【背景】食物アレルギー(FA)に対する経口免疫療法(OIT)では,患児自身の思いも治療継続に影響する.患児のOITに対する思いを調査し,治療に前向きに取り組むための介入ポイントを検討した.
【方法】当院でOIT中の小中学生66人に,自記式質問紙と半構造化面接による調査を実施.順調群と困難群(プロトコール順守率3割以下またはOIT中断中)に分け,FAやOITに対する知識,意欲,不安感,嫌悪感,負担感を評価した.
【結果】順調群(44人,年齢中央値9歳)では,困難群(22人,同10歳)と比較して,知識(97.8% vs. 77.3%,P<0.05)と意欲(93.2% vs. 63.6%,P<0.01)を持つ割合が有意に高かった.不安・嫌悪・負担感は両群で有意差を認めず,順調群でも40%以上の児に不安・嫌悪感があった.
【結論】OITを順調に進めるために,知識と意欲の確認とそれら高めるための働きかけ,さらに不安・嫌悪・負担感を軽減する工夫の必要性が示唆された.

【背景】本邦では,皮膚プリックテストの標準試薬として鳥居薬品のアレルゲンスクラッチエキス「トリイ」Ⓡ {scratch extract(SE)}が利用されているが,その含有タンパク質の内容は明らかでない.
【方法】卵白・卵黄・牛乳のSE,及び生卵白・生卵黄・牛乳を用いて,SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE),及びイムノブロットを行った.
【結果】各SEに含まれるタンパク質量は,各食品のタンパク量よりも少なかった.SDS-PAGEにおいて,卵白SEは生卵白と同等のバンドを認め,イムノブロットで十分量のovalbumin(OVA),ovomucoid(OVM)の存在が確認された.卵黄SEからは微量のOVAとOVMが検出された.牛乳SEはカゼインが少なく,主にα-lactalbumin,β-lactoglobulinが含まれていた.
【結論】卵黄SEは卵白成分を微量に含有していた.牛乳SEは主に乳清成分で構成されていた.

【緒言】早産児のFAは児の合併症や個性のため時に診療に難渋する.今回,早産児のFAの特徴と発症予測に有用な指標の解明を目的とし後方視的調査を実施した.
【方法】2012年4月1日から2020年3月31日の間に出生し,琉球大学病院周産母子センターで診療した在胎37週未満の出生児で,暦年齢満1歳まで通院した児について診療録を用いて後方視的に検討した.
【結果】1歳時362例の即時型FAは23例(6.4%)で原因食物は重複を含め,鶏卵18例,牛乳4例,大豆3例,小麦2例であった.アナフィラキシーは,その後小麦を原因として1例に発症した.週数,分娩様式,出生体重,抗菌薬使用で発症に有意差はなく,秋冬出生,1歳までに湿疹を指摘された児,生後4週以内の好酸球増多(≧7.0%かつ≧750/μL)を認めた児で有意に増加した.
【考察】早産児で行う一般血液検査所見は,その後のFA発症予測に活用できる可能性がある.湿疹治療による皮膚感作の予防に加え,児の発達に応じた離乳食の進行が発症予防に重要である.

食物アレルギーの耐性獲得の機序には,消化機能や粘膜バリア機能の発達に加えて経口免疫寛容の成立が関与する.食物抗原がアミノ酸にまで分解されると抗原性が消失し免疫応答は惹起されない.粘膜バリアは,粘液や腸上皮細胞,IgA,抗菌ペプチドによって構成され,腸管からの抗原の侵入を阻止する役割を果たしている.経口免疫寛容は,消化管での抗原認識に対する免疫応答を抑制する生理現象であり,抗原提示細胞や制御性T細胞,抑制性サイトカイン等により調節される.腸管以外には肝臓や扁桃腺も免疫寛容を誘導する器官であり,腸内細菌叢も寛容の誘導に寄与する.経口免疫療法の機序には獲得免疫と自然免疫が複雑に関与しており,特に制御性T細胞やIL-10による免疫応答の負への制御が重要である.高容量の抗原はclonal anergyを誘導するが,腸管炎症やアレルギー反応を増強し,寛容の誘導を妨げる可能性がある.経口免疫療法のプロトコールの最適化や新たな治療法の開発のためには,より詳細な機序を解明する必要がある.
ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAKi)は,約40種類のサイトカインや成長因子のシグナル伝達に関わるJAKの機能を阻害することにより,疾患の病態修飾をおこなう低分子分子標的薬である.関節リウマチに対するJAKiは,生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬に比類する有効性を認め,本邦においてはアトピー性皮膚炎よりも7年早く保険適用が承認されたが,長期安全性を検討する臨床試験や製造販売後調査の結果から,高リスク患者における死亡・心血管イベント・悪性腫瘍・血栓症などの注意喚起がなされている.また,小児リウマチ性疾患に対するJAKiは,既存治療で効果不十分な多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎に対して,2024年3月にバリシチニブ(BARI)の保険適用が承認されたばかりであり,リアルワールドデータはまだ明らかではない.本邦では,時を同じくして,BARIは既存治療で効果不十分な2歳以上の小児アトピー性皮膚炎にも保険適用が承認された.抗体薬にはない長所をもつJAKiを安全に使いこなせるように,小児科医の経験の集積が望まれる.
TNF阻害薬は炎症性腸疾患(IBD)に対し最初に用いられるようになった生物学的製剤である.一部の薬剤は小児に対しても臨床試験が行われ,保険適用を有している.TNF阻害薬の登場により小児IBDの治療は大きく変化し,臨床症状の改善のみならず,成長障害の改善など様々な有用性が示されている.クローン病では治療指針や海外ガイドラインにおいて,TNF阻害薬は他の生物学的製剤に先んじて使用することが推奨されている.潰瘍性大腸炎においては,欧州のガイドラインではインフリキシマブが最優先される一方,日本の治療指針では難治例に対する治療はTNF阻害薬に限らず様々な生物学的製剤・分子標的薬が併記されており,保険適用や投与経路,効果発現までの期間など様々な要素を考慮し,個別に治療薬を決定することが求められる.海外ではインフリキシマブでは,抗薬物抗体の発現を抑制するために,投与開始後半年間程度を目安に免疫調節薬と併用することが推奨されている.投与にあたっては,投与時反応などの副作用の他,成人に比べ投与量が多く必要になる可能性についても考慮すべきである.
ヒト型モノクローナル抗BLyS抗体であるべリムマブは,全身性エリテマトーデス(SLE)に対して保険適用承認された最初の生物学的製剤である.SLE患者の血清中の可溶性BLyS濃度はコントロールと比べて高く,SLEの疾患活動性との間に相関があることが知られており,べリムマブは可溶性BLySの作用を抑制することで,体内の自己応答性B細胞の生存を抑制し,自己抗体産生の低下およびSLEの疾患活動性を改善する.本邦ではグルココルチコイド(GC),免疫抑制薬などによる治療を行っても疾患活動性を有する場合,既存治療薬に併用して用いるとされている.本邦では重症のループス腎炎を有するSLE患者に対する有効性は検討されていないが,海外では活動性ループス腎炎に対する寛解導入及び維持療法において,既存治療にベリムマブを追加投与することによる上乗せ効果は示されている.ベリムマブはSLEの管理においてGCの減量・中止をアウトカムとする治療戦略において有用な薬剤であり,今後適切な導入タイミングの検討が求められる.
アニフロルマブは,ヒト抗I型インターフェロン受容体1モノクローナル抗体である.本邦では,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)に対して適応が認められている.アニフロルマブは,SLEの病因に対して中心的な役割を担っているI型インターフェロンのシグナル伝達をターゲットとし,I型インターフェロンのシグナル伝達阻害,樹状細胞上のCD80とCD83の発現の減少,B細胞の生存因子の抑制,B細胞分化阻害,T細胞活性化抑制等に関与する.無作為化プラセボ対照試験の結果,アニフロルマブによって疾患活動性反応,グルココルチコイド投与量の減少,皮膚疾患活動性,活動性関節数,治癒率などの臨床的評価項目において改善が示された.EULAR Recommendations for the management of patients with systemic lupus erythematosus―2023 updateでは,アニフロルマブはループス腎炎を発症していないSLEの治療選択の一つと記載されている.本邦においてアニフロルマブは小児適用がなく,成人に適用のある薬剤である.
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(Japanese Pediatric Guideline for the Treatment and Management of Asthma:JPGL)2020に引き続き,JPGL2023第4章では「喘息の評価」として,小児気管支喘息の診断と治療に必要な客観的な検査について説明している.喘息は免疫学的には2型免疫反応に偏った状態であり,その評価としての血清総IgE値や末梢血好酸球数,アレルゲン特異的IgE抗体やプリックテストから,喘息の診断や重症度の評価,治療効果の判定に重要である呼吸機能検査(スパイロメトリー,オシロメトリー,気道過敏性検査を含む)や呼気NO測定について解説した.これらの検査の中で,スパイロメトリーが最も重要であるため,原理から測定結果の解釈,小児患者での実施上の留意点について解説を加えた.
小児気管支喘息における長期管理は,薬物療法以外にも増悪因子への対応や患者教育等も重要であることから,JPGL2020の「長期管理に関する薬物療法」から,「長期管理」へとタイトルを変更した.改訂点として,治療と管理の両方の視点で目標を設定し診療を最適化すること,従来の評価・調節・治療の長期サイクルに「決定」を加え患者と保護者の主体的な診療参加・医療者との意思決定を促したこと,病診連携を明記し適正で効率的な診療を行い,難治性喘息の診療における位置づけを明確化したことがあげられる.薬物治療では,フルチカゾン・サルメテロール配合剤の添付文書の変更などを踏まえ,5歳以下の長期管理プランに吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬を追加した.また,新規に上市した抗TSLP抗体をはじめとした生物学的製剤の選択肢拡大を反映し,製剤選択の判断のためにフェノタイプを意識して併存疾患を考慮することを示した.吸入ステロイド薬については,全身への影響について留意した長期管理プランの位置づけへと変更を行った.
「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(Japanese Pediatric Guidelines for The Treatment and Management of Asthma:JPGL)2023第6章増悪の危険因子とその対策」では,増悪の危険因子が一目で確認できるように,JPGL2020で複数の章に記載されていた増悪の危険因子を,1つにまとめた.さらに環境因子と個体因子に分けて記載し,個体因子に重篤な喘息症状の既往,呼吸機能検査の異常,アドヒアランス/吸入手技不良を新たに追加した.それぞれの危険因子について新しい知見を元に解説を更新するとともに,危険因子を評価すべきタイミングについても新たに加えた.本稿では,改訂のポイントについて強調し解説する.