エリスリトールはカロリーゼロの低分子の糖アルコールで,甘味料として飲料,菓子類などに広く使用されている.一方でエリスリトールアレルギーの症例報告が散見されているが,診断は容易ではない.症例は9歳男児.ゼリー飲料摂取後,運動中に全身の蕁麻疹,不穏,血圧低下,2回の嘔吐を呈した.ゼリー飲料に含まれたエリスリトールによるアレルギーを疑い,ゼリー飲料のプリックテストと食物経口負荷試験を行ったが共に陰性であった.6か月後,エリスリトールが含まれた別のゼリー飲料摂取後,運動中に全身の蕁麻疹を呈した.エリスリトールのプリックテストは陰性であったが,皮内テストが陽性であったため,食物経口負荷試験を行った結果,エリスリトールを2 g負荷した時点で全身の蕁麻疹を呈した.エリスリトールはタンパク質ではなく低分子化合物であるため食物アレルギーの原因アレルゲンの鑑別に挙がりにくく,アレルギー患者のプリックテストは陽性になりにくい特徴を有する.医療者はエリスリトールが食物アレルゲンになり得ることを認知する必要がある.
【目的】食物アレルギー(food allergy, FA)児家庭の備蓄啓発における課題を考察する.
【方法】食物経口負荷試験(oral food challenge, OFC)入院をした患者家族にアンケート調査を実施し,備蓄の啓発を行った.期間内に2回目のOFCがあれば,調査も反復し比較検討した.
【結果】有効回答は79人であった.発災当日のFA用非常食の備蓄は,原因食物が複数であると準備がある家庭が多かった(P=0.030).FA対応の缶詰等の備蓄は,「1食未満」の回答は1回目の調査では43%であったが,2回目では27%と減少した.しかし1~3食未満の回答が最も多かった.家庭における備蓄計画にあたり,役立った情報として「1週間の備蓄内容」が,今後の備蓄方策として「飲料水・カセットコンロの備蓄」が最も挙げられた.
【結語】医療者は備蓄に必要な食品の内容や量,災害時の調理法などの具体的な情報を提供することで,家庭備蓄の啓発と見直しを継続的に促すべきである.
近年,コメに起因した食物蛋白誘発胃腸炎(food protein-induced enterocolitis syndrome:FPIES)の報告が認められる.しかしながら,コメが原因となるFPIESでのコメを除去した際の栄養管理に関する報告はほとんどない.今回,コメによるFPIESを発症した乳児例を経験した.症例は初診時6か月女児.初めて米粥を摂取した30分後から嘔吐を繰り返した.コメ摂取後に繰り返す嘔吐を認め,コメ特異的IgE抗体や皮膚テストは陰性であり,コメの食物経口負荷試験(oral food challenge:OFC)の陽性所見より,コメによるFPIESと診断した.コメ完全除去の方針とし,栄養指導を行いながら発育発達を観察した.小麦製品を主食としたが,次第に小麦摂取を嫌がったため,うどんを細かく刻んで与える,オートミールを主食にするなど工夫し,体重増加不良なく発達も順調に経過した.2歳4か月時に行ったコメのOFCで陰性が確認されたため,自宅でコメの摂取量を増やし,2歳8か月時に耐性獲得した.日本においてコメに起因したFPIESは頻度の少ない疾患であるが,原因不明の嘔吐を繰り返す場合,本症も鑑別疾患として考慮すべきである.
エピペンⓇ使用時の不十分な固定による外傷性有害事象の報告が複数あり固定時の姿勢等について考察されているが,エピペンⓇが体から完全に離れるまでは固定を緩めてはいけないという記載はない.症例は4歳10か月の男児.クルミおよびカシューナッツアレルギーに対し完全除去を指示しエピペンⓇを処方した.クルミを含むお菓子を誤食しアレルギー症状を生じた.母親がエピペンⓇを大腿部に押し付ける時は十分な固定を行っていたが,エピペンⓇが体から離れる前に固定を緩めてしまったために児が動き右大腿に切創を生じた.来院時アレルギー症状は消失していたが切創は瘢痕を残した.針が自動で収納されると誤認していたためエピペンⓇの針が飛び出した後すぐに固定を緩めてしまい切創につながった.現行の資料や指導法で事前の固定はできていたことから,エピペンⓇの先端を押し付けている間は針が露出し続けていることが理解されていれば切創を防ぎ得たと考えられ,処方時の説明にこの点を加えるべきである.
【目的】本検討は当院で実施した1-2歳児のピーナッツ食物経口負荷試験(OFC)の安全性を評価した.
【方法】2016年4月から2024年12月に,Ara h 2-sIgE ≧1.0 UA/mL,ピーナッツSPT陽性,ピーナッツ摂取で症状(疑い含む)のうち1つ以上を満たしピーナッツバター0.1 g,0.2 g,0.5 gを60分間隔で負荷した1-2歳児と3-6歳児を対象に,アナフィラキシーガイドラインのグレード2以上の症状の割合を比較した.ハイリスク児には前段階として総負荷量0.1 g未満のOFCを実施した.
【結果】対象は68例でグレード2の症状の割合は1-2歳群24%(6/25例),3-6歳群28%(12/43例)だった(OR 0.82,95%CI 0.21 - 2.85,P=0.78).1-2歳群でアナフィラキシーを1例認めた.
【結語】1-2歳児の0.1 g,0.2 g,0.5 g負荷のピーナッツOFCは3-6歳児よりも危険とは言えないが,安全性を高めるため修正を要する.
臨床研究に興味をお持ちの後輩たちを念頭に私的経験に基づいた研究の進め方を述べた.臨床研究の起点は,臨床現場におけるクリニカル・クエスチョン(CQ)の閃きである.その症例を丁寧に掘り下げて症例報告として論文化する.症例を重ねて当初のCQが強固になったなら症例集積研究を行う.この際,比較対照の設定が重要である.このような観察研究は介入研究の土台となる.CQが確信に近づいたら,ランダム化比較試験にチャレンジしよう.このようなエビデンスの集積が,未来のガイドライン収載,標準治療化につながるのである.一方で,誠実な研究には必ず挫折を伴う.挫折の克服方法についても私見を述べた.倒れても倒れても前を向いて歩き続けて頂きたいと切に願う.
現代では患者に最善の医療を提供するためには,「エビデンス」に基づく診療が望ましいと考えられている.これらのエビデンスを形作る基となる臨床研究は,手法によって介入研究と観察研究,さらにそれらの結果を統合する系統的レビューの3つに分類される.エビデンスレベルは研究手法によって決定され,高ければ高いほど,その結果の信頼度も高くなるとされている.しかし,たとえエビデンスレベルが高い臨床研究であったとしても研究手法そのものに問題があれば,本来解明すべき真実を映し出す結果になっているとは言い難い.このため私たちはエビデンスの高さだけでなく,その質にも注意を払う必要がある.エビデンスの質はランダム化比較試験ではRisk of Bias 2.0,観察研究ではROBINS-Eなどのツールを用いて評価される.医学研究者は質の高い臨床研究を実施して,結果を医学論文として発表することを求められる一方,エビデンスを診療に活用する医療従事者には,論文を読む際にエビデンスのレベルと質の両面を考慮して慎重に解釈することが求められる.
ビタミンDは紫外線曝露によって体内で生成され,また食事から摂取される.近年,ビタミンDは,免疫調節機能を介してアレルギー疾患に関与することが注目されている.特にT細胞や樹状細胞などの免疫細胞に作用し,免疫寛容を促進することで過剰なアレルギー反応を抑制する役割があるとされている.これまで多くの疫学研究により,ビタミンD欠乏が食物アレルギーのリスク因子であることが示唆されている.CHIBA studyでは,母乳栄養児の血中ビタミンD濃度が低く,卵白感作率が高いことが確認された.しかし,諸外国で行われているビタミンDによる介入研究ではまだ予防効果については結論がでていない.日本ではビタミンD欠乏が深刻であり,独自の生活習慣や栄養背景を踏まえた介入が必要である.そこで我々は食物アレルギーの予防を目的としてビタミンDを用いたランダム化比較試験(Vitamin D mediated Prevention of Allergic march in Chiba(D-PAC)study)を行い,高い予防効果を上げることができている.今後は最適な投与時期や至適濃度の検討を通じて,ビタミンD補充の有効性を高める臨床応用が期待される.
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023第11章では気管支喘息の種々の側面として,社会生活,運動への対応,予防接種,手術,災害対策,併存症を持つ場合の対応などについて概説されている.喘息の配慮が必要な場合は生活管理指導表を活用し,保護者や学校,保育所と連携する.運動により喘鳴や呼吸困難を伴う一過性の気管支収縮が起こる現象を運動誘発気管支収縮(exercise-induced bronchoconstriction:EIB)と呼ぶ.各関係者がEIBについて正しい知識を持ち,連携して対応することが必要である.予防接種は,喘息の児でも十分な注意と配慮のもとに,健常児と同様に接種可能である.全身麻酔や手術に際しては,良好なコントロール状態を維持し,必要に応じて治療のステップアップや全身性ステロイド薬の投与を考慮する.災害は日頃の備えが重要であり,非常時に活用できるパンフレットがある.併存症として,重症心身障がいでは他疾患との鑑別や吸入手技の工夫,神経発達症では患児の特性に合わせた治療の工夫が望まれ,食物アレルギーでは喘息のコントロール状態への注意が必要である.
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(Japanese Pediatric Guideline for the Treatment and Management of Asthma,JPGL)は2000年の初版以来,標準的治療や管理の指針を示し,診療レベルの向上に貢献してきた.JPGL2023では,Minds診療ガイドライン作成方法に準拠し,14のclinical questions(CQ)について最新のシステマティックレビューを実施し,診療に即しevidence-based medicineに基づくガイドラインに改訂した.さらにより良いガイドラインの確立に向け,第12章では残された課題を提示した.特に,日本人小児を対象とした質の高いエビデンスの構築は不可欠であり,発症予防戦略,乳幼児喘鳴の病態解明と最適な治療法,および思春期・青年期喘息の長期予後と治療戦略の確立が重要である.また,アレルゲン免疫療法や生物学的製剤,maintenance and reliever therapy療法,高流量鼻カニュラ酸素療法など,新たな治療選択肢の適切な位置づけを明確にする必要がある.さらに,アレルギー疾患対策基本法に基づく標準治療の普及と診療の均てん化,および研究推進体制の整備も引き続き重要な課題である.これらの課題解決に向けて,今後も組織的な取り組みが求められる.