻 1 号 p. 229-236
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    当施設入所中で20歳以上の重症心身障害者(成人期~老年期)のうち、小児期発症のてんかん症例81例を現在の発作頻度によって2群(頻回発作群と非頻回発作群)にわけて、基礎疾患やてんかん性脳症合併の有無、発作型・てんかん分類について特徴を調べた。頻回発作群では非頻回発作群に比べて、胎生期に病因を持つ症例やてんかん性脳症を合併する症例が多く、発作型ではミオクロニー発作を合併する症例が多く、複数の発作型を組み合わせ持つ症例(“強直+間代”、“強直+ミオクロニー”、“間代+ミオクロニー”、“強直+焦点性運動”、“ミオクロニー+焦点性運動”、“焦点性運動+焦点性から両側性強直間代”)が多く、てんかん分類では全般発作と焦点発作を混合して持つ症例が多かった。抗てんかん薬の使用は両群において旧抗てんかん薬を中心に使用されていた。両群において肝酵素誘導薬(EIAED)の使用は多く、EIAED使用群では、非使用群に比べて血清γ-GTP値やALP値が高く、骨折既往者も多くみられた。
論策
  • 富和 清隆, 小林 遼平, 金 一, 石川 直子, 川口 千晴
    2019 年 44 巻 1 号 p. 237-241
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が入所する施設におけるてんかん治療の実態と課題を明らかにする目的で、福井県を含む近畿地区29施設にアンケートを依頼した。回答を得た24施設の入所者数は、男性1450名、女性1152名、総数2602名であった。うち20歳未満は354名(13.6%)であった。てんかんを合併する者は1801名(69.2%)。そのうち20歳未満では77.1%に見られ、有意に20歳未満にてんかん合併が多かった。難治てんかんが多く月1回以上発作は39.6%、3剤以上の抗てんかん薬を服用するものは36.5%であった。脳波は1施設を除き施設内で実施されるが、長時間ビデオ脳波は7施設にとどまった。脳波担当技師は19施設、常勤小児神経専門医が18施設で勤務していたものの、常勤の神経内科または脳外科医は7施設、てんかん専門医は6施設であった。重症児(者)ではてんかん合併率、難治率も高い。新規抗てんかん薬の活用や検査機器の充実、専門医のさらなる参加、関与が望まれる。
短報
  • 奥村 啓子, 依藤 純子, 小川 勝彦, 伊藤 正寛, 高野 知行, 山﨑 正策
    2019 年 44 巻 1 号 p. 243-247
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/07/28
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)では神経因性膀胱の合併率が高く、導尿で数百mlを超える残尿がみられることも少なくない。われわれは2015年1月に、神経因性膀胱による尿閉のため、膀胱自然破裂を起こした症例を経験した。これを機に、膀胱用超音波画像診断装置であるブラッダースキャン®BVI6100を導入した。これは小型で持ち運びの簡単な超音波画像診断装置で、膀胱容量を非侵襲的に測定することができる。われわれの施設では、使用基準を決めてこの機器を使用し、利用者の排尿管理を行っている。残尿測定により、膀胱過伸展による膀胱自然破裂や、不必要な導尿を避けることができる。また超音波による残尿測定検査を開始してからは、腎盂腎炎等の症候性尿路感染症の頻度が著明に減少し、抗菌薬の投与回数も減少した。膀胱用超音波画像診断装置による残尿測定検査は、重症心身障害児(者)施設における神経因性膀胱への対策として、大変有用であると考えられた。
奥付
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