日本口腔インプラント学会誌
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特集 インプラント治療を行う際に必要な全身的知識
  • 小林 恒, 西郷 慶悦
    原稿種別: 特集 インプラント治療を行う際に必要な全身的知識
    2024 年 37 巻 4 号 p. 259
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    本特集は,2023年9月16日に札幌市において開催された第53回公益社団法人日本口腔インプラント学会学術大会シンポジウム5「インプラント治療を行う際に必要な全身的知識」において,3名のシンポジストによって講演された内容を総説論文としてまとめたものである.
    インプラント治療は外科的手技を伴う治療であり,単純な埋入から骨造成を必要とする症例,広範位に及ぶインプラント体埋入などは,抜歯と比較してはるかに患者への侵襲が大きいことも多い.医学の進歩により超高齢社会となった現在の日本ではインプラント治療を希望する患者も高齢化しており,さまざまな全身疾患に罹患していることが多い.インプラント治療は代替治療がある治療の性質上,安心安全が最も重要であるため,疾患の種類によっては慎重な対応が要求される.そのためにもインプラント担当医にとって全身疾患の病態と治療に対する最新情報を熟知しておくことは必須である.このような観点から,本シンポジウムは全身疾患に対する知識をブラッシュアップすることを目的に立案された.
    米永一理先生には,インプラント治療にあたって歯科医師として把握しておくべき全身疾患について詳細な解説をいただいた.栗田 浩先生には「抗血栓薬を内服している患者への対応」として,2020年版「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」を基に血栓・塞栓症の病態,抗血栓薬の特徴と止血の対応の重要性について解説をいただいた.岸本裕充(上田美帆)先生には「薬剤関連顎骨壊死ポジションペーパー2023」に関して,特にインプラント治療のために知っておきたい改訂のポイントと顎骨壊死発生のリスク因子としてのインプラント周囲炎の発症を抑制するためのメインテナンスの重要性について解説をいただいた.本来,美味しく食事をすることを目的にインプラント治療を受けている患者が,インプラント治療によって重大な障害を受けることは絶対に避けなくてはならない.本シンポジウムが会員の皆様の全身疾患の知識向上に役立ち,より多くの患者がインプラントの恩恵を得られることになれば幸いである.

  • 米永 一理, 板井 俊介, 星 和人
    原稿種別: 特集 インプラント治療を行う際に必要な全身的知識
    2024 年 37 巻 4 号 p. 260-268
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    口腔インプラント治療時により適切な対応ができるよう,次のような内容に関し全身疾患の知識を指針等に沿って解説する.
    1.2050年にはAntimicrobial Resistance(AMR)が最大の死因となりうるため,Silent Pandemic予防が重要である.
    2.超高齢者の最大の死因としてアミロイドーシスが予測され,初発症状としてニューロパチーの一つである手根管症候群に注意が必要である.
    3.喘息は中年以降の初発も多く,Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD)を併発したAsthma/COPD Overlap Syndrome(ACO)の患者が増えており,歯科治療はShort-acting β-agonists(SABA)の準備をしたうえで行う必要がある.
    4.慢性便秘症では,刺激性下剤をできるだけ控える.
    5.肥満症は動脈硬化性疾患の高リスクのため,内臓脂肪低減がより重要である.
    6.2型糖尿病では従来のガイドラインではなく,処方の際の考え方を示したアルゴリズムが公開され,画期的とされている.
    7.脂質異常症はVirtual Diseaseの一つであり,クリニカルイナーシャとならないようなリスク管理が必要である.
    8.歯周病と認知症だけでなく,腎不全と認知症の関係のように,各臓器と各疾患の関連が明らかとなってきている.
    口腔インプラント治療は,埋入のみならず,メインテナンスまで含めた治療である.よって,患者の全身状態を正しく把握しながら,最新の知見に沿って,生涯介入を継続していく必要がある.

  • 栗田 浩, 酒井 洋徳, 山田 慎一
    原稿種別: 特集 インプラント治療を行う際に必要な全身的知識
    2024 年 37 巻 4 号 p. 269-276
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    抗血栓療法(抗血小板薬・抗凝固薬)を受けている患者は多く,我々の歯科外来においても多く来院する.これらの患者の歯科インプラント治療においては,抗血栓療法および抗血栓薬に関する十分な理解と対応が重要である.本稿では血栓症,塞栓症,および抗血栓療法に関して概説するとともに,抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版を紹介した.このガイドラインでは,基本的に経口抗血栓薬を継続下に抜歯を行うこと,および確実な局所止血処置を行うことが提案されている.しかしながら,歯科インプラント手術に関して作成されたものではない.インプラント手術においては,条件の整った顎堤における数本の埋入手術や歯肉骨膜剥離の小さな手術などでは,普通抜歯と同様に確実な止血処置が行える条件で,抗血栓薬内服継続下での処置が可能であろう.一方,骨造成を伴う処置では広範な歯肉骨膜剥離を伴うことが多く外科侵襲は大きく,かつ広範囲に及ぶ.この場合では,圧迫止血の範囲,確実な圧迫力の確保,出血の遁路,周囲の蜂窩織の存在など問題が多く,注意深い確実な止血処置が肝要となる.これらの問題点に対する対応策の実施と,予期せぬ出血に対応できる医療機関との連携が必要であろう.

  • 上田 美帆, 岸本 裕充
    原稿種別: 特集 インプラント治療を行う際に必要な全身的知識
    2024 年 37 巻 4 号 p. 277-286
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    2023年7月に,我が国の薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw:MRONJ)に関するポジションペーパーが改訂された.前回のポジションペーパー(2016年)と比較し,MRONJのリスク因子として,抜歯やインプラント埋入のような手術侵襲よりも,根尖病変や歯周病,インプラント周囲炎などの感染が持続することがリスク因子として注意喚起された.また,我が国では骨粗鬆症治療薬によるMRONJ患者が依然として増加しており,医歯薬連携の重要性が強調されている.
    抜歯などの侵襲的処置の際の骨吸収抑制薬の休薬については,原則として予防的に休薬しないことが提案された.低用量の骨吸収抑制薬を使用している患者への歯科インプラント埋入手術については,他のMRONJリスク因子(糖尿病や自己免疫疾患,人工透析中患者など)を有していなければ,必ずしも禁忌ではない.しかし,将来的にインプラント周囲炎からMRONJを発症するリスクは十分にあるため,治療計画の立案時における配慮や,インプラント治療後のメインテナンスおよび患者教育がこれまで以上に重要であろう.

原著(基礎研究)
  • 利森 仁, 松岡 幸生, 仲西 健樹, 鈴木 一, 川原 大, 武内 章英
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2024 年 37 巻 4 号 p. 287-293
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/02/10
    ジャーナル フリー

    インプラント体の埋入トルクとインプラント安定度指数(以下ISQ)との関係を調べるために,ご遺体下顎骨の犬歯から臼歯部にかけてインプラント体を10,20,30,40,50Ncmで埋入し,頬舌側の骨壁を維持した状態(条件Full),頬側の骨壁を除去した状態(条件Hemi)および頬舌側の骨壁を除去した状態(条件Apex)でISQを計測した.条件Fullでは埋入トルクとISQは有意な相関を示したが(相関係数r=0.6509,p=0.0004),個々のご遺体別では有意な相関性を認めなかった(p>0.05).条件Hemiにおいても埋入トルクとISQは相関性を示し(r=0.5810,p=0.0023),同じく個々のご遺体では相関性は観察されなかった(p>0.05).条件Apexでは埋入トルクとISQの相関性は失われ(r=-0.00838,p=0.9683),個々のご遺体別でも相関は認められなかった.いずれの埋入トルクにおいてもISQは条件FullとHemiの間には有意差はなく(p>0.05),条件Apexは,すべての埋入トルクで条件FullおよびHemiよりも低い値を示した(p<0.05).頬舌側の骨の存在下でインプラント体が埋入されると,一般的な傾向として高トルクで埋入されたインプラント体は高いISQを示すが,個々の個体別には必ずしも当てはまらず,埋入後に頬側骨が失われても高トルクで埋入されたインプラント体ほどそのISQは高い傾向を示した.しかし,個体別には当てはまらず,頬舌側の骨が失われるまでISQは維持される傾向にあることがわかった.

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