日本静脈経腸栄養学会雑誌
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33 巻, 2 号
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特集
  • 小山 諭
    2018 年33 巻2 号 p. 721-725
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    脂肪乳剤が国内で市販されてから数十年が経過した現在、必要な症例に対して適切かつ十分に使用されているのかは疑問である。脂肪の静脈内への投与は17世紀から実験的に試みられていたが、効果的な乳化剤の開発により1900年代に脂肪の静脈内投与への発展に結びついていった。1961年A. Wretlindが大豆油に卵黄レシチンを乳化剤として使用し、安全に使用できる脂肪乳剤を開発した。その後、n-6系脂肪酸の炎症活性を抑えるために、大豆油ベースのみではなく、ココナッツ油、オリーブ油、魚油などを組み合わせた製剤が開発されていった。脂肪乳剤の禁忌の根拠となっている文献はかなり以前の報告であり、実際には脂肪乳剤が投与できる状況もあり得る。また、日本ではn-6系脂肪乳剤しか市販されていないため、侵襲下の症例では使用されにくい状況であるが、カルニチンの併用などでn-6系脂肪酸のβ酸化を促進することで炎症反応を抑えられる可能性がある。

  • 瀧藤 克也
    2018 年33 巻2 号 p. 726-730
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    静注用脂肪乳剤は、水に溶けない中性脂肪をリン脂質でエマルション(脂肪乳剤粒子)として静脈内投与できるようにしたもので、1961年にWretlindが大豆油をレシチンで乳化して臨床使用したのが始まりで、50年以上経過した現在でも使用されている。しかしながら、脂肪乳剤そのものの安定性、脂肪乳剤中に多く含まれるn-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸による炎症促進作用、長期間使用することによる肝機能障害などが指摘され、含有する中性脂肪を従来の大豆油から、ココナッツ油に含まれる中鎖脂肪酸を含有した製剤、n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚油に変更した製剤、オリーブ油に多く含まれる1価不飽和脂肪酸を主体としたもの、さらには中性脂肪に含まれる脂肪酸を理想的な割合になるようにこれらの油をバランス良く配合した製剤など、開発当初に比べて改良された脂肪乳剤が現在利用可能となっている。

  • 合志 聡, 吉田 悠紀, 佐藤 毅昂, 禿 晃仁, 鈴木 庸弘, 佐藤 知巳
    2018 年33 巻2 号 p. 731-737
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    内科領域における脂肪乳剤の使用については末梢静脈栄養施行の段階より併用すべきものである。末梢静脈栄養の対象は消化管機能を有していない内科疾患であるが、これらの患者には入院時より必要エネルギーを充足させる必要があることから、脂肪乳剤を併用することでそれに近づけることが可能になる。また脂肪乳剤の併用は必要エネルギー充足の観点のみならず、NPC/N比の考え方からも効率よいエネルギー代謝、タンパク質合成において重要なことである。一方で脂肪乳剤の投与にはいくつかの注意点が存在するが、病態を見極めることで使用可能な症例は数多くいる。我々は総投与エネルギーの約60%を脂肪乳剤で投与しても1週間程度であれば脂質代謝に大きな変化を来すことなく、安全に投与できることを示しており、0.1g/kg/時の投与速度を厳守することが重要である。しかしながら、その投与速度も今後のさらなる検討によって連日投与での推移、安全性の検証ができれば、変更できる可能性も示唆されている。

  • 井田 智, 熊谷 厚志, 峯 真司, 比企 直樹
    2018 年33 巻2 号 p. 738-741
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    脂肪は重要なエネルギー基質であると同時に,生体の膜構造の維持に不可欠な栄養素であり,周術期には欠かせないものである。近年,院内のNST活動の普及などによる栄養療法への意識の高まりもあり,脂肪乳剤投与の重要性は認識されるようになってきた。しかし,本邦での脂肪乳剤の併用率はいまだ低いのが現状である。脂肪乳剤投与が敬遠されてきた要因は,1)本邦で使用される脂肪乳剤がn-6系脂肪酸を主成分とする大豆油由来であり,術後の炎症反応の悪化や,免疫能の低下を引き起こす可能性があること,2)脂肪乳剤投与下では微生物が増殖しやすいこと,など脂肪乳剤投与が特に周術期には発生して欲しくないリスクをはらんでいることであろう。これらの問題点に対して,適切な投与速度を遵守する,輸液ラインを24時間以内に交換するなどの対応をすることで,脂肪乳剤は安全に投与できる。

  • 神應 知道
    2018 年33 巻2 号 p. 742-746
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    脂肪は細胞膜の組成、その構造への修飾、エイコサノイドやサイトカイン合成、遺伝子表現の調整などの複雑な修飾を通し生体において重要な役割を果たしている。海外の救急領域では、n-6系多価不飽和脂肪酸(n-6PUFAs)の有害効果を減らすため中鎖脂肪酸や、オリーブオイルのような脂肪乳剤や、n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFAs)を投与する研究がおこなわれているが、最近の脂肪乳剤の臨床試験の結果は議論の余地がある。一方、我が国は、n-6PUFAsの脂肪乳剤しか使用できない現状のなかで、2016年に発表された日本版重症患者の栄養療法ガイドラインから脂肪乳剤の推奨方法を示した。最後に、救急領域ではトピックスである薬物中毒患者の蘇生における脂肪乳剤の役割を紹介した。

原著
  • 松井 亮太, 稲木 紀幸, 金子 真美, 濱口 優子, 金田 和歌, 安井 典子, 浅野 昭道
    2018 年33 巻2 号 p. 747-752
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では胃癌術後の合併症に関わる因子を検討した.【対象と方法】2014年9月から2015年6月までに胃癌手術が行われた115例のうち,胃切除および胃全摘が施行された104例を対象とし,Clavien-Dindo分類gradeⅡ以上の術後合併症に関わる因子を検討した.検討は重回帰分析で行い,P<0.05を有意差ありと判定した.【結果】全104例のうち,術式は胃全摘22例,胃切除82例,到達法は開腹18例,腹腔鏡86例だった.このうち20例(19.2%)に術後合併症を認めた.術後合併症に関わる因子の単変量解析では,リンパ節転移,内臓脂肪量,Body Mass Index(以下,BMIと略)25kg/m2以上,サルコペニア肥満,握力低下,好中球数で統計学的有意差を認めた.多変量解析では性別,年齢,慢性腎臓病,サルコペニア肥満,握力低下,BMI25kg/m2以上で統計学的有意差を認めた.【結論】胃癌術後の合併症予測ツールとして,eGFR,術前BMI,握力値,内臓脂肪量および筋肉量の測定が有用であると考えられた.

  • 櫻井 洋一, 長谷川 由美, 難波 秀行, 王堂 哲
    2018 年33 巻2 号 p. 753-762
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】サルコペニア防止のための基礎的研究としてL-カルニチン(以下、LCARと略)と分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;以下、BCAAと略)を投与後に運動負荷を行い、エネルギー基質代謝、身体組成、運動後の筋肉痛に対する効果を検討した。【方法】若年健常女性12名を対象に、LCAR+BCAA投与群(n=6)と非投与群(対照群、n=6)の無作為に2群に分け、運動負荷(VO2 max 50 %、60分)前後における血清エネルギー基質濃度、身体組成、筋肉痛の程度を検討した。運動負荷前にLCAR1000 mg/dayを14日間経口投与、運動負荷2時間前にBCAA7.2 gを経口投与した。【結果】LCAR+BCAA投与群の血清遊離・アシル・総LCAR値は対照群に比較して差を認めずBCAA投与後の運動負荷前後におけるLCAR+BCAA投与群の血清BCAA値は対照群に比較し有意に高値であった(P<0.0001)が、遊離脂肪酸値は低下した。運動負荷後の体組成は両群間に差を認めなかったが、LCAR+BCAA投与群の運動負荷24、48、72時間後の筋肉痛は有意差を認めなかった。【結語】運動負荷前のLCAR+BCAA投与は運動負荷後の体組成や筋肉痛には差を認めなかったが運動後の脂肪分解亢進を減弱する可能性が示された。

  • 池松 禎人, 大菊 正人, 小笠 原隆, 山本 知加子, 島田 理恵, 三浦 絵理子, 杉浦 正将, 丸井 志織, 二橋 多佳子, 岡本 康 ...
    2018 年33 巻2 号 p. 763-770
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】悪性腫瘍はサイトカインを介して栄養障害を生じ、予後を悪化させることが知られている。今回その標的臓器である筋肉に着目し術前骨格筋量と胃癌予後の関係を検討した。【対象及び方法】2009年6月から2016年10月まで胃癌手術症例391例中術前生体インピーダンス法で骨格筋量を測定した202例で生存に及ぼす影響を検討した。【結果】男女別に術前骨格筋指数(skeletal muscle index;以下、SMIと略,kg/m2)を求め、中央値(男性9.2、女性7.7)以上を術前SMI高値群(以下、H群と略)、未満を低値群(以下、L群と略)とした。H群の胃癌補正5年生存率は90.4%、L群は69.8%と有意差を認めた(p<0.01)。病理組織学的進行度Ⅱ+Ⅲ症例で生命予後を悪化させる独立規定因子として術前SMI L群、術後補助化学療法(AC)非完遂があげられた。【結論】悪液質による筋肉崩壊にかかわらず、術前から患者が保有する筋肉量が多ければAC完遂の相乗効果もあって進行度Ⅱ+Ⅲ胃癌の良好な予後が期待された。

施設近況報告
  • 橋詰 直樹, 田中 芳明, 浅桐 公男, 居石 哲治, 川口 巧, 深堀 優, 石井 信二, 七種 伸行, 吉田 索, 八木 実
    2018 年33 巻2 号 p. 771-775
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    久留米大学は、2017年度より臨床栄養学として32コマ(50分/コマ:総論8、各論22、試験2)を設け医学科3年次に講義を行った。今回、講義概要とアンケートを元に卒前教育における臨床栄養学の現状を報告する。【対象と方法】103名を対象に臨床栄養学の講義開始前、講義終了後に無記名での臨床栄養学講義に関するアンケート調査を行った。回収率は100%であった。講義前後で「五大栄養素を述べよ」のビタミン、ミネラル、及び五大全て、「血清アルブミン値の正常下限値を述べよ」、「TPNのフルスペルを述べよ」の正解率は有意に上昇した。講義前「NSTという栄養サポートチームがあることを知っているか?」には、「知っている」11.6%、「知らない」88.4%であった。講義後には「医師としてNSTに参加してみたいか?」に「はい」32.0%、「いいえ」13.6%、「どちらでもない」51.5%であった。医学科生のNSTに対する認知度は低かったが、講義後にはNSTに医師として参加してみたい学生も増える結果となった。

  • 内田 信之, 飯塚 みゆき, 永井 多枝子, 宮﨑 友美
    2018 年33 巻2 号 p. 776-778
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    医科歯科連携を地域全体で進めるためには、顔の見える関係を作ることや口腔ケアなどのセミナーを継続的に開催することのみでは不十分である。私たちはこの目的を達成するために二つの新規ツールを開発した。Agatsuma Oral Assessment GuideとMy Oral Diaryである。前者において誰でも簡単に3分以内で口腔アセスメントが可能となるだけでなく、口腔内に問題のある患者や入所者に対して歯科受診を勧める判断が容易となる。後者では、入院患者や施設入所者が自分の口腔内に関心を持つことができるだけでなく、医療・介護従事者も患者や入所者の口腔内の問題を経時的に知ることができる。この二つのツールを使用することで地域内の医科歯科連携はさらに進むと考えている。そしてこの二つのツールが全国に広く広まることを期待している。

研究報告
  • 高橋 玲子, 渡邉 昌也, 松下 亜沙実, 青島 早栄子, 芹澤 陽子, 匂坂 博美, 西川 直美, 永井 恵里奈, 高木 正和
    2018 年33 巻2 号 p. 779-783
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/20
    ジャーナル フリー

    【目的】当院Nutrition Support Team(以下、NSTと略)は2004年に発足、2015年度までに延べ6,312件に介入した。過去2年間のNST介入状況を解析し、NST介入による栄養状態改善の効果予測に有用な指標を同定する。【対象及び方法】2014年4月~2016年3月の介入患者を対象に目的変数をOutcome(栄養改善の有無)、説明変数を性別、年齢、介入前日数、Body Mass Index(BMI)、褥瘡の有無、入院時、介入時、介入4週後、終了時血清アルブミン濃度(以下、Albと略)及び総リンパ球数(Total Lymphocyte Count;以下、TLCと略)を組み込んだ多変量ロジスティックモデルで回帰分析を行った。【結果】NST介入により入院時Alb、介入時TLC、介入4週後Alb及びTLCが栄養改善予測変量であった。さらに、介入4週後のAlb及びTLCの併用により予測精度を上げられることが判明した。【結論】NST介入による栄養改善効果を判定するためには介入4週後のAlb、TLCが有用で、その併用により、より高精度な栄養改善の予測が可能であると考えられた。

日本静脈経腸栄養学会認定地方研究会
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