7種のカルシウム化合物を検討した結果, いずれも人工胃液中へはほぼ100%溶解するが, 人工胃液処理後に中和してpH 8.3の人工腸液条件にすると, カルシウムの溶出率は炭酸カルシウムが最低値の0.19%, 乳酸カルシウムが最高値の14.2%を示すにすぎなかった。そこで各カルシウム化合物に唾液タンパク質のムチンを添加したところ, 人工腸液条件での溶出率が向上して炭酸カルシウムが最低値の23.8%, グルコン酸カルシウムが最高値の84.0%を示した。なお消化液へのペプシンあるいは, パンクレアチンの添加はカルシウムの溶出率に影響を与えなかった。
しかし健康女性 (22~23歳) 17名の唾液をグルコン酸カルシウムに添加した場合には, 15名において人工腸液条件でのカルシウム溶出率が唾液無添加時より増加した。しかし各唾液のタンパク質濃度は同溶出率に相関しなかった。また同溶出率はペプシン, パンクレアチンに関係なく添加するムチン量に依存して増加することがわかった。
正常マウスに炭酸カルシウムの所定量を強制的に経口投与したところ, ムチン添加の有無に関わらず血清カルシウムレベルと尿カルシウム量は変化しないが, 後肢下腿脛骨のカルシウム量, 破断荷重と破断強度がそれぞれ炭酸カルシウム無投与群, 炭酸カルシウム投与群, 炭酸カルシウムとムチンの同時投与群, の順に増加した。
以上, 消化液中のムチンは, in vitro の実験においてカルシウム化合物の消化液中への溶出を促進し, またinvivoの実験においてマウス後肢下腿脛骨のカルシウム量, 骨破断荷重, 骨破断強度を増加させる傾向を示した。
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