1) 10%肝油を用いて6カ月間白ネズミを飼育してE欠乏をおこさせると腎臓および睾丸はともに肥大し, 腎臓の糸球体および睾丸に退行性の変化を認めた。NaCl添加は腎臓に影響はなかったが睾丸ではNaClによる基底膜の損傷を認めた。
2) 臓器所見のほかE欠乏の影響として成長の抑制とともに腎臓の自己融解が促進され赤血球の溶血率, クレアチン尿の増加, 血中含硫アミノ酸値の低下, 体脂肪の褐色化のほか血尿, 蛋白 (アルブミン) 尿などの異常尿, 喫歯の退色化を認めた。
3) 腎臓の自己融解はそれ程鋭敏ではなかったが12週目ごろが最高で, その後は低調な傾向であった。
クレアチン尿, Creatin/Creatinine比は暫時増加する傾向を示したが, 欠乏動物では一層著しく, 特にNaCl非添加群が上昇を示した。
4) 食塩の影響として睾丸の検鏡所見の増悪がみられた。腎臓では検鏡所見に影響はみられなかったが, 水分の摂取が多く, その割に尿排泄の少なかったことより腎機能障害の可能性が考えられる。
しかし臓器の所見とは別に腎臓の自己融解, クレアチン尿および初期 (7週目当りより) の発育状況などをみるとこの際の食塩の添加は見かけのE欠乏徴候に対して単にEを欠乏させた場合よりもかえってある程度有利な結果をもたらした。
5) 以上総括すると10%肝油で長期にわたってEを欠乏させた白ネズミの腎臓, 睾丸に萎縮性の変化が認められる。腎の検鏡所見に比べて死後自己融解は予期した程鋭敏ではなかったがE欠乏の影響を認めることができた。
E欠乏の一般的影響が発育, 臓器および契歯の状況, 血液, 尿の所見を通してみうけられた。これらのうちクレアチン尿の増加が特に明瞭であった。
高食塩の摂取の影響は睾丸検鏡所見で認められたが腎臓の所見では影響はなかった。しかし水分代謝の異常から食塩による腎機能障害の可能性がみえた。
このほか腎の自己融解並びに一般のみかけのE欠乏徴候に対して食塩は単にEを欠乏させた場合よりもむしろ有利な傾向を示した。
用いた肝油のレベルと肝臓のE含量からみて, この程度の軽度な欠乏が長期間徐々に進んだ場合にみかけの徴候はそれ程判然としないが潜在的な欠乏により細胞膜の燐脂質構成が影響を受け, 膜の脆弱性を促し, 組織が退行に向うといえよう。
こうした際に, これを助長しEの要求を高める因子として加令, 食塩の過剰摂取があげられるが, 食塩がE欠乏の際に腎の構造, 機能の両面に影響する可能性が多分にあり, 高血圧症などの老年病はEの欠乏と高食塩摂取の組合せによって一層発生しやすいといえる。
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