高齢化率は上昇し,患者の73%が65歳以上である.高齢者は加齢や疾病の影響により,入院すると身体・認知機能が低下しやすく,治療を理解できず医療事故が発生している.安全確保の為行動抑制を実施する.身体拘束を最小限とする看護が求められているが,低減できていない.その理由には困難な判断が生じていると考える.本研究は,入院当日に行動抑制を開始する看護師の判断した理由とその思いを明らかにする.入院当日に行動抑制を開始した14名の看護師に行動抑制を開始する看護師の判断した理由とその思いを半構造化面接で調査し,コードおよびカテゴリー化した.昭和大学に設置されている人を対象とする研究等に関する倫理委員会承認済み,番号第22-171-A号.行動抑制を開始する看護師の判断した理由は80個のコードから7つのカテゴリー「自己抜去歴があり,抜去される可能性がある」「転倒歴やふらつきがあり,転倒する可能性がある」「認知機能の低下が起きている」「前病棟と同じ種類の抑制を開始する」「短時間の関わりで患者特有の行動が予測できない」「夜間は環境の変化によりせん妄が起きる可能性がある」「夜勤はスタッフの数が少なく危険行動に素早く気づけない」が生成され,看護師の思いは67個のコードから8つのカテゴリー「危険行動の記録があると,抑制をしなければと思う」「重大な挿入物は敏感になる」「患者を理解できていないため,行動を予測できず不安」「私は不要と思ったが,先輩の意見に同調」「安全を優先する」「抑制帯よりセンサーを使用することで拘束が軽減されている」「夜勤でスタッフが少なくなると,患者の危険行動に対応できるか不安」「インシデント発生時,責任を取らなければならない」が生成された.看護師は患者が入院する前の事前情報・患者の理解が得られず行動予測困難な時・患者を把握できない時・先輩看護師の意見に同調・看護師同士の気遣いが行動抑制を開始する判断に影響を及ぼしていた.根底には医療事故発生時に看護師は責任が問われる不安が強いほど,行動抑制を開始することで患者が危険行動を起こした時に対応できるという思いが患者側にたった考えではなく,患者に対して責任があるからこそあらゆる場面で患者の尊厳を守り,患者を尊重することが重要である.今後,同じ医療事故を繰り返さないため,病棟全体の課題として安全文化の醸成を作り上げることが重要である.患者の安全と看護師の責任は,同じ医療事故を繰り返さないための改善策に重きを置き,患者の尊厳を守り患者を尊重した安全対策を継続的に実施していくことが,行動抑制の低減へ向けた取り組みの一助となることが示唆された.
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