知能と情報
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Print ISSN : 1347-7986
28 巻 , 3 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
目次
巻頭言
解説
コラム
報告
用語解説
  • 山ノ井 高洋
    原稿種別: 用語解説
    2016 年 28 巻 3 号 p. 79
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    朝日新聞2015年11月11日朝刊記事によると,厚生労働省専門家会議で,ヒトの身体に装着して歩行能力を高める補助装置「ロボットスーツHAL」を全身の筋力が低下した難病患者のための医療機器として承認することが了承された.肢体不自由者の政府による支援の一歩が始まったと言えよう.

    この分野の研究では米国John Donoghue 氏のグループの一連の研究が先駆的であった.一方,国内においても,株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)川人光男氏のグループを中心として,EEG と機能的MRI(fMRI)を用いた大規模なBCI の研究を進めている.

    Donoghue 氏が設立したブラウン大学脳科学研究所は,2001年には,大学からスピンオフし,パイロット臨床試験のためにCyberkinetics 社,Cyberkinetics Neurotechnology Systems となり,現在はBrainGate 社として活動を行っている.当初,ブラウン大学で開発されたのは,脳に剣山型の微小電極を埋め込み,神経信号を直接侵襲的に取り出し,解析し,制御信号を送るものであった.

    BCI の研究が人々の目を惹いたのは,2015年5月にNature に掲載されたBrainGate2のプロジェクトの記事であろう.Nature のこの記事によると,1997年に脳卒中で身体麻痺を起した患者が,2005年にBrainGate2の埋め込み手術を受けた.この患者はロボットアームを操作し,46% の成功率でスポンジボールを拾い,66% の成功率でコーヒーボトルを握り口に持ってゆくことに成功した.さらに2006年に麻痺状態になり6年後にこの電極埋め込み手術を受けた患者は,上述のロボットアームを介して62% の成功率でスポンジボールを拾うことが可能となった.

    しかしながら,微小とはいえ電極を脳に埋め込む侵襲の計測装置は様々な問題を抱えており,我々の研究で現在用いている,頭皮上からの脳波を計測する方法が今後重要になると思われる.

  • 工藤 卓
    原稿種別: 用語解説
    2016 年 28 巻 3 号 p. 79
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー

    脳から取り出した神経細胞を分散培養して回路網を自律的に再形成させ,これにセンサとアクチュエーターを備えたロボットの身体を付与して環境と相互作用するようにしたシステムを,ハイブリッド型のニューロロボットという.ロボットのみならず,電子機器と神経回路網・脳とを接続して,環境からの入力を電気刺激として神経回路網に入力し,神経回路網の応答を出力として取り出す神経-機械ハイブリッドシステムを構築し,動作原理の解明・入出力の最適化,ならびにこれらを用いた人工的な知性システムの実現を目指す融合的学問分野をニューロロボティクスという.知能の構築には物理的な身体を介して環境と相互作用するという「身体性」が必要であるという考え方は身体性認知科学と呼ばれるが,ニューロロボティクスで扱われる神経-機械ハイブリッドシステムは「身体性」の実験モデルであり,生体神経回路網が外界との相互作用によって受ける影響や入力に対する反応特性を解析するには適した系である.

    ニューロロボティクスの分野では,身体性の機能として,生物型エージェントの,反射的・本能的でアプリオリな行動を感覚器と効果器との接続様式に埋め込んでいること,外界のオブジェクトの特徴を異なる感覚によって知覚される異なる複数の検出特徴に分割すること,外界からの入力に対応する行動の結果が感覚器から再帰的に入力されることを保障する(閉ループ相互作用),ということが重要視されている.特に閉ループ相互作用が情報処理システム(閉ループの構成要素)そのものを変更し(可塑的変化),その結果として外界の変化に適応した行動が生成されると考えられている.

    まとめると,ニューロロボティクスとは,生きた神経回路網に身体性を付与して,体を持った「小さな脳」のモデルを構成し,身体性認知科学の概念を生体の部品を用いて実証しようと言う試みである.専門学術誌として“Frontiers in Neurorobotics”が挙げられる.

会告
特集:「ブレイン・コンピューティング・システム」
論文概要
学会から
編集後記
特集論文: ブレイン・コンピューティング・システム
原著論文
  • 山本 裕也, 吉川 大弘, 古橋 武
    2016 年 28 巻 3 号 p. 589-597
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    近年,使用者の思考のみで機械の制御や他者とのコミュニケーションを可能にする Brain-Computer Interface(BCI)の研究が盛んに行われている.その中でも文字入力型BCI として,特徴的な脳波(事象関連電位)の一種であるP300を用いたP300 speller が考案されている.日本語P300 speller においては,主に一画面のみの行列型インタフェースが用いられるが,選択可能な文字の候補が多いために,入力時間の増加や精度の低下といった問題を引き起こしている可能性がある.本論文ではこれらの問題を解決するため,二画面行列型インタフェースを考案し,性能の比較検討を行う.
  • 堀口 由貴男, 鈴木 貴也, 鈴木 貴之, 椹木 哲夫, 中西 弘明, 瀧本 友晴
    2016 年 28 巻 3 号 p. 598-607
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    本稿では,列車運転のための視覚的スキルを特徴づける注視パターンを抽出するために,運転年数の異なる列車運転士の注視行動データに対してグラフクラスタリング法の一つであるMarkov Cluster Algorithmを適用した.その結果,前方を介して他の注視領域群を走査する視線移動が運転士らの基本注視パターンとして抽出されるとともに,このパターンの「強度」に熟練度による差異が存在することが明らかになった.さらに,非熟練者が基本注視パターンからの逸脱を頻発させる運転局面について調査したところ,非熟練者にとって作業負荷の大きいタスクが複合的に発生していたことが確認された.
  • 渡邊 紀文, 森 文彦, 大森 隆司
    2016 年 28 巻 3 号 p. 608-616
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    人間の歩行は,視覚,平衡感覚,体性感覚など多様な入力からの感覚運動経路を通って制御されている.しかし現時点ではその感覚運動経路についての詳細は明らかではない.そこで,本研究では,足元に振動刺激を与えることにより体性感覚を減衰させ,更に周辺視野にオプティカルフローを提示することにより視覚優位の自己運動感覚を発生させて歩行に影響を与える可能性を評価した.具体的には周辺視野に対して進行方向にオプティカルフローを呈示している状態から,フローを左右に変化させることで左右方向の自己運動感覚を与える.その際,体性感覚の自己運動感が振動により減衰していることで,自己運動感覚と逆方向に歩行することを確認した.本研究ではこの実験結果を基に,歩行における視覚と体性感覚の統合機構について検討した.
  • 星野 孝総, 岡 坂翔, 三谷 慶太
    2016 年 28 巻 3 号 p. 617-626
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    脳で考えただけで機器を操作させるインタフェース技術の開発が多数行われている.脳波ではなく酸素の変化量を使った計測手法を用いたNIRS-based BCIは非侵襲で安全であると言われている.しかし,BOLD信号を安定的に捉えることが難しいという側面もある.我々は,これまで手運動時のfNIRS 装置からのBOLD信号から左手・右手の運動の開始と終了の推定をする識別器の開発を行ってきた.実用化に向けた検討の中で,識別器にはSVMを用いることは最も良いとされている.また,被験者固有のパラメータを高速に導出し,使用者負担の少ないキャリブレーションシステムの開発を目指し研究を進めてきた.そこでは,識別器の汎化能力を維持しながら,コンパクトかつ高速に最適化しなければならない.そこで,最適化手法の一つである差分進化法を用いた探索手法を提案し,タッピング運動課題時のBOLD信号のデータを用いた実験を行った.実験結果から従来提案されている格子点探索方法よりも速く,かつコンパクトなSVMの最適化パラメータを見つけることが可能であることを示す.
  • 大保 武慶, 久保田 直行
    2016 年 28 巻 3 号 p. 627-638
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    本研究では,距離画像センサを用いたジェスチャ認識を対象として,構造化学習に基づく進化型ファジィニューラルネットワークを提案する.構造化学習では,学習構造を様々な機能をもった学習モジュールから構成し,それぞれの学習モジュールが相互依存的に状態推定の評価や学習をおこないながら,汎化性を維持しつつ,各学習モジュールの状態に合わせた学習構造の最適化がおこなわれる.本提案手法では,ファジィメンバーシップ関数を用いた特徴抽出,ニューラルネットワークを用いた識別器から構成される学習システムを用いる.さらに,前処理,特徴抽出に基づき単に入出力関係を学習するのではなく,学習により出力される推定結果から,進化計算を適用することで,適応的に前処理や特徴抽出におけるパラメタ調整が可能な構造化手法を扱う.
  • 山ノ井 髙洋, 豊島 恒, 山﨑 敏正, 大西 真一, 菅野 道夫
    2016 年 28 巻 3 号 p. 639-646
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    著者らは,クラブのトランプAからKまでの13枚の画像をCRT上で被験者に提示し,認知時またそれを想起した際のEEG計測を行なった.著者らが従来から試みている正準判別分析法をこれらのシングルトライアルEEGに適用した.従来から判別に用いている右中前頭回に対応する国際10-20法に対応するEEG計測位置であるFp2とF4,C4,F8の4チャネルからのEEG出力を判別に用いた.サンプリング区間は潜時400msから900msを25ms間隔でサンプリングし,84次元のベクトルデータを構成した.さらに,データを3倍とするサンプリング方法も検討した.ジャックナイフ統計を用いた正準判別分析の結果9人の被験者の判別率は90パーセントを越えた.これにより.トランプカードの推定マジックがトリックなしで90%以上の確率で行えた.
  • 伊東 嗣功, 山ノ井 髙洋, 本多 慶大, 工藤 卓
    2016 年 28 巻 3 号 p. 647-654
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    我々は,ウェアラブル脳波遠隔計測システムAir Brainを開発してきた.本システムの最大の特徴は,いつでも・どこでも・誰でも,安価かつ容易に脳波と人間行動の遠隔計測が可能になる点である.本研究では,開発したAirBrainを用いて,記号を黙読したときの事象関連電位を判別するBCIを検討した.スマートフォンのモニターに表示した記号を黙読したとき,矢印の方向に依存したERP極性が右前頭葉付近で観察された.記号提示後,400msから700msあたりで,上矢印の記号を提示した場合に正の極性を持つ事象関連電位が,下矢印の記号提示した場合に負の極性を持つ事象関連電位が発現した.提示された記号を黙読した場合,記号の方向の判別率は9割に達した.この結果は,従来の知見と一致し,ウェアラブル脳波遠隔計測システムAir Brainを用いたBCIの実現可能性が示唆された.
  • 箕嶋 渉, 妙中 徹平, 伊東 嗣功, 工藤 卓
    2016 年 28 巻 3 号 p. 655-665
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    脳高次機能の解明には,神経回路網における電気活動の時空間パターンを解析することが重要である.その際にノイズが混在したデジタル化電位信号データから正確に活動電位スパイクを検出する必要がある.また,ブレイン-マシンインタフェースへの応用を考えると,スパイク検出と神経信号の計測・保存とを同時に実行することが望ましい.本研究では,自発性の活動電位の頻度とノイズ信号が変動する状況にあっても,スパイク検出の閾値を適切に設定し,閾値ベースで神経信号を検出するシンプルなアルゴリズムを開発した.従来の手法ではスパイク検出数は正解の91.8%と若干低めに検出される傾向にあったものが,本研究手法では96.4%に向上し,取りこぼされた活動電位スパイクが減少した.また,神経信号で電子機器を制御する目的を想定し,複数電極から電位信号を記録すると同時にスパイク検出を行うプログラムを開発した.
  • 大機 悠斗, 伊東 嗣功, 箕嶋 渉, 工藤 卓
    2016 年 28 巻 3 号 p. 666-674
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    脳型の情報処理システムの実現のためには,脳神経回路網のダイナミクスを理解することが重要である.ラット海馬分散培養系においても観察される自発性神経活動は,細胞間の相互作用によって生成され,動的で複雑な時空間パターンを持つ.従って,一時的な活動阻害のあと再開した電気活動パターンの再現性は必ずしも保証されないと考えられる.そこで,分散培養神経回路網の自発活動を細胞外電位多点計測システムにより計測し,薬剤により神経活動を一時的に阻害して阻害前後で活動パターンを比較した.その結果,自発性神経電気活動頻度は増大し,活動パターンはバースト化・間歇化した後,徐々に初期の状態に復帰した.これらの結果から,一過性の活動阻害によって平衡状態が破られ,系の内部状態が変化することが確認された.神経活動から情報をデコードする際には,神経回路網電気活動の動的性質を充分考慮する必要があることが示唆された.
  • 林 勲, 満元 弘毅, 清時 愛, 工藤 卓
    2016 年 28 巻 3 号 p. 675-684
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    近年,Brain Machine Interface(BMI)や生体信号による外部機器の制御など,脳や生体を活用する基礎研究が活発に行われている.BMIでは,脳の可塑性や機能分散の構造特性を活かし外部機器を効率よく制御する.生体の神経回路網に関する研究では,培養神経回路網が可塑性によって発火スパイクを規則的に保持できることを示す.また,最近では,神経回路網における神経細胞間の時空間特性を解析し,脳内信号の同時発火性から初期視覚機能や初期聴覚機能を解明する研究が盛んに行われている.神経回路網での信号の流れを神経細胞間の発火スパイクの単なる連鎖と捉えるのではなく,その一連の連鎖の流れの方位性や連動性に注目して,種々の初期知覚現象が空間特性と時間特性によって表象されると考える.本論文では,培養神経回路網における神経細胞の発火スパイクの論理性と方位性,結合性の構造特性を議論し,その時間特性を議論する.ラット培養神経回路網における発火スパイクは64個の電極を備えた多電極計測装置(MED)により計測される.この分散培養皿に装備されている64個の電極から任意の3電極を選択し,t-norm演算子とt-conorm演算子からなるファジィ演算子を用いて,発火スパイクの論理性と方位性を推定する解析法を提案した.また,ファジィ包含度によって発火スパイクの伝播効率を定義し,電極間の結合性を議論した.さらに,伝搬,拡散,吸収の3種類の伝播パターンの方位性を用いて,発火スパイクの論理性と結合性の関係について議論した.ここでは,これらの議論から,ファジィ演算子が培養神経回路網の発火スパイクの論理性と方位性,結合性の解析に有用であることを示す.
一般論文
ショートノート
  • 増子 由起, 齊藤 史哲, 石津 昌平
    2016 年 28 巻 3 号 p. 685-691
    発行日: 2016/06/15
    公開日: 2016/07/12
    ジャーナル フリー
    オノマトペは感覚的な表現であるがゆえに,これらに関する情報は多次元データとして扱われることが多い.こうした中で,これらを低次元空間へマッピングすることによる可視化を通じた分析が近年盛んに行われている.本研究では,データの可視化において広く用いられている自己組織化マップを用いてオノマトペを含む文書データを分析する.さらに,感情極性値の情報を定量化し,印象に関する曖昧さを2次元マップ上に付与する.Twitter上の言語資源を対象とした可視化分析を通じて提案する分析方法の動作を確認した.この結果より,単純に低次元マッピングしただけでは解釈しにくい印象に関するオノマトペの性質を可視化することができた.提案する分析方法は感覚的な表現であるオノマトペの性質の理解を支援するツールとして有用であると考える.
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