「ゲーミフィケーション」という言葉が最初に使われたのは2004年に遡り,注目され始めたのは2011年,ガートナー社がレポートでとり上げた頃からである.「『ゲームの要素』を『ゲーム以外の分野』に取り込む.」ことを意味する.しかし,「ゲームの要素」も「ゲーム以外の分野」も,その範囲がはっきりしているわけではない.
ゲーミフィケーションにとってゲームの最大の利点は,人を没頭させ継続的にわくわく感を与えることである.ゲームは,人間の本性や心理を綿密に計画して操り,内発的に動機付けする.ゲームは,もともと日常の必需品とは対極にあり,必ずしも必要でない物を消費者に購入させ継続的に愛用させるために,「買わせる技術」「使わせる技術」の発達を即してきた.
「ゲーム」の分析からゲーミフィケーションに必要な要素としてよくあげられるのは次のようなものである.1)明瞭な目標 2)直接的なフィードバック 3)課題が達成できる見通し 4)レベルアップ,レベルデザイン 5)スコア(ポイント)やランキング 6)バッジや実績 7)競争 8)協力 9)ストーリー 10)視覚化
1)の目標は,ゲームにおいては虚構であり,ゲーミフィケーションでは実世界の事象である.目標を明確にするには達成度を数量的に表現する必要があるため,実世界では何らかの測定方法が必要となる.例えば,ウエブページの閲覧ページ数,購買金額,寄付金額,訪問した店舗数,走った距離,テストの点数など.よく応用される分野には,ウエブページの閲覧がある.これに関しては,バンチボール社,バッジビル社などが容易に「ゲームの要素」を実装できるプラットフォームを提供している.その他,販売一般,教育分野,社会運動,選挙運動などに応用されている.
ゲーミフィケーションは,プラットフォームの提供などの IT 技術の他に,心理学やマーケッティングと関係しながら発展している.また,ゲームをしている時には,脳の司令塔と言われる前頭前野が不活性であり,他方「繰返しの行動」を支配する小脳や上丘が活性化されるという研究がある.ゲーミフィケーションが,人間の革新的創造的活動に伴う「生みの苦しみ」も,繰返す仕事や訓練の「退屈さ」も,和らげることができるのか,その仕組の解明は今後の課題である.
抄録全体を表示