日本口腔インプラント学会誌
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32 巻, 4 号
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総説
  • 馬場 俊輔, 戸田 伊紀
    原稿種別: 総説
    2019 年 32 巻 4 号 p. 265-274
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    行政からの倫理にかかわる法律や指針が,毎年のように発出されてきている.2007年改正の「疫学研究に関する倫理指針」と,2008年改正の「臨床研究に関する倫理指針」を母体に,これらの指針を統合した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」,いわゆる医学系研究指針が2015年より施行されてきた.その後,さらに個人情報保護法の全面施行によりこの医学系研究指針も改正され,2017年5月30日に施行されるにいたっている.当然,法令遵守は避けては通れない道であるから,この事実を悲観して研究から遠ざかることのないようにしなければならない.そのためには規制が強化された背景を理解し,何が求められ,何をしなければいけないのかを把握しておくことはたいへん重要である.目まぐるしく改正される指針に対応するために,また本学会員に対して周知徹底するために,学術大会において「医学系研究に関する倫理セミナー」を開催してきた.本稿では,本学会員から倫理申請にあたって,いまだに不明点があるというご意見を背景に,医療倫理の本質を解説するとともに,倫理審査が必要な学会発表の内容を理解していただくために,最新の倫理関連法令の改定内容と本学会における研究倫理の申請方法について解説する.

特集 審美領域のインプラント治療の長期予後
  • 夏堀 礼二, 加藤 仁夫
    原稿種別: 特集 審美領域のインプラント治療の長期予後
    2019 年 32 巻 4 号 p. 275
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー
  • 日高 豊彦, 日高 亨彦, 中村 有伽, 清水 英城
    原稿種別: 特集 審美領域のインプラント治療の長期予後
    2019 年 32 巻 4 号 p. 276-284
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    審美領域においてインプラント治療が患者の満足を得られるためには,歯冠修復と同様に辺縁歯肉と歯間乳頭の位置,およびその長期的安定が求められる.これらを確立するためにはインプラント埋入部位に必要な骨(硬組織)と軟組織を確保することが重要である.生体には固有差があるが,一般的にはインプラントとアバットメントが同径の場合インプラントの頰舌(唇口蓋)側2mm以上,プラットフォーム・スイッチングの場合1.5mm以上の骨を確保し,どちらのデザインのものでもインプラントと天然歯間に1.5mm以上,インプラントとインプラント間に3mm以上の骨を確保すべきであろう.インプラント周囲の軟組織の高さは4mm程度必要と思われるため,インプラント埋入の深さはインプラントとアバットメントが同径の場合辺縁歯肉より3mm程度根尖側方向,プラットフォーム・スイッチングの場合4mm程度根尖側方向に埋入すべきではないかと多くの文献から示唆される.頰舌(唇口蓋)的軟組織の厚みは2mm程度必要だと思われる.上部構造の形態は頰舌(唇口蓋)軟組織の厚みを確保するため,歯肉縁下で凹状に,隣接形態は歯の修復と同様にハーフ・ポンティック・テクニックが応用できる.組織が不足する場合はその造成を行わなければならないが,審美性の長期予後を考えると骨の造成には遅延吸収性または,非吸収性の骨補塡材を用い,軟組織に関しては自家移植による造成が長く維持される.

  • 石川 知弘, 小川 雄大, 北島 一, 福西 一浩
    原稿種別: 特集 審美領域のインプラント治療の長期予後
    2019 年 32 巻 4 号 p. 285-294
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    近年,インプラントの成功基準に術者と患者が審美的に満足することが条件として加えられていることは,広く知られている.しかし前歯部において周囲組織を伴い多数歯を欠損した場合,インプラント治療によって審美性を獲得することは容易ではない.本稿では前歯部インプラントを長期的かつ審美的に成功させるための要件について検討する.

    審美エリアのインプラント治療に際し,術前に十分な相談をして実現可能な治療目標について,術者と患者との共通の認識をもつことが重要となる.

    患者がハイスマイルを有し,補綴装置と残存軟組織との境界が露出し外科的な再建が必要な場合,術者はサージカルテンプレートにて必要な硬・軟組織のマネージメントおよびそれを獲得するための処置を把握することが重要である.

    患者がロウスマイルである場合は補綴的に改善できるとされており,90%以上において歯間乳頭の一部が露出することが報告されている.またわずかでも露出する歯間乳頭は歯冠形態の表現に重要で自然なスマイルを実現するために大きな役割を果たすという報告もある.

    組織保存の有効な方法としてpartial extraction therapyがあり,組織を失った際の増大の有効な方法としてはGBRが挙げられ,三次元的な審美性の獲得を可能にする.

    良好な軟組織のマネージメントには,再生骨の維持や十分な軟組織のボリュームの獲得,軟組織に調和した補綴が必須であり,それはメインテナンス期間の問題の解決策にもなり得る.

  • 千葉 豊和
    原稿種別: 特集 審美領域のインプラント治療の長期予後
    2019 年 32 巻 4 号 p. 295-303
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    前歯部審美領域インプラント治療で良好な結果を得るためには,術前の顔貌,スマイルラインの位置の検査,欠損歯槽堤もしくは抜歯想定部位の硬,軟組織の診察・診断から始まり,患者のバイオタイプ,抜歯のタイミング,埋入角度,深度を含めた三次元的に適切なインプラントポジションへの埋入計画,それに伴うインプラント周囲硬,軟組織の再構築を含めたボリュームが十分に確保された環境作りができているかなどの外科的考慮が重要な要素となる.加えて現在,インプラント埋入計画から実際の埋入までのプロトコールにおいてさまざまなデジタル機器の目覚ましい進歩がみられ,三次元的な診察・検査から治療計画の立案,それに伴う埋入ポジションの決定,更には診断で確定したインプラントポジションを術中に具現化させるガイドの製作,埋入を行うまでのいわゆるガイデッドサージェリーがデジタルテクノロジーによってより正確性を増し臨床応用されている.特に口腔内スキャナーの発展により,口腔内スキャンデータとCBCTデータのデジタルデータを活用して外科術式をデジタルガイデッドサージェリーで行う手法は日々進歩しており,今日のインプラント治療における有効な手段となっている.

特集 インプラント治療におけるCT活用の効果と今後の展望を多角的に考える
  • 金田 隆, 阪本 貴司
    原稿種別: 特集 インプラント治療におけるCT活用の効果と今後の展望を多角的に考える
    2019 年 32 巻 4 号 p. 304
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー
  • 新井 嘉則
    原稿種別: 特集 インプラント治療におけるCT活用の効果と今後の展望を多角的に考える
    2019 年 32 巻 4 号 p. 305-312
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    1990年代後半に歯科用CTは開発され,三次元画像診断を可能にした.現在では歯科用インプラントをはじめ,歯科医療には欠かせない画像診断装置となっている.また,多種多様な機種が開発され,さまざまな大きさのFOVやVoxel Sizeを選択することが可能となった.しかしながら,被曝線量は口内法エックス線撮影やパノラマエックス線撮影に比較して10倍程度の被曝があることからその適応には留意が必要である.ALARAの原則にしたがい,できるだけ低い被曝線量で診断目的を達成するための効率的な画像診断を実施する必要がある.本稿ではそれらの留意点と最新の撮影装置の動向を紹介する.

  • 木村 正, 小室 暁, 岸本 博人, 阪本 貴司
    原稿種別: 特集 インプラント治療におけるCT活用の効果と今後の展望を多角的に考える
    2019 年 32 巻 4 号 p. 313-323
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    デンタルエックス線写真,パノラマエックス線写真,CTのデジタル画像では,デジタル特有のアーチファクトで骨吸収様像を呈することがあり,インテグレーションの評価は困難である.

    また,三次元的な構造を把握でき,精度が高いと考えられているCBCT画像は規格撮影ではなく,すべてのエックス線の入射方向でインプラントの寸法は収縮して撮影される.同様に複数のインプラント間の距離も収縮し,インプラントの位置関係は変位する.結果として,精度と再現性に問題があり,デジタルデンティストリー(デジタルマッチング,CAD-CAM,シミュレーション)に影響する.また,距離測定や経時的なインプラント周囲骨の変化,インテグレーションの評価は十分な注意を要する.一方,寸法収縮を補正することで,インプラント治療が非適応と診断された症例でも適応できる可能性がある.デジタル画像で生じる寸法の収縮や骨吸収様像を理解し,収縮補正を考慮した診査診断を示し,インプラント治療におけるCT画像の臨床的問題点を議論する.

原著(臨床研究)
  • 五十嵐 三彦, 水口 稔之, 助川 洋, 玉木 大之, 村上 洋, 齋藤 真規, 加藤 仁夫, 岡田 裕之
    原稿種別: 原著(臨床研究)
    2019 年 32 巻 4 号 p. 324-331
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    目的:下顎臼歯部単独植立したケースにおける,スクリュー固定法(以下スクリュー固定)およびセメント固定法(以下セメント固定)の経過を臨床的に比較検討することにより,より安定的なインプラント補綴を目指すことである.

    対象および方法:筆頭著者の医院にて治療を完了した患者55名に対して下顎臼歯71部位を対象とした.単独植立インプラント全体の経過について,インプラント周囲粘膜炎,インプラント周囲炎,その他合併症の罹患に関してそれぞれの固定法の対比を調査し,それぞれの経過について考察した.

    結果:単独植立インプラントは安定的な経過をたどった(残存率は98.6%であった).また,インプラント周囲粘膜炎の罹患に関しては,スクリュー固定においては埋入したインプラントが29本に対して5本で罹患率が17.2%であり,セメント固定は埋入したインプラントが42本に対して13本であり罹患率は31.0%であった.インプラント周囲炎については,スクリュー固定は埋入した29本に対して1本と罹患率が3.4%であった.セメント固定は埋入した42本に対して3本と罹患率が7.1%であった.そして,すべての調査項目においてスクリュー固定とセメント固定の間に統計学的有意差は示せなかった.

    考察および結論:固定法の違いでインプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎の有病率に統計的有意差は示さなかった.双方の利点,欠点を考慮し選択することが重要である.

原著(基礎研究)
  • 村上 高宏, 田中 譲治, 菅野 岳志, 笹谷 和伸, 水口 稔之, 岩野 義弘, 三輪 武人
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2019 年 32 巻 4 号 p. 332-338
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    ポリエーテルケトンケトン(略号PEKK)は高い生体親和性を示すことから,インプラント治療への応用に期待されている.しかし,PEKKとレジンセメントを化学的に接着させることは困難であることが知られている.そこで,本研究では簡便な表面処理法であるロカテック処理およびサンドブラスト処理を用いて,各種接着システムの種類がPEKKとレジンセメントの接着強さに及ぼす影響を検討した.

    各種接着システムはSuperbond/V primer(SB/VP),Superbond/PZ primer(SB/PZP),Panavia V5/Clearfil Ceramic Primer Plus(PV5/CP),グラスアイオノマーセメント(GI)を使用した.セメントおよびプライマーをメーカー指示どおりに用い,PEKK接着試験体を製作し,せん断接着強さを測定した.また,走査型電子顕微鏡(SEM)による観察ならびに表面処理後のPEKK表面の表面粗さの測定も行った.

    その結果,PEKK表面にロカテック処理またはサンドブラスト処理すると,すべての接着システムにおいて接着強さの向上が認められた.しかし,ロカテック処理法はサンドブラスト処理法よりも有意に低い値を示し,多くの接着欠陥を認めた.サンドブラスト処理したPEKK表面にSB/PZPを用いると最大接着強さを示した.両処理面の表面粗さに有意差は認めなかった.

    以上より,PEKK表面にロカテック処理を施すと,形成されたシリカコーティング膜は剝離膜として作用したため,サンドブラスト処理した場合よりも低い接着強さを示したと考えた.また,各接着システム間においては異なる接着強さの値を示した.

  • 船登 彰芳, 小松 晋一, 堀田 久斗, 杉田 好彦, 和田 昭, 竹内 一夫, 久保 勝俊, 前田 初彦
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2019 年 32 巻 4 号 p. 339-345
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    目的:インプラント治療に広く用いられる純チタン表面の細胞親和性や組織親和性は経時的に低下するが,チタンへの紫外線(UV)処理はこれを改善することが知られている.糖尿病はインプラント治療のリスクファクターの一つであり,オッセオインテグレーションの獲得が困難とされる.そこで本研究では,2型糖尿病ラット(SDTラット)骨髄由来細胞を血糖値コントロールがされた状態を想定した低グルコース環境下にてチタン上で培養し,チタンへのUV処理の糖尿病患者に対するインプラント治療への有用性について検討した.

    方法:実験にはSDTラットの骨髄由来細胞を使用した.対照チタンディスク上で細胞を培養した群(対照群)とUV処理チタンディスク上で細胞を培養した群(UV群)に分け,接着細胞数,分化能および石灰化能を検索した.表面の酸処理後4週が経過したチタンディスクを対照群として用い,4週経過後に48時間のUV照射を行ったものをUV処理チタンディスクとした.

    結果:UV群では対照群よりも接着細胞数は少なかったが,ALP活性および石灰化能は高くなっていた.

    結論:SDTラットの骨髄由来細胞は低グルコース環境において,UV処理チタンディスク上では骨芽細胞様細胞への分化が促進されることが判明した.このことから,チタンへのUV処理はコントロールされた糖尿病患者へのインプラント治療の有用な方法の一つとなりうることが示唆された.

症例報告
  • 山本 勝己, 柳 束, 谷口 祐介, 佐藤 絢子, 藤﨑 誠一, 高橋 佳子, 石原 貴美恵, 佐藤 博信, 城戸 寛史
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 32 巻 4 号 p. 346-350
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    上顎の臼歯部欠損へのインプラント治療では,顎堤の吸収により上顎洞に対する骨造成術を必要とする場合が多い.ラテラルウィンドウテクニックによる上顎洞底挙上術は上顎洞前壁に骨窓を形成する必要があるが,骨窓の形成を安全に行うためには,上顎洞前壁に存在する血管に注意しなければならない.

    今回,われわれは本法の適用にあたり,骨窓の位置に血管の存在を認める症例に遭遇したので,症例の概要と手術内容を報告する.術前計画にあたって診断用ステントを作製し,インプラント埋入計画をシミュレーションソフトにて立案した.骨窓の位置を確認したところ,上顎洞前壁および上顎洞底に走行する血管を認めた.血管の位置を確認するために3Dプリンターで上顎骨の骨模型を作製し,模型上で骨窓の形成のシミュレーションを行った.術前計画に基づき上顎洞底挙上術を施行した.術中術後に異常出血などの合併症はみられず経過良好であった.最終上部構造の装着後2年経過時において,インプラント周囲骨に著しい骨吸収は認められず,プラークコントロールは良好であった.

    われわれは,ラテラルウィンドウテクニックによる上顎洞底挙上術において,骨窓の位置に血管の走行を伴う症例を経験した.術前計画においてCTデータによる画像診断と3Dプリンターで作製した骨模型で術前にシミュレーションを行うことによって,事前に血管の存在を発見し,位置を把握することで術中における血管の損傷を最小限にすることができた.

調査・統計・資料
  • 岡田 芙実子, 矢野 尚一, 林 秀樹, 加倉 加恵, 馬場 正英, 谷口 祐介, 大森 桂二, 松浦 正朗
    原稿種別: 調査・統計・資料
    2019 年 32 巻 4 号 p. 351-359
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/01/30
    ジャーナル フリー

    目的:歯科医師および歯科衛生士は口腔衛生の専門家であり,彼らの歯と歯周組織の状態は一般の人々よりも良好と思われる.そこでわれわれは“国民が歯科医師および歯科衛生士と同じセルフケアを行えば歯周病で歯を失うリスクは低くなる”との仮説を立て,歯科医師および歯科衛生士の歯と歯周組織の状態を調査した.

    材料および方法:福岡口腔インプラント研究会と関係があり口腔インプラント治療に携わっている130の歯科診療所に質問票を郵送し,歯科医師と歯科衛生士に研究への参加に同意を得て,全身的および歯科的既往歴,生活習慣,口腔内の状態,および口腔清掃法について質問票に記入してもらった.

    結果:質問票に回答した対象者は225名(43施設)であった.対象の平均年齢は38.9歳で,性別では男性が22.7%,女性は77.3%であった.1日当たりのブラッシングの平均回数は3.0回,平均現在歯数は27.3本,1人当たりのポケットの深さ4mm以上の部位の保有率は6.1%,プロービング時に出血を認めたポケットの保有率は12.1%,DMF歯数は8.9本であった.対象の総欠損歯数は179本で,そのうち66部位が補綴されていた(インプラント31,ブリッジ15,可撤性義歯1,不明19).

    考察および結論:対象の口腔内の状態は一般に良好であったが,対象は若年者が多かったことから,対象の将来の口腔内の状態を予想するのは困難と思われた.今後,高齢層の歯科医師および歯科衛生士のデータを収集するとともに,将来,8020運動を達成するためのセルフケアの方法を実現したいと考える.

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