本研究では、癇癪行動を呈した発達障害児を対象として、PBSに基づく行動支援を実施し、その効果について検討した。対象児は自閉スペクトラム症の診断があり、幼稚園等で行うゲーム等の勝敗のある遊びにおいて、負けそうになったり、負けたりすると頻繁に癇癪行動を起こしており、適切な行動で自分の気持ちを表現できるようになって欲しいという保護者の強いニーズがあった。癇癪行動の機能分析の結果、要求機能が3.75点と最も高く、癇癪を起こす要因として、思い通りの結果や活動を得ようとする様子が見られた。本指導では、輪投げ、魚釣りを勝敗のある遊びとして、怒りのマネジメントプログラムを実施した。結果、輪投げではベースライン期で適切行動生起率の平均値が35.7%であったが、トレーニングを重ねることで、癇癪行動を起こしても気持ちの切り替えができ、「負けないから」「つぎ頑張る」といった言葉を発する場面が増え、輪投げ、魚釣りともに最終的なポストテストでは適切行動の生起率が100%となった。また勝敗のある遊びの場面以外でも、幼稚園での行事等で失敗をしても癇癪を起こさずに過ごし、また激しい癇癪を起こすことな
く、自分の気持ち、感情を言葉にして発することが増えた。激しい癇癪を起こすことなく、自分の気持ち、感情を言葉にして発する行動が汎化したが、これらは、適切な行動で自分の気持ちを表現できるようになって欲しいという保護者の強いニーズに合致しており、その変容はPBSの目指す対象児及び家族のQOLの向上につながったといえる。これらの結果によりPBSに基づく怒りのマネジメントプログラムが自閉症児の癇癪行動の低減に有効であることが明らかになった。
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