四国公衆衛生学会雑誌
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最新号
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総説
  • 青井 悦子, 田中 景子, 西 甲介, 三宅 吉博
    2025 年 70 巻 1 号 p. e1-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】身体活動は、安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての活動をいい、生活活動と運動に分類される。本研究では余暇の運動と認知症及び軽度認知障害との関連を調べた疫学研究成果を網羅的に収集した。

    【方法】文献データベース(PubMed)を使用した。検索用語として、(“physical activity” OR exercise OR sports) AND (“mild cognitive impairment” OR dementia OR Alzheimer) AND (“cross sectional” OR cross-sectional OR “case control” OR case-control OR cohort) AND (leisure-time OR “leisure time”)を用いた。タイトル、要約、本文をレビューし、曝露が余暇の運動であり、認知症、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症または軽度認知障害をアウトカムとし、オッズ比またはハザード比が示されている観察的疫学研究である英語原著論文を選択し、エビデンステーブルに集約した。

    【結果】最終的に 16 編の論文を同定した。余暇の運動と認知症との関連を調べた研究 9 編のうち 7 編、アルツハイマー型認知症との関連を調べた研究 5 編のうち 3 編、脳血管性認知症との関連を調べた 2 編のうち 1 編で予防的な関連を認めた。余暇の運動と軽度認知障害との関連を調べた研究 4 編では関連を認めなかった。いずれのアウトカムにおいても正の関連を認めた研究はなかった。

    【結論】余暇の運動は認知症(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症)のリスク低下と関連することが複数の論文で認められた。しかしながら、エビデンスは十分ではない。日本を含むアジア圏内を含めた全世界で、さらなるエビデンスの蓄積が必須である。

  • 川上 大志, 川上 美由紀, 丸山 広達, 田中 景子, 三宅 吉博, 山口 修
    2025 年 70 巻 1 号 p. e2-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【背景】カフェインの過剰摂取は心臓の期外収縮の増加に関連することが知られているが、心房細動発症におけるカフェイン摂取との関連性は十分な検討がなされていない。

    【目的】システマティックレビューの手法を用いて、カフェイン及びカフェイン含有食品・飲料の種類や摂取量と心房細動発症の関連を検討すること。

    【方法】複数の文献データベース(PubMed, Scopus, Web of Science)を用いてカフェイン摂取と心房細動に関する観察的疫学研究を網羅的に検索した。論文の選択には次の基準を設けた①原著論文であること、②疫学研究であること、③英語論文であること。全ての論文をタイトルと抄録からスクリーニングし、その後、適正論文を選択し質的統合に組み入れた。

    【結果】 16 論文を選定した。その内訳はカフェイン摂取と心房細動の関連を調べた論文が 4 編、コーヒーと心房細動の関連を調べた研究が 9 編、チョコレートと心房細動の関連を調べた研究が 3 編であった。全て欧米で実施されたコホート研究であった。カフェイン摂取と心房細動の関連を調べた 4 編のうち、 3 編で関連性なし、 1 編で負の関連を認めた。コーヒーと心房細動の関連を調べた 9 編のうち、 2 編で関連性なし、 6 編で負の関連、 1 編で正の関連を認めるという結果であった。チョコレートと心房細動の関連を調べた 3 編のうち、 2 編で関連性なし、 1 編で負の関連を認めるという結果であった。

    【結論】コーヒーに代表されるカフェイン含有食品・飲料の摂取は心房細動発症に予防的かもしれないが、さらなるエビデンスの蓄積が不可欠である。特に、本邦ではカフェイン摂取源が欧米と異なり、本邦からのエビデンスは必須である。

原著
  • 坂本 治美, 長濱 太造, 吉岡 昌美, 中江 弘美, 十川 悠香, 篠原 千尋, 武市 真那実, 福井 誠, 日野出 大輔
    2025 年 70 巻 1 号 p. e3-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】3歳児のカリエスフリーを実現するためには、1歳6か月児歯科健康診査時にリスクに応じた効果的な歯科保健指導を行う必要がある。本研究は、アンケート調査と歯科健康診査の結果を統計学的に分析することで、1歳6か月から3歳のう蝕発症に影響を及ぼす危険因子の影響度を明らかにすることを目的とした。

    【方法】本研究の対象者は、1歳6か月児歯科健康診査および3歳児歯科健康診査を受けた 560 名の小児とその母親である。

    【結果】χ2検定の結果、1歳6か月から3歳までの期間におけるう蝕発症に有意に関連する項目として、「妊婦歯科健診:非受診」、「子どもの間食頻度:1日3回以上」、「子どもの口腔清掃状態:少ない・多い」、「母親の喫煙習慣:あり」、「母親の歯周病の知識:なし」の5項目が明らかになった。構造方程式モデリングによる解析の結果、これら5項目のうち「母親の喫煙習慣:あり」以外の4項目が3歳のう蝕発症と関連することがわかった。また、4項目のうち「子どもの間食頻度:1日3回以上」は他に比べてやや強い影響を与えることが確認できた。

    【結論】これらの結果から、1歳6か月児歯科健診査時に、その後のう蝕発症への影響度を考慮した保健指導を行うことが効果的である可能性が示唆された。

  • 柴 珠実, 西嶋 真理子, 藤村 一美, 仲野 由香利, 増田 裕美
    2025 年 70 巻 1 号 p. e4-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】発達障害児の親を対象とした前向き子育てプログラムの 1 つであるステッッピングストーンズトリプル P(Positive Parenting Program,以下 SSTP)を、オンライン会議ソフトウェアの Zoom Video Communications(以下、Zoom)を通じて実施し、その有効性を検討することを目的とした。

    【方法】インターネットを通じて参加者を募集し、児に発達障害やその疑いがあると回答した 9 人の親を対象とした。実施前後の親の育児行動(Parenting Scale,以下 PS)、児の行動の難しさ(Strengths and Difficulties Questionnaire, 以下 SDQ)、親の抑うつ・不安・ストレス(Depression, Anxiety, and Stress Scale, 以下 DASS)、親としての感情(Parenting Experience Survey, 以下 PES)の比較・分析を行った。

    【結果】介入前は PS のすべての下位尺度、 SDQ の感情以外の下位尺度、 DASS のすべての下位尺度が臨床範囲または境界範囲にあった。介入後は PS の過剰反応、 SDQ の行為問題、 DASS の抑うつ、ストレス、不安において有意な改善が観察された。 PES では子育ての困難度、子育てのストレス度、子育ての自信度、パートナーとの協力度、パートナーとの幸福度が有意に改善した。

    【結論】発達障害児の親を対象に Zoom で実施した SSTP は、親の育児行動、子どもの行動に有意な改善効果を示し、対面での介入による先行研究と比較してほぼ同レベルの効果があることが示唆された。

  • 細川 江梨子, 田中 景子, 西 甲介, 三宅 吉博
    2025 年 70 巻 1 号 p. e5-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】高血圧は循環器疾患、脳血管疾患等様々な疾患のリスク要因であるが、本邦では高血圧未治療者が多い。本横断研究では、健診機関が有する健診データを用いて、高血圧未治療と関連する要因を調べた。

    【方法】2023 年度、公益財団法人愛媛県総合保健協会を利用した 40 歳以上 50,619 名を対象とした。対象者全体で高血圧の有症率を評価した。次いで、高血圧の無い者は解析から除外し、高血圧の有る者において、高血圧未治療と関連する要因を調べた。性別、年齢、習慣的な喫煙、習慣的な運動、糖尿病、脂質異常症、脳血管疾患既往、心血管疾患既往、慢性腎炎既往、 Body mass index (BMI)、受診区分を相互に補正し、多重ロジスティック回帰分析を用いて高血圧未治療に対する補正オッズ比を算出した。

    【結果】50,619 名の内、高血圧の有症率は 38.6%(19,548 名)であった。高血圧者 19,548 名の内、高血圧未治療の割合は 41.0%(8,009 名)であった。高血圧未治療と有意な負の関連を認めたのは、男性、 50 歳以上の年齢、糖尿病、脂質異常症、脳血管疾患既往、心血管疾患既往、慢性腎炎既往、 25 kg/ m2以上の BMI であった。一方、高血圧未治療と有意な正の関連を認めたのは、習慣的な喫煙、習慣的な運動、 23 kg/m2未満の BMI であった。

    【結論】BMI23 kg/m2未満と高血圧未治療との正の関連には注目すべきであり、本邦の特定健診では BMI25 kg/m2未満は盲点となっていることから、健診対策のパラダイムシフトが必要であるのかもしれない。

資料
  • 吉岡 昌美, 坂本 治美, 福井 誠, 日野出 大輔
    2025 年 70 巻 1 号 p. e6-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    現在、 1 歳 6 か月児のほどんどはう蝕ゼロの状態であり、近年では 3 歳でのう蝕ゼロを達成することが母子歯科保健の重要課題となっている。そのため、 1 歳 6 か月児歯科健康診査でう蝕リスクを把握し適切な保健指導を行うことが求められている。本研究では徳島県内 24 市町村において 1 歳 6 か月児歯科健康診査を担当している歯科医師、歯科衛生士を対象にう蝕リスクの判定と保健指導の現状について調査し、今後より効果的なリスク判定と保健指導を行う上での基礎資料を得ることを目的とした。調査の結果、およそ 1/3 の市町村が徳島県母子保健マニュアルに記載されている判定基準を用いているが、多くの市町村で異なる基準を設定していることがわかった。さらに、判定基準の見直しに対して、 8 割以上の市町村が「県内で判定基準を標準化すべき」という考えに同意した。保健指導に関しては、う蝕リスクが高い O2型と判定された児の保護者には内容や時間を加味して保健指導を実施している市町村が多かった。今後、 1 歳 6 か月児歯科健康診査におけるう蝕リスクの判定基準の見直しを行う際には県内の他の市町村の現状を踏まえると同時に、県内で判定基準を標準化することについても検討する必要があるのではないかと考えた。

  • 武市 真那実, 福島 みどり, 藤田 晶帆, 福井 誠, 日野出 大輔
    2025 年 70 巻 1 号 p. e7-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】妊娠期からの口腔保健の推進が重視されているが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、健康診査の受診控えなどの背景がある。本研究では、妊婦歯科健康診査の受診勧奨に繋がる媒体の作成と活用から、徳島大学病院通院妊婦への口腔健康管理の推進を目指すことを目的とした。

    【方法】文献検索などから、妊産婦に必要な口腔健康管理を実践するための知識に関する要点をまとめた。また、妊婦歯科健康診査の受診勧奨に繋がる媒体を作成し、徳島大学病院通院妊婦全員への配付を開始した。

    【結果】配付後の妊婦歯科健康診査受診状況について調べた結果、受診者の増加傾向が認められた。

    【結論】今回、妊産婦期の口腔健康管理推進に有用な媒体の作成ができたと考える。

  • 髙橋 香織, 西嶋 真理子, 大野 美賀子
    2025 年 70 巻 1 号 p. e8-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】幼児を育てる母親の生活習慣と社会的健康度との関連を明らかにすることにより,子育てに関わる専門職の保護者支援の手がかりを検討する .

    【方法】 11 都道府県の認可保育園 2 歳児クラスの子どもの母親 539 名を対象とし,無記名の自記式質問紙調査を実施した.内容は,年齢などの属性,運動,食事,睡眠などの生活習慣,及び社会的健康度に関するものである.社会的健康度と属性及び生活習慣の関連については,t 検定または一元配置分散分析を行い,有意差が見られたものについて重回帰分析を行った.

    【結果】有効回答率は 34.5%であった.社会的健康度の下位尺度において,「家族以外との交流・社交性」は,年齢が若い,喫煙習慣あり,朝食時刻の規則性ありの群が高かった.「子育てに伴う制約感(逆)」は,朝食時刻の規則性あり,子ども 2 人以下,喫煙習慣ありの群が高かった.「地域・社会との関わり」は,運動習慣あり群が高かった.「社会生活における自己効力感」は,朝食時刻の規則性あり,睡眠問題なし,子育てサポートがある群が高かった.

    【考察】運動習慣があると友人や同じ地域に住む者と一緒にスポーツを楽しむなど,物理的に他者との繋がりを持つ機会が多いことが推測され,地域・社会との関わりを深める機会となることが考えられる.食事のタイミングはヒトの概日リズムを調整するといった報告もあり,朝食を規則的な時刻に摂ることで体内リズムが整いやすいことが考えられるが,社会的健康度とも関連していることが明らかになった.母親が自分自身の生活の在り様に目を向け,自分の生活習慣を整えるきっかけを提供することも子育て支援に携わる専門職の役割の一つとして考えられる.

  • 小笠原 裕子, 野村 美千江, 入野 了士, 田中 美延里
    2025 年 70 巻 1 号 p. e9-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/21
    ジャーナル フリー

    【目的】県庁政策部門の保健師が日常業務の中でどのように事業化・施策化を行っているか、また事業化・施策化に影響することは何かを明らかにする。

    【方法】 A 県県庁政策部門経験のある保健師 5 名に半構造化面接を行い、質的記述的に分析した。

    【結果】事業・施策化の過程において、地域や関係する組織に対するアセスメントを実施していた。 PDCA サイクルにおける実施の段階では【現場に足を運び,関係性を作りながら,みて,つないで改善策を提案する】【せめぎ合う関係者に対し、権限や役割分担の理解を求める】などが抽出された。影響では、【県庁の組織文化】【専門職としての信念・姿勢】【県庁経験の中で成長する私】などが抽出された。

    【考察】事業化・施策化の過程において、地域の健康課題の解決に向けたアセスメントを行っていることが明らかになった。その対象は個人・家族ではなく、広域的な組織や自治体、関係団体などであり、システムレベルのアセスメントを行っていると考える。また、事業化・施策化の中で、せめぎあう関係者の存在、現場との関係性を重視していることが明らかになった。さらに、事務職と協働して施策化を経験することで、公務員としての能力だけでなく、専門職として成長を実感しており、県庁政策部門の経験は保健師としての専門性を高めることができると考える。

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