近年,Lateral Interbody Fusion(LIF)手技の発展により,脊椎手術の手術時間と出血量の軽減が実現されている.しかし,その合併症の1つとして分節動脈損傷がある.
今まで椎体側面の分節動脈の走行は研究され,注意喚起がなされてきたが,椎体前方でも,前方レトラクターの設置やAnterior Column Realignment(ACR)手技の際には重要であり,L1/2では89.1%,L2/3では81.0%,L3/4では34.5%と高頻度に分節動脈が椎間板と交差しておりこれらの手技の際には注意が必要である.
第4/5腰椎間に行ったLLIF例(L群)とPLIF例(P群)で検討を行った.L群の方が,P群と比べて術後椎体前縁椎間板高や術後前弯角,獲得椎間板高,獲得前弯角が有意に大きかった.しかしながら,術後1年での前弯角の損失はL群の方が有意に大きかった.骨癒合は術後1年ではP群の方が有意に良好であった.LLIFの方がPLIFよりも脊椎矢状面アライメントの矯正はしやすいが,矯正損失や骨癒合には注意を要する.
骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)の臨床的特徴と周術期合併症について発生高位別で比較検討した.胸腰椎移行部では椎体後壁損傷,中下位腰椎では脊椎変性病変を多く認め,ともに半数以上で神経障害を合併していた.中下位腰椎の手術は椎体間固定や除圧操作が多く,矯正角度と矯正損失が大きい傾向であった.周術期合併症として胸腰椎移行部は創傷治癒遅延,中下位腰椎はインプラント脱転が多かった.
当院では腰椎椎間孔外ヘルニアに対して,QUADRANT開創器を用いた傍正中アプローチでヘルニア摘出術を施行している.本術式で椎間孔外ヘルニア摘出術を施行した23例の術後経過はExcellentが12例,goodが6例,fairが2例,poorが3例であった.poorの3例では固定術による再手術を施行した.腰椎椎間孔外ヘルニアに対する固定術を併用しない本術式は侵襲も少なく良好な成績であった.
結核性脊椎炎は広範囲に炎症が波及していることが多く,病巣の掻爬後に骨欠損が大きくなるため移植骨獲得に難渋する場合がある.我々はL1とL2椎体が高度に破壊された結核性脊椎炎に対して,前方から罹患椎体の掻爬後に血管柄付き肋骨移植を行った1例を経験した.術後の経過は良好である.多椎間にわたる胸腰椎前方病巣掻爬後の骨欠損に対し,血管柄付き肋骨移植術は有用である.
症例は66歳男性.腰痛,発熱で受診.膀胱癌に対するBCG注入療法後に結核性脊椎炎に罹患した.抗結核薬内服を開始したが病変部が拡大傾向であり,病巣掻把と腸骨移植及び後方固定を行った.しかし,術後も治療が奏功せず,計3回の手術を行った.3回目の手術では腹部正中アプローチによる左右両側の病巣搔爬,腓骨移植及び有茎大網移植を行った.画像上の改善が見られず,治療効果の判断に難渋したが,約2年の治療の後に治癒した.
非結核性抗酸菌による脊椎炎は稀な疾患で,緩徐に進行する骨破壊と膿瘍形成を特徴とし,治療に長期間を有すると報告されている.近年,広範囲に膿瘍を伴った非結核性抗酸菌による脊椎炎を2例経験した.これら2例に対して,後方制動術と前方病巣郭清および骨移植を二期的に施行した.術後,腰痛および炎症所見は改善し,膿瘍は継時的に縮小した.文献的考察を加えて報告する.
胸椎硬膜外血腫を契機に血友病と診断された極めてまれな3ヶ月乳児の1症例を経験した.両親が両下肢の筋力低下に気づき,MRIによって胸椎硬膜外腫瘤を認めた.血腫が疑われたが,症状改善が認められず手術となり,第8胸椎から第2腰椎までの片開き式椎弓形成術を行った.腫瘤は術前診断のとおり血腫であり,術後ただちに下肢麻痺は改善し成長に支障なく11ヶ月時には一人歩きを獲得した.術後,血友病A重症型と診断された.
42歳女性,右下肢痛を主訴に近医整形外科受診.腰椎MRIにてS1右に硬膜外病変を認め,当科紹介となり透視下生検にて髄膜腫疑いとなった.経過観察中に症状の増悪を認め,確定診断と除痛目的に腫瘍摘出術を行い,右S1神経根の除圧および病理検体の提出を行った.病理診断にて良性転移性平滑筋腫(BML)と診断された稀な1例を経験したので報告する.
症例は10歳男児.誘因のない頚部痛を主訴に受診し,画像検査で環軸椎回旋位固定を認めた.カラー装着やグリソン牽引,全身麻酔下での整復後ハローベスト固定など約14ヶ月にわたる保存加療を行うも,回旋位固定が改善されず頚部痛も再発したため手術治療となった.O-C1関節病変を伴う環軸椎回旋位固定(OAARF)は環軸椎回旋位固定(AARF)と比べ保存治療の効果が悪い可能性があり,発症早期に評価し,手術治療の是非について検討を行う必要がある.
脳性麻痺後遺症による右下肢不全麻痺のある35歳女性.四肢の脱力を主訴に受診した.3年前に頚椎症性脊髄症の手術歴があった.受診2週間前から両上下肢の不全麻痺が出現した.頚椎MRIでは術後の椎弓落ち込みによる頚髄の圧迫所見と広範な脊髄浮腫像を認めた.血液検査では抗AQP4抗体が陽性であり,視神経炎所見は認めないことから視神経脊髄炎関連疾患と診断した.治療開始5ヶ月時点で歩行器を用いて歩行可能となった.
症例は27歳女性.側弯症に対し17歳で前医にて後方矯正固定術施行.インプラントトラブルを繰り返し2度の追加手術を行ったものの,強い腰背部痛と矢状面配列異常が残存していた.転居を機に27歳で当科初診.二期的前後合併骨切り矯正固定術を行い,腰背部痛は改善した.
不適切な脊柱変形手術によるアライメント異常は,患者にとって長期に多大なる苦痛を生じうる.正常な脊柱アライメントの獲得を目指した術前計画を立てる事が重要である.
CBT法による単椎間のTLIF術後1年で固定椎間の再狭窄による膀胱直腸障害を来し,再手術に至った稀な一例を報告する.再手術時所見では筋層下から硬膜外腔に形成された靭帯様組織が硬膜と癒着し,馬尾神経圧迫の原因となっていた.病理所見は壊死組織を伴う増生した靭帯様組織であった.遷延癒合に伴う不安定性,インプラント周囲での傍脊柱筋への機械的刺激等が靭帯様組織の増生に関与した可能性が考えられた.
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