当院で経験した肝細胞癌448例を対象に, 門脈本幹あるいは一次分枝の腫瘍塞栓を伴った症例 (Vp3症例) に併存した食道胃静脈瘤に対する内視鏡的治療の評価を行った.1) 静脈瘤に対する内視鏡的治療の効果 : 緊急・待期例での止血率はVp3症例19例では91%, 非Vp3症例38例では94% (N.S.), 再出血率はそれぞれ50%, 30% (N.S.), 静脈瘤出血死亡率は53%, 23% (p<0.05) であった.また予防例での出血率はVp3症例9例では33%, 非Vp3症例140例では14.5% (N.S.), 静脈瘤出血死亡率はそれぞれ22%, 3.3% (p<0.05) であった.2) 予防的治療の有効性 : Vp3症例の静脈瘤出血率は予防例9例では33%, 予防的治療未施行例35例では74% (p<0.05), 静脈瘤出血死亡率はそれぞれ22%, 49% (N.S.) であった.また非Vp3症例での静脈瘤出血率は予防例140例では14%, 予防的治療未施行例51例では84% (p<0.001), 静脈瘤出血死亡率はそれぞれ3.3%, 27% (p<0.001) であった.以上より, 1) Vp3症例に対する内視鏡的治療は非Vp3症例に比べ出血率が高く, 深い潰瘍の生じない工夫と短期間で静脈瘤消失を目指す努力が必要である, 2) 予防的治療はVp3症例での静脈瘤出血率を低下させ, 非Vp3症例での静脈瘤出血率と静脈瘤出血死亡率を低下させるのに有効である, と結論した.
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