知能と情報
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28 巻, 4 号
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目次
巻頭言
解説
報告
用語解説
  • 高間 康史
    原稿種別: 用語解説
    2016 年 28 巻 4 号 p. 115
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル フリー

    コミュニティセントリックシステムとは,コミュニティを中心とした視点からシステムを構築することで,高齢者のQOL(quality of life)や防災,防犯,観光など,現代社会が抱える諸問題の解決に取り組むアプローチを指す.社会学において,コミュニティとは地域性と共同性により構成されている社会として定義される.すなわち,ある特定の地域において,情報や価値観,利害などを共有する集団がコミュニティとされる.近年では,地域性の解釈を拡張し,Web などのサイバー空間において共同性を満たす集団をコミュニティとみなすことも一般的である.このようなコミュニティにおける目標の達成と,構成要員それぞれにおける目標の達成は密接に関係している.しかし,個人の目標達成をボトムアップに積み上げるだけではコミュニティの目標達成に至らず,却って個人の目標達成を阻害する要因にもなりうる.個人にとって省エネの効果は見えづらく,自由に電力を消費した結果,最終的には電力不足や電力料金の高騰などの問題となって個人に不利益な状況をもたらす状況などが一例である.このように,コミュニティの視点から問題の本質をとらえ,個人に適切な支援・サービスを提供することで解決を図るべき問題が多く存在する.

    コミュニティセントリックシステムが対象とすべき課題は,上述の省エネ問題の他,災害時に備えた日常時における地域コミュニティの形成や災害時の避難誘導,被災地での共起・共助関係の構築,独居高齢者のQOL や認知症徘徊者の見守り,観光回遊行動の把握・誘導や観光地発掘など多岐に渡る.主要な要素技術としては,ソーシャルメディアによる情報共有や集積されたビッグデータの解析,ユーザ支援のためのロボティクスや情報推薦などの知能情報技術などが挙げられるが,学際的な研究分野であるため,異なる研究領域に属する研究者の協調により進めていくことが期待される.

  • 松本 義之
    原稿種別: 用語解説
    2016 年 28 巻 4 号 p. 115
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル フリー

    コンピュータプログラムが市場動向に対応し,自動的に証券売買や為替取引のための注文を繰り返し行い,金融商品の取り引きを行うことをアルゴリズム取引という.このアルゴリズム取引は,1990年代以降にアメリカの金融取引市場から始まり,日本の金融取引市場でも普及してきている.

    アルゴリズム取引では,コンピュータプログラムが自動的に売買を行うため,1秒間に数千回の頻度で売買を行う超高速取引(High frequency trading : HFT)が可能である.2010年5月にアメリカ・ニューヨーク市場のダウ平均株価が数分間に約1,000ドル下落した後,すぐに元の水準までもどる「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる現象が起きた.この現象は,アルゴリズム取引が原因の一部であると考えられている.また,東京証券取引所の株式売買システムである「arrowhead」は,売買注文の応答を0.5ms 未満で行うことができるが,その取り引きの6割以上はコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引であるとされている.こういったコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引が市場の不安定要因になっているとの指摘もあり,欧米や日本では規制を行う動きも出ている.

    アルゴリズム取引には人工知能技術も応用されている.証券取引を行うトレーダーの知識を人工知能に学習させ,人間の代わりに証券取引を行うことが可能となっている.これまでは,トレーダーが市場動向を調査し,その分析結果に基づいて証券投資を行ってきた.人工知能技術による取り引きでは,これらの市場分析をコンピュータプログラムが行い,自ら判断して投資を行う.超高速取引のような短期間の売買だけではなく,長期間に渡る資金運用についても人工知能を応用したコンピュータプログラムによるアルゴリズム取引が利用されつつある.

会告
特集:「FSS2015 ショートノート」
特集:「第20回曖昧な気持ちに挑むワークショップ選抜論文」
論文概要
学会から
編集後記
特集論文: FSS2015 ショートノート
ショートノート
  • 高丸 圭一, 内田 ゆず, 乙武 北斗, 木村 泰知
    2016 年 28 巻 4 号 p. 693-699
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    本研究では複数の語義をもつオノマトペの語義分類に寄与する係り先動詞について検討した.語義分類済みコーパス「会議録2010」において単一語義で一定頻度出現した「オノマトペ-係り先動詞」の組について,同一ジャンルのコーパス(会議録2008-09)および,多様なジャンルの文を含むコーパス(BCCWJ)における用例の抽出と語義の分析を行った.「会議録2008-09」の正例率(「会議録2010」の語義と一致する用例の割合)は99.4%と高く,同一ジャンルの文書では,係り先動詞はオノマトペの語義決定に寄与するといえる.「BCCWJ」の正例率は78.0%であった.負例の主な要因は係り受け解析誤り,表記の揺れ,複数語義の包含であり,文書のジャンルが語義に与える影響は小さいことが明らかになった.ただし,各オノマトペに対する係り先動詞の出現傾向には文書のジャンルに起因した偏りがあることが示唆された.
  • ジメネス フェリックス, 吉川 大弘, 古橋 武, 加納 政芳
    2016 年 28 巻 4 号 p. 700-704
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    近年,学習を支援する場面で活躍する教育支援ロボットが注目されている.このようなロボットの問題点として,学習者がロボットの行動を画一的と感じてしまい,ロボットとの相互作用に飽きてしまう点が挙げられる.一方で,この問題点を防ぐために,Human-Agent-Interactionの分野では,エージェントが感情を持つかのように表情を表出する感情表出モデルが用いられている.ランダムに感情表出するエージェントに比べて,感情表出モデルを持つエージェントは,人との相互作用が続くという報告がある.しかし,人との共同学習において,感情表出モデルを用いたロボットがどのような影響をもたらすかについては,報告されていない.そこで本論文では,感情表出モデルを基に表情の表出を行うロボットが,学習者と共に学習することによって及ぼす学習効果について検討する.
  • 鈴木 工基, 加納 政芳
    2016 年 28 巻 4 号 p. 705-710
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    近年,想像力やコミュニケーション能力を向上させる表現教育が注目されている.現在の教育機関での教育は一対多の形式のため,学習者個々に対する教育が十分に行われているとは言い難い.特に表現教育においては,学習者個々の持つ能力の幅が広いため,学習者一人ひとりに寄り添う授業形態が望まれる.そこで,一対一の状況下において表現教育を支援するロボットを提案する.本稿では,学習者にヒントを与える手法をロボットに実装し,その有効性を検証する.
  • 古川 まき, 森 敏彦, 鈴木 泰博
    2016 年 28 巻 4 号 p. 711-715
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    蜜蜂の採蜜行動から発想を得た最適化アルゴリズムBee Colony Optimization(BCO)に蜜源の評価基準の調整機能を組込むことにより,解の多様性の維持を試みた.従来のBCOと比較して,少数の劣解を保持しつつ優良解を改善することで,解の探索性能の向上が見られた.
  • 辻本 拓也, 高橋 泰岳, 竹内 昇平, 前田 陽一郎
    2016 年 28 巻 4 号 p. 716-722
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    近年,ペットロボットやサービスロボットといった,様々な場所で人とコミュニケーションをし,人を支援することを目的としたロボットが増加している.それに伴い,ヒトと円滑な意思疎通を図ることができるロボット技術が求められている.そこで筆者らは,人とロボットが情動を伴う行動を基に双方向コミュニケーションを図る「インタラクティブ情動コミュニケーション」(Interactive Emotion Communication : IEC)を提案してきた.IECは「情動認識」,「情動生成」,「情動表現」の3つのプロセスから構成されており,人とロボットが相互にインタラクティブな情動を伴う行動をコミュニケーションをすることによって,ロボットの対人親和性を高めることを目的とする.筆者らの以前の研究では,特に「情動認識」のプロセスに重点を置き,人間の身体動作特徴量をラバン理論を基に解析し,ファジィ推論によって基本心理尺度値を求め,ラッセルの円環モデルに適用することで情動を推論する「ファジィ情動推論システム」を提案してきた.しかし,「情動推論」のファジィルールや「情動表現」のプロセスは設計者の直感に基づいて設計し,また,これらは別々に構築してきた.そこで,本研究では通常のRNN(Recurrent Neural Network)にラッセルの円環モデルを導入し,「情動認識」と「情動表現」を同時に学習するモデルであるRNNRCM(Recurrent Neural Network with Russell's Circumplex Model)を提案する.これをIECのプロセスの「情動認識」,「情動表現」の部分に組み込むことで,ヒトの動作観察からの情動推論とロボットの情動表現を双方向に学習できる.実際にRNNRCMを用いた情動動作の学習・認識・生成実験を行い,本手法の有効性を確認する.
特集論文: 第20回曖昧な気持ちに挑むワークショップ選抜論文
原著論文
  • 分析手法の提案
    高萩 栄一郎, 李 彦雯, 小田 哲久
    2016 年 28 巻 4 号 p. 723-733
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    ファジィ多項目並列評定法(FCR 法)は,ファジィ理論を応用した評定尺度法で,伝統的な評定法より被験者の態度をより自然に測定するために導入された.本論文で,集合関数表現を利用することにより,FCR法の評定値から統合値や被験者の意見の強さなどを得る基本的な手法を示す.集合関数は,「肯定」,「否定」,「肯定でありかつ否定」,「どちらとも言えない」の4つの集合への値を表す.統合値は,その集合関数のシャプレイ値とする.さらに,対立的なFCR法の設問を分析する方法を示し,それらを主要因と副要因に分けて分析する方法を示す.
  • 柴尾 一成, 本田 あおい, 大木 真
    2016 年 28 巻 4 号 p. 734-743
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    本論文では,クイックソートの概念を利用して効率的に順序関係を調べる新しい相対評価法を提案する.人の主観的な疼痛を客観的な数値として表すことができれば,人の感じている痛みについて他者と共有することができ,医師(医療従事者)と患者との問診を支援することが可能になる.主観的な疼痛を客観的な数値で評価するためには,多くの年代や地域の方,さらには非健常者や妊婦,高齢者の方まで幅広くアンケート評価を行う必要がある.しかし,現状の評価法では,1人当たりにかかる検査時間(1~3時間)が長すぎるため,多くのデータを得ることが難しい.さらに,非健常者や妊婦,高齢者の方に対しては,身体的・精神的な理由から負担の大きい調査の実施が困難である.
    本論文で提案する整列比較法は,一対比較法の判断の容易さを残したまま,問題点である比較回数と検査時間を大幅に改善できる.また,比較を行う実験刺激の個数に関係なく各実験刺激を定量化する数値化手法についても記述する.これにより,比較を行う実験刺激の個数を調整することが可能となり,より被験者の負担を減らすことができる.
一般論文
原著論文
  • 本庄 将也, 飯塚 博幸, 山本 雅人, 古川 正志
    2016 年 28 巻 4 号 p. 744-755
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    近年注目されている実数値最適化手法の一つに粒子群最適化(Particle Swarm Optimization, PSO)がある.PSOは群知能の一種であり,複数の探索単位(粒子)が互いに情報共有を行いながら解の探索を行う.多点探索を行うメタヒューリスティクスとしては遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)が有名であるが,多くの実数値最適化問題においてPSOのほうがGAに比べて高速に良い解を発見できることが知られている.本研究では,組合せ最適化問題の一種である巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem, TSP)に対して短時間で良い解を得ることを目的として,PSOを基にしたアルゴリズムである挿入操作PSO戦略を提案する.提案手法では,粒子の解候補は実数値ベクトルではなく巡回路として表現され,粒子間の相互作用は部分経路挿入によって行われる.本論文では,挿入操作PSO戦略について説明し,数値計算実験からパラメータと得られる解の良さと必要な時間の関係について調査し,パラメータ調整の指針を示す.また,各ベンチマーク問題に対して提案手法とGAなどの代表的なメタヒューリスティクスを適用し,提案手法がこれらの手法より短時間で良い解を求められることを示す.
  • 矢野 均, 西崎 一郎
    2016 年 28 巻 4 号 p. 756-763
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    本論文では,複数のファジィ利得行列を持つ多目的2人ゼロ和ゲームに対するファジィアプローチを提案する.各プレイヤーが,2人のプレイヤーの混合戦略に対応するファジィ期待利得に対してファジィ目標を持つものと仮定する.ファジィ期待利得に対する可能性測度の概念を導入することにより各プレイヤーのファジィ目標の達成度を定義する.各プレイヤーがファジィ目標の達成度に対してミニマックス戦略をとる場合に対して,各プレイヤーの悲観的パレート最適解を定義する.各プレイヤーの悲観的パレート最適解集合の中から悲観的妥協解を導出するための,線形計画法に基づく対話型アルゴリズムを提案する.
  • 吉川 大弘, 河合 康平, 高倉 健太郎, 古橋 武
    2016 年 28 巻 4 号 p. 764-773
    発行日: 2016/08/15
    公開日: 2016/09/28
    ジャーナル フリー
    P300speller は,脳波から得られる事象関連電位の一種であるP300を特徴量に用い,ユーザの思考を読み取って文字入力を行うことができるBrain Computer Interface(BCI)の一つである.一般にP300 spellerにおいては,文字入力のON/OFF はユーザ以外の者が行うため,ユーザが文字入力を行いたい任意のタイミングで文字入力を行うことや,途中で休憩したい場合に文字入力を一旦止めることなど,システム非同期のコントロールはできない.そのため,介助者の助けを得なくても,ユーザの入力意思の有無によって,任意のタイミングで文字入力のON/OFF を自動で切り替えることが可能な,非同期の文字入力システムが求められている.このようなシステムとして,いくつかの先行研究が報告されている.しかし,これらのシステムの多くが,通常の事前学習に加えて,文字入力を行っていない状態の脳波の事前学習を必要としている.入力意思なし状態の判別精度を向上させるためには,様々な入力意思なしの状態を学習しておく必要がある.そこで本論文では,文字入力時の脳波を用いた通常の事前学習のみで,ユーザの入力意思の有無を判別する手法を提案する.判別性能評価実験の結果,入力意思なしの脳波を学習しない提案手法においても,先行研究と同等,もしくはそれ以上の文字入力性能と,低い誤判別率が得られることが確認できた.
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