樋状根を遺伝学的観点からアプローチするための第一報として,34系統の近交系マウス下顎臼歯に於ける樋状根出現の有無ならびに出現頻度について検討したところ以下の結果を得た.
1)34系統の近交系マウスのうち,AKR/J,C3H/HeJ,C57BR/CDJ,C57L/JおよびRF/Jの5系統において樋状根を有するマウスを発見した.
2)樋状根の出現率はC57BR/CDJでは雌雄ともにほぼ100%認められ,C57L/Jの雌で90%,雄で100%認められた. また,両側性に出現する頻度は,C57BR/CDJでは86.7%,C57L/Jでは71.4%であった. 一方,AKR/J,C3H/HeJおよびRF/Jの3系統では,出現頻度が20~25%と低く,また両側性には全く認められなかった.
3)出現部位が下顎第二臼歯であり,歯根癒合形態ならびに根管の形態的特徴から,ヒト樋状根と類似性は高いと思われた. しかしながら,近心根と遠心根とが舌側で癒合しており,ヒト樋状根とは癒合部位において違いが見られた.
4)C57BR/CDJおよびC57L/Jの2系統は出現頻度および両側性頻度が非常に高く,雌雄差がないことから,樋状根成因に対し遺伝学的観点からのアプローチが可能と考えられる.
5)C57BR/CDJおよびC57L/Jの2系統は,同一起源であり,樋状根高出現率マウスであることから,マウス樋状根を進化としての退化形と捉えることが出来る可能性が伺われた.
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