NEUROINFECTION
Online ISSN : 2435-2225
Print ISSN : 1348-2718
25 巻, 1 号
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会長挨拶
会長講演
  • 西條 政幸
    原稿種別: 会長講演
    2020 年 25 巻 1 号 p. 1-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、以下 HSV-1)によって引き起こされる疾患は 一般的に良性感染症といえるものの、造血幹細胞移植患者や原発性免疫不全患者では、HSV-1 は重篤で、かつ、慢性に経過する重篤な病態を引き起こす場合がある。大学医学部を卒業して小児科医として勉強し始めたころ、一人の原発性免疫不全症(Wiskott-Aldrich 症候群)の患者と出会った。その患者は3歳のときにHSV-1 に初感染し、再活性化に伴う口唇ヘルペスを繰り返し発症する状態になった。その当時から幸いにも抗ヘルペス薬アシクロビル(acyclovir、以下 ACV)が用いられるようになり、この患者の HSV-1 感染症はACV により治療された。しかし、ACV 治療を継続していたところ、ACV 耐性 HSV-1 による難治性 HSV-1 皮膚粘膜感染症を発症するようになった。また、この患者に対して免疫能再構築を目的に、同種骨髄移植が実施されたが、その際に重症皮膚粘病変が眼瞼部、口唇部などに出現し、ウイルス学的に調べたところ ACV 耐性 HSV-1 によることが明らかにされ、DNA ポリメラーゼ(DNApol)阻害薬フォスカルネット(foscarnet:PFA)で治療された。症状は軽快したが PFA 耐性 HSV-1 が出現した。残念ながらこの患者は移植約半年後に JC ウイルスによる進行性多巣性白質脳症によって亡くなった。この患者に関するウイルス学的検査や研究を行う過程で多くのことを学んだ。ACV 耐性 HSV-1 による新生児での脳炎を世界で初めて報告する研究にも参画し、造血幹細胞移植患者における ACV 耐性 HSV-1 感染症に関する研究を主催する機会も得た。これらの患者から多くのことを学び、多くの共同研究者に支援をいただいた。本論文では、これまでの私が行ってきた患者から学ぶ HSV-1 感染症研究について紹介する。

特別講演
  • 水口 雅
    原稿種別: 特別講演
    2020 年 25 巻 1 号 p. 7-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】急性脳症の研究は1980 年から現在まで、日本で急速に進歩した。1980〜2007 年には急性壊死性脳症、けいれん重積型(二相性)急性脳症、脳梁膨大部脳症など急性脳症の新しい症候群がつぎつぎと提唱、確立された。インフルエンザ流行期の急性脳症症例の多発が認識され、インフルエンザ脳症を対象に疫学調査、病態解明からガイドライン策定へと進んだ。2007 年に病原体による分類と症候群分類が整理された後は、急性脳症全体の疫学調査と症候群別の病態・診療の研究が進み、2016 年の急性脳症ガイドライン刊行へとつながった。同時期に発症の遺伝的背景となる遺伝子多型、変異が同定された。 今後の研究では、重症かつ難治性の症候群における早期診断と治療の開発が最大の課題である。

教育セミナー1
  • 大場 洋
    原稿種別: 教育セミナー
    2020 年 25 巻 1 号 p. 15-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】Neuroimaging plays a crucial role in the diagnosis in infectious diseases of the central nervous system. The review summarizes top 10 important things to know in the imaging diagnosis of infectious diseases of the central nervous system. 1. Herpes simplex virus encephalitis. MR image shows high signal in the temporal lobes, insulae, and cingulate gyri bilaterally on T2-weighted images, FLAIR images and diffuse weighted images. 2. Varicella-zoster virus (VZV)infection. MR images shows multiple focal high signal intensities in cerebral cortices and white matters especially peri-ventricular areas on T2-weighted images. VZV vasculopathy causes cerebral arteries occlusion resulting in cerebral infarctions and rarely hemorrhages. 3. Japanese encephalitis. Bilateral thalamic and nigral involvement is classical MR imaging. Other areas may be involved are pons, cerebellum, basal ganglia, cerebral cortex and spinal cord. 4. Influenza encephalopathy includes acute necrotizing encephalopathy, acute brain swelling encephalopathy, hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome (HSES), Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion (AESD), mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion (MERS). 5. progressive multifocal leukoencephalopathy (PML)shows asymmetric periventricular and subcortical white matters, brainstem and cerebellar white matters involvement. Lesions show T1 and T2 prolongation and sometimes diffusion restriction. 6. human immunodeficiency virus encephalopathy/encephalitis shows symmetric cerebral white matter T2 prolongation. 7. Cerebral abscess and subdural empyema shows diffusion restriction on diffusion weighted images and are critical for the diagnosis. Bacterial meningitis shows meningeal enhancement on post gadolinium T1-weighted images. 8. The neuroimaging characteristics of tuberculous meningitis classically include leptomeningeal and basal cisternal enhancement, ventriculomegaly due to hydrocephalus, periventricular infarcts, and the presence of tuberculomas. 9. Neurosyphilis shows cerebral and meningovascular involvement and appears T2 prolongation and meningeal contrast enhancement. Syphilitic gummas appear as small focal nodules adjacent to the meninges and shows homogeneous contrast-enhancement. 10. cerebral sparganosis mansoni typically shows tubular enhancement in a linear or curvilinear fashion-the tunnel sign-on post gadolinium T1-weighted images

教育セミナー2
  • 好井 健太朗
    原稿種別: 教育セミナー2
    2020 年 25 巻 1 号 p. 23-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis、以下 TBE)はマダニの吸血により罹患し重篤な症状を呈するウイルス性人獣共通感染症である。ユーラシア大陸の広域で年間一万人前後の患者が発生している。日本では、1993 年に北海道において、国内初の TBE 確定診断症例が報告され、その後、2016〜2018 年に相ついで2〜5例目までの患者が発生した。われわれはダニ媒介性脳炎ウイルス(tick-borne encephalitis virus、以下 TBEV)感染に対する診断系を確立し、継続的な血清疫学調査を実施により、北海道の広域および道外においても流行巣が分布している可能性を示している。 本稿では、TBEV の一般的な情報とともに、われわれが行ってきた TBE に関する最新の研究知見を紹介し、TBE 流行に関する課題を考察したい。

教育セミナー3
  • 高橋 幸裕, 才木 桂太郎, 田代 有美子
    原稿種別: 教育セミナー3
    2020 年 25 巻 1 号 p. 30-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】口腔常在菌は、歯科における2大疾患であるう蝕と歯周病の原因となっているのみならず、他臓器の疾患の原因菌として医学・歯学領域において注目されている。この総説では、最初にデンタルプラーク(歯垢)について、つぎに口腔常在菌が原因となる全身疾患の現状について概説する。さらに、脳膿瘍の主要な原因菌である Streptococcus intermedius の病原因子について解説する。最後に、口腔常在菌の定着機構の研究が最も進んでいるミティス群レンサ球菌の付着・定着因子について、おもにわれわれの研究の対象としているStreptococcus gordonii の Hsa アドヘジンについて概説する。

シンポジウム1
  • 森田 昭彦
    原稿種別: シンポジウム1
    2020 年 25 巻 1 号 p. 35-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】Herpes simplex encephalitis(HSE)は急性経過で意識障害を呈した患者の診療に際し常に念頭におくべき神経救急疾患である。発症から Aciclovir(ACV)開始までの時間が転帰に影響するため急性脳炎を否定できない段階で ACV を経静脈的に開始することが重要である。脳炎症状がいったん軽快した数週間後に増悪することがあり、ウイルスの再活性化がみられない場合には免疫学的機序を介した増悪が考慮される。HSE が N-methyl-D-aspartate receptor などの神経表面抗原に対する自己抗体産生のトリガーとなりうることが報告されており、免疫療法が有効である。

  • 吉川 哲史
    原稿種別: シンポジウム1
    2020 年 25 巻 1 号 p. 39-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus、以下 VZV)は初感染で水痘を起こし、その後脊髄後根神経節に潜伏感染し宿主の加齢、免疫抑制、ストレス等に伴い再活性化し帯状疱疹を起こす。水痘予防のためワクチンが定期接種化され水痘患者数は減少しているが(pros)、一方で患者数減少に伴うナチュラルブースター効果の減衰に伴い、既感染者の水痘特異的細胞性免疫能の減衰スピードが速くなり、帯状疱疹患者の増加、若年化が懸念されている(cons)。帯状疱疹患者の増加は、疱疹後神経痛だけでなくウイルス再活性化に伴うさまざまな神経合併症の増加にもつながる。よって、今後帯状疱疹ワクチンによる帯状疱疹予防の重要性が増すと考えられる。

  • 奥村 彰久
    原稿種別: シンポジウム1
    2020 年 25 巻 1 号 p. 44-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】新生児単純ヘルペス脳炎はまれな疾患であり、いまだに予後不良な症例も少なくない。新生児単純ヘルペス脳炎の症状は非特異的であり、診断は容易であるとは限らない。皮膚症状を欠くこともまれでなく、単純ヘルペス感染症を想起できないこともあり得る。診断には血液や髄液の PCR 法がきわめて有用であるが、発症後早期にはウイルス DNA が検出されないことがある。頭部 MRI は発症後早期から異常を認める。特に拡散強調画像における散在性の異常高信号を認めることが特徴的である。治療は、高用量のアシクロビルを十分な期間投与することが基本である。高用量アシクロビル投与によって、神経学的予後が改善したことが報告されている。

シンポジウム2
  • 高橋 徹
    原稿種別: シンポジウム2
    2020 年 25 巻 1 号 p. 49-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia symdrome、以下SFTS)は、 2011 年に中国から報告された SFTS ウイルスによるマダニ媒介新興ウイルス感染症である。日本でも流行しており、西日本地方で年間約 80 人が発症していて致死率は約 20%と高い。臨床像は高熱、血小板減少、白血球減少、下痢や嘔吐が特徴で、「ボーッとして理解が緩慢な感じ」の意識障害もよく伴う。AST、LDH、CK は上昇し、骨髄で血球貪食像をみる。特異的治療はなく、抗ウイルス薬のファビピラビルの治療開発が期待されている。マダニのほかに SFTS 発症ネコによる咬傷が新たな感染経路として注目されている。ヒト−ヒト感染もあり、患者を扱う医療者には標準・接触予防策が必須である。

  • 久枝 一
    原稿種別: シンポジウム2
    2020 年 25 巻 1 号 p. 55-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】日本をはじめ、先進国で寄生虫感染症はほぼみられることはなくなった。しかし、世界に目を向けると人口の6割が感染のリスクにさらされている。グローバル化が進み輸入感染症として、また、地球温暖化により熱帯・亜熱帯に蔓延する寄生虫感染症が頻繁に起こる恐れもあり、寄生虫感染症を臨床の場でみることも多くなると予想される。寄生虫感染症のなかには中枢神経系を侵し、重篤な症状を示すものがある。本稿では、中枢神経病態を生じる寄生虫感染症について、注意喚起の意味も込めて紹介したい。

  • 加来 義浩
    原稿種別: シンポジウム2
    2020 年 25 巻 1 号 p. 60-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】ヘニパウイルス感染症の神経病態には2つの特徴がある。第1に、neuropathogenesis に「血管炎」と「脳実質への感染」という2つの側面がある。ウイルスの主要な標的は血管内皮細胞であり、これにより全身感染が引き起こされる。第2に、感染後 10 週以上を経て発症する「遅発性脳炎」や、脳炎を発症・寛解後に「再発性脳炎」が認められる。同じパラミクソウイルス科の麻疹ウイルスでも、数年の潜伏期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、以下 SSPE)が知られているが、ヘニパウイルスの遅発・再発性脳炎の研究は SSPE ほど進んでいない。本稿では、本症の神経病態について、近年の研究成果をまじえて概説する。

シンポジウム3
  • 浜口 毅, 山田 正仁
    原稿種別: シンポジウム
    2020 年 25 巻 1 号 p. 65-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】Creutzfeld-Jakob 病(Creutzfeldt-Jakob disease、以下 CJD)に代表されるプリオン病は、脳における海綿状変化と異常プリオンタンパク質蓄積を特徴とする神経変性疾患である。ウシ海綿状脳症からヒトへ伝播したと考えられる変異型 CJD やヒト乾燥屍体硬膜移植や成長ホルモン療法、脳外科手術等によって伝播したと考えられる医原性 CJD のように、プリオン病は同種間あるいは異種間で伝播しうる。一方、Alzheimer 病(Alzheimer's disease、以下 AD)の病理学的特徴の一つであるアミロイドβタンパク質(amyloid β protein、以下 Aβ)の脳への沈着も、プリオン病の異常プリオンタンパク質と同様に個体間を伝播することを示す動物実験結果が近年多数報告され、さらに、硬膜移植後 CJD や成長ホルモン製剤関連 CJD といった医原性CJD 剖検脳の検討から Aβ病理変化がヒトにおいても個体間を伝播した可能性が報告されている。脳血管へのアミロイド沈着症である脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy、以下 CAA)は、脳血管へ Aβが沈着する孤発性 CAA(Aβ-CAA)が、高齢者や AD 患者でしばしば認められるが、若年での報告はきわめて少ない。しかし、近年、若年発症の CAA 関連脳出血の症例が複数報告され、それらの症例は脳外科手術歴を有していたことから、脳外科手術での Aβ-CAA が個体間伝播した可能性が指摘されている。 これらの症例にはヒト乾燥屍体硬膜移植がはっきりしない症例も含まれており、ヒト乾燥屍体硬膜移植だけでなく脳外科手術器具によって Aβ-CAA が個体間伝播した可能性も疑われている。

  • 雪竹 基弘
    原稿種別: シンポジウム3
    2020 年 25 巻 1 号 p. 72-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、以下 PML)の概説と、最近の話題を論じた。PML 診療は病態修飾療法(disease modifying therapy、以下 DMT)関連 PML に対応する時代であり、特に多発性硬化症(multiple sclerosis、以下 MS)の DMT 関連 PML が注目されている。MS における新規 DMT は本来 PML の基礎疾患ではない MS に、その薬剤自体が単剤で PML を発生させるという意味で重要である。薬剤関連 PML においては免疫抑制剤等による日和見感染症としての PML のみでなく、DMT 関連 PML という新たな要因が加わった。

    その他、PML に特徴的とされる MRI 所見の提示と、PML 治療の可能性に関してマラビロクとペムブロリズマブによる PML 治療の報告を紹介した。

  • 三浦 義治
    原稿種別: シンポジウム3
    2020 年 25 巻 1 号 p. 80-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】進行性多巣性白質脳症の疫学調査研究は厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班により行われてきた。この調査は 2018 年4月から現在の第四期のサーベイランスとなっている。ここでは駒込病院事務局を中心に症例登録して情報収集を行い、自治医科大学を含めた4施設の連携強化を行った。この結果 201 件の事務局登録がなされ、PML(progressive multifocal leukoencephalopathy、以下 PML)サーベイランス委員会会議判定後の疫学解析は 75 症例(うち PML の診断は 36 例)となった。今後もひき続き症例登録と解析、そしてサーベイランス登録データを有効に生かした課題の取り組みを行ってゆきたい。

  • 山木 亮一, 門前 達哉, 遠藤 梓, 鄭 雅誠, 蛯谷 征弘
    原稿種別: シンポジウム3
    2020 年 25 巻 1 号 p. 83-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】鼻性頭蓋内合併症は、鼻・副鼻腔に感染源があり、それにより脳膿瘍・髄膜炎・脳炎などの頭蓋内感染をきたすものであり、その診断・治療の遅れは致命的になりうる。副鼻腔炎に対して適切な対応をしていたのにもかかわらず、鼻性頭蓋内合併症をきたした一例を経験したため文献的考察を含めて報告する。

シンポジウム4
  • 山野 嘉久
    原稿種別: シンポジウム4
    2020 年 25 巻 1 号 p. 87-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】難病 HTLV-1 関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy、以下 HAM)は有効な治療法がなく、画期的な新規治療法が切望されているが、希少疾患ゆえに症例集積が困難で質のよいエビデンスに乏しく、治療薬開発の障壁となっている。これを打破するため、患者会への参加や HAM 専門外来を通して患者に協力を得て、検体バンクや患者レジストリを構築した。単なる症例集積に留まらず、検査データの診療への還元やHAM に関する情報提供を行い、「ともに疾患を克服する」意識と患者に参加するメリットが感じられる研究の実現に努めた。その結果、検体やデータ解析によりこれまで知り得なかった新しい知見を得ることができ、新規薬剤開発、診療ガイドライン作成など、HAM の治療に新たな変革をもたらした。

  • 浜口 功
    原稿種別: シンポジウム4
    2020 年 25 巻 1 号 p. 92-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】国内の HTLV-1 感染者の推定を行ったところ、感染者総数が最大 82 万人にまで減少していることが明らかになった。一方で、年間 4,000 人以上の HTLV-1 水平感染が国内で起こっていることが判明した。特に男性、しかも若年者(20〜30 代)の新規感染が有意に増加傾向にある。社会活動性の高い世代での感染者の増加は二次的水平感染拡大につながると考えられ、水平感染対策が必要である。対策の一つとして、HTLV-1 核酸検査法およびラインイムノアッセイ法(LIA 法)を検査手順に取り入れた「HTLV-1 感染の診断指針」を作成し、HTLV-1 検査法の充実を図っている。

  • 森内 浩幸
    原稿種別: シンポジウム4
    2020 年 25 巻 1 号 p. 95-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】母子感染(おもに経母乳感染)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1、以下 HTLV-1)の主要な感染経路であり、成人T細胞白血病や HTLV-1 関連脊髄症のような疾患の発症の一次予防として、経母乳感染を防ぐことは重要である。2011 年から妊婦の HTLV-1 抗体スクリーニングが公費助成されるようになり、母子感染予防対策が全国的に展開されるようになったが、母乳以外の感染経路の存在、キャリア女性と生まれてきた子どもへの支援体制・フォローアップ体制の不備、夫婦間感染(水平感染)に続く母子感染の存在など、課題が多く残されている。

  • 松浦 英治
    原稿種別: シンポジウム4
    2020 年 25 巻 1 号 p. 100-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】1985 年、鹿児島大学病院に入院していた痙性脊髄麻痺患者の髄液に ATL 様細胞を認めたことを契機に鹿児島に多い痙性脊髄麻痺の研究が始まった。翌 1986 年、Osame らは HTLV-1 関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy、以下 HAM)という新しい疾患概念を報告した。HTLV-1(Human T-lymphotropic virus type 1、以下 HTLV-1)はヒト生体内ではおもに CD4 陽性リンパ球に感染しているものの、ウイルスがどこで増殖するのか、蛋白をどこで発現しているか、また、感染していないとされる神経系細胞が障害される原因など明らかでない点も多い。HAM の病理像は、胸髄中・下部を中心とし、小血管周囲から脊髄実質にかけて浸潤するT細胞とマクロファージを主体とする慢性炎症である。炎症の終息した部分には強いグリオーシスと血管周囲の線維性肥厚がみられるのが特徴である。Umehara らの研究により罹病期間の短いケースでは多くの CD4 あるいは CD8 陽性リンパ球が等しく浸潤しているのに対し、罹病機関の長いケースでは CD8 陽性リンパ球が中心となることが報告された。血液・髄液中の CD8 陽性リンパ球に多くの細胞障害性Tリンパ球が存在する一方、中枢神経系に浸潤する CD8 陽性リンパ球のキャラクターは不明であった。近年、HTLV-1 ウイルス蛋白の一つである Tax 蛋白に特異的な細胞障害性 CD8 陽性Tリンパ球(HTLV-1 tax-specific CTL)を in-situ で検出する方法を用い、患者の中枢神経系に浸潤する CD8 陽性リンパ球のうち 10%ないし 30%が HTLV-1 tax-specific CTL であることが報告された。また、どこで発現しているか確認されていなかった HTLV-1 蛋白も中枢神経に浸潤している CD4 陽性リンパ球に強く発現していることが確認され、HAM が中枢神経内の感染リンパ球をターゲットとする炎症であることが証明された。しかし、類似した所見のある大脳ではなぜ症状を認めないのか、脊髄ではなぜ側索の脱髄が顕著なのか、なぜ輸血後・移植後感染では HAM が発症しやすいのかなど検討されねばならない点はいまだに多い。本発表ではこれら未解決の問題について整理する。

Meet the experts of NIID
  • 林 昌宏
    原稿種別: Meet the experts of NIID
    2020 年 25 巻 1 号 p. 105-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus、以下 JEV)およびウエストナイルウイルス(West Nile virus、以下 WNV)は、ともにフラビウイルス科フラビウイルス属日本脳炎血清型群のウイルスであり、エンベロープを有する直径約 50 nm の一本鎖球状(+)RNA ウイルスである。ウイルスそのものの抵抗性は弱く、環境中ですみやかに不活化されるが、いずれも蚊によって媒介され、重篤な脳炎を引き起こす。日本脳炎(JE)は JE ワクチンによって制御されているが、現在も国内においてその流行が高齢者を中心に継続しており今後も対策が求められる。近年 WNV の分布域は拡大しているが、ヒト用ウエストナイル(WN)ワクチンは開発されておらず、WNV 感染症の流行地域に渡航する場合は媒介蚊対策等の感染予防が必要である。

  • 伊藤(高山) 睦代
    原稿種別: Meet the experts of NIID
    2020 年 25 巻 1 号 p. 113-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】狂犬病(Rabies)は狂犬病ウイルスにより引き起こされる致死的な神経感染症である。感染動物に咬まれることにより体内に侵入したウイルスは、神経細胞を逆行性に伝播して1〜3ヵ月の潜伏期を経て脳に到達する。そしてさまざまな神経症状を引き起こし、発症から1週間程度で呼吸器不全や多臓器不全等によりほぼ 100%が死亡する。日本は過去 60 年以上狂犬病の発生がないが、世界では年間 59,000 人が狂犬病により亡くなっていると推定されている。狂犬病を発症した場合、有効な治療法はないが、感染後すぐにワクチン接種を行うことにより、ほぼ 100%発症を予防できる。狂犬病について正しい知識を得ることが、ヒトの死亡をゼロにするために重要である。

  • 川端 寛樹, 佐藤(大久保) 梢
    原稿種別: Meet the experts of NIID
    2020 年 25 巻 1 号 p. 118-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】ボレリア感染症としてライム病、古典型回帰熱および新興回帰熱が知られている。ライム病はわが国においては希少な感染症ではあるが、感染の機会は存在することが社会的によく知られている。古典型回帰熱は、「国内にはすでに存在しない、海外で流行している病気」として認識されていた一方で、輸入例が報告されたことや、新興回帰熱の発見があったことから、近年再び注目を浴びるようになった。本稿ではこれらボレリア感染症についてヒトの公衆衛生の観点から解説を行う。

  • 高橋 健太, 鈴木 忠樹, 片野 晴隆, 長谷川 秀樹
    原稿種別: Meet the experts of NIID
    2020 年 25 巻 1 号 p. 125-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】中枢神経系では病原体の感染により種々の病態がもたらされる。病理学的には脳炎・脳症は組織形態により区別される。形態観察で炎症が認められる場合に脳炎、炎症を欠くものが脳症とされ、これらは宿主側の反応の違いによる。感染症の病理学的検索では、同一検体上で病原体の感染とその結果としての組織反応や形態変化の関係性を併せて評価することが重要となる。本稿では病原性微生物の感染による脳炎および脳症の代表的疾患につき病理組織像を提示しながら概説し、感染症が疑われる原因不明脳炎に対する国立感染症研究所感染病理部における網羅的な病原体の新規検索法についても紹介する。

  • 中道 一生
    原稿種別: Meet the experts of NIID
    2020 年 25 巻 1 号 p. 133-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、以下 PML)は JC ウイルス(以下 JCV)に起因する予後不良の中枢神経脱髄疾患である。多くのヒトにおいて幼少期にアーキタイプ(原型)の JCV が感染し、持続感染および潜伏感染が成立する。T細胞系の免疫が低下した患者等においてはプロトタイプ(変異型)の JCV が出現し、大脳白質等のオリゴデンドロサイトにおいて増殖することで PMLを引き起こすことがある。本稿では「JCV の変異と PML」を中心として、JCV の性状、感染様式、PML の発症機序、超高感度検査、ならびに JCV の変異タイピング等について概説する。

若手医師
  • 萩原 真斗, 岸田 日帯, 堀口 遼平, 山下 亮太郎, 木村 活生, 上田 直久, 田中 章景
    原稿種別: 「若手医師を応援する会」主催セッション
    2020 年 25 巻 1 号 p. 139-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】症例は 44 歳男性。8ヵ月前から亜急性に頭痛、微熱、物忘れ等の症状が出現、慢性的に経過し、さらに異常言動、意識障害を認めたため入院した。意識障害、項部硬直から髄膜炎が疑われ、背景としての易感染性、長期間続く症状、画像所見、脳脊髄液所見から、結核性髄膜炎と考えた。しかし各種培養検査・Nested PCR・細胞診、生検でも病原体の同定にいたらなかった。抗結核治療で脳脊髄液細胞数は減少したが、意識障害等の改善は乏しく、水頭症に対する VP シャント術施行後に徐々に症状は改善した。診断・治療に苦慮した髄膜炎である本症例を提示し、二次性水頭症合併下で、結核菌を同定できていない段階での抗結核治療効果判定とその問題点について考察する。

学会賞
  • 古園 麻衣, 松元 陸, 眞弓 芳子, 田代 雄一, 荒田 仁, 山野 嘉久, 田中 正和, 久保田 龍二, 松浦 英治, 髙嶋 博
    原稿種別: 学会賞 最優秀口演賞「基礎・臨床研究部門」
    2020 年 25 巻 1 号 p. 146-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】HAM 患者データベース『HAM ねっと』に登録されている 527 例において、疾患進行速度の予測因子としての初発症状の意義を検討した。初発症状は歩行障害、下肢感覚障害、排尿障害の三分類とした。初発症状の出現から車椅子使用レベルである納の運動障害重症度分類(OMDS)で Grade 6 にいたるまでの期間を疾患進行速度の指標とした。検討の結果、初発症状が下肢感覚障害であれば有意に急速で、排尿障害であれば有意に緩徐であった。初発症状は疾患進行の予測因子であることを確認した。また、初発症状が排尿障害である例は男女ともに若年発症の傾向があった。若年で排尿障害を呈する患者には HTLV-1(Human T-lymphotropic virus type 1)感染を積極的に疑い、抗炎症治療の対象となるか検討することが求められる。

症例報告
  • 矢崎 達也, 佐藤 俊一, 臼田 真帆, 野村 俊, 原 亮祐, 渡部 理恵, 石井 亘, 星 研一, 今岡 浩一, 矢彦沢 裕之
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 25 巻 1 号 p. 150-
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    【要旨】Streptobacillus notomytis を起因菌とした、鼠咬症による髄膜炎の1例を経験した。特殊培地(ウマ血液培地炭酸ガス培養)で多型性陰性桿菌が認められ、髄液から PCR 法により Streptobacillus notomytis 特異的遺伝子が検出されたことで同菌による髄膜炎であることが判明した。第一病日より meropenem に加え、鼠咬症に有効な ampicillin を併用し、改善がみられた。本症例は S.moniliformis による鼠咬症の既報告と比較して、敗血症の経過を伴わず、皮疹や多発関節炎がなく、潜伏期間が長い点が本症例には特徴的で、詳細な病歴聴取がなければ診断困難であった。

各賞受賞者一覧
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