日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
ISSN-L : 2424-1946
第69回(2018)
選択された号の論文の723件中1~50を表示しています
学会本部企画
企画シンポジウム1
  • 田原 淳子, 田畑 泉, 深代 千之
    p. 6_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムは、外国の関係学会との国際交流を推進する立場から企画された。異なる文化圏における体育・スポーツ科学事情について情報共有・意見交換を行い、日本及び国際社会における体育・スポーツ科学を展望する機会にすることを目指している。登壇者には、フィンランド、インド、韓国から自国の体育・スポーツ科学の学会を代表する方々をお招きし、それぞれ自国の体育・スポーツ科学事情について報告をしていただく。フィンランドは、日本が戦後初参加をしたオリンピック(ヘルシンキ大会)など、日本にとっては歴史に残る交流があり、また体操やウィンタースポーツなどでも独自のスポーツ文化を築いてきた。また、インドと韓国には、本学会が交流協定を締結している学会があり、それぞれ特徴的な身体文化と歴史を有している。三者の報告を受けて、日本からは、本国及び本学会が直面している体育・スポーツ科学の課題や現状認識を交えて本学会会長がコメントを行う。全体討論では、多様な文化圏における体育・スポーツ科学を視野に、課題認識やアプローチ方法の共有、学術的な交流のあり方などについて展望する。なお、登壇者の報告は、日英対訳の資料を配布予定である。

  • Jari Kanerva
    p. 6_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     In Finland basic education encompasses nine years and caters for all those between 7 and 16 years. All schools follow a national core curriculum, which includes the objectives and core contents of different subjects including physical education. In the Government Programme sport and physical activity are specifically mentioned in key projects involving new learning environments and health and wellbeing. The operational method of the Finnish schools on the Move project, launched in 2010, has already reached more than 90% of all Finnish schools. The method promotes sitting less during lessons and exercising more during break times. The goal is to encourage learning through being active during other classes and break times. The Finnish higher education system consists of universities and universities of applied sciences. The Faculty of Sport and Health Sciences is the only university-level unit for sport and physical exercise education in Finland. The Faculty also features the education branch of health sciences. There are 22 research units in sport sciences in Finland. The major domain focuses of these units are basic and applied biological sciences, medical and health sciences, and social and behavioural sciences.

  • L. Santosh Singh
    p. 7_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     The aim of this paper is to identify the current trends of physical education and Sports Science in India. As we all know that physical education plays the most significant role in school and college curriculum. In the 21st century, physical education is no longer a physical training, sports coaching or merely indulging in play activities. It has emerged as a multi-dimensional discipline. The modern programme of physical education gives emphasis on health, physical fitness and wellness, competitive and sports, inter-personal and life style skills. So, this type of curriculum will definitely help the physical education professional to motivate their students to participated various types of physical activities and maintain a lifelong involvement in health and wellbeing. In India, Sports Science is an emerging discipline in higher education. Sports or exercise science is a multidisciplinary approach encompassing various subjects like exercise physiology, biomechanics, sports psychology, science of sports training, sports medicine, nutrition and so on. The present course offers to create multidisciplinary knowledge based among the students that would enable them to enter research and practical application in variety of sports and games. All these issues have been discussed in the present study.

  • Shin Wook Kang
    p. 7_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     The purpose of the study is to investigate the current state of sports and physical education in South Korea. The Korean Alliance for Health, Physical Education, Recreation, and Dance was established in 1953 and is organized around 16 Korean Societies related to the study of sports. KAHPERD produces two signature journals. The Korean Journal of Physical Education has been chosen since 2017 by the Korean Research Foundation as the only academic journal of excellence in the sport fields, and is recognized as one of the most prestigious academic journals in South Korea.

     In South Korea, there are 124 four-year universities with a total of 1,407 professors in sport-related departments. The number of elite athletes is 80,826 in K-12, 13,786 in universities, and 25,397 full-time professionals. Major Korean sports administrative bodies include the Ministry of Culture, Sports and Tourism, the Ministry of Education and Human Resources Development, Korean Sport and Olympic Committee, and the Korea Sports Promotion Foundation. In 2018, financing sports has the largest budget with 89.19% of the total funds. The budget is used in the following order: promotion of sports for all, promotion of elite and professional sports, promotion of the sports industry and international exchange.

企画シンポジウム2
  • 菊 幸一
    p. 8_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     学校運動部活動が揺れている。少なくとも、この伝統的な活動を支えてきた人的資源である中高校教員によるボランティアパワーは、「働き方改革」という労働「問題」から、そのあり方が鋭く批判されている。他方、この問題は地域の中の学校という地域スポーツの観点から、これまで国が進めてきた総合型地域スポーツクラブ政策とリンクする形で、その主体を学校外の地域に移す考え方によって解決をめざす方向性が模索され、そのガイドラインが平成30年3月にスポーツ庁から公表されたところでもある。

     このような昨今の動向において、これまで大きく運動部活動によって支えられてきたと思われる「体育界」や「スポーツ界」からの意見はあまり聞かれない。そこで、すでに遅きに失した感もあるとはいえ、この問題に対する科学的研究の立場(今回は主に人文・社会科学分野)から、その過去と現在を議論し未来を展望することは、今後の学校運動部活動のよりよい方向性を考えていく上で重要だと思われる。また、この議論からみえてくるガイドラインの向こう側に予測される課題を明らかにしておくことは、今後の学会による諮問形成においても重要なことと考えられる。

  • 友添 秀則
    p. 8_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     本年3月にスポーツ庁から「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(以下、「ガイドライン」という)」が出された。周知のように、運動部活動をめぐっては、法的な位置づけが曖昧であり、教師の過重労働の一因として大きな社会問題となってきた。他方、加速する少子化社会の中でこれまでの運動部活動のあり方では限界があり、これからに向けて、持続可能なあり方を構築する必要性が叫ばれてきた。このような状況の中で、ガイドラインが今後の運動部活動のあり方の基準として位置づけられることとなった。

     ガイドラインは運動部活動に関する国の政策文書であり、国の運動部活動における施政上の方針や方策が示されたものである。政策である以上、政策決定に至る過程での透明性と合理性の担保が何よりも求められる。加えて多様なステークホルダーが存在する運動部活動に関する政策決定であれば、多様なステークホルダーの要望を調整・納得させ得る科学的エビデンスも求められる。本発表では、ガイドラインを政策文書と位置づけ、ガイドラインが作成される過程を対象に、公開された議事要旨・議事録・配付資料等を分析し、作成過程における課題を明晰にする。

  • 神谷 拓
    p. 9_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     教師の過酷な労働環境が問題にされ、これまでと同様に学校で部活動を実施することが疑問視されている。そして同時に、学校の部活動に代わる場として、地域スポーツクラブがクローズアップされている。

     しかし、このような「学校から地域へ」というロジックは、目新しいものではない。例えば、今日と同様に、教師の労働時間の長さや、手当の安さが社会問題化した1960年~70年代には、時間割に位置づけた必修クラブを学校教育の対象とし、部活動を地域に移行しようと試みた。また、1990年代後半には「ゆとり」政策を背景に、必修クラブと関連づけて実施されてきた部活動を見直し、総合型地域スポーツクラブの推進へと舵を切った。だが、各時代の地域移行は「未遂」に終わり、運動部活動は学校で実施され続けることが多かった。この歴史は、これまでの「学校から地域へ」というロジック自体に無理があった、あるいは、欠けていた論点があったことを示しているのではないか。同時に、今年に入ってスポーツ庁によって示された「運動部活動指導のガイドライン」が、この課題を乗り越えるビジョンや内容を持つのかを確認しなければならないだろう。

  • 水上 博司
    p. 9_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツ庁が公表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、「学校と地域が協働・融合した形での地域におけるスポーツ環境整備」が期待されている。そして、こうした環境整備には、地方公共団体や地域の体育協会、競技団体のほか、総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団との組織間の連携が不可欠であると言われる。ではいったい公共や民間といった性格の異なるスポーツ組織間が、学校運動部課題の解決にむけて、どのように連携できるのか。これまでにも繰り返しその必要性が問われてきたスポーツ組織間の連携は、学校運動部の今日的な課題をめぐって政策参画型の質が問われているのではなかろうか。本報告では、以上のような関心を踏まえ、総合型地域スポーツクラブの育成支援を目的としたNPO運営者の立場から学校運動部課題をめぐる組織間の連携とその可能性を「新しい社会運動論」や「ラディカル・デモクラシー論」の視点からみたスポーツの公共圏として捉えてみたい。演者は、こうした公共圏に期待されるアドボカシー(政策提言)機能こそ、学校運動部課題の困難性を克服できる「地域におけるスポーツ環境整備」の一端ではないかと考えている。

  • 清水 紀宏
    p. 9_3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     教員の働き方改革を契機とした運動部論議が、子ども不在で進んでいる。運動部活動とは、いうまでもなく子どもたちの終業後もしくは休日の余暇生活で展開される自発的・自治的活動である。そして、そこに部活動の教育的意義の根幹がある。子ども不在の政策論議は、余暇生活における子ども主体を、「学習者」/「生活者」としてではなく、「被教育者」/「消費者」として位置づけている証左であろう。運動部活動は、大人からスポーツを教え授けてもらう場(スポーツ教室・授業)ではない。

     これからの運動部活動の未来を展望するとき、まず確認しなければならないことは、子どもたちを「スポーツ消費者」ではなく「スポーツ市民」と捉え直すことである。そしてその固有の教育的意義は、生涯スポーツ社会の構成者/形成者としてのスポーツ市民に必要なシチズンシップ(スポーツリテラシー)を核とするクラブライフの(への)教育を施すことになるのではないか。本発表では、「多様性(ダイバーシティ)」を基礎要件とする立場から教材(学習材)としての運動部活動(及び運動部が創り出すスポーツライフ)のオルタナティブを提起したい。

企画シンポジウム3
  • 清水 紀宏
    p. 10_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本体育学会では、第40回大会シンポジウム「学会改革の方向を探る」(1989)以降、幾度となく改革論議が繰り返されてきた。特に、このシンポジウムにおいて、学会のマンモス化と学問分野の細分化(スポーツを冠する独立学会組織化の動き)が急速に進行する中で、その統合を図るために組織と機能をどう変革していくかという問題とともに、学会の名称問題も提起されたことは特筆すべきである。2名(文系・理系の会員)の登壇者はいずれも、1)研究の「教育離れ」、2)体育概念の混乱、3)没価値的用語としての「スポーツ」概念の有用性等々の理由から、新たな名称への変更を契機にアンブレラ学会としての再構築を提案した。その後、第47、48、49回大会と3年連続で「体育学の分化と統合」と題するシンポジウムが開催され、体育学のアイデンティティについて継続的な議論が重ねられた。こうした熱い改革論議を経て、2000年には学会の英語名・学会誌名が、physical educationからphysical education, health and sport sciencesへと改称されることが承認された。その後も、アダプテッド・スポーツ科学(2005)介護・健康づくり(2007)の専門領域が新設されるなど、学会の内部改革は続き研究範囲は広がるばかりであるが、会員の研究領域を総称する学会名そのものは据え置かれたままである。

     他方、学界をとりまくスポーツ界では、スポーツ庁の設置、日本スポーツ協会への改称などに代表されるように「体育からスポーツ」への移行が近年急ピッチで進んでいる。また、多くの研究者会員の職的基盤となる高等教育機関の学部・学科・専攻等の名称も同様の傾向が強まっている。

     本シンポジウムでは、こうした長年にわたる学会内での議論の積み重ねと内外の環境変化を勘案しながら、学会の持続的発展に向けて、学会名称とミッションを含めた改革戦略の道筋を多くの会員とともに議論したい。

  • 深代 千之
    p. 10_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     (一社)日本体育学会は、専門領域として人文・社会・自然科学という幅広い分野からなる15組織を傘下にもち、それらを統合する学会で、それが大きな特長となっている。ただ、専門領域のほとんどが、それぞれ独立学会として個々に発展しており、一部の研究者は自分の専門の中で深い議論ができる個々の学会の方に、本学会のような異分野交流よりも、魅力を感じているようにも見える。近年の会員数の若干の減少はここに原因があるかもしれないと推察している。その一方で、学術団体としての基盤となる学会誌:体育学研究とIJSHSは、会員の努力によって論文が増加して、かなり活性化してきている。しかし、これら論文ベースのエビデンスをまとめて情報発信するという努力が、これまで学会として足りなかったのではないかとも考えている。すなわち、本学会の現在の課題は「統合」と「発信」ではないだろうか。そして、この課題解決のための一つの手段として、これまで歴史的に様々な形で議論されてきたが実現されていない学会名称の変更ということを考えてもよいと思っている。その基礎資料収集として、全ての会員に対して「学会名称に関するアンケート調査」を実施した。シンポジウムでは、アンケート結果も含めて、本学会の発展のために必要なことや学会名称などについて議論したい。

  • 來田 享子
    p. 11_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     ユネスコの「体育・スポーツ国際憲章」は、1978年に世界で初めて「身体活動が人間の権利である」ことを謳い、採択された。周知のとおり、同憲章は、40年近く世界各国の関係省庁および学術分野において、スポーツ等の身体活動のあるべき姿の指針とされている。この憲章が2015年11月、全面改定された。これを受け、2016年日本体育学会第67回大会本部企画では、改定の意図を踏まえながら日本の現状と課題を議論する場が設けられた。2015年の全面改定により、憲章の名称は「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」とされた。名称に「身体活動」が加えられたことは、国際レベルでの研究対象の広がりをうかがわせる。

     身体に関わる文化を対象とする諸科学は、研究対象が同じであっても、各国の社会状況、文化、政策等により、研究課題のあり方はもちろん、研究成果が社会に与える/与えようとするインパクトも異なる。それでも、分野横断的な関連国際学術組織では、それらの諸科学が共有すべきパラダイムが模索されてきた。たとえば1950年代から最大規模の活動を継続してきた組織にはICSSPEがある。この組織の活動は総じて「身体を通じ、人格を開花させ、個人を尊重する社会」をめざすために、身体に関わる諸科学を統合しようとするものであった。このパラダイムは、中心的な対象を「制度化された、身体に関わる教育」とする研究の発展にも貢献してきた。

     今日、人工知能、工学、バイオテクノロジー等、新たな領域の研究が身体へと目を向けている。身体に関わる文化を対象とする諸科学は、日本体育学会において包括されてきた分野を超えて拡がっている。日本体育学会はこれら新たな領域との連携をどのように構築していくべきなのだろうか。シンポジウムでは、この観点から学会の改革戦略について議論を深めたい。

     学会名称は変更すべきなのか、仮に変更するならばどのような名称であるべきなのか。この問いの答えは、上述のような議論を経ることをもってしか、導き得ないであろう。

     ICSSPEの他、FIMSおよびIPCが主催団体となり4年に1度開催される国際会議(ICSEMIS)は、2020年東京大会を機に日本での開催が期待されている。この国際会議の成功に向けた最大のポイントは、いかにして領域横断的に議論が可能なテーマを設定するかだとされている。本シンポジウムは、世界中のあらゆる研究者とのより質の高い交流機会を得る場を設定するためにも不可欠ではないだろうか。

  • 中川 昭
    p. 11_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本体育学会はこれまで専門領域の活動を軸として発展してきた。そして近年ではこれらの専門領域を基盤に次々と独立学会が設立され、それぞれ活発に活動が展開されている。このことは学問の発展過程を考えると至極当然のことである。しかし一方で、このことにより、体育学会が果たすべき役割について再検討が避けられない状況が生まれている。すなわち、各独立学会の活発な活動とは裏腹に、体育学会において実践的課題に向け研究知見を統合化させようとする意欲、努力は益々薄れている。また、体育学会と各独立学会の活動の間に整理すべき重複が起きている。このような状況変化を踏まえ、シンポジウムでは体育学会の今後の方向性を提案したい。

     体育学会の名称問題は難しい問題である。ただ英語名称については、体育、スポーツ、健康を含む適切な名称になっており、国際的には全く問題はないと考える。しかし日本語名称については、英語名称をそのまま翻訳すれば意味的には適切な名称となるが長すぎる。したがって、これら3つの分野を代表する用語を冠して学会名とする必要があるが、現状では体育を広義に捉えた「体育学会」に代わる適切な名称はなかなか見当たらない。

企画シンポジウム4
大会組織委員会企画
シンポジウム1
  • 行實 鉄平
    p. 15_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツのグローバル化が進行する中で、2016年、政府は、成長戦略「日本再興戦略」において、スポーツを新たな有望成長市場と位置づけ、スポーツ市場の規模を2015年時の推計5.5兆円から2025年に15兆にする数値目標を掲げた。近年全国で展開されている「地域スポーツコミッションへの活動支援事業(H27~)」や、「日本版NCAA創設事業(H29~)」といったスポーツ庁の各事業は、地方自治体や地方大学における「スポーツの産業化」の具体的な推進施策として捉えることができる。特に地方において、それらの事業展開は、全国各地での先行事例を踏まえながらも、画一的なものに終始するのではなく、地域資源に条件づけられた地方独自のアイデアが必要になってくると考える。 本シンポジウムでは、徳島で取り組む地方自治体や地方大学での実践事例を紹介するとともに、これらの事例をグローバル化(均質化)とローカル化(多様化)の視点に則しながらも、それを超えた、グローカル化(均質化と多様化の同時進行性と相互作用性)という視点から考察することで、地方におけるスポーツを通した地域活性化の新たな方策について議論したい。

  • 秋山 孝人
    p. 15_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     徳島県では、2019年の「ラグビーワールドカップ」、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」、2021年の「ワールドマスターズゲームズ」において、キャンプ地の誘致や大会の開催準備に取り組んでいる。ラグビーワールドカップでは、2019年大会への出場が決定している強豪国「ジョージア」を対象として、「事前チームキャンプ地」の誘致に取り組み、東京オリンピック・パラリンピックでは、国が進める「ホストタウン」にドイツを対象国として登録し、「柔道」、「ハンドボール」、「カヌー」の「事前キャンプ地」の誘致に取り組んでいる。また、ワールドマスターズゲームズでは、6つの公式競技と5つのオープン競技の開催に向けて、地元市町や県内競技団体とともに開催準備を進めている。本シンポジウムでは、キャンプ地誘致や大会開催に向けた「地域や人が持つポテンシャルの発掘過程」や、2021年以降を見据え、誘致活動や開催準備段階から進める「徳島ならではのレガシー創出に向けた取り組み」について紹介したい。

  • 松重 和美
    p. 16_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツには優れた人材育成力や地域活性力などがある。地元徳島県では、各種アスリート育成・支援策が行われており、県内の高校に対して「競技力向上スポーツ指定校」事業を展開している。しかしながら、有能なアスリート高校生の大半が、大学進学時に充実した競技環境を求めて、県外の大学へと進学する現状がある。四国大学では、4年ほど前から県内外のアスリートにとっても魅力ある大学創りに取り組み始め、国内最高レベルのスポーツ特別奨学生制度の創設・全天候芝球技場や高機能投擲練習場の建設、そして適格な指導者の確保に務め、既に地区大会優勝、全国大会出場、国際大会入賞者などの実績が出てきている。更に、より包括的な「トップアスリート育成(STAR)プロジェクト(Shikoku University Top Athletes Rearing Program)」を提起し、地元自治体や多数の企業の賛同を得て、現役選手への各種支援とともに卒業生の地元採用といったセカンドキャリア問題にも取り組んでいる。本シンポジウムでは、最近の7人制女子ラグビーチーム創設も含めた本学のスポーツ促進戦略を紹介したい。

  • 長積 仁
    p. 16_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     “Think globally, act locally”

     諸説あるようだが、細菌学者のデュボスが1972年に開催された人間環境会議で用いたものがこの言葉の端緒であるといわれている。この言葉の意味するところは、「地球規模の視点で物事を考え、身近なところ(ローカル)で行動する」ということであるが、民間企業のビジネス、大学教育、またスポーツ界においても「グローバル化」の視点は不可欠な要素となっている。しかしながら、上杉(2014)が指摘しているように、グローバル化は、地域や地方の伝統的かつ固有の社会や文化を圧倒させ、消滅させるという「グローバル化の均質化論」と、グローバル化した文化要素と地域・地方の伝統的な文化要素を結びつけて雑種化したり、伝統的な要素を刺激して新しい文化を生成させたりする「グローバル化の多様化論」という2つの側面が存在する。日本の魅力発信、海外展開、インバンドの振興を基軸とした「クールジャパン戦略」に対する「地域スポーツコミッション」や、大学・学生連盟・競技団体による自助努力で進められてきた課外活動に新しい価値を付与し、「スポーツの成長産業化」までを視野に入れた「日本版NCAA」など、スポーツ界においても多様化と均質化の間で揺れ動いている。上記の2つの事例を手がかりに、「グローカル」という視点からスポーツによる地域活性化を実質化させる方策について考えてみたい。

シンポジウム2
  • 石井 智
    p. 17_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     近年、身体運動が従来の知見を超えた、より広範な人間の諸能力に関連することが指摘されるようになった。このことから運動がもたらす健康効果についても新しい視点による事業の展開が期待される。福岡県嘉麻市では、こうした発想に基づいて荒木秀夫氏が提唱するCo-ordination運動論を基盤とした地域創成事業が進められている。本事業は“プロジェクトK”と命名され、運動指導と行政的施策を統合させながら運動効果をより広い分野に適応させ、人材育成を柱とする健康まちづくりを目指している。本プロジェクトは平成24年からボトムアップの活動から始まり、平成26年の赤間幸弘市長の就任を契機に組織的な拡充が図られた。プロジェクトの方針として、官民あげてのネットワークづくり、団体、個人による持てる力を発揮する市民参加型の活動とすることに特徴がある。また、手法の観点としては、「一人たりとも、対象から外さない」「指導する側も指導される側も、ともに成長する」というコミュニティ形成を重要な柱としている。本シンポジウムにおいては“プロジェクトK”の推進における行政施策の立場から、成果、教訓および今後の課題について議論を深めていきたい。

  • 荒木 秀夫
    p. 17_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     プロジェクトKにおける実践的なプログラムは、コオーディネーション(Co-ordination)運動論を基軸としている。その内容は、19世紀~20世紀初頭にかけて登場した数多くの身体技法から今日に至る脳・運動・認知および心理科学における“身体性”の知見に基づいた実践論である。人間が示す諸能力は、一つの“根”から生じるということをバックグランドとして、プロジェクトKにおける一連のプログラムは、各階層の指導者を対象とした研修にとどめず、学校教育、発達的課題に対する子育て支援、子どものスポーツ活動、障がい者支援などにより構成される。地方における疲弊は深刻であるが、各地方間における競争型ではなく協働型の地域創成や地域活性化が求められることが予想される。その骨子となるのは人材育成であり、運動やスポーツなどの身体活動に関わる多くの積極的な知見をどう具体的に現場で活かしていくかを社会実験として進めることが重要である。コオーディネーショントレーニングは、身体、脳、心に刺激を与えることを通して本来の人間力を発揮しようとするものであり、そのための環境操作として地域行政的な視点との融合が大きな課題であるといえる。

  • 西野 浩
    p. 18_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     平成21年度に福岡県主催の荒木秀夫教授の研修会を受講し、運動・スポーツが子どもの身心の成長に大きく影響することを学んだことが契機となり、嘉麻市での継続的な事業を考えるに至った。特色ある公立保育所を模索していたこども育成課と思いが一致し、平成22年度より公立保育所1園でコオーディネーショントレーニングを取り入れたのが最初の取り組みであった。以後、平成23年度からは全公立保育所に運動指導を実施するに至り、嘉麻市モデルの検討を開始した。平成24年度より、嘉麻市モデルの中で、子どもの運動指導を当面の優先度の高い事業と位置づけ、“運動スポーツで、嘉麻市(K)の子(K)どもたちを豊かに育み、輝(K)かせるプロジェクト”としてプロジェクトKを創設することとなった。事業の推進においては、縦割り行政を克服し横断的な連携を模索するとともに、市民と連携する全市型の事業とすることを基本方針としている。そのため、研修会にとどまらず持続的な指導者養成、広報活動、プログラム普及などに取り組み、ともに連携する市民の発掘、確保と連携させた事業を展開することとなった。

  • 木本 寛昭
    p. 18_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     平成24年当時は、嘉麻市立大隈小学校校長の任にあったが、コオーディネーショントレーニングは同年9月30日NHKの「サキドリ」で嘉麻市の保育所での取り組みが紹介されたことが初見であった。契機となったのは、平成25年度入学の新1年生児童の体力、集中力、聴く力が非常に高いことを知り、その背景には就学前にコオーディネーショントレーニングを経験した児童の影響が大きいと感じたことであった。このことから1年生に対する指導を市のスポーツ振興係に依頼することとなり、その後、全学年に広げるに至った。理由としては、児童の運動意欲の向上が見られたこと、思いやりなどコミュニケーション力の向上が見られたことに加え、発達障がい児等特別支援を要する児童の早期発見につながること、支援を要する児童に対して以前から継続的な支援が必要であると考えていたことである。その後、平成26年度に教育長に就任してから、さらに推し進め、平成26年度5校、27年度7校、28年度8校(全校)実施へとつなげた。基本理念としては、運動・スポーツを単に体力問題に限定することなく、運動・スポーツが持つ本質的な価値としての人間性育成にあるとの考えにある。

  • 赤間 幸弘
    p. 19_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     プロジェクトKの創設時は市議会議員であったが、人材育成の重要性を認識していたため、これを市政に反映することを模索していた。教育の充実、拡充は市政においても重要課題であり、単に一過性のものではなく、また局部的課題として捉えるのではなく、長期にわたる持続的、総合的、斬新的な人材育成による地域創成、活性化を図りたいと考えていた。そうした中で、マニフェストにおいて教育の充実を主張しつつ、平成26年4月より嘉麻市長に就任し、6月議会の新市長施政方針では、「プロジェクトKの更なる推進」を重点施策の第一に位置づける所信表明を行った。具体的施策においては、7月に生涯学習課スポーツ振興係をスポーツ推進課に格上げし、プロジェクトKの推進を担当するプロジェクトK・スポーツ推進係を設置するとともに、財政的支援としては、平成27年度嘉麻市スポーツ推進計画に基づくプロジェクトKを推進するため、嘉麻市プロジェクトK事業推進補助金を創設した。地方創成は、単に目先の成果、目先の利益を追い求めるのではなく、真に力強い活力ある市民の力を結集してこそ達成されるものであると信じている。

  • 江藤 浩史
    p. 19_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     今次のスポーツ推進計画において、すべての市民にコオーディネーショントレーニングの普及を目指しているが、現状では、継続的支援としては乳幼児施設及び小学校が中心となっている。今後、さらに拡充していくためには指導者層を充実していくことが課題である。その方向性としては、研修会を受講した職員が継続的に、かつ個別課題に応じて実践できるような取り組み、例えば保育士であれば発達支援に関する研修会を開催し、日常の現場で喫緊に必要としているコオーディネーショントレーニングスキルを学ぶ場を提供すること、また、相互ネットワークの構築を図り理論とスキルの向上を目指すような取り組みを実施していくことが必要と考えている。小学校においてもスポーツ推進課職員の指導から小学校教員が独自に実践できるよう徐々に指導の役割を移行していくことも必要である。さらに、次の展開である高校生から高齢者、障がい者までの分野についてもプログラムの継続的な支援を進めるため、市体育協会や老人会、障がい者施設との協力が不可欠で、現在では部分的には連携が進められつつあるものの、指導者を拡充していくことが重要であると考えている。

ランチョンセミナー1
  • 松澤 俊行
    p. 20
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     昨年に引き続き「地図を駆使して野山を駆けるオリエンテーリングをいかに教育・文化に活かすか」を提供したい。教育の場で行われるオリエンテーリングやその類似プログラムといえば、広大なフィールドの中を、グループで協力しながら進んで行く活動のイメージが強い。しかし、現代の自然的、社会的環境や教育条件の変化によって、事前の準備や当日の実施に長時間を要し、指導者、学習者の双方に忍耐が求められるプログラムは、なかなか受け入れられにくくなってきている。

     そうした状況を受けて、近年、大学の授業一時限分で行えて、準備の負担も少ないプログラムが開発されている。今回のセミナーでは、前半、そうしたプログラムの実践事例を紹介する。後半は、コース設定作業の一部を実演し、その手軽さ、簡便さを実感していただく予定である。

     

     協力:公益社団法人日本オリエンテーリング協会

ランチョンセミナー2
  • ~脳活動を測定し、可視化する技術による検証を実施~
    長谷川 清
    p. 21
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本の平均寿命は87.14歳(女性)と過去最高を更新し、また社会の高齢化比率も27.3%と世界でもっとも高く、2030年には更に31.2%まで上昇すると予測されている(総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」より)。

     そのような背景の中、健康寿命を延伸することが求められており(現在、平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性で約13年)、持続的な運動トレーニングや認知トレーニングが重要な要素となってきている。

     そのためには、参加者のモチベーションを維持向上し、楽しみながら出来るトレーニングが求められる。かつ運動トレーニングと認知トレーニングを同時に行えるツールも注目されている。

     では運動トレーニングと認知トレーニングを楽しみながら行っていくには、どのような方策があるだろうか?セノー株式会社と株式会社NeUは、欧州で実績のある運動ツールであるMoto tiles(モトタイル)に着目した。

     モトタイルは、デンマーク工科大学のLund博士により開発され、色が変わったり、音が鳴ったりする複数のタイルを踏んでいく運動ツールであるが、その最大の特徴は操作タブレットで様々な運動プログラムを選択することができる。その中には、認知活動を伴う運動も含まれており、運動をしながら認知トレーニングを行えるユニークなツールである。

     では、本当にモトタイルでのプログラムは、「運動中に脳活動を伴うか」を検証行うこととした。

     トレーニング前後およびトレーニング中の前頭前野の脳活動(脳血流反応)と課題正答率に着目し実施した。対象は健常な高齢者(62~80歳の男女22名)とし、被験者の左右と斜め前方にタイルを計4枚並べ、点灯色が違う1枚のタイルを踏むエクササイズを60秒続けてもらった。

     脳活動計測には、ウェアラブル型で非拘束状態での脳活動が計測可能な携帯型脳活動計測装置(HOT-1000)を使用した。

     モトタイルの正答数が多い人ほどトレーニング中の前頭前野の脳血流反応が大きく、脳血流反応の大きさと正答数に関係性が見られた。

     またトレーニングの前後に認知課題を実施したところ、トレーニング後に、空間認識力と判断力に関連する認知課題(空間性ワーキングメモリ課題、カラーワードマッチング課題)の正答率が上昇することがわかった。

     この検証結果から、「モトタイル」を使用したトレーニングにより、場所を把握する能力や異なる色を見分ける能力などの認知機能が短期的に向上することが示された。さらにトレーニングを継続して行うことで認知機能の向上が期待される。

     

     協力:セノー株式会社

ランチョンセミナー3
  • 辻 大士, 一階 千絵
    p. 22
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本体育学会の特別委員会として平成28年に設置され2期目をむかえた若手研究者特別委員会が、この度「若手研究者委員会」として常設化された(2018年6月の定時社員総会にて承認)。本委員会の前身である特別委員会ではこれまで、各専門領域から選出された40歳以下の学会員と担当理事2名の計17名で月1回程度の委員会を開催し、「シンポジウム等企画運営」、「若手研究者交流促進」、「入会促進・退会抑制に関する検討」の3つのテーマについて議論してきた。

     昨年の日本体育学会第68回大会ランチョンセミナーでは、日本体育学会に所属する若手研究者のための「若手の会」設立に向けた準備状況を紹介した。そして出席者から広く意見を聴取した結果、各専門領域の垣根を越えた人的交流や若手会員の意見を発信する場として、早期の設立を期待する声が多数寄せられた。その後、委員会内での議論を重ね、ここに、「若手の会」設立を宣言する。「若手の会」は日本体育学会に所属する若手研究者の交流を、専門領域の枠を越えて促進することで、体育学分野の研究を活発なものにしていくことを目的に設立された。本ランチョンセミナーでは、若手の会設立の経緯と今後の取り組みについて報告する。

     

     協力:日本体育学会若手研究者委員会

ランチョンセミナー4
  • 飯田 祥明
    p. 23_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     多くのスポーツにおいて、優れたパフォーマンスの発揮や怪我の予防のためには適切なシューズの着用が必要不可欠である。特にバスケットボールはダッシュ、ジャンプ、切り返しなどの激しい動作を要求されるスポーツであり、バスケットボールシューズ(通称:バッシュ)による身体運動への影響も非常に大きいと考えられる。

     今回のセミナーでは、仲谷政剛氏(アシックススポーツ工学研究所)からはシューズの機能設計に関して、中山修一氏(JR東京総合病院)からはバスケットボール選手の下肢の状態や医学的サポートについて講演をいただく。バッシュというトピックについて研究、開発、医学などの多方面から理解を深めることは、「スポーツ科学をどう活かすか」というテーマへの視野を広げる有意義な機会にもなろう。また発表後には、参加者を交えたディスカッションを行う予定であり、バッシュをはじめとしたスポーツギアとスポーツ科学との関連などについて意見交換がなされるものと期待される。

     

     協力:日本バスケットボール学会

  • 仲谷 政剛
    p. 23_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     シューズは、多くのスポーツをする上で欠かすことのできない重要なギアの一つであり、選手のパフォーマンス発揮や障害予防を考慮した機能設計が行われている。ここで、シューズに要求される機能は、対象とする競技の特性、選手の身体的、技術的な特徴、また使用される環境などによって異なる。そのため、スポーツシューズを設計する際には、まず、対象とするスポーツにおいて、選手はどのように動き、その動作におけるシューズの負荷や変形状態の把握が必要である。そして、要求される各機能を満たすシューズを設計すべく、最適な構造の検討に加え、最適な材料の選択と配置が求められる。

     本発表では、バスケットボールシューズの機能設計事例として、動作分析による要求機能抽出およびコンピュータシミュレーションを用いた構造設計例などについて紹介する。

     

    協力:日本バスケットボール学会

  • 中山 修一
    p. 23_3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     バスケットボールでは下肢の外傷・障害は全体の6割を占める。膝関節の靭帯損傷、特に前十字靭帯損傷が予防・治療ともに重要なのは論を待たないが、足関節の損傷は全体の2割から3割を占め、常に最多である。また、いわゆる足関節捻挫は日本の中高生のバスケットボール部の活動では年間1万6千件発生し、「ankle breaker」は選手を称賛するために使われる言葉となっているほどである。多くの選手が損傷したのちに不安定性や疼痛を生じており、70%に再発し、74%が慢性的な愁訴を残し、慢性不安定性には20-40%が移行すると報告されている。さらには骨棘障害や軟骨障害に至ることもあり、いわゆる足関節捻挫は今まで考えられていたより深刻な外傷と受け止められてきている。われわれ日本バスケットボール協会は2008年より膝前十字靭帯損傷の予防を女子トップリーグに、2015年より足の検診を高校生全国大会レベルの選手を対象に行なっており、今回はその調査内容について概説する。

     

     協力:日本バスケットボール学会

ランチョンセミナー5
トップアスリートに対する測定データを活用したトレーニング
  • 有賀 誠司
    p. 24
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     本講演では、柔道選手の競技力向上を目的とした筋力トレーニングの実際について、その変遷や選手強化に向けたサポート活動等を交えながら紹介する。

    1.柔道競技における筋力トレーニングの変遷

     柔道の創始者である嘉納治五郎は、1900年頃からヨーロッパのユージン・サンドウの筋力トレーニング法を採用し、柔道における体力強化の主要な手段として国内で啓発活動を推進した。しかし、嘉納の没後、柔道選手の筋力トレーニングへの取り組みは消極的となり、技を重視する傾向が長く続くことになる。その後、1964年の東京五輪に柔道が正式種目とした採用されたことを契機として、外国選手の中には、持ち前の恵まれた体格や体力に加えて高度な技術を習得する者が増え、国際試合では日本選手の「力負け」が指摘されるケースが相次いでいく。演者は、このような背景の下、バルセロナ五輪後の1992年より2008年北京五輪までの16年間にわたり、柔道男子ナショナルチームの体力強化サポートを担当する機会を得た。

    2.柔道男子ナショナルチームにおける体力強化サポート活動

     サポート開始当初は、古くから根強く残っていた体力強化に対する誤解や、「力よりも技で勝つ」といった考え方などから、壁に当たるケースが相次いだ。そこで、最初の4年間(アトランタ五輪まで)は、トレーニングの必要性についての理解を深めるとともに、トレーニングの環境整備に注力し、次の4年間(シドニー五輪まで)は、柔道の競技特性を考慮した専門的トレーニングを中心としたプログラムに移行した。その後、活動は軌道に乗り、有望選手の技術・戦術的課題に特化したサポート活動に重点を置くことができるようになった。

    3.柔道選手の筋力トレーニング方針

     柔道は、体重別階級制の競技であることから、競技力向上のためには、体重あたりの筋力を可能な限り高めることが重要であると考えている。特に、日本の重量級選手は、軽量級選手と比較して体重あたりの脚筋力が低い傾向にあり、傷害発生のリスクとしても懸念されている。これらのことを考慮し、国際競技力向上に向けた柔道選手の筋力トレーニングにおいては、階級別に設定した筋力目標値の達成や傷害予防を目的としたプログラムを優先し、その後、個人の課題や目標に応じた戦略的プログラムへと移行する方針を採用した。

    4.柔道の動作特性を考慮した筋力トレーニングとチェック法

     現場での試行錯誤を通じて考案された筋力トレーニング法の代表例を紹介する。これらは、効果のチェック法としても活用されている。

    ①柔道着懸垂:相手の柔道着をつかんで離さない「把持力」を改善することを目的としたエクササイズ。

    ②ダンベルスナッチ:技をかける時の引く動作のパワー向上を目的としたエクササイズ。

    ③ サイドランジ:水平方向への重心移動や切り返し動作の能力を高めることを目的としたエクササイズ。

    ④ 片足4方向ジャンプ:片足でさまざま方向に対して、バランスを崩さずに移動する能力を改善することを目的としたエクササイズ。

    ⑤立位トランクツイスト:技をかける際の上肢や体幹のパワー向上を目的としたエクササイズ。

     

     協力:特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会

  • 仲 立貴
    p. 25
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本の女子レスリングは世界トップクラスの競技成績を誇り、2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックにおいては、6階級中4階級で金メダル、1階級で銀メダルを獲得し、2020年に行われる東京オリンピックでのさらなる活躍が期待されている。

     一方で、レスリング競技では、上肢のプル動作が競技パフォーマンスに影響を及ぼす重要な体力要素のひとつであることが示唆されているものの、これまでに上肢のプルパワーやパワー持久力の特性は十分に明らかになっていない。また、トップアスリートのトレーニングでは、フィールドで短時間に測定できる計測機器を活用することが求められている。

     本セミナーでは、Linear Position Transducer(LPT)を用いて、世界トップ女子レスリング選手の上肢パワーとパワー持久力を測定し、女子レスリング選手に必要な体力特性を把握したうえで、上肢プル動作パワー向上のトレーニング法に活用した実践事例を紹介する。

     

     協力:特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会

ランチョンセミナー6
限られた時間での練習と休息の質を高めるために–選手の自律性の重視–
  • 小井土 正亮
    p. 26_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     日本の教育思想的に「がんばる」ことや「耐える」ことが美徳とされ、部活動においても、そういった観念のもと「長時間」「強制的」に練習をする(させる)傾向がある。その教育的効果は全面的に否定するものではないが、弊害として「障害の多発」「勉強・睡眠・余暇時間の不足」などが挙げられる。少子化、指導スタッフの不足等、昨今の部活動を取り巻く状況を踏まえ、これからの学校教育現場における部活動はどうあるべきか、検討すべき時期にきていると考えられる。2017年第97回天皇杯においてベスト16まで勝ち進んだ筑波大学蹴球部が「短時間」「主体的」をテーマに取り組む部活動の紹介を通して、短時間の練習で成果を得るための要点や、今後の部活動のあり方について議論したい。

     

     協力:日本自律訓練学会

  • 坂入 洋右
    p. 26_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     前回の東京オリンピックでは、多くの選手が自律訓練法を学んで競技に臨み、一定の成果を上げた(日本体育協会、1964)。その後自律訓練法は、スポーツに限らず医療や教育や産業など多様な領域に普及してきたが、単なるリラックス法だと誤解されて、残念ながら間違ったやり方が広まっている。その本質は、集中とリラクセーションを両立させる自律的なトレーニングであり、1回の練習時間は90秒と短いが、記録を付けながら自分の心身のモニタリングを毎日継続することが大切である。また、自律訓練法が有効に機能するために最も重要な「自律性原理」とは、指導者が主体とならず、各練習者の主体性と練習者の身体の自律性を尊重する態度を徹底することである。2020年を目前に控えた現在、一人でも多くの人に、実際の自律訓練法を体験して本質を理解し、有効に活用してもらいたい。

     

     協力:日本自律訓練学会

ランチョンセミナー7
  • マイク リチャードソン, レイチェル カレン, 服部 裕子, 横山 慶子
    p. 27
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     国際シンポジウム「ともにあるき、ともにわらう:協調と共感のダイナミクス」では、言語およびプログラム時間上の制約により、十分な議論を尽くせないことが懸念される。そこで本ランチョンセミナーでは、シンポジウム演者の先生方に引き続きご参加頂き、必要に応じて適宜通訳を交えながら議論を継続する。また、合わせて、体育心理学専門領域の会員による関連研究をシンポジウム演者の先生方に紹介する機会として本ランチョンセミナーの場を活用したい。そこで、本セミナー内でご自身の関連研究を紹介したいという希望のある方は、司会の工藤まで予め連絡をお願いしたい。

     

     協力:体育心理学専門領域

専門領域企画
専門領域企画(00) 体育哲学
シンポジウム
  • 30年度テーマ:スポーツの希望論
    関根 正美, 坂本 拓弥
    p. 28_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     昨年度は統一テーマの1年目であり、「懐疑主義的スポーツ論」と題して、スポーツの流行や大衆化、熱狂をめぐって批判的な議論がなされた。そこで論じられたある種のスポーツへの認識を踏まえて、2年目は、スポーツの希望を歴史と哲学の立場から議論したい。ここでいう希望には、もちろんスポーツ界における暴力や不正等の問題を克服していく可能性と、併せて、現代社会のより広い文脈においてスポーツが成しうることの、二重の意味が込められている。特に後者は、さまざまな対立によって人間の生が揺るがされている現状において、多様な他者とともに生きていくために、スポーツが体現しうる希望とは一体何なのかを探求することである。スポーツを単に現実逃避としてのユートピアや消費の対象として掲げるのではなく、その現実を変容していく可能性を宿したものとしてスポーツの希望(理念)を改めて論じてみたい。「このような時代だからしかたがない」とか「時代の要請にこたえる」あるいは「とにかくバスに乗り遅れるな」という反知性主義的態度に抗して、われわれはスポーツ(体育)の真理を探究する態度で、議論に臨めれば幸いである。

  • 野上 玲子
    p. 28_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     昨年度の議論を引き継ぐかたちで、オリンピックと反・反知性主義が織り成すオリンピック希望論を考えてみたい。反知性主義とは、知性主義への反感から知性や理念を批判し引きずり降ろそうという態度であると理解し、ここからもう一度、オリンピックにおける平和への理念(オリンピズム)や権威(IOC)を現代版として立て直すとすると、どのような提言が可能なのか。今や、自国でのオリンピック開催を歓迎する声は少ない。不透明なIOCの体制、膨大な費用のかかる大会、金メダル至上主義など現代のオリンピックに平和への理念は見出せない。広く世界に向けた平和な地球社会に寄与する姿勢も見られない。本発表では、普遍であるはずのオリンピックの理念がいかに時代の趨勢や流行に流され空虚なものであったかという批判的視点から出発し、その様相とカントの平和哲学を援用解釈しながら、平和理念の再構築を目的としたオリンピック希望(改革)論を提示する。その際、平和のためのオリンピックは誰の平和のためのオリンピックなのか、オリンピックが体現しうる平和への理念と私たち人間およびIOCの組織改革を含む平和への努力の方向性を体育・スポーツ哲学の立場から提言していく。

  • 森田 啓
    p. 29_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     新自由主義は格差拡大をもたらしている。これは経済だけの話ではなく、スポーツもである。現在のスポーツをそのまま継続することは、この格差拡大に加担し、さらに一層格差を拡大する。一部のスポンサー企業や一流選手がこれに便乗して大儲けし、格差がさらに拡大する。貧しい選手のサクセスストーリーは注目されるが、それ以外多くの人は日の目を見ずに見捨てられる。現在のスポーツの希望とは新自由主義(支持)者にとっての希望である。

     移民排斥、人種差別、環境破壊等々、私たちの生きる土台が揺るがされる時代となっている。スポーツができる環境、条件が危うい。スポーツを高潔に保つ努力は一方で必要だろうが、同時にスポーツは世の中を維持するための裏、闇も担ってきた。「ハレとケのケ」「ストレス発散の機会」など。生命科学(遺伝子ドーピング)や薬物ドーピングの蔓延、アンフェアを隠蔽する現在のスポーツに人々が本当に愛想をつかし、新自由主義を変えようと思ったとき、新しい真のスポーツの希望が見いだせるのではないか。

  • 鈴木 明哲
    p. 29_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     昨年度の本シンポジウムでは、「懐疑主義的スポーツ論」をめぐる議論の中から、スポーツの流行、大衆化、そして熱狂という問題が紡ぎ出されてきた。体育・スポーツ史研究の立場からも議論に即して、最終的には「スポーツをする人」を大切にすべきことを提起した。

    今年度も引き続き「スポーツをする人」を起点にしながら、体育やスポーツの実践において、人間がどのように捉えられているのかを、「人間観」の思想として捉えつつ、論じてみたい。

     特に今回の報告では、まず太平洋戦争下における日米戦闘機の性能比較に内在する「人間観」の思想を紹介し、その視点を援用しながら2015年前後に起きた「組み体操問題」を具体的事例として、そこに内在する「人間観」を引き出し、いかに思想が貧弱もしくは不在であるかを考察する。

     以上を骨子として「人間観」の思想をもとに、人間が実践しているにもかかわらず人間不在となりつつある体育やスポーツについて論じ、思考、思想の鍛え上げの必要性、そして体育哲学への希望を体育・スポーツ史研究の立場から提言していく。

浅田学術奨励賞受賞記念講演
  • 大峰 光博
    p. 30
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/18
    会議録・要旨集 フリー

     北米では、競争上の優位性を獲得するために対戦相手に与えるプレーヤーによる言葉の攻撃は、トラッシュトーク(trash talking)と呼称される。スポーツ哲学の領域においては、ボクシングや野球の報復死球といった、試合における身体への直接的な攻撃の是非については論じられてきた。また、練習における体罰についても研究の蓄積がなされてきた。しかしながら、トラッシュトークといった言葉による攻撃の問題は、論じられる機会が少ない。

     本発表では、トラッシュトークといった言葉による攻撃を、スポーツ哲学領域において論じられてきた「失敗した試合(failed athletic contests)」に関する所論から検討する。また、「失敗した試合」に関する所論がトラッシュトークのみならず、他のスポーツにおける倫理的ジレンマを孕む問題を論じる上で、有効な分析枠組みとなる可能性を検討する。

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