日本体育・スポーツ・健康学会予稿集
Online ISSN : 2436-7257
第72回(2022)
選択された号の論文の400件中1~50を表示しています
学会本部企画
本部企画シンポジウム1
  • 宮地 元彦
    セッションID: 13-30107-09-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われている。設立から73年を経て、現在は第25期(1期3年)の活動が進められている。第二部(生命科学系)の健康・生活科学委員会の中に、健康・スポーツ科学分科会が設置され、現在13名の委員により活動している。近年では、スポーツ庁長官からの審議依頼に対する回答「科学的エビデンスに基づく『スポーツの価値』の普及の在り方」や、提言「子どもの動きの健全な育成をめざして~基本的動作が危ない~」などを表出してきた。健康・スポーツ分科会は第二部に所属しているが、人文・社会系、生命科学系、理学工学系を専門とする幅広い研究分野の会員、連携会員が所属し、共同して活動を続けている。本発表では、日本学術会議における健康・スポーツ科学分科会がこれまでに進めてきた活動を紹介することで、本シンポジウムのテーマ「『総合知支える学会』を目指して」の議論の活性化に貢献できればと考えている。

  • 萩原 悟一
    セッションID: 13-30107-09-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    人文・社会科学、および自然科学を含むあらゆる「総合知」により、社会の課題を解決するために様々な取り組みが行われている。私は「総合知」を生み出すためにスポーツ科学の若手研究者の立場から何を準備するべきか、または実践することができるのかを考えながら教育・研究・社会貢献に寄与するための努力を重ねている。学位を取得した研究内容を発展させることは基より、Beyond 5G、メタバース、XRの時代でスポーツをさらに発展させるために異分野の研究領域から新たな学びを得るための挑戦を続けている。30代の若手研究者という立場を活かし、失敗を恐れない実践を続け、40代、50代には総合知を生み出す立場になれるような研究者になることを目指したい。本学会では若手研究者が失敗を恐れずに実践している初学者「総合知」の事例と今後の展望について語り、学会員の皆様と様々な議論をしたい。

  • 金谷 麻理子
    セッションID: 13-30107-09-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    体育・スポーツ・健康分野におけるダイバーシティとはいかなるものなのか、ダイバーシティを促進するためにはどうすべきなのか、ダイバーシティの促進によって得られるメリットは何か。これらは筆者が昨今、様々な組織に属する中で、ことあるごとに出会う問いである。一方で、本分野は、老若男女、多種多様な人々が集うことから、そもそもダイバーシティの最たるものであり、まさしく「総合知」の宝庫であるとも考えられる。とすると、本分野がこのダイバーシティ環境を有効活用し、より社会の発展に貢献しうるにはどのようにすべきなのだろうか。筆者は、日々、大学の体育教員として非専門・専門学生、大学院生(修士、博士)と関わり、体操競技のコーチやマネージャーとして競技スポーツや社会体育の現場でジュニア、学生、日本代表など多様な選手や指導者たちと関わっている。つまりは、日常的にダーバーシティ環境にすでに身を置いているといえる。今回はこのような自身の活動を事例として、「総合知」創造のためのダイバーシティについて考えてみたい。この発表をきっかけに本テーマについて皆様と議論を深めていければ幸いである。

本部企画シンポジウム2
  • スポーツ産業DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流とは
    河本 敏夫
    セッションID: 13-40107-09-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツ産業において、IT(情報技術)による新たな付加価値を生み出すソリューション・プレイヤーを「Sports-Tech(スポーツテック)」と呼称する。世界を見渡せば、北米・欧州では巨大なスポーツ産業のマーケットが形成されているが、その背景には、Sports-Techの戦略的活用が寄与している。金融におけるFintech、製造業におけるIndustry4.0と同様に、スポーツ産業もテクノロジーにより変革し、従来なかった体験価値の創出や、新たなビジネスモデル構築の余地がある。本講演では、産官学連携で、デジタル化時代に即した次世代スポーツビジネス、周辺産業や地域と連携したスポーツビジネスエコシステムの創出を目指すコンソーシアム「Sports-tech & Business Lab」の発起人であり、事務局長を務める立場から、スポーツや身体活動分野におけるテクノロジーやデータサイエンスの活用の可能性について全体像を俯瞰するとともに、類型化したうえで、Sports-Techの全体像について整理する。

  • 持丸 正明
    セッションID: 13-40107-09-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    人間拡張技術とは「人に寄り添い、人を高める」技術である。センサやロボット、VRなどを身にまとうことで一時的に人の能力が高められるだけでなく、それを継続的に使用することで人本来の能力も維持増進することを目指している。特に、人の身体能力を高めたり、コミュニケーション能力や社会性を高める研究が注目されている。講演では、スポーツに関わる身体能力を拡張する技術、健康を維持するための身体活動を継続するためのモティベーションを拡張する技術、そのモティベーションに繋がる社会性の拡張技術などの最新動向を紹介する。さらに、これらの人間拡張技術をサービスとして社会実装する地域連携型の実証試験の取り組みを紹介していく。その上で、人間拡張がもたらす未来の社会像について俯瞰する。障害者や高齢者の身体性・社会性が拡張されともに活躍できる社会になるという明るい未来像だけでなく、人間拡張によって産み出される多様性の拡大や、格差社会も併せて見通していく。その上で、いかにして社会変化の予兆を見いだし、それを技術開発や制度設計、国際標準にフィードバックしていくかという研究のフレームワークを紹介する。

  • 菊 幸一
    セッションID: 13-40107-09-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツは、古来、その特有の道具や用品の開発によって競われ表現されるべき身体能力を特定したり、競い合おうとする身体能力にふさわしい道具や用品を工夫したりして、それぞれが独特の行い方(スポーツ技術)を持つ多様な種目を開発してきた歴史がある。

     またスポーツは、歴史的に「相手を直接支配する格闘型から間接的な優劣を競う競争型、さらに記録を競い合う達成型」へと変化してきているが、この変化は近代社会を成立させる暴力に対する嫌悪感の高まりといった感性レベルの変化とともに、社会全体における人間への能力評価が「体力から技能へ、そして知略へ」とその重点を変化させていったことに対応する。つまり、成熟社会におけるスポーツは、このような社会を成立させる暴力への嫌悪感やそれに付随する人間性(humanism)の維持や発展との関係から成立し、これらを希求していることを理解しておかなければならない。しかし一方で、因果論に基づく知性と技術の結びつきが人間(社会)を破壊する装置を生み出したように、この新たな暴力性をいかに人間社会が幸福に導かれるような目的論的なコントロール下におくのかが課題とならざるをえない。スポーツテクノロジーの発展では、この因果論と目的論との関係において、どのような身体的解放の「人間的臨界点」とも呼ぶべき着地点を見出していくのかが問われていると考えられる。

テーマ別シンポジウム
スポーツ文化研究部会【課題A】シンポジウム
  • 山口 拓
    セッションID: 13-40104-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    現今の社会では、世界で猛威を振るうCOVID-19、無秩序な社会を象徴する終わりなき紛争、歯止めの利かない地球温暖化や自然災害の頻発など、社会的弱者はおろか一般市民の安全保障でさえも難しい状況に陥っている。そんな状況下において、個人の能力を高め、社会に潤いを与える等、時代に応じて重要な役割を担ってきたスポーツのソフトパワーは、さらなる進化を遂げ、「スポーツを通じた開発(IDS)」或いは「平和と開発のためのスポーツ(SDP)」等と呼称されるまでに至り、平和や開発などの領域で活用される中で成長の一途を辿っている。

     しかし、実活動を軸に世界へ広まったこの現象は、活動内容が多様で汎用性が高く、各地の文脈に合わせた処方箋が講じられることから、研究対象になり辛く、学術分野から敬遠されていたように感じられる。しかし、そもそも総合科学領域にある開発学やスポーツ科学は、応用科学との親和性も高いことから、個別の状況に合わせた研究に向いており、多様な研究の可能性が秘められている。

     今回の発表では、こうしたスポーツと開発をめぐる背景を解き明かしながら、参加者の皆さんの興味を高めつつ、後の議論の足掛かりとなる情報を提供したい。

  • 急激な経済開発を遂げた1990年代のタイ国の事例から
    佐川 哲也
    セッションID: 13-40104-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    私が初めて東北タイ調査に参加した1986年頃のタイ国は発展の途上にあり、前近代と近代が入り交じり、首都バンコクと地方には明瞭な都鄙差が認められた。東北タイの純農村、地方都市、バンコク都、そして日本という近代化・都市化水準の異なる地域勾配を研究枠組みとして、子どもの発育、生活、遊び・スポーツの研究を開始した。

     伝統的生活様式の残る純農村においてさえ新校舎に建て替えられ、教室にテレビやPCが導入された。学校対抗のスポーツ競技会が盛んに開催され、教育省体育局がスポーツスクールを設置し、タイ国におけるスポーツの地位が上昇した。途上国の中でいち早く経済発展を進めたタイでは、スポーツの普及と発展を急いでいるように見受けられた。その結果として、伝統菓子よりもスナック菓子を選ぶが如く、子どもたちは伝統遊びよりもスポーツを好むようになり、世代を越えて連綿と続いてきた伝統遊びを静かに消失させることになった。こうした国々に寄り添ってスポーツ開発を語るとき、「容易く伝統文化を消失させてよいのか」「世界共通となったスポーツだけに力を注ぐことでよいのか」と発信することが使命だと感じるようになっていた。

  • 「ペルーに対する体育教師の能力開発支援」プロジェクトからみえたもの
    齊藤 一彦
    セッションID: 13-40104-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    東京五輪開催を契機に、体育・スポーツ分野の国際貢献事業「スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)」が開始された。本事業は2014年に始まり、2021年度末まで行われ、100ヵ国以上を対象、1,000万人以上の裨益者を創出することを目標とし、2019年にその数値目標は達成された。

     発表者は、本事業の一つであった「ペルーに対する体育教師の能力開発支援」のプロジェクトリーダーを務めた。ペルーでは2017年施行新カリキュラムにて小学校体育授業時間数が週2コマから3コマに増加し、適切な体育授業が展開できる体育教師の育成が急務となり、日本の知見の共有が求められることとなった。そこで、発表者らは、日本・ペルー両国での体育科教育専門家チームを作り、「体育授業研究」を紹介・導入する活動を実施した。

     本プロジェクトでは、ペルーの文脈や、関係者の関心に応じた授業研究の展開を行い、現地専門家の主体性を尊重しながら、持続的発展を追及することを重視した。SFTプロジェクト終了後も、授業研究の展開を軸に、両国での交流が続いている。

     本発表では、本プロジェクトでの具体的な活動内容やその成果について、関係者へのインタビューの結果なども踏まえつつ、報告したい。

スポーツ文化研究部会【課題B】シンポジウム
  • 田中 愛
    セッションID: 22-4504-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、身体論の立場から、スポーツ実践における/をとおした「多様性と調和」の内実を探りたい。その際、「における」と「をとおした」がどのようにつながり得るかについても検討したい。発表者がパラバレーを体験した際に受けたカルチャーショックは、「多様性」とはどういうことか考える契機となった。同時にその態度では、「珍しさ」や、知らなかったことへの「驚き」が先行してしまい、実践の中で何が生じているかを捉え損ねていた。しかし、練習や試合を通してパラバレーに身を投じていく中で、多様性という「概念」は「どうしようもない〈できなさ〉を受け止める」という具体的行為の中の実感に変わっていった。

    このような立場から改めて「多様性」という言葉について考えてみれば、当然のことながら違和感が生じる。本発表では、この違和感の源泉を、「多様性の内と外」および「西洋医学的身体観」に立ち止まることによって考えたい。このことは、社会やスポーツにおける「普通」の成り立ちとその強固さに立ち止まることでもある。そうすることによって、「多様性」という言葉が一人歩きすることについても問題提起したい。

  • 河合 純一
    セッションID: 22-4504-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    パラリンピックは世界最高峰のパラアスリート(障害のあるアスリート)の競技会であり、ハイパフォーマンススポーツとしての地位を確立してきた。そこで、東京2020パラリンピック競技大会、北京2022パラリンピック冬季競技大会日本代表選手団の活躍を振り返りつつ、日本社会に及ぼした影響を考察する。また、東京2020大会の基本コンセプトの1つであった「多様性と調和」を実現してきた事例を大会開催決定後からの動きを中心に紹介する。中でもパラリンピック教材『I’mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』、東京2020アクセシビリティガイドラインの作成、活用事例をパラリンピックの歴史や意義に触れつつ説明する。

     その上でD&I「ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)」の違いを説明し、共生社会(インクルーシブな社会)を実現するための段階(ステップ)について検討する。

     最後にパラリンピックは「人間の可能性の祭典」であると伝え続けてきた立場から、共生社会のイメージを共有し、JPSA2030年ビジョンにある「活力ある共生社会の実現」の可能性を示す。

  • 袴田 智子
    セッションID: 22-4504-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    国立スポーツ科学センター(以下、JISS)では、2001年よりオリンピックアスリートを対象に体力測定を行ってきたが、2015年からは、パラリンピックアスリートについても、オリンピックアスリートと同様に体力測定を実施している。競技者を対象とした体力測定は、主に、選手自身のコンディション把握、トレーニング効果を確認する目的で実施される。測定項目や測定プロトコルについては、類似したオリンピック競技の体力測定項目を参考にし、競技種目や選手に応じて調整している。現在、JISSでは、夏季・冬季の競技を合わせて8競技12種別、年間延べ100名程度のパラリンピックアスリートの測定を行っている。障がい種別では、肢体不自由(欠損、四肢麻痺、脊髄損傷)、視覚障がい、知的障がい等に対応している。体力測定を実施する中で、パラリンピックアスリート特有の課題も浮き彫りになった。本シンポジウムでは、これまで我々が体力測定を通して得られた、課題や対応策についてご紹介するとともに、競技力向上を目的とした医・科学サポートにおける多様性と調和について、議論を深めていきたいと思う。

スポーツ文化研究部会【課題C】シンポジウム
  • 水村(久埜) 真由美
    セッションID: 22-2111-13-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    ダンスは、文化に根付いて伝承・継承される身体表現である。バレエのように形式化された舞台芸術であっても、その誕生には文化的背景があり、上演されるダンスは、正に文化財といっても過言ではない。競技スポーツのパフォーマンス向上に、バイオメカニクス研究が貢献する事例は数多く報告されている。近年、同じ研究手法を用いて、身体表現としての様々なダンスを分析する研究は増加している。ダンスを対象とした科学的知見の蓄積は、身体運動としてのダンスの独自性を客観的に理解することに貢献し、ダンスの運動としての魅力を伝えるだけでなく、安全にダンスを楽しむための知見も提供している。一方で、バイオメカニクスに代表される定量的な解析から、芸術としての表現性を客観化することは容易ではない。身体文化の芸術的側面の解明には、今後分析手法の工夫や他領域とのコラボレーションといった展開により、バイオメカニクス研究による身体文化の伝承・継承に資する研究展開が期待される。身体への興味を共通点に、異なる領域の研究者が会する本学会での情報共有から、身体文化を対象とした自然科学的研究の今後の発展的な議論が展開されることを楽しみにしている。

  • 中村 剛
    セッションID: 22-2111-13-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    シンポジウムでは、スポーツ運動学の立場から「身体文化としての〈わざ〉の伝承と動感出会い」というテーマでお話しする。この〈わざ〉は「歴史的にも、社会的にも、その伝承価値を保有している運動文化財」(金子, 2002, p.403)を意味する。

     この運動文化財としての〈わざ〉の伝承は、彫刻や絵画などの有形文化財の継承とはずいぶんと違った様相を呈する。それは〈わざ〉の動感能力(金子, 2005, p.44)が人から人に受け継がれることで成立する。つまり〈わざ〉の承け手が、そうした能力をわが身に発生させられるかどうかが鍵を握る。伝え手がかつて習得した〈わざ〉を承け手に伝えようとしても、相手に動感能力が発生しなければ伝承は不成立に終わる。

     こうして〈わざ〉の伝承で中核に据えられるのは、承け手の能力発生ということになる。そしてそこでは、伝え手が承け手の内在的な能力発生の営みに「いかにして出会うことができるのか」ということが前景に立てられることになる。

     当日は、伝え手と承け手のあいだに伝承関係系が成立する上で不可欠な〈動感出会い〉についてお話しすることにしたい。

    文献

    金子明友(2002)わざの伝承.明和出版.

    金子明友(2005)身体知の形成(下).明和出版.

  • 清水 由佳
    セッションID: 22-2111-13-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    殺すための「武術」から、その修行の過程に価値を見出し、その精神性を解くようになって「武道」へと変貌を遂げた。空手も空手道へ。空手界(特に沖縄)では、「伝統空手は絶滅危惧種」であり、今流行っているのは「スポーツ空手である。」いうことを耳にする。しかし、時代の変化に柔軟に対応し、その時代の人々のニーズに寄り添い、人々の心の拠り所としてあったからこそ、空手道は途絶えず、今なお200年以上存在しているのだと思う私は、「昔は…今は…」と批判し、評論家になっている空手家に愚問を感じるところがある。

    「伝統」というものには、必ずそのような問題定義がなされているのであろう。

    ただ、無形文化である空手道においては「稽古」が全てであり、血統や組織の大きさや口だけでは「技」は語れない。そして、「終わりなき探究」であるからこそ競技生命に関わらず、生涯空手ができるのであり、その探究(研究)のバトンを次世代に渡し続けることそのものの行為を「伝承・継承」というのではないだろうか。

    「歪み」かもしれないが、「進化・成長」なのかもしれない。

    生身の人間が行う動作である以上、決して「型」にはめることはできない。

学校保健体育研究部会【課題A】シンポジウム
  • 向後 佑香, 天野 和彦
    セッションID: 13-40206-08-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    平成28年4月1日より障害者差別解消法が施行されました。これに伴い、多くの大学で、障害学生の受け入れと障害学生に対する支援体制の整備が進んでいるものと思われます。一方で、障害種別や程度によって、求められる支援内容は多岐にわたるため、多様なニーズへの対応に困難を感じている大学もあると考えられます。そのような中、さらに座学とは異なる配慮が必要とされる体育授業において、障害学生への対応はまだまだ担当教員個人の試行錯誤に委ねられる部分が大きい状況にあるのではないでしょうか。様々な背景を持つであろう全ての大学生に対して、より良質な大学体育の授業を提供していくためにも、大学における障害学生の教育・支援について実効性のある知見を大学間で共有していくことは大変重要と考えます。そこで、筑波技術大学はわが国で唯一の聴覚・視覚障害学生のための大学であることから、本シンポジウムでは、本学における体育授業の現状、および体育授業を行う際の聴覚・視覚障害学生のための配慮と工夫について発表します。この発表が障害理解の深化や大学での体育授業における支援拡充の一助となることを期待いたします。

  • 野口 亜弥
    セッションID: 13-40206-08-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    大学体育は教員が独自性を発揮し「楽しむこと」を中心に据えた授業づくりができることから、目的や意義はこれまで、運動機会の提供、生涯スポーツの導入、ソーシャルスキル獲得の場などと言われてきた。大学体育は学生のスポーツ参加のハードルを下げ、多様な目的を運動に持つ学生たちを包摂してきたと言えるであろう。一方で、これまでの大学体育において、ジェ ンダーやセクシュアリティの課題はあまり議論されてこなかった。女子学生の運動機会や種目選択は男子学生と本当の意味で平等なのだろうか。多様な性自認や性的指向を持つ学生たちにとって、機会の平等と心理的安全は保障されていると言えるのか。また、大学体育は学生たちが真の公正や平等について考え、議論を深める場としても有効であると考える。性別、性自認、性的指向、性表現に関わらず、誰もがスポーツに平等に安全・安心にアクセスできるスポーツ環境を議論することは、誰もが安心・安全に豊かに暮らせる共生社会を考えるきっかけも創出するであろう。小学校の義務教育から学生たちの身近に存在してきた体育だからこそ、ジェンダーやセクシュアリティの課題を身近に感じてもらうことができるのではないか。

  • 細谷 洋子
    セッションID: 13-40206-08-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    これまで発表者は、2008年から断続的に、有形・無形文化財を活用した大学体育授業(半期・集中・単発含む)を行ってきた。前者については、日本遺産有形文化財である四国遍路の一番札所から六番札所(約15㎞)までの歩き遍路体験を通じて、ウォーキングによる健康維持促進と、地域住民との触れ合い(お接待含む)による地域文化理解を深めることを目指した。一方、後者については、ユネスコ無形文化財のブラジル伝統格闘技カポエイラを扱った。授業では技術習得のみならず、既存の競技スポーツと異なる価値観で行われるカポエイラ固有の世界観の体験を通じた異文化理解促進を目指した。真の多文化・異文化理解とは一朝一夕の知識習得や体験だけでは決して成しえないが、体育授業における、自らの身体を介する短期的体験だけでも、異文化理解の入口として当該文化を内側から捉える好機となる。こうした体験は、受講生のその後における多文化をとらえる視点づくりに有益なのではないか。そのような観点から、両者のこれまでの実践事例を踏まえて、共生社会の創造に向けた大学体育授業の可能性について提案する。

学校保健体育研究部会【課題B】シンポジウム
  • 塩見 英樹
    セッションID: 23-30104-07-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    令和3年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査において、体力合計点は、令和元年度調査に続いて低下する結果となった。質問紙調査では、「コロナの影響を受けて運動やスポーツをする時間が減少した」と回答する児童生徒が約4割にのぼった。一方で、運動やスポーツをする時間が増加したと回答した児童生徒は約3割であり、その特徴としては、運動やスポーツの大切さを認識しており、体力が高い傾向が認められた。このことから、学校や家庭において日頃から児童生徒に、運動やスポーツをすることの大切さを伝えるとともに、運動の楽しさを実感し、工夫しながら運動をする習慣の定着に努めることの大切さがうかがわれた。

     第3期スポーツ基本計画においても、体育・保健体育の授業等を通じて、運動好きな子供や日常から運動に親しむ子供を増加させ、生涯にわたって運動やスポーツを継続し、心身共に健康で幸福な生活を営むことができる資質や能力の育成を図ることが示されている。

    本シンポジウムでは、学習指導要領の目標や内容等を踏まえ、児童生徒が飽くまで、運動やスポーツを楽しみ喜びを感じながら取り組むことができるようにする体育授業の在り方についてお伝えしたい。

  • 梅澤 秋久
    セッションID: 23-30104-07-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動やコロナパンデミック、紛争等の世界規模のアポリアの連続は、刹那的で利己的な価値観の終焉を指南する。持続可能性が希求される中、SDGsの第3目標は「Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)」であり、第4目標は「Quality Education(質の高い教育を)」である。いずれも本学会の貢献が期待される目標であるが、その共通点は「全ての人」、「包摂」、「公正」「Well-being」等であろう。

    本シンポジウムでは、「ともに」学び育つ対象を全ての多様性とし、障害の有無、ジェンダー、運動格差、年齢差等の格差を包摂する「共生体育」の在り方について言及する。「今だけ、ここだけ、私だけ」という快楽主義(ヘドニア)的な思想から、「今−ここ−わたしたち」の没頭(Engagement)を通じた関係性(Relationship)、意味(Meaning)、達成(Accomplishment)という持続的Well-beingをつくりあう体育において検討していく。そのような体育を探究するためには教師集団も同僚性を基盤とし「ともに」学び育つ必要があると考えられる。

  • 今関 豊一
    セッションID: 23-30104-07-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    「自分の健康」だけでなく「みんなの健康へ」とは、健康になるための個人の対処で自分自身に向けられる健康行動として、また個人が集まって複数以上で対処する健康行動としてとらえることができる。それらは、個人、お互いの健康が「低下を抑制する」「維持する」「高まる」ように相互作用が行われるであろう。

     「自分の健康」は、「身体的」「精神的」「社会的(対人的)」で、また「みんなの健康」は、「自分の健康」に加えて「社会環境(制度を含む)」でとらえることができよう。

     「より良質な学習」は「Quality of Life」の一部としてとらえる。学習での具体は、課題追究、話し合い、お互いの意見や考えの共有、といった場面で質的に充実することであろう。学習の成立は、相手の立ち位置になって「自分のことだ」と置き換えること、自分の考えが自覚できる(見える)ことが条件になってくるのではないか。学習過程は、「『個々の追究1』-『活動(話し合い)1』-『共有』-『活動(話し合い)2』-『振り返り(個々の追究2)』」の繰り返しが考えられる。

     このような取り組みが良質な保健体育の授業につながり、豊かなスポーツライフの実現に向かうことになるのではないか。

  • 清田 美紀
    セッションID: 23-30104-07-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症の蔓延により、これまで経験したことのない制限の中での教育活動が余儀なくされている。体育・保健体育授業、運動・スポーツに関する活動については、他の教育活動と比較して配慮すべき事項が多く、子供たちが伸び伸びと身体活動を通して学び合う場や時間を確保しにくい状況がある。

     こうした状況の中で、子供たちの学びを保障していくためには、学校を取り巻く地域の多様な人材が教育活動に参画していく環境を創ることで、様々な状況や困難な課題にも柔軟に対応することが可能となっていくのではないだろうか。多様な背景を有する人材が、各々の専門性に応じて、体育・保健体育授業や、運動・スポーツに関わる活動に参画することで、子供たちは、新たな視点で運動やスポーツとの多様な関わり方について考え、運動やスポーツの楽しさや喜びを味わうことにつながっていくのではないだろうか。

     これからの社会を豊かに生きていけるよう、子供たちを運動・スポーツ・健康の側面から育てていくため、今できること、そして今後の在り方について、学校と地域の連携の視点から、いくつかの事例を交えて考えてみたい。

学校保健体育研究部会【課題C】シンポジウム
  • 工藤 和俊
    セッションID: 22-4E10-12-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    「心(こころ)」は「身体(からだ)」なくして存在しえない。その意味において両者は等価ではなく、心はあくまで身体を前提として存在する。心の働きを身体とは独立した記号処理として扱う古典的認知科学に代わり近年注目されている「身体性認知」(embodied cognition)や、知覚・注意・思考・意思決定・情動を包括的に説明しうる脳活動の統一理論として提唱されている「自由エネルギー原理」の立場も、身体の運動を認知や思考プロセスそのものとして捉えており、運動と感覚/知覚/認知との一体性が強調されている。また、身体性を基盤として知覚行為の学習・発達・進化をつなぐ「階層的動作構築理論」の立場においても、姿勢や呼吸を整え、からだをほぐし、バランスを保つという基底階層が、より高次の複雑な認知・行為を支えると考える。さらに、哲学者のメルロ=ポンティが「他者の心は…身体化されたものとしてのみ与えられる」と主張したように、社会的認知の基盤も身体に求められる。これらの立場はいずれも知覚行為基盤としての身体の重要性を強調するものであり、ひいては基盤的教育科目としての保健体育の存立を支えるものとなる。

  • 野井 真吾
    セッションID: 22-4E10-12-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    Society 5.0構想が提唱されている。また、昨今のコロナ禍ではGIGAスクール構想の実現に向けた動きが一気に加速し、子どもの「学び」について再考することを余儀なくされている。さらに、AI、アバター、デジタル教科書等といったコトバを日常的に耳にすることを踏まえると、その議論は喫緊の課題ともいえる。このようなことから、体育科教育学分野ではICTを活用した体育授業のあり方等が模索されている現状がある。もちろん、これからの時代にそのような改革が必要であることは理解できる。しかしながら、ヒトは動物である。動物は「動く物」と書くように、動かなければヒトにも人間にもなれない。また、ヒトは人間でもある。人間は「人の間」と書くように、一人で進化してきたわけではない。家族や仲間とともに共存、協力しながら進化してきた。そのように考えると、ヒトは「動いて動物になり、群れて人間になる」といえる。そしてそのことは、Society 5.0時代、GIGAスクール時代が到来しても同じである。むしろ、そのような社会になればなるほど、動くこと、群れることの重要性を強く自覚しておく必要がある。同時に、保健体育に寄せられる期待はますます大きくなるとも考える。

  • 近藤 智靖
    セッションID: 22-4E10-12-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    我が国の学習指導要領は概ね10年に一度の単位で改訂されており、それにあわせて体育科でも重視される内容が変遷している。体育科における指導内容を決定づけていく要因は一つに限らず、児童生徒の実態、教育学やスポーツ科学の学術的発展、国内外の教育やスポーツを巡る動向、さらには政治や行政政策の状況等、多岐に及んでいる。学習指導要領はこうした多様な要因を背景として改訂をしている。一例として、体育科の授業において体力づくりと称して、強度の高い運動を実施していくことの背景には、1964年に開催された東京オリンピックや、同時期に始まったスポーツテスト(現在では、新体力テストと呼ばれる)の影響が見られている。また、現在の体育科では資質・能力の育成に向けて「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」が目指されているが、これは国際的なコンピテンシーベースのカリキュラム論議の影響がある。本発表では、こうした体育科が教科としての指導内容を決定づけていく背景を歴史的にたどり、議論のベースを作る予定である。

競技スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 水野 洋子
    セッションID: 13-30104-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    現在日体大では、2017年にアスレチックデパートメント(以下AD)が創設され、強化、キャリア、人事育成、マーケティングの4つに同時に取り組むことで「好循環を創出し、継続的な強化を図り、トップアスリートを輩出し続ける」ことを目的として様々な取り組みが行われている。しかし、トップアスリートの競技継続としたキャリア支援の取り組みについてはほとんど行われていない。日体大の場合は、ADだけではなく学生支援センターの学修・キャリア支援部門の事業も行われているが、一般の学生向けになり、競技を継続したいトップアスリートは個人的に「アスナビ」などで就職先をさがすか、部活動単位で就職先を探すのが現状である。

    2015年に陸上部パラアスリートブロックが発足し、2016年に日本財団からパラアスリートに向けた奨学金が設置されことで、スポーツを行う障がい者学生が急増した。そして4年後の2020年には、その第1期生が卒業を迎えた。その時からの実状について発表し、今後デュアルキャリア支援にどのように取り組んでいくか、学生であるアスリートはどのような意識を持つべきか、就職先となる企業等との連携をどう構築するかについて、皆さんと問題を共有したい。

  • 池田 英治
    セッションID: 13-30104-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    わが国の女子バスケットボールにおいて、大学生トップアスリートが卒業後に目指す「プロ・実業団」の世界には、トップリーグである「WJBL」、あるいは、日本社会人バスケットボール連盟の主催する「地域リーグ」、が挙げられる。前者は、長らく「高卒」選手の割合が大きいことが特徴的であったものの、近年では、「大卒」選手の割合が徐々に大きくなっている傾向にある。一方で、後者は、従前より「大卒」選手の割合が高いことが特徴的である。このように、WJBLの第1回大会が開催された約20年前と比べ、全体として、大学を経て高いレベルで競技を継続するというキャリア形成を行う選手が増えてきていることは、「大学からプロ・実業団」という「接続」が、女子バスケットボール選手のキャリア形成に幾ばくかの好ましい役割を果たしていることの証左だと思われる。本シンポジウムでは、私自身が指導した学生の中で「プロ・実業団」の世界に身を投じた選手を事例として取り上げ、当該の「接続」において留意すべき事項を紹介(提案)するとともに、皆さまとの議論をとおして、解決すべき問題点・課題について考察したい。

  • 須佐 徹太郎
    セッションID: 13-30104-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    20年以上長期低迷していた日本サッカーは、競技人口の拡大をベースとした地盤形成を背景に93年Jリーグ発足を実現させた。02W杯誘致と結びついてJFAは強化諸策に着手。しかし皮肉にも日本サッカーの強化の連環から大学サッカーが外れることに。

     その隘路の克服に、99年度全日本大学サッカー連盟は5ヵ年計画を策定。JFAとの連携強化(特別強化指定選手制度・トレーニング費用の制度化等)、各地域リーグ戦の通年制化と試合数の増加、全国大会の改革によるレベルアップと地域リーグの活性化の企図、二軍選手へのIリーグの創設、ユニバーシアードを基軸とした大学選抜の強化等に着手、悉く実現。結果、Jリーグの新加入選手のほぼ過半数を大卒選手が占め、即戦力率・フル代表選出数の増加に結実。

     問題点として、トレーニング環境・試合環境の整備、生活基盤の確立、教育体制づくり、一般学生との結びつき強化が挙げられる。入場料収入や放映権料に期待できない現状で、自立した資金調達が鍵ではないか。FIFAのトレーニング補償金・連帯貢献金にほど遠いJリーグのトレーニング費用の大幅増額の問題。同時に大学と地域との連携強化に根差した大学スポーツ事業の自立化にあると考える。

競技スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • スポーツにおける女性を取り巻く社会的・文化的な背景
    來田 享子
    セッションID: 23-40206-08-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    身体が関わる文化であるスポーツにおいては、 医療などの分野と同様に、性差に対する合理的配慮が求められる。また、競技性の高いスポーツにおいては、性別にカテゴリーを分けて競技することが公平性の担保のために必要であると考えられてきた。このような性別二元制が容認されやすい文化の中では、性にもとづくダブルスタンダードが意識されにくく、ジェンダーにもとづく差別や不平等の解消が遅れる傾向がある。これを象徴的に示すのが、スポーツ組織の役員やコーチにおける女性割合の低さである。歴史的には、100年前に設立された女性スポーツ組織がすでに解決を求めていた課題である。近年、ビジネスとしてもグローバル化するスポーツにおいては、喫緊の課題とされるようになっている。

     この根深い課題を解決するためには、1)スポーツ界全体における無意識のジェンダー・バイアスへの気づき、2)女性コーチの活躍を阻害しない活動環境を整えるための組織文化・組織のガバナンスの醸成、が不可欠だと考えられる。報告では、国際オリンピック委員会が進めるジェンダー平等戦略等を紹介しながら、女性コーチの活躍を支える組織文化の醸成をめざし、前向きな議論を深めたい。

  • 三倉 茜
    セッションID: 23-40206-08-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    日本において、女性コーチが少ないという問題が注目され始めたのはごく最近である。第2期スポーツ基本計画で初めて女性コーチに関する記述がなされ、日本のスポーツ政策として初めて女性コーチ育成が目指された。第3期スポーツ基本計画においても、「スポーツを通じた共生社会の実現」に関する項目の1つとして「スポーツを通じた女性の活躍促進」の内容が引き継がれており、女性コーチが少ない現状に言及がなされている。しかし第2期と同様、施策目標や具体的施策にて女性コーチ育成に関する具体的な記述はなされていない。また、女性コーチに関する国内の研究も限られており、女性コーチが直面する課題についての理解も未だ十分ではない。

    そのような中、現在少しずつではあるがスポーツ庁や各競技団体において行われ始めている女性コーチ育成事業を紹介し、それぞれの特徴について考察していく。また、国内外で行われている研究にて明らかになっている女性コーチが直面する課題を参考にしながら、今後日本で行われるべき女性コーチ育成について考えていく。

  • 女子サッカーの例
    高倉 麻子
    セッションID: 23-40206-08-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    日本の女子サッカーの競技環境は、近年、大きく変化している。2000年に約25000人だった競技人口は2020年に48000人を越えるなど、多くの女性が競技としてサッカーに従事するようになった。また、2020年には女子サッカーのプロリーグであるWEリーグが開幕し、さらなる競技力の向上への貢献が期待されている。これらの顕著な環境変化の一方で、女性コーチは未だ少なく、約80,000人のJFA登録指導者のうち3%程度しかいない。特に、WEリーグや代表チームを指揮するトップレベルの女性コーチは非常に限られている。このような背景において、本シンポジウムでは、自身の選手および指導者としてのキャリアの変遷や日本初の女性代表監督としてチームを指揮するに至った経緯を紹介する。また、女性指導者として活躍し続ける上での課題についても共有する。日本サッカー協会では女性対象の指導者講習会や、Associate-Proライセンスと呼ばれる指導者養成コースを設立するなど、女性コーチを増やすための様々な取り組みを進めている。このような流れに加えて、本講演の内容が、より多くの女子サッカー選手やサッカーを愛する女性が、指導者としてのキャリアにチャレンジしやすい環境作りに役立つことを期待している。

競技スポーツ研究部会【課題C】シンポジウム
  • 須永 美歌子
    セッションID: 23-40217-20-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    近年、日本人女性アスリートの競技力は急激に向上し、競技スポーツを行う女性の数も増加している。その一方で、女性特有の課題も明らかになってきており、解決が望まれている。その課題のひとつとして、スポーツ現場におけるトレーニングやコンディショニングは、男性を対象としたエビデンスをもとに構築された方法を用いて実施されていることが挙げられる。女性アスリートが健康を維持しながら、効率的にトレーニング効果を獲得し、ピークパフォーマンスの発揮へとつなげるためには、女性の身体的特性を考慮したうえでスポーツ指導を行うことが重要である。

     女性は、思春期を迎えると月経周期を有し、性ホルモン濃度(エストロゲン、プロゲステロン)に周期的な変動が生じる。性ホルモンの受容体は乳腺や卵巣のみならず、骨格筋細胞にも存在することから、筋タンパク合成やエネルギー代謝の調節に関与する。本セッションでは、月経周期に伴う性ホルモン濃度の変化が運動時生理反応に与える影響に関する研究を紹介し、生物学的な性差を活かしたトレーニングプログラム開発の可能性について考えたい。

  • 牧野 講平
    セッションID: 23-40217-20-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    男女問わずさまざまな競技のトップアスリートをサポートしてきたが、トップレベルの選手であっても例外なく、男女それぞれに骨格的特徴や生理的特性があり、それらが障害や競技パフォーマンスに影響を与えていた。今回は、それらの特徴を選手の実例と共にご紹介する。

  • 川上 優子
    セッションID: 23-40217-20-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    女性アスリートには男性アスリートと比較して、様々な特徴や課題があることは明らかとなっているが、実際にどのようにしてトレーニングを計画し実施するのか、どのように月経周期の変化に対応するのかなど、リアルなトレーニングのマネジメント方法論に関しての知見は不足している。

     自身が陸上競技・長距離種目のトップアスリートとして活躍した際の経験や、現在は指導者として女子駅伝チームの指導を行っているため、そこでの工夫や実践内容などを紹介する。

  • 熊野 陽人
    セッションID: 23-40217-20-04
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    様々なスポーツ種目において欠かすことのできない動作のひとつが、ジャンプ(跳ぶ)である。その目的は「高く跳ぶ」「遠くに跳ぶ」「速く跳ぶ」などであり、極めて短い接地時間で下肢が爆発的に力を発揮することが求められる。このジャンプ動作には生物学的な性差が大きな影響を与え、トレーニングアプローチは男女で異なるものとなる。本セッションでは、ジャンプ動作影響を与える性差に関するエビデンスを紹介し、男女それぞれどのようなトレーニングが必要なのか、どのような流れでトレーニングを行うべきなのか、演者の実践経験を交えながら論じていきたい。

生涯スポーツ研究部会【課題A】シンポジウム
  • 澁谷 茂樹
    セッションID: 12-1105-07-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツを「する」「みる」活動を成立させる上で不可欠なスポーツボランティアは、地域におけるスポーツの指導や大小さまざまな規模の大会運営、スポーツ活動の基盤となる競技団体、地域のクラブ・チームの運営など、その活動内容は多岐にわたる。しかしながら、「スポーツボランティア」という言葉に多くの人々がもつイメージは、国際的・全国的スポーツイベントやプロスポーツ興行で一般公募されるイベントボランティアに限定されている。近年、ある程度の規模のスポーツイベントでは、一般公募によるボランティアが大会の運営に重要な役割を果たすようになってきた。また、そこで活動するボランティアの多くが、活動そのものや活動を通じて得られる人とのつながりに強いモチベーションを抱き、多くのイベントに積極的に参加し、活動の質を高める好循環を生み出している。本発表では、わが国のスポーツボランティアを概観するとともに、イベントボランティアの好事例の紹介・分析を通じて、広くスポーツをささえる現場が抱える課題解決に向けた議論を喚起したい。

  • 田引 俊和
    セッションID: 12-1105-07-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    「スペシャルオリンピックス」は、47都道府県に活動拠点を設け、全国で8千人(2019年末時点)を超える知的障害のある会員の日常的、継続的なスポーツを支援している。多くの部分を、理念を共有する企業・団体等の協賛、および全国の約1万人(同時点)のスポーツボランティアが支え、日々のスポーツの協働や生涯スポーツイベントの開催、ボランティア研修などを行いながら知的障害者スポーツの裾野を広げることを目指してきた。

     活動を始めて25年が経ったいま、活動範囲や知的障害のある会員が拡大し、求められる内容も多様化している。新たな発見もあり、従来からのボランティア募集や養成だけでは対応できなくなっている部分もみられるようになってきた。今後、木を繁らせ、山を高める(日本パラスポーツ協会)といったことも含め、活動を持続可能なものにしていくためにはその役割、位置付けを明確にしていく必要がある。スポーツボランティアは何を支えるのか、また支えようとしている生涯スポーツとはどのようなもので、どう捉えればいいのか、一つの障害者スポーツ組織の動向、課題とともに、あらためて考える。

  • 二宮 雅也
    セッションID: 12-1105-07-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    数多くのスポーツボランティアの募集が行われている今日であるが、そこにはボランティア参加を困難にしている障壁が存在していることがある。発表者は、識者として東京2020大会のボランティア運営サポート、並びに大会ボランティアとして実際の活動に携わったが、実際に大会組織委員会や自治体のボランティアサポートは十分だったとは言えない。それは、スポーツボランティアというキーワードがイメージさせる参加者像が固定化されていることに起因する問題であり、また、ボランティアという活動のイメージにも連動するものである。つまり、スポーツボランティアにおける「general」に関する課題であると捉えている。本発表では、スポーツボランティア活動の事例報告を通じてその問題にアプローチしたい。尚、この発表テーマにおける共生社会(Cohesive Society)とは、「必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった方が自分の意思で参加できる社会」を意味するが、逆説的には「参加しないことも選択できる状況」として捉えている。Volunteerの本質的な意味である「自由意志」を尊重しながら、スポーツボランティアの現場から広がる共生社会の可能性についてディスカッションを深めたい。

生涯スポーツ研究部会【課題B】シンポジウム
  • 松田 恵示
    セッションID: 23-40104-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツを遊びとして遊ぶことが、子どもたちのWell-Beingの実現には大切なのではないかと思う。現在、日本の学習指導要領に大きな影響を与えている“ OECD Future of Education and Skills 2030 project”では、Well-Beingの実現こそが、これからの教育の目標であることを強調している。Well-Beingの実現は、いわば変化の激しい社会の中にあって、「解のない答え」を自らが他者とともに協働・共創していくもの(ラーニング・コンパスの考え方)でもある。ここで遊びは、それ自体を目的として行う活動である。だからこそ、その活動には「解」などない。しかし、それは一定の創造的な結果をもたらすことが常である。また、遊びないしその精神は「リバーシブル(Reversible)」である。勝つと思うと負けたり、本気と思うと嘘ん気だったり、くるくるとひっくり返る。それは潜在的な「動性」に基礎付けられている。でもだからこそ、面白いし、ここでもまた創造的である。「遊び」を補助線として、Well-Beingの実現に資するスポーツのあり方についていくつかの観点から考えてみたい。

  • 研究上の課題を中心に
    宮本 幸子
    セッションID: 23-40104-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

     2000年代から注目された「格差論」は子どもの研究において積極的に取り入れられ、今や格差や貧困といった論点は、多くの領域で不可欠のものとなっている。家庭環境がもたらす子どもの不利を社会や政策によって解決するという視点は、子どものWell-Beingを検討する上でも非常に重要である。

     スポーツの研究においては、各領域でSES(Socioeconomic status)を変数として用いた分析はみられるものの、子どもの格差としてまとまった論考は少ない状況が続いていた。そのような中で、清水ら(2021)が『子どものスポーツ格差―体力二極化の原因を問う』において、社会的属性や子どものスポーツ、体力・運動能力等の変数を網羅的に分析し、格差研究のパラダイム確立に向けて先導的な役割を果たした。とはいえこのような研究は緒についたばかりで、残された課題も多く存在する。

     本発表では「スポーツライフ・データ」等、笹川スポーツ財団が実施した子どもの調査研究の結果を紹介するとともに、子どものスポーツにおける格差研究の今後の課題を示し、格差とWell-Beingを考える上での論点を提示して議論につなげたいと考えている。

  • 幼少期のWell-Beingの保障のために
    春日 晃章
    セッションID: 23-40104-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    幼少期の子ども達にとってもっとも保障されなければいけないのは生まれながらに持つ動きへの欲求・本能を満たす身体活動時間の確保であり、幼少期のWell-Beingの実現には不可欠である。この時間は単に体を動かすだけでなく、様々な大人や同年代の子ども達と“楽しく関わりながら夢中になって身体活動に勤しむ”ことが、子ども自身の主体的な取り組みに繋げるためにも大切なのだ。しかし、今の我が国の保育施設や小学校では、本当にその時間を確保する必要性と重要性を感じているのか疑問が残る。ケンカ、ケガ、熱中症などを恐れて身体活動の時間が年々縮小されてきてはいないか?単に放し飼いのように遊ばせるのではなく、興味や関心を引き出すような運動遊びのプログラム提供がされているか?さらに、幼児期から身体的発達量の二極化が出現することも確認されており、運動への興味関心や運動有能感の格差も実はこの時期から既に現れ始めている。となると、生涯スポーツを通したWell-Beingの実現のためには幼児期から二極化を防ぎ、全体の底上げの施策が必要となる。今回、発表者が多様な側面から取り組んでいる施策とその効果を合わせて紹介し、幼少児にとっての真のWell-Beingとはについて論究したい。

生涯スポーツ研究部会【課題C】シンポジウム
  • 太田 澄人
    セッションID: 22-1111-13-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    2011年に「スポーツ基本法」が制定され、国の「スポーツ基本計画」にも障がい者スポーツの振興が具体的に記された。2020東京オリ・パラ大会、そして2022北京冬季オリ・パラ大会が開催されるまでの10年間を見ても、障がい者スポーツ(パラスポーツ)は、多くの国民に身近な存在となってきたと言える。しかし、スポーツを通した「共生社会」という視点から眺めた場合、障がい者が気軽にスポーツに参加できているかと言えば、同じ世代の障がいのない者と比べてその機会は少ないままである。スポーツ振興を進める中で、私たちの身近で障がいのある方の活動の場が増えているかを考えていく必要がある。そこでは①障がいを理解し、専門的に指導を行うスポーツ振興(競技力向上、発掘、リハビリ等)と、②障がい者を含めたスポーツとして地域の活動に障がい者が参加できるスポーツ振興(地域で行われている身近な活動への参加)の両方の振興と連携が必要であると思われる。スポーツを通して、様々な立場・背景・特性を有した人・組織が共に活動をすることには大きな価値が認められる。当日は障がいのある方がスポーツ活動に日常的に参加できる環境について議論したい。

  • 筒井 香
    セッションID: 22-1111-13-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    スポーツに幼い頃から触れ、多くの時間をスポーツ活動に投資したであろうトップアスリートは、引退を迎えたのち、いかにスポーツと関わりを持っているのか。引退後、自分自身の専門競技でコーチを目指す、または普及活動を行うといった形で、スポーツに携わり続けるケースもある。しかし、これらは自分自身がスポーツを継続するという生涯スポーツの観点で言えば、必ずしも該当しない。本シンポジウムでは、オリンピアンが自身の専門スポーツを引退後も愛好している割合が2割弱と、一般の方に比べて低いという笹川スポーツ財団の調査結果を示し、その要因の仮説として、競技引退したトップアスリートが競技から離れた事例(選手A)を紹介する。選手Aは、日本代表としての活動に誇りを持って競技生活を送ってきた背景があり、引退後は「これまでの競技レベルでなければ自分はやれない」という考えを示した。このようなアスリートを含む生涯スポーツ社会の実現のためには、競技引退時に、自身にとってのスポーツの意義や価値を再定義する必要があると考えられる。これをアスリートのキャリアに関する課題と捉え、当日はフロアの皆様と共に議論を深めたい。

  • ニュースポーツ・ユニバーサルスポーツに着目して
    仲野 隆士
    セッションID: 22-1111-13-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では、多くの人々に認識されている「ニュースポーツ」、オリパラ教育の一環として紹介されている「ボッチャ」のような「ユニバーサルスポーツ」、さらには2015年に考案された「ゆるスポーツ」などに着目します。それらは「中心」に据えられる近代スポーツに対する「周辺」を構成するレジャースポーツ的役割を有するスポーツ領域として認識されてきたのではないでしょうか。しかしながら今日、それらは国民のスポーツへの興味関心を喚起しスポーツ実施率を向上させる一手段としての体験会やイベントの全国的開催、学校体育では児童生徒の体育嫌い・運動離れ現象を軽減すべく学習指導要領が従来の「種目ベース」から「型ベース」への再編に伴うルール変更による軽スポーツやニュースポーツの導入、3.11東日本大震災の復旧・復興期における制限された環境下での心身の健康の保持など、新たな役割を担う時代が到来したと捉えても良いのではないでしょうか。そこで、それらの全体像の把握として現状や問題点を紹介させていただきます。一連のスポーツは、スポーツ庁による第3期スポーツ基本計画「3つの視点」を支える施策を具現化する可能性があると考えています。

健康福祉研究部会【課題A】シンポジウム
  • 須永 美歌子
    セッションID: 12-2104-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    成人女性の生物学的特徴として、月経周期を有することが挙げられる。月経周期とは、月経開始から次の月経の前日までの期間と定義され、約一ヶ月の周期で性ホルモン濃度が大きく変化 する。このような性ホルモンの変動は、コンディション(こころやからだの調子)に影響を与えることが知られている。さらに、女性は妊娠・出産や閉経などライフステージによっても性ホルモン濃度は大きく変化し、心身の健康状態に影響を及ぼす。したがって、女性の場合には、生涯を通じて性ホルモンの影響を考慮した体調管理が必要となる。しかしながら、それにかかわる情報は十分に普及していないというのが現状である。また、健康の維持増進のためには子どもの時期からの継続的なスポーツ活動が有効であるが、月経随伴症状を理由にスポーツ参加に消極的になってしまうケースもある。今後は、学校教育や部活動を通して、女性のヘルスリテラシーを高める機会を作ることが必要であると考える。本セッションでは、主に月経周期に伴うコンディションの変化に着目し、健康問題やスポーツ活動への影響について検討したい。

  • 女児の特徴を中心に
    中野 貴博
    セッションID: 12-2104-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    子ども期は、その後の運動への嗜好性を決定づける可能性のある重要な時期である。特に、女児では小学校中高学年頃から、運動の好き・嫌いや得意・苦手の意識が男児以上に明確化し、嫌いあるいは、苦手と回答する児童が増加する傾向にある。そのため、この時期の運動実施については多くの配慮が必要であると考える。また、近年では体力低下の傾向やそれに強く関連するスクリーンタイムの増加傾向なども男女差が見られることが我々の研究データからわかってきている。さらに、女児の保護者においては、男児の保護者に比べて、運動やスポーツに期待する度合いが低下することも、我々の調査からわかっている。本発表では、運動の嗜好性に関する性差、体力変化の性差、運動に対する期待の違いなど、ここで記した事項を中心に、実際の研究データを用いて紹介する。さらに、小学校における運動部活動参加の実態や、その関連要因に関しても部活動改革に関する調査データから検討を加える。以上を通して、子ども期の運動実施に関して、性別で配慮すべき事柄を発育発達の観点も交えながら議論したいと思う。

  • 高橋 修一
    セッションID: 12-2104-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
    会議録・要旨集 フリー

    2017・2018年改訂の学習指導要領の体育科・保健体育科の目標には「生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現(継続)する」旨の記載がある。また、同解説では、「豊かなスポーツライフを継続していくためには,運動の技能を高めていくことのみならず,体力や技能の程度,性別や障害の有無,目的等の違いを越えて,運動やスポーツの多様な楽しみ方を社会で実践することが求められる。そのため,新たに共生の視点を踏まえて指導内容を示すこととした」と示されている。他方、体育の授業を除く1週間の総運動時間が0分の児童生徒の割合が、小学校男子4.0%、小学校女子5.0%、中学校男子5.6%、中学校女子11.5%、高等学校男子14.9%、高等学校女子32.9%という調査結果もある。

     本発表では、学習指導要領の趣旨や内容及び歴史的な経緯等について説明するとともに、学校における体育授業の現状等について紹介し、女性の運動やスポーツについて考えてみたい。

健康福祉研究部会【課題B】シンポジウム
  • 辻 大士
    セッションID: 22-2104-06-01
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    高齢者を対象とした多くの観察研究や介入研究の知見が蓄積され、適度な身体活動の実践は認知機能を良好に保ち、認知症予防に寄与する可能性が示されてきた。さらに、運動・スポーツは一人でおこなうよりも、グループに参加して誰かと一緒におこなうことで、得られる健康効果がさらに大きくなることも注目されている。これらの報告は個人のライフスタイルと認知機能の関連に着目したものであるが、近年、高齢者が暮らす地域環境が、認知症リスクを増減させる可能性も見えてきた。その環境要因の一つとして「運動・スポーツの盛んさ」があることを、演者らは全国7道県・16市町村に在住する約4万人の高齢者を6年間追跡したコホート研究により明らかにした。地域(≒学区)の中で、10人に1人の高齢者が運動・スポーツのグループに新たに参加するようになった(参加者割合が10%ポイント高くなった)と仮定した場合に、その地域に暮らす全ての高齢者の認知症リスクが(その人自身の参加・不参加を問わず)8%低くなることを突き止めた。なぜこのようなことが起こりうるのか、運動・スポーツの振興が認知機能の維持・向上に果たす新たな可能性について紹介する。

  • 古和 久朋
    セッションID: 22-2104-06-02
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    認知症高齢者数が600万人を超え、2025年には高齢者の約5人に一人が認知症になると見込まれておりこの対策は喫緊の課題である。認知症の主たる原因疾患であるアルツハイマー病の特徴的な病理構造物である老人斑を標的とした根本治療薬開発が進行中で、そのうちの一つが2021年6月に米国で条件付きながら認可された。しかしながらその効果は症状の進行を2割前後遅らせる程度であり、失われた認知機能を元に戻すことはできず、人々の期待に十分応えたとは言えない。未発症の段階での薬物投与が検討されているが副作用の可能性もあり、非薬物介入による予防への関心が高まっている。実際、フィンランドの高齢者を対象とした多因子介入ランダム化比較試験(FINGER研究)により食事、運動、脳トレ、血管因子モニターなどの総合的な介入により認知機能の悪化を予防しうることが示された。介入因子は人種や文化によりその内容も異なることから、我が国でもJ-MINT研究として実証研究が進行中である。こうした介入研究の成果を、老人斑の蓄積予防や減少につながる機序とともに紹介するとともに、こうした介入の社会実装を目指す際の課題や解決法についても議論したい。

  • 田中 美吏
    セッションID: 22-2104-06-03
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    心理的なストレス状況下での運動には、注意や思考などの認知が介在することについて、豊富な理論やエビデンスが存在する。注意に関しては、注意狭隘、注意散漫、意識的処理が関与する。思考に関しては、「~してはいけない」と考えると矛盾にもその運動をしてしまう皮肉課程や、ステレオタイプ、苦手意識などが挙げられる。演者は、これまでに、上記の認知的要因を包含しながら、心理的ストレス(プレッシャー)状況下での運動やパフォーマンスを調べる研究に取り組んできた。本話題提供では、ストレス状況下での認知と運動に関する諸理論を紹介したうえで、演者の研究成果や関連研究を交えながら、ストレス状況下での運動に対する注意や思考の影響について理解を促進することを狙いとする。ストレス状況下での運動への対処を考える際には、これらの認知的要因を考慮することの重要性について、本話題提供を通して議論されたい。

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