アトピー性皮膚炎に対し過度の食物制限を行い, ビタミンB
1欠乏症状を来した症例を経験した.
症例は6才, 男児. 乳児期よりアトピー性皮膚炎の治療のため食事制限を続けており, 発症直前は牛乳, 大豆, 卵, 牛肉, 豚肉, 鶏肉, 小麦の一次・二次製品の制限と“低アレルギー米 (削り米)”を使用していた. 1990年3月, 歩行困難, 胸部苦悶, 呼吸困難が出現, 下肢深部腱反射は消失し, 心電図にてST低下と陰転化T波を認めた. ビタミンB
1血中濃度6.3μg/dl, 乳酸47mg/dl, ピルビン酸3.1mg/dl, TPP (thiamin pyrophosphokinase) 効果37%であった. ビタミンB
110mg静注24時間後, 心電図は, ほぼ正常化したが, 歩行可能となるまで, 約2カ月を要した. アレルギー学的検査ではIgE-RASTでシラカバ9.2PRU/ml, 皮膚テストではタンポポ, シラカバ, コナラが陽性で, その他はすべて陰性であった. 食物制限を解除し, ビタミン剤と抗アレルギー剤で経過観察中にアトピー性皮膚炎の明らかな増悪は認められなかった.
アトピー性皮膚炎の病因が確立されていない現状においては, 食物関与の診断を慎重に行うと共に, 食物制限の実施に当たっては医師の厳重な栄養管理の基に行うことが極めて大切であることを強調した.
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