本研究は小筋群の運動である動的掌握運動を, 片側単独および両側同時に行った時の心拍出量と前腕血流量を同時に測定し, 活動体肢の増加に対して, 心拍出量と活動体肢血流量がどのような関連を保って変化するかを明らかにすることを目的とした.被検者は21歳の体育専攻の女子大学生5名であった.運動負荷は10, 30, 50%MVCとし, 10%MVCは10分間, 30, 50%MVC強度では疲労困憊に至るまで運動を行わせた.前腕血流量はラバーストレインゲージを用いて静脈閉塞法で測定し, 心拍出量の測定には超音波ドップラー法を用いた.その結果, 以下のことが明らかになった.1) 物理的強度の等しい運動をしている活動体肢への血流量は, 片側運動時より両側運動時の方が少なかった.最も相違の大きい50%MVC強度の右側前腕血流量 (変化分) は右側単独 (13.2±1.1ml・100ml
-1・min
-1) に比べて両側同時運動 (9.1±1.2ml・100ml
-1・min
-1) の方が有意 (p<0.01) に少なかった.また, 左側単独より両側同時運動時の左側前腕血流量 (変化分) の方が有意 (p<0.05) に少なかった (左側単独; 10.9±1.8ml・100ml
-1・min
-1, 両側同時; 5.1±1.2ml・100ml
-1・min
-1) .これは同時運動によって生じた交感神経性の血管収縮作用の増大が, 代謝性の血管拡張作用を上回り, 単独運動時よりも筋への血流増加を抑えたと考えられる.
2) 両側運動時の血流量は左右加算しても, 片側単独運動時の右あるいは左各体肢の血流量と有意差はみられなかった.
3) 片側運動より両側運動の方が活動する筋量が多いにもかかわらず, 10, 30, 50%MVCのいずれの運動強度においても心拍出量は有意な増加を示さなかった.それは活動筋群において両側運動時に血流量の減少が生じ, 両側運動時と片側運動時の活動体肢血流量が変わらなかったためであると考えられる.
以上のように, 両側同時に動的掌握運動を行わせると心臓交感神経活動の亢進により, 心拍数は増加するのに対して, 一回拍出量の増加はみられずむしろ減少を示し, 心拍出量は片側, 両側運動時と変わらない結果になった.これは, 両側運動では各活動体肢血流量が減少し, 活動筋全体での血流需要は片側運動時と変わらなかったことによるもので, 小筋群の運動では運動に動員される筋量が多くなっても心臓に対する血流需要は増加せず, 心拍出量は増加しないことが示唆された.
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