日本小児血液・がん学会雑誌
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59 巻, 5 号
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第63回日本小児血液・がん学会学術集会記録
特別講演:AYA研究・活動の最前線
  • ―大阪府がん診療連携協議会小児・AYA部会の活動
    中田 佳世, 宮代 勲, 松浦 成昭
    2022 年 59 巻 5 号 p. 331-337
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    2018年に策定された第3期がん対策推進基本計画において,思春期・若年成人(adolescent and young adult, AYA)世代へのがん対策が掲げられている.わが国におけるAYA世代(15~39歳)の年間新規がん罹患数は約20,000例で,小児がんの罹患数(約2,000例)よりは多いが,全年齢(約100万例)における割合はわずか2%程度である.この世代に発生するがんは,15~19歳では白血病,20歳代では卵巣がんや精巣がん,甲状腺がん,30歳代では乳がん,子宮頸がん,消化器がんが多く,小児に多いがんと成人に多いがんが混在する.また,この世代には多様なニーズが存在し,がん医療のみならず,生殖機能温存,教育や就業など幅広い視点での支援が必要である.AYA世代のがん患者は,成人に比べて数が少ないにも関わらず十分集約されておらず,医療従事者に診療や相談支援の経験が蓄積されにくい.欧米では,2000年ごろよりAYA世代のがん患者の治療成績や,この世代特有の心理社会的なニーズが明らかとなり,AYA世代へのがん対策が活発になっていた.わが国においても,近年,各分野で研究や支援への取り組みが始まっているが,地域や病院レベルの,具体的な対応が求められている.大阪府では,2011年に大阪府がん診療連携協議会小児・AYA部会が発足し,大阪府がん登録データを利用したAYA世代のがん患者の診療実態調査,がん患者の生殖機能温存や就学支援に関する情報提供用のパンフレットの作成,ホームページでの情報発信などを行っている.本稿では,わが国のAYA世代のがんの現状と,AYA世代に対する全国および大阪府での取り組みを紹介する.

シンポジウム3:小児血友病医療の今後の展開
  • 矢田 弘史, 野上 恵嗣
    2022 年 59 巻 5 号 p. 338-347
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    血友病患者の医療は,新たな治療製剤の開発により著しく進歩している.従来の血漿由来凝固因子濃縮製剤に代わり,1990年代に誕生した遺伝子組換え型凝固因子製剤が主流となり,2000年代には,遺伝子組換え型凝固因子に化学的修飾や改変を加えた半減期延長型製剤が次々と開発されている.さらに,2018年には,血友病A患者に対して,皮下投与による新規抗体製剤が使用できるようになり,今日,血友病患者の治療選択は拡大している.一方,血友病患者におけるインヒビター発生や新生児期の頭蓋内出血などの重要な未解決課題が依然として存在しており,特に日本の血友病患者における実態については不明点が多いのが実状であった.そこで,2008年から2020年にかけて,日本全国の新規に診断された血友病患者のうち417人(血友病A:340人,血友病B:77人)を対象として,インヒビター発生要因に関する多施設共同前方視的追跡調査研究(Japan Hemophilia Inhibitor Study 2; J-HIS2)が実施された.この中では,インヒビターの発生とともに,輸注の記録や出血状況を含めた治療に関する情報に加え,第VIII因子(FVIII)または第IX因子(FIX)遺伝子変異を含む患者背景が詳細に調査された.本研究を通じて初めて明らかとなった日本における血友病A患者のFVIII遺伝子変異については,先行する国際研究と同様に,null変異が有意にインヒビター発生リスク因子となることを我々は報告している(文献26).本稿では,10余年に及ぶJ-HIS 2研究の最終結果に基づき,日本の血友病医療の現状課題を報告するとともに,次の10年に求められる小児血友病医療の展望について考察する.

  • 古川 晶子, 野上 恵嗣
    2022 年 59 巻 5 号 p. 348-354
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    近年,血友病治療はパラダイムシフトを迎えている.Non-factor製剤の登場によりインヒビターの有無に関係なく出血予防が可能となり,さらに遺伝子治療の臨床試験も進んでいる.しかし,現在使用可能なnon-factor製剤では,血友病A患者の破綻出血時や周術期の止血管理には凝固因子製剤を併用する必要もあり,その組み合わせにより血栓症の発症が報告されている.また,非重症血友病A症例でもインヒビターが出現することがあり,生来定期補充療法を要しない症例でも急に止血困難に陥る.このように現在でもインヒビターは血友病医療における重要な課題である.免疫寛容導入療法(ITI)は,インヒビター消失の目指す唯一の治療法であり,わが国のITIの現状(J-ITI Registry)も最近報告された.インヒビター発生に関わる要因についても,欧米中心に前方視的調査も行われてきたが,わが国でもJ-HIS studyとして血友病A患者のF8変異とインヒビター発生リスクの関連について最近報告された.インヒビター発生の基礎研究も精力的に行われている.今後はこれらの多くの情報をもとに,インヒビターの治療戦略確立につながっていくことが多いに期待される.

  • 冨樫 朋貴, 大森 司
    2022 年 59 巻 5 号 p. 355-362
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    血友病はF8遺伝子(血友病A)またはF9遺伝子(血友病B)の異常によるX連鎖潜性の出血性疾患である.出血時には凝固因子製剤を投与する必要があるだけでなく,重症例では関節出血予防のために生涯にわたり凝固因子製剤を定期的に補充する必要がある.そのため,一回の治療で長期の止血効果が期待できる遺伝子治療の開発が進められている.血友病遺伝子治療では,機能的なF8またはF9 cDNAを搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを直接投与する方法が主流である.実際に,AAVベクターを用いた複数の臨床試験が施行され,年単位で血中の持続的な凝固因子の発現が報告されている.このように遺伝子治療は極めて有効な治療法であるが,抗AAV中和抗体保有患者への対応や大量投与時の肝障害の発生など解決すべき課題は残されている.また,治療から長期の効果や安全性についての知見を集積していくことも重要である.近い将来,血友病遺伝子治療薬が上市される見通しであるが,実臨床における遺伝子治療薬の効果や安全性に際しては慎重に議論を進めることが重要である.

シンポジウム5:小児がんの陽子線治療の保険診療収載から5年たって
  • 出水 祐介, 美馬 正幸, 福光 延吉, 鈴木 毅, 副島 俊典
    2022 年 59 巻 5 号 p. 363-365
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    陽子線治療の対象となる小児がんは,基本的にX線治療の対象となるもの全てであるが,陽子線治療の最も良い適応疾患の一つと考えられている.本邦では,2016年4月に「小児悪性腫瘍に対する陽子線治療」が保険適用となったが,これは粒子線治療にとって初のことであり,期待の表れと言える.

    神戸陽子線センターは,本邦初の小児に重点を置いた粒子線治療施設として,2017年12月に開設された.特長としては,①隣接する兵庫県立こども病院と渡り廊下で接続し,化学療法の同時併用が可能,②年少児の照射には不可欠な鎮静を担当する常勤の麻酔科医が在籍,③小児専用の治療室および待合室を備え,化学療法によって骨髄抑制状態の患児にも対応,などが挙げられる.小児がんに対する保険診療を本格的に開始した2018年度以降,症例数は全国1位をキープしている.

    小児がんにおける陽子線治療の課題について,神戸陽子線センターでの経験に基づいて述べる.患者受け入れに関しては,陽子線治療施設の全国的な連携システムを構築し,運用中である.小児においても吸収性スペーサー留置は有用であるが,安全性や認知度に関する課題がある.AYA世代では保険診療で陽子線治療を受けられない患者がいるが,兵庫県では減免を行っている.小児がんは転移があっても根治を目指せることが多いが,現在は保険上の制約がある.今後も,これらの課題について継続的に議論していきたい.

  • 相部 則博
    2022 年 59 巻 5 号 p. 366-369
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    京都府立医科大学では2019年4月より保険診療として小児がんに対する陽子線治療提供を開始した.本院の陽子線治療装置は株式会社日立製作所製の小型装置で,動体追跡照射が可能なスポットスキャニング専用装置である.治療装置のX線画像撮影装置によりcone beam CTを含めた画像誘導放射線治療が可能である.スポットスキャニング照射により,広範囲な病変にも高精細な治療を提供でき,全脳全脊髄照射を含めた様々な治療に対応できる.陽子線治療室は2室あり,1室は小児がん治療用に内装装飾を施すなど,患児がリラックスした環境で治療を受けられるよう配慮すると共に,小児科と連携した鎮静下治療が可能な環境を整えている.また,他施設からの受け入れ窓口として京都府立医科大学附属病院ホームページ上に「小児がん問い合わせ窓口」を設けて事前相談に対応し,入院治療が必要な場合も小児科と連携し柔軟に対応している.治療開始後から2021年9月末までの小児がん症例は34例であった(鎮静必要症例21例,全脳全脊髄照射症例5例,院外受け入れ症例7例).現時点では,ニーズに合わせた治療を安全に提供できていると考えているが,一度に対応可能な鎮静必要症例の受け入れ体制には限界があり,他の陽子線治療施設と連携した受け入れ体制の整備が必要であると感じている.当院における陽子線治療提供の現状と陽子線治療受け入れ施設としての課題について,私見を交えて報告する.

シンポジウム7:小児外科医・小児腫瘍医が知っておくべき種々の領域の固形腫瘍における治療・手術~最近の動向と今後の展望 II.脳・眼領域腫瘍
  • 岡田 恵子
    2022 年 59 巻 5 号 p. 370-375
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    治療には的確な診断が不可欠であるが,小児脳腫瘍診断はしばしば難渋する.小児脳腫瘍患者数は小児白血病患者に匹敵するが,細分類を含めると1疾患あたりの症例数は少なく,各施設の経験値が乏しくなることや,脳腫瘍の診断および治療に分子学的分類が必須となる中,各施設内で検証することが不可能であるためである.そこで小児がん中央病理診断を受けることが必須となる.そこでは複数の病理医で診断がなされ,髄芽腫や神経膠腫の分子診断なども行われる.また,2019年に保険収載されたがんゲノムプロファイリング検査は,脳腫瘍患者にとっても有意義な情報が得られる.ただし保険診療で行えるのは1回のみであるため,どの時点で検査するか留意する必要がある.付加的遺伝子異常による再発や悪性化を検出するには,再発時検体で検査することが推奨されるが,分子標的薬の効果が期待できる遺伝子異常を有することが推測できる症例(例:乳幼児神経膠腫のNTRK融合遺伝子等)などは初発時から検査することも検討すべきである.

    小児脳腫瘍患者の中に,がんの易罹患性症候群(Li-Fraumeni症候群等)が含まれていることは知られていたが,近年がんゲノム解析を行う過程で指摘される例が増えてきた.臨床遺伝専門医とも連携しながら,遺伝カウンセリングや家族内検索,その後の患児のがん検診計画などを綿密に調整する必要がある.

  • 國廣 誉世
    2022 年 59 巻 5 号 p. 376-380
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    小児脳腫瘍の手術は,安全で最大限の摘出が望まれるが,疾患に対する生命予後に関わる摘出度の役割を十分に理解して手術を行う必要がある.髄芽腫は,手術によって神経症状を悪化させる危険性が高い場合,無理な全摘出は控え,神経機能温存を優先した最大限の摘出を行う.術後腫瘍残存量1.5 cm2未満に対する全摘出の絶対的利点はないため,小さな残存腫瘍に対する摘出は行わない.上衣腫は,化学療法の効果が乏しく,全摘出が生命予後の改善に影響するため,長期的に改善されうる可能性や許容されうる範囲の神経症状の悪化は許容し,全摘出を優先する.Atypical teratoid/rhabdoid tumor (AT/RT) は,安全な最大限の摘出が望ましいが,低年齢で腫瘍が大きく出血量が多いため,全摘出が難しく,手術死亡率も高いため,安全な最大限の摘出を向上させるNeoadjuvant chemotherapyが有効な場合がある.小児低悪性度神経膠腫に対して,神経機能温存を優先した手術を行い,遺伝子診断に基づいた治療方針を長期的に検討していく.小児の脳腫瘍手術においても,神経ナビゲーション,トラクトグラフィー,functional MRI,術中神経モニタリングなど発展により,より安全でより最大限の摘出を可能にしている.

教育セッション1:肝腫瘍
  • 北河 徳彦
    2022 年 59 巻 5 号 p. 381-386
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    小児肝腫瘍の代表的なものは肝芽腫であるが,日常臨床ではそれ以外の腫瘍にも遭遇する.肝芽腫自体が国内で年間40–60例と少ないが,その他の腫瘍に遭遇することはさらにまれである.悪性では肝芽腫,肝細胞癌に加え,Hepatocellular neoplasm, NOSが最近年長児で話題になる.他に肝未分化胎児性肉腫,悪性ラブドイド腫瘍等がまれに遭遇する.良性ではFNH,間葉性過誤腫,血管腫等が挙げられる.

    肝腫瘍の中でも特に肝芽腫では,手術による切除が最重要であるとされてきた.近年は肝移植の普及により以前では手術不能とされた症例でも腫瘍の全摘出ができるようになった.しかし肝移植では免疫抑制剤の使用,健康なドナーへの侵襲などの問題から肝切除が第1選択であることは変わらない.PRETEXT IV症例,血管近接症例に対しても,工夫により切除が可能となることがある.また全摘出が重要なことは転移巣でも同様である.代表的な転移先である肺について,ICG蛍光法を使用すると微小な転移巣まで摘出可能である.

総説
  • 加藤 実穂, 瀧本 哲也, 松本 公一
    2022 年 59 巻 5 号 p. 387-394
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    医療の発展に伴い,本邦においても小児がんの長期生存率は欧米と同等の約80%と推定される.それにもかかわらず欧米のような小児がん経験者(以下,CCS)のための十分な長期フォローアップ支援体制が存在しているとはいえない.その原因として,長期フォローアップ関連のデータ収集項目が統一されておらず,それらのデータを管理する全国規模のインフラが存在しないため,系統的に収集されたデータセットがなく,その結果晩期合併症等の実態が明らかでないこと,また各診療施設におけるCCSのフォローアップの具体的な方法が統一されていないこと等が考えられる.

    小児がん長期フォローアップには,長期的合併症および成人医療へのトランジションや追跡不能例など多種多様な課題があり,その克服にはやはり全国規模の体制構築が必要である.そしてその体制においては,CCSについて証明すべき仮説から演繹して収集したデータを用いて,理論に基づいたフォローアップ診療や個別支援の提供を行い,最終的にCCSにメリットが還元されることに重点をおくべきと考える.

    これらの課題に取り組むために,現在がん対策推進総合研究事業の一環として,通称「長期フォローアップ松本班」による全国長期フォローアップ体制の構築計画が進行中である.本稿ではその活動の背景となる全体構想,データのインフラ整備,そして将来的な国際共同に関する展望等について述べる.

原著
  • 池田 勇八, 加藤 格, 田坂 佳資, 大封 智雄, 木川 崇, 赤澤 嶺, 磯部 清孝, 緒方 瑛人, 田中 邦昭, 三上 貴司, 長谷川 ...
    2022 年 59 巻 5 号 p. 395-399
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー
    電子付録

    小児がんの日常診療は患者のQOLに大きく関わるものの,施設毎に慣例的に行われていることが多い.今回,小児がんの日常診療についてアンケート調査を行い,各施設の現状を把握し,日常診療の施設間の違いについて比較検討を行った.アンケートは食事制限,行動制限,支持療法,医師の勤務実態についての大きく4つの分野に分けて行った.全国の小児がん診療に携わる96施設にアンケートを配布し,60施設より回答を得ることができた.食事制限や行動制限,支持療法に関しては十分なエビデンスやガイドラインがないこともあり施設毎に慣例的に経験則で実施されている内容も多く,施設間で大きく異なる結果を認める項目もあった.

    今回のアンケート結果を踏まえ,質の高い支持療法を共有し,食事制限,生活制限を見直す一助とし,今後の小児がん診療,小児がん患者のQOLの向上に役立てていきたい.

  • ―JCCG施設調査より 第3報―
    新小田 雄一, 加藤 陽子, 森 尚子, 大曽根 眞也, 嘉数 真理子, 佐野 弘純, 篠田 邦大, 矢野 道広, 石田 裕二, 斎藤 雄弥 ...
    2022 年 59 巻 5 号 p. 400-406
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    背景:本邦での小児がん患者に対する検査・処置等の鎮静・疼痛管理の現状は十分把握されていない.

    方法:日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)支持療法委員会にて,2015年10月から翌年3月にかけて,参加155施設を対象に,施設情報や検査・処置等の鎮静・疼痛管理に関してweb調査を施行した.

    結果:89施設(57%)より有効回答が得られた.チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)やホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)等が在籍している施設は27%(24/89施設)と少なかった.プレパレーションを基本的に行っている施設は36%(32/89施設)だった.鎮静・疼痛管理で使われる薬剤は,心エコーとCTでトリクロホス経口,MRIと放射線治療でチオペンタールやチアミラール静注,髄液検査や骨髄検査でミダゾラムとケタミン静注,中心静脈カテーテル(CVC)挿入では手術室で吸入麻酔薬との回答が多かった.CVC挿入を除く鎮静・疼痛管理は約9割で主治医が行っており概ね安全にできているが,3例(3/89施設:3%)の重篤な有害事象も報告された.

    考案:検査・処置に対して薬物による鎮静・疼痛管理が積極的に行われていたが,主治医に負担が強いられ,プレパレーションは不十分だった.よりよい鎮静・疼痛管理のため,小児がん診療に携わるCLSやHPSを含めたスタッフの充実や他診療科との連携が課題である.

  • 宮崎 文平, 工藤 真理恵, 安藤 久美子, 種山 雄一, 角田 治美, 落合 秀匡, 上原 明江, 大古田 靖子, 浮ヶ谷 芳子, 星野 ...
    2022 年 59 巻 5 号 p. 407-412
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    〈背景〉新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は小児がん患者において重症化する可能性がある.また院内クラスターが発生した場合,感染拡大や医療の崩壊につながるため,厳密な感染対策を要する.我々は小児がん病棟スタッフのCOVID-19発症を契機に厳密な感染対策を行ったため,その経験を報告する.

    〈結果〉2021年3月某日,看護師の1人がCOVID-19を発症した.直ちに病棟内の全ての入院患者18人とスタッフ39人のSARS-CoV-2 PCR検査を実施し,陰性を確認した.病棟入院患者と病棟スタッフを曝露リスクごとに分類し,患者をゾーニング,自室内隔離した.家族面会は禁止し,ビデオ通話によるweb面会を導入した.1人の患者は治療を延期したが,それ以外の患者は予定通りの治療を継続し,病状や心理面に大きな影響は見られなかった.患者家族には強い不安が見られた.病棟看護師は8人が高・中リスクのため就業制限となり,業務が増加したことで混乱し疲弊した.2次発症例はなく2週間後に全ての制限を解除した.

    〈結語〉感染対策によって通常の診療を継続でき,患者の病状や心理面には明らかな影響はなかった.一方で患者家族には強いストレスが見られ,スタッフは疲弊した.可能な限り面会を維持すること,対策内容を事前に決めて周知しておくこと,スタッフがCOVID-19患者や接触者にならないよう注意することが重要である.

  • 副島 尭史, 永吉 美智枝, 吉備 智史, 前田 美穂, 早川 晶
    2022 年 59 巻 5 号 p. 413-419
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は復学に際した学校側への情報提供の内容・対象とその理由を小児がん経験者の保護者の視点から明らかにすることである.2021年1~5月に小児がん経験者の保護者を対象とし,ウェブアンケートまたは質問紙を用いて復学時の情報提供の内容・対象とその理由に関する調査を行った.16名の小児がん経験者の保護者から有効回答が得られた.13名が母親であり,6名が急性リンパ性白血病の経験者の保護者であった.保護者は,疾患や治療,遅刻・早退・欠席について「病気をオープンにしてよいと考えた」ためや「本人に関わる全ての人からの理解・配慮を得たかった」ために,教員だけでなく同級生へも伝えていた.また学習の遅れについて「本人が同級生と同じようにできなかった」ためや「マンツーマンの指導が必要であった」ために教員以外の同級生や家庭教師等に伝えていた.授業や体育での困難や配慮の希望については「教員との良好な関係があった」ためや「復学前に復学に向けた話し合いができた」ために教員へ伝えていた.また学校生活上の困難や配慮について「それに伴う教員や同級生の戸惑いを解消する」ために同級生へ伝えていた.進路や進学の希望について「小児がん経験者の将来をイメージすることが難しい」場合,誰にも伝えていなかった.本研究の知見は情報提供の内容やその対象を決定するプロセスを医療関係者・教育関係者が支援する上での参考になると考えられる.

症例報告
  • 森 有弥香, 山下 基, 友政 弾, 友田 昂宏, 岡野 翼, 満生 紀子, 磯田 健志, 神谷 尚宏, 高木 正稔, 今井 耕輔, 金兼 ...
    2022 年 59 巻 5 号 p. 420-425
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    造血細胞移植において,生着不全は最も深刻な合併症のひとつであり,再移植が唯一の治療法である.近年,移植後大量シクロホスファミド(post-transplant cyclophosphamide, PTCy)法を用いたHLA半合致移植が,造血器腫瘍に対する造血細胞移植を中心に良好な成績を収めていることが報告されているが,先天性免疫異常症における経験は限られている.今回,NEMO異常症に対するHLA不一致非血縁者間骨髄移植後に二次性生着不全をきたした患児に対して,PTCy法を用いたHLA半合致移植を行い,良好な経過が得られたので報告する.患児は乳児期に慢性下痢と重症ニューモシスチス肺炎をきたし上記と診断した.1歳時にフルダラビンとブスルファンによる強度減弱前処置ののちHLA一座不一致非血縁者間骨髄移植を施行され,移植後17日目に生着した.移植10か月後に二次性生着不全をきたし,血縁者間HLA半合致移植を行った.前処置はフルダラビン150 mg/m2,メルファラン70 mg/m2,抗胸腺免疫グロブリン(ATG)2.5 mg/kg,全身放射線放射2 Gyを用い,GVHD予防としてPTCy法,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルを使用した.移植後12日目に生着し,GVHDなく経過した.先天性免疫異常症におけるPTCy法を用いたHLA半合致移植の安全性と有効性について考察する.

  • 井上 恭兵, 森 麻希子, 秋山 康介, 荒川 ゆうき, 望月 弘, 康 勝好
    2022 年 59 巻 5 号 p. 426-429
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    急性リンパ性白血病における中枢神経単独の第2再発症例の予後は不良とされており,生存率は2割程度である.これらの患者に対し,造血細胞移植が行われるが,自家移植か同種移植がよいか,移植後に髄注は行うべきかなど不明な点が多い.

    症例は初発時6歳女児.本症例では,B前駆細胞性急性リンパ性白血病の中枢神経単独再発時に頭蓋と脊髄の照射(それぞれ18 Gy,15 Gy),髄注,全身の化学療法が行われた.しかし,維持療法中の第1再発から1年6か月後に中枢神経単独第2再発を認めた.寛解に達した後に全身放射線照射12 Gyを含む前処置で臍帯血移植を行い,さらに12回のcytarabine髄注を18か月間かけて行い,治療終了後6年の間,寛解を維持している.

    18 Gy照射後の中枢神経単独第2再発の症例でも同種移植と移植後の髄注を行うことで治癒の可能性を高めることができると考えられる.

  • 宮下 晶, 大嶋 宏一, 森 麻希子, 本田 護, 入倉 朋也, 渡壁 麻依, 三谷 友一, 福岡 講平, 荒川 ゆうき, 細川 崇洋, 小 ...
    2022 年 59 巻 5 号 p. 430-434
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    近年,Ewing肉腫(EWS)を含む難治性悪性腫瘍に対する低分子チロシンキナーゼ阻害剤の有効性が報告されている.症例は右胸郭の限局性EWSと診断した9歳男児.標準的化学療法を行ったが,治療反応性に乏しく,手術不能であった.以後,自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法,放射線照射,さらに複数の化学療法を実施したがいずれも治療反応性不良であった.その後,パゾパニブ内服を開始したところ,腫瘍が縮小し,6か月間,安定した状態を維持した.しかし,腫瘍が再増大し,呼吸状態が悪化したため,カボザンチニブ内服を開始したところ,呼吸状態が改善した.これらの経口マルチキナーゼ阻害剤は,小児難治性EWSに対して腫瘍抑制効果を発揮することにより,患児の入院管理を不要とし,9か月間の在宅療養を可能とした.

  • 田村 ベリース結実, 白石 泰尚, 千々松 郁枝, 壷井 史奈, 大野 令央義, 三木 瑞香, 藤田 直人
    2022 年 59 巻 5 号 p. 435-439
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    非血縁者間末梢血幹細胞移植後,特徴的な画像所見から診断し治療介入したEBウイルス(Epstein-Barr virus: EBV)脳幹脳炎を経験したため報告する.症例はFLT3-ITD変異陽性の急性骨髄性白血病の13歳男児.抗胸腺グロブリン(Anti-thymocyte globulin: ATG)を含む前処置でHLA-DR座1抗原ミスマッチ非血縁者間末梢血幹細胞移植後day 104に意識変容が出現した.頭部MRIで,両側対称性に視床,視床下部,内包,海馬傍回,中脳から延髄を主体にFLAIR,T2で高信号を認め,末梢血リンパ球のCD20陽性細胞増加所見と併せてEBV脳幹脳炎と診断した.Rituximabによる治療が奏功し神経学的後遺症なく回復した.後日,血液,髄液検体でのEBV-DNA陽性が判明した.移植ソースの多様化によりATGの使用が増え,同様な症例に注意が必要である.

  • 谷河 璃香, 石原 卓, 山崎 次郎, 野上 恵嗣, 北原 糺
    2022 年 59 巻 5 号 p. 440-442
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

    【緒言】高校生のがん患者が長期入院した場合,留年や退学するケースも散見される.そこで奈良県立医科大学(以下,本学)の学生サークル「社会医学研究会(以下,社医研)」では,長期入院中の高校生に対する学習支援のボランティア活動を行ってきた.

    【方法・結果】2014年5月から2021年3月までの間に本学附属病院に入院し,学習支援を受けた計4名の高校生(血液腫瘍2名,固形腫瘍2名)の復学への影響について後方視的に検討した.出席に関わる単位不足での留年が2名いたが退学者はいなかった.

    【結論】医学生が高校生へ学習支援を行うことが一定の復学支援につながることが示唆された.一方で,出席点などの単位取得といった課題には学生ボランティアでの限界もあることが垣間見えた.

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