Journal of Spine Research
Online ISSN : 2435-1563
Print ISSN : 1884-7137
13 巻, 6 号
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Editorial
総説
  • 大山 翔一朗, 高橋 真治, 星野 雅俊, 堀 悠介, 藪 晋人, 辻尾 唯雄, 竹内 雄一, 寺井 秀富, 中村 博亮
    2022 年 13 巻 6 号 p. 809-817
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    我々は2016年8月より都市圏在住65歳以上の高齢者409名を対象に,腰痛を含めた身体症状や,身体機能評価,画像検査からなる観察研究(Shiraniwa Study)を行っている.

    その横断解析の結果より,高齢者腰痛の独立した関連因子は脊柱インバランス(SVA>95),肥満(BMI≧25.0),既存椎体骨折,不安の強さであり,腰痛対策としてこれらに介入することが有効と考えた.

    縦断的に脊柱インバランス進行を生じた高齢者の特徴を解析したところ,ロコモ度2は独立した脊柱インバランス進行の予測因子であった.また,経時的にロコモ度が改善した高齢者は体重減少を認めていたことから,減量はロコモ度改善を介して脊柱インバランス進行の抑制に寄与する可能性があると考えられた.

    減量は高齢者腰痛の関連因子である,肥満,脊柱インバランスの両者に影響することから,有効な高齢者腰痛対策となり得ると注目している.

  • 宮本 健史
    2022 年 13 巻 6 号 p. 818-822
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    超高齢社会を迎えた我が国では,骨粗鬆症患者数も増加の一途を辿っている.骨粗鬆症は骨折などがなければ,一般に少なくとも強い疼痛の原因とはならないと考えられている.しかし,腰背部痛はもっとも多い愁訴の1つであり,骨粗鬆症を背景として疼痛が発生している可能性もある.本稿では日本腰痛学会2021におけるシンポジウム「超高齢社会における腰痛診療」において報告した腰痛と超高齢社会における骨粗鬆症治療について考察したい.

  • 加藤 仁志
    2022 年 13 巻 6 号 p. 823-828
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    超高齢社会を迎えたわが国において,中高齢者の慢性腰痛やロコモに対する有効かつ継続可能な運動療法は,患者のQOL向上や健康寿命延伸に向けて非常に重要な施策である.我々は,慢性腰痛やロコモを有する患者(特に高齢者)に適した体幹運動器具RECORE(リコア)を開発した.この運動器具を用いて,腹筋群や横隔膜,骨盤底筋を含めた腹部体幹筋の筋力測定と強化が腰部に負担をかけることなく実施できる.これらの筋群は,腹腔を取り囲むMuscular Boxを形成し,協調的に働いて腹圧の調節や安定化に寄与して体幹を支持する機能を有する.我々の研究により,腹部体幹筋力の低下が慢性腰痛や運動機能低下,骨粗鬆症性椎体骨折の既往や発症リスクに関連することが示され,RECOREを用いることで腹部体幹筋力の強化が可能であり,この筋力強化が慢性腰痛やロコモの改善に有用であることが示されている.

  • 北原 雅樹
    2022 年 13 巻 6 号 p. 829-837
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    慢性痛の治療目標は患者のADL/QOLの向上であり,鎮痛は副次的な目的になる.また,急性痛には著効する薬物療法は慢性痛にはあまり効果がない.慢性痛では,運動療法や心理社会的介入が治療の中心となり,薬物療法は補助的方法に位置づけられる.健康な非高齢者と比べて,高齢者の慢性痛を治療する場合には,身体諸機能の低下(腎機能障害,肝機能障害,消化管機能障害,脳機能低下など),様々な合併疾患とその治療薬,社会的因子の問題(経済的問題,独居,老々介護など)について考慮する必要がある.

    治療を行う際には,器質的疾患を見逃さないようにしながら,慢性痛の診断名にこだわらず,適切な(現実的な)治療目標を設定することが重要である.特に薬物療法として重要なのは,薬剤の整理である.ほとんどの高齢者は,複数の医療機関から数多くの薬剤を処方されており,他の医療機関から処方された薬の副作用を別の医療機関で治療している場合さえある.薬物の整理だけで状態が改善する患者も多い.その上で,副作用の少ない薬物を少量から漸増していく.その際にも,薬物療法はあくまでも補助的であることを忘れないことが重要である.

二次出版
  • 立之 芳裕, 川戸 美由紀, 森田 充浩, 山田 治基, 金治 有彦, 中村 雅也, 松本 守雄, 橋本 修二, 藤田 順之
    2022 年 13 巻 6 号 p. 838-843
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,本邦の医療統計データを利用して,腰痛や関節症を含む運動器疾患の平均寿命及び健康寿命に及ぼす影響を算出することである.

    方法:2016年の簡易生命票,人口動態統計,国民生活基礎調査,介護サービス施設・事業所調査と,2014年および2017年患者調査のデータを利用した.これらのデータから各疾患を除外した際の平均寿命および健康寿命を算出した.運動器疾患としては関節リウマチ,関節症,腰痛,骨粗鬆症,骨折が選択され,運動器疾患以外では,悪性新生物,虚血性心疾患,脳血管障害が選択された.

    結果:すべての運動器疾患において,除外しても平均寿命にはほとんど影響を与えなかったが,健康寿命は増加した.各疾患の不健康期間への影響を算出すると,悪性新生物を除外した場合,不健康期間が1年以上延びるのに対して,運動器疾患を除外した場合,全ての疾患で不健康期間を減少させ,特に腰痛と関節症を除外すると不健康期間が0.3~1.5年短縮した.

    考察:本研究結果から,運動器疾患は平均寿命には影響しないが,健康寿命に影響しており,特に腰痛と関節症が,健康寿命に大きく影響していることが判明した.

総説
  • 藪 晋人, 高橋 真治, 寺井 秀富, 星野 雅俊, 中村 博亮
    2022 年 13 巻 6 号 p. 844-850
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    高齢化社会の進行に伴い,骨粗鬆症患者数も増加の一途をたどっている.骨粗鬆症性椎体骨折は高齢者のADLやQOLを低下させるため,早期に適切な治療介入を行う必要があり,精度の高い診断が重要となる.近年,人工知能による物体認識は畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional neural network:CNN)の開発により著しく改善を認め,画像診断サポートツールに応用されている.過去に我々はCNNを用いてMR画像で新鮮椎体骨折を検出するシステムを構築した.本稿ではその研究成果を述べるとともに骨粗鬆症性椎体骨折に関する診断や画像診断サポートツールとしての人工知能の有用性についてレビューした.

テクニカルノート
  • 皆川 洋至
    2022 年 13 巻 6 号 p. 851-859
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:痛みは神経活動であり,腰殿部痛には末梢神経が深く関与する.超音波ガイド下注射では,末梢神経に対する正確な薬液注入が可能であり,ブラインド注射に比べ除痛効果からの病態解釈がより正確である.超音波ガイド下注射の基本,腰殿部痛に対する末梢神経を標的とした超音波ガイド下注射の実際について解説する.

    技術報告:超音波ガイド下注射では,ポジショニング,適切なプローブ選択とプローブ走査,適切な針選択と針刺入法,使用場所に合わせた薬剤選択,正確な薬液注入,注射前後の評価が重要である.神経外膜へ生理食塩水を注入する超音波ガイド下ハイドロリリースは,薬剤による副作用の心配がない.超音波ガイド下注射の主な標的神経は,脊髄神経後枝・脊髄神経硬膜枝・上殿皮神経・中殿皮神経・後大腿皮神経・上殿神経である.痛がる部位,圧痛部位から注射の標的神経を決定する.

    結論:末梢神経を無視した病態解釈は,不適切な保存治療を容認し,期待に反した手術結果を生み出す元凶になる.痛みの病態を末梢神経で考える頭の切り替えが必要である.

原著
  • 神田 賢, 北村 拓也, 古西 勇, 鈴木 祐介, 渡辺 慶, 佐藤 成登志
    2022 年 13 巻 6 号 p. 860-867
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    立位時における,体幹屈曲および伸展動作時の腰部多裂筋の血液循環動態の経時的変化を,腰痛の有無で比較検証を行った.成人男性腰痛有群10名(平均年齢21.0±0.8),腰痛無群10名(平均年齢21.1±0.7)に対し,近赤外線組織血液酸素モニター装置(NIRS)を用い,腰部多裂筋の血液循環動態の測定を行った.対象者に,直立位から屈曲位もしくは伸展位に動作を行わせ,その際の腰部多裂筋のOxy-Hb,Deoxy-HbおよびTotal-Hbの変化を,それぞれ直立位,姿勢直後,30秒後で測定し,比較検証を行った.結果,屈曲位においては,腰痛の有無において,Oxy-Hb,Deoxy-Hb,Total-Hb全てにおいて,有意な交互作用および腰痛有無の主効果を認めなかった.しかしながら,姿勢の変化による経時的変化においては,有意な減少を認めた.伸展位においては,腰痛の有無において,Oxy-Hb,Deoxy-Hb,Total-Hb全てにおいて,有意な交互作用および腰痛有無の主効果を認めなかった.しかしながら,姿勢の変化による経時的変化においては,有意な増加を認めた.以上のことから,屈曲時は腰痛の有無にかかわらず血流循環動態が減少し,伸展時は,腰痛の有無にかかわらず,血流循環動態が改善することが示唆された.

  • 志田 菜都美, 安宅 洋美, 望月 江梨子, 野邊 和泉, 丹野 隆明
    2022 年 13 巻 6 号 p. 868-874
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:腰部脊柱管狭窄症(LSS)の術後成績や患者満足度には心理的因子が関連し,術前から心理的アプローチが必要であることが報告されている.本研究では,過去の手術患者データをもとに作成した当院独自のリーフレットを用いて,理学療法士による個別の術前心理的介入を試み,その術前後患者立脚型アウトカムを調査した.

    対象と方法:対象は,当院でLSSに対して手術を施行した93名とした.術前Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)により抑うつ不安あり群/なし群に群分けし,術前後のJOABPEQおよび術後3ヶ月時の手術満足度と不安解消度を比較検討した.

    結果:抑うつ不安あり群では術前JOABPEQスコアは疼痛関連障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害において有意に低値であった.術後3ヶ月では疼痛関連障害,歩行機能障害,社会生活障害において両群間に有意差なく同等の機能レベルまで改善したが,腰椎機能障害,心理的障害では,あり群は有意に低値であった.

    結語:当院独自のリーフレットを用いた予後経過説明と術後積極的リハビリテーションの個別指導は,限界はあるものの,抑うつ/不安を抱える手術患者に対しても術後の機能改善が期待でき,理学療法士が試み得る一つのアプローチと考えられた.

  • 佐々木 健, 黒澤 大輔, 村上 栄一
    2022 年 13 巻 6 号 p. 875-880
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:デンバー仙腸関節質問票(DSIJQ)は,仙腸関節部の痛みについて問う形式で,坐位時間や仙腸関節部の不安定性など仙腸関節障害(SIJD)で生じ得る10項目の障害を評価する質問票である.先行研究では,仙腸関節固定術が行われたSIJD例に対して,Roland-Morris-Disability Questionnaire(RDQ)の基準を用いてDSIJQの「臨床的に有意」な最小変化量(MCID)を推定すると,計12点減少(改善度24%以上)がカットオフ値であった.本研究では,SIJD保存療法群におけるDSIJQのMCIDを検討した.

    対象と方法:令和2年4~12月の期間で仙腸関節ブロックにてSIJDと確定診断され,入院で保存療法が行われた17例(男9,女8;平均55.1±15.9歳)を対象とした.調査項目は,DSIJQの信頼性と内的整合性,入退院時におけるDSIJQとRDQ各合計点の平均,両質問票の相関関係,DSIJQのMCID,とした.統計学的有意差はp<0.05とした.

    結果:DSIJQは信頼性ICC=0.92,内的整合性α=0.97であった.DSIJQの平均点は,入院時27.1,退院時16.1(Δ-11.0),RDQは入院時13.1,退院時9.3点(Δ-3.8)(p<0.05)であった.ΔDSIJQとΔRDQは正の相関関係が認められた(r=0.54,p=0.025).また,DSIJQのMCIDは11点減少(改善度22%以上)であった.

    結語:SIJDの手術・保存療法において,DSIJQでおおよそ22~24%以上の改善度を得ることが治療効果の目安となりうる.

  • 北村 拓也, 神田 賢, 佐藤 成登志, 山本 智章, 渡辺 慶
    2022 年 13 巻 6 号 p. 881-889
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:慢性腰痛を有する高齢脊柱変形患者に対する理学療法効果は散見され,改善効果が期待できる患者特性は不明である.本研究では,運動療法を中心とした理学療法の有用性を検証するとともに,症状の改善効果が期待できる患者特性を検証した.

    対象と方法:3ヶ月間の理学療法を受けた53名を対象とし,介入前後にVAS,6MWT,TUG,JOABPEQを評価した.統計学的解析では,①介入効果の検証②改善効果を認めた群と認めなかった群の介入前評価項目の相違検証③②で有意差を認めた項目のカットオフ値の算出とした.

    結果:VASの改善は22名(41%),JOABPEQが1ドメイン以上改善した者は44名(83%)だった.介入前後の比較では,TUG以外全ての項目で有意な改善を認め,介入前の各種評価項目ではVASおよび6MWTが改善効果を期待できる項目と抽出され,カットオフ値はそれぞれ53.5,243だった.

    結語:慢性腰痛を有する高齢脊柱変形患者に対する運動療法を中心とした3ヶ月間の理学療法によって腰痛の軽減や歩行能力の改善,健康関連QOLの改善が得られることが示唆された.また,症状の改善効果が期待できる特徴として,介入時のVASが52 mm以上であり,6MWTが242 m以上可能であることが示唆された.

  • 金澤 慶, 遠藤 健司, 粟飯原 孝人, 鈴木 秀和, 西村 浩輔, 松岡 佑嗣, 村田 寿馬, 金井 洋, 澤地 恭昇, 山本 謙吾
    2022 年 13 巻 6 号 p. 890-894
    発行日: 2022/06/20
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:慢性運動器疾患の疼痛に,経動脈的微小血管塞栓術(TAME:transcatheter arterial microembolization)の治療成績が報告されているが,腰痛疾患に対する報告は少ない.今回,腰椎椎間関節症にTAMEを行い,術後早期からの治療経過を評価しえたので報告する.

    対象と方法:保存加療抵抗性の難治性腰椎椎間関節症患者6例(男性3例,女性3例,平均年齢68.5歳,罹病期間16.5ヶ月)にTAMEを施行し,疼痛部位と血管の関係と術前および術後1週,1ヶ月,3ヶ月の安静時,動作時,後屈時NRSとJOAスコアを評価した.

    結果:血管造影検査にて,6例で疼痛部位に一致して椎間関節周囲に異常血管増生像を認め,TAME施行後全例で消失した.疼痛は,術後1週から全項目で改善し,術後3ヶ月まで持続した.術後3ヶ月のJOAスコア改善率は31.4%であった.

    結語:慢性腰椎椎間関節症の全例で異常血管が観察され,疼痛はTAME施行後1週間以内に軽減し3ヶ月まで継続した.TAMEは難治性椎間関節症に有効な治療法となる可能性があり,今後,さらなる臨床研究が必要である.

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