日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
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56 巻, 5 号
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第60回日本小児血液・がん学会学術集会記録
優秀演題セッション
  • 関口 昌央, 滝田 順子
    2019 年 56 巻 5 号 p. 361-369
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    肝芽腫は小児に発生する肝悪性腫瘍の大部分を占めているが,臨床的予後不良因子を有する高リスク肝芽腫はいまだに治療成績不良である.しかしながら,肝芽腫の高リスク群を規定する分子遺伝学的メカニズムは十分に解明されていない.今回我々は肝芽腫の分子基盤解明を目的として,59例の腫瘍検体を収集し,DNAメチローム解析,RNAシーケンスを含むマルチオミックス解析を行った.その結果,肝芽腫はDNAメチル化のパターンにより3群に分類され(F, E1, E2),それらは病理像,発症年齢,予後といった臨床的特徴とよく相関していた.F群は多くが胎児型の病理像を呈し予後良好だったのに対し,E1/E2群は多くが胎芽型/混合型の病理像を呈し,予後不良であった.E1/E2群は遺伝学的にHNF4A/CEBPA結合領域の高メチル化,それに伴う未分化な発現プロファイル,高頻度のコピー数増加,Cell-cycleパスウェイの亢進,そしてNQO1ODC1の高発現といった特徴を有していた.特にODC1はポリアミン合成や細胞増殖に重要な役割を果たす分子であり,実際にODC1高発現の肝芽腫細胞株を用いてODC1阻害実験を行ったところ,細胞増殖が有意に抑制されたことから,高リスク肝芽腫において高悪性度に寄与すること,また治療標的たりうることが示された.以上より,DNAメチル化プロファイルに基づく分類は肝芽腫の高リスク群の分子基盤解明と治療標的同定に有用であった.

シンポジウム6: 固形腫瘍における基礎医学の新展開
  • 渡邉 健太郎, 滝田 順子
    2019 年 56 巻 5 号 p. 370-375
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    高リスク神経芽腫の予後は現在の集学的治療をもってなお不良であり,また濃厚な治療による合併症も多く見られることから,基礎研究による新規治療の創出に対する要望は大きい.しかし,従来のドライバーとなる遺伝子異常を発見する戦略では,特に神経芽腫に対しては発展に限界がある.一方で,近年がん細胞には特有の細胞内代謝のパターン,すなわち「がん代謝」とよばれる特徴があることが注目されている.がん代謝はがん細胞の性質を規定するのみならず,その過剰な最適化がロバストネスの消失をもたらすことを利用した治療応用が期待されている.このような背景から,我々は神経芽腫に対してエピゲノム解析および代謝解析などを組み合わせた多層性解析を試みている.検体解析および既存のデータを併用し,PHGDH遺伝子により制御されるセリン合成経路の重要性に着目した.この経路の抑制はin vitroにおいて神経芽腫細胞の増殖抑制をもたらし,有望な治療標的候補になりうると考えられた.また,メタボローム解析による投薬時の代謝解析およびRNAシークエンスによる遺伝子発現状況の解析を複合して行うことで,アルギニン代謝・シスチン代謝への干渉を複合することがさらなる治療効果をもたらす可能性があることを示した.

シンポジウム9: 小児がん治療における特殊な重症感染症シリーズ: ①抗酸菌
  • 星野 仁彦
    2019 年 56 巻 5 号 p. 376-378
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    抗酸菌は,結核菌,らい菌,非結核性抗酸菌(NTM)の3種類に分類される.NTMは環境菌であり,ヒトは環境より暴露されたNTMに感染し発症するとされるが,詳細は不明である.本邦における肺NTM症の罹患率は,結核のそれを逆転して,人口10万人あたり約15人であった.95%以上の症例が60歳以上であった.M. abscessusは日本で急増しているが,3種の亜種があり,DDH法でもTOF-MS法でも亜種鑑別ができない.3亜種は臨床経過に相違があるので亜種鑑別は重要である.NTMはヒト―ヒト感染しないとされてきたが,欧米のCF患者でヒト―ヒト感染を疑うような症例が出てきた.

  • ~これまでの流れから最近の話題まで~
    浅野 孝基, 岡田 賢
    2019 年 56 巻 5 号 p. 379-387
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(mendelian susceptibility to mycobacterial diseases; MSMD)は,BCG,非結核性抗酸菌,サルモネラなどの細胞内寄生菌に対して選択的に易感染性を示す原発性免疫不全症である.患者では,本来弱毒菌であるMycobacterium bovis BCGなどに対して易感染性を示す一方で,細菌やウイルスなどの他の病原体に対する免疫能は原則的に保たれていることが特徴とされる.一般的に,細胞内寄生菌の排除には,単球,マクロファージ,樹状細胞とT細胞,NK細胞との連携が重要である.特に,インターロイキン12やI型インターフェロンの産生に関わるシグナル経路が重要とされ,これらの機能障害がMSMD発症につながる.1990年代後半にMSMD発症に関わる責任遺伝子の同定がなされて以来,遺伝子解析技術の進歩に伴い,現在までに14の責任遺伝子の同定がなされている.近年,BCGワクチン接種後のBCG感染症が問題視されており,実臨床においてもMSMDを認識して対応する必要性が高まっている.本項では,MSMDの疾患概要から最近の話題までを概説し,本症に対する知識の整理を行いたい.

  • 白石 暁, 江口 克秀, 石村 匡崇, 神野 俊介, 古賀 友紀, 大賀 正一
    2019 年 56 巻 5 号 p. 388-392
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    抗がん剤による骨髄抑制や造血細胞移植における血球減少は感染症のリスクを高める.細菌感染症,ウイルスおよび真菌感染症はこのような治療中の患児にしばしみられるが,抗酸菌によるものは極めて稀である.一方で,抗酸菌感染症は治療に難渋したときに致死的になるため,十分な知識と適切な対応が必要である.非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria: NTM)は本邦で30種類以上の菌種による感染症の報告がある.遅発育抗酸菌(slowly growing mycobacteria: SGM)と迅速発育抗酸菌(rapidly growing mycobacteria: RGM)のどちらも化学療法や造血細胞移植に関連した感染症として問題となる.SGMはMycobacterium aviumM. kansasiiなどが起因菌となり,全身播種をきたすことがある.RGMは血液・がんの造血細胞移植関連でみられ,カテーテル関連感染症がほとんどである.菌株はM. chelonaeM. abscessusM. fortuitumが主で抗生剤感受性は1つ以上ある場合が多い.本邦の小児結核(M. tuberculosis)患者は減少し,現在新規発症は年に100人未満である.しかしながら,海外では小児がんの治療中や造血細胞移植後に結核を発症した報告があるため,治療前のスクリーニングの必要性が議論されている.その治療反応性は良いと報告がある一方で,多剤耐性菌に感染した場合は致死的になることもある.頻度が少ないとはいえ,がん化学療法中や造血細胞移植後の抗酸菌感染症の発症率は一般人口に比べ優位に高く,発熱時の鑑別疾患の一つとして重要である.

シンポジウム10: 小児がん治療後の晩期合併症に対する新しい治療
  • ―遠隔期フォローアップの注意点
    村上 智明
    2019 年 56 巻 5 号 p. 393-397
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    近年Onco-Cardiologyが注目されている.小児のがん治療においても治療に伴う循環器系の障害は重要な問題の一つである.この循環器系の障害は遠隔期にも生じ,進行性である.心不全のステージ分類では心毒性を有する薬剤の使用歴はステージAの心不全と定義される.症状を有する心不全ステージCに至る前に増悪を見つけるために,ステージB(器質的異常を認めるが症状がない段階)への移行をつかまえることが重要である.B-type natriuretic peptideあるいはN末端pro B-type natriuretic peptideの上昇は心臓における代償機転の破綻を意味し,これらの上昇を目安に循環器科医が積極的な介入を始めることはフォローアップ戦略の一つであると考える.症状を有する心不全においては症状を改善するための循環動態改善薬(カテコラミンやフロセミドなど)が必要となる.これらの薬剤の漫然とした使用は予後を悪くする可能性があるため,最少量を最短期間の使用にとどめることが重要である.症状を認めない心不全の段階では予後改善薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,ベータ遮断薬)が投与される.成人ではアントラサイクリン治療後の心不全において早期に心筋障害を発見しこれらの薬剤で迅速に治療を行うことにより心機能を回復しうるという報告もあるが,小児においては未だ十分なデータに乏しい.今後,小児における大規模なデータの収集が重要である.

  • 栗山 貴久子
    2019 年 56 巻 5 号 p. 398-401
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    小児がん経験者の晩期合併症の中でも高次脳機能障害と精神心理的問題は,生存の質を左右するものである.一方,これらの問題に対応するためには,小児科医だけでは対応が困難であると想定される場合もあり,児童精神科や小児心療科などの医師,公認心理師などと連携を取る必要がある.高次脳機能障害は中枢神経系に影響を及ぼす脳腫瘍や白血病,そしてそれらの治療による副作用として生じやすいため,治療終了後より学習面や行動面などの評価として知能検査などを行いながら評価し,対応していくことが重要である.対応方法には発達障害児への対応が目安になると考えられた.一方,精神心理的問題は小児がんという死を想起させる病気に罹患したというトラウマティックな体験から小児がん経験者や家族には生じやすいものと考える.心的外傷後ストレス障害に対する理解がこのような状況には理解しやすいと考え,適切な時期に心理教育を行い,対処方法を知ることによって長期フォローアップ外来の継続や社会生活への支障を最小限に留めることも可能になると考える.これらは治療中もしくは治療終了後早期より開始することが予防的になる.

シンポジウム11: 小児血液・腫瘍の疾患モデル―病態解明に向けて
  • 剣持 直哉, 上地 珠代, 吉浜 麻生
    2019 年 56 巻 5 号 p. 402-406
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    ダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)は赤血球造血のみが障害される先天性の骨髄不全症である.タンパク質合成に働くリボソームの機能障害が原因と考えられているが,発症機構は明らかではなく,有効な治療薬も存在しない.私達は,ゼブラフィッシュを用いてDBAの疾患モデルを作製し,このモデルを解析することで発症機構の解明と創薬に取り組んできた.ゼブラフィッシュは,発生が早く胚が透明であること,ヒトとの類似性が高く遺伝子操作が容易であることなどから,優れた疾患モデル動物として注目されている.また,個体レベルで化合物のスクリーニングができるため,創薬においても強力なツールとなる.本稿では,ゼブラフィッシュDBAモデルを用いた患者遺伝子変異の機能解析および発症機構の解析,さらに,in vivoスクリーニングによる薬剤の探索について紹介する.

  • 加藤 格
    2019 年 56 巻 5 号 p. 407-413
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    近年,小児がんのような希少がんの検体問題を克服すべく,ヒトの臨床腫瘍検体を免疫不全マウスに移植しマウス体内で増幅させる,ヒト化マウス,所謂Patient-derived xenograft(PDX)モデルが注目を集めている.高度免疫不全マウスを使用したPDXモデルはヒト細胞の増幅のみならず,正常造血・免疫系やヒト腫瘍病態をもマウス体内に再現するモデルである.白血病幹細胞や腫瘍微小環境の研究はこうしたPDXモデルを利用して飛躍的に進んでいる一方で,マウスとヒトとの交差性など,モデルとしての限界を認識しながら注意深く解析を進めていく必要がある.世界的には小児がん研究を目的としたPDX bank構築が小児造血器・固形腫瘍ともに進んできており,PDXを用いた新薬の前臨床研究など数々の臨床に繋がる貴重な報告がなされてきている.本邦においても著者らが構築してきた患者腫瘍検体によるPDXモデル技術を発展させ,2013年に小児悪性腫瘍領域で本邦初のPDX bankを全国白血病臨床試験に紐付いた形で立ち上げ,福島県立医大と京都大学をPDX作製施設として再発性急性リンパ性白血病の検体が集積される基礎研究体制を整え症例蓄積を進めている.免疫不全マウス開発の歴史,限界を克服する試みについて概説し,PDXモデルによる病態解析の実例と我々のPDX bankの取り組みを紹介する.

  • 中村 卓郎
    2019 年 56 巻 5 号 p. 414-420
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    急性骨髄性白血病(AML)の発症や悪性化の機序を研究する上で,骨髄移植マウスモデルは極めて有用である.野生型マウスや遺伝子改変マウスの骨髄から造血幹/前駆細胞を採取し,AML原因遺伝子を導入してX線照射したレシピエントに移植するモデルは,ヒトAMLの病態をよく再現し,in vivoにおけるAMLの動態解析や治療モデルとしても使用されてきた.我々は,Hoxa9/Meis1関連AMLの解析に骨髄移植モデルを利用することで,AMLの骨髄定着に必要なSytl1や,白血病の悪性化に重要なTrib1を同定し,これらの分子機能を解析した.一方,小児やAYA世代に発症するAMLと骨軟部肉腫には共通点が存在する.すなわち,中胚葉起源であること,ゲノム変異頻度の少なさ,原因遺伝子として融合型転写因子が形成されエンハンサーリプログラミングが生じること,等である.しかしながら,骨軟部肉腫のモデル作製は白血病モデルとは異なり従来困難であった.我々はAMLと骨軟部肉腫の共通性に着目し,マウス胎児から未分化な間葉系細胞を採取し,肉腫特異的融合遺伝子を導入して同系統マウスに移植するex vivoモデルの開発に成功した.これまでに作製したモデルは,Ewing肉腫,滑膜肉腫,胞巣状軟部肉腫を含む6系統であり,それぞれ病態解析を進めている.本総説ではモデルの具体例を紹介し,in vivoでの解析に主眼を置いた研究から明らかになった発症機構や,新たな治療法につながる標的解析について紹介する.

シンポジウム12: 小児がん臨床研究の統計的デザイン
  • 嘉田 晃子
    2019 年 56 巻 5 号 p. 421-424
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    さまざまな目的で実施される臨床研究の目的を達成するためには,それぞれの臨床研究の状況に応じた統計的な骨格を研究計画時に設定しておくことが大切である.臨床研究における生物統計家の役割を説明するとともに,日本小児がん研究グループの生物統計委員会の活動を紹介する.小児がん臨床研究の特徴を理解し,それに応じた計画や解析の設定が重要となる.

  • 手良向 聡
    2019 年 56 巻 5 号 p. 425-428
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    近年,小児がんなどの希少がんに対する臨床試験のあり方は我が国の規制当局を含めて国際的なトピックスとなっている.試験デザインの制約を緩和できる条件や状況として,1)単群試験デザインの許容,2)奏効率等の代替評価項目の採用,3)第I種・第II種の過誤確率の上昇などが挙げられている.また,効率的なデザインとして,遺伝子情報に基づいた試験(アンブレラ試験またはバスケット試験),N-of-1試験,適応的デザイン,ベイズ流デザインなどが提案されている.ベイズ流接近法の可能性としては,1)「確率」だけですべてを判断するため,分かりやすい,2)試験計画に依存せず,いつでもデータ解析をして知りたい確率を計算できるため,適応的デザインに適している,3)事前情報はときに意味をもち,事前情報を含む様々な情報(外部情報)を明示的に統合できるため,蓄積された情報を生かすことができる.試験デザインの「科学性」と「効率性」はトレードオフの関係にある.従って,計画段階で,各試験デザインの利点・欠点を十分に議論すべきである.そのためには,「臨床家」と「統計家」の真の協同が不可欠である.

  • 横田 勲
    2019 年 56 巻 5 号 p. 429-431
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    小児がん分野では,新規治療戦略の有効性を評価するため,イベント発生までの期間をエンドポイントとした単群試験がしばしば計画される.ヒストリカルコントロールから設定した閾値を用いて試験を計画する際に,パラメトリック法とマイルストン法が代表的なデザインとなる.ヒストリカルコントロールが存在しない場合のように予後を記述することが目的であるならば,精度ベースのサンプルサイズ設計を伴うデザインが採用される.本稿ではこれら試験デザインの特徴やサンプルサイズ設計に必要な情報,試験結果の解釈について解説する.

  • 平川 晃弘, 佐立 崚
    2019 年 56 巻 5 号 p. 432-435
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    ランダム化比較試験の主たる目的は,対象集団に対する治療効果の検証である.ランダム化比較試験では,治療効果を正しく評価するための統計的な工夫や方策がいくつかある.本稿では,ランダム化,盲検化,評価項目,サンプルサイズ,解析対象集団に焦点を当て,ランダム化比較試験における統計的要点について解説する.

教育セッション7: 輸血療法
  • 北澤 淳一
    2019 年 56 巻 5 号 p. 436-440
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    輸血療法は一種の同種移植であり,重篤な副反応が生じ,また医療過誤につながることもある.日本輸血・細胞治療学会では,製剤ごとに科学的根拠に基づく使用指針を作成し公表した.厚生労働省は,その指針を参考にして,血液製剤の使用指針を改定した.新生児・小児の輸血療法では,主に生後4か月までの新生児・乳児を対象として1994年から2014年までの文献を基準に則り推奨の強さ,アウトカム全般に対するエビデンスの強さを判定し,推奨文を作成した.3つのclinical questionを,新生児への赤血球輸血のトリガー値,新生児への血小板輸血のトリガー値,サイトメガロウイルス抗体陰性血の適応と設定した.トリガー値は,赤血球輸血はヘモグロビン値7 g/dL,血小板数2~3万/μL,サイトメガロウイルス抗体陰性血の適応は母体がサイトメガロウイルス抗体陰性の場合または陽性が確認されていない場合に行う胎児輸血,また同様の母体から出生した児に,生後28日未満の間に行う輸血とした.生後4か月を超える乳児・小児の輸血療法は科学的根拠に基づく製剤別使用指針を参考とする.新鮮凍結血漿の使用の基準とされたフィブリノゲン値は150 mg/dLとなったので注意が必要である.アルブミン製剤投与に関しても,従来使用されてきた病態・疾患では有効性が科学的には示されないものもあったので注意が必要である.重篤な副反応を有する輸血療法はチーム医療でリスクを制御する必要がある.また,医師には中心的役割が求められ,血液製剤の使用指針,輸血療法の実施指針に精通し,適正で安全な輸血療法に努める必要がある.

原著
  • 長江 千愛, 小倉 妙美, 長尾 梓, 堀越 泰雄, 鈴木 隆史, 小松 京子, 寺野 博子, 瀧 正志
    2019 年 56 巻 5 号 p. 441-446
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    ノナコグ ベータ ペゴル(N9-GP,レフィキシア®)は半減期延長型遺伝子組換え血液凝固第IX因子(FIX)製剤である.国際共同第III相試験paradigm5においては,FIX活性0.02 IU/mL以下の中等症・重症小児血友病B患者を対象としてN9-GP 40 IU/kgが週1回定期的に投与された結果,その有効性と安全性が確認され,0.15 IU/mLを上回るFIXトラフレベルが報告されている.本研究では,N9-GPの日本人小児患者における有効性,安全性,薬物動態を評価するために,paradigm5に参加した日本人小児重症血友病B患者3例の結果を詳細に解析した.N9-GPの平均投与期間は3.29年であり,治療を要する出血が3例7件に認められた.全出血が軽度/中等度であり,N9-GPの単回投与で著効が得られた.試験期間に標的関節は生じず,年間出血率,年間自然出血率はともにparadigm5の結果と大きな相違はなかった.重度,重篤な有害事象及びN9-GPとの関連が疑われる有害事象,FIXインヒビターの発生は認められなかった.定期補充療法による平均FIXトラフレベルは0.172 IU/mLであり,paradigm5の結果とほぼ同様であった.3例という少数例の検討ではあったが,日本人の解析結果には,paradigm5全体の結果と比較して大きな差異はみられなかった.

  • 半谷 まゆみ, 関 正史, 三谷 友一, 樋渡 光輝, 岩崎 美和, 木村 敬子, 副島 尭史, 佐藤 伊織, 松本 公一, 康 勝好, 真 ...
    2019 年 56 巻 5 号 p. 447-453
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    【背景】白血病を中心に,思春期・若年成人(Adolescents and Young Adults; AYA)世代のがん治療における小児科の優位性が示されてきたことに伴い,小児期と成人期の間にあたる彼らが小児科で治療される機会は増えてきている.しかし,この年代の患者と関わる上で小児科スタッフが抱える問題について,まとまった報告はない.【目的】中高生以上のがん患者と関わる小児科スタッフたちの現状を把握し,課題を整理する.【方法】総合病院小児科あるいは小児専門病院,計6施設で,中高生以上のがん患者と日常的に関わる機会のある多職種スタッフ(医師,看護師,薬剤師,院内学級教師など)を対象として,中高生以上のがん患者との関わり等について質問紙調査を実施した.【結果】計93名のスタッフから回答を得た.医師よりも他職種のほうが患者との関わり方に難しさを実感しており,特に心の問題やライフイベントに関する問題が難しいと回答した者が多かった.また,妊孕性に関する説明は施設間で勧奨度に相違があった.【結語】中高生以上のがん患者を小児科で診療する上で,病院スタッフが様々な問題を抱えていることが分かった.今後小児科で思春期・若年成人世代のがん患者の診療機会が増加することが見込まれる中,多職種・多施設間での更なる情報共有により,患者が安心して闘病生活を送れるよう心理社会的課題などに対するサポート体制の充実が望まれる.

症例報告
  • 佐治木 大知, 山下 大紀, 前村 遼, 坂口 大俊, 吉田 奈央, 波多野 寿, 濱 麻人
    2019 年 56 巻 5 号 p. 454-458
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    小脳虫部の髄芽腫(classic medulloblastoma with desmoplasia,WHO grade IV,Chang分類M1)と診断された4歳男児が,化学療法1コース後にがん性髄膜炎を発症した.週1回のmethotrexate(MTX)+dexamethasone(DEX)髄腔内注射(IT)を髄液細胞診が陰性となるまで合計3回追加した.4コースの化学療法,放射線治療(全脳全脊髄24 Gy/局所51.2 Gy),thiotepa(TEPA)+melphalan(MEL)による大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植,経口etoposideによる維持療法を行い,診断後49か月無病生存中である.がん性髄膜炎を来した高リスク髄芽腫に対して,MTX+DEXのIT追加療法,およびTEPA+MEL大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植は高い治療効果を期待できることが示唆された.

  • 松野 良介, 大貫 裕太, 杉下 友美子, 金子 綾太, 岡本 奈央子, 小金澤 征也, 藤田 祥央, 秋山 康介, 外山 大輔, 池田 裕 ...
    2019 年 56 巻 5 号 p. 459-463
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    [緒言]骨盤内発生の神経芽腫群腫瘍は良好な予後を示すとされているが,腫瘍の発生解剖学的位置により,神経や血管を巻き込んでいるため,術前化学療法が選択されることが多い.

    [症例]1歳6か月女児.仙骨部に充実性腫瘤を認め,生検病理結果は神経芽腫,分化型であった.MKIはlow MKIに相当し,国際神経芽腫病理分類(INPC)でfavorable histology(FH)群腫瘍と診断された.仙骨神経叢からの腫瘍発生が疑われ,腫瘍の一期的全摘術は難しいと判断し,中等度化学療法を1コース施行したが,腫瘍の縮小と腫瘍マーカーの改善をまったく認めなかったため,引き続きの化学療法は選択せず,外科的治療を先行させた.

    [結語]神経芽腫群腫瘍のFH群腫瘍は化学療法によるapoptosisが起こらない場合は,腫瘍細胞がすでに分化を始めていることが多く,化学療法を繰り返しても腫瘍が縮小する可能性は少ない.神経節芽腫,混成型や神経節腫と本質的には変わらないものであり,外科的治療が優先されるべきである.

  • 山下 大紀, 佐治木 大知, 前村 遼, 坂口 大俊, 吉田 奈央, 波多野 寿, 荻野 浩幸, 濱 麻人
    2019 年 56 巻 5 号 p. 464-468
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    Down症候群児に対する化学療法は重篤な治療関連毒性のため,減量が考慮される.Down症候群児の頭蓋内胚細胞腫瘍における化学療法の減量についての明確な基準はない.症例は13歳のDown症候群男子.頭痛・眼球運動障害で受診し,頭部MRIで松果体部腫瘍を認めた.腫瘍全摘出術を施行し,Mixed germ cell tumor, immature teratoma with choriocarcinomaと診断した.ICE療法(ifosfamide, carboplatin, etoposide)6コースと陽子線治療を施行した.治療関連毒性が懸念されたため,初回ICE療法は60%量に減量し,2回目以降は100%量で治療したが,重篤な有害事象を認めず治療完遂した.Down症候群に合併した頭蓋内胚細胞腫瘍に対してICE療法は安全かつ有効であり,通常量で治療を施行できる可能性が示唆された.

  • 森永 信吾, 横山 智美, 山下 貴大, 今屋 雅之, 興梠 健作, 阿南 正, 高木 一孝
    2019 年 56 巻 5 号 p. 469-473
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    小児ダウン症候群(DS)は急性白血病発症の危険性が有意に高い.我々はダウン症候群に伴う骨髄性白血病(ML-DS)寛解後に急性リンパ性白血病(DS-ALL)を発症した稀な例を経験したので報告する.症例はダウン症候群の女児で生後18ヶ月時に貧血と血小板減少が出現した.骨髄検査ではCD41,CD7,CD13,CD33,GP-A陽性でGATA1変異を認める芽球を17%認めた.ダウン症候群に伴う骨髄性白血病(ML-DS)と診断しAMLの治療を行い長期寛解となった.7歳時,再び点状出血斑と血小板減少を認めた.骨髄検査ではCD10,CD19,CD20,HLA-DR陽性の芽球を96%認めた.しかし,これらの白血病細胞にはGATA1の変異は認めなかった.患児は急性リンパ性白血病(de novo DS-ALL)と診断されALLの治療を受けた.14歳時,患児はML-DSもDS-ALLも共に完全寛解中である.

  • 大浦 果寿美, 佐藤 智信, 杉山 未奈子, 寺下 友佳代, 長 祐子, 井口 晶裕
    2019 年 56 巻 5 号 p. 474-477
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/07
    ジャーナル フリー

    小児血液悪性疾患の再発例や治療抵抗例に対して,強力な抗白血病効果を期待してHLA半合致移植が施行される症例が増加している.しかし,本移植後には抗白血病効果が到達しにくい髄外で再発を来すことが少なくない.今回,再発急性骨髄性白血病に対する血縁者間HLA半合致移植後に多発髄外再発を来した症例を経験した.HLA半合致移植後には移植片の監視を逃れた腫瘍細胞が骨髄外から再発する例があり,その長期予後は不良といわれる.本移植後は骨髄のみならず画像検査により髄外再発の有無も慎重に経過観察を行う必要がある.

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