日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
ISSN-L : 2424-1946
第68回(2017)
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学会本部企画
企画シンポジウム1
(学習指導要領検討特別委員会)
  • 岡出 美則, 木原 成一郎
    p. 6_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツ庁が発足し、すでに1年が立った。この段階で、すでに、2020年東京オリンピック以降のビジョン作りがスタートしている。スポーツ庁が発足した中で、日本が海外に発信していける学校体育のシステムは何かを改めて明確にし、それを核にした海外への発信をしていく必要があるのではないだろうか。本シンポジウムでは、最初に、2015年11月17日にユネスコ総会で採択された「体育・身体活動・スポーツ国際憲章」の理念を受け、質の高い体育・身体活動・スポーツを実現するための欧州諸国の取り組みを、ユネスコの動向に詳しいパリ大学のProf. Dr. Claire BOURSIER氏からご報告いただく。次に、JICAのプロジェクトの一員として、ボスニア・ヘルツェゴビナが目指す民族融和の実現のため、保健体育の共通コア・カリキュラム策定支援、市民スポーツの振興支援に携わった経験を、橋本敬市氏にご報告いただく。最後に、これらの国際協力・開発支援の国際的動向を踏まえて、今後の日本が海外に向けて体育・スポーツに関してどのような発信を行おうとしているのか、スポーツ庁の国際課長、今泉柔剛氏にご報告いただく。これらを通して2020年以後の学校体育の未来を考えたい。

  • Claire BOURSIER
    p. 6_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     According to the growing of the sedentariness over the world and to its negative resulting consequences for the society, it is now mandatory to act. Following the socioecological model, the solution of this challenge can be found in a multi-sectoral approach involving all pillars of the society. School represents the corner stone of any project aiming to influence the future. It has been pointed out as a determining element in the impact of projects aiming to promote physical activity in children as well as in adolescents, particularly when combined with other actors such as the community (Biddle et al., 2012; van Sluijs et al., 2007). During school time, several opportunities are available in order to increase the time spent in physically active behavior (Pate et al., 2006). A quality physical education (QPE) plays a central role in such action of the school. In 2015, UNESCO proposed guidelines aiming to promote QPE all around the world (McLennan & Thompson, 2015). In fact, it appears that, in many countries, stakeholders as well as physical educators do not have the resources needed to change the current policies and practices. We will present the results of a study built on the collaboration between the ICSP, IFAPA and the National Academy of Sports of Madagascar. The project was designed to reform and modernize physical education and sports organization in this country. The cooperation focused on the improvement of the quality of physical education, school sports, and leisure/competitive sports practice. It was based on a bottom-up process involving 30 communities selected according to their geographical, social, and economical characteristics. The major aim of this process was to identify the priorities of the country in order to improve the quality of physical education in schools, sports clubs and communities emphasizing diversity, accessibility, inclusion and equity. Qualitative and quantitative approaches have been implemented in order to take into account the needs of the people and the available resources. We will present the outcomes of the process as experienced at Madagascar.

  • –ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける保健体育科カリキュラム策定支援–
    橋本 敬市
    p. 7_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     紛争終結後20余年を経たボスニア・ヘルツェゴヴィナでは現在もなお、紛争当事者だった3民族(ムスリム、セルビア人、クロアチア人)が民族別に異なるカリキュラムを使用し別々の教育を続けている。こうした教育の分断は紛争再発の原因にもなりかねないことから、ドナー社会は同国の教育統合を要請してきたが、同国内のセルビア人、クロアチア人は隣接する母国の制度に準拠したカリキュラム使用に固執し、国内統一カリキュラム導入に反対してきた。こうした状況下、国際協力機構(JICA)は約10年前、情報技術科(IT)の統合支援に成功。これが教育統合総体の触媒となり、一昨年から全教科で『共通コア・カリキュラム(CCC)』導入(3民族が最低限教育内容に含めるべき中核的課題(コア)を決めて基本カリキュラムを策定)プロセスが始まった。

     CCC導入決定を受け日本は「保健体育科(PE)」支援を決定した。これは①同国のPE教育がスポーツ・エリート養成に偏り運動が苦手な子がいじめの対象となってきた②同国が「スポーツを楽しみ、心身ともに健全な子供を育てる」という理念に関心を示したこと-等による。日本の経験・知見の共有が今、強く求められている。

  • 今泉 柔剛
    p. 7_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     2011年のスポーツ基本法の公布、2012年の第1期スポーツ基本計画の策定及び時を同じくして行われた2020年東京オリ・パラ大会の招致活動は、それまで国内中心だった我が国のスポーツ政策をして国際スポーツ界の動向に目を向けることの重要性を再認識させた。本年7月のMINEPSVIでは、①「万人のためのスポーツへのアクセスに関する包括的な構想の展開」、②「持続可能な開発と平和に向けたスポーツの貢献の最大化」、③「スポーツの高潔性の保護」の3つのテーマに基づいた実行指向型の提言が策定される予定である。その中で、体育が生涯にわたるスポーツへの参加や社会参画を促進させる手段として最も重要な手段である旨の提言がされる見込みである。

     スポーツ庁としては、このような国際動向を踏まえ、スポーツを通じて社会参加の推進や能力向上と健康増進を図ることを目的として「スポーツ国際戦略」を策定し、官民の関係機関同士の連携強化、関係機関の情報等の効率的活用を図ることで、健康長寿社会の実現を始めとした日本・世界の社会課題の解決に貢献することができると考えている。

企画シンポジウム2
(指導者育成・資格特別委員会)
  • コーチング・イノベーションの推進へ向けて
    深澤 浩洋, 阿江 美恵子
    p. 8_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     2013年以降、スポーツコーチングの現場で顕在化した体罰・暴力問題をはじめとする諸問題に対応すべく、グッドコーチ育成の機運が高まっている。日本体育協会が受託した「コーチング・イノベーション推進事業」では、コーチ育成のための「モデル・コア・カリキュラム」が作成され、それに基づき大学での授業展開も始まったところである。こうしたカリキュラム作成・授業展開に続き、その修了者の資格認定に係るコーチの資質を測定しそれを保証する仕組みづくりが今後の課題となる。そこで、本学会の指導者育成・資格検討特別委員会では、このような動きとの連携を視野に入れつつ、コーチを中心にスポーツ推進に関わる人材の質保証を担う制度の設計に向け、検討すべき諸課題を見定めたいと考えた次第である。本シンポジウムでは、日本に相応しい仕組みを模索するために、海外事例を参照しつつ、こうした一連の取り組みの意義と課題を共有することを目指す。コーチ等に求められる資質保証の仕組みをいかに構築してゆけるか探る機会となれば幸いである。また、それらに対し、本学会や大学等関係諸機関がどのように協働することが可能なのかという点も併せて考えてゆきたい。

  • 由良 英雄
    p. 8_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     科学的なコーチングの推進は、競技力向上のためにもコンプライアンス確保を含む人間力向上のためにも重要な課題である。スポーツ分野における暴力問題に端を発して指導者や選手がオープンで合理的な指導法を享受し、効果的な努力をすることができるようになるため、新しいコーチング手法の具体化に取り組んできた。また、家族やトレーナ、関係団体などのアントラージュに着目し、相互の連携協力により選手の競技環境を改善していく取組を促進するため、関係者の認識を高める取組を進めてきた。更に、コーチのコンプライアンス確保や選手に対するコンプライアンス指導については、教材の開発や研修の実施を進めるとともに、問題があった場合には速やかに事実関係を調査公表し、再発を抑制する取組を進めてきた。こうした各般の取組により、新しい時代の指導法の姿が描かれてきているところであり、今まさに、そのような新しい考え方を指導や指導者育成の現場で具現化していくことが重要となっている。2020大会など大きな国際スポーツ大会のレガシーとしても、この機をとらえて変革を加速する。

  • 江橋 千晴
    p. 9_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     日本体育協会では、「スポーツを安全に、正しく、楽しく」指導し、「スポーツの本質的な楽しさ、素晴らしさ」を伝えることのできる指導者を養成している。現在は、平成17年度に改定した「公認スポーツ指導者制度」に基づき、日本体育協会加盟団体等の協力を得て、資格付与のための講習会を実施しているが、制度改定後のスポーツ界を取り巻く環境や動向に鑑みて、新たな「公認スポーツ指導者制度」を構築していくことが不可欠となっている。そこで日本体育協会では、現行の「公認スポーツ指導者制度」を改定し、スポーツ指導に関わる国際的な動向を十分に踏まえた上で、平成27年に国が策定したグッドコーチ育成のための「モデル・コア・カリキュラム」を講習会に導入することにより、これまでの知識伝達型の学びの形態から、受講者の能動的な学習を可能とするアクティブラーニングを導入した講習会実施を目指している。現在は、新たな「公認スポーツ指導者制度」の構築に向け、スポーツ指導者養成の基本コンセプトを変更し、カリキュラム、資格認定基準等を検討する一方で、講習会実施に向けた協力体制を模索することが課題となっている。

  • ネメシュ ローランド
    p. 9_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     ヨーロッパにおけるコーチ育成と資格付与の状況について、本シンポジウムでは、ハンガリーを例に紹介する。ハンガリーでは、4段階のレベル(コーチ(修士相当コーチ、学士相当コーチ、スポーツコーチ、スポーツインストラクター)に分けられている。コーチ育成は、ハンガリー体育大学が主に担っている。一大学内でトップコーチから地域のコーチまでの育成を行っていることのメリットは、コーチングに関する様々な知の共有が容易だということである。また、ヨーロッパ内の資格制度に対して、ハンガリー国内における資格制度の対応が図られている。具体的には、ヨーロッパの8段階のレベルのいずれかに上記4つのレベルが対応しており、RINCK条約のもと、ヨーロッパ各国でコーチライセンスが保証され、ハンガリーのコーチが国外の職業的コーチに当たる資格を有している。

企画シンポジウム3
(若手研究者特別委員会)
  • 温故知新、そして若手ネットワークの構築に向けて
    清水 紀宏, 根本 みゆき
    p. 10_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     1950年の創設以来、日本体育学会は研究の方法・対象・領域の違いによって15の専門領域を構成してきた。関連して創設された個別独立学会の数は、専門領域をゆうに上回る。このような専門分化は、個々の領域における研究の高度化を促進し、今では、個別専門領域のみならず学際的な領域や親学問の領域で活躍する会員も少なくない。社会的状況に目を向けてみても、体育学が対象とするスポーツ・体育・健康・身体運動は、多くの人々や諸機関にとって共通の関心対象となっており、とりわけ学術的研究を通じたエビデンス産出に対するニーズの高まりが、個々の研究者の活躍機会を拡大している。

     一方で専門分化の進展は、関心と対象の特化した研究者の「雑居状態」と専門領域の「分立状態」を学会内につくってきたとはいえないだろうか。また個別専門領域の研究が高度化する中、体育学(会)が空洞化に向かいつつあることも否めない。個々の研究者にとって活躍の場が拡大したとしても、問題意識と研究関心が散逸し、学問を究めるための共通言語や論争の場が失われれば、体育学が総合科学として存在することの意味さえ疑われかねないだろう。本学会ではこれまでも、分化への危惧と統合の必要性について議論を重ねてきたが、必ずしもその統合原理を明確に示してきたとはいえない。折しも昨年3月「科研費助成事業審査システム改革2018」の中で審査区分改革案が公開された際、もはや体育学の固有性や独立性が自明ではなく、学問としての存在自体が危ぶまれる事態に我々は直面した。

     こうした状況の中で、体育学の次世代を担い、さらには次々世代の育成をも担う若手研究者は、どのような未来像を描くことができるだろうか。もとより体育学研究者としてのアイデンティティを共有することは可能なのか、その必要性はどこにあるのか。本企画は、日本体育学会のこれまでの歩みと変化する学会内外の状況を踏まえ、当事者である若手体育学研究者が自らの立ち位置を自覚的に問いながら、体育学の未来を展望する試みである。そして体育学(会)の再構築と発展的継承を担う、新たなネットワーク構築に向けた出発点を模索したい。

キーノートレクチャー
  • 井藤 彰
    p. 10_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     日本学術会議は「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」および「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること」を職務としている。しかし、その構成員は50~60歳代が中心となっており、次世代を担う若手科学者の声は必ずしも反映されていなかった。若手の立場から、いまある問題に対して智慧を絞り、発言し、活動することは、よりよい日本の未来に必須であると考えられる。こういった背景から、若手アカデミーの前身である若手アカデミー委員会から、提言「若手アカデミーの設置について」が平成23年9月に公表され(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t133-11.pdf)、平成27年2月に日本学術会議内に若手アカデミーが発足した。さらに、国内外の若手研究者をめぐる現状と課題は様々であることから、いわゆる「若手問題」における情報・意見収集などを目的として、若手アカデミー内に若手科学者ネットワーク分科会が設置され、国内の学協会における若手の会をつなぐ大規模ネットワークが構築されている(現在200以上の団体が登録)。本講演では、若手アカデミーの設立の背景、同組織の活動の特色と可能性、運営上の課題等を述べる。

パネルディスカッション
  • 寒川 恒夫
    p. 11_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     本学会は、1949年施行の“体育を必修とする新制大学”が要請する体育の学問化に応じるべく設立された。この設立経緯からして、本学会が“教育目的を前提する研究”に焦点を合わせてきたのは、当然のことであった。しかし1991年の大学設置基準の改正(いわゆる大綱化)は必修体育を担保せず、これが本学会のその後の活動に影響を及ぼしてきた。この影響は、ふつう悲観的に語られる。体育と体育研究とが、これが生まれた明治以来もっぱら教育それも国家の義務教育という庇護の畑で育ってきた背景から出るものであろう。棲み慣れた居心地の良い世界から足を踏み出す時かもしれない。むしろ、研究市場が大きくなったと喜ぶべきかもしれない。国の教育を担う在り方はなおも重要ながら、同時に、これまで経験しなかった大きくグローバルなスポーツ・健康市場が待っている。この魅力的な研究マーケットにいま本格参入するについて、さて本学会が心得ておくべきは、空中分解しないよう“教育目的を前提しない研究”を展開する諸専門領域研究をどのように統合するか、その理論武装であろう。これは、実のところ、たびたび論じられた問題ながら、いまこそ現実味を帯びているのである。

  • 高根 信吾
    p. 11_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     体育学は研究対象によって定義されており、研究方法によって定義される学問ではない。このことは、教育学においても同様である。それゆえ、時に体育学(あるいは教育学)は学問として確立していない、アイデンティティが不明瞭などと指摘されることもあるが、体育学(あるいは教育学)は総称として機能しているのであって、哲学や歴史学などの諸学問における方法をもって研究がなされ、これまで多くの成果を残してきた。このように体育学は教育学の一領域(下位概念)であるが、他方で、体育学は広義には健康科学やスポーツ科学を含んだ総合的な学問総称として、あるいは運動学などの同位概念として使用される多義的な用語・概念である。今日の日本体育学会が射程する体育学は広義の総合的学問総称としてのそれであり、研究対象は、体育のみならず、スポーツ・健康・身体・運動など多様化している。さて、体育学における人文系研究の特徴として、機関誌掲載研究論文の大半が単著であり、多くの場合、研究者が単独で研究を進めるスタイルであることが挙げられる。研究で使用される用語が難解で、多くの概念を含む傾向があることも特徴のひとつであり、研究者と実践者の間にギャップを生じさせる一因となっている。研究成果を実践現場にフィードバックさせることも研究の責務であり、今後はこのギャップを埋める機会の創出も求められよう。また、先日、恩師より「言行一致(インテグリティ)」について教えて頂く機会があった。私は研究者として、実践者として、言行一致を目指していきたいと思っている。

  • 福 典之
    p. 11_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     演者は、スポーツ種目適性やスポーツ傷害のリスクを規定する遺伝要因に関する研究を中心に進めている。これらの研究の質の向上にあたって重要なのは、データの再現性や機能解析である。エリートアスリートは極めて希な集団であるため自国での再現性試験は難しく、国際共同研究が重要となる。演者は現在、イギリス・アメリカ・ドイツ・スペイン・ロシア・スウェーデンなど多くの国の研究者と共同研究を実施しているが、従来の研究室単独で行う研究だけでなく、このような大規模な国際共同研究の必要性も感じている。我が国における研究者としてのプロモーションの現状では、筆頭著者の論文数が評価される若手~中堅研究者にとって、大規模な共同研究は自身の期待する評価に繋がらない可能性がある。若手研究者の育成のためにも総合的な判断基準で評価するシステムが必要であろう。また、文部科学省は国際共同研究を強く推進しているが、今後益々重要なのは国際共同研究グループの中でもリーダーとなれる人材の育成であり、体育学においてもこの点において例外ではない。体育学会としても、人材育成を支援するシステムを構築していただきたいと考えている。

  • 田中 暢子
    p. 12_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     近年、スポーツを取り巻く政策科学は、よくも悪くもマルチな領域であり、行政学、法学、社会学、教育学、健康科学などの様々な領域から政策を問える時代ではある。加えて、政策学を担当する教員は実践現場から転職したものも少なくなく、実践論として確立されつつもある。これらは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が決定した以降、さらにその傾向が読み取れるといっても過言ではない。とはいえ、政策科学を用いた政策学研究そのものは遅れているとも指摘できる。

     一方で、政策学がマルチであるとの特性を逆手に取って、1つの専門領域にクロスした領域、例えば「スポーツ政策学」という専門領域を基盤に置くことで自らの立ち位置を定めつつも、「障害者のスポーツ」「社会学」「経営学」など多角的な知識を身につけ、批判的な視点での分析ができうる力を養うことはできる。「何でも屋」になる必要はない。重要なことは、専門領域という研究者自身の立ち位置であり、立ち位置があるからこそ他領域と積極的な論争が可能となるのではないか。多様な社会に対抗する研究者にも、多様性があっても良い時代となったともいえよう。

  • 鈴木 宏哉
    p. 12_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     若手研究者特別委員会設置の趣旨は「若手研究者の日本体育学会への入会を促進し、会員であることのメリットを享受することができるとともに、将来の体育学会を担う人材を育成する」ことである。若手研究者特別委員会は各専門領域から選出された40歳以下の学会員と担当理事1名の計16名によって構成され、平成28年12月から約半年間、若手による学会大会企画、若手研究者交流促進の方略、会費減免措置の3つの検討課題を中心に議論した。体育学会は「体育学の進歩普及を図り、もって我が国の学術の発展に寄与することを目的」としているのであって、学問ではなく学会の発展を担う委員会ということに当初、少なからず違和感を覚えた。しかし、体育学に軸足を置きながら他の学問領域の専門性を有する研究者らが所属している体育学会には、一個人の考えや行動だけでは解決することができない体育学が取り扱う様々な課題を解決できる環境が整っている。しかし現状は専門領域間の交流は希薄である。その環境を整備するのが委員会の役目であろう。学会は我々に何をしてくれるのかではなく、社会の諸課題を解決するために学会をどう活用するのかを考える若手の会設立を早期に実現したい。

大会組織委員会企画
特別講演(公開)
  • 鈴木 大地
    p. 13
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     平成29年3月、文部科学省は、スポーツ庁創設後初めてとなる第2期「スポーツ基本計画」を策定しました。

     この第2期計画に掲げられた施策は、「~スポーツが変える。未来を創る。Enjoy Sports、 Enjoy Life~」という理念のもと、国民やスポーツ団体の活動を通じて実現される「スポーツの価値」が最大限発揮されるためのものであることに留意して策定されています。

     スポーツ行政を総合的・一体的に推進するために創設されたスポーツ庁の役割は、「スポーツ参画人口」を拡大することだけではなく、他分野との連携・ 協力により、新たな課題にも取り組む中でスポーツの新たな価値の創造を支援し、それらを高め、豊かな「一億総スポーツ社会」の実現を目指すことにあります。

     例えば、スポーツは積極的に社会を変える重要な媒体となり得るものであり、スポーツを通じて障害者、女性、子供、高齢者等の社会参画が促され、周囲の人々の意識改革が図られることで「共生社会」の実現につながっていきます。

     また、第2期計画では、スポーツを通じた健康増進や地域活性化、国際交流及び協力の拡充、スポーツビジネスの拡大などにも取り組むこととしています。

     2020年東京大会等を好機としてスポーツの価値を飛躍的に高めるとともに、大会後のレガシーとして確実に引き継がれ、持続させるためには、スポーツに関わる全ての人々が一丸となって取り組むことが必要です。

     この講演では、国民、スポーツ団体、民間事業者、地方公共団体、国等が一体となってスポーツ立国を実現できるよう、第2期計画に込められたスポーツ庁のビジョンと施策を解説しながら、日本体育学会を中心に、それぞれの団体に期待される役割についての意見を申し上げます。

学際的シンポジウム1
  • –スポーツプロモーションの意味を巡って–
    村田 真一
    p. 14_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     今日の体育・スポーツ振興は、高次元の質的充実へと転換を図ろうとしている。その特徴は、体育・スポーツ領野の一主体による“独唱型振興論”から、生活領野をトータライズする際に起因される多主体協働に基づいた“輪唱型推進論”への飛躍である。そして、この飛躍に併せて注視されるのが、ソーシャルイノベーションとの同期にある。本企画では、ソーシャルイノベーションとスポーツプロモーションの関連性を紐解きながら、大学と地域による真の協働方策について議論を促したい。議題としては、まず、ソーシャルイノベーションの考え方について近似概念との異同に留意しながら共通認識を図る。そして、スポーツプロモーションの在り方をスポーツへの価値づけを基に思考しながら、ソーシャルイノベーションとの関連性について理論的解題を図る。さらには、高等教育機関による教育体制や組織整備の事例報告、現場(産官民)が求める人材活用・養成の提案を通じて実践的解題を図る。議論の焦点としては、ソーシャルイノベーションを担う多主体(大学・行政・企業など)間の認識差異に注視しながら、特に高等教育機関が果たすべき役割について一定の理解を共有したいと考える。

  • 金子 郁容
    p. 14_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     ソーシャルイノベーションというコンセプトを最初に提唱したのが誰かは定かでない。しかし、それが社会のさまざまな分野を大きく変革するということをいち早く見抜き、「アショカ」というソーシャルイノベーターの支援とネットワーク作りをし、自らその先頭に立って活動しているのが、多くの人から尊敬されているビル・ドレイトンである。ドレイトンによると、ソーシャルイノベーションがインパクトを与えているかどうかの評価基準は以下の三つである。活動が「継続していること」「他の団体が真似をして広まっていること」「国レベルの政策に影響を与えていること」だ。スポーツの世界でも、そのような意味でのソーシャルイノベーションが次々と起っている。サッカーのJリーグはその代表例であろう。全国的に大きな話題になったり影響を与えたりはしていないが、小さな町で行政と住民が一丸となってマイナースポーツを町の誇りにして「生活領野をトータライズ」している典型例として、岩手県岩手町の(グランド)ホッケーによる地域活性化がある。戦略的にあえてマイナースポーツを選ぶことで大きなインパクトを作り出している好例だ。

  • 中西 純司
    p. 15_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツは、「自発的な運動の楽しみを基調とする人類共通の文化」(日本体育協会・日本オリンピック委員会、2011)であり、人類が人生をより豊かに充実して生きていくために、その時代その時代にもてる英知を結集して創造していくという「人間の文化的な営み」でもある。このように、本来は「無色透明で無価値に等しい文化」(菊・茂木、2016)としてのスポーツに対して多義的な意味や解釈、メッセージなどの価値形成・付与をしているのはまさに、「主体」(アクター)としての人間自身なのである。それゆえ、こうしたスポーツとかかわる個人・集団・組織などの多様な「主体」は、自らの欲求と行為(スポーツとの多様なかかわり方;する・みる・ささえる)に基づいて、多彩な「スポーツ価値」を自由に形成し、付与することができると言って過言ではない。

     スポーツプロモーション(Sport Promotion)とは、こうした価値形成・付与を各主体に委ねるという、スポーツがもつ「メディア性」ないしは「当事者性」を基調としながら、人間とスポーツの多様なかかわり方に潜む諸課題を超克し「スポーツの文化的享受の質的向上」(佐伯、2006)を推進していくという考え方(思想)にほかならない。今後、こうしたスポーツプロモーションの発想が、様々な社会的課題や問題を解決し、持続可能なよりよい社会への変革を実現するという「ソーシャルイノベーション」の創出と普及の契機となるためには、学問領域を超えた、産学官民による「多主体協働共生のイノベーションマネジメント」の実践が要請されるであろう。

  • 平岡 義和
    p. 15_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     静岡大学では、平成28年度から地域におけるソーシャルイノベーションに資する人材を養成するための全学横断型教育プログラムである「地域創造学環」を立ち上げた。学環では、学生が地域の課題に向き合うために全学部の授業を広く取れるようにカリキュラムを設計するなど新しい試みを盛り込んでいるが、その柱となる科目が1年後期から3年後期まで学生が同じフィールドで活動するフィールドワークである。学生は地域の方々と協働しながら2年半かけて地域の課題に取り組むわけだが、このフィールドワークの特徴の1つがコース融合型ということである。学環には「スポーツプロモーションコース」をはじめ5つのコースがあるが、コースごとにフィールドが設定されているわけではなく、複数のコースの学生が、お互いの学問分野の知識などを生かしながら、同じ地域でフィールドワークに取り組むのである。本報告では、まだはじまったばかりであるが、この学環の取り組みを紹介しつつ、教育機関としての大学が、そして体育・スポーツ科学が、ソーシャルイノベーションに果たす意義、役割、そして限界、課題について考察していくことにしたい。

  • ~未来に向けて求めるもの、求められるもの~
    酒井 政幸
    p. 15_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     今後、日本の進むべきスポーツの在り方については、地域社会との共生に寄り添いながら、さまざまな課題や事業実施について、ビジネス手法を用いて解決して行く事が必須となってくると思われる。このことは、東京オリンピック・パラリンピックを控えた我々にとって、大きく舵を切る時期に来ていると考えられる。そのひとつとして、例えば、施設管理にコンセッション方式を用い、その中でもスタジアムやアリーナの改革においては、コストセンターからプロフィットセンターへの転換を図るべく様々な取り組みがなされている。これらを進めるために必要なことは、地域を舞台に、様々な組織や個人が集まって形成された事業体を相互乗り入れさせていく事である。しかしながら、“形式的”に頭では理解していても、様々な専門性や幅広い視野、人脈のある人材活用、また、それらを総合的にコーディネートでき得る“実践的”人材が大きく不足していると思われる。そこで、実践現場が期待するスポーツプロモーターの在り方を示しながら、彼(女)らの養成機関ともなる高等教育機関に望む教育的役割について提案したい。特に、新たな仕組みや変化をつくる“アイディア実践力”に関する共同カリキュラムが鍵になると思われる。

学際的シンポジウム2
  • −那須岳雪崩遭難を手がかりとして−
    村越 真
    p. 16_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     部活動は正規の教育課程に位置づけられていないが生徒の学校生活に大きな比重を占める。その一方で、柔道やラグビー、あるいは猛暑下での高校野球など、生徒の健康や安全面での課題も指摘できる。登山をはじめとする自然の中の活動を行う部活動では、不確実性の高い自然の中故のリスクにも晒される。一方で、リスクの背後にある不確実性やそれを乗り越えることに教育的な意義があることも、多くの教育関係者が共有する思いであろう。そのような中で、本年3月、栃木県那須岳で高校山岳部の活動中に、雪崩事故に巻き込まれることで、生徒7人、教員1人の命が失われた。

     本シンポジウムではこの事故を手がかりとして、リスクのある活動を通して次世代に何ができるか、逆にリスクある活動を行う時、次世代に対して果たすべき私たち体育・スポーツ関係者の義務を議論する。学校管理下におけるスポーツ活動のあり方をエビデンスにもとづく視点から検証する内田良氏、冒険的な野外活動を専門として教員養成系大学で教鞭を執る濱谷弘志氏、高校山岳部で長年活動を続けている高校教員の大西浩氏より、それぞれの立場から問題提起をしていただいた後、フロアを交えて討論を行う。

  • 内田 良
    p. 16_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     学校の教育活動において、教員には生徒に対する「安全配慮義務」が課されている(教育=安全)。しかし、学校管理下の体育的活動においてはしばしば、苦行や危険を乗り越えることが成長につながると考えられる。このとき、子どもの安全・安心を守るための教育は、むしろそれを脅かす存在にも化ける(教育vs.安全)。登山・山岳競技をはじめ、相対的に高いリスクをともなう競技種目は、生徒にどのようなかたちで提供されるべきなのか。また顧問の専門性は、どのようなかたちで保障されるべきなのか。できる限りエビデンスをもとに体育的活動の現在を明らかにし、そのうえで体育的活動の未来展望図を描き出したい。

  • 濱谷 弘志
    p. 16_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     現在、冒険教育と呼ばれている教育は、20世紀初め頃のドイツやイギリスにその起源がある。その産みの親であるクルト・ハーンは、産業革命後の近代文明化により、当時の若者に、それまで培ってきた能力の低下や退化が見られることを危惧し、それまでにはない教育手法をドイツのザーレム校やスコットランドのゴードンストーン校で実践した。彼が考えた若者の課題とは、「体力」「自発性と好奇心」「記憶力と想像力」「技術と粘り強さ」「自己抑制力」「おもいやり」の低下であり、その課題に対する処方箋として「フィットネストレーニング」「遠征」「プロジェクト」「サービス」を学校の授業の柱として実践した。その後、その教育の精神や手法は、学校から民間の船会社、青少年教育機関などに受け継がれ、現在の日本にも大きな影響を与えることとなった。このプレゼンテーションでは、冒険教育が生まれることとなった歴史的背景やその教育手法や教育理論などを紹介し、現在の日本の若者にもいかに有効な教育かを紹介する。

  • 大西 浩
    p. 17
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     高校山岳部の目的をどこにおくかは、その学校、また顧問それぞれの考えにより、一概には言えないが、自然教育・環境教育の重要性が叫ばれる今、その意味が小さくないことは言うまでもない。2014年度に実施した高校山岳部員へのアンケート調査の結果を見ると、入部動機については、「山や自然が好き」「山や自然に興味があった」といった理由を答えている生徒が30%を超え、さらに「楽しそうだから」が15%程度で、この3項目で概ね5割近くを占めている。そのような生徒を前に、彼らのニーズに応えるべく、山や自然への興味や関心をさらに高め、その楽しみ方を伝える活動が求められている。

     しかし、彼らは未成年であり、判断力も充分ではない。同じクラブとは言っても、社会人の場合であれば自己責任の一言で片づけられることも、高校の場合にはそうはいかず、引率者に問われる責任も重い。その意味では、根本には安全登山の観点が不可欠である。私が顧問をしている大町岳陽高校山岳部の活動の様子を紹介する中で、高校山岳部のめざすものを安全登山という観点から考えてみたい。

学際的シンポジウム3
  • 杉山 卓也
    p. 18_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     静岡はサッカー王国として名を馳せ、清水エスパルス、ジュビロ磐田という名門チームや、バスケットボール、ラグビー、陸上の強豪チームを抱えるなど、温暖な気候もあってか、スポーツは盛んのように思える。サッカーにおいては、日本代表における静岡県出身者は減り、前述したJリーグの2チームは近年2部リーグ落ちを経験するなど苦戦しているが、静岡県内にJクラブは4チーム存在し、静岡という地域に本当にサッカーが根付いているのだと感じる。依然として、若年層のサッカー競技人口も多い。かなりの割合の子供がサッカーをやっているように思えるが、現実的にはプロのレベルに到達するまでに、大多数が淘汰される。彼らに他のスポーツの適性を見いだすことはできるのであろうか?他の選択肢を与えることで、彼らが高いレベルで競技を行ったり、好きな種目に出会える可能性を高めることができるのではないだろうか。それらを踏まえ、若年層での多様なスポーツ経験の必要性や、身体的側面・心理的側面からの適所に人材を配置するなど、限られた人的資源を有効に活用すべく、依然として多いサッカー競技者からの種目転向の可能性を考える。

  • 衣笠 泰介
    p. 18_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     我が国の地域タレント発掘・育成(TID)事業は、2000年に策定された「スポーツ振興基本計画」に基づき、国立スポーツ科学センター(JISS)情報事業が支援する中、2004年に福岡県タレント発掘事業を立ち上げた。その後、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)と連携する地域TID事業は24地域にまで拡大している。一方、中央競技団体においても日本ラグビーフットボール協会による1996年の「平尾プロジェクト」等、競技団体独自のTIDプログラムを展開している。しかし、一地域や一競技団体において活用できる資源(施設や資金等)には限りがあり、ナショナルプロジェクトとして系統的かつ包括的なTIDへのアプローチが求められている。特にサッカーにおいては、イギリスが2008年に立ち上げたサッカーとラグビーからの種目転向(種目最適化)を促す「Pitch2Podium」や、日本サッカー協会のゴールキーパーを発掘・育成する「女子ゴールキーパーキャンプ」等、国内外でのTID事例もある。最終的には、サッカーのみならず全ての関係者がサッカーの育成パスウェイの見える化及び共有化を求めている。

  • 都築 直哉
    p. 18_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     今年度、静岡県では「スポーツの聖地づくりとスポーツ王国しずおかの復活」を戦略の一つに掲げており、県体育協会や各競技団体等と連携し、これまで以上に、将来を担うジュニア世代の育成を推進していきたいと考えています。県では、これまでも各競技団体が実施するジュニア世代の育成・強化活動に対する支援を行ってきました。しかし、各競技団体は、練習環境や競技の普及、指導者の養成といった点でそれぞれ違った課題を抱えており、競技団体だけで解決していくことが難しい課題もあります。そこで、比較的競技人口が少なく、ジュニア期における選手育成体制がまだ十分に確立されていない競技をターゲットとし、新たに「ジュニアアスリート発掘・育成事業」を実施することとしました。「ジュニアスポーツ体験」、「ジュニアアスリートアカデミー」、「スポーツ指導者資質向上」で構成する本事業により、子供に様々な競技の中から自身の能力に適した競技を選択する機会を提供するとともに、優れた指導者を養成していくことで、ジュニア世代のより一層の競技力向上を目指していきます。

  • 広瀬 統一
    p. 19
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     現代サッカーはクイックトランジションなどの高強度運動が求められるため、優れた技術に加えて高いレベルのスプリントスピード、筋パワー、間欠的運動能力が求められている。このような背景により近年では専門競技開始年齢の早期化が進み、いくつかの弊害を生み出している。そのひとつが生物学的に晩熟な選手がセレクションで見落とされることで生じる生まれ月分布の偏りである。また、一つの競技に専門化することで生じるスポーツ傷害発症率の増加も報告されるなど、改めて幼少期に複数スポーツや多様な運動を経験することの重要性が見直されている。またサッカーに限らず全てのスポーツにおいてプロ選手やオリンピアンになる可能性は限られている。そのことからも種目最適化によって適所に人材を配置することも必要である。本邦では女子サッカーにおいてテニスやバレーボールからサッカーへの種目転向事例があるが男子では極めて少なく、さらにサッカーから他競技への種目転向については女子選手が7人制ラグビーに転向した例があるものの、非常に限られている。今後のサッカー選手の種目最適化の可能性について議論を広げる必要がある。

ランチョンセミナー1
特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会(通称:JATI)
  • 菅野 昌明
    p. 20_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを節目とした国内の競技スポーツにおけるパフォーマンス向上。あるいは、超高齢化社会を迎えている我が国の健康寿命の延伸などの課題を踏まえると、国外のトレーニング情報をダイレクトに流用するたけではなく、日本の環境や実情に適合した科学的手法に基づいた日本発のトレーニング法を開発することが必要であると考えられる。そのためには、研究者だけではなくトレーニング指導者がトレーニングにおけるサイエンティフィックコーチング(Scientific Coaching for Training)を意識して、自らの力で科学と実践を融合させることのできる能力を身につけることが不可欠である。

     日本トレーニング指導者協会(JATI)ではこのような人材育成を目指し、本講座にて科学的手法に基づくトレーニング指導の事例を紹介する。

  • 有賀 雅史
    p. 20_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     競技力向上のための適正なトレーニングプログラムを作成のためには、事前に競技特性を考慮したフィジカルテストを実施し、その測定結果を分析し目標となる体力要素を把握することが重要である。ストロングポイントとウイークポイントを明確にし、各パフォーマンスを向上させるトレーニングプログラムを作成、プログラムを実行、効果判定修正、再テスト、継続のサイクルを繰り返す。本セミナーでは、高校サッカーのためのフィジテストの実例から、テスト結果の検証、各体力要素の関連、トレーニングプグラム作成を紹介する。また、近年の新たな測定装置の登場により可能となった反応アジリティの意義についても検討する。反応アジリティとは、オープンスキルとしても知られるランダムな情報を認知、判断、実行する敏捷性の能力である。

  • 油谷 浩之
    p. 20_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     日本は世界に先駆けて超高齢社会であるが、健康寿命といわれる自立した生活がおくれる期間の延伸は微々たるものである。長生きをすれば身体のいたるところの機能が若い頃に比べて低下していくことは、ある程度は仕方がないことかもしれない。しかし、人間である限り自立して生活が行なえるために必要な歩行能力をはじめとする運動機能や認知機能を維持していくことは、これからの社会において大きな課題といえる。

     昨今では、体力を高める身体活動が歩行能力をはじめとする運動機能のみならず認知機能の低下予防についても有益であるとの報告が数多くされてきている。とはいえ、まだまだどのような運動がそれらの機能の向上に有益なのかは明確ではないのが現状である。

     本セミナーにおいては、高齢者の歩行機能と認知機能それぞれの維持向上を目的とした運動指導の取り組みとその効果を各体力要素との関係性についてのデータを示しながら紹介する。

ランチョンセミナー2
若手研究者特別委員会
  • –「若手の会」設立に向けて–
    鈴木 宏哉, 辻 大士, 一階 千絵
    p. 21
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     若手研究者特別委員会は、平成28年12月の第1回委員会以降、次の検討課題について小グループを編成し、議論を積み重ねてきた。

     1)学会大会における学際的シンポジウム等の企画・運営

     2)若手研究者間の情報・研究交流を促す方略の検討(女性研究者支援を含む)

     3)「若手の会」の設置を含めた若手研究者の組織化

     4)若手研究者による学際的共同研究の企画等について

     5)申請時に40歳以下のフルタイムの常勤職を得ていない学会員に対する会費の減免措置(負担軽減に向けた制度設計を含む)

     また、大会初日の若手研究者特別委員会による本部企画において、若手研究者が抱える問題やこれから担うべき体育学の未来について議論がなされた。

     この交流会では、まず、特別委員会の各グループ長より、検討の過程と成果について報告をする。次に、「若手の会」設立に向けた準備状況を紹介するとともに、交流会に参加する学会員の方々から広く意見を聴取する場としたい。多くの学会員の意見を反映させ、若手会員にとって有益な機能を果たすことができる組織の設立を目指したい。当日は、若手会員に限らず、多様な意見をお持ちの幅広い年齢層の皆様の参加をお待ちしております。

ランチョンセミナー3
日本バスケットボール学会・日本バレーボール学会
  • 八板 昭仁
    p. 22_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     多くの体育・スポーツ関連学術団体は学問領域別に組織されているが、一方でいくつかの種目別学会も存在する。競技スポーツの主たる目標は各種目で成績を残すことであり、同一の種目を研究対象とする学会は得られた知見を統合して現場に活かすうえで非常に有益であると考えられる。

     今回のランチョンセミナーでは、1999年から学会として活動を続けている日本バレーボール学会と、2014年に新たに発足した日本バスケットボール学会の各代表者が種目別学会の意義やこれからの展望について発表を行う。両種目は比較的競技人口が多い体育館種目であり、アメリカのYMCAで同時期に考案された歴史を有する。今後も様々な種目が学術団体を立ち上げていくであろうこの時勢に、多くの共通項を持つバスケットボールとバレーボールの学会が意見交換を進めることは有意義な機会となろう。

     また、発表後には、参加者を交えたディスカッションを行う予定であり、各種目の発展により一層の貢献できる学会の在り方などについて意見交換がなされるものと期待できる。

  • 飯田 祥明
    p. 22_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     日本におけるバスケットボール競技はBリーグをはじめとして、近年大きな盛り上がりを見せている。バスケットボールを対象とする研究者達の多くは何らかの形で競技の発展に貢献したいと考えており、また指導者や選手の中にも競技力向上や競技の普及に役立つような情報を得たいと考えている方々が多く存在している。

     このような状況を踏まえ、2014年に発足したのが日本バスケットボール学会である。この学会設立の目的は「バスケットボールの強化・普及の両側面から競技力向上に資すること」であると会則に定められており、競技の現場と研究の連携が非常に重要な課題となっている。まだまだ新しい学会であるため活動内容は試行錯誤している段階ではあるものの、研究者のみならず様々な立場の皆様が活動に参加してくださっている。

     本学会では学会大会や学術誌による研究者間の情報共有に加え、現場と研究の架け橋となるという目的を達成するために種々の取り組みをおこなっている。コーチや選手にも有益となるような講演会やワークショップの企画がその一例である。今回のセミナーではこのような取り組みに加え、いくつかの具体的な研究事例や今後の展望について見解を紹介する。

  • 石手 靖
    p. 22_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     日本バレーボール学会は、「日進月歩で変化しつつある現代社会において、バレーボールに関する理論・研究にも少なからぬ変化・多様化が認められ、これまでのような個人レベルでの研究活動だけでは限界があるのではないか、それならば先人の気概に学びつつも、これまでの研究の体系化の努力、相互の情報交換の場の設定等を通じて新たなバレーボール学の構築を目指すべきであろう」という理念の下に発足した。また、本会の目的を「バレーボールに関する科学的研究とその発展に寄与するとともに、会員相互の情報交換、研究協力を促進することによって文化としてのバレーボールの発展をはかり、これによってバレーボールの実践に資することを目的とする」と会則に定めている。これらに基づき、これまで約20年間、研究大会や講演会等の開催、機関誌や会報の刊行、ならびにその他の出版、研究の学際的、国際的交流など地道な活動を続けてきた。様々な立場の会員が集う中で、学会としては常に広い視野に立って学会活動を進めていくように心掛けている。今回のセミナーでは、これまでの活動や近年の試み、また、学会が抱える問題点を含め、今後の学会活動についての見解を紹介する。

ランチョンセミナー4
静岡県中部地域スポーツ産業振興協会(通称:SMATT.SC)
  • 影山 敦彦
    p. 23_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     静岡県では、地域産業の活性化を図るため、プロスポーツチームや多彩なスポーツイベント、スポーツ関連企業や施設、自然環境や宿泊施設など、県内に豊富に存在するスポーツ関連の地域資源等を活用して、全県的なスポーツ産業の振興を図っており、西部地域、東部地域及び中部地域それぞれの地域において産学民官連携によるスポーツ産業振興協議会を設置して、スポーツによる新産業創出に向けた活動を行っている。

     各協議会では、会員連携による新たなスポーツ関連事業を創出するために、目的達成に向けた事前調査やトライアル事業等を実施しており、静岡県の発展をけん引してきた製造業をはじめ、小売業、宿泊・旅行業等のサービス業などの第3次産業、スポーツ資源が融合して、健康、介護・医療、娯楽等の視点から新しい産業「スポーツ産業」を創り出していくことが期待されている。

     そこで今回は、中部地域スポーツ産業振興協議会(通称:SMATT.SC)の活動を紹介し、新しい産業として期待されている「スポーツ産業」の地方行政施策としての取り組み方について考えたい。また、スポーツとのコラボレーションが期待される「食」との事業創出について、実践事例を紹介する。

  • 渡部 晋
    p. 23_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     2015年2月に、静岡県中部地域スポーツ産業振興協議会(通称:SMATT.SC)を発足した。発足の趣旨は、民間企業や産業支援機関、行政などが協働しながら、スポーツに関わるイベントや商品開発など、新たなビジネスモデルの創造によって地域活性化を目指すことである。さらには、大企業体に限らず市民一人ひとりの柔軟な発想からスポーツ産業の成長化を図ろうとする試みにこそ、本協議会の存在意義を問いたいと考えている。現在、発足から2年が経過したが、主な事業活動として、①「スマットカフェ」と題した、地域スポーツ産業に関する講演会・懇親会の開催、②「スポコン」と題した、スポーツビジネスに関連するマッチングコンテストの開催、③サッカーを中心にしたまちづくりとの連携・融合を企図したイベントの開催、が3本柱となっている。それぞれに有意義な事業展開が図られ、一定の成果を見出せてきたように思う。しかしながら一方で、地域スポーツ産業の成長化に関する見方(定義)がなおも曖昧で、どのような状態が成果となり得るかの共通理解に乏しいことを課題として再認識するに至っている。そこで今一度、地域におけるスポーツ産業成長化とは何かについて、参加者の皆様と共に考えたい。

  • 中野 ヤスコ, 青島 千恵
    p. 23_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     現在、静岡県中部地域スポーツ産業振興協議会(通称:SMATT.SC)では、スポーツと他領域とのコラボレーションを推進しており、その一つの試みとして「スポーツ×食」をテーマとしている。そこで、現代人が抱える様々な生活習慣病の改善に必要なこととされる「正しい食生活」と「スポーツ」について議論を促すものである。近年、アスリートの世界でも、スポーツ栄養学の大切さが広まっている。この情報過多の昨今、健康を意識した機能性食品等が店頭に多く並ぶ中、実際は、正しい知識が得られなかったり、逆に食生活が崩れたりしているという現状もある。正しい食生活の積み重ねが、過酷なアスリートのカラダを支える土台となり、今日のトレーニングを無駄にしない、そして試合では最大限のパフォーマンスを発揮できるからだづくりのための「食べ方」を、ジュニア期から伝えていく必要があると考えている。

     今回提供させていただくランチ(お弁当)は、スポーツ栄養学に基づき当協議会で作成したものである。それに関する解説をさせて頂きながら、「スポーツ×食」産業の成長化についても議論を促したい。

ランチョンセミナー5
株式会社 ナイト工芸
  • 杉山 康司
    p. 24_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     ブローライフルは吹き矢同様、呼吸運動を有効に利用してブローボール(玉)をターゲット(的)に当てるという健康的で楽しいスポーツです。2011年に国際ブローライフル協会が長野県佐久市において発足し、現在に至るまで用具に改良を重ねながら全ての人が楽しめるニュースポーツとして普及してきています。

     ブローライフルは基本的には吹き矢同様、呼気を有効に利用して玉を的に当てるというスポーツです。ブローライフルの筒(パイプ)から吹き出される玉は瞬時に呼出される空気流量が多いほど速く、遠くに飛ばされます。近年、呼吸筋群のトレーニングに関する研究が増えてきていますが、吸気についてはスポーツ活動、腹式呼吸などで横隔膜および補助筋群を鍛えることが可能ですが、呼気時に利用される体幹部の補助筋等については意識した努力性呼気運動が重要であると考えられます。ブローボールを遠くに飛ばすためには自分自身の肺にためる吸気量を増やし、瞬時に呼出する最大呼気量を増やす必要があり、骨盤底筋群の意識も大切になります。そこで、本セミナーではブローライフルで期待される生理的効果、遊び方を体験していただくとともに、普及の現状を紹介します。

  • 祝原 豊
    p. 24_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     ブローライフルは、ターゲットを狙うだけに留まらず、ブローの方法やターゲット(素材・形状など)の工夫により様々な楽しみ方を創造できます。対象の体力に応じたアレンジにより、年齢、性別や習熟度に関係なく共にレクリエーションとしてのゲーム展開も可能な、汎用性が高く安全なスポーツといえます。

     国際ブローライフル協会は、様々な楽しみ方を紹介する一方で3種目の公式競技を設定しています。そのひとつ「ターゲット」は6~18Mの距離からブローしますが、実施時の%HRmaxは61.6±9.4%となり、健康への効果が期待される強度に迫るレベルでした。さらに、実施前後の心拍変動RRIから周波数領域解析を行った結果、副交感神経が優位に働く可能性も確認されています。他の種目に「ディスタンス(ブローボールの飛距離を競う)」と「ブローバイアスロン(ブローとウォーキングを交互に繰り返しゴールタイムを競う)」がありますが、いずれも努力性最大呼気を行うことから、呼吸器と呼吸に関わる筋群への刺激の誘発が期待されます。

     本セミナーでは、ブローライフルの楽しみ方と競技にふれながら、実践時の生理データを切り口に安全性と期待される効果について紹介します。

  • 谷津 祥一
    p. 24_3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     ブローライフルの普及は、その発祥が長野県佐久市ですが、その研究開発をおもに静岡大学で行っていた歴史から、普及活動も静岡県を中心として、関東・関西へ広がっていきました。

     その後、北海道での普及活動も行われ、地元のNPO法人を中心に普及が広まっており、その汎用性から、夏場のスキー場でのアトラクションの一つとして、長野県白馬村で導入されています。

     また、指導者養成講習会も積極的に行っており、新たな指導者が育成され、普及範囲も広がっています。

     本セッションでは、ブローライフルの普及の現状とこれまで実施したイベント、大会・競技会について紹介します。

ランチョンセミナー6
(公社)日本オリエンテーリング協会・NPO法人 M-nop
  • 村越 真
    p. 25_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     野外活動の定番であるオリエンテーリングは自然の中のスポーツと思われがちです。しかし、ここ10年くらいの間に市街地や大学キャンパスで実施できるオリエンテーリングが開発され、学校での体験活動、大学共通教育の体育などでも活用されています。また、体育館でも実施できるオリエンテーリングは頭と体をフル回転させる問題解決型スポーツとしての活用が、義務教育等で期待されています。さらに、地図を使って目的地に向かうオリエンテーリングは、防災教育や地域活性化など他分野とのコラボレーションも可能です。

     本ランチョンセミナーでは、オリエンテーリングで日本代表選手として長年活躍し、現在は幼児教育の分野で大学生の指導にあたる松澤氏を招き、こうしたプログラムの数々を紹介していただく予定です。

  • 松澤 俊行
    p. 25_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     静大キャンパスを利用して、大学キャンパスなど身近な空間で実施できるオリエンテーリング(約10分程度)を体験していただくと同時に、その実施法のノウハウについて解説します。このオリエンテーリングは現在ほとんどの学生が持っていると思われるスマホの写真撮影機能を利用することで、フラッグの設置や撤収といった手間を省くこともできます。また、小中学校の体育にも活用できるプログラムについても紹介します。

専門領域企画
専門領域企画(00) 体育哲学
シンポジウム
  • 29年度テーマ:懐疑主義的スポーツ論
    関根 正美, 坂本 拓弥
    p. 26_1
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     われわれ体育・スポーツの内部にいる人間は、スポーツの存在そのものを善ととらえ希望を語る傾向にある。しかしながら、スポーツ界で繰り返し起こる不正や暴力、オリンピックにまつわる政治と金銭の問題などを見ると、そのような楽観的見方に疑問が生じる。このような態度でスポーツを考えることが本シンポジウムで使用するフレーズ「反・反知性主義」の意味である。スポーツにおける反知性主義ともいえる傾向の中で、われわれ人間存在とスポーツの未来はどのように描くことができるのだろうか。このことを考えるためには、スポーツそのものを一度反省的思考でとらえる必要があると考える。そこで、2年間を通してスポーツに対する楽観主義的ナイーブな心性を反省し、懐疑主義的態度によってスポーツを分析し、それでも尚なぜゆえに、どこにスポーツに希望を見いだせるのかについて議論したい。1年目は「懐疑主義的スポーツ論」を提題趣旨の中心にして、近代スポーツの功罪や人生・社会への影響について演者の方々に話題を提供していただき、近・現代スポーツにみられる反知性主義的態度に抗する形で懐疑主義的にスポーツを考えてみたい。

  • 鈴木 明哲
    p. 26_2
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    会議録・要旨集 フリー

     現代におけるオリンピックやスポーツの教育的価値、そして体育やスポーツによる人格形成は揺るぎない価値として広く世界に流布されており、もはやそこに懐疑を挟むことはタブーである。

     しかし、私たちはこれらの不変的な価値にあまりにも縛られすぎていないか。これらの不変的な価値によって、果たして多くの人々が幸福を感じ、そしてまたスポーツそのものが豊かに発展しているのであろうか。そもそもこれらの不変的な価値はどのようにして誕生し、世界に広まっていったのか。歴史的に検証し、現代との「ずれ」を指摘することは、スポーツに「託せないこと」を見出す手立てとなり得る。

     本報告では、近代スポーツの功罪を、スポーツ教育と近代オリンピックという二つの事例から考えてみたい。近代以降、スポーツの教育的価値が形成され、しかも公教育システムとオリンピックムーブメントという二つの巨大な力を得て全世界に広まっていった。この教育的価値がいかに現代との「ずれ」を生じているのかを「罪」とし、逆に何が「功」として拾い上げられ、捉え直されるべきであるのか、体育・スポーツ史の立場から提案してみたい。

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