農家自家醸造味噌の中には, チラミンを顕著に含むものがあり, その生成について, 製麹過程と仕込み後の熟成過程に分けて検討を加えた。
1) 味噌麹から分離した麹菌は, 麹の場合, チロシンと反応させても, チラミンの生成はいずれも, まったく認められなかった。
2) 麹をチラミンとインキュベートした場合, チラミンの分解割合は低く, また麹をチラミン生成細菌とともに, チロシンとインキュベートした場合のチラミン生成量は, いずれも細菌単独の場合よりも多く, とくに耐塩性を獲得したNo. 31菌株では, チラミンの生成量が著しく増加した。
3) 製麹の際, No. 35菌株を接種した場合にはチラミンを生成し, その量は約3mg%で, 製麹日数の増加に伴い完全に消失した。
4) チラミン含量の異なる自家醸造味噌を18ヵ月間, 室温または冷蔵室で保存した場合, 室温ではチラミン含量の増加はなく減少する事例があり, 冷蔵では逆に増加する事例がみられたが, いずれもチラミン含量の著しい変化は認められなかった。
5) 味噌仕込みの際, 水分と食塩含量を調整し, さらにNo. 35菌株を接種, 炭酸カルシウム, 大根搾汁等を添加した。その味噌について, 一般性状とチラミン含量を調べた結果, 水分, 食塩含量の高い場合には, 味噌の熟成はおくれた。味噌の熟成度とチラミン含量の間には関連がなく, また添加物によるチラミンの生成促進作用は, 炭酸カルシウムに若干認められた程度で一般に低く, 多量にチラミンを生成する場合はなかった。
6) チラミンを含まない味噌を用いて, No. 35菌株を接種し, 食塩濃度と添加物の関係を調べた結果, チラミンの生成は食塩濃度が決定的な要因であり, 添加物は二義的な効果をもつものであることを認めた。 食塩濃度の増加に伴い, チラミンの生成は著しく低下し, 食塩濃度の低い場合には炭酸カルシウム, ブドウ糖の添加はその生成を促進する作用が大きく, 食塩濃度の高い場合にもブドウ糖, 大根搾汁の添加はその生成を促進する作用が認められるが, 味噌のチラミン含量は著しく低下し5~10mg%となった。
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