日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
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59 巻, 3 号
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第63回日本小児血液・がん学会学術集会記録
特別企画1:レジェンドからの提言
シンポジウム1:小児血液腫瘍疾患に対する新規解析手法
  • ―がん細胞の不均一性の解明を目指して―
    西村 聡, 高木 正稔
    2022 年 59 巻 3 号 p. 219-223
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    がんにおける組織内の多様性は古典的には1970年代から報告がされてきたが,近年になり,次世代シークエンスを含む様々な解析技術の発展によって徐々にその組織や細胞集団の不均一性が詳細に明らかになってきた.その不均一性を正確にとらえられる強力なツールが,単一細胞レベルでの遺伝子発現を解析する手法であるシングルセルRNAシークエンスである.

    主なシングルセルRNAシークエンスの解析手法として,次元削減法と偽時系列解析を含む分化軌道解析が挙げられる.次元削減法によって,がんの異なるクローンを区分し,がん幹細胞の病態解明,初発時・再発時クローンの差異,治療相毎での免疫担当細胞の変化,患者の予後に直接影響するクローン集団の同定などが可能になる.また,分化軌道解析によって,不均一な細胞集団のそれぞれのクローン起源に迫ることも可能である.

    将来的には,シングルセルRNAシークエンスと近年発展してきたシングルセルでのクロマチン動態の解析手法の統合は,さらに正確に不均一ながんの病態を解明し,テーラーメイドの治療につながる可能性を有している.

シンポジウム5:小児がんの陽子線治療の保険診療収載から5年たって
  • 福岡 講平, 康 勝好
    2022 年 59 巻 3 号 p. 224-228
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    【緒言】陽子線治療は有害事象の軽減の期待から小児がんに対する実施が増加しており,2016年4月から保険適応にもなっている.本報告では当院における陽子線治療実施状況について報告し,陽子線治療を依頼する紹介施設の立場から現状と今後について考察した.

    【方法/結果】2016年4月から2021年3月までに陽子線治療を行った症例は17例であり,原疾患は脳腫瘍7例,横紋筋肉腫5例,ユーイング肉腫4例,神経芽腫1例,初発症例の診断から照射までの期間は中央値4か月(0–8)であった.転帰は死亡2例,再発生存2例,無病生存13例であった.陽子線照射後観察期間は中央値16か月(7–63か月)で,陽子線照射に起因するCommon Terminology Criteria for Adverse Events Grade 3/4の非血液毒性はGrade 3食道炎1例のみであった.

    【考察/結語】陽子線治療を実施した症例は有害事象も許容範囲であったが,観察期間が不十分な症例も含まれ今後はさらに長期間の観察により認知機能や二次がん等の長期合併症の評価が必要である.陽子線治療の適応と考えられた症例は早期から治療施設とコンタクトを取ることでスムーズに転院して治療を受けることができたが,化学療法を併用する症例や鎮静を必要とする症例も多く,陽子線治療施設のネットワーク化による受け入れ態勢の整備が望まれる.

シンポジウム6:小児外科医・小児腫瘍医が知っておくべき種々の領域の固形腫瘍における治療・手術~最近の動向と今後の展望 I.骨・軟部腫瘍
  • 梅田 雄嗣
    2022 年 59 巻 3 号 p. 229-238
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    小児及び思春期・若年成人世代の代表的な悪性骨腫瘍であるユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)及び骨肉腫の治療成績は集学的治療の進歩により飛躍的に向上したが,治療中に増悪した症例や治療後に再発した症例などの予後は依然として不良である.

    再発・増悪ESFT症例に対する最近開発された様々なサルベージ化学療法の奏功率は50%前後である.一方,分子標的薬の奏功率は約10–20%で,その治療効果は一時的な場合が多い.原発巣や転移病変に対する局所治療(手術や放射線治療)は生存率向上に寄与する可能性が示唆されている.一方,造血細胞移植の有効性については賛否両論である.

    再発・増悪骨肉腫症例ではサルベージ化学療法や分子標的薬の奏功率が低く,長期生存を得るには再発・増悪病変に対する積極的な局所治療の併用が必須である.造血細胞移植の有効性については否定的な報告が多い.

    いずれの疾患も分子標的薬単剤で治療をした場合は早期に耐性を獲得することが多く,長期生存する症例はごく少数例に限られている.また,初回治療中に増悪を来した症例の予後は極めて不良である.今後は再発・増悪骨・軟部腫瘍の治療成績の改善に向けて,分子標的薬の至適使用法の検討やキメラ抗原受容体T細胞療法など免疫細胞療法の開発に期待したい.

教育セッション4:輸血
  • 岩本 彰太郎
    2022 年 59 巻 3 号 p. 239-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    小児がん患者の診療において,輸血療法は重要な支持療法の一つである.しかしながら,本邦では明確な輸血適応基準が定められていないのが現状である.諸外国の小児輸血ガイドラインにおけるがん患者への輸血適応は,赤血球輸血ではヘモグロビン値7~8 g/dL,血小板輸血では出血予防を基本とし血小板数1~2万/μLとしている.これらも十分な科学的根拠に基づいているとはいえないものの,本邦の多くの施設はこれらを参考にしている.一方で,こうした指標に捕らわれすぎることなく,血液製剤の安全性を考慮しながら,子どもの状態像に応じて判断せざるを得ない症例も存在する.

    特に,根治困難と判断され小児がん患者の終末期における輸血療法に関しては,依然議論の多いところである.白血病などの造血器腫瘍患者にとって,輸血療法は終末期の生活の質を維持するために不可欠であるが,在宅療養を希望する子どもにおいて在宅移行の障壁の一つにもなっている.輸血療法は,どのような状況においても安全に施行されることが重要であるが,これまでに本邦における終末期小児がん患者に対する在宅輸血の適応や安全な実施体制についてまとまった報告はない.今回,小児の輸血療法の現状と副作用および小児がん患者に対する輸血適応について整理するとともに,終末期小児がん患者の在宅輸血の適応と課題について考察する.

教育セッション6:放射線治療
  • 藤 浩
    2022 年 59 巻 3 号 p. 248-254
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    小児がんの放射線治療は成人がんと異なる側面がある.小児がんは希少疾患であり,悉皆的に登録する単アームの臨床試験により治療開発が行われてきた.これにより集学的治療,他剤併用療法,放射線治療が効率的に向上してきた.小児がんは抗がん剤,放射線治療が有効であり,一方で臓器の温存が強く望まれ.そのため巨大な臨床標的体積がとられることが多い.摘出部の周囲を広く照射する術後照射や,播種しうる範囲を広く照射する全中枢神経照射などが行われる.また成人の線量制約が臓器の機能不全をエンドポイントとするのに対し,小児では成長障害や二次がんなどのように,比較的少ない線量でも起きる有害事象をエンドポイントとする線量制約も考慮する必要がある.

    小児がんに対して適切な放射線治療を行うためには,その特性を理解しておく必要がある.小児がんでは試験治療と実地診療の区別が曖昧なことがあり,適切な放射線治療を行うためには,その治療の検証の状況などを正確に把握することも重要である.

ゲノム教育セッション:血液腫瘍遺伝子パネル検査の臨床実装に向けて
  • 加藤 元博
    2022 年 59 巻 3 号 p. 255-258
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    ゲノム解析技術の進歩により,がんの病態の理解が深まるとともに,診療においてもゲノムプロファイリング検査として導出されている.しかし,次世代シークエンサーなどで得られるゲノム解析の結果は膨大かつ複雑であり,その内容を判断するためのリテラシーが求められており,ゲノム解析の基本的な知識や,用語の理解が重要となっている.例として,バリアントアレル頻度は腫瘍含有率やコピー数変化によって影響される.また,多数の変異の中にはドライバー変異とパッセンジャー変異があり,その病的な意義は専門家の知識のもとに区分されるが,明確に区別できないものも多く,さらには新たな知見によって変わり得るものであることに注意が必要である.ゲノム解析の特性を知ることで,ゲノム検査の限界を把握することもでき,最大限に活用できるようになる.

  • 前田 高宏
    2022 年 59 巻 3 号 p. 259-264
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    2001年にヒトの全ゲノムが解読されて以来,ゲノム解析技術の飛躍的発展とともに,ゲノム情報に基づいた医療が提唱,実践されてきた.本邦でも2019年6月に固形腫瘍を対象に遺伝子パネル検査が保険収載され,がんゲノム医療の実臨床への導入が加速している.本稿では,造血器腫瘍の臨床における遺伝子パネル検査の有用性について概説する.

原著
  • 寺田 和樹, 平川 一夫, 矢野 瑞季, 土持 太一郎, 木川 崇, 高橋 聡子, 櫻井 彩子, 植木 英亮, 野口 靖, 五十嵐 俊次
    2022 年 59 巻 3 号 p. 265-269
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    【背景】高校生がん患者には学習支援,復学支援の両者からなる教育支援が求められるが,十分な支援が行われているとは言い難い.教育支援の促進を妨げる一因として,教育支援の成果が明らかになっていないことが考えられる.我々は教育支援を受けた患者を調査し,その成果を検討した.

    【方法】2005年4月から2021年4月までに当院で長期入院を必要とした高校生の血液腫瘍患者14例を対象とし診療録から後方視的に復学,進学,就職状況を調査した.

    【結果】10例が教育支援を受け(教育支援群),4例が教育支援を受けていなかった(非教育支援群).教育支援群では学習支援に加え,復学支援として特別支援学校への転学時に,「退院後,再度転入で学籍を受け入れることを前提とする」取り決めを全例で原籍校と交わしていた.非教育支援群は4例中3例が復学後に留年した一方,教育支援群は全例が復学後に留年せず卒業した.4年制大学進学率は非教育支援群では0%であったのに比較し,教育支援群では55%と高い傾向にあった.

    【結語】教育支援の成果を明らかにした.医療者および教育者,さらには行政が学習支援,復学支援両者から成る教育支援の有効性を理解することが必要と考えられた.

  • 福島 紘子, 鈴木 涼子, 八牧 愉二, 穂坂 翔, 稲葉 正子, 吉村 由美香, 水本 斉志, 室井 愛, 増本 幸二, 鈴木 英雄, 高 ...
    2022 年 59 巻 3 号 p. 270-274
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    【背景】小児がんの治療成績は向上した.一方,小児がん経験者の晩期合併症が明らかになり,その医学的管理・介入の必要性が認識されてきた.我々は,小児がん経験者に対して人間ドックを医学的管理に活用する際の課題についての意識調査を行ったので,報告する.【方法】対象:1976年~2018年3月までに筑波大学附属病院でがん治療を受けた,診断時15歳以下の患者.調査時年齢16歳以上,診断後5年を経過しているものを対象とした.質問紙調査は調査票を患者自宅へ郵送し実施した.【結果】対象者249名に質問票を送付した.61名(24%)より返送があり,有効回答54名(22%)の解析を行った.診断時年齢中央値は8.7歳,現在年齢中央値21.5歳,診断後年数中央値は13.3年だった.晩期合併症については40名(74%)が「よく知らない」と返答した.人間ドックを受診したいか?の問いに対し,49名(91%)が「少しそう思う」「そう思う」「とてもそう思う」と回答した.人間ドックを受けるなら?の問いに対し,「無料なら受けたい」25名(46%),「自分でお金を払っても受けたい」27名(50%)であった.【考察】小児がん経験者は晩期合併症に対する知識は乏しいものの,ほとんどが自身の健康管理のための人間ドックの受診を希望した.一方,金銭的負担に障壁を感じている者が半数で,実際の受診を妨げている可能性があると考えられた.

  • 佐野 弘純, 福島 啓太郎, 矢野 道広, 嘉数 真理子, 篠田 邦大, 加藤 陽子, 新小田 雄一, 森 尚子, 石田 裕二, 斎藤 雄弥 ...
    2022 年 59 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    【背景】小児血液・腫瘍性疾患の長期にわたる治療に際し用いられる中心静脈カテーテル(Central Venous Catheter; CVC)について,全国的にどういった種類のCVCが使用され,どのように管理されているかについての情報は乏しい.そこで日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)参加施設でのCVCの使用・管理状況について調査した.

    【方法】JPLSG参加155施設に2016年2月から同年7月まで,CVCの使用・管理状況について,SurveyMonkey®を用いたWebアンケート調査を行った.

    【結果】98施設(63%)から回答を得た.以下,「%」は回答した施設数を母数とした回答比率を指すものとする.白血病・リンパ腫の患児に対しては97%の施設が基本的に全例にCVCを使用していると答えた.CVCのタイプ別にみると,長期留置型は86%の,短期留置型は16%の,ポートは7%の,末梢挿入型は44%の施設で使用されていた.皮膚刺入部の管理法,アクセスポートを含めた輸液ラインの管理法,カテーテル関連血流感染症が疑われた際の対応については施設ごとで差を認めた.

    【考察】施設の規模や診療体制の違いからCVCの使用や管理の状況は施設ごとに大きく異なっていた.今後はCVCを安全に使用し,感染を予防するための管理指針が必要と考えられた.

  • 歌野 智之, 富澤 大輔, 加藤 元博, 大隅 朋生, 牛腸 義宏, 坂口 大俊, 井口 晶裕, 松本 公一, 山谷 明正
    2022 年 59 巻 3 号 p. 281-286
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    ブリナツモマブは再発・難治B細胞性急性リンパ性白血病に対する二重特異性T細胞誘導抗体製剤であり,高い治療効果と共に,従来の殺細胞性抗がん薬と比較して血液毒性等の重篤な有害事象の発現頻度が低く,高いquality of life(QOL)を維持しながら治療が可能である.一方で,消失半減期が短く,1サイクルあたり28日間の持続点滴投与が必要であり,本邦では入院治療が原則となっている.我々は,さらなる患者QOLの向上を目指して,携帯型精密輸液ポンプを用いたブリナツモマブの在宅投与に取り組み,2名の患者において問題なく実施し得た.ブリナツモマブの調製は,週に2回,同じ曜日に3日分と4日分の薬液をそれぞれまとめて調製し,交互に交換する方法で行った.薬液を充填するメディケーションカセットや輸液ライン,フィルター等の物品が必要であるが,ブリナツモマブに非推奨の材質を避ける必要がある.また,導入当初にフィルター部位からの液漏れを経験したが,別の製品に変更することにより,以降は液漏れすることなく投与可能であった.入浴時は,輸液ポンプを防水バッグに入れてフィルターを防水フィルムで覆い,濡れないようにする対策により,薬液の中断なく入浴が可能であった.当院の経験から,携帯型精密輸液ポンプを用いたブリナツモマブの在宅投与は安全に施行可能であると考えられ,治療中のさらなるQOL向上に有用であると期待される.

症例報告
  • 大島 理利, 多賀 崇, 池田 勇八, 木川 崇, 清水 淳次, 丸尾 良浩
    2022 年 59 巻 3 号 p. 287-291
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    8歳女児例.急性骨髄性白血病(AML)FAB M4のため,シタラビン,ミトキサントロン,エトポシドによる寛解導入療法中であった.寛解導入療法開始から21日目,突然の顔色不良と経皮的酸素飽和度(SpO2)低下を認めた.静脈血液ガス分析のメトヘモグロビン(MetHb)値は54.7%と高値であり,重症域の値だったが,チアノーゼや意識障害などの症状は認めず,酸素投与と赤血球輸血で改善した.その原因は歯科口腔外科の診察で使用された口腔内表面麻酔薬アミノ安息香酸エチル(ジンジカインゲル20%®)であることが判明し,発熱性好中球減少症の状態がこれを助長したと考えられた.原因不明のSpO2低下を認めた際にはMetHb血症を鑑別に挙げる必要がある.

  • 長谷河 昌孝, 長 祐子, 大久保 淳, 寺下 友佳代, 杉山 未奈子, 井口 晶裕, 河北 一誠, 荒 桃子, 本多 昌平, 若林 健人, ...
    2022 年 59 巻 3 号 p. 292-295
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    ウィリアムズ症候群(WS)は妖精様顔貌,視覚性認知障害,心血管系病変などを特徴とした稀な疾患であり,染色体7q11.23微細欠失を病因とする.症例はWSの13歳男児で腸重積を契機に小腸原発のバーキットリンパ腫,Murphy分類stage IIと診断された.多剤併用化学療法を施行し治療終了後3年以上経過した現在も寛解を維持している.近年同症候群における悪性リンパ腫発症の報告が散見される.WSの病因である7q11.23の微細欠失領域に位置する遺伝子が関連している可能性がある.

  • 慶野 大, 横須賀 とも子, 廣瀬 綾菜, 櫻井 由香里, 宮川 直将, 岩﨑 史記, 浜之上 聡, 古賀 文佳, 栁町 昌克, 後藤 裕明
    2022 年 59 巻 3 号 p. 296-299
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    難治のがん疼痛管理のためにモルヒネにケタミン持続静注とアミトリプチリンの併用を行った左副腎原発神経芽腫の幼児例を経験した.症例は3歳9か月の女児で,化学療法抵抗性の高リスク群神経芽腫(MYCN増幅+)であった.モルヒネ増量(最大量:42 μg/kg/h)では疼痛コントロールがつかず,ケタミン持続静注(1–1.5 mg/kg/day)とアミトリプチリンの併用を行うことで,良好な疼痛コントロールを得ることが可能であった.モルヒネにケタミン持続静注とアミトリプチリン併用を行うことでの嘔気・嘔吐,傾眠傾向やせん妄等の有害事象は認めず,鎮痛に関連した呼吸抑制は認めなかった.自覚的評価が困難な幼児のモルヒネ抵抗性の難治がん疼痛に対し,表情や行動(夜間に増加する疼痛の訴え)を評価しながら,ケタミン持続静注とアミトリプチリンを併用することで良好な疼痛コントロールが行えることが示唆された.

  • 栁澤 彩乃, 服部 浩佳, 市川 大輔, 関水 匡大, 久保田 敏信, 荻野 浩幸, 伊藤 康彦, 小野 学, 二村 昌樹, 後藤 雅彦, ...
    2022 年 59 巻 3 号 p. 300-303
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    症例は2歳女児.母親が1か月前からの右白色瞳孔に気付き,右網膜芽細胞腫(国際分類E)と診断された.造影MRI検査では視神経径の左右差を認め,眼窩および脳実質内に明らかな病変は認めなかった.速やかに右眼球摘出術を施行し,視神経断端陽性の病理診断を得た.骨髄および髄液に腫瘍細胞の浸潤は認めなかった.後療法として,髄腔内抗癌剤投与を含む化学療法を5コース,右視神経への陽子線療法45 Gy(RBE)/25 Fr.,自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行った.現在,治療終了後約5か月経過し,再発を疑う所見は認めていない.視神経断端陽性例では,局所療法と全身療法双方の治療強度を担保することが,再発・転移予防のために必須である.放射線治療における陽子線の選択など,現時点において可能な晩期合併症軽減策をとるとともに,長期にわたるフォローアップを行うことが重要であると考えられた.

  • 丸山 和隆, 草野 晋平, 藤原 恵, 谷口 明徳, 石橋 武士, 富田 理, 藤村 純也, 鈴木 まりお, 近藤 聡英, 清水 俊明
    2022 年 59 巻 3 号 p. 304-308
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    Embryonal tumor with Multilayered Rosettes(ETMRs)は予後不良な胎児性脳腫瘍の一つである.標準治療は確立しておらず,経験的に手術,放射線治療,多剤併用化学療法を組み合わせた集学的治療が行われることが多い.我々は,手術,放射線療法に,髄芽腫に用いられる化学療法を行い,異なる転帰をたどったETMRの2例を経験した.1例は治療終了後1か月で局所再発をきたしたが再手術と再照射,bevacizumab(BEV)投与を行い,治療終了後4年間寛解を維持している.1例は治療中を含めて3回再発を繰り返し,再手術とBEV併用追加放射線治療を行ったが発症から16か月後に死亡した.ETMRの再発に対する再手術と再照射は生存期間の延長に有用である可能性があり,累積照射線量増加に伴う放射線壊死の予防や進行抑制にBEV投与は有用と考えられた.

  • 内原 嘉仁, 梅田 雄嗣, 赤澤 嶺, 上月 景弘, 才田 聡, 加藤 格, 平松 英文, 野口 貴志, 坂本 昭夫, 宇藤 恵, 溝脇 尚 ...
    2022 年 59 巻 3 号 p. 309-313
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    再発・難治性骨肉腫2例に対してマルチキナーゼ阻害剤regorafenibを使用した.症例1は右上腕骨骨肉腫原発の初診時15歳男児,術後化学療法中に増悪を認め,regorafenibを開始した.1サイクル後に部分奏功を認めたが,9サイクル後に再増悪を来した.症例2は右脛骨原発の初診時9歳男児,原発巣摘出及び術前・術後化学療法を施行したが肺転移を繰り返し,第5再発期にregorafenibが開始された.2サイクル投与後に病状は一旦安定したが,その後急速に増悪を示したため,4サイクルで投与中止となった.2例とも本剤投与による重篤な有害事象は認めなかった.Regorafenibは再発・難治性骨肉腫に有効な可能性が示されたが,その抗腫瘍効果は症例により異なるため,治療効果を予測する遺伝子異常に関するデータ集積が望まれる.

  • 真玉 千紘, 小山 千草, 金井 理恵, 中嶋 滋紀, 真子 絢子, 大倉 隆宏, 久守 孝司, 米田 尚弘, 竹谷 健
    2022 年 59 巻 3 号 p. 314-318
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    症例は5歳女児,3週間前からの顔色不良を主訴に受診した.重度の貧血(Hb 5.5 g/dL)を認め,網状赤血球の高値,T.BilとLDHの上昇,ハプトグロビンの低下,直接クームス試験が陽性で自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断した.下腹部に腫瘤を触知し,骨盤部CTで仙骨前面に嚢胞性腫瘤を認めた.プレドニゾロン(PSL)を開始して貧血は改善し,PSL開始15日目に嚢胞性腫瘤の診断と嚢胞性腫瘍に続発したAIHAの可能性を考慮して,腫瘍摘出術を行った.成熟嚢胞性奇形腫の診断で,嚢胞内容液の間接クームス試験は陽性だった.腫瘍摘出後からPSLを漸減したが,直接クームス試験は陰性化し,PSL中止後も貧血の再燃はない.小児のAIHAでは卵巣以外の奇形腫合併も念頭に置く必要がある.奇形腫に合併したAIHAは腫瘍摘出術が有効だが,ステロイドの先行投与で周術期の輸血を回避できる可能性が示唆された.

  • 野瀬 聡子, 奥山 宏臣, 佐々木 隆士, 長谷川 誠紀, 大塚 欣敏
    2022 年 59 巻 3 号 p. 319-323
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    肺アスペルギルス症のなかでも,結節形成や空洞を伴う場合,抗真菌薬の局所および全身投与は無効であることが多く,外科的切除が選択肢となる.今回我々は,遷延性好中球減少下に発症した肺アスペルギルス症に対し肺上葉切除を行うことで,術後に臍帯血移植を施行し得た一例を経験したので報告する.

    症例は12歳女児.再生不良性貧血に対する免疫抑制療法の施行中,持続する発熱と咳が出現し,胸部CT所見と血中アスペルギルス抗原陽性から肺アスペルギルス症と診断された.内科的治療の反応は不良であり,原疾患治療の停滞が危惧されたため,外科的介入となった.縦隔胸膜に強く癒着した肺上葉は空洞を形成しており,手術は空洞の完全切除のために左上葉切除術を施行した.空洞の内部には菌球を認めた.術後経過は良好で感染の制御が可能となり,術後33日目に臍帯血移植を導入し得た.

その他(総説の続報)
  • 石田 也寸志
    2022 年 59 巻 3 号 p. 324-330
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル 認証あり

    2021年12月以降の小児がん患者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関してレビューした.英国ではCOVID-19流行後がん診断数の減少がみられ(−17%),特に脳腫瘍(−38%)およびリンパ腫(−28%)で有意の減少がみられた.本邦でも血球貪食症候群の総発生率は73.7%に減少していた.小児がん患者のCOVID-19による死亡率は,高所得国3%,高中所得国12%,低所得国13%の差があり,3,354例のメタ解析では4%と報告された.米国大規模小児がんCOVID-19レジストリーで1,950例が集積され,血液腫瘍で重症度が高く,死亡例73例(3.7%)のうち血液腫瘍が45%,再発例が59%を占めていた.本邦では2022年7月1日現在61例の報告があり,ほとんど軽症か無症状で死亡例はなかった.カナダの小児・AYA世代がんの5年生存者12,410人と124,100人の対照者が比較され,がんサバイバーはPCR検査数や回数は多いものの,SARS-CoV-2陽性者は同等で(3.1%対3.2%),臨床リスクの増加はみられず死亡した人はいなかった.がんサバイバーはワクチン接種率が有意に高く,COVID-19感染リスクや重症化リスクを増大させることはなかった.COVID-19流行は世界の小児がん診療の労働環境に大きな影響を与え,スタッフ配置に困難な変更をもたらし,長期フォローでは遠隔診療などの活用が行われている.

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