日本口腔腫瘍学会誌
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34 巻, 4 号
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総説
  • 林 孝文, 髙村 真貴, 小林 太一, 新國 農, 勝良 剛詞, 冨原 圭, 田沼 順一
    2022 年 34 巻 4 号 p. 151-158
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    第40回日本口腔腫瘍学会学術大会ワークショップ「画像で切除範囲の正確な決定は可能か?」では,腫瘍の深達度の評価における術前画像と病理組織とのdiscrepancyについてdiscussionを行った。
    歯肉癌症例では,骨髄浸潤が骨表示CT画像においてunderestimationとなった症例が提示され,そうした状況での18F-FDG PET/CTの有用性が確認された。また,PETテクスチャ解析が下顎歯肉癌の術式の選択など治療方針の立案に有用である可能性が示唆された。
    T1・T2舌癌の深達度の評価において口腔内超音波診断の精度は高いものの,この手法をさらに普及させるためには,走査法や評価の標準化に課題があることが示唆された。
    病理組織学的には,現在の画像診断はすでに十分な精度を有していると判断できるが,治療成績の観点からみた場合,腫瘍の進展範囲のみならず病理組織学的な情報も非常に重要と考えられた。
原著
  • 雨宮 剛志, 長谷部 充彦, 川口 浩司, 中村 那々美, 堀内 俊克, 福岡 愛理, 濱田 良樹
    2022 年 34 巻 4 号 p. 159-166
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    Stage Ⅰ-Ⅱ舌扁平上皮癌(tongue squamous cell carcinoma:TSCC)における後発頸部リンパ節転移(late cervical lymph node metastasis:LCLM)の予測因子を抽出するために,後ろ向き研究を行った。初回治療として原発巣切除術を施行したstage Ⅰ-Ⅱ TSCC 62例を対象とした。年齢(60歳未満vs 60歳以上),性別(男vs女),2017年UICCのT分類(T1 vs T2),病組織学的分化度(高vs低・中),YK分類(1・2・3・4C vs 4D),神経周囲浸潤と脈管侵襲の有無,病理学的腫瘍深達度(pathological depth of invasion:pDOI. 3.5mm未満vs 3.5mm以上),腫瘍蔟出(tumor budding:TB. 4個未満vs 4個以上)とLCLMとの関連性について検討した。LCLMは15例(24.2%)に生じ,発症時期は全例で初回手術後2年以内であった。単変量解析で2017年UICCのT分類,YK分類,pDOIおよびTBに有意差を認め,多変量解析でpDOIとTBが独立した予測因子として抽出された。LCLMは,pDOI 3.5mm以上かつTB 4個以上の患者の64.3%に観察された。
    結語として,stage Ⅰ-Ⅱ TSCC(pDOI 3.5mm以上かつTB 4個以上)で原発巣切除後2年以内は,特に厳重な経過観察が必要であることが示唆された。
症例報告
  • 市村 典久, 藤尾 正人, 上嶋 伸知, 山口 聡, 山本 憲幸, 日比 英晴
    2022 年 34 巻 4 号 p. 167-173
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    近年個々の遺伝子異常に応じて最適な治療を選択する「精密がん医療」の提供が強く求められている。本邦では2018年に包括的がんゲノムプロファイリング機能をもつがん遺伝子パネル検査の運用が開始された。当科の2症例を提示し,本検査の実際と課題について文献的内容を加え考察する。
    標準治療の終了が予想される79歳女性の右側下顎歯肉癌患者と73歳男性の左側下顎歯肉悪性黒色腫患者に対してNCCオンコパネルテストをした。前者はTP53(R282W)とCDKN2A(R58)に体細胞遺伝子変異が検出されたが,後者は検出されなかった。両者とも生殖細胞系列に遺伝子変異は検出されなかった。腫瘍遺伝子変異量は1.6と6.2Mus/Mbであり,ともにマイクロサテライト不安定性は陰性であった。検査結果をもとにエキスパートパネルを開催したが,両者とも推奨できる治療法はなかった。
    今後は従来の臓器特異的な治療に加え,臓器横断的な遺伝子変異に基づく治療選択の機会が増加すると予想される。
  • 河合 孝真, 兼子 隆次, 岡部 一登, 澤木 廉
    2022 年 34 巻 4 号 p. 175-182
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    エナメル上皮腫は強い局所浸潤性を有し,時には再発や骨破壊も伴う傾向のある歯原性上皮由来の比較的稀な歯原性腫瘍である。われわれは母斑基底細胞癌症候群(nevoid basal cell carcinoma syndrome;NBCCS)の初発症状がエナメル上皮腫によるものであったと考えられる1例を経験したので報告する。患者は特に既往歴と家族歴の無い15歳男性。下顎のエナメル上皮腫を摘出,術後6年後に左側上顎に含歯性囊胞,術後9年後に右側上顎に歯原性角化囊胞を発症した。その後の全身検索にてNBCCSと診断した。術後12 年経過した現在,再発は認めず経過観察をしている。
    多様な症候を呈するNBCCSでは顎顔面領域においてもその病態は歯原性角化囊胞などの主要症候だけではない。NBCCSについての疾患理解を深め,早期診断に努めることが重要であると考えられた。
  • 佐々木 敬則, 都倉 尭明, 岡本 準也, 中井 裕美, 土橋 恵, 笹谷 聖, 荻 和弘, 出張 裕也, 宮﨑 晃亘
    2022 年 34 巻 4 号 p. 183-189
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    コレステロール塞栓症は,大血管壁にある粥腫が破綻し,コレステロール結晶が血中に流出することで末梢に塞栓をきたす疾患であり,カテーテル検査や心臓血管手術などが原因で発症する。今回,われわれは超選択的動注化学療法施行後にコレステロール塞栓症を発症した口底癌の1例を経験したので,その概要を報告する。症例は81歳男性,右側口底癌(T2N1M0,StageⅢ)。臓器機能温存を強く希望したため,放射線治療(66Gy)併用で計4回のSeldinger法による超選択的動注化学療法(CDDP)を施行した。5回目の超選択的動注化学療法を行う前に,右足趾の疼痛,紫紅色斑の出現と急激な腎機能低下(血清Cr値:1.92mg/dl,eGFR値:26.9ml/min)を認め,当院皮膚科で施行した組織生検でコレステロール塞栓症の病理組織学的診断を得た。ステロイドおよびプロスタサイクリン(PGI2)製剤経口投与により右足趾の疼痛は改善を認めたが,腎機能は改善しなかった。ステロイド治療終了後,外来で経過観察を行っていたところ,3か月後に頸部リンパ節の再増大を認め,全身薬物療法を開始したが,10か月後に肺炎により他病死した。Seldinger法では1%程度で脳梗塞が発症すると報告されている。一方,コレステロール塞栓症の発症は非常にまれではあるものの,血液透析に移行する可能性の高い予後不良な疾患である。治療法選択の際には十分に念頭に置くべき疾患の1つと考えられた。
  • 兵頭 瑞樹, 木村 将士, 石橋 謙一郎, 橋本 健吾, 近藤 祐太朗, 辻 秀明, 梅村 昌宏
    2022 年 34 巻 4 号 p. 191-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,下顎区域切除術後の再建プレート破折に対し,再建プレート破折前の顎位を術中に再現するレジンフレームを用いた新たなプレート置換術を考案し,良好な結果を得たため,その概要を報告する。患者は89歳の男性で左側下顎歯肉癌に対し下顎区域切除術,頸部郭清術,プレート大胸筋皮弁再建術を施行した後,術後2年8か月で再建プレートの破折を認めた。破折前のCT画像をもとに作製した実物大臓器立体モデル(以下3Dモデル)を用いて作製したレジンフレームにワイヤー保持溝,スクリュー孔を付与しプレート破折前の下顎骨の位置関係を記録したレジンフレームを作製した。手術は破折プレートを露出した後,レジンフレームと破折したプレートをワイヤーにて結紮することで偏位した下顎骨の整復を行った。その後,レジンフレームを下顎骨にスクリュー固定し,下顎の位置を固定した。破折したプレートを除去した後,プレベンディングしておいた再建プレートを固定した。従来の術式では術中に下顎骨の位置関係を正確に復位することは困難であったが,自験例では過去のCTデータから3Dモデルを作製し,レジンフレームにて位置関係を記録することにより良好な顎位の再現が可能であった。自験例のような残存歯が少なく,術中顎間固定の出来ない症例では本法が有用であると考えられた。
  • 今上 修一, 仲盛 健治, 冨原 圭, 石戸 克尚, 立浪 秀剛, 櫻井 航太郎, 藤原 久美子, 山田 慎一, 野口 誠
    2022 年 34 巻 4 号 p. 197-202
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    ジャーナル フリー
    下唇へ大きく進展した下顎歯肉癌に対し,赤唇を温存した腫瘍切除と,長掌筋腱付き前腕皮弁再建術を行うことで良好な機能と形態を維持できた症例を経験した。症例は84歳,女性。右下顎前歯部を中心に下唇へ進展する34×22mmの腫瘤を認めた。生検の結果,扁平上皮癌の病理診断であった。切除は両側肩甲舌骨筋上頸部郭清術,赤唇を温存した下唇の全層切除および下顎骨辺縁切除を行った。口腔内と白唇の欠損は前腕皮弁を折り返して再建し,断裂した口輪筋に対しては長掌筋腱を用いて橋渡し腱移植を行った。皮弁の折り返し部は脱上皮して温存した赤唇と縫合した。術後,口裂の閉鎖不全や流涎はなく,審美的にも良好である。本法は口唇を含む比較的広範な欠損を再建できる。また,赤唇を温存することで口唇の随意的な収縮と感覚を維持することが可能である。口唇へ進展した口腔癌において赤唇の温存が可能な際には考慮すべき術式である。
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