日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
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第67回(2016)
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一般研究発表(02) 体育社会学
  • 片岡 尚也
    p. 105_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     近年多発するスポーツ界や運動部をめぐるいじめ、未成年による飲酒や暴力事件をはじめとした不祥事は、メディアを通して社会的関心を集める。そして、このような不祥事を起こした運動部は、所属組織により処分が科されることになる。不祥事に関するこれまでの研究は、その発生原因(杉本、2013)や処分に対する責任性に着目した研究(大嶺・友添、2014)などがなされてきた。しかし、実際に不祥事を起こした運動部やその部員がどのように変容していくのかについては十分に検討されていない。そこで本研究は、不祥事を起こした大学運動部を事例に、不祥事を起こした当事者だけでなく、他の運動部員も含め、彼らが「無期限活動停止処分」をどのように意味づけながら更生していくのかを明らかにすることを目的とした。不祥事が発生してからの経時的な流れに即して、対象の運動部員に対して複数回のインタビューを行った。その結果、対象者らは「無期限活動停止処分」を「不安」や「絶望」を生む負の装置として意味づける過程から、「部活動から離れる」ことで「成長」や「おかげ」という価値ある体験として意味づけていく過程がみられた。

  • 「軍隊起源説」の再検討
    鈴木 秀人
    p. 106_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     我が国の運動部に見られる「体罰」や「しごき」といった暴力的行為のルーツとして従来語られてきた所謂「軍隊起源説」には、1930年代にミリタリズムの影響で運動部が変容していったとする戦前起源説と、戦後に軍隊経験者が運動部に軍隊の行動様式を持ち込んだとする戦後起源説がある。本研究者による戦前・戦後期の運動部経験者に対するインタビュー調査等では、その2つとも当てはまらない旧制高校、2つとも当てはまる私立大学予科、戦前説のみ当てはまる師範学校等々、その実相は多様で複雑である。本研究では、「軍隊起源説」のように歴史上のある時点に起源を設定し、その一点から現在の問題状況が生起したと把握する理解を退け、かかる俗説による説明を日本の社会はなぜ共有、或いは許してきたのかを、戦後から高度経済成長期における「戦中派」の意識の変容を焦点に考察する。そこでは、軍隊経験に積極的な意味が見出されていく時期に、「戦中派」のスポーツ指導者が自身の軍隊経験とスポーツを結びつける言説が表明されていくことに注目する。

  • 「日常生活としての修養」における「個人」と「社会」の理想的なあり方に着目して
    高平 健司
    p. 106_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     嘉納治五郎は柔術を母体に自然体を基本とする柔道を創始し、「精力善用 自他共栄」の理念を掲げた。さらに、「武術」を「武道」にかえた。「嘉納の理想とした柔道修行(修養)」は「日常生活の修養」と同じ自利利他円満な構造である。そして、「それらの修行(修養)」の実践による「意識の厳密なる統一」として現前成就する「(自他不二)の実在」との関係は「現象」と「実在」との関係であり、その「実在」は「人格的行為主体」として作用する。この関係は仏教的にも儒教的にも解釈される。この関係に日常生活で「良知」を磨く「事上磨錬」を重んじる陽明学をベースとした三宅雪嶺の「現象即実在論」・「宇宙有機体」が応用され、(1)精力善用は①柔道技術に存する根本義であり、同時に②世の各般の事柄をなす上の原理(2)柔道の定義:①攻撃防禦の技術に存する根本原理であり、同時に②世の各般の事柄をなす上の根本原理たる身体精神の力を、最も有効に使用する道(1)(2)において、「①即②」の関係が成立し、三宅の「現象即実在論」・「宇宙有機体説」がその構成理論だと考えられる。

  • 倉品 康夫
    p. 106_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     アメリカンドリームとは修羅道サバイバル界である。スポーツ報道の定番とはこの弱肉強食界の祝福である▲大衆はスポーツ礼節を無視した場面(勝者:夢が実現した慚愧無き勝者の驕りvs敗者:挫折者として身も世もなく泣き崩れる)を見て一喜一憂し「一将功成りて万骨枯る」の格差社会の縮図を祝福する▲嘉納は「人として社会にたつ以上は社会の存続発展に適応する行動を取らざるを得ない。道徳とはすなわちこの社会の存続発展に適応するということ」で「それには互いに譲り、互いに扶けるということをしなければならぬ。そこで他人よかれと考えこれを行いつつ己をもよくし己をよくしつつ他の利をはかる。すなわち自他共栄の途に出なければならぬ」という▲闘争でなく、競争でなく、協調を、「ともに生きる」姿勢を教えて《他者救済》の菩薩道は災害が頻発する無常な草木国土において悉皆成仏を願う。嘉納面授の弟子が祖述したのが戦前の野外教育・活動であったと考えられる。自分も生き、しかも、他人も生きる関係性(縁起)を常に念頭に置く応災にも役立つ野外活動コンセプトについて検討する。

  • 子どもたちの運動遊びに焦点をあてて
    田嶌 大樹
    p. 107_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     近年、家庭の経済的状況によらずすべての子どもが等しく学力定着や愛着形成を行うための支援の場として放課後児童クラブ(学童)事業に新しい役割が期待されてきている。こうした中で、東京学芸大学では、平成28年度より附属学校、地域と連携した放課後児童クラブを設置し、放課後児童クラブ設置が及ぼす周辺地域への貢献の度合いと、貢献度合いを高める運営ならびに業務内容のあり方に関しての研究開発を行っている。本報告では、学生の参加を利用した「サービスラーニング」の研究開発や、学習支援等も含めた放課後プログラムの実施等、報告者自身が直接関与しているアクションリサーチを通じて得られた質的なデータをもとに、放課後児童クラブにおける生活の中でも、とりわけ、多様な形態で展開されている子どもたちの運動遊びに焦点をあて、その意味世界に迫ることを一つの手掛かりとして、附属学校、大学、地域の連携による放課後児童クラブ運営の社会的機能に関する可能性を検討してみたい。

  • 井上 翔太
    p. 107_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     21世紀における子どもたちに求められる力として、生きる力や情報活用能力があげられる。それらの力を身につけるためには、一人一人の子どもたちの多様性を尊重しつつ、それぞれの強みを生かし潜在能力を発揮させる個に応じた教育や、異なる背景や多様な能力を持つ子どもたちがコミュニケーションを通じて協働して新たな価値を生み出す教育(文部科学省、2011)が必要とされており、そのためのツールとしてICT(Information and Communication Technology)の活用が期待されている。学校教育におけるICTに関する研究は多く行われており、それは体育科も例外ではない。しかし、それらの活用方法には偏りがあるように思われ、ICTのいわば”Information”の観点からは多く活用されているが、”Communication”の観点からはあまり活用されていないと考えられる。そこで本研究では体育におけるICTの活用方法について、まず上記の視点の妥当性を雑誌等に掲載された授業実践の量的な分析を通して検討するとともに、”Communication”の側面へと広がる可能性について、他教科での取組を含めて考察し、これまでにない新たな視点を明示してみたい。

  • E市における要因分析に着目して
    横山 茜理, 永谷 稔
    p. 107_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     全国体力・運動能力運動習慣調査において北海道は男子も女子も全国平均より下回っている現状が続いており、肥満度状況も比例して高い(文部科学省、2015)。このような背景には、計画的・継続的に体育・健康に関する指導を推進することが重要であると北海道学校体育研究連盟は述べている(2015)。すなわち、具体的な体力・運動能力を向上する指針が求められている。そこで、本研究は北海道における子どもの体力向上の個人的要因を明らかにし、体力・運動能力、運動習慣を改善する要因を北海道モデルとして明らかにすることを目的とした。その結果、E市小学校にアンケート調査を1年生~6年生までを対象に実施した。調査内容は、個人的属性から運動習慣、運動有能感、家族環境などである。運動有能感については、男女差があることが先行研究でも報告されているが「運動やスポーツが嫌い」と答えているものが低いことから運動スポーツに対する好嫌度は良いイメージがあることが伺えた。しかしながら「上手な見本としてよく選ばれる」「運動で出来ない種目がたくさんある」などといった種目別の苦手意識が多くあることが示唆された。

  • スポーツ指導における男女の違いに着目して
    佐藤 馨
    p. 108
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     【目的】本研究は、将来のスポーツ指導者候補であるスポーツ系大学生の指導に対する意欲とジェンダー意識の実情を明らかにし、女性スポーツ指導者の登用促進のための基礎資料を得ることを目的とした。【方法】スポーツ系A大学3年生335名のうち277名から調査票による回答を得た(回収率82.7%)。【結果・考察】サンプルは男子74%、女子26%、将来のスポーツ指導に対して「したい」48.8%、「どちらとも言えない」40.3%、「したくない」10.9%であった。性別とスポーツ指導に対する希望に関してχ2検定を行った結果、有意差は見られず(χ2(2、N=277)=.265)、男女ともにスポーツ指導を希望する者が全体の約半数を占めた。さらに性別とスポーツ指導に対する自信に関してt検定を行なった結果、女子の得点は男子よりも有意に低く、女子は男子よりもスポーツ指導に自信がないことが分かった。さらに性別とジェンダー意識(平等主義的性役割態度)に関してt検定を行なった結果、男子の得点が女子よりも有意に低く(t(253)=4.54、p<.001)、男子は女子と比較して性別に対する平等意識が低いことが示唆された。

一般研究発表(03) 体育心理学
  • 下肢筋活動と足圧中心からの評価
    田中 美吏, 霜 辰徳
    p. 110_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究では、心理的プレッシャーが立位姿勢制御課題中の下肢筋における筋活動や足圧中心(COP)に及ぼす影響を調べた。18名の健常な男性が実験に参加し、バランスディスク上において利き足で片足立ちをし、バランスを維持する課題に取り組んだ。実験参加者には、各試行においてディスク上で30秒間姿勢を安定させることを求めた。習得試行の後に、カウンターバランスを考慮した2試行の非プレッシャー試行と2試行のプレッシャー試行を実施し、プレッシャーには課題パフォーマンスに基づいた賞金と罰を用いた。プレッシャー下では状態不安、主観的な緊張度、心的努力、及び心拍数の全てが有意に増加したことから、ストレスの喚起には成功したといえる。プレッシャー下での利き足の筋活動に関しては、ヒラメ筋の筋放電量の有意な増加とともに、ヒラメ筋と前脛骨筋間の共収縮率も有意に増加した。プレッシャー下でのCOPに関しては、外周面積が非プレッシャー下に比べて有意に減少した。プレッシャー下における姿勢制御のこれらの機能変化には、注意の内的焦点化、不安などの感情状態、さらには下肢の筋や関節のスティッフネスを高めるための運動方略が関与していると考えられる。

  • 大野 真澄, 白木 善英, 山本 真史, 小高 泰, 久代 恵介
    p. 110_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     運動を行うには、空間情報が必須である。空間情報を正確に知覚・記憶し、目的の運動を達成させるために視覚は重要な役割を担う。視線を空間内の対象物に向けるには、質量の小さい眼球だけを回転させればエネルギー効率的には有利であるが、多くの場合、頭部の回転も協調して生じる。このことから、頭部を能動的に回転させることは方位の記憶正確性の向上に寄与しているのだろうかという疑問が生じる。本研究では、これを検証する目的で水平面内の方位記憶再現課題を実験参加者に行わせた。方位の記憶と再現段階において、頭部を回転もしくは固定(眼球を回転)させる条件を設定し、方位の記憶・再現を正確に行うことのできる条件を調べた。解析の結果、記憶条件については、頭部を能動的に回転させた場合、固定した場合に比べて方位の再現正確性が有意に高かった(p<.05)。一方、再現条件による違いは見られなかった。この結果は、水平面内において方位を記憶する際、あえて質量の大きい頭部を回転させることにより正確性を高める機構が存在していることを示唆している。ヒトは無意識下にこの機構を利用して運動を生成・実行し、空間を巧みに捉えていると考えられる。

  • とび1回ひねりに着目して
    佐藤 佑介, 鳥居 修晃, 佐々木 正晴
    p. 110_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     体操選手は、空中においてパフォーマンスを行う際、眼球と頭部の協応運動を介して適切な視線行動を起こすことにより高度な成果を収めることができるといわれている。とりわけ、床面に着地する際の視線行動が重要であるとされている。本研究では、体操選手がとび1回ひねり遂行中に行う眼球および頭部の運動を同時に測定し、その視線行動を明らかにすることを目的としている。とび1回ひねりとは、直立姿勢のまま真上に跳び、身体垂直軸を中心に360°回転して着地する運動であり、実験参加者は体操競技の経験者および未経験者の2群である。左右方向の眼球運動をEOG(electrooculography)法で測定し、頭部を含む身体運動をハイスピードデジタルカメラで撮影し、その眼球の回転角度と頭部の回転角度とを加算し、とびひねり遂行中における視線方向を算出した。その結果、両群の参加者とも着地直前に視線が安定化する傾向を示したが、体操選手の方がその安定化が早期に生じ、その時間も長いことが見出された。着地動作を確実にする視線行動とは、その直前で視線の安定化を図る行動であり、それを通して外界を「見る」ことが重要であると考えられる。

  • 松竹 貴大, 夏原 隆之, 田部井 祐介, 中山 雅雄, 浅井 武
    p. 111_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究では、熟練したサッカー選手の状況判断時における脳内情報処理の特性を明らかにする事を目的に、競技レベルの異なる大学生サッカー選手26名(Expert群:13名、Sub Expert群: 13名)を対象に実際のプレー状況を想定した選択反応課題(3vs1パス回し課題、4vs2パス回し課題)における事象関連電位(event related potential:ERP)、筋電図反応時間(electromyography reaction time:EMGRT)及び反応時間(Reaction Time:RT)の測定を行った。結果、EMGRT、RTではExpert群がSub Expert群より有意に短かった。ERPにおいてはP300潜時、振幅ともに有意差は認められなかった。状況判断におけるExpert群とSub-Expert群の大きな違いは、正確に速く運動を実行できる(出力できる)ことであった。これらのことから、熟練したサッカー選手は状況判断を行い、プレーを実行する際「どのような状況か」という評価よりも、「何をすべきか」という反応・運動の処理が、より先行して賦活していることが示唆された。

  • 期待利得の変化が意思決定方略に与える影響の検討
    女川 亮司, 進矢 正宏, 工藤 和俊
    p. 111_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究は、時間経過によって期待利得が変化する状況での意思決定を検討した。ベイズ意思決定論では、期待利得が獲得可能な利得と成功確率によって推定される意思決定モデルが示されている。このモデルでは、期待利得が最大となる意思決定方略が最適であるが、いくつかの実験において非最適な意思決定方略が選択されることが報告されている(e.g. Wu et al.、2006; Ota et al.、2015)。このモデルでは期待利得の時間変化を考慮していないのに対し、スポーツにおける意思決定は時間制約を受け、利得や成功確率が時々刻々と変化する中で行われる。このような状況では時間的な不確実性が付加されるため、最適な意思決定をとることが更に困難になる可能性がある。そこで本研究は期待利得が漸減する複数ターゲットに対する選択反応課題を用い、時間的に期待利得が変化する状況での意思決定方略を分析した。期待利得の漸減は「利得関数の変化」と「成功確率の変化」の2条件によって生じさせた。その結果、期待利得の時間変化が意思決定方略に影響を与える可能性が示唆された。

  • 過小バイアスおよび等方性バイアスの検討
    山本 浩之, 進矢 正宏, 工藤 和俊
    p. 111_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究は、テニスにおける打球分散推定および評価の熟達差を検討した。これまでの研究は、熟練者ほど打球分散が小さいことを明らかにしてきた(Sakurai et al.、2000)。また、種目歴の長い者ほど、打球分散を適切に推定できると考えられる。特に、ミスによるポイントの帰結が多いとされるテニスにおいて、この認知的能力は重要である。一方、運動分散に対する内部表現では、過小バイアスおよび等方性バイアスという認知バイアスが報告されている(Zhang et al.、2015)。よって、テニス歴の長い者であっても、認知バイアスが生じている可能性がある。そこで本研究では、テニスの打球調節課題を行い、分散推定の認知バイアスについて検討した。参加者は、アマチュアテニスプレーヤー35名であった。参加者は、二変量正規分布を仮定したPC上のシミュレーションで、x,y方向の標準偏差、相関係数のパラメータ操作により、打球分散の事前分布を推定した。次に、的へフォアハンドストロークを50球、打球した。全打球後、事後分布を評価した。分析指標として、誤差距離、誤差楕円面積を用いた。結果として、テニス歴の長い者であっても、事前分布を等方性傾向に推定することが示唆された。

  • スローモーション再生呈示による動作認識の検討
    福原 和伸, 丸山 智子, 緒方 貴浩, 佐藤 文平, 井田 博史, 樋口 貴広
    p. 112_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     近年、テニスの打球方向予測において、熟練者は対戦相手のボールやラケットなどの局所的な(local)運動情報に注意を向けすぎずに、全身運動を俯瞰的に捉える大域的な(global)知覚方略を利用することが報告されている(Huys他、2009)。本研究ではこの知覚方略の特徴を検討するため、テニス熟練者がどの程度正確に動作を認識しているのか(動作認識)を、スローモーション再生呈示により明らかにすることを目的とした。一般に、スローモーション再生呈示は、通常よりも対象動作がゆっくりと観察できるため、その動作特性を正確に認識する効果があるとされている。実験ではスロー再生(等速、0.75倍速、0.5倍速、0.25倍速)したフォアハンドストローク動作を呈示刺激として、打球方向の予測判断(左・右)ならびに動作認識(ボールと体幹中心の位置評価)について熟練度の効果を調べた。実験の結果、スローモーション再生呈示は予測判断の成績を変えるほどの効果はなかったが、熟練者の体幹中心に対する動作認識を改善させた。以上から、熟練者の利用する大域的な知覚方略は、体幹の動作を的確に見極めることが鍵となる可能性が示唆された。

  • CG映像を用いて
    田中 ゆふ, 松尾 知之
    p. 112_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究では、競技熟練者が有する、意識には上らない微細な身体動作の変化に対する判別能力を調べることを目的とした。実験参加者は野球熟練者8名、非熟練者9名の計17名であった。観察映像にはCGで作成した投手の投球映像を用いた。投球映像は標準刺激となる動作を基準に投球腕側の肩外転角を操作した10種類を作成し、ランダムに呈示した(計400試行)。実験参加者には呈示された投球動作の投球腕の位置が標準刺激に比べて高いか低いか、その回答への確信度(50%-100%)を口頭にて回答させた。結果、野球熟練者と非熟練者での投球動作に対する主観的等価点は熟練者が優れている傾向が見られた。また、25%-75%弁別閾について、熟練者の範囲は非熟練者に比べて狭く、熟練者の微細な動作変化に対する判別能力の高さが示唆された。本実験では、回答に対する確信度についても同時に回答を求めたが、熟練者では回答の確信度に応じて高い正答率が得られる傾向が顕著であった。

  • 大学卒業後4年間にわたる縦断調査からの検討
    島本 好平, 清水 聖志人, 久木留 毅, 土屋 裕睦
    p. 112_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究では、ライフスキル(以下、LS)を活用したキャリア形成プログラムの開発に求められる知見を抽出することを目的に、高校及び大学生時代に優秀な競技成績を残して2011年3月に大学を卒業した男子レスリング競技者24名を対象として、4年間5時点(2011年、2012年、2013年、2014年、2015年のいずれも春期)にわたる縦断調査を実施した(有効回答率87.5%)。各々の調査ではキャリアステータス(正規雇用・非正規雇用・アルバイト等)を問う項目に加え、アスリートに求められるLSを10側面から評価可能な尺度を実施した。分析の結果、大学生トップアスリートの卒業後におけるLSのレベルの変動、キャリアステータスの推移等を長期的にモニタリングすることで、以下の3つの知見を得ることができた。1)卒業時点での正規雇用獲得者は21名中7名しかいないものの、その割合は漸増し、卒業から4年後には17名が正規雇用を獲得していた。2)大学卒業後、LSのレベルは経時的に有意に変動しないことが示唆された。3)大学卒業後のキャリアステータス及び最終希望職の獲得と特定のLS(目標設定、考える力、最善の努力)とは、正に関連することが示唆された。

  • 壺阪 圭祐, 島本 好平, 木内 敦詞
    p. 113_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     文部科学省(2013)は「新しい時代にふさわしいスポーツ指導法」の確立を目指し、「スポーツ指導者の資質向上のための有識者会議」を設置した。そこでは、指導者における競技横断的な知識・技能を有するコーチング(Coaching:以下、C)の獲得が課題とされている。そこで本研究の目的は、壺阪ら(2015)によって見出されたライフスキルの獲得を促すコーチングスキルの4側面(可視化を促すC、感謝する心の育成を促すC、自発的な行動を促すC、目標達成を促すC)を指導者に求められる競技横断的なCとし、同コーチングスキルの獲得の様相を探る手がかりとして、同スキルの獲得パターンをもとに指導者を類型化することであった。対象者は関西、関東地区の中学・高校・大学年代のスポーツ指導に携わる指導者551名(男性458名、女性93名、平均年齢:41.9 ±10.9)であった(有効回答率97.5%)。大規模クラスター分析を行った結果、「自発的な行動を促すC低群(n=138)」、「可視化を促すC低群(n=116)」、「C全体低群(n=87)」、「感謝する心の育成を促すC低群(n=123)」、「可視化と目標達成を促すC高群(n=87)」の5つのクラスターに分類されることが示された。

  • 松山 林太郎, 関矢 寛史
    p. 113_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     競技スポーツにおいて、特定の競争相手に当たるライバルという存在がある。本研究では競技者が持つライバル観の構造を明らかにし、さらに競技者のライバル観と達成動機との関係を明らかにすることを目的とした。高校生競技者351名に筆者作成の競技者のライバル観尺度と若山(2006)のスポーツ達成志向性尺度を回答させ、共分散構造分析を行った。その結果、ライバル観として先行研究にある‘相互性・互恵性’や‘競争意識’の他に‘環境性対立意識’と‘反道徳性’の2因子が抽出された。特に、相手を肯定的に捉えるライバル観だけではなく、‘反道徳性’という否定的に捉えたものもあることが示された。また、達成動機とライバル観に因果関係があることが示唆された。‘目標’や‘競争参加’志向の達成動機が高い競技者では、ライバルを肯定的に捉えた‘相互性・互恵性’のライバル観が強かった。さらに‘勝利’志向の達成動機が強い競技者では、‘反道徳性’のライバル観が強いことから、ライバルを否定的に捉えている可能性がある。そのため勝利することのみにこだわるのではなく、目標や競争参加を達成動機とすることでライバルとの健全な競争が行われると考えられる。

  • 池田 理紗, 木島 章文, 佐藤 海里
    p. 113_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     他者からの要請に応じて行動する性質を向社会性という。担任教諭に対する調査をもとにリーダー性が強い児童とフォロワー性が強い児童を集め、彼らが連続的共同行為を行うにあたって発揮する向社会性を観察した。第2・3・6学年の学級それぞれからリーダー:フォロワーの人数配分が4条件(0:3、1:2、2:1、3:0)で異なる3人組を複数組作成した。直径約700mmのビニール製円盤の円周上に3点の把持点を等間隔で設置し、各点を各者に把持させて円盤ごとボールを10秒周期で上下動させた。上下動にあたってはボールを中心に留めるように教示し、試技中にボールが落下しないように円盤の縁(へり)にせり上がりを持たせた。試技中のボール挙動を分析した結果、第2学年では縁上の1点に居つく傾向が強かったが、リーダーの人数が増えると、縁上あるいは円盤を横切るようにボールが動き出した。しかし第3学年では逆に、円盤上で動くボールを縁へと留めるようにリーダーが働く傾向が強かった。第6学年ではリーダーの人数に関わらずボールが中心に留まる傾向が強かった。こういった学年間の差から児童の向社会性の発達過程を議論する。

  • 升本 絢也, 乾 信之
    p. 114_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     我々の先行研究は2人の参加者が同時に力発揮し、その総和を2つの目標値に対して周期的に一致させる課題を行い、2人の力が負の相関になり、相補的な力発揮が行われることを見出した(J. Neurophysiol., 2013; 2015)。本研究は2人がジョイント・アクションを行う時に第三者から妨害を受けると、その誤差を補正するために2人の協力者は相補関係を作るかどうか検討した。実験は大学生男子が三人一組の10組で行った。グループ内で協力関係にある2人の参加者は示指で同時に力発揮し、その総和を目標値に一致させる課題を行った。残りの一人は母指または示指で力発揮し、協力関係にある2人の力を加算または減算して妨害した。その結果、妨害の有無に関わらず、協力関係にある2人の力発揮は負の相関関係を示し、2人は相補的に力発揮を行っていた。さらに、妨害がない時は有る時より力の絶対誤差と標準偏差が大きかったが、妨害が有るときは無いときよりも2人の力の負の相関関係が強かった。したがって、妨害はジョイント・アクションのパフォーマンスを低下させたが、相補的力発揮を促進した。

  • 平川 武仁
    p. 114_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     漸増速度に伴う上腕と大腿との相対的な安定性の動的変化を検討した。参加者は7名であり、測定課題は100m毎分で開始され、30秒ごとに10m毎分ずつ増速するトレッドミル上での競歩であった。右矢状面からビデオカメラで撮影し、右肩峰、右肘、右大転子、右膝を実座標換算・平滑化後、上腕と大腿の水平偏角を算出・標準化した。上腕に対する大腿の角度変位の遅延時間・埋め込み次元を算出し、3周期を抽出、300点に基準化した。相互再帰定量化解析によって最大線長を計算し、一要因分散分析をした。その結果、速度の主効果は有意(p<.05)であった。多重比較の結果、低速(200 m毎分未満)と高速(200m毎分以上)の最大線長が異なっていた。これは増速とともに上腕と大腿のアトラクタの隣接時間が急激に長期化することを示している。また、速度と最大線長に逆比例(最大線長=-4626/(歩行速度-276)+40)の関係が認められた。これは最大歩行速度(276m毎分)に向かって安定性が高まること、低速であっても上腕と大腿の関係が1歩行周期のうち13%程度(=40/300)の時間で相対的に安定していることを示している。

  • 横山 慶子, 山本 裕二
    p. 114_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     絶妙なタイミングによる華麗なパスワークのように、サッカーやホッケーなどの集団スポーツでは、コート上のプレイヤーの動きから、ヒトの高度で洗練されたチームワークを観察することができる。本研究の目的は、こうしたチームワークを実現するために、個々のプレイヤーが、どのように振る舞うべきかを明らかにすることである。そのために、3対1ボール保持課題を題材として、ヒト集団の動きを定式化した自己駆動粒子モデルを参考に、個々のプレイヤーを駆動する「見えない力」を運動方程式で記述した数理モデルを立て、課題における4名のプレイヤーとボールの動きをシミュレーションした。その結果、「空間の中心への誘引力」、「敵からの反発力」、「仲間との協調力」という3種類の「見えない力」をモデルに含めた場合に、熟練したサッカープレイヤーが示す同期的なチームワークを再現することができた。このことは、個々のプレイヤーが、空間や敵、仲間という3つの事象との距離間隔の変化に気づき、さらにその距離間隔に応じて変化する3つの「見えない力」を同時に察知して動くことが、高度なチームワークの実現に不可欠であることが示唆された。

  • 山本 裕二, 横山 慶子, 木島 章文
    p. 115_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     サッカーの攻防ではボールと選手が双方のゴール方向への移動を繰り返す。この動きはあたかも振動子のようである。実際の試合を分析した結果、ボールはほぼ2チームのディフェンスライン(DL)の間の移動を繰り返し、両チームのDLとボールとの距離の変化はほぼ逆相同期していた。そこで本研究では、このサッカーの攻防を連成振動として表現することを試みた。連成振動とは、2つ以上の振動子が相互作用しながら振動する現象を指す。ここでは、2チームのDLとボールの3自由度系の連成振動とし、2つの固定されたゴールの間に、ゴール-AチームのDL-ボール-BチームのDL-ゴールという順序で、これら3つの振動子があるバネ定数で結合していると仮定し、数値シミュレーションを行った。その結果、両チームのDLとボールとの距離の変化に、実データと同様の逆相同期が確認できた。すなわち、複雑に見えるサッカーの攻防、特にゴール方向へのディフェンスラインとボールの動きは、3自由度系の連成振動という、単純な物理モデルで説明できることを示唆する。

  • 来間 千晶, 関矢 寛史, 小川 茜
    p. 115_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、気持ちが切れた/切れなかった現象の構成概念および発現機序、気持ちが切れることの抑制要因を明らかにすることであった。質的研究手法を用いて18名の現役競技者の逐語記録を分析した結果、気持ちが切れた現象は、戦況など「気持ちが切れた原因」、プレーへの集中力の低下など「気持ちが切れている状態」、ポジティブ・ネガティブな感情など「気持ちが切れた試合後の反応」によって構成されていることが明らかになった。また、気持ちが切れなかった現象は、戦況の良し悪しなど「気持ちが切れそうになった原因」、戦意喪失など「気持ちが切れそうな状態」、他者のポジティブな言動など「気持ちが切れそうな状態から脱却するきっかけ」、ポジティブな感情の生起など「気持ちが切れそうな状態から脱却した後の状態」、試合結果に対する評価や感情など「気持ちが切れなかった試合後の反応」によって構成されていることが明らかになった。さらに、気持ちが切れることを抑制する要因として、試合前の高いモチベーション、他者のポジティブな言動、戦意の高まり、思考の転換、戦況の好転、体力の残存、気持ちが切れそうな状態における戦意の維持が挙げられた。

  • deliberate practice・deliberate playの観点から
    竹村 りょうこ, 加藤 貴昭
    p. 115_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、国際大会で活躍した一流女性テニス競技者を対象にし、パフォーマンスの向上を第一に高い集中力や努力が必要とされるdeliberate practice「計画的練習」と、幼少期の楽しさの獲得を目的としたdeliberate play「計画的遊び」の両理論から、トップアスリートの熟達化要因の解明に取り組むことである。初めに、熟達過程において重要なかかわりが予想されるキーワードから、これまでの競技経験や環境を問う調査票と競技者の特徴的な経過を見出す効果的なインタビュー項目の作成を行った。次に、プロテニスプレーヤー(国際大会、全国大会上位入賞者)3名に対し競技環境調査票とインタビュー調査を実施し、得られた回答から各成長段階における主要要因の抽出と練習の質と量に関する傾向を細分化した。最終的に、獲得したデータとdeliberate practice・deliberate playにかかわる先行研究との関連性から、一流女性テニス競技者特有の熟達過程の把握、他分野・競技との比較からの考察など新たな解釈の可能性を示した。

  • 機能的文脈主義に基づく思考の個人別構造の解釈事例より
    有冨 公教
    p. 116_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     第三世代認知行動療法におけるアプローチの一つであるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、機能的文脈主義をその哲学的基礎としている(Hayes et al.、1999)。これによると、ある場面において生じる思考とは、その個人が辿った歴史や今置かれている状況(すなわち文脈)の相互作用によって生じる唯一無二のものであると理解される。そこで本研究は、スポーツの遂行中に生じる思考について、参加者本人の認識に基づいた解釈を求めることにより、その全体的構造と機能を個人別に検討した。まず大学生6名を対象に、インセンティブを用いた実験課題への参加を求め、その遂行中における思考を発話思考法により観測した。次に、得られた発話プロトコルについて、PAC分析(内藤、1993)を援用した面接調査を行い、各思考の内容やパフォーマンスに対する影響(+、-、0)について解釈を求めた。その結果、スポーツ中に生じる思考に対する解釈には多様な個人差があり、言語的な意味や内容が類似した思考であっても、それらに対するイメージやパフォーマンスへの影響についての認識は、個人によって大きく異なることが示唆された。

  • 受障時期による差異に着目して
    内田 若希
    p. 116_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、パラアスリートのスポーツキャリアの段階に応じた心理・社会的課題を検証し、支援方略を検討することを目的とした。男性7名、女性7名のエリート・パラアスリートを対象に、半構造化インタビューを実施した。得られたデータは、質的統合法により分析された。本研究では競技開始期から競技引退期までを対象に分析を行ったが、ここでは主に、競技開始期から発達期における受障時期による差異に着目し、結果を提示していく。分析の結果、先天性およびジュニア期に受障しているアスリートにおいては、自身の可能性の気づきを深める支援や、その後の競技生活を支える適切な競技者アイデンティティの土台の形成に向けて、言語的説得やモデリングを用いた育成の必要性が提示された。中途障害のアスリートにおいては、受障により喪失感や絶望感、自己否定などネガティブな心理状態を経験するが、パラスポーツを通して、目標の獲得や挑戦する気持ちを持つことで、生きることそのものへのモチベーションが喚起されていた。一方で、中途障害のアスリート特有の問題も複数挙げられた。

  • メディカルフィットネスクラブの日常を記述することを通じて
    古田 翔一, 豊田 則成
    p. 116_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の関心事は、健康運動指導者が指導を行う際に直面する「見立てのズレ」について質的に検討することにある。具体的に、本研究ではメディカルフィットネスクラブ(Medical Fitness Club:以下MFC)の健康運動指導者が直面している日常を記述し、可視化することを通じて、発展継承可能で有益な仮説的知見を導き出すことを目的とした。そこで、『健康運動指導者は、気になる運動実施者をどのように語るのか』というリサーチクエスチョンを設定した。研究対象者はMFCに従事する健康運動指導者4名とした。ちなみに、本研究者は約1年間に亘ってMFCにおける日常をフィールドノーツに書き留めてきた。その観察記録を質的に分析する中で、健康運動指導者が運動実施者を指導する際に「見立てのズレ」に直面していることを確認した。このような背景から、研究対象者に対して1対1形式の半構造化インタビューを複数回実施し、会話内容を録音し、その後、逐語化し質的に分析した。その結果、健康運動指導者の指導における心理的メカニズム(仮)が導き出され、健康運動指導者が抱える問題や課題を可視化し、改善方略を検討することが可能となった。

  • 深見 英一郎, 岡澤 祥訓
    p. 117_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     運動部活動は、学習指導要領にその意義と留意点が記載され、学校教育活動の一環として展開されている。文部科学省は、運動部活動の指導の在り方について、生徒との意見交換を十分に行った上で彼らの主体的な取り組みを強調している。なぜ、運動部活動において生徒の主体性を尊重する必要があるのか。それは、運動部活動では、様々な体験を通して社会性や行動力等の育成が期待でき、日常的に自己選択や自己決定が求められることで自己実現の基礎を培うことができるからである。果たして、実際の運動部活動では、生徒の主体性を重視した指導が行われているのか。そのような運動部活動は生徒から高く評価されているかを明らかにしようとした。本研究では、運動部活動におけるチーム/個人の目標に対する意識と生徒の満足度に関する調査票を作成し、両者の関係を分析した。対象は、中学・高校の運動部員約8000名であった。その結果、チームに明確な目標があり、それをチーム全員で共有していること、また生徒一人ひとりが個人の目標をもち、その達成に向けて具体的な計画を立て、努力できている生徒は満足度が高いことが明らかとなった。

  • 起床時コルチゾール反応(CAR)を指標として
    菅生 貴之, 門岡 晋, 熊谷 史佳, 寺澤 佑太
    p. 117_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     アスリートは慢性的にストレス事態にさらされやすく、心身両面の指標によってストレス状態を正確に把握することはバーンアウトの予防や競技力向上のために重要である。自律訓練法(Autogenic Training;AT)はストレス反応を抑制することが示唆されており、我が国のアスリートに対するスポーツメンタルトレーニングにおいてはリラクセーション技法としてよく用いられているが、実験手法による効果の検証は十分ではない。慢性的ストレスの指標として、起床後30分のコルチゾールの急激な上昇反応である起床時コルチゾール反応(Cortisol Awakening Response:CAR)がよく知られている。本研究ではCARを用い、ATの継続練習の実施に伴う慢性ストレスへの影響を検討することを目的とした。実験参加者は学生アスリート(18-22歳)であり、ATの自宅練習を実施した2週間のうちの3点(期間前・中・終了後)において起床直後および30分後の唾液採取を実施した。ELISA法により唾液中コルチゾール濃度の推定を行った。その結果、ATの継続練習開始前のCARは、練習中と比較して高値であることが示され、継続的なATの練習は、アスリートの慢性的ストレスを減少させることが示唆された。

  • 筒井 和詩, 進矢 正宏, 工藤 和俊
    p. 117_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、1対1の攻防における守備者の動きを数理モデルによって再現し、その熟練度を定量的に評価することを目的とした。1対1の攻防は二者の認知、運動能力が相互作用する複雑な現象である。先行研究では実測に基づいて1対1の攻防をモデル化し、成功失敗を分ける重要な変数を明らかにしている(Fujii et al.、2015)。この研究における守備者モデルは単一の認知、運動制御過程を仮定しているが、実際の守備者は熟練度によってその制御過程が異なる可能性がある。そこで本研究では、熟練度の異なる守備者の動きをそれぞれ数理モデルによって再現することで、守備者の熟練差について検討した。まず、11m四方のコート内で1対1の突破-阻止課題を行い、位置座標を取得した。なお、時間は無制限とし、決着がつくまで行わせた。次に、実測の守備者と守備者モデルの移動軌跡を比較し、残差平均によって評価した。未熟練守備者の動きは古典的追従モデルによって再現され、常に攻撃者に向かって進行していることが示された。また、熟練者の動きは予測モデルによって再現され、攻撃者の未来の位置に向かって進行していることが明らかになった。

  • 國部 雅大
    p. 118_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     球技スポーツにおけるプレーヤーの眼球運動を調べた研究において、静止状態でビデオ映像を用いて注視ストラテジおよび眼球運動特性を検討した研究や、実際のプレー中の注視方向を検討した研究などがみられるが、プレーを行う際における両眼の眼球運動特性に関しては詳細な検討がなされていない。そこで本研究では、実際にボールを扱う運動課題を行う際の両眼眼球運動の特性を検討することを目的とした。クラブチームに所属するバレーボールプレーヤー8名を実験参加者とし、ボールを用いた対人パス課題を行った。静止状態およびパス課題中のプレーヤーの両眼眼球運動をアイマークレコーダにより測定し、水平、垂直、奥行き方向の両眼注視移動および瞬目行動を分析した。その結果、プレー中は平常時に比べ瞬目頻度が低下したことに加え、パスしたボールの追従を行う際に、静止状態での奥行き方向の注視移動時に比べて、両眼がより対称的にボールを追従していることが観察された。実際のボールを用いた運動を伴う課題における注視移動において、静止状態で注視移動のみを行う場合に比べて、奥行き方向への注視移動がよりスムーズに行われることが示唆された。

  • 杉山 真人, 椿 武, 宮辻 和貴, 荒木 雅信
    p. 118_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     移動する対象物の捕捉の際には、Bearing Angle(以後BA)から得られる情報を利用しているという研究が報告されている。このBAは眼球運動や頭部の変位に基づいて導出されると推察される。そこで本研究は頭部の変位が捕捉行為の遂行にどのような役割を果たすのかを検討することを目的とした。実験装置は幅4mのスクリーンとターゲット投射用のプロジェクターで構成された。ターゲットの移動がプロジェクターを介してスクリーンに投射された。ターゲットは被験者から見て右から左に移動する仕組みであった。被験者はスクリーン正面に立ち、ターゲットの移動後自身も移動を開始し、到達地点にてターゲットの到達と自身の移動完了を一致させることを求められた。ハイスピードカメラにより被験者の試技を撮影した。3次元動作解析にて得られた座標データを元にBA及び頭部の向く方位を算出した。主な結果は,被験者はターゲットが高速で移動する時、比較的大きく頭部を回転させていた。一方、低速条件の時は到達地点とターゲットのおおよそ中間の位置に頭部の方位を維持していた。以上から、頭部の角度変位を踏まえた視覚的情報入力の方略は速度条件によって異なることが示唆された。

  • 堀田 義也, 山田 憲政
    p. 118_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     足部による重量の弁別課題においてSlade(2014)は異なる重さのシューズを5種類用意し、履き比べ、その違いを検知できるかという手法をとっている。また、村瀬(2007)らは、基準となるおもりを用意して他のおもりと比較するという2件法で検討している。このような重量の弁別課題では何度かおもりを交換しているため、その重量に対する感覚が途切れ、検知できる精度が落ちるのではないかと考えられる。そこで本研究では足の裏に水を貯める容器を取り付け、水を注入、吸引することにより、おもりを取り外すことなく連続的に重量を増減させるという手法を用いた。水を増減させる速度を(30ml/30s、60ml/30s、120ml/30s)の3種類に設定し、それぞれ30秒ごとに重量の増減を繰り返す。その際に増加、減少、変化なしの3択の条件を与え、解答させた。全体の傾向として重量の増加に比べ、減少した方が検知できる精度が低かった。詳細な結果や、実験方法等については、学会当日報告する。

  • 山本 耕太, 進矢 正宏, 工藤 和俊
    p. 119_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     多くの運動は解決方法に冗長性を持ち、学習過程で獲得される学習者の好みの動作パターンは一意には決まらない場合が多い。ジャグリング課題において、学習者の好みのパターンは、大別して離散的なものとリズミックなものの2つが存在することが報告された。しかし、人が運動を行う環境は必ずしも一定ではなく、様々な制約下で運動を遂行することが多い。そのような多様な制約下でのパフォーマンスにおいて好みのパターン間の差が見られるか、つまり多様な環境に対し複数の好みのパターンが同等の適応可能性を有するかは未明である。そこで、ジャグリング経験者11名を対象に、テンポが緩徐に変化するビープ音に合わせてジャグリングを行う適応課題を行い、パフォーマンスを各参加者の好みのパターン間で比較した。その結果、ビープ音とキャッチのタイミング誤差によるパフォーマンス指標は、好みのパターン間で有意な差が見られ、離散的なパターンを好みとする参加者のほうが良いパフォーマンスを示した。また、この差は、要求されるテンポに応じた適切なパターンの切替えが影響していることが明らかになった。

  • 質的統合法を用いた文献研究
    冨永 哲志, 土屋 裕睦
    p. 119_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的はスポーツ領域におけるコツ研究の現状と課題を把握することにあった。そこでは「スポーツ領域におけるコツ研究が抱える課題は何か」というリサーチ・クエスチョン(Research Question)を設定し、質的にアプローチした。具体的に「スポーツ」「コツ」というキーワードで論文を検索し、重要と思われる15本の論文を対象とした。対象論文の中でコツ研究の現状と課題を述べている箇所にラインを引き、質的データと位置づけ、質的統合法(山浦、2012)を参考に分析を行った。その結果、「【コツは非科学的であるという批判】の中【スポーツ運動学領域で隆盛】し【ジュニア期の効果的な指導法の確立のための基礎資料の獲得】を基に【コツに関連のある知見の蓄積】がなされている。その一方で【コツ自体を検討した研究は稀少】であるため【客観的な視点】のみならず【質を担保した質的研究の視点】から【他者との関わりの中でコツを捉える】ことや【新たな運動課題を研究対象とする】といった課題が挙げられている」という仮説的知見を導き出すに至った。

  • 今中 美里, 大高 千明, 藤原 素子, 中田 大貴
    p. 119_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     場依存型-場独立型は、個人の特性に影響する重要な要因であると知られている。本研究は、ダーツパフォーマンスにおける、認知スタイルの違いによる影響を明らかにすることを目的とする。18名の女性を被験者とし、認知スタイル(場依存型-場独立型)の決定には、EFTを用いた。被験者は、ブルを目掛けてダーツを投げるダーツ課題を、15投を1セットとし、3セット行った。また、表面筋電図を6箇所(尺骨手根屈筋、橈骨手根伸筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋内側頭、三角筋前部、三角筋中部)測定した。EFTスコアと、X軸のダーツスコアの修正値は、有意な負の相関を示し、ダーツ課題において、場依存型の人ほど修正力が高いことが示された。さらに、EFTスコアと橈骨手根伸筋の潜時のばらつきとの間に、有意な正の相関がみられ、場依存型の人ほどダーツを投げるタイミングのばらつきが小さいことを示した。これらの結果は、場依存型-場独立型の認知スタイルが、ダーツパフォーマンスに影響していると示唆される。

  • 標的周辺を取り囲む正方形の傾きはダーツ投動作に影響を及ぼす
    白木 善英, 山本 真史, 小高 泰, 久代 恵介
    p. 120_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     視野内に存在する正方形を視軸周りに傾けるに従い重力方向が傾いて知覚される現象は“Rod-and-frame effect”として知られている。本研究では、正方形の傾きが投動作のパフォーマンスに影響を及ぼすか否かを検証した。一般の健常成人10名にダーツの投げ矢を行わせた。標的とそれを取り囲む正方形(重力軸に対して傾きが0˚、15˚ 、30˚のいずれか)をプロジェクターにより投影した。各参加者は、ランダムな順序で投影された3つの傾き条件をそれぞれ40回、計120回試行した。パフォーマンスを解析した結果、0˚条件と比較して30˚条件では、矢の到達位置が有意に鉛直下側であった。また、0˚、15˚条件と比較して30˚条件では、投げ出し直後におけるダーツ重心の鉛直上向きの速度が有意に小さかった。このことは、標的周辺に配置された正方形が傾いた際、投動作のパフォーマンスに影響が及ぶ事を示唆している。本研究結果から、注視する標的からの視覚情報のみならず特に注意を向けていない周辺の視覚情報が、投動作のパフォーマンスを規定する一要因であることが示唆された。

  • 須波 真央, 星野 聡子
    p. 120_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     バレーボールのブロックにおいてリードブロックは、複数の選手がブロックに参加することが可能となり、現在最も主流となっている。特にセンターブロッカーは、レフトスパイカー、ライトスパイカーへのブロックにも参加するために、相手のセッターがトスをどこに上げるのかを早い段階で見極める能力が求められる。先行研究により、ブロック熟練者は、非熟練者に比べて、早い段階でトスコース判断の正答率が高くなり、トスコース判断時にセッターの腕周辺に視支点を置き、脚の動きなどを周辺視で捉えていたということがわかっている。しかし、トスコース判断時以前にも視線の移動がみられた。そこで、被験者の視線行動パターンを探り、正答率との関係性を明らかにする。センターブロッカーの視点から撮影した呈示映像を用い、被験者の視線行動をアイマークレコーダで測定した。その結果、熟練者はパサーのボールリリース以前に視線行動がみられたが、非熟練者ではあまりみられなかった。また、熟練者において追従運動を常に用いている被験者の正答率は、下位であったことがわかった。

  • 岡井 理香, 藤原 素子
    p. 120_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     中等教育における体育の学習場面では、教員から与えられた課題を遂行し、上達する生徒がいる一方で、同様の練習を行っても技能の向上がみられない生徒が見受けられる。本校ではその対策として、協同学習やICT機器を利用した動作分析などの手法を用い、効率的に運動技能の向上を図る授業を展開している。しかしながら、この過程においてもなかなか動きの改善につながらず、運動技能を高めることができない運動不振生徒が存在する。この状況は、出力系である“運動の結果”を付加的なフィードバックによって改善するだけではなく、認知系の要素にも着目して指導していくことの必要性を示している。そこで本研究では、高校2年生(175名)を対象に、ボタン押し課題と全身反応課題の2種の課題を用いて、①刺激が1種類である場合、②刺激が複数になった場合、③要求される課題が複雑になった場合の反応時間から、中枢神経系の情報処理能力と運動技能との関連について検討した。今回、“刺激を認知するまでの時間”と“刺激の認知から運動の発現までの時間”および“運動遂行時間”に着目し、運動不振生徒とそうでない生徒を比較した結果について報告する。

  • 漸増的流水刺激による掌の知覚について
    草薙 健太, 山田 憲政, 橋本 泰裕, 佐藤 大典
    p. 121_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     【目的】熟練者と未熟練者に対し漸増的流水刺激およびダミー刺激(漸増しない流水刺激)を掌に与えることで、熟練者と未熟練者の流水刺激知覚能力を正答率・反応時間より比較検討を行うことを目的とした。【方法】被験者は、全国大会出場以上の熟練した競技者11名と一般学生10名(50mを3種目以上泳げる泳力を持つ)で行った。被験者の掌には、0.50m/secから1.10m/secの漸増的流水刺激を4段階の漸増試技条件(0.05、0.10、0.15、0.20)で与えた。さらに、4試技条件には流水刺激が漸増されないダミー刺激を与え、被験者が流水刺激を正確に検知出来ているか検討を試みた。【結果】2要因の分散分析を行った結果、被験者の流速値変化(0.05漸増試技条件、0.10漸増試技条件、0.15漸増試技条件、0.20漸増試技条件)のないダミー検知率の平均は、熟練者で59.09( ± 49)%、63.64( ± 48)%、100( ± 0)%、100( ± 0)%、未熟練者で25.00( ±43)%、50.00( ±50)%、60.00( ±49)%、30.00( ±46)%であり、熟練者の方が未熟練者と比較してダミー検知率が有意に高かった(P < .01)。しかし、両群の反応時間に有意差はみられなかった(P > .05)。

  • 坂部 崇政, 高井 秀明, 大久保 瞳
    p. 121_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、バスケットボールのドリブルカット時における視覚探索方略について明らかにすることであった。本実験は女子学生37名の実験参加者により構成され、バスケットボールの競技歴により2群を設定した。熟練者群は大学バスケットボール部に所属する19名であり、非熟練者群はバスケットボールの競技歴のない18名であった。事前にバスケットボール経験者によるドリブル映像を撮影し、高さとテンポが異なる9種類(普通×普通、普通×速い、普通×遅い、高い×普通、高い×速い、高い×遅い、低い×普通、低い×速い、低い×遅い)のドリブル映像を作成した。実験課題は、ドリブル映像を観察しながらドリブルカットができると判断した時点で、利き手親指によるボタン押しで反応することであった。その結果、普通×普通条件におけるドリブルカットまでに要した時間(ドリブル映像呈示からボタン押しまでの反応時間)とボタン押しまでの注視時間の割合については、熟練度による違いはみられなかった。注視項目については、非熟練者と熟練者ともに、ドリブル腕周辺およびボール軌道上周辺に多くの視線を向けていることが明らかとなった。

  • ミニバスケットボール部所属児童と保護者への調査から
    生野 勝彦, 東山 明子
    p. 121_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツ少年団ミニバスケットボール部所属児童29人(6歳~11歳)と保護者28人を対象に「身につけたい力・つけさせたい力」についてアンケート調査を行った。活動初期段階の児童は技術・技能の向上に強く意識が向くが、経験年数が増すと技術・技能向上と同等に健康・体力の向上が意識されるようになり、友人・社交の欲求充足やバスケットボールの楽しさの享受等のチームワークを形成する帰属意識の高まりも見られるようになった。これらは競技に必要な持久力等の身体能力や精神力への理解が経験年数の増加に伴って高まったためと考えられる。一方、保護者は活動初期段階では楽しさの享受や健康・体力の向上を意識するが経験年数が増すと精神面の強化をより意識した。これらからミニバスケットボールに参加する児童の活動初期段階には基礎練習を通して体力の向上を図り、簡潔なプログラムによる充足感が得られる内容にすること、経験年数の増加に伴い共通理解しやすいチームプレイを取り入れ、競争とチームワークに意識を持たせることが重要であることが示唆された。

  • 中須賀 巧, 杉山 佳生
    p. 122_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、運動部における動機づけ構造の認知が競技引退観に与える影響について検討することである。目的を遂行するにあたり、運動部における動機づけ構造の認知が競技引退に対する態度に影響を与えるという直接的な関係と競技引退に対する適応資源を媒介する間接的な関係を想定した仮説モデルを設定した。運動部に所属する大学生を対象に質問紙調査を実施し、最終的に回収できた169名(男子140名、女子29名、平均年齢19.81 ± 1.20歳)を分析対象者とした。調査内容は、運動部における動機づけ構造測定尺度と競技引退観検査(競技引退に対する適応資源尺度、競技引退に対する態度尺度)であった。仮説モデルの検証には共分散構造分析を行った。分析の結果、運動部の動機づけ構造である「承認」は競技引退に対する適応資源に正の影響を与えており、「コーチの練習支援」は負の影響を与えた。そして、その競技引退に対する適応資源は競技引退に対する態度に正の影響を与えることを示した。これは、チームメイトが相互にサポートし合うことや選手自身の努力が認められるような運動部の雰囲気を創造することによってポジティブな競技引退観を高めることを示唆している。

  • 若月 優士, 水落 文夫
    p. 122_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     目標設定の有無と内容は、競技パフォーマンスや競技意欲に大きな影響を及ぼすと言われている。このことから競技成績や競技意欲の個人差に目標設定スキルの高低が関係していると考えられる。すなわち、目標設定スキル→競技意欲→競技成績というモデルが想定される。このモデルの当てはまりは、課題目標による目標設定が主となることで達成感が得られやすい競技成績の低い選手の方が高く、目標設定スキルによる競技意欲が得られやすいことが考えられる。すなわち、競技成績の高低により、競技意欲に及ぼす目標設定スキルの影響が異なると考えられる。そこで本研究では、競技者の競技成績の高低からみた目標設定スキルと競技意欲との関係を明らかにすることを目的とした。研究方法は、大学生競技者196名に対して心理的競技能力診断検査の競技意欲に関する項目と目標設定スキルに関するテストで構成された質問紙調査を行い、競技成績の低群と高群に分け、それぞれの目標設定スキルと競技意欲の関係について相関分析などを用いて検討した。その結果、低群では目標設定スキルと競技意欲との間に弱い関係が認められ、高群では目標設定スキルと競技意欲とに関係がみられなかった。

  • 藤田 勉
    p. 122_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     動機づけは意識により高められると考えられてきたが、社会心理学の自動性研究では、この考え覆す研究結果を提出している。スポーツ心理学では、達成関連語(例、目標、努力)を用いたプライミングという手法から運動行動の非意識的な活性化が実証されている。しかしながら、動機づけ雰囲気という概念があるように、動機づけ要因には、個人要因のみならず、環境要因も存在するはずである。そこで本研究では、「ほめられた」や「元気づけられた」など、動機づけの環境要因を刺激語としたプライミングにより、運動行動の非意識的な活性化の実証を目的とした。被験者は教養の体育実技を受講する大学生であった。本実験における動機づけ指標は、快適自己ペースによる自転車エルゴメーター運動中の心拍数とした。運動前には乱文構成課題による閾上プライミングを行い、実験群の刺激語には動機づけの環境要因に関する語、統制群の刺激語には動機づけとは無関連な語を用意した。プライミングは運動実施前に行い、運動中の心拍数を実験群と統制群で比較した。両群の心拍数を比較したところ、実験開始後の心拍数は実験群の方が統制群よりも有意に高かった。

  • 山下 拓郎, 藤田 勉
    p. 123_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     運動に対する動機づけ研究では、Deci and Ryan(1985、2000)によって提唱された自己決定理論が注目されている。この理論では、行動の理由の観点から尺度化された動機づけ尺度による研究が展開されてきたが、近年、目的の観点を導入した目標内容理論(Kasser and Ryan、1993、1996)に基づく尺度により研究が行われている。この理論は、目標の持ち方が動機づけと健康に与える影響について示したものであり、Sebire et al.(2008)により開発された運動に対する目標内容尺度を用いた研究が行われている。本研究では、スポーツキャリアと運動に対する目標の関係を検討する。大学1年生から4年生の805名を対象に質問紙調査を行い、小学校から高校までの運動部活動への参加の有無と大学入学後の運動部活動及びスポーツ運動系サークルへの参加の有無を回答させ、キャリアパターンを継続型、サークル移行型、離脱型、不参加型の4群に分類した。4群で尺度得点を比較した結果、継続型よりも不参加型の方が健康管理尺度の得点が有意に高く、不参加型よりも継続型及びサークル移行型の方が親密さ尺度の得点が有意に高かった。

  • 高桑 哲詩, 水落 文夫
    p. 123_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     自己肯定感の類似概念である自己効力感が高いスポーツ選手は成功経験を重ねることで、自己の有用感を高め、競技不安を減少させる(高野ら、2015)。また、杉浦(1996)はスポーツを通して運動適正としてのパーソナリティが変容する可能性があると述べている。そこで本研究では、競技不安の減少が自己肯定感に規定されること、その関係が集団競技と個人競技といった経験する競技形態によって異なるかどうかを検討した。調査対象者はスポーツ経験のある高校生と大学生の男女415名であった。対象者に対し「自己肯定性次元を測定する尺度」(平石、1990)と「スポーツ特性-状態不安診断検査:TAIS.2& SAIS.2」の2種類の質問紙調査を行った。なお、自己肯定性次元尺度は、原尺度の理念と質問項目を基に、因子分析により2つの下位尺度(対自己領域と対他者領域)で構成される新たな尺度を作成した。そして、それぞれの下位尺度得点の高さを基準に分類した3群(自己肯定感要因)と、競技種要因(集団競技、個人競技)の2要因を独立変数、競技不安を従属変数とした二要因分散分析を行った。その結果、対他者領域の高群と低群間における競技不安に有意な差が認められた。

  • 牛来 千穂子, 城間 修平, 水落 文夫
    p. 123_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     バスケットボールにおいて、3ポイントシュートを担う長距離シューターは、シュート時に時間的・空間的制約を受け、強いプレッシャーに曝され易い。成功率の高い優れた選手の語りを分析したところ、シュート時には「何も考えない」、「周りに左右されない」といった強力な集中状態が報告された。また指導者は、「シュートへの集中」、「成功への強い自信」、「エゴイスト」あるいは「利己的な原因帰属のバイアス」などの性格的側面を挙げた。つまり、心理的ストレスに曝される中でも、パフォーマンス維持を可能にする注意集中などの心理状態と、これらを導く性格特性があり、長距離シューターとしての「利己主義」がその要件になると考えられる。本研究では、長距離シューターのシュート時の心理状態と、必要な性格特性要件について検討した。様々なプレッシャーとパフォーマンスの関係を、心理的ストレッサーとストレス反応の関係とし、この関係を媒介あるいは調整する変数として心理状態と性格特性を想定した。そして、質的分析により得られた「利己主義」がシューターに必要な注意集中を高め、パフォーマンス低下を抑制するという仮説を質問紙法を用いて分析・検証した。

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