医療技術の向上に伴って, 従来では不可能であった高齢癌患者の根治手術を可能にした。一方, 特に目立った既往疾患や検査異常を示さない症例においても重篤な合併症を来すこともまれではない。高齢者においては器官と組織の耐容性は低下し, また生理的年齢と暦年齢が必ずしも一致していない。
対象は80歳以上の超高齢者口腔癌患者15人である。多くは扁平上皮癌と診断された。病期ではstage IIIが5例, stage IVが2例であった。多重癌は同時多発癌2例, 異時性重複癌4例で多重癌の比率は40%であった。主な既往疾患は虚血性心疾患, 肺腺維腫, 脳循環障害が各2例他であった。心電図異常の認められなかったものは3例に過ぎなかった。
治療法は我々の高齢者癌治療指針に基づいて根治的外科療法を3例に, 放射線を主体として化学療法と限定的な手術療法を行ったもの8例, 姑息的な治療を4例に実施した。治療成績では手術症例において全3例はとも制御し, 放射線治療ではCRは3例, PRは5例である。ただし, 放射線治療にて局所制御できなかったものの1年以上生存したものが3例で最長は30ヵ月経て坦癌生存した。姑息的な治療ではいずれも腫瘍の残存を認めた。
治療中の合併症は手術例では心筋梗塞と頻発する心室性期外収縮各1例がみられた。意識障害は3例, 肺腺維症は2例であった。
高齢者の治療にさいして, 根治手術可能の症例にはもちろん手術を実施して腫瘍の制御をはかるべきである。また, QOLの点から積極的な放射線治療は高齢者においてはその意義が高くなるものと思われた。
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