保存的切除を目的に術前化学・放射線治療が64例の口腔癌, 一次症例に施行された。対象はT1: 2例, T2: 27例, T3: 22例, T4: 13例であった。Peplomycin, 5-fluorouracil, Cisdichlorodiamine-platinumらのうちの単剤, あるいは併用からなる化学療法と共に,
60Coによる外照射が同時に行われた。導入治療の臨床効果は, CR22例, PR (≧90%, 縮小率) 17例, pR' (≧50%) 22例, NR3例であった。切除物の組織学的検索より, GradeIV: 16例, Grade III: 4例, Grade II b: 33例, Grade II a: 4例, Grade I: 1例の結果が得られた。そして, 臨床効果と組織学的効果との間に相関がみられた。
各々の切除量は, 導入治療の臨床効果を考慮して決定され, 4段階に分類された。grade I (外科的処置なく経過観察, あるいは生検切除) , あるいはgrade II (舌の辺縁切除, 口底および頬粘膜の表層, あるいは限局した切除, 歯肉を含めた歯槽骨切除) は, それぞれ15例であった。grade III (周囲組織を含めた舌1/3までの切除, 口底に限局したpull-through手術, 皮膚が保存された頬粘膜の切除, そして下顎管までの下顎骨辺縁切除) の手術が22例に施行され, 根治拡大手術であるgrade IVは12例に施行された。このように大多数の腫瘍は保存的に切除され, 即時再建は23例にDP皮弁が, 4例に筋皮弁が用いられた。
対象のうち10例に局所再発がみられたが, これらのうち6例は二次的に制御し得, 最終局所制御率は93.8%であった。また全体の5年累積生存率は69.4%であった。
口腔機能を測定したところ, 発音は36例の舌・口底癌のうち15例に障害がみられたが, 中程度ないしは強度の障害は5例にみられたにすぎなかった。味覚障害は治療と共に増悪したが, 治療後1年のうちに元のレベル近くまで回復していた。安静時唾液分泌量は徐々に低下し, 治療後1年には治療前の約半分にまで低下した。唾液分泌量の低下に伴って, 唾液粘稠度は増加し, S-IgA濃度は分泌量と同じく低下していた。これらの結果より, 化学・放射線の同時併用からなる積極的な導入治療は保存的切除を可能にし, 口腔機能障害を減じることが示された。しかし一方では, 導入治療は唾液腺機能及び味覚の低下を来し, 粘膜反応も強いことより, 用量を減じるべく工夫が必要と思われた。
抄録全体を表示