日本小児アレルギー学会誌
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36 巻, 2 号
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原著
  • 荻田 薫
    2022 年 36 巻 2 号 p. 127-132
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    症例は6歳女児.給食摂取の約3時間後に頻回に嘔吐するエピソードが2回あった.2回とも嘔吐と倦怠感のみの症状で,翌日には消失した.摂取したメニューでは,カシューナッツが共通していた.問診上,それ以前のカシューナッツの摂取歴はなく,気管支喘息の加療中であった.また,弟に食物アレルギーの既往があり,両親に花粉症を認めた.カシューナッツのプリックテストと特異的IgE検査はいずれも陰性であった.カシューナッツの経口負荷試験を施行し,摂取2時間後の嘔吐を認めた.以上より,カシューナッツによるfood protein-induced enterocolitis syndrome(FPIES)と診断した.近年カシューナッツはその消費量の増加に伴い,即時型アレルギーの増加が注目されている.しかし,FPIESの報告はまれである.学校給食で提供されることもあり,学童期のアレルギーとして重要である.

  • 小林 貴江, 田上 和憲, 中田 如音
    2022 年 36 巻 2 号 p. 133-140
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル 認証あり

    【背景】食物アレルギー(food allergy:FA)ガイドラインの整備が進み,さらにアレルゲン早期摂取の取り組みによりFA児の環境は変化しており,保育園では安全かつ正確なFA対応が必要である.保育園でのFA対応は多岐にわたり,地域の専門医がFA対応の実態を把握し,現場と共に改善できる点を探ることが重要である.

    【目的】FA児の在園状況,誤食事故の発生状況等に関し実態調査を行う.

    【方法】春日井市内の全保育園の代表者に対し,2017年度から3年間FA研修会を行うにあたり,開催1か月前にアンケートを配布・回収した.集計した結果は研修会内で報告した.

    【結果】全保育園から回答を得られ,3年間でFA児は,低年齢で減少していた.誤食事故件数は研修会開始前2013~2017年の平均20.6件/年から,開始後の2018年は7件/年,2019年は8件/年に減少し,誤食事故はおやつの時間に多かった.

    【結語】春日井市全保育園に対し,FA研修会を取り入れることにより,誤食事故を減らすことが可能であった.

原著(速報)
  • 北村 勝誠, 伊藤 友弥, 伊藤 浩明
    2022 年 36 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    【目的】小児アナフィラキシー症例における木の実類の現状を明らかにする.

    【方法】2017年4月~2021年3月に愛知県下の救急指定施設をアナフィラキシーで受診した15歳未満の全患者調査から,食物を原因とする2,480例のうち木の実類による308例を解析した.

    【結果】症例数は2017年度40例,2018年度74例,2019年度94例,2020年度100例と増加した.原因食物に占める割合は,2017年は木の実類が6.0%で鶏卵,牛乳,小麦につぐ第4位であったが,2020年は18.8%で第1位となった.年齢別原因食物では2020年に木の実類は1,2歳,3-6歳群の第1位となった.189例(61.8%)が入院し,うち3例が集中治療室に入院した.147例がアドレナリン投与を受け,エピペン所有は55例であった.木の実類の内訳はクルミ,カシューナッツ,マカダミアナッツ,ピスタチオの順に多かった.

    【結語】15歳未満のアナフィラキシー症例において,木の実類の割合が明らかに増加していた.

短報
  • 田上 和憲, 中田 如音, 小林 貴江, 河邊 太加志
    2022 年 36 巻 2 号 p. 148-151
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    皮膚裂傷はアドレナリン自己注射薬(AAI)使用に伴い発生しうる有害事象である.今回,医療現場で生じたAAI使用による裂傷事例を経験したため報告する.

    症例は2歳男児.卵アレルギーを有し,AAIが処方されていた.食物経口負荷試験で確認した閾値以下でのゆで卵白摂取を開始したが,後日,指示量を摂取後にアナフィラキシー症状を認めた.自宅ではAAIを使用できず,当院救急外来を受診した.アドレナリン投与の必要性について説明を受けた保護者が,医療者の監督下でのAAI使用を希望したため,医師が患児の下肢を固定した状態で,保護者がAAIを使用した.しかし,患児の体動に対応できず,足が動いた結果,大腿部に10cmの裂傷が生じた.使用したAAIの針はカバーに収納され,速やかに大腿から抜去された.また,アナフィラキシー症状は速やかに改善した.一方,裂傷は縫合を要さなかったものの後に瘢痕化した.

    医療従事者が実際にAAI使用を経験する機会は少ない.本例は稀な事例ではあるが,医療従事者へのシミュレーション教育などを用いた適切で継続的なAAI教育が重要であると考えられた.

総説
  • 堀内 照美
    2022 年 36 巻 2 号 p. 152-156
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    アレルギー疾患に対する免疫療法は110年前に開発され現在まで様々な工夫が凝らされてきた.作用機序としてregulatory T(Treg)細胞の増加とT helper(Th)2細胞の抑制によりIgEからIgGへのクラススイッチが誘導されること,ブロッキング抗体を誘導し患者IgEのアレルゲンへの結合を阻害することが考えられている.より有効で副作用が少ない修飾されたアレルゲン,投与方法が工夫されてきた.これらの中でも注目されたのがペプチド免疫療法である.ペプチド免疫療法には主にT細胞エピトープペプチドが用いられる.T細胞エピトープペプチドはIgEエピトープを含まないので患者IgEに結合せず,副作用のない免疫療法が可能になると考えられた.細胞レベル,動物実験でも有効な結果が得られ臨床応用が期待された.ところがその後の臨床試験で有効性にプラセボとの差がないこと,投与されたペプチドに対するIgE抗体が誘導されることが分かって来た.現在免疫療法の効果発現にはブロッキング抗体の誘導などによる液性免疫の修飾が必要なのではないかと考えられている.

  • 飯塚 友菜, 相沢 智康
    2022 年 36 巻 2 号 p. 157-162
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    スギ花粉症は日本で非常に有病率の高いアレルギー性疾患の1つである.スギ花粉には複数の原因アレルゲンが含まれるが,ジベレリン調節タンパク質(gibberellin-regulated protein, GRP)はその1つである.GRPは植物に広く保存されているタンパク質で,モモ果実から同定されたPru p 7を初めとして,果実のアレルゲンとして主に口腔症状,一部で全身症状のアレルギーを引き起こすことが報告されている.

    我々は最近,ヒノキ科花粉症患者の果実アレルギーの原因の1つとして,GRPに属するアレルゲンであるセイヨウイトスギ花粉由来のCup s 7,スギ花粉由来のCry j 7による花粉―食物アレルギー症候群,pollen-food allergy syndrome(PFAS)の発症があげられることを報告した.

    本稿では現在までのGRPのPFASを含めたアレルゲン研究と,タンパク質科学的な視点からの特徴,性質との関連性について概説する.

ガイドライン解説:小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020
  • 夏目 統, 福家 辰樹
    2022 年 36 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(JPGL)2020」第12章では気管支喘息の日常管理として,学校,保育所での社会生活,運動への対応,予防接種,手術,災害対策などについて概説されている.学校や保育所での活動に配慮が必要な場合は生活管理指導表を活用し,保護者,学校関係者,医療者が連携することが望まれる.喘息患者が,運動により一時的に喘鳴や呼吸困難を伴う一過性の気管支収縮が起こる現象を運動誘発喘息(EIA)と呼ぶ.EIAを起こさずに生活できるよう,その治療・予防を行い,保護者のみならず関係者も正しい認識を持つように連携が必要である.予防接種は喘息の児も健常児と同様に多くの場合接種可能である.全身麻酔や手術に際しては,できるだけ良好なコントロール状態を維持し,必要に応じて治療のステップアップや術前のSABA吸入等の要否を検討する.災害に備え,常備薬や非常時に活用できるパンフレット等の準備をしておくよう指導する.

  • 長尾 みづほ, 藤澤 隆夫
    2022 年 36 巻 2 号 p. 170-174
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    小児気管支喘息治療・管理ガイドラインは2000年初版以来,毎回の改訂で,最後に取り組むべき課題が述べられ,それらに答える形で進歩してきた.今回は9つの課題が挙げられ,これから取り組むべき研究テーマについても例示された.

    1)EBMガイドラインとしてのさらなる発展,「日本発」のエビデンスが増えるべきこと,2)未だ確立していない乳幼児喘息の診断基準や治療指針が明らかにされるべきこと,3)小児から成人への移行期を円滑とするため,思春期・青年期喘息のエビデンスが必要であること,4)生物学的製剤の選択基準や中止基準が明らかとされるべきこと,5)アレルゲン免疫療法の喘息治療における位置づけが明確にされるべきこと,6)治療選択と病態の解明に役立つバイオマーカーの開発,7)アレルギー性鼻炎など合併アレルギー疾患を含めた包括的な喘息診療のあり方,8)喘息の発症と増悪に密接に関連する呼吸器感染症への対応,COVID-19流行でクローズアップされた感染管理の考え方,9)アレルギー疾患対策基本法にもとづく医療均てん化のさらなる推進,である.

  • 山田 佳之, 足立 雄一
    2022 年 36 巻 2 号 p. 175-178
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    日本小児アレルギー学会による「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」(以下JPGL)の普及により,小児気管支喘息診療の均てん化がすすみ,小児気管支喘息治療の基本薬剤が適切に使用されるようになってきている.第14章では主な抗喘息薬について一覧表にして示した.主要な薬剤はこれまでと大きな変化はないが,JPGL 2017に比べ生物学的製剤についての情報が追加・更新された.具体的にはメポリズマブの適用年齢が6歳以上となり,新たにデュピルマブが12歳以上の適用となった.また吸入ステロイド薬・β2刺激薬配合剤であるフルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物配合剤に小児適用が追加された.全体として,JPGL2017と同様に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から得られる薬剤情報をもとに表を作成し,禁忌,副作用については別項目として記載した.本稿では一覧表に記載された主な薬剤についてJPGL2020本文中で議論された内容も引用し解説した.

ガイドライン解説:食物アレルギー診療ガイドライン2021
  • 二村 昌樹, 海老澤 元宏
    2022 年 36 巻 2 号 p. 179-182
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギー診療ガイドライン(JGFA)2021が5年ぶりに改訂された.JGFAはMindsに準拠し,作成委員会を含めた三層構造で担当して作成されたガイドラインである.作成委員会でJGFAであるスコープが確定され,重要臨床課題から経口免疫療法と食物経口負荷試験に関する4つのクリニカルクエスチョン(CQ)を選定された.CQについてはコクランレビューを参考に無作為化対照試験を対象にしたシステマティックレビューと,観察研究を対象に含めたシステマティックレビューをそれぞれ実施した.その結果はアウトカムごとに検討し,バイアスとともにエビデンス総体を評価した.CQの推奨は外部委員も含めた作成委員の無記名投票によって決定され,解説とともに推奨文が掲載されている.

  • 杉浦 至郎, 伊藤 浩明
    2022 年 36 巻 2 号 p. 183-188
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    1.食物アレルギーとは,「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義する.

    2.食物アレルギーに関与するアレルゲンは食物以外の場合もあり,その侵入経路もさまざまである.

    3.食物アレルギーは,免疫学的機序によって大きくIgE依存性と非IgE依存性に分けられる.また,アレルゲン曝露から症状誘発の時間経過によって,即時型反応と非即時型反応に分けられる.IgE依存性反応の多くは即時型反応を呈するが,両者は必ずしも一致しない.

    4.食物アレルギーによって,皮膚,粘膜,呼吸器,消化器,神経,循環器などのさまざまな臓器に症状が誘発される.

    5.アナフィラキシーとは,「アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与え得る過敏反応」と定義する.アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合を,アナフィラキシーショックという.

  • 岡藤 郁夫, 近藤 康人
    2022 年 36 巻 2 号 p. 189-194
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
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    食物アレルギー診療ガイドライン2021の「食物アレルゲン」の章は,食物アレルゲン全体を俯瞰するための知識を整理する目的で構成されている.はじめに,食物アレルゲンの大部分が食物に含まれるタンパク質であること,アレルゲンエピトープの知識や低減化の機序などアレルゲンの一般的な知識について触れた.次に,混同して使用されている交差抗原性と臨床的交差反応性という用語について説明し,交差抗原性を有していても臨床的に交差反応性を起こすとは限らないことや,交差抗原性を示す食物間の臨床的交差反応性がどの程度起こるのかについて述べた.そして,植物性食物アレルゲンの多くが含まれる4つのタンパク質スーパーファミリー(プロラミン,クーピン,Bet v 1ホモログ[pathogenesis-related protein:PR-10],プロフィリン)と,動物性食物アレルゲンの多くが含まれる3つのタンパク質スーパーファミリー(トロポミオシン,パルブアルブミン,カゼイン)について記述した.

  • 井上 祐三朗, 大嶋 勇成
    2022 年 36 巻 2 号 p. 195-201
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル 認証あり

    食物は生体にとって有益な異物であるため,経口免疫寛容が誘導され,過剰な免疫応答が抑制される.経口免疫寛容の破綻は,食物アレルギーの発症メカニズムの一つと考えられている.食物アレルゲンによる感作には胎内感作,経皮感作,経消化管感作,経気道感作など複数の曝露経路による感作が知られており,食物アレルギーの発症におけるそれぞれの役割が注目されている.

    IgE依存性アレルギーでは,マスト細胞上の複数のアレルゲン特異的IgE抗体とアレルゲンの結合によりIgE抗体が架橋され,ケミカルメディエーターの脱顆粒と脂質メディエーターなどの産生が誘導される.一方,非IgE依存性アレルギーでは,アレルゲン特異的リンパ球などにより炎症が誘導される.

    乳幼児期の即時型食物アレルギー患者の多くは,成長とともに自然耐性を獲得する.その機序として,成長による消化管の消化機能,物理化学的防御機構,経口免疫寛容の発達などが考えられている.また,アレルゲン免疫療法により,脱感作,持続的無反応が誘導され,症状の誘発が抑制される.

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