本研究ではウィスター系雄性ラットのM. Plan taris (PLA) における発育・発達にともなう総筋線維数の変化及び筋肉内増殖期細胞 (活性化した筋衛星細胞と考えられる) の動向を, 週齢, 体重の推移, 下腿長, 筋の湿重量及び筋の付着部位か.ら下腿長の変化に最も影響を受けると考えられるM. Extensor Digitorum Longus (EDL) の筋長の変化等の関連から免疫組織化学的に検討した.
(1) 発育発達にともないPLAの筋線維数は漸次増加し10週齢, 体重300g付近で約10, 000~11, 000本の間でほぼ安定する傾向を示した.
一方, PLAの増殖期細胞数の推移は筋線維数とは対称的に10週齢, 体重300g付近まで漸次減少し, それ以降ほとんど認められなかったことから, 発育・発達過程の筋線維数の増加にも筋衛星細胞が関与している可能性が示唆された.
(2) 発育・発達にともなう体重, 下腿長, EDLの筋長, PLAの筋重量の推移においても, やはり10週齢, 体重300g付近で成長の変曲点がみられ, それ以降の増加が緩やかとなる傾向を示したことから, この10週齢, 体重300g付近が長育から幅育への一つの変曲点であると考えられた.
(3) 発育・発達にともなうPLAの筋重量及び体重の推移がほぼ等しい回帰式によって示されたことから, 今回用いた20週齢, 体重400gまでのラットでは体重と筋重量の増加率がほぼ等しいことが示された.
(4) 発育・発達にともなうPLAの筋重量の推移及び総筋線維数の増加を示した回帰式から, 10週齢, 体重300g付近までの筋重量の増加は, 筋線維の増殖と肥大の両者によるものであり, それ以降の増加は主に筋線維の肥大によるものであると考えられた.
(5) また, 下腿長とEDLの筋長の比率が10週齢, 体重約300g以降で一定する傾向を示した.このような骨長と筋長の関係はおそらく下腿の筋群全てに適応できるものと考えられ, PLAにおける筋線維数と筋重量の推移とを考え合わせると, 10週齢, 体重約300gまでの筋重量の増加は筋の長育と幅育の両者によるものであり, それ以降の増加は主に筋の幅育に依存するものであると推察された・
以上の結果から, ウィスター系雄性ラットの骨格筋の場合, 一個筋が筋全体として成熟したと考えられるのは10週齢, 体重約300g以降であった.これらのことは筋の肥大や筋線維の増殖等の研究を行う場合, 発育発達の影響を除外するために, この点を考慮して行わなければならないことが考えられた.
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