日本小児循環器学会雑誌
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38 巻, 1 号
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巻頭言
Review
  • 上野 倫彦
    2022 年 38 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    小児診療においては,一般小児科医であっても先天性心疾患(CHD)や小児の循環評価に携わらなければならない場面にしばしば遭遇する.循環の役割は肺で取り込まれた酸素を身体の各臓器に必要なだけ届けることであり,そのための心拍出量を保つことである.心内や大血管の間で短絡がある場合は,心室以降は肺体血管抵抗の違いによって,心房間では両心室のコンプライアンスの違いによって短絡方向・量が規定される.種々のCHD管理を考えるうえでは,肺血流が増多する疾患か減少する疾患かに分類するとシンプルでわかりやすい.一般小児科医が未診断のCHD患者に出会ったときには,最低限,酸素投与を行ってよいか,なるべくしないほうがよいか,動脈管開存が必要な疾患か否かを判断する必要がある.小児の循環動態を評価するためにはもちろん詳細な問診や身体診察が重要であり,また心臓超音波検査は簡便で有益な所見を得られるツールであるが,他のモダリティもあわせて総合的に判断することが求められる.

  • 河津 由紀子
    2022 年 38 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,胎児心エコー検査の進歩と増加に伴い,本邦においても胎児期に多くの先天性心疾患が診断されるようになった.その一方で,出生直後に初めて診断される場合も依然,少なくない.今回,児の診断を受けた家族に対する「カウンセリング」について,それぞれの場合について説明する.1. 胎児診断の場合:家族の不安そして,診断が変わりうる不確定な要素にも注意が必要である.それらを理解したうえで行うカウンセリングの目的や実際,内容,家族支援について概説した.2. 出生直後の場合:胎児診断の場合と異なり,生後突然の診断かつ診断(児に心疾患があること)が確定している状況である.胎児診断と異なる部分について概説した.胎児期および出生後いずれの診断においても,小児循環器医は,心疾患の正確な診断ばかりでなく,家族に対して「カウンセリング」することも必要である.また,カウンセリングを自ら行い,チームを主導する立場にあるという自覚も重要である.

原著
  • 柴田 利満
    2022 年 38 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:近年,学校心臓病検診で初発見される先天性心疾患の多くは心房中隔欠損症である.そのためV1誘導でのrsR′型の不完全右脚ブロック型には注意しているが,二次検診でその所見が消失することがある.また,V6誘導の深いQ波も二次精検で消失することがある.この原因を検索した.

    方法:V1誘導でrsR′型の生徒14名とV6誘導で深いQ波の生徒3名の心電図と合成ベクトル心電図(VCG)をとり,さらに高位肋間でも記録した.

    結果:rsR′型症例で,二次検診ではrsR′型が消失したが,1~2肋間上の記録では一次検診と同じ波形が再現された.深いQV6症例において,二次でその所見が消失したが,1肋間上の誘導で深いQV6が再現した.上位肋間では合成VCGのQRSループ後半が前方偏位した.深いQV6波例では,ループ初期部分が増幅し,最大QRSベクトルの増大も認められた.

    結論:高位肋間で出現したrsR′型は,合成VCG解析の結果,単極誘導から遠い部分の電位が減衰しループが前方偏位したと考えられた.深いQV6例は,誘導が1肋間上がるとQRSループに電極が接近し高電位が記録されたと考えた.

  • 田部 有香, 山田 健治, 中嶋 滋記, 安田 謙二, 城 麻衣子, 藤本 欣史, 小林 弘典, 竹谷 健
    2022 年 38 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:カルニチンはミトコンドリアにおけるエネルギー産生に必須の物質で,その欠乏により心筋症や低血糖などを生じる.本研究では,小児先天性心疾患患者の人工心肺(CPB)前後における血中遊離カルニチン(C0)値の動態を明らかにすることを目的とした.

    方法:小児先天性心疾患児のCPB使用直前,直後,以後連日7日後までのC0値を測定した.

    結果:対象は50例で,平均月齢は35±49か月であった.19例に心外合併症(染色体異常,早産児,消化器疾患等)を認めた.C0値は術前55.8±24.4 nmol/mLで,CPB直後に33.5±12.9 nmol/mL (p<0.01)と低下した.術翌日には96.3±42.1 nmol/mL (p<0.01)と上昇し,術後3日目には手術前と同程度に戻った.心外合併症の有無は周術期におけるC0低下と関連した(OR 3.385; 95%信頼区間1.858–3.385, p<0.01).

    結語:C0値はCPB使用により術直後は一過性に低下するが術後3日目には戻った.臨床的にカルニチン補充を要する症例は認めなかったが,心外合併症例では周術期のカルニチンを測定することが必要かもしれない.

症例報告
  • 波若 秀幸, 真田 和哉, 森田 理沙, 浦山 耕太郎, 杉野 充伸, 山田 和紀, 白石 公, 池田 善彦, 田原 昌博
    2022 年 38 巻 1 号 p. 38-47
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー
    電子付録

    症例は生来健康の7か月女児.急性僧帽弁閉鎖不全による左心不全症状で第1病日に当院に搬送となり,第2病日に準緊急手術を行った.入院時から抗菌薬投与を開始し,入院8時間後から発熱を認めた.術中所見では僧帽弁両尖の破壊と後尖の穿孔を認め,僧帽弁の明らかな腱索断裂や疣腫は認めなかった.僧帽弁形成術が困難であったため,僧帽弁人工弁置換術を行った.血液,切除僧帽弁前尖の培養検査では細菌,真菌は陰性であったが,切除僧帽弁の病理組織像では好中球浸潤を認め,感染性心内膜炎と診断した.しかしその原因や起因菌の確定には至らなかった.乳児の急性僧帽弁閉鎖不全では,原因として感染性心内膜炎や特発性僧帽弁腱索断裂が挙げられる.本症例は発熱前に著明な弁破壊を来した感染性心内膜炎で,乳児特発性僧帽弁腱索断裂に類似して急激な臨床経過を辿った.生来健康な乳児の急性僧帽弁閉鎖不全についての治療や合併症はその原因によって異なるため,病理学的検討も含めて,注意して原因を確認しなければならない.

  • 田尾 克生, 矢崎 諭, 嘉川 忠博, 安藤 誠, 与田 仁志
    2022 年 38 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    Scimitar症候群とは,先天性心疾患,肺形成異常,主に右肺からの下大静脈への肺静脈還流異常が見られる稀な症候群である.その重症度の幅は大きく,表現型に多様性を認める.今回,異なる生命予後を示したscimitar症候群の同胞例を経験したので,ほかのscimitar症候群を合わせた全8症例の予後因子について検討した.成人例は無症状に対し,右肺低形成,肺動脈径の左右差,先天性心疾患の合併は小児例に有意に認め生後1か月以内に全例,発症した.小児例の6例中4例に手術を施行し,1例は手術適応外だった.3例が死亡し,そのうち2例に複雑心疾患を合併し,死亡した3例すべてに気道病変を認めた.肺高血圧を確認したのは2例で,すべて小児例で気道病変合併例のみ死亡した.また死亡例に側副血管の灌流領域の多い傾向も認めた.予後因子について発症時期,複雑心疾患,肺高血圧,側副血管の灌流領域によるうっ血性心不全に加え気道病変の有無が考えられた.

  • 宮本 智成, 清水 大輔, 宗内 淳, 土井 大人, 杉谷 雄一郎, 古田 貴士, 江崎 大起, 小林 優, 城尾 邦彦, 立石 悠基, 渡 ...
    2022 年 38 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    大動脈縮窄症(COA)における乳児期の治療として外科治療もしくは経皮的バルーン拡張術(BA)が用いられる.特に低出生体重児の場合は,BAと外科治療のどちらであっても再狭窄率や合併症発症率が高いことが報告されている.症例は35週1,374 gで出生した女児,日齢6に収縮期血圧上下肢差64 mmHgを認めCOAと診断した.日齢25に最狭窄部1.3 mmのCOAに対し3 Frenchシースを使用して経動脈的にBAを実施した.冠動脈形成用バルーン(NC TREK®2 mm)で前拡張後に弁拡張用バルーン(TMP-PED®4 mm)で後拡張した.収縮期血圧較差9 mmHgまで改善した.BA後に体重増加が得られたが再狭窄が進行し,日齢108(体重3,050 g)に左側開胸で大動脈縮窄部切除と大動脈形成術を実施した.現在,生後7か月で再狭窄を認めていない.低出生体重児のCOAに対し,姑息的BA後に体重増加させ,外科治療を行うことは,合併症や予期せぬ再狭窄を予防できる点から有効であると考えられた.

  • 佐藤 要, 小島 敏弥, 大森 紹玄, 小川 陽介, 田中 優, 白神 一博, 益田 瞳, 浦田 晋, 松井 彦郎, 柴田 深雪, 平田 康 ...
    2022 年 38 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    リードレスペースメーカ(LPM)の小児への植込みは稀であり,本邦では未だ報告がない.われわれは複数の条件を勘案し,LPM植込み術を施行した小児例を経験した.症例は拡張型心筋症に対する心臓移植後の12歳女児で,拒絶反応により循環不全を伴う一過性の洞不全症候群を発症し,ペースメーカ(PM)治療の適応と判断した.両側鎖骨下静脈の閉塞,成長過程であること,手技の侵襲性,免疫抑制剤投与下におけるデバイス感染のリスク等のため経静脈的PMや心外膜PMを選択しにくい状況であった.一方で,心臓再移植の可能性と一過性徐脈であることから,LPMの懸念点である電池消耗に伴う追加留置の必要性と,モードがVVIに限られる点は許容されると判断した.体格が小さいことによる血管アクセスの問題も,大腿静脈シースを段階的にサイズアップすることでLPMイントロデューサシースを留置することで解決しえた.心臓が小さいため三尖弁から右室中隔留置部位までの距離が取れず,また高い刺激閾値が問題となったが,右室中位中隔に許容範囲内である部位を確認し,留置しえた.植込み術中・術後に有害事象はなく,心拍数低下時にLPMは正常に作動した.その後,経カテーテル的心筋生検に際し,問題はなかった.適応が限定的であることに留意し,適切な症例を選択すれば,小児例へのLPM植込みは安全かつ有用な治療選択肢になりうる.

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