日本看護技術学会誌
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8 巻, 3 号
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総説
  • ―筋が通った看護技術を確立するために―
    菱沼 典子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 4-9
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     経験知に基づく看護技術を,技術として確立させるためには,①目的とする効果を現す作用機序,②臨床効果の証明,③効果が得られる確率,④安全性の保障,⑤簡便かつ確実な手技の確立,⑥受け手が気持ちよいと感じることの 6項目が求められる.これらを探求する研究には,看護技術がもつ特徴によって,共通した困難性がある.それは①看護師と受け手の人間関係が結果に影響するが,そのコントロールが困難なこと,②刺激量が小さいため反応が小さく,反応を捉える指標が不十分であること,③受け手の主観的な評価に価値をおくが,その測定指標が不十分なこと,④受け手の条件に多様性があり,コントロールが困難なことである.1つの技術を確立するには,生理学的裏づけから生活行動上の効果までがつながる一連の研究を要する.この研究のあり方を biobehavioral nursing research と捉え,研究の推進にはさまざまな研究手法を有する研究者の協働が必要であることを示した.
原著
  • ―上腕周囲径に対する駆血帯の締めつけ割合を指標として―
    加藤 晶子, 森 將晏
    2009 年 8 巻 3 号 p. 10-15
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     静脈穿刺に適切な駆血帯を締める強さを検討する目的で,留め金つきゴム管駆血帯 (ゴム管) とバックルつきニットゴム製駆血帯 (ベルト) を用い,駆血帯を留める位置を駆血部の腕周囲径の95~75%まで5%ずつ短くしたときの駆血圧,静脈怒張度,苦痛度等について12名の健康成人を対象にして検討した.駆血圧は両駆血帯ともに締めつける長さが短くなるにつれてほぼ直線的に増加し,ゴム管では周囲径の95%で平均38.6mmHg,75%では平均166.4mmHgであった.一方ベルトは,95%で平均20.1mmHgを示し,75%では平均121.2mmHgであった.静脈怒張度は,ゴム管では駆血前は全員「血管の触知ができない」で,90% (68.2mmHg) で「少し血管の触知ができる」以上が9名となり,85% (92.6mmHg) では11名と増加したが,それ以上短くしても怒張度は増加しなかった.ベルトにおいても90% (45.6mmHg) で「少し血管の触知ができる」以上が8名となり,80% (94.9mmHg) までは「十分血管の触知ができる」が増加したが,75%ではそれ以上増加しなかった.駆血圧との関係でみると,静脈穿刺に適切な怒張度を得るためにはゴム管で約70~95mmHg,ベルトで45~95mmHgの駆血圧が必要で,それ以上強く締めても怒張度は増加せず,苦痛度が増加するのみであった.
  • 米山 美智代, 八塚 美樹
    2009 年 8 巻 3 号 p. 16-24
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,健康成人女性におけるフットマッサージは生理的ストレスを反映する血漿アドレナリン,血漿ノルアドレナリンを減少させ,心理的ストレス指標に影響を与える血漿ドーパミン,血漿セロトニンを増加させるという仮説を検証することである.12名の健康な成人女性 (23~44歳) を対象に,20分間のフットマッサージを行う方法と 20分間の安静臥床を行う方法の両方法を実施し,血漿カテコールアミン,血漿セロトニン,血圧,脈拍,VAS,POMS を測定した.その結果,フットマッサージによって血漿ノルアドレナリン,血圧 ・ 脈拍は減少し,血漿セロトニンは増加した.同時に測定したVAS ・ POMSでは「快」「リラックス」「活気」の感覚を増加させ,「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「疲労」「混乱」を減少させていた.以上から,フットマッサージはストレスを反映する生理的および心理的ストレス指標に影響を与えることが明らかとなり,健康成人女性が有する程度の生理的 ・ 心理的ストレス反応の改善手段として有効であることが示唆された.
  • 工藤 由紀子, 武田 利明
    2009 年 8 巻 3 号 p. 25-34
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究では,後頭部への冷罨法の有効性に関する実証データを得ることを目的とし,蒸し暑い条件下で氷枕を使用した健康な成人を対象として研究を行った.対象は50歳代前後の成人男性13名(54.9±5.1歳) であった.冷罨法に対する対象の主観をもとに,属性,POMS,血圧,呼吸,心拍変動を検討した.
     その結果,主観的評価では冷罨法の好感度が高い「快適群」は7名,好感度が低下あるいは変化がない「非快適群」が6名であった.POMSではT-A (緊張-不安),D (抑うつ-落ち込み),F (疲労) において冷罨法前後の得点の主効果が有意であり,冷罨法後の得点が低下していた.血圧や呼吸などの循環動態では有意差がなかったが,心拍変動では心拍数において冷罨法前後で交互作用が認められ,「快適群」において冷罨法前後の単純主効果が有意であった (p<0.001).
     また「非快適群」の6名について個別に検討した結果,2名がPOMSのT-A (緊張-不安),F (疲労)において冷罨法後に得点が上昇していた.また冷罨法後に呼吸数,心拍数,LF/HFが上昇している対象がおり,それぞれPOMSのネガティブな気分が上昇している対象と同一であった.
     以上の結果から,冷罨法を快適であると感じる対象に関してはPOMS,心拍変動の面から裏づけとなるデータを得ることができた.しかし冷罨法を快適と思わない対象に冷罨法を提供するのは,主観的な面,および生理学的視点から望ましくない影響があることが示唆された.
  • ―循環動態 ・ 自律神経活動による評価―
    金子 健太郎, 熊谷 英樹, 尾形 優, 竹本 由香里, 山本 真千子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 35-41
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     若年健常男子 19名 (平均年齢 21.3±3.4歳) を対象に,心拍数と血圧,体表温 ・ 皮膚血流量,心拍変動 (heart rate variability : HRV),圧受容器反射感受性 (baro -reflex sensitivity : BRS) を用い,仰臥位による足浴の生理学的効果を検討した.HRVから低周波成分 (low frequency : LF) と高周波成分 (high frequency : HF) を算出し,副交感神経活動指標を HF,交感神経活動指標を LF/HFとした.足浴 (湯温40℃,15分) は安静仰臥位 15分後に実施し,足浴前から足浴後 30分間 (足浴後 0~ 15分 : 足浴後 1,足浴後 15~ 30分 : 足浴後 2) 連続して測定値の観察を行った.足浴前と比べた結果を以下に示す.心拍数は足浴後1,2で有意に減少した.血圧は,収縮期血圧,拡張期血圧ともに足浴後 2において有意に減少した.HFは足浴後 1,2で有意に増加した.LF/HFは足浴中で有意に増加した.BRSは足浴後 1で有意に増加した.足部,胸部体表温と足部皮膚血流量は,足浴中から足浴後1,2にかけて有意に増加した状態を維持した.足浴は全身循環に大きな負担をかけることなく,かつ末梢循環を促進,維持させ,自律神経活動に関しては,足浴後に副交感神経活動を賦活化させ,交感神経活動を抑制することが確認された.
  • 加藤 晶子, 森 將晏
    2009 年 8 巻 3 号 p. 42-47
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     静脈穿刺をする際の適切な駆血圧を検討する目的で駆血帯を装着するときの駆血帯を締めつける力 (張力) と静脈怒張度との関係を20~75歳の健康な男女60名を対象に計測した.また,静脈怒張度と身体的要因との関係についても検討した.ベルト式駆血帯は肘窩より5cm近位の上腕に装着した.分析数は58名,(男性26名,女性32名),年齢 : 48.7±19.5歳,身長 : 161.5±7.7cm,体重 : 60.3±15.7kg,最高血圧 : 116.4±15.5mmHg.駆血圧はばらつきがあるものの,張力1.5kgで約20mmHg,2kgで約40mmHg,2.5kgで約65mmHg,3kgで約90mmHg,3.5kgで約120mmHgとほぼ直線的に増加した.静脈怒張度は2~3kgで増加し,3.5kgではやや低下した.また,静脈断面積も3kgまでは増加するが,3.5kgでは怒張度同様にやや低下した.これらのことから,静脈穿刺に適切な張力は2~3kg (駆血圧 : 40~90mmHg) であると考えられた.また,身体的要因と静脈怒張度との関係をみると,駆血前および張力3kgにおいて,体重,BMI,上腕三頭筋皮脂厚 (TSF) および上腕周囲径と怒張度の間に逆相関がみられた.
研究報告
  • 河合 桃代, 茂野 香おる, 山田 恵, 平松 則子, 境 裕子, 成川 美和, 川島 みどり
    2009 年 8 巻 3 号 p. 48-56
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,摂食援助場面での熟達看護師の道具の使用方法から,嚥下障害者が口から食べることを可能にする技術を明らかにすることである.研究方法はビデオ録画を用いた参加観察法と半構成的面接法を用い,1名の看護師を研究参加者とした.
     結果,看護師の口腔ケアの捉え方が独創的であり,熟達した看護実践の特徴として【道具と看護師の身体の同一化】が見出された.看護師はスプーンや口腔用ブラシ (以下モアブラシ) の先を,道具を把持した示指の延長として自身の身体の一部のように捉えて情報を感知し,嚥下障害者の口腔内の状態を読みとっていた.摂食援助時は,スプーンで舌の抵抗力を感じていた.また,口腔ケアは,食前 ・食後のみでなく,食事中でも必要時モアブラシを使用した.そして,咽頭や舌に付着した唾液や痰等が絡んだ粘度の高いものを “パック” と喩え,モアブラシを用いて除去して口腔内を保清し,舌の感覚受容器が機能するよう働きかけて嚥下を促した.
  • 今別府 志帆, 山田 重行
    2009 年 8 巻 3 号 p. 57-64
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     在宅療養者 6名を対象に漸進的筋弛緩法 (PMR) を 1日 1~ 2回,2週間実施し,心拍変動,自己記入式睡眠評価尺度 (SEQ),短縮版 Profile of Mood States (短縮版POMS) を主な指標としてPMR習得過程におけるリラックス反応を生理心理的に評価した.
     在宅療養者への PMRの習得過程において,心拍変動スペクトル解析から求めた副交感神経活動指標の増加が PMR実施初回,PMR習得 1週間後,2週間後で認められた.また,短縮版 POMSの得点は,初回から 2週間後のいずれにおいても実施後にわずかではあるが増加し,SEQにおいては1週間後から 2週間後にかけて得点の増加する傾向が認められ,PMRの睡眠促進効果が示唆された.PMRにより副交感神経優位な状態が惹起され,生理心理的機能の休息傾向が導かれることが示唆された.
  • 大島 千佳, 有田 広美, 藤本 悦子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 65-73
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,足浴が片足にしか実施できない場合,その効果が対側下肢にまで波及するのか否かを明らかにし,さらに循環促進効果を得るための最適な足浴時間を検討することを目的とした.われわれは,成人女性11名に対して,一定条件下で片足に足浴を50分間行い,この間,足浴実施下肢および対側下肢の膝部内側における皮膚表面温度,皮膚深部温度,皮膚血流量の変化を経時的に調べた.その結果,足浴実施下肢においても対側下肢においても,皮膚表面温度および皮膚深部温度の上昇,皮膚血流量の増加が認められた.また,特に循環促進効果を考慮する場合は,少なくとも40分間の片足足浴が最適であることが明らかとなった.これにより,健側下肢への片足足浴によって,患側下肢にも血流促進効果を得られることが示唆された.
  • 漆畑 里美
    2009 年 8 巻 3 号 p. 74-83
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究は日本の看護における「個別性のある看護」の概念的意味を明らかにし,展開と実態について考察することを目的に行った.医中誌Webを用いて日本語の「個別性のある看護」に関する30文献を選出しRodgersの概念分析法を用いて分析した.その結果,属性として【指導】【関わり】【支援 ・援助】の3カテゴリー,先行要件として{患者の状況}である【日常生活行動】【能力】【感情】,{状況を生み出している背景}である【自己認識】【生活】【パーソナリティ】【病歴】【経験 ・ 体験】【家族】,{現行の看護ケア}である【看護ケアの場】【実践】【看護姿勢】の計12カテゴリー,帰結として【進歩】【好転】【試み】【悪影響】の4カテゴリーが得られた.以上から「個別性のある看護」は「対象者の状態を望ましい方向へ移行するために,対象の置かれている状況およびその背景を把握し,それをもとに既存の看護を組み合わせる,調節 ・ 変更 ・ 改善することで創造される看護」と定義され,展開には適切な患者把握能力とケアの調整能力が必要であることが示唆された.
  • 中村 昌子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 84-90
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     基礎看護技術を習得する過程において,技能習熟前後で何が異なるのかについては明確にされていない.そこで,本研究では,看護系大学女子学生23名を対象に,「浣腸」と「導尿」の技術試験前後の動作について撮影,比較分析し,その違いを明らかにした.その結果,学生は,試験前の練習では手順がひととおりできるようになるが,スムーズさに欠けていた.試験後は,試験前に比べて作業位置 ・ 姿勢が自然なものに変化し,物品の置き方 ・ 操作を工夫し,左右の手が連動し,利き手の動線が集約し,所要時間が短縮した.これより,技能習熟には,熟練者の要素である,身体や物品の使い方ならびに左右の手の連動などが変化することが明らかになり,看護技術教育のための基礎資料が得られた.
  • 川原 由佳里, 奥田 清子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 91-100
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,看護におけるタッチ/マッサージに関する文献の統合的レビューを通じて,この領域における研究の進展状況と成果を確認することである.Cooperの統合的レビューの方法ならびに van Tulder et al.による研究のバイアスのリスクの評価基準を用いて分析を行った.その結果,ストレス状況下における看護師によるタッチにはストレス,不安,苦痛を軽減する効果があること,ナーシングホームやホスピスの入居者,がん患者へのハンドマッサージやフットマッサージには安楽や症状緩和の効果があること,全身/背部マッサージにはリラクセーション,疼痛緩和,皮膚温上昇の効果があることが明らかにされた.また会話しながらのタッチは会話のみの場合よりもストレス緩和の効果が高いなどの実践への示唆が得られた.研究の状況,母集団,タッチ/マッサージの方法,コントロール群,評価の指標やタイミングがいまださまざまであり,今後より厳密なコントロールのもとに追試を行っていく必要があることが考察された.
実践報告
  • ―7事例の検討を通して―
    矢野 理香, 石本 政恵, 品地 智子, 飯野 智恵子
    2009 年 8 巻 3 号 p. 101-108
    発行日: 2009/12/05
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,脳血管障害患者を対象に,手浴は何をもたらすのかを明らかにすることを目的として,事例検討を行った.対象者は,脳血管障害と診断され,手指に麻痺がある,痺れがある,もしくは巧緻動作が困難な入院患者7名 (男性6名,女性1名,年齢65~82歳) であった.対象者に,同一の研究者1名が手浴を週2回,2~5回実施し,手浴前中後の各対象者の言動を観察した.その言動の中から手浴による反応を抽出し,カテゴリ化した.また,手の伸展 ・ 屈曲の可動域の変化を,指尖手掌間距離および手関節中指間距離によって測定した.その結果,手浴は,対象者にとって,【あたたまる ・ 気持ちいい体験】となっており,患側の【痺れ ・ 痛みの緩和】を一時的にでももたらし,【思いを語る】ことを促していた.また,手浴中から手浴後に,対象者は【手の動きの改善を実感】し,手関節中指間距離 ・ 指尖手掌間距離の測定が可能であった3名には,手の伸展 ・ 屈曲に改善がみられた.これらのことが相互に関連し,回復への希望につながる【やる気の向上】が生じていた.
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