小児歯科学雑誌
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33 巻, 4 号
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  • 日本小児歯科学会
    1995 年 33 巻 4 号 p. 659-696
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    最近の日本人小児の頭部X線規写真基準値を検討するために,全国の歯科大学小児歯科学講座の協力を得て収集された側貌頭部X線規格写真329枚,正貌頭部X線規格写真274枚を資料として調査研究を行った. 側貌頭部X線規格写真については,昭和30年前半に報告された飯塚,坂本,小野の各論文と計測方法等を一致させ,比較検討を行った.
    昭和30年以降平成年間にかけて,日本人小児に身長の著しい増加をもたらした環境的諸因子は,顎・顔面頭蓋各部にも長さの増加と発育加速現象という影響を及ぼした. 長さの増加については男児に,発育加速現象では女児により明瞭に観察された.
    顎・顔面頭蓋を深さと高さに分けると,長さの増加は高さにより著しかった. 深さの増加は前脳頭蓋底で全期間,平均身長との相対成長から推定される顔面頭蓋各部の伸びを加えた補正値以上に,鼻上顎複合体では混合歯列中期以降になって補正値以上に観察された. ただし,下顎骨の増加量は多くの期間で補正値以下であった. 一方,高さの増加は前顔面高よりも後顔面高にさらに顕著であった. また,発育加速現象としての上下中切歯歯軸や下顎骨外形の成人様形態変化は混合歯列中期から認められた.
    正貌頭部X線規格写真からの分析結果を加えて,脳頭蓋部,上顔面部,下顔面部それぞれを代表する項目で,近傍する幅と深さの成長様式を比較したところ,ほぼ同様な傾向を示したが,幅は深さに先行して成長していた. また,幅の増加は特に下顔面部で顕著に認められた.
  • とくに電子顕微鏡学的研究
    時田 幸子, 佐藤 直芳, 吉村 譲
    1995 年 33 巻 4 号 p. 697-706
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    カニクイザルの乳歯萌出期歯帯管内残存上皮を,光学顕微鏡と透過電子顕微鏡を用いて観察した.
    歯堤の残存上皮は代生歯歯胚から歯帯管のほぼ中央を通り,歯帯孔に至る. 残存上皮は発達の悪いデスモゾームで結合し,結合組織とは基底膜で隔てられている. 基底膜に面した細胞膜にヘミデスモゾームがあり,細胞に隣接する面にマイクロビライがみられる. トノフィラメントは核を囲み,一部はデスモゾームとヘミデスモゾームに集束する. このような残存上皮の構造はマラッセの残存上皮と類似する. 歯胚側は遊離リボゾーム,ミトコンドリアが多く,粗面小胞体は少ない. 歯肉側はミトコンドリアの膨潤,粗面小胞体の拡張など退化性変化がみられ,基本構造が異なる. さらに退化の進んだ残存上皮は細胞の突起を結合組織に向かい形成し,突起の先端が結合組織に取り残され,デブリ(残渣)として観察される. トノフィラメントやヘミデスモゾームは退化の影響を受けにくい.
    以上のことから,残存上皮は構造の多様性を示し,その一部を結合組織に取り残す. これが歯帯管の開存維持にかかわりをもつものと考えられる.
  • 第2報 臨床効果に影響する要因
    福田 理, 柳瀬 博, 渥美 信子, 入野田 芳子, 黒須 一夫
    1995 年 33 巻 4 号 p. 707-712
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    行動変容技法によるトレーニング後の笑気吸入鎮静法下の歯科治療が極めて困難であった自閉症および精神発達遅滞に対するミダゾラム経鼻投与と笑気吸入鎮静法の併用法の歯科治療時の臨床効果に影響する要因の検索を行ない以下の結果を得た.
    1)有効群の暦年齢15歳10か月±4歳8か月,無効群10歳6か月±3歳6か月で両群間に統計的な有意の差が認められた(p<0.05).
    2)自閉症は精神発達遅滞に比べ,無効群の割合が明らかに高くなっていた(p<0 .05).
    3)患児の体重,投与用量,投与薬液量,治療時間の長さ,性別には有効群,無効群で差は認められなかった.
    4)社会成熟度年齢は有効群3歳,無効群2歳11か月以下で両群間に有意の差は認められず,さらに,全ての検査項目で両群間に統計的な差は認められなかった.
  • 第3報 尿中カテコールアミン排泄に及ぼす影響
    福田 理, 柳瀬 博, 河合 利方, 渥美 信子, 入野田 芳子, 黒須 一夫
    1995 年 33 巻 4 号 p. 713-718
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    心身障害児の歯科治療時におけるミダゾラム経鼻投与(0.2mg/kg投与)と笑気吸入鎮静法の併用法の尿中カテコールアミン排泄に及ぼす影響について検討するため,薬物療法を受けていない精神発達遅滞児22名の歯科治療前後の尿からドーパミン,ノルアドレナリン,アドレナリンを定量分析した.
    被験者は笑気吸入鎮静法下の歯科治療時に激しい拒否行動を示し,治療が困難で本法を応用した経鼻投与群,笑気吸入鎮静法単独応用で円滑に歯科治療が実施できた笑気群,笑気吸入鎮静法下の歯科治療時に激しい拒否行動のため抑制下の治療を実施した抑制群の3群に分類し,3群間の治療前後の尿中カテコールアミン量ならびに術前値に対する術後値の変化率を比較し以下の結果を得た.
    術前値においては,3群間の全ての指標に統計的な有意差は認められなかったが,術後値では抑制群のアドレナリン,ノルアドレナリンは経鼻投与群,笑気群に比べ有意に高い値を示していた.
    変化率では抑制群が他の2群に比べ全ての指標で高い値を示しており,とくにアドレナリンでは抑制群(244.8%)が笑気群(67.8%),経鼻投与群(25.4%)に比べ有意に高い値を示した. 一方,経鼻投与群は笑気群に比ベアドレナリン変化率が有意に低い値を示していた.
  • 第2報 形成窩洞レプリカのSEM観察
    後藤 譲治, 張 野, 一瀬 暢宏
    1995 年 33 巻 4 号 p. 719-727
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    噴射切削装置KCP-2001J型による形成窩洞の立体的な把握と,細部の詳細を知る目的で,乳歯に形成された単純窩洞のレプリカを作製し,走査型電子顕微鏡による観察を行った. その結果を要約すると以下の如くであった.
    1.噴射切削装置による形成窩洞のレプリカのSEM観察によって,窩縁部に丸味を持ち,窩壁部は比較的平滑で,窩底部への移行部には明瞭な点角,線角の認められない噴射切削による窩洞形態の特徴をより立体的に把握することができた.
    2.窩洞細部の観察では,プライマー処理,ボンディング剤を用いた実験群のレプリカでは,象牙細管内へのレジンの侵入が認められた.
    3.エッチング処理を伴った実験群のレプリカでは,窩縁エナメル質にレジンタグが,また窩底部に近い象牙質窩壁では,象牙細管中へ比較的長いレジンの侵入が観察された.
    4.噴射切削窩洞では,エッチング処理は不要とされているが,エッチング処理の併用はレジンの接着により有利と考えられた.
  • 田中 光郎, 松永 幸裕, 小野 博志, 門磨 義則
    1995 年 33 巻 4 号 p. 728-732
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    溶液のエナメル質に対する飽和度に影響する因子は,カルシウム,リン酸基,水酸基すなわちpHであるが,本研究では特にカルシウムの濃度に注目し,その変化がエナメル質の脱灰に及ぼす影響について検討した.
    ヒト小臼歯の9本からそれぞれ3枚ずつの切片を切り出し,140から160μmに研磨したものをネイルエナメルでコーティングし,エナメル質表面のみに長さ約5mmの窓を形成した. これを,乳酸0.1M,リン酸二水素カリウム23mM,アジ化ナトリウム3mM,pH4.4で,塩化カルシウムのみを7,14,21mMと変化させた3種類の溶液に25℃で浸漬した. 一週間後,コンタクトマイクロラジオグラムを撮影し,コンピューターによる画像解析によって,表層下脱灰を定量的に測定した. その結果,カルシウム濃度が7mMでは大きな表層下脱灰が見られたものが,カルシウム濃度の増加によって脱灰が減少し,21mMではほとんど脱灰が認められなかった.
    この結果から,脱灰液中のカルシウム濃度のみの増加によって,pHを含むその他の条件はまったく同一であっても,エナメル質の脱灰を抑制しうる事が明らかになった. これはカルシウムの齲蝕抑制能の理論的な裏付けの一つとなるものである.
  • 歯列弓形態ならびに咬合状態について
    斉藤 徹
    1995 年 33 巻 4 号 p. 733-752
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    吸指癖による開咬が乳歯列期に自然治癒した群と残存していた群,各18名の永久歯列での前歯部咬合状態・歯列弓形態について連続石膏模型を用い,三次元計測により比較検討を行い,以下の結論を得た. また歯列弓形態を表現する上での3次のスプラインの有用性についても検討した.
    1.存続群では永久歯列においても上顎中切歯の唇側傾斜が存続し,大きな水平被蓋を示した.
    2.中切歯萌出完了期にも存続していた中切歯に限局した開咬は,永久歯列においても自然治癒は見られなかった. この理由は存続群では上顎前歯萌出期における上顎乳犬歯間幅径の増大,歯槽の前方成長があまりおこらず,その結果前歯部の有効歯列弓周長が不足し,上顎中切歯の口蓋側への傾斜が阻止されるためと考えられる.
    3.治癒群でも上下歯の接触関係が回復したときに大きな水平被蓋を示す乳歯列では,永久歯列になって過蓋咬合となる危険性が高い.
    4.乳歯列の開咬は永久歯列の口蓋の高さには影響を及ぼさない. また下顎においては中切歯の挺出,唇側傾斜を起こす以外にはほとんど影響を与えない.
    5.存続群では永久歯列において上顎歯列弓の前後的咬合彎曲が大きく,また犬歯が高位を示す可能性がある.
    6.乳歯列開咬は上顎中切歯萌出前で乳犬歯間幅径増大の時期には治癒していることが好ましい.
    7.N-スプラインと差分商の導入によって計算された3次のスプラインは歯列弓形態を表現する上で有効な方法である.
  • 加納 能理子
    1995 年 33 巻 4 号 p. 753-762
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    オリゴ糖の一つである4G-β-D-galactosylsucrose(O-β-D-galactopyranosyl-(1→4)-O-α-D-glucopyranosyl-(1←→2)-β-D-fructofuranoside):ラクトスクロースは,その分子構造にラクトース骨格とスクロース骨格を有し,三次機能としてヒト腸内菌叢の改善を計る効果を持つ甘味度50%~70%の三糖類で,すでに整腸作用を目的として商品化されている. 本研究は口腔レンサ球菌によるラクトスクロースの代謝について検討することを目的として行った.
    1)ラクトスクロースを代謝基質とした場合,4種類の口腔レンサ球菌(Streptococcussobrinus 6715,Streptococcus gordonii Challis,Streptococcus sanguis ATCC 15914,Streptococcus oralis ATCC 10557)のうち,ラクトスクロース,ガラクトースで培養したS.oralis ATCC 10557が最も高い酸産生能を示した.
    2)S.oralis ATCC 10557によるラクトスクロースの分解は誘導されたβ-galactosidaseによるβ-galactoside結合の加水分解により起こった.
    3)S.oralis ATCC 10557におけるβ-galactosidase活性はガラクトース,ラクトース,ラクトスクロースの添加後5分以内に増加が始まった.
    4)S.oralis ATCC 10557の誘導されたβ-galactosidase活性は,ラクトスクロースで培養した菌の細胞膜成分で著しく高かった.
    以上より,S.oralisATCC 10557は,ラクトスクロースを代謝する際,β-galactosidaseが菌体の細胞膜の外側に短時間で誘導される. これがβ-galactoside結合を加水分解することによりラクトスクロースは菌体内に取り込まれ,酸産生の基質となることが明らかになった.
  • 畑 弘子
    1995 年 33 巻 4 号 p. 763-773
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,同一の歯垢で糖からの酸産生を短時間に繰り返し測定可能な新しい口腔内歯垢下pHテレメトリー法を用い,得られた種々の糖の酸産生率を比較すること,乳糖を繰り返し与えた場合の酸産生率の変化と,乳糖代謝酵素の誘導との関連を調べることである. ISFET-pHセンサー上に形成された歯垢に2%糖溶液100μlを滴下後pHの低下を5分間モニターし,被験者にワックスを噛ませてpHを戻し,約20分間隔で順次測定を繰り返した. ショ糖またはブドウ糖を連続してあたえると,初回の酸産生率は低く,2回目以降はほぼ一定であったため,実験開始時にどちらかの糖を2回あたえ,2回目以降のデータを比較の対象とした. 各種糖の比較では,ショ糖の酸産生率を100%とすると,果糖が56.9±20.0%,乳糖が16.9±6.1%,ソルビトールが1.3±1.3%,パラチノースが1.1±1.0%で被験者間に差はなかった. 乳糖を連続して与えた場合,乳糖の酸産生率は2回目には1.7±0.2倍に,3回目には2.8±0.6倍に増加した. 歯垢のphospho-β-D-galactosidase(P-β-gal)活性は乳糖洗口により有意に増加した(洗口前:16.8±2.4nmol/min/mg protein,20分後:35.6±10.4)が,β-D-galactosidase活性は変化しなかった. 電極上の歯垢から分離された乳糖発酵菌は,Streptococcus sanguis,S.oralis,S.gordoniiで,それら分離株ではP-β-gal活性が乳糖により誘導され,P-β-gal活性の上昇とともに乳糖からの酸産生が増加した.
  • 朝田 芳信
    1995 年 33 巻 4 号 p. 774-784
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    樋状根を遺伝学的観点からアプローチするための第一報として,34系統の近交系マウス下顎臼歯に於ける樋状根出現の有無ならびに出現頻度について検討したところ以下の結果を得た.
    1)34系統の近交系マウスのうち,AKR/J,C3H/HeJ,C57BR/CDJ,C57L/JおよびRF/Jの5系統において樋状根を有するマウスを発見した.
    2)樋状根の出現率はC57BR/CDJでは雌雄ともにほぼ100%認められ,C57L/Jの雌で90%,雄で100%認められた. また,両側性に出現する頻度は,C57BR/CDJでは86.7%,C57L/Jでは71.4%であった. 一方,AKR/J,C3H/HeJおよびRF/Jの3系統では,出現頻度が20~25%と低く,また両側性には全く認められなかった.
    3)出現部位が下顎第二臼歯であり,歯根癒合形態ならびに根管の形態的特徴から,ヒト樋状根と類似性は高いと思われた. しかしながら,近心根と遠心根とが舌側で癒合しており,ヒト樋状根とは癒合部位において違いが見られた.
    4)C57BR/CDJおよびC57L/Jの2系統は出現頻度および両側性頻度が非常に高く,雌雄差がないことから,樋状根成因に対し遺伝学的観点からのアプローチが可能と考えられる.
    5)C57BR/CDJおよびC57L/Jの2系統は,同一起源であり,樋状根高出現率マウスであることから,マウス樋状根を進化としての退化形と捉えることが出来る可能性が伺われた.
  • エックス線写真観察による研究
    小島 寛, 三浦 真理, 小口 春久
    1995 年 33 巻 4 号 p. 785-791
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    7歳未満の患児を対象とし,感染根管を有する下顎乳臼歯98歯についてデンタルエックス線写真を観察し,根尖部骨透過像,病的歯根吸収,根尖部炎症の根分岐部および後継永久歯胚への波及について診査した.
    近遠心根それぞれについて調べたところ,歯槽骨病変(-)歯根吸収(-)が49根,歯槽骨病変(+)歯根吸収(-)が23根,歯槽硬線消失のみで歯根吸収(+)が12根,歯槽骨病変(+)歯根吸収(+)が112根であった.
    歯槽骨病変が根尖部から根分岐部中央を越えたものと根分岐部中央まで至らなかったものは,歯根吸収がない場合それぞれ4歯ずつであるのに対し,歯根吸収が認められた場合それぞれ69歯と21歯であった.
    乳歯の根尖性歯周炎が後継永久歯へ波及したものは15歯であった. そのうち,根尖部の歯槽骨病変が根分岐部中央まで至らなかったものは1歯であるのに対し,根分岐部中央を越えていたものは14歯であった.
    以上のことから,乳歯根尖部の病変は,歯槽骨吸収あるいは歯根吸収のいずれが先行したとしても,比較的短期間のうちに両者とも進行していくものと考えられた. また,その際,病的歯根吸収により起炎物質が溢出しやすくなると,根尖部の病変が根分岐部まで波及する割合が高くなるとともに,その病変は同心円状に進行するのではなく,歯根膜腔に沿って根分岐部方向に進行するものと考えられた.
  • 松浦 葉子, 東 まり, 松野 俊夫, 武井 謙司, 前田 隆秀
    1995 年 33 巻 4 号 p. 792-799
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児の取扱い(Behavior contfol)は小児歯科学の重要な分野であり,種々な研究が報告されているが,その主たる対象は歯科治療時の取扱い困難児である. しかし治療中歯科医に協力的であったとしても大きなストレスを受け,耐えている小児も存在すると思われる.
    最近,著者らは長女の突然の死により両親が大きなショックを受け,それを機会に医療に不信を抱くと同時に患児である次女を溺愛し,過保護,過干渉となったために歯科受診毎に発熱が現れたと思われた3歳女児を経験したので詳細に検討した.
    1)受診日,自宅では平熱であるが来院すると発熱を認め帰宅すると平熱に戻った.
    2)歯科治療中,患児は歯科医に対しては極めて協力的であり処置はスムーズに行えた. しかし歯科診療の場では患児は全くの無口であった.
    3)局所麻酔下,非局所麻酔下の歯科処置における発熱のパターンに違いがなかった.
    4)母子分離が発熱の要因と考えられるため歯科治療中に母親を導入したところ,熱型に変化がなく父親を導入したところ発熱を来した.
    5)両親に3種類の心理テストを行ったところ両親とも溺愛の傾向があり,特に父親に子供に対する養育態度に矛盾の傾向が強かった.
    以上より歯科受診毎の発熱は心因性発熱と診断した.
  • 船越 禧征, 橋本 智子, 繁田 幸慶, 大塚 芳基, 中西 孝一, 島田 桂吉, 木村 圭子, 大東 美穂, 大東 道治
    1995 年 33 巻 4 号 p. 800-804
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    口腔領域への異物の迷入は,食事中の食べ物(魚骨),交通事故(自動車のフロントガラス,砂礫)など,医原性のもの(注射針の破折および皮下気腫)などにより起こる. 皮下迷入異物は,そのほとんどが皮下気腫を除いて固形物であり限局性である.
    今回,私たちは口腔領域の皮下異物の迷入としては極めて稀な水道水が皮下組織へ広範囲に迷入した症例を経験したので,その概要を報告する.
    症例は2歳4か月,男児. 1989年6月13日浴室で遊んでいるとき,水道の蛇口を口にくわえ取れなくなり,母親が外してみると頬部,顎下部,オトガイ部,頸部ならびに前胸部が腫脹していた. 翌日,歯科受診し入院した. 入院時の所見では頬部,顎下部,オトガイ部,頸部ならびに前胸部にかけて腫脹,発赤がみられたが捻髪音は認められなかった. CT scan像から皮下組織内に広範囲にわたる水道水の存在が確認された. 全身的処置として抗生物質および抗炎症剤を投与し,また局所的処置として温罨法と前胸部のマッサージを行った. 入院後,3日目より症状は次第に軽減し,8日目には腫脹も消失し,何ら後遺症や機能障害を残すことなく軽快,退院した.
  • 岡 琢弓, 鈴木 康生, 佐々 竜二
    1995 年 33 巻 4 号 p. 805-814
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    近年,小児の外傷は増加傾向にあり,乳前歯では脱臼だけでなく,脱落も少なからず見うけられる. 従来より,上顎乳前歯の1歯または2歯の早期喪失症例では,床型の可撤保隙装置か可動型のPin&Tube型保隙装置が適応とされてきた. しかし,可撤保隙装置は患児によっては装着が困難であったり破損を繰り返すことも多い. また,高年齢であっても可撤保隙装置の異和感で,装着しない場合も少なくない. 一方,これまでのPin&Tubeでは支台歯となる乳歯を既製金属冠やジャケット冠とするため,健全歯であっても切削が必要であった.
    そこで今回,支台歯の切削を必要しない,メッシュを用いた接着性レジンによるPin&Tube型保隙装置を試作し,装置の改善も含めて臨床応用を試みた.
    今回対象としたのは上顎乳中切歯1歯の喪失例で,10症例に適応した. これらの症例のうち,歯列の成長に伴う側方拡大や,Pin&Tube部分の可動も確認された. そのうち比較的年齢の高い2症例は,後続永久歯との順調な交換もみられた.
    こうした結果から,本装置は機能的にも審美的にも優れ,臨床応用が十分可能であることが示唆された.
  • 大多和 由美, 望月 清志, 藥師寺 仁, 町田 幸雄
    1995 年 33 巻 4 号 p. 815-822
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯根が標準的な数より多いヒト乳歯は永久歯に比べて非常に少なく,時として乳臼歯にみられるが,乳犬歯に発現することは極めて稀といわれている. 今回著者らは,東京歯科大学水道橋病院小児歯科外来を訪れた6歳4か月男児の上下顎両側の乳犬歯4本すべてが2根である一症例を経験した.
    家族歴,既往歴,全身所見においては,特記すべき事項は認められなかった.
    口腔内所見は,Hellmanの歯牙年齢IIIAである. 歯列弓の幅径および長径は,ほぼ日本人小児の平均的な値であった. 上顎正中部に逆性埋伏過剰歯を認めるほか,先天的欠如などの異常は認められなかった.
    上下顎左右側乳犬歯の臨床所見は,4本とも歯冠の形態的診査が困難となるような著しい咬耗あるいは齲蝕などによる歯質の実質欠損は認められなかった. 臨床的歯冠には過剰歯との癒合を疑うような形態的異常は認められなかった. 歯根はエックス線写真により各歯牙とも2根を有し2本の歯根は長さ,形態,外形にほとんど差は認められなかった.
  • 辻野 啓一郎, 田中丸 治宣, 町田 幸雄
    1995 年 33 巻 4 号 p. 823-832
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    第二大臼歯出齦後に,第一大臼歯の頬側転位が発現することは非常に稀である. 今回,両側第二小臼歯が先天性欠如し,第二乳臼歯が残存している下顎歯列において,第二大臼歯出齦後に右側第一大臼歯が片側性に頬側転位をきたした症例を経験した.
    本症例は3歳時から2か月間隔に観察し,乳歯,永久歯の早期喪失を来すことなく経過した20歳の女性である. 下顎両側第一大臼歯は第二大臼歯出齦前まで頬舌的にほぼ正常な位置にあった. 下顎第三大臼歯はエックス線写真により左右側でほぼ同様な状態で水平埋伏していることが確認された.
    累年模型の計測ならびに観察およびエックス線写真の観察により次のような結論を得た. 右側(転位側)において第一大臼歯近心面の最突出部は第二乳臼歯の遠心面の最突出部と互いに接触せず頬側にずれて位置していたことならびに第一大臼歯が完全に咬合関係を失っていたこと,その後上顎第一大臼歯の頬側咬頭外斜面と下顎第一大臼歯頬側咬頭内斜面が咬合接触するようになったことにより,右側のみで第二大臼歯と第三大臼歯の近心方向への力が第一大臼歯を頬側に転位させたものと考えられる. このように第二大臼歯出齦後も稀ではあるが,大臼歯部に局所的な歯列不正が起きる可能性があるため,第二大臼歯出齦後においても臨床的に咬合管理を行う必要性が示唆された.
  • 八重澤 貴子, 蓜島 桂子, 富沢 美惠子, 野田 忠
    1995 年 33 巻 4 号 p. 833-841
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    新潟大学歯学部附属病院小児歯科外来において,昭和54年9月から平成6年6月までの14年9か月の間に経験した,中心結節の破折が原因で歯内療法を施した歯根未完成歯7歯の経過について,臨床的並びにX線的に観察を行った.
    1)全症例の観察期間は,最短8か月から最長7年5か月であった.
    2)初診時年齢は,9歳2か月から12歳7か月であった.
    3)歯種は下顎第二小臼歯が5歯,上顎第二小臼歯及び下顎第一小臼歯が各々1歯で,初診時の歯根形成状態は歯根長の2/3から3/4程度であった.
    4)処置内容は,カルビタール®による生活歯髄切断法1歯,ビタペックス®による根管充填を,抜髄及び感染根管治療後に行ったものがそれぞれ3歯である.
    5)X線写真より,生活歯髄切断例では約3週間で切断部位での庇蓋硬組織の形成が確認され,正常な歯根発育が見られた. 抜髄例では3歯中2歯に,硬組織による根尖閉鎖後の歯根の伸長が認められたが,感染根管治療例では歯根の伸長は認められず,硬組織による根尖閉鎖のみが確認された. また,根尖部硬組織の添加範囲には症例によって違いが見られた.
    6)中心結節の破折の早期発見と適切な処置により,根尖の閉鎖あるいは歯根形成を促すことができた.
  • 高見 由佳, 進士 久明, 副島 嘉男, 本川 渉
    1995 年 33 巻 4 号 p. 842-848
    発行日: 1995/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    低位乳歯とは,隣接する乳歯を結ぶ咬合平面もしくは辺縁隆線の高さより低位の状態に変化したものを呼んでいる. 今回,我々は歯牙の欠損を主訴として来院した2歳4か月,男児の長期経過観察によって若干の知見を得た. 初診時の口腔内所見は_??__??__??_で,_??__??__先天性の欠如,_??__??__??_の形態異常が認められる. 家族歴に特記すべき事項はない. 全身状態は良好. 既往歴として,1歳9か月時に体幹部及び四肢に火傷を負い某病院に3か月間入院,治療のため体を拘束された状態で,入院して約4週間目から咬唇癖が始まり下唇が壊死するに至ったため切取り縫合し,その後,クレンチングを始め5~6週目にかけて11本の歯の脱落を認めた. 初診時には,萌出完了していた_??_が経年的観察の結果,徐々に低位化し5年4か月後には歯肉下にすべて埋伏してしまったので抜歯を行った.
    X線所見では,患歯の歯根膜腔及び歯槽硬線は明瞭ではないが,根尖が吸収しているのが認められた. 抜去歯牙のH・E染色による組織学的検索の結果,各歯根吸収部には歯槽骨様硬組織が付着しているのが認められた. 低位乳歯の原因については,さまざまなことが述べらているが,今回の症例は火傷のストレスからくる異常な咬合圧により,歯根膜腔組織に異常を生じ,ankylosisを引き起こしたのではないかと考えられる. また,他の脱落歯に関しては,異常な咬合圧が原因となり脱落したのではないかと考えられた.
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