垂直的に骨造成を行う際,Guided bone regeneration(GBR)法は最も汎用性の高い手法と考えられている.
垂直的に増大された骨は短期的にはボリュームの減少を認め,長期的には既存骨とおおむね同様の辺縁骨の吸収を示す.しかし,実際の臨床では獲得された新生骨の維持だけではなく,患者の口腔内で達成された機能と審美性が長期的に維持されることが重要である.
本稿ではGBR法施術後8年以上フォローアップした2症例と文献レビューを通して,垂直的骨造成の長期予後について解説する.
インプラント埋入にあたり骨量が十分に確保できない場合,骨造成は長期間にわたりインプラントを機能的,審美的に安定させるための必要不可欠な処置となる.実際,骨造成を施行した部位のインプラント残存率は,施行していない部位と比較しても有意差はない.
ただし,確実に骨造成を行うには,骨造成の術式に加えて,使用する骨移植材やバリアメンブレンなども多種多様なため,施術者の経験やスキルに基づいて選択されなくてはならない.
そこで,本稿では骨移植材の特徴を示すとともに,水平的骨造成法と垂直的骨造成法,およびそれに使用する材料の選択基準をエビデンスレベルで再考する.
クレスタルアプローチによるサイナスリフトが開発されてから,クレスタルアプローチとラテラルアプローチの臨床での使い分けが行われてきた.多くは既存骨の垂直的な幅を基準としていたが,筆者はより低侵襲な手術を行うために既存骨幅が少ない症例にもクレスタルアプローチを採用してきた.しかし,シュナイダー膜の上顎洞底骨への癒着などにより既存骨が3 mm以下の症例の成功率は低かった.そこで,既存骨が少ない場合はクレスタルにスリット状にウィンドウを形成してインスツルメントによるシュナイダー膜の剥離を行うことによって,高確率での成功を認めた.成功率が高くてもサイナスリフトの成功率が100%出ないのであれば,そのリカバリーの方法を充実させるべきである.今回,クレスタルアプローチにおいてシュナイダー膜のパーフォレーションなどのトラブルが起こった場合の4つのリカバリー方法を報告するとともに,シュナイダー膜のパーフォレーション後に起こりえる上顎洞炎に対する洗浄の方法を紹介する.
サイナスリフト部位のインプラント残存率は既存骨に埋入したインプラント残存率と同等であることが知られており,サイナスリフトは上顎臼歯部の骨増生を目的とした効果的な治療法として確立されている.一方,インプラント手術関連の医療トラブルのなかで,サイナスリフトに起因した上顎洞関連のトラブルが少なくない.その原因の一つとして,術者が手術の難易度を把握せず,かつ十分な診断能力と手技を習得しないまま安易に手術を行うことが考えられる.
サイナスリフト手術の予知性を高めるためには,術前検査,診断,治療計画を十分に行い,難易度を把握してその難易度に応じた手術手技が必要である.本稿では,CT画像分析によるサイナスリフト手術の難易度分類,ST分類(Sugai Toshiroの分類)を紹介するとともに,難易度分類を基にしてサイナスリフトの安全性と確実性を向上させるための手術手技に関して解説する.
緒言:多数歯欠損を有する顎変形症患者では,インプラント治療のみで適切な咬合回復は困難である.このような症例には矯正歯科,口腔外科および口腔インプラント専門医による集学的治療を実施する必要がある.また,大臼歯が欠損している場合は歯をアンカーとして使用できないため,歯科インプラントあるいは矯正用アンカースクリューによるアンカーを設置する必要がある.
治療の概要:49歳,女性.患者は顎変形症を有し,さらに上顎前歯,左側第一小臼歯および下顎右側大臼歯が欠損していた.矯正用アンカーとして使用する下顎右側第二大臼歯部に埋入するインプラント体の位置は,矯正用のセットアップ模型に診断用ワックスアップを行い,顎矯正治療後の位置を予測してインプラント体を埋入し,下顎の歯列矯正を行った.次いで上下顎同時移動術を行い,術後矯正後に第一大臼歯部にインプラント体を追加埋入し,上部構造を製作した.上顎は歯槽突起が菲薄で骨移植の必要があり,患者は経済的理由で上顎のインプラント治療を拒否したため,可撤性部分床義歯を装着した.
結果:2008年5月に治療が終了し,その後の顎位は安定し,2020年12月の時点で経過は良好であった.
結論:大臼歯部に埋入したインプラント体を術前矯正治療のアンカーとして使用する方法は,有用であると示唆された.
口腔インプラント埋入のための診断において自然孔形態を把握することは重要である.そこで,歯科用コーンビームCT(以下CBCT)による自然孔形態の観察のための撮影基準を乾燥頭蓋骨の頭部エックス線規格写真から設定することを試みた.
34側の矢状断乾燥頭蓋骨を用いた.自然孔周囲の篩骨の鈎状突起にボールベアリングでマーキングを行った後に側面頭部エックス線規格写真の撮影を行い,垂直的および水平的な鈎状突起の位置計測を行った.垂直的計測には,ナジオンを通りFH平面に平行な直線を設定して,口蓋平面との間の位置を計測した.水平的計測には鈎状突起からFH平面に垂線を下ろし,交点とオルビターレとポリオンの間の位置を計測した.
自然孔周囲に存在する鈎状突起の垂直的位置はナジオンを通るFH平面に平行な直線の下方20.8±2.5 mmに,水平的位置はオルビターレの後方11.2±2.4 mmの位置に存在していた.
自然孔の状態をCBCTで診断するために,鈎状突起の位置を用いることで適切な撮影領域を決定することが可能となる.